【実施例】
【0050】
次に、上記実施形態について、実施例及び再現例を挙げてさらに具体的に説明する。
<実施例1,2及び再現例1〜3について>
後記の表1に示す各成分を同表1に示す割合にて配合し、溶融混合することにより、実施例1,2及び再現例1〜3の各々の塗料を作製した。作製に当たり、透明樹脂としてアクリルポリオールを使用し、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートを使用した。
【0051】
後記表1における再現例1、再現例2及び再現例3は、特許文献1に記載されている表1における実施例1、実施例2及び実施例3にそれぞれ対応している。
なお、特許文献1に記載されているものと、本発明の実施例に関するものとを区別するために、ここでは、前者の実施例1を「文献実施例1」と記載し、前者の実施例2を「文献実施例2」と記載し、前者の実施例3を「文献実施例3」と記載するものとする。
【0052】
ただし、文献実施例1〜3では、樹脂組成物を、ミリ(mm)単位の厚みを有する硬化体(波長選択フィルタ)に成形し、その硬化体を試験片として測定を行なっている。
これに対し、本発明の実施例1,2では、黒押え層34がミクロン(μm)単位の厚みを有している。
【0053】
文献実施例1〜3の硬化体を塗料に置き換えた再現例1〜3では、それらの塗料を作製する際に、文献実施例1〜3の厚みを実施例1,2の厚みに合わせる必要がある。ただし、両者の厚みの比率と同じ比率で、再現例1〜3の光吸収剤(染料)の量を減らすと、可視光VLが透過しやすくなってしまう。そこで、可視光VLの透過を抑制する性能を担保する観点から、厚みを薄くしつつも、光吸収剤(染料)を硬化体中の光吸収剤(染料)と同じ量配合している。
【0054】
実施例1では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、赤色の染料を10質量部配合し、黄色の顔料を30質量部配合し、青色の顔料を25質量部配合している。
【0055】
実施例2では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、緑色の染料を60質量部配合し、紫色の染料を40質量部配合している。
再現例1では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、光吸収剤aを100質量部配合し、光吸収剤cを85質量部配合している。光吸収剤a〜cはいずれも染料である。
【0056】
再現例2では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、光吸収剤aを100質量部配合し、光吸収剤cを0.1質量部配合している。
再現例3では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、光吸収剤aを100質量部配合し、光吸収剤cを0.1質量部配合している。
【0057】
再現例2では、染料が分散せず、塗料にすることができなかった。
再現例3では、光吸収剤aが過剰であり、体積割合で100%以上になり、塗料にすることができなかった。
【0058】
黒押え層34全体における固形分の質量と、染料全体における固形分の質量と、黒押え層34全体に占める染料全体の固形分の割合とは、表1の中段に示すようになった。
上記実施例1,2及び再現例1の各塗料を、赤外線透過カバー30における基材と同一材料からなる基材に塗布して、それぞれ25μmの厚みを有する塗膜層を形成することにより、基材に黒押え層を形成してなる試験片を作製した。
【0059】
<測定の内容及び結果について>
上記のようにして作製した各試験片について、分光光度計を用いて光の波長毎に光線透過率を測定した。光線透過率の測定結果を、表1の下段及び
図2に示す。
【0060】
【表1】
ここで、背景技術の欄で説明したが、黒押え層が、仮に、カーボンブラック等の単一の黒色顔料からなる塗料を塗布することによって形成されると、可視光VLの特定の波長領域(450〜500nm)で、光線透過率が可視光の他の波長領域よりも高くなる。表現を変えると、光線透過率のピークが現れる。
【0061】
この点、実施例1,2及び再現例1では、可視光VLの特定の波長領域で、光線透過率が他の領域よりも極端に高くなること、すなわちピークが現れることはなかった。
また、再現例1では、400nm〜760nmの波長領域において、実施例1では、400nm〜630nmの波長領域において、実施例2では、400nm〜720nmの波長領域において、光線透過率が10%以下であった。波長550nmでの光線透過率は、表1の下段に示すように、実施例1,2及び再現例1のいずれにおいても0%であった。
【0062】
また、380nm〜700nm以下の波長領域での光線透過率の平均値は、表1の下段に示すように、実施例1、実施例2及び再現例1のいずれにおいても低かった。
これらのことから、実施例1,2では、可視光VLの広い波長領域において、光線透過率が低く、可視光VLが透過されにくいことが判る。
【0063】
また、再現例1では、光線透過率が、赤外線IRの波長領域の全域にわたって低い。光線透過率は、最大でも8.8%程度であり、赤外線IRが十分透過しない。これは、黒押え層34における光吸収剤(染料)の濃度が適正値よりも高いためと考えられる。
【0064】
これに対し、実施例1では680nm〜750nmの波長領域で、光線透過率が18%から80%に急激に変化し、750nm〜1100nmの波長領域で、光線透過率が80%〜91%の範囲で変動した。
【0065】
また、実施例2では720nm〜760nmの波長領域で、光線透過率が18%から80%に急激に変化し、760nm〜1100nmの波長領域で、光線透過率が80%〜91%の範囲で変動した。
【0066】
実施例1,2のいずれも、800nm〜1100nmの波長領域における光線透過率が70%以上であった。波長900nmでの光線透過率は、表1の下段に示すように、実施例1,2のいずれにおいても90%前後と高かった。
【0067】
これらのことから、実施例1,2のいずれにおいても、赤外線IRの波長領域で光線透過率が十分に高く、赤外線IRが多く透過されていることが判った。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0068】
・上記実施形態において、黒押え層34の後側に、別の機能を有する層が追加されてもよい。
・
図3に示すように、カバー本体部32における黒押え層34が、基材33の後面33rに代えて前面33fに形成されてもよい。この場合、基材33は、赤外線IRの透過性を有する樹脂材料によって形成されることが必要であるが、必ずしも透明でなくてもよい。
【0069】
この変形例では、可視光VLが、基材33を介さずに黒押え層34に直接照射される点で、基材33を透過した後に黒押え層34に照射される上記実施形態と異なる。しかし、上記変形例は、多くの波長領域で可視光VLが、黒押え層34によって吸収される点で上記実施形態と共通する。
【0070】
また、上記変形例では、送信部24から送信された赤外線IRが基材33及び黒押え層34の順に透過し、車外の物体に当たって反射された赤外線IRが黒押え層34及び基材33の順に透過した後に受信部25によって受信される。この点において、上記変形例は、送信された赤外線IRが黒押え層34及び基材33の順に透過し、反射された赤外線IRが基材33及び黒押え層34の順に透過する上記実施形態と異なる。しかし、上記変形例は、赤外線IRが黒押え層34を透過する点で、上記実施形態と共通する。
【0071】
そのため、上記変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
なお、上記変形例では、黒押え層34の前側に、別の機能を有する層が追加されてもよい。
【0072】
・上記実施形態では、赤外線透過カバー30が赤外線センサ20とは別に設けられたが、赤外線透過カバーは、赤外線センサ20の一部を構成するものであってもよい。
より詳しくは、
図1において赤外線センサ20の外殻部分の前半部分を構成するカバー26が、
図4に示す赤外線透過カバー40によって構成されてもよい。赤外線透過カバー40は、筒状をなす周壁部41と、周壁部41の前端部に形成された板状のカバー本体部42とを備えている。カバー本体部42は、特許請求の範囲における本体部に該当する。周壁部41は、ケース21の周壁部22の前側に隣接している。カバー本体部42の周縁部分は、周壁部41よりも外方へ拡張されているが、拡張されなくてもよい。カバー本体部42の大部分は、赤外線センサ20の底壁部23の前方に位置しており、送信部24及び受信部25を前方から覆っている。
【0073】
この変形例でも、赤外線透過カバー40は、送信部24及び受信部25のカバーとしての機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能を有している。
【0074】
なお、カバー本体部42の層構造は、上記実施形態及び上記
図3におけるカバー本体部32の層構造と同様である。従って、この変形例でも、上記実施形態及び上記
図3の変形例と同様の作用及び効果が得られる。
【0075】
・上記赤外線透過カバー30,40は、赤外線センサ20が車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に搭載された場合にも適用可能である。この場合、送信部24は、車両10の後方に向けて赤外線IRを送信する。赤外線透過カバー30,40は、赤外線IRの送信方向における送信部24の前方、すなわち、送信部24に対し車両10の後方に配置される。
【0076】
また、赤外線透過カバー30,40は、赤外線センサ20が車両10の前部又は後部の両側部、すなわち、斜め前側部や斜め後側部に搭載された場合にも適用可能である。
・赤外線透過製品は、赤外線センサ20の送信部24及び受信部25を、赤外線IRの送信方向における前方から覆う製品であることを条件に、上述した赤外線透過カバー30,40とは異なる製品に適用されてもよい。
【0077】
また、赤外線透過製品は、車両とは異なる分野に用いられる赤外線センサの送信部及び受信部を、赤外線の送信方向における前方から覆う製品に適用されてもよい。