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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-56345(P2021-56345A)
(43)【公開日】2021年4月8日
(54)【発明の名称】赤外線透過製品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20210312BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20210312BHJP
   G01J 1/04 20060101ALI20210312BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20210312BHJP
【FI】
   G02B5/22
   G01J1/02 C
   G01J1/04 A
   G01J1/02 P
   G02B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-178628(P2019-178628)
(22)【出願日】2019年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104135
【氏名又は名称】カシュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 功徳
(72)【発明者】
【氏名】大川 新太朗
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 精一
【テーマコード(参考)】
2G065
2H148
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA36
2G065BA37
2G065DA15
2H148CA04
2H148CA14
2H148CA17
2H148CA24
2H148FA05
2H148FA09
2H148FA16
2H148FA22
(57)【要約】
【課題】可視光の透過を抑制しつつ、赤外線の透過性を高める。
【解決手段】赤外線透過製品としての赤外線透過カバー30は、赤外線センサ20における赤外線IRの送信部24及び受信部25を覆うカバー本体部32を備える。カバー本体部32は、赤外線IRの透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材33と、送信部24からの赤外線IRの送信方向における基材33の後面33rに形成された黒押え層34とを備える。黒押え層34は、それぞれ赤外線IRの透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料が透明樹脂に配合されてなる塗膜層により形成される。黒押え層34は、5μm〜50μmの厚みを有する。黒押え層34では、透明樹脂100質量部に対し、染顔料が全体で50〜150質量部含有されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品であって、
前記本体部は、赤外線の透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材と、前記送信部からの赤外線の送信方向における前記基材の後面に形成された黒押え層とを備え、
前記黒押え層は、それぞれ赤外線の透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料が透明樹脂に配合されてなる塗膜層により形成され、
前記黒押え層は、5μm〜50μmの厚みを有し、
前記黒押え層では、前記透明樹脂100質量部に対し、前記染顔料が全体で50〜150質量部含有されている赤外線透過製品。
【請求項2】
赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品であって、
前記本体部は、赤外線の透過性を有する樹脂材料により形成された基材と、前記送信部からの赤外線の送信方向における前記基材の前面に形成された黒押え層とを備え、
前記黒押え層は、それぞれ赤外線の透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料が透明樹脂に配合されてなる塗膜層により形成され、
前記黒押え層は、5μm〜50μmの厚みを有し、
前記黒押え層では、前記透明樹脂100質量部に対し、前記染顔料が全体で50〜150質量部含有されている赤外線透過製品。
【請求項3】
前記染顔料として、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、キノリン染料、クロム染料、スレン染料、トリフェニルメタン染料、フタロシアニン染料、プロシオン染料、メチン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料、レマゾール染料、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、焼成顔料、イソインドリノン、イソイン、ドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン、ジケトピロロピロール、ペリノン、ペリレン、インジゴイド、キナクリドン、ジオキサジン及びフタロシアニンからなる群から選ばれたものが用いられている請求項1又は2に記載の赤外線透過製品。
【請求項4】
400nm〜600nmの波長領域における前記本体部の光線透過率は10%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の赤外線透過製品。
【請求項5】
800nm〜1700nmの波長領域における前記本体部の光線透過率は70%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外線透過製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の周辺の状況を検出するために、赤外線センサが同車両に搭載されることがある。赤外線センサは、送信部から赤外線を車外へ向けて送信し、先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された赤外線を受信部で受信する。赤外線センサでは、送信及び受信された赤外線に基づき、上記物体が認識されたり、車両と上記物体との距離、相対速度等が検出されたりする。
【0003】
上記赤外線センサがむき出しの状態で配置されると、それらが車両の外方から見えてしまう。このことが原因で、赤外線センサ自体はもちろんのこと、車両において赤外線センサの周辺の見栄えが損なわれる。そこで、赤外線センサの送信部及び受信部は、赤外線の透過性を有する赤外線透過カバー等の赤外線透過製品によって覆われる。
【0004】
この赤外線透過製品の1つとして、赤外線の透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材と、赤外線の送信方向における基材の後面に形成された層であり、可視光の透過を抑制しつつ、赤外線を透過する黒押え層とを備えるものが考えられている。
【0005】
ここで、黒押え層が、カーボンブラック、ケッチェンブラック等の単一の黒色顔料からなる塗料を塗布することによって形成されると、可視光の波長領域のうち、赤外線の波長領域との境界部分よりも僅かに低い領域で光線透過率が立ち上がる。また、可視光の特定の波長領域で、光線透過率が他の領域よりも高くなるという問題がある。
【0006】
一方、例えば、特許文献1には、可視光の透過を抑制し、かつ赤外線を透過する硬化体(波長選択フィルタ)が記載されている。硬化体は、下記の樹脂組成物を所定の厚みに成形することによって形成されている。樹脂組成物は、赤外線の透過性を有する透明樹脂に対し、赤外線の透過性を有する光吸収剤を配合することによって形成されている。光吸収剤として、混合されると黒色になる複数種類の色の染料を選択して用いることで、可視光の波長領域のより広い領域で可視光の透過を抑制することが可能となる。
【0007】
そこで、上記樹脂組成物の硬化体を塗料に置き換え、この塗料を基材に塗布することで、上記黒押え層を形成することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017−167484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記特許文献1に記載された樹脂組成物の硬化体と、塗膜からなる黒押え層とでは厚みが大きく異なるため、硬化体の塗料への置き換えに際し、硬化体の厚みを黒押え層の厚みに合わせる必要がある。ただし、両者の厚みの比率と同じ比率で、染料の量を減らすと、可視光が透過しやすくなってしまう。可視光の透過を抑制する性能を担保する観点から、厚みを薄くしつつも、染料を、硬化体中の染料と同じ量配合することになる。しかし、このように硬化体が塗料に置き換えられて黒押え層が形成された赤外線透過製品について、波長毎の光線透過率を測定してみたところ、可視光の抑制効果は得られるものの、赤外線が十分透過しないことが判った。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、可視光の透過を抑制しつつ、赤外線の透過性を高めることのできる赤外線透過製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する赤外線透過製品は、赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品であって、前記本体部は、赤外線の透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材と、前記送信部からの赤外線の送信方向における前記基材の後面に形成された黒押え層とを備え、前記黒押え層は、それぞれ赤外線の透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料が透明樹脂に配合されてなる塗膜層により形成され、前記黒押え層は、5μm〜50μmの厚みを有し、前記黒押え層では、前記透明樹脂100質量部に対し、前記染顔料が全体で50〜150質量部含有されている。
【0012】
また、上記課題を解決する赤外線透過製品は、赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品であって、前記本体部は、赤外線の透過性を有する樹脂材料により形成された基材と、前記送信部からの赤外線の送信方向における前記基材の前面に形成された黒押え層とを備え、前記黒押え層は、それぞれ赤外線の透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料が透明樹脂に配合されてなる塗膜層により形成され、前記黒押え層は、5μm〜50μmの厚みを有し、前記黒押え層では、前記透明樹脂100質量部に対し、前記染顔料が全体で50〜150質量部含有されている。
【0013】
黒押え層の厚みが上記の条件を満たし、かつ透明樹脂に対する染顔料全体の配合比率が上記の条件を満たす赤外線透過製品の本体部に関し、光の波長毎の光線透過率を測定してみたところ、可視光の波長領域の全体で光線透過率が低く抑えられ、しかも広い波長領域で赤外線が高い光線透過率で透過されることが判った。
【0014】
特に、上記の構成を有する赤外線透過製品の本体部では、特許文献1に記載された樹脂組成物の硬化体を塗料に置き換えて黒押え層を形成した本体部に比べて、赤外線がより高い光線透過率で透過することが判った。
【0015】
従って、赤外線の送信方向における前方から可視光が赤外線透過製品に照射されると、黒押え層が上記送信方向における基材の後面に形成されている場合には、可視光は、基材を透過した後に黒押え層によって吸収される。これに対し、黒押え層が上記送信方向における基材の前面に形成されている場合には、可視光は、基材を介さずに黒押え層によって吸収される。赤外線の送信方向における赤外線透過製品の前方からは、本体部が黒色に見える。そのため、上記送信方向における本体部よりも後方に位置する部品、特に赤外線センサの送信部や受信部が透けて見えることが黒押え層によって抑制(遮蔽)される。
【0016】
また、赤外線センサの送信部から赤外線が送信されると、黒押え層が上記送信方向における基材の後面に形成されている場合には、赤外線は、黒押え層及び基材を順に透過する。本体部を透過した赤外線は、上記送信方向における前方の物体に当たって反射された後、再び基材及び黒押え層を順に透過し、赤外線センサの受信部によって受信される。
【0017】
これに対し、黒押え層が上記送信方向における基材の前面に形成されている場合には、送信部から送信された赤外線は、基材及び黒押え層を順に透過する。本体部を透過した赤外線は、上記送信方向における前方の物体に当たって反射された後、再び黒押え層及び基材を順に透過し、受信部によって受信される。
【0018】
その結果、赤外線センサに、上記物体を認識する機能や、上記物体との距離、相対速度等を検出する機能を適切に発揮させることが可能となる。
上記赤外線透過製品において、前記染顔料として、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、キノリン染料、クロム染料、スレン染料、トリフェニルメタン染料、フタロシアニン染料、プロシオン染料、メチン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料、レマゾール染料、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、焼成顔料、イソインドリノン、イソイン、ドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン、ジケトピロロピロール、ペリノン、ペリレン、インジゴイド、キナクリドン、ジオキサジン及びフタロシアニンからなる群から選ばれたものが用いられていることが好ましい。
【0019】
上記染顔料の群から、混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料が選ばれて透明樹脂に配合されることにより、可視光の多くの波長領域で可視光の透過を低く抑え、しかも広い波長領域で赤外線が高い光線透過率で透過する黒押え層を形成することが可能である。
【0020】
上記赤外線透過製品において、400nm〜600nmの波長領域における前記本体部の光線透過率は10%以下であることが好ましい。
上記のようにして、400nm〜600nmの波長領域における本体部の光線透過率が10%以下であると、可視光の多くの波長領域で可視光の透過が低く抑えられる。上記送信方向における赤外線透過製品の前方からは本体部がより一層黒色に見える。
【0021】
上記赤外線透過製品において、800nm〜1700nmの波長領域における前記本体部の光線透過率は70%以上であることが好ましい。
上記のように、800nm〜1700nmの波長領域における本体部の光線透過率が70%以上であると、赤外線センサの送信部から送信された赤外線の多くが本体部を透過し、上記送信方向における前方の物体に当たって反射された赤外線の多くが本体部を透過する。赤外線センサに、上記物体を認識する機能や、上記物体との距離、相対速度等を検出する機能をより一層適切に発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
上記赤外線透過製品によれば、可視光の透過を抑制しつつ、赤外線の透過性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】赤外線透過製品を赤外線透過カバーに具体化した一実施形態を示す図であり、赤外線センサ及び赤外線透過カバーを示す側断面図。
図2】実施例1,2及び再現例1について、光線透過率を波長毎に測定した結果を示すグラフ。
図3図1に対応する図であり、黒押え層が基材の前面に形成された変形例を示す側断面図。
図4】赤外線透過カバーによりカバーが兼ねられた変形例の赤外線センサの側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、赤外線透過製品を車両用の赤外線透過カバーに具体化した一実施形態について、図1を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、図1では、赤外線透過カバーにおける各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。この点は、変形例を示す図3及び図4についても同様である。
【0025】
図1に示すように、車両10の前部の左右方向における中央部分であって、フロントグリル11の後方には、車両10の周辺の状況を検出するセンサとして、赤外線センサ20が搭載されている。
【0026】
赤外線センサ20は、車両10の前方へ向けて赤外線IRを送信し、かつ先行車両、歩行者等の車外の物体に当たって反射された赤外線IRを受信する。赤外線IRは、電磁波の一種であり、可視光VLの波長よりも長く、電波よりも短い波長を有する。赤外線センサ20は、送信した赤外線IRと受信した赤外線IRとに基づき、車外の上記物体を認識するとともに、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する。
【0027】
なお、上述したように、赤外線センサ20が車両10の前方に向けて赤外線IRを送信することから、赤外線センサ20による赤外線IRの送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。赤外線IRの送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、赤外線IRの送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0028】
赤外線センサ20の外殻部分の後半部はケース21によって構成され、前半部分はカバー26によって構成されている。赤外線センサ20は、車体等に固定されている。
ケース21は、筒状をなす周壁部22と、周壁部22の後端部に形成された底壁部23とを備えており、前面が開放された有底筒状をなしている。ケース21の全体は、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の樹脂材料によって形成されている。底壁部23の前側には、赤外線IRを送信する送信部24と、赤外線IRを受信する受信部25とが配置されている。
【0029】
カバー26は、可視光カット顔料が含有された樹脂材料によって形成されている。該当する樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマー、樹脂ガラス等が挙げられる。カバー26は、ケース21の前側に配置されて、送信部24及び受信部25を前方から覆っている。
【0030】
フロントグリル11において、赤外線センサ20の前方には窓部12が開口されており、ここに本実施形態の赤外線透過カバー30が配置されている。赤外線透過カバー30は、板状のカバー本体部32と、カバー本体部32から後方へ突出する取付部31とを備えている。カバー本体部32は、特許請求の範囲における本体部に該当する。カバー本体部32は、上記カバー26の前方に位置しており、送信部24及び受信部25を、前方からカバー26を介して間接的に覆っている。赤外線透過カバー30は、取付部31において車体等に取付けられている。
【0031】
赤外線透過カバー30は、赤外線センサ20のカバーとしての機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
カバー本体部32は、基材33及び黒押え層34を備えている。基材33は、赤外線IRの透過性を有する透明な樹脂材料、例えば、上記カバー26と同様な樹脂材料によって形成されている。
【0032】
黒押え層34は、可視光VLの透過を抑制するとともに赤外線IRを透過し、赤外線センサ20の検出精度を確保するための層であり、染顔料の下記特性を利用して形成されている。
【0033】
・特定の波長の光を透過、吸収等する波長選択性を有している。
・顔料に比べ溶剤に溶解しやすい。
・顔料に比べて混色が容易である。
【0034】
黒押え層34は、黒色の塗膜層によって構成されている。塗膜層は、それぞれ赤外線IRの透過性を有し、かつ混合されると黒色になる少なくとも2種類の染顔料を透明樹脂に配合することにより形成されている。黒押え層34には、必要に応じて硬化剤が用いられてもよい。
【0035】
透明樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート及びメラミン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種を主成分とする。なお、「主成分」とは、その材料の特性に影響を与える成分を意味し、その成分の含有量は、通常、材料全体の50質量%以上である。
【0036】
硬化剤は、上記透明樹脂の材料に応じて適宜用いられる。透明樹脂としてエポキシ樹脂を主成分とするものが用いられる場合、硬化剤としては、例えば、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。透明樹脂として、エポキシ樹脂以外を主成分とするものが用いられる場合、硬化剤は省略可能である。
【0037】
また、上記硬化剤としては、その目的及び用途によっては、上記酸無水物系硬化剤及びフェノール系硬化剤以外に、他の硬化剤を用いることができる。このような硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、上記酸無水物系硬化剤をアルコールで部分エステル化したもの、又は、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボン酸の硬化剤等が挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられてもよく、さらには、上記酸無水物系硬化剤及びフェノール系硬化剤と併せて用いられてもよい。
【0038】
染顔料としては、以下の染料と、以下の着色顔料として使用可能な全ての顔料とからなる群から選ばれたものが用いられている。
染料としては、例えば、アゾ染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、キノリン染料、クロム染料、スレン染料、トリフェニルメタン染料、フタロシアニン染料、プロシオン染料、メチン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ベリノン染料及びレマゾール染料が挙げられる。
【0039】
顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、焼成顔料、イソインドリノン、イソイン、ドリン、アゾメチン、アントラキノン、アントロン、キサンテン、ジケトピロロピロール、ペリノン、ペリレン、インジゴイド、キナクリドン、ジオキサジン及びフタロシアニンが挙げられる。なかでも、黒押え層34への均一な分散を容易に図るうえでは、油溶性の染顔料が好ましい。
【0040】
上記染顔料の群から、次の条件を満たす2種類以上の染顔料が選択されて使用される。
・単体では、黒色以外の色であるが、混合されると黒色になること。黒色は、光を反射することなく全ての色を吸収及び遮断する色である。
【0041】
・各染顔料が、互いに異なる特定の領域で可視光VLを吸収できない特性を有していること。
・単独では吸収できない可視光VLを、混ざり合うことによって吸収し合うことが可能であること。
【0042】
具体的には、補色関係にある色の染顔料が選ばれる。例えば、紫色の染顔料と、緑色の染顔料との組合せが挙げられる。紫色の染顔料は、例えば、赤色の染顔料と青色の染顔料とを混合することにより得られる。また、緑色の染顔料は、例えば、黄色の染顔料と青色の染顔料とを混合することにより得られる。
【0043】
なお、硬化剤が用いられる場合には、硬化促進剤が併用されてもよい。また、赤外線IRを透過する特性等を補完する目的で、酸化防止剤、劣化防止剤、変性剤、カップリング剤、脱泡剤、レベリング剤、離型剤等が適宜用いられてもよい。
【0044】
黒押え層34は、5μm〜50μmの厚みを有している。黒押え層34では、透明樹脂100質量部に対し、染顔料が全体で50〜150質量部含有されている。
上記のように構成された赤外線透過カバー30では、400nm〜600nmの波長領域におけるカバー本体部32の光線透過率が10%以下となる。また、800nm〜1700nmの波長領域におけるカバー本体部32の光線透過率が70%以上となる。
【0045】
次に、上記のように構成された本実施形態の赤外線透過カバー30の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
黒押え層34の厚みが上記の条件を満たし、かつ透明樹脂に対する染顔料全体の配合比率が上記の条件を満たす本実施形態の赤外線透過カバー30のカバー本体部32に関し、光の波長毎の光線透過率を測定してみた。すると、可視光VLの多くの波長領域で可視光VLの透過が低く抑えられ、しかも広い波長領域で赤外線IRが高い光線透過率で透過されることが判った。
【0046】
そのため、黒押え層34が、カーボンブラック等の単一の黒色顔料からなる塗料によって形成されたものに比べ、可視光VLの吸収域を拡大するとともに、同領域での隠蔽性を向上させることができる。
【0047】
特に、本実施形態の赤外線透過カバー30では、特許文献1に記載された樹脂組成物の硬化体を塗料に置き換えて黒押え層を形成した赤外線透過カバーに比べて、赤外線IRがより高い光線透過率で透過することが判った。
【0048】
従って、前方から可視光VLが赤外線透過カバー30に照射されると、可視光VLは、基材33を透過した後に、黒押え層34によって吸収される。本実施形態の赤外線透過カバー30では、400nm〜600nmの波長領域におけるカバー本体部32の光線透過率が10%以下である。そのため、赤外線透過カバー30の前方からは、カバー本体部32が黒色に見える。その結果、赤外線透過カバー30よりも後方に位置する部品、特に赤外線センサ20の送信部24や受信部25が透けて見えることが黒押え層34によって抑制(遮蔽)される。
【0049】
また、赤外線センサ20の送信部24から赤外線IRが送信されると、赤外線IRは、黒押え層34及び基材33を順に透過する。カバー本体部32を透過した赤外線IRは、先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された後、再び基材33及び黒押え層34を順に透過し、赤外線センサ20の受信部25によって受信される。上述したように、本実施形態の赤外線透過カバー30では、800nm〜1700nmの波長領域における光線透過率が70%以上である。そのため、赤外線センサ20に、上記物体を認識する機能や、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する機能を適切に発揮させることができる。
【実施例】
【0050】
次に、上記実施形態について、実施例及び再現例を挙げてさらに具体的に説明する。
<実施例1,2及び再現例1〜3について>
後記の表1に示す各成分を同表1に示す割合にて配合し、溶融混合することにより、実施例1,2及び再現例1〜3の各々の塗料を作製した。作製に当たり、透明樹脂としてアクリルポリオールを使用し、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートを使用した。
【0051】
後記表1における再現例1、再現例2及び再現例3は、特許文献1に記載されている表1における実施例1、実施例2及び実施例3にそれぞれ対応している。
なお、特許文献1に記載されているものと、本発明の実施例に関するものとを区別するために、ここでは、前者の実施例1を「文献実施例1」と記載し、前者の実施例2を「文献実施例2」と記載し、前者の実施例3を「文献実施例3」と記載するものとする。
【0052】
ただし、文献実施例1〜3では、樹脂組成物を、ミリ(mm)単位の厚みを有する硬化体(波長選択フィルタ)に成形し、その硬化体を試験片として測定を行なっている。
これに対し、本発明の実施例1,2では、黒押え層34がミクロン(μm)単位の厚みを有している。
【0053】
文献実施例1〜3の硬化体を塗料に置き換えた再現例1〜3では、それらの塗料を作製する際に、文献実施例1〜3の厚みを実施例1,2の厚みに合わせる必要がある。ただし、両者の厚みの比率と同じ比率で、再現例1〜3の光吸収剤(染料)の量を減らすと、可視光VLが透過しやすくなってしまう。そこで、可視光VLの透過を抑制する性能を担保する観点から、厚みを薄くしつつも、光吸収剤(染料)を硬化体中の光吸収剤(染料)と同じ量配合している。
【0054】
実施例1では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、赤色の染料を10質量部配合し、黄色の顔料を30質量部配合し、青色の顔料を25質量部配合している。
【0055】
実施例2では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、緑色の染料を60質量部配合し、紫色の染料を40質量部配合している。
再現例1では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、光吸収剤aを100質量部配合し、光吸収剤cを85質量部配合している。光吸収剤a〜cはいずれも染料である。
【0056】
再現例2では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、光吸収剤aを100質量部配合し、光吸収剤cを0.1質量部配合している。
再現例3では、透明樹脂の100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、光吸収剤aを100質量部配合し、光吸収剤cを0.1質量部配合している。
【0057】
再現例2では、染料が分散せず、塗料にすることができなかった。
再現例3では、光吸収剤aが過剰であり、体積割合で100%以上になり、塗料にすることができなかった。
【0058】
黒押え層34全体における固形分の質量と、染料全体における固形分の質量と、黒押え層34全体に占める染料全体の固形分の割合とは、表1の中段に示すようになった。
上記実施例1,2及び再現例1の各塗料を、赤外線透過カバー30における基材と同一材料からなる基材に塗布して、それぞれ25μmの厚みを有する塗膜層を形成することにより、基材に黒押え層を形成してなる試験片を作製した。
【0059】
<測定の内容及び結果について>
上記のようにして作製した各試験片について、分光光度計を用いて光の波長毎に光線透過率を測定した。光線透過率の測定結果を、表1の下段及び図2に示す。
【0060】
【表1】
ここで、背景技術の欄で説明したが、黒押え層が、仮に、カーボンブラック等の単一の黒色顔料からなる塗料を塗布することによって形成されると、可視光VLの特定の波長領域(450〜500nm)で、光線透過率が可視光の他の波長領域よりも高くなる。表現を変えると、光線透過率のピークが現れる。
【0061】
この点、実施例1,2及び再現例1では、可視光VLの特定の波長領域で、光線透過率が他の領域よりも極端に高くなること、すなわちピークが現れることはなかった。
また、再現例1では、400nm〜760nmの波長領域において、実施例1では、400nm〜630nmの波長領域において、実施例2では、400nm〜720nmの波長領域において、光線透過率が10%以下であった。波長550nmでの光線透過率は、表1の下段に示すように、実施例1,2及び再現例1のいずれにおいても0%であった。
【0062】
また、380nm〜700nm以下の波長領域での光線透過率の平均値は、表1の下段に示すように、実施例1、実施例2及び再現例1のいずれにおいても低かった。
これらのことから、実施例1,2では、可視光VLの広い波長領域において、光線透過率が低く、可視光VLが透過されにくいことが判る。
【0063】
また、再現例1では、光線透過率が、赤外線IRの波長領域の全域にわたって低い。光線透過率は、最大でも8.8%程度であり、赤外線IRが十分透過しない。これは、黒押え層34における光吸収剤(染料)の濃度が適正値よりも高いためと考えられる。
【0064】
これに対し、実施例1では680nm〜750nmの波長領域で、光線透過率が18%から80%に急激に変化し、750nm〜1100nmの波長領域で、光線透過率が80%〜91%の範囲で変動した。
【0065】
また、実施例2では720nm〜760nmの波長領域で、光線透過率が18%から80%に急激に変化し、760nm〜1100nmの波長領域で、光線透過率が80%〜91%の範囲で変動した。
【0066】
実施例1,2のいずれも、800nm〜1100nmの波長領域における光線透過率が70%以上であった。波長900nmでの光線透過率は、表1の下段に示すように、実施例1,2のいずれにおいても90%前後と高かった。
【0067】
これらのことから、実施例1,2のいずれにおいても、赤外線IRの波長領域で光線透過率が十分に高く、赤外線IRが多く透過されていることが判った。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0068】
・上記実施形態において、黒押え層34の後側に、別の機能を有する層が追加されてもよい。
図3に示すように、カバー本体部32における黒押え層34が、基材33の後面33rに代えて前面33fに形成されてもよい。この場合、基材33は、赤外線IRの透過性を有する樹脂材料によって形成されることが必要であるが、必ずしも透明でなくてもよい。
【0069】
この変形例では、可視光VLが、基材33を介さずに黒押え層34に直接照射される点で、基材33を透過した後に黒押え層34に照射される上記実施形態と異なる。しかし、上記変形例は、多くの波長領域で可視光VLが、黒押え層34によって吸収される点で上記実施形態と共通する。
【0070】
また、上記変形例では、送信部24から送信された赤外線IRが基材33及び黒押え層34の順に透過し、車外の物体に当たって反射された赤外線IRが黒押え層34及び基材33の順に透過した後に受信部25によって受信される。この点において、上記変形例は、送信された赤外線IRが黒押え層34及び基材33の順に透過し、反射された赤外線IRが基材33及び黒押え層34の順に透過する上記実施形態と異なる。しかし、上記変形例は、赤外線IRが黒押え層34を透過する点で、上記実施形態と共通する。
【0071】
そのため、上記変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
なお、上記変形例では、黒押え層34の前側に、別の機能を有する層が追加されてもよい。
【0072】
・上記実施形態では、赤外線透過カバー30が赤外線センサ20とは別に設けられたが、赤外線透過カバーは、赤外線センサ20の一部を構成するものであってもよい。
より詳しくは、図1において赤外線センサ20の外殻部分の前半部分を構成するカバー26が、図4に示す赤外線透過カバー40によって構成されてもよい。赤外線透過カバー40は、筒状をなす周壁部41と、周壁部41の前端部に形成された板状のカバー本体部42とを備えている。カバー本体部42は、特許請求の範囲における本体部に該当する。周壁部41は、ケース21の周壁部22の前側に隣接している。カバー本体部42の周縁部分は、周壁部41よりも外方へ拡張されているが、拡張されなくてもよい。カバー本体部42の大部分は、赤外線センサ20の底壁部23の前方に位置しており、送信部24及び受信部25を前方から覆っている。
【0073】
この変形例でも、赤外線透過カバー40は、送信部24及び受信部25のカバーとしての機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能を有している。
【0074】
なお、カバー本体部42の層構造は、上記実施形態及び上記図3におけるカバー本体部32の層構造と同様である。従って、この変形例でも、上記実施形態及び上記図3の変形例と同様の作用及び効果が得られる。
【0075】
・上記赤外線透過カバー30,40は、赤外線センサ20が車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に搭載された場合にも適用可能である。この場合、送信部24は、車両10の後方に向けて赤外線IRを送信する。赤外線透過カバー30,40は、赤外線IRの送信方向における送信部24の前方、すなわち、送信部24に対し車両10の後方に配置される。
【0076】
また、赤外線透過カバー30,40は、赤外線センサ20が車両10の前部又は後部の両側部、すなわち、斜め前側部や斜め後側部に搭載された場合にも適用可能である。
・赤外線透過製品は、赤外線センサ20の送信部24及び受信部25を、赤外線IRの送信方向における前方から覆う製品であることを条件に、上述した赤外線透過カバー30,40とは異なる製品に適用されてもよい。
【0077】
また、赤外線透過製品は、車両とは異なる分野に用いられる赤外線センサの送信部及び受信部を、赤外線の送信方向における前方から覆う製品に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0078】
20…赤外線センサ、24…送信部、25…受信部、30,40…赤外線透過カバー(赤外線透過製品)、32,42…カバー本体部(本体部)、33…基材、33f…前面、33r…後面、34…黒押え層、IR…赤外線。
図1
図2
図3
図4