【解決手段】赤外線透過製品としての赤外線透過カバー30は、赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆うカバー本体部32を備える。カバー本体部32は、赤外線IRの透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材と、送信部からの赤外線の送信方向における基材の後面に形成され、かつ赤外線IRの透過性を有する塗膜層34とを備える。塗膜層34には、複数の顔料の微粒子35が凝集された凝集体36が分散されている。
【背景技術】
【0002】
車両の周辺の状況を検出するために、赤外線センサが同車両に搭載されることがある。赤外線センサは、送信部から赤外線を車外へ向けて送信し、先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された赤外線を受信部で受信する。赤外線センサでは、送信及び受信された赤外線に基づき、上記物体が認識されたり、車両と上記物体との距離、相対速度等が検出されたりする。
【0003】
上記赤外線センサがむき出しの状態で配置されると、それらが車両の外方から見えてしまう。このことが原因で、赤外線センサ自体はもちろんのこと、車両において赤外線センサの周辺の見栄えが損なわれる。そこで、赤外線センサの送信部及び受信部は、赤外線の透過性を有する赤外線透過カバー等の赤外線透過製品によって覆われる。
【0004】
上記赤外線透過製品が取り付けられた場合、その色が、車両における赤外線透過製品の周辺の意匠部品の色と大きく異なると、その意匠部品との一体感が得られず、意匠性が低下する。そこで、色を意匠部品に合わせる、又は近付けることにより意匠部品との一体感を出して、意匠性を高めることのできる赤外線透過製品が種々検討されている。この赤外線透過製品の1つとして、赤外線の透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材と、赤外線の送信方向における基材の後面に形成され、かつ赤外線を透過する白色の塗膜層とを備えるものがある。
【0005】
ここで、
図6に示すように、塗膜層51が、二酸化チタン等の白色顔料からなり、かつ粒径の不揃いな粒子52を分散させた塗膜によって形成されると、波長の異なる複数の色の可視光VLが粒子52で反射される。そのため、車両の外部からは、赤外線透過製品が白色に見える。ただし、この場合には、赤外線IRも粒子52に当たって反射されてしまい、赤外線IRの透過性が十分得られない。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1には、上記
図6におけるよりも粒径が小さく均一な顔料の微粒子を、塗膜に均一に分散する技術が記載されている。この特許文献1に記載された赤外線透過製品によると、
図7に示すように、可視光VLが微粒子53によって反射されるとともに、赤外線IRが微粒子53間を通過する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記特許文献1に記載された赤外線透過製品では、微粒子53が均一に分散されていることから、微粒子53間の隙間が同程度となる。そのため、特定の波長を有する可視光VLが、微粒子53間の隙間を透過しやすくなるという新たな問題が生ずる。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、粒径が均一な顔料の微粒子を塗膜層に均一に分散した場合よりも、可視光の透過を抑制する性能を高めることのできる赤外線透過製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する赤外線透過製品は、赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品であって、前記本体部は、赤外線の透過性を有する透明な樹脂材料により形成された基材と、前記送信部からの赤外線の送信方向における前記基材の後面に形成され、かつ赤外線の透過性を有する塗膜層とを備え、前記塗膜層には、複数の顔料の微粒子が凝集された凝集体が分散されている。
【0011】
また、上記課題を解決する赤外線透過製品は、赤外線センサにおける赤外線の送信部及び受信部を覆う本体部を備える赤外線透過製品であって、前記本体部は、赤外線の透過性を有する樹脂材料により形成された基材と、前記送信部からの赤外線の送信方向における前記基材の前面に形成され、かつ赤外線の透過性を有する塗膜層とを備え、前記塗膜層には、複数の顔料の微粒子が凝集された凝集体が分散されている。
【0012】
上記の構成によれば、赤外線の送信方向における前方から可視光が赤外線透過製品に照射されると、塗膜層が上記送信方向における基材の後面に形成されている場合には、可視光は、まず基材を透過する。基材を透過した可視光の一部は、塗膜層に分散された凝集体に当たって反射される。これに対し、塗膜層が上記送信方向における基材の前面に形成されている場合には、可視光は、塗膜層に分散された凝集体に当たって反射される。
【0013】
凝集体では、複数の顔料の微粒子が凝集されている。凝集体間の隙間は、微粒子が均一に分散された場合の微粒子間の隙間よりも不揃いで小さくなっている。そのため、均一に分散されている微粒子間の隙間を通過する可視光であっても、凝集体に当たって反射されやすくなる。従って、いずれの波長を有する可視光も散乱しやすくなる。赤外線の送信方向における赤外線透過製品の前方からは、反射された可視光の色、この場合、各色が混ざった色である白色が見える。そのため、赤外線透過製品の色を、周辺の意匠部品の色に合わせる、又は近付けることが容易となり、意匠部品との一体感を出して、意匠性を高めることが可能となる。
【0014】
赤外線センサの送信部から赤外線が送信されると、塗膜層が上記送信方向における基材の後面に形成されている場合には、赤外線は、塗膜層及び基材を順に透過する。これに対し、塗膜層が上記送信方向における基材の前面に形成されている場合には、赤外線は、基材及び塗膜層を順に透過する。
【0015】
この際、凝集体間の隙間を、粒径の不揃いな顔料の粒子が分散されている場合の粒子間の隙間よりも広くすることが可能であり、この場合には、赤外線は凝集体間の隙間を通過しやすい。本体部を透過した赤外線は、上記送信方向における前方の物体に当たって反射された後、再び本体部を透過する。塗膜層が上記送信方向における基材の後面に形成されている場合には、赤外線は、基材及び塗膜層を順に透過する。これに対し、塗膜層が上記送信方向における基材の前面に形成されている場合には、赤外線は、塗膜層及び基材を順に透過する。
【0016】
この際、塗膜層では、上記と同様にして、赤外線が凝集体間の隙間を通過しやすい。本体部を透過した赤外線は、受信部によって受信される。赤外線センサでは、送信及び受信された上記赤外線に基づき、物体が認識されたり、同物体との距離、相対速度等が検出されたりする。
【0017】
上記赤外線透過製品において、前記顔料として金属酸化物が用いられていることが好ましい。
上記の構成によるように、顔料として金属酸化物が用いられることで、種々の波長を有する可視光を反射し、かつ赤外線を透過する塗膜層を形成することが可能である。
【0018】
上記赤外線透過製品において、前記凝集体の粒径は100nm〜300nmであることが好ましい。
上記のようにして、凝集体として、100nm〜300nmの粒径を有するものが用いられることで、凝集体間の隙間を、粒径の不揃いな顔料の粒子が分散されている場合の粒子間の隙間よりも広くすることが可能である。また、凝集体間の隙間を、微粒子が均一に分散された場合の微粒子間の隙間よりも不揃いで小さくすることが可能である。
【0019】
上記赤外線透過製品において、波長が900nmであるときの光線透過率が30%以上であり、Lab表色系におけるL値が30以上であることが好ましい。
ここで、Lab表色系は、物体の色を数値で表すための方式の1つである。Lab表色系におけるL値は明るさ(明度)を表している。L値が小さくなるに従い暗くなり、L値が大きくなるに従い明るくなる。
【0020】
上記の構成によれば、900nmの波長を有する赤外線が赤外線センサの送信部から送信され、受信部で受信される場合には、30%以上の赤外線が赤外線透過製品を透過する。そのため、上記物体を認識する機能や、上記物体との距離、相対速度等を検出する機能を、赤外線センサに適正に発揮させることが可能である。
【0021】
また、赤外線の送信方向における前方からは、赤外線透過製品が白色に見える。
【発明の効果】
【0022】
上記赤外線透過製品によれば、粒径が均一な顔料の微粒子を塗膜層に均一に分散した場合よりも、可視光の透過を抑制する性能を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、赤外線透過製品を車両用の赤外線透過カバーに具体化した一実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、
図1では、赤外線透過カバーにおける各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。この点は、変形例を示す
図4及び
図5についても同様である。
【0025】
図1に示すように、車両10の前部の車幅方向における中央部分であって、フロントグリル11の後方には、車両10の周辺の状況を検出するセンサとして、赤外線センサ20が搭載されている。
【0026】
赤外線センサ20は、車両10の前方へ向けて赤外線IRを送信し、かつ先行車両、歩行者等の車外の物体に当たって反射された赤外線IRを受信する。赤外線IRは、電磁波の一種であり、可視光の波長よりも長く、電波よりも短い波長を有する。赤外線センサ20は、送信した赤外線IRと受信した赤外線IRとに基づき、車外の上記物体を認識するとともに、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する。
【0027】
なお、上述したように、赤外線センサ20が車両10の前方に向けて赤外線IRを送信することから、赤外線センサ20による赤外線IRの送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。赤外線IRの送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、赤外線IRの送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0028】
赤外線センサ20の外殻部分の後半部はケース21によって構成され、前半部分はカバー26によって構成されている。赤外線センサ20は、車体等に固定されている。
ケース21は、筒状をなす周壁部22と、周壁部22の後端部に形成された底壁部23とを備えており、前面が開放された有底筒状をなしている。ケース21の全体は、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の樹脂材料によって形成されている。底壁部23の前側には、赤外線IRを送信する送信部24と、赤外線IRを受信する受信部25とが配置されている。
【0029】
カバー26は、可視光カット顔料が含有された樹脂材料によって形成されている。該当する樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマー、樹脂ガラス等が挙げられる。カバー26は、ケース21の前側に配置されて、送信部24及び受信部25を前方から覆っている。
【0030】
フロントグリル11において、赤外線センサ20の前方には窓部12が開口されている。窓部12には、本実施形態の赤外線透過カバー30が配置されている。赤外線透過カバー30は、板状のカバー本体部32と、カバー本体部32から後方へ突出する取付部31とを備えている。カバー本体部32は、特許請求の範囲における本体部に該当する。カバー本体部32は、上記カバー26の前方に位置しており、送信部24及び受信部25を、前方からカバー26を介して間接的に覆っている。赤外線透過カバー30は、取付部31において車体等に取付けられている。
【0031】
赤外線透過カバー30は、赤外線センサ20のカバーとしての機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
カバー本体部32は、基材33及び塗膜層34を備えている。基材33は、赤外線IRの透過性を有する透明な樹脂材料、例えば、上記カバー26と同様な樹脂材料によって形成されている。
【0032】
塗膜層34は、白色の顔料が配合された塗料を、基材33の後面33rに塗布することによって形成されている。塗料は、透明樹脂及び顔料を有している。塗料には、必要に応じて硬化剤が用いられてもよい。
【0033】
透明樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン、ユリア樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート及びメラミン樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種を主成分とする。なお、「主成分」とは、その材料の特性に影響を与える成分を意味し、その成分の含有量は、通常、材料全体の50質量%以上である。
【0034】
硬化剤は、上記透明樹脂の材料に応じて適宜用いられる。透明樹脂としてエポキシ樹脂を主成分とするものが用いられる場合、硬化剤としては、例えば、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。透明樹脂として、エポキシ樹脂以外のものを主成分とするものが用いられる場合、硬化剤は省略可能である。
【0035】
また、上記硬化剤としては、その目的及び用途によっては、上記酸無水物系硬化剤及びフェノール系硬化剤以外に、他の硬化剤を用いることができる。このような硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、上記酸無水物系硬化剤をアルコールで部分エステル化したもの、又は、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボン酸の硬化剤等が挙げられる。これらは、単独でもしくは2種以上併せて用いられてもよく、さらには、上記酸無水物系硬化剤及びフェノール系硬化剤と併せて用いられてもよい。
【0036】
顔料としては、粒子の表面で光を乱反射して白色に発色するものが用いられている。顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物が代表的である。酸化亜鉛は亜鉛華(亜鉛白)とも呼ばれる。そのほかにも、顔料として、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、リトポン、鉛白等が用いられてもよい。リトポンは、硫酸バリウムと硫化亜鉛とを混合した白色無機顔料である。鉛白は塩基性炭酸鉛の別称である。これらは、1種類のみが単独で使用されてもよいし、複数種類が混在されて使用されてもよい。
【0037】
なお、硬化剤が用いられる場合には、硬化促進剤が併用されてもよい。また、可視光を反射し、赤外線を透過する特性を補完する目的で、酸化防止剤、劣化防止剤、変性剤、カップリング剤、脱泡剤、レベリング剤、離型剤等が適宜用いられてもよい。
【0038】
図2に示すように、上記塗膜層34には、複数の顔料の粒子が凝集された凝集体36が分散されている。
上記顔料としては、ナノサイズまで微細化された粒径を有するものが用いられている。この粒径を有する粒子を、一般的な粒径を有する粒子と区別するために、本明細書では、微粒子35ということとする。また、微粒子35の粒径を「一次粒径」といい、凝集体36の粒径を「二次粒径」というものとする。
【0039】
ここで、散乱における光の波長と粒径との関係は、一般に以下の式1で示すことができる。
α=πd/λ・・・式1
上記式1中のαは散乱係数であり、材料によって決まる値である。dは粒径であり、λは光の波長である。散乱係数αが「1」よりも小さい場合、可視光が散乱して白く発色するものとされている。
【0040】
本実施形態では、上記式1をもとに、凝集体36の二次粒径が100nm〜300nmとなるように、顔料の微粒子35が凝集されている。
さらに、赤外線透過カバー30では、波長が900nmであるときの光線透過率が30%以上となり、また、Lab表色系におけるL値が30以上となるように設定されている。ここで、Lab表色系は、物体の色を数値で表すための方式の1つである。Lab表色系におけるL値は明るさ(明度)を表している。L値が小さくなるに従い暗くなり、L値が大きくなるに従い明るくなる。Lab表色系におけるa値及びb値は、色度を表している。色度は、色を、明度を除いて色相と彩度とで数量的に表したものである。a値は、緑〜赤の色度を表しており、b値は、青〜黄の色度を表している。
【0041】
次に、上記のように構成された本実施形態の赤外線透過カバー30の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
図1及び
図2に示すように、前方から可視光VLが赤外線透過カバー30に照射されると、その可視光VLは基材33を透過する。基材33を透過した可視光VLの一部は、塗膜層34に分散された凝集体36に当たって反射される。凝集体36では、二次粒径が100nm〜300nmとなるように、複数の顔料の微粒子35が凝集されている。そのため、
図7に示すように、均一に分散された微粒子53間の隙間に比べ、
図2に示すように、凝集体36間の隙間を不揃いで小さくすることが可能である。
図7において、均一に分散されている微粒子53間の隙間を通過する可視光VLであっても、
図2に示すように、凝集体36に当たって反射されやすくなる。従って、いずれの波長を有する可視光VLも散乱しやすくなる。また、本実施形態の赤外線透過カバー30では、波長が900nmであるときのLab表色系におけるL値が30以上である。そのため、前方からは、赤外線透過カバー30は反射された可視光VLの色、この場合、各色が混ざった色である白色に見える。
【0042】
従って、赤外線透過カバー30よりも後方に位置する部品、特に赤外線センサ20の送信部24や受信部25が透けて見えることが塗膜層34によって抑制(遮蔽)される。
また、車両10に取付けられた上記赤外線透過カバー30の色が、周辺の意匠部品、例えばフロントグリル11の色と大きく異なると、その意匠部品との一体感が得られず、意匠性が低下する。しかし、赤外線透過カバー30が白色に見えることから、黒色等の暗色に見える場合に比べ、意匠部品の色に合わせる、又は近付けることが容易となり、意匠部品との一体感を出して、意匠性を高めることが可能である。
【0043】
ところで、
図1に示すように、赤外線センサ20の送信部24から赤外線IRが送信されると、その赤外線IRは、塗膜層34及び基材33を順に透過する。上述したように、凝集体36では、二次粒径が100nm〜300nmとなるように、複数の顔料の微粒子35が凝集されている。
図2において、凝集体36間の隙間を、粒径の不揃いな顔料の粒子が分散されている場合(
図6参照)の粒子間の隙間よりも広くすることが可能である。この場合には、赤外線IRは凝集体36間の隙間を通過しやすい。カバー本体部32を透過した赤外線IRは、先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された後、再び基材33及び塗膜層34を順に透過する。この際、塗膜層34では、上記と同様にして、
図2に示すように、赤外線IRが凝集体36間の隙間を通過しやすい。カバー本体部32を透過した赤外線IRは、受信部25によって受信される。赤外線センサ20では、送信及び受信された上記赤外線IRに基づき、物体が認識されたり、車両10と同物体との距離、相対速度等が検出されたりする。
【0044】
本実施形態では、900nmの波長を有する赤外線IRが赤外線センサ20の送信部24から送信され、受信部25で受信される場合には、30%以上の赤外線IRが赤外線透過カバー30を透過する。そのため、赤外線センサ20に、上記物体を認識する機能や、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する機能を適正に発揮させることができる。
【実施例】
【0045】
次に、上記実施形態について、実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。
<実施例1,2及び比較例1〜3について>
後記の表1に示す各成分を同表1に示す割合にて配合し、溶融混合することにより、実施例1,2及び比較例1〜3の各々の塗料を作製した。作製に当たり、透明樹脂としてアクリルポリオールを使用し、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートを使用した。
【0046】
実施例1の塗料では、透明樹脂100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、一次粒径が35nmであり、かつ二次粒径が140nmである酸化チタンの凝集体を7質量部配合している。
【0047】
実施例2の塗料では、透明樹脂100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、一次粒径が35nmであり、かつ二次粒径が170nmである酸化亜鉛の凝集体を7質量部配合している。
【0048】
比較例1の塗料では、透明樹脂100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、一次粒径が30~50nmであり、かつ二次粒径が198nmである酸化チタンの凝集体を72質量部配合している。
【0049】
比較例2の塗料では、透明樹脂100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、一次粒径が80nmであり、かつ二次粒径が200nmである酸化チタンの凝集体を72質量部配合している。
【0050】
比較例3の塗料では、透明樹脂100質量部に対し、硬化剤を20質量部配合するとともに、一次粒径が180nmの酸化チタンの微粒子を分散した状態で5質量部配合している。
【0051】
上記実施例1,2及び比較例1〜3の各塗料を、赤外線透過カバー30における基材と同一材料からなる板材に塗布して塗膜層を形成することにより、試験片を作製した。
<測定の内容及び結果について>
上記のようにして作製した各試験片について、波長毎に光線透過率を測定した。また、各試験片について、Lab表色系におけるL値を測定した。光線透過率の測定結果を、表1の下段及び
図3に示す。また、L値の測定結果を表1の下段に示す。
【0052】
【表1】
実施例1,2及び比較例1,2では、顔料の二次粒径が140nm〜235nmであり、上述した100nm〜300nmの範囲に収まっている。
【0053】
ただし、比較例1,2では、可視光VLの波長領域でも赤外線IRの波長領域でも光線透過率が実施例1,2及び比較例3よりも小さい。また、L値が大きく、より白く発色する。これらのことから、顔料の配合比率が適正値よりも大きく、凝集体36間の隙間が小さく、可視光VLも赤外線IRも、それらの多くが凝集体36に当たって反射されるものと考えられる。また、比較例1では、赤外線IRの波長領域における光線透過率が比較例2よりも小さい。比較例1と比較例2とでは、顔料の二次粒径が同程度であるのに対し、一次粒径が比較例1において比較例2よりも小さい。このことから、顔料の配合比率が適正値よりも大きい場合には、一次粒径の小さな顔料が凝集した比較例1の方が、一次粒径の大きな顔料が凝集する比較例2よりも、赤外線IRが透過しにくくなるものと考えられる。
【0054】
また、実施例1,2及び比較例3では、共通する事項として、赤外線IRの波長領域における光線透過率が、上記比較例1,2よりも大きい。顔料の配合比率が、比較例1,2よりも適しており、凝集体36間の隙間が、比較例1,2よりも赤外線IRの通過しやすい大きさになっているものと考えられる。
【0055】
ただし、実施例1,2及び比較例3では、可視光VLの波長領域における光線透過率が、比較例1,2よりも大きくなっている。可視光VLが顔料の凝集体36間の隙間を、比較例1,2よりも通過しやすいためと考えられる。
【0056】
実施例2では、可視光VLの光線透過率が実施例1よりも大きくなっている。これは、1つには、顔料の種類が異なること、すなわち、実施例1では酸化チタンであるのに対し、実施例2では酸化亜鉛であることによると考えられる。なお、実施例2では、L値が実施例1よりも、また比較例1〜3よりも小さい。
【0057】
実施例1及び比較例3では、可視光VLの波長域でも赤外線IRの波長領域でも、光線透過率が類似した特性となる。ただし、いずれの波長領域でも、実施例1における光線透過率が比較例3における光線透過率よりも小さい。また、両光線透過率の差は、赤外線の波長領域よりも可視光の波長領域において大きい。比較例3では、一次粒径が大きく、顔料が凝集していない。これに対し、実施例1では、一次粒径が比較例3の1/5程度である顔料の微粒子が凝集しており、その二次粒径が比較例3の一次粒径に近い値となっている。このことから、一次粒径が大きいものよりも、一次粒径が小さな微粒子が凝集している方が、可視光VLの光線透過率を小さくするうえで有利であるといえる。
【0058】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
・塗膜層34に、凝集体36に加え、凝集していない微粒子35が分散されてもよい。
・上記実施形態において、塗膜層34の後側に、別の機能を有する層が追加されてもよい。
【0060】
・
図4に示すように、上記塗膜層34が、基材33の前面33fに形成されてもよい。この場合、基材33は、赤外線IRの透過性を有する樹脂材料によって形成されることが必要であるが、必ずしも透明でなくてもよい。
【0061】
この変形例では、可視光VLが、基材33を介さずに塗膜層34に直接照射される点で、基材33を透過した後に塗膜層34に照射される上記実施形態と異なる。しかし、上記変形例は、可視光VLが、塗膜層34に分散された凝集体36に当たって反射される点で上記実施形態と共通する。
【0062】
また、上記変形例では、送信部24から送信された赤外線IRが基材33及び塗膜層34の順に透過し、車外の物体に当たって反射された赤外線IRが塗膜層34及び基材33の順に透過した後に受信部25によって受信される。この点において、上記変形例は、送信された赤外線IRが塗膜層34及び基材33の順に透過し、反射された赤外線IRが基材33及び塗膜層34の順に透過する上記実施形態と異なる。しかし、上記変形例は、塗膜層34では、赤外線IRが凝集体36間の隙間を通過する点で、上記実施形態と共通する。
【0063】
そのため、上記変形例によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
なお、上記変形例では、塗膜層34の前側に、別の機能を有する層が追加されてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、赤外線透過カバー30が赤外線センサ20とは別に設けられたが、赤外線透過カバーは、赤外線センサ20の一部を構成するものであってもよい。
より詳しくは、
図1において赤外線センサ20の外殻部分の前半部分を構成するカバー26が、
図5に示すように、赤外線透過カバー40によって構成されてもよい。赤外線透過カバー40は、筒状をなす周壁部41と、周壁部41の前端部に形成された板状のカバー本体部42とを備えている。カバー本体部42は、特許請求の範囲における本体部に該当する。周壁部41は、赤外線センサ20におけるケース21の周壁部22の前側に隣接している。カバー本体部42の周縁部分は、周壁部41よりも外方へ拡張されているが、拡張されなくてもよい。カバー本体部42の大部分は、赤外線センサ20の底壁部23の前方に位置しており、送信部24及び受信部25を前方から覆っている。
【0065】
この変形例でも、赤外線透過カバー40は、赤外線センサ20のカバーとしての機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能を有している。
なお、カバー本体部42の層構造は、上記実施形態及び上記
図4におけるカバー本体部32の層構造と同様である。従って、この変形例でも、上記実施形態及び上記
図4の変形例と同様の作用及び効果が得られる。
【0066】
・上記赤外線透過カバー30,40は、赤外線センサ20が車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に搭載された場合にも適用可能である。この場合、赤外線センサ20は、車両10の後方に向けて赤外線IRを送信する。赤外線透過カバー30,40は、赤外線IRの送信方向における送信部24の前方、すなわち、送信部24に対し車両10の後方に配置される。
【0067】
また、赤外線透過カバー30,40は、赤外線センサ20が車両10の前部又は後部の両側部、すなわち、斜め前側部や斜め後側部に搭載された場合にも適用可能である。
・赤外線透過製品は、赤外線センサ20の送信部24及び受信部25を、赤外線IRの送信方向における前方から覆う製品であることを条件に、上述した赤外線透過カバーとは異なる製品に適用されてもよい。
【0068】
また、赤外線透過製品は、車両とは異なる分野に用いられる赤外線センサの送信部及び受信部を、赤外線の送信方向における前方から覆う製品に適用されてもよい。