(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-56479(P2021-56479A)
(43)【公開日】2021年4月8日
(54)【発明の名称】立体面投影露光装置
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20210312BHJP
G02B 17/06 20060101ALI20210312BHJP
【FI】
G03F7/20 521
G03F7/20 501
G02B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-188974(P2019-188974)
(22)【出願日】2019年9月27日
(71)【出願人】
【識別番号】598045416
【氏名又は名称】堀内 敏行
(72)【発明者】
【氏名】堀内 敏行
【テーマコード(参考)】
2H087
2H197
【Fターム(参考)】
2H087KA21
2H087TA04
2H087TA06
2H197AA10
2H197AA41
2H197AA43
2H197BA03
2H197BA11
2H197CB01
2H197CB16
2H197CB21
2H197CC02
2H197CC06
2H197CC16
2H197CD03
2H197CD12
2H197CD13
2H197HA03
2H197HA10
(57)【要約】
【課題】立体的な凹凸を有する原図物体の外形面上に形成されたパターン形状を、同じ形状を有する被露光物体の外形面に一括して投影露光して転写する。
【解決手段】凹面側を反射面とする2枚の回転放物面鏡を対向させ、各々の鏡面の中央部に開口を設けて各鏡面の焦点が他方の鏡面の開口の中心付近に来るようにし、片方の回転放物面鏡の開口の中心に置いた原図物体を照明して、外形面上のパターンの像を他方の回転放物面鏡の開口の中心に置いた被露光物体の外形面上に作る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面側を反射面とする第1の回転放物面鏡と、凹面側を反射面として同じ反射面形状を持つ第2の回転放物面鏡とを、該凹面側の両反射面が対向するように両回転放物面の軸を重ねて配置し、前記第1の回転放物面鏡の鏡面の中央部と前記第2の回転放物面鏡の鏡面の中央部のそれぞれに開口を設け、第1の回転放物面鏡はその焦点が第2の回転放物面鏡に設けた開口面付近、第2の回転放物面鏡はその焦点が第1の回転放物面鏡に設けた開口面付近となる焦点距離を有し、かつ前記の両焦点が第1の回転放物面鏡および第2の回転放物面鏡の回転面の軸上に存在するようになし、第1の回転放物面鏡の開口内に置いた原図物体の表面を、該第1の回転放物面鏡の裏面側から斜めに照明し、該第1の回転放物面鏡の開口内に置いた原図物体の立体表面の反射パターンまたは透過パターンの像を、第2の回転放物面鏡の開口内に置いた前記原図物体の反射パターンまたは透過パターンを形成した立体表面と同じ形状、寸法の被露光物体の立体表面に形成することにより、該原図基板上の立体表面の反射パターンまたは透過パターンと対応する像形状に該被露光物体の立体表面を露光することを特徴とする立体面投影露光装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的な凹凸を有する原図物体の外形面上に形成された反射率分布パターンまたは透過率分布パターンの形状を、該反射率分布パターンまたは透過率分布パターンの形状が形成されたのと同じ形状の立体的な凹凸を有する被露光物体の外形面に、一括して同時に投影露光して転写する投影露光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路やマイクロ電子機械システム(Micro Electro Mechanical Systems: MEMS)の微細パターン形成技術としてリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
リソグラフィ技術は、レジストなどの感光性物質を形成した被露光基板上にレチクルなど原図基板上のパターンを転写したり、レーザビームと被露光基板とを相対的に走査したりすることにより前記感光性物質の一部または全部を露光し、露光後に現像液に浸潤させるウェットプロセスやプラズム中でガス加工を行うドライプロセスなどの現像プロセスにより、露光時の感光部のみを除去して未感光部を残存させるか、露光時の未感光部のみを除去して感光部を残存させることができ、原図基板上のパターン形状を、前記感光性物質に転写でき技術である。
【0004】
レーザビームをレジストなどの感光性物質を形成した被露光基板上に照射するか、または、レーザビームをピンホールなどによって整形したレーザスポットの投影像をレジストなどの感光性物質を形成した被露光基板上に作ることにより、該感光性物質を露光できるようにし、前記のレーザビームまたはレーザスポット投影像を、該感光性物質を形成した被露光基板に対して相対走査してパターンを描画し、パターン形状を前記感光性物質上に形成することもできる技術である。
【0005】
感光性物質を形成した被露光基板上に原図基板上のパターンを転写する露光方法には、密着露光、近接露光などの方法もあるが、原図基板と被露光基板とのあいだにレンズやミラーを用いた投影光学系を置いて、感光性物質を形成した被露光基板上に原図基板上のパターンの投影像を作り、該投影像の明暗分布に応じて被露光基板上の感光性物質を感光させる、投影露光リソグラフィ技術が現状における量産用のリソグラフィ技術の主流となっている。
【0006】
投影露光リソグラフィにおいては、平面原図基板に照明光を照射し、投影露光光学系を用いて、該平面原図基板上のパターンの光像を被露光基板上に形成した感光性物質上に作り、該感光性物質を平面原図基板上のパターン形状に感光させる。
【0007】
前記感光性物質に達する投影露光光線の最大入射半角をθ、投影露光光学系と前記感光性物質との間の媒質の屈折率をnとするとき、投影露光光学系の開口数NAはNA=nsinθで表され、1:1ラインアンドスペースパターンの解像度はR=k
1λ/NAで表される。ここで、k
1は前記感光性物質の厚さ、材質、照明の方向、平面原図基板上の遮光パターン部と透過パターン部の透過率比や位相差などにより決まる定数であり、k
1=0.25〜1の値となる。
【0008】
解像限界Rが開口数NAに反比例するため、できるだけ微細なパターンを形成したい場合には開口数NAをなるべく大きくすることが必要である。
【0009】
半導体集積回路やマイクロ電子機械システムを製造するためできるだけ微細なパターンを形成したい従来の投影露光装置では、そのため、開口数NAを極力大きくするように設計されている。
【0010】
しかし、焦点深度は開口数NAの2乗に反比例するため、開口数NAを大きくすると、焦点深度は著しく浅くなる。
【0011】
このような事情から、従来の投影露光装置では、なるべく平坦な平面原図基板上のパターンをなるべく平坦な被露光基板上に形成した感光性物質上に転写するという考え方で作られており、立体的な凹凸を有する外形面上に形成された原図物体の反射パターンまたは透過パターンの形状を、該反射パターンまたは透過パターンの形状が形成されたのと同じ形状の立体的な凹凸を有する被露光物体の外形面上に投影露光転写する思想はなかった。
【0012】
また、開口数NAを大きくするには、投影露光光学系の開口を大きくしなければならず、開口を斜めに通る光線が投影露光光学系を通り抜けられるようにするため、投影露光光学系を構成するレンズやミラー口径も大きくする必要がある。
【0013】
しかし、レンズやミラーの口径を大きくして精度よくパターン像を形成できるようにするためには、面精度を高めるとともに、収差補正のため、面数を増やしたり製造や設計が難しい非球面を使ったりすることが必要となる。また、使用環境の温度、湿度、気圧等も厳密に管理することが必要となる。
【0014】
そのため、投影露光光学系の価格が非常に高くなり、寸法が大きくなり、設備の準備や保守、管理も格段に大変になり、露光装置の価格がとてつもなく高額であった。
【0015】
したがって、投影露光光学系の価格に見合う大きな需要があるニーズ以外にリソグラフィ技術を利用することは、露光装置の価格、設備の規模、保守、管理に必要な技術レベルなど、様々な点からして非常に困難であった。
【0016】
一方、装置価格を度外視しても、立体的な凹凸を有する外形面上にパターンを形成する投影露光装置自体が市販されていない。
【0017】
立体的な凹凸を有する外形面上にパターンを形成する投影露光装置として、平面原図基板上のパターンを、円柱状または円筒状の被露光物体の上面の稜線部のほぼ平面とみなせる部分だけに限定して投影露光し、該被露光物体上に形成した感光性物質に転写し、該被露光物体をその軸まわりに間欠的に回転させて該被露光物体全周上の感光性物質を投影露光するようにした投影露光装置が特許文献1に開示されている。
【0018】
平面原図基板上のパターンを、円柱状または円筒状の被露光物体の上面の稜線部のほぼ平面とみなせる部分だけに限定して投影露光転写し、該平面原図基板を、投影光学系との距離を一定に保ったまま、円柱状または円筒状の被露光物体の軸に垂直な方向に定速で直線移動させ、該直線移動に同期して前記被露光物体を軸まわりに連続的に回転させて全周を露光するようにしてもよいことも特許文献1に開示されている。
【0019】
しかし、円柱状または円筒状の被露光物体をその軸まわりに回転させて全周を露光するこれらの装置では、軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体であることが必須の条件であり、軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体以外を投影露光しようとすると、被露光物体の被露光位置の高さが変わり、投影露光パターンが明瞭に転写できない。
【0020】
また、軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体以外を投影露光する場合には、外形を軸まわりに回転する際、形状に応じて単位回転角度に対する移動距離が変化するため、全周を統一した条件で投影露光することができなくなる。
【0021】
一方、立体的な凹凸を有する外形面上にパターンを形成するさらに別の投影露光装置として、円柱状または円筒状の被露光物体上に、ピンホールなどを使って形成したレーザ光のスポットに対して該円柱状または円筒状の被露光物体を走査することにより、被露光物体上に形成した感光性物質にパターンを描画する装置が非特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特許第4572365号
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics,Vol.43,No.6B,2004,pp.4031−4035
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
近年、リソグラフィを半導体集積回路やマイクロ電子機械システムよりもはるかに大きい用途に使いたいというニーズが生じている。具体的には、最小パターン寸法が10〜100μmオーダーの流路デバイス、マイクロレンズ、コイル、板バネ、ステントなどである。
【0023】
このような最小パターン寸法が10〜100μmオーダーの大パターンリソグラフィには、パターン形成の必要数が少ないため、高額な露光装置は使用できないこと、形成した感光性物質のパターンを流路やメッキ雌型などの構造体として用いるため膜厚の厚い感光性物質の使用が必要とされること、立体的な表面形状を有する被露光物上、具体的には、円筒面、軸表面、傾斜面、凹凸面などを有する被露光物上へパターンを形成するための露光装置が求められること、などの特徴がある。
【0024】
しかし、特許文献1や非特許文献1などに開示された、軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体に逐次的に原図物体上のパターンを投影露光して転写したり、レーザ光のスポットに対して軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体を走査してパターンを描画したりする、従来の露光装置においては、軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体の稜線付近のほぼ平面と見なせる狭い範囲へのパターン形成を繰り返したり、またはその狭い範囲へのパターン形成を原図物体と被露光物体を同期して走査することにより連続的に行ったり、レーザ光のスポットに対して軸対称の円柱状または円筒状の被露光物体を走査してパターンを描画したりして、所望の露光領域に少しずつパターンを形成していた。そして、凹凸を有する原図物体表面のパターンを、被露光物体の外形面に、一括して同時に投影露光して転写することはできなかった。
【0025】
そのため、被露光物体の外形面に形成した感光性物質を所望のパターン形状に露光するのに多大の時間を要していた。
【0026】
また、軸対称でない外形面を有する被露光物体に形成した感光性物質には、所望のパターン形状に露光することができなかった。
【0027】
特許文献1に開示されているように、軸対称の外形面を有する被露光物体においても、露光装置への被露光物体の取り付けがずれることにより、被露光物体の対称軸に対して露光装置の回転軸が偏心するだけでも、所望のパターン形状に高精度に露光することができなかった。
【0028】
ましてや、原図物体や被露光物体の外形が単純な凸面や凹面ではなく、凹凸が連続した任意の立体面の場合には、原図物体のパターンを忠実に被露光物体に投影露光して転写することはできなかった。
【0029】
本発明は、上記問題点に鑑みて鋭意検討の結果なされたものであり、立体的な凹凸を有する原図物体の外形面上に形成された反射パターンまたは透過パターンの形状を、該反射パターンまたは透過パターンが形成されたのと同じ形状の立体的な凹凸を有する被露光物体の外形面に投影露光転写する装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成するため、本発明の立体面投影露光装置は、凹面側を反射面とする第1の回転放物面鏡と、凹面側を反射面として同じ反射面形状を持つ第2の回転放物面鏡とを、該凹面側の両反射面が対向するように両回転放物面の軸を重ねて配置し、前記第1の回転放物面鏡の鏡面の中央部と前記第2の回転放物面鏡の鏡面の中央部のそれぞれに開口を設け、第1の回転放物面鏡はその焦点が第2の回転放物面鏡に設けた開口面付近、第2の回転放物面鏡はその焦点が第1の回転放物面鏡に設けた開口面付近となる焦点距離を有し、かつ前記の両焦点が第1の回転放物面鏡および第2の回転放物面鏡の回転面の軸上に存在するようになし、第1の回転放物面鏡の開口内に置いた原図物体の表面を、該第1の回転放物面鏡の裏面側から斜めに照明し、該第1の回転放物面鏡の開口内に置いた原図物体の立体表面の反射パターンまたは透過パターンの像を、第2の回転放物面鏡の開口内に置いた前記原図物体の反射パターンまたは透過パターンを形成した立体表面と同じ形状、寸法の被露光物体の立体表面に形成することにより、該原図基板上の立体表面の反射パターンまたは透過パターンと対応する像形状に該被露光物体の立体表面を露光することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、立体的な凹凸を有する原図物体の外形面上に形成された反射パターンまたは透過パターンの形状を、該反射パターンまたは透過パターンの形状が形成されたのと同じ形状の立体的な凹凸を有する被露光物体の外形面に、一括して同時に投影露光して転写することができる。
【0032】
平面も曲面の特別な場合であり、当然のことながら、原図物体外形の平面部上に形成された反射率分布パターンまたは透過率分布パターンの形状を、被露光物体外形の平面部に投影露光転写することができる。
【0033】
立体面を、立体面に投影できる焦点深度が非常に深い投影露光光学系であるため、平面状の原図物体に形成された反射率分布パターンまたは透過率分布パターンの形状を、凹凸のある被露光物体にパターンは歪むがぼやけずに投影露光転写することもできる。
【0034】
逆に、立体面状の原図物体に形成された反射率分布パターンまたは透過率分布パターンの形状を、平面状の被露光物体にパターンは歪むがぼやけずに投影露光転写することもできる。
【0035】
焦点深度が非常に深い投影露光光学系であるため、膜厚の厚いレジストも使いやすく、厚いレジストパターンを形成できる。
【0036】
また、2枚の回転放物面鏡だけの構成が非常に簡単な光学系で投影露光ができることから、微細パターン形成用の市販の投影露光装置と比べると非常に安価であり、小型軽量な簡便な装置で立体投影露光が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る立体面投影露光装置の断面図である。
図1において、該立体面投影露光装置は、凹面側の回転放物面を反射面とする回転放物面鏡1と、同じ寸法、形状、反射面を有する回転放物面鏡2とを該回転物面鏡どうしの軸を重ねて対向させた構造を有する。該2枚の回転放物面鏡1と2により囲まれた空間は、全面に回転放物面反射鏡がある構造である。
【0038】
回転放物面鏡1の焦点3が回転放物面鏡2の放物面鏡面の頂点よりやや内側に来るようになし、回転放物面鏡2の焦点4が回転放物面鏡1の放物面鏡面の頂点よりやや内側に来るように構成する。なお、
図1においては、後述する開口5と開口6を設けてあるので、回転放物面鏡1と回転放物面鏡2の放物面鏡面の頂点は開口5と開口6によって切り取られている。
【0039】
回転放物面鏡1の中央部には、回転放物面鏡2の焦点4付近に、開口5を設け、回転放物面鏡2の中央部には、回転放物面鏡1の焦点3の位置付近に、開口6を設ける。回転放物面鏡1の開口5と回転放物面鏡2の開口6の形状、寸法は任意であり、開口5と開口6は形状、寸法が同じでもよく、異なっていてもよい。
【0040】
図1のように回転放物面鏡1と回転放物面鏡2を組むと、回転放物面鏡1の中央部の開口5内にある回転放物面鏡2の焦点4から出て回転放物面鏡2に当たる任意の光線7は、焦点から出た光線なので、回転放物面鏡2で反射後、光軸に平行に進み、回転放物面鏡1に当たる。そして、この光線は回転放物面鏡1の光軸にも平行なので、回転放物面鏡2の開口6内にある回転放物面鏡1の焦点3に行く。
【0041】
上記に説明した光線7は任意の光線であるため、回転放物面鏡1の中央部の開口5内にある回転放物面鏡2の焦点4から出て回転放物面鏡2に当たる光線はすべて回転放物面鏡2の中央部の開口6内にある回転放物面鏡1の焦点3に行く。すなわち、回転放物面鏡2の焦点4と回転放物面鏡1の焦点3とは光学的に共役の位置関係にある。
【0042】
したがって、回転放物面鏡1の中央部の開口5内に物体を置けば、回転放物面鏡2の中央部の開口6内にその像ができる。
【0043】
図1において、回転放物面鏡1の中央部の開口5内にある回転放物面鏡2の焦点4から右上方向に出た光線7が回転放物面鏡2の中央部の開口6内にある回転放物面鏡1の焦点3に左上方向に進んで到達することからわかるように、像の向きは鉛直方向には光線の向きが射出光と同じなので正立のままであり、左右方向には光線の向きが射出光と反対なので向きが反転する。
図1は左右方向の断面図であるため図だけではわからないが、手前、奥行きについても、像の向きは反転する。
【0044】
図1に示す本発明の立体面投影露光装置の投影光学系においては、回転放物面鏡2の焦点4から出て回転放物面鏡1の焦点3に像を形成する光線は、光線7のように、焦点4から右上方向に出た光線は左上方向に進んで焦点3に達する一方、光線8のように、焦点4から左上方向に出た光線は右上方向に進んで焦点3に達する。すなわち、全方位からの斜めの光線のみで像が形成され、鉛直軸を含む任意の面内を考えると、両側からの2光束干渉で像が形成される。
【0045】
なおかつ、全方位からの斜めに焦点3に達する光線は左右および手前、奥行き方向に対称であり、光線の光軸からの傾きが大きいので、上下方向に関する結像の焦点深度が非常に大きくなる。
【0046】
そのため、焦点4付近に原図物体9を置けば、焦点3付近にその立体像が形成される。したがって、立体像が形成される位置に、前記に示した像が形成される向きを考慮して被露光物体10を置き、立体的な凹凸を有する原図物体9を任意に照明して、その外形面上に形成された反射パターンまたは透過パターンの形状を、同じ形状の立体的な凹凸を有する被露光物体10の外形面に投影して像を作れば、該反射率分布パターンまたは透過率分布パターンの形状を被露光物体10の外形面上に露光転写することができる。
【0047】
図1は、原図物体9の上面の凸状の外形面上に形成された原図とする反射パターン11を同じ形状の凹状の外形面を有する被露光物体10に投影して反射パターンの像12を作る場合を例として描いてある。
【0048】
感光性物質を被露光物体10の結像面に形成しておけば、投影される原図物体9の外形面上に形成された反射パターンの像12の明暗に対応して該感光性物質が露光され、現像すれば、被露光物体10の立体面に感光性物質のパターンを転写することができる。
【0049】
立体投影露光が可能であることを実証した実験について次に示す。光源として多数の発光ダイオード13を並べたリング照明光源14を回転放物面鏡1の下方に置き、回転放物面鏡1の中央部の開口5内にある回転放物面鏡2の焦点4付近に、原図物体9として黄色に赤色の縞が入ったカエル形のプラスチック物体を、ボルト、ナットを組み合わせて作成した原図物体支持台15上に支持して設置し、リング照明光源14内の発光ダイオード13によって斜め下方向から照明した。
【0050】
光源として、多数の発光ダイオード13を並べたリング照明光源14を用いたが、ランプ光源、レーザ光源など、光源は任意であり、照明光による原図物体9の反射パターン11からの反射光が回転放物面鏡2に当たるように、該原図物体9の反射パターン11を均一に照明でき、被露光物体10の被露光面に形成しておく感光性物質が感光する波長を含む光源でありさえすればよい。
【0051】
回転放物面鏡1と回転放物面鏡2の外径は約150mm、開口5と開口6は直径約40mmの円形、回転放物面鏡1と回転放物面鏡2の高さは各約25mmであり、焦点3と焦点4が開口6と開口5の中央に来るようにした。
【0052】
回転放物面鏡1と回転放物面鏡2、原図物体支持台13、原図物体9、リング照明光源12からなる投影光学系を、外光を遮断するため黒いビニール袋内に入れ、回転放物面鏡2の中央部の開口6内にある回転放物面鏡1の焦点3の位置にできた原図物体9の光像の写真を
図2に示す。
【0053】
カエル形のプラスチック物体の像が鮮明にできていることが分かる。したがって、同じ形状の凹みを下面に持つ物体に感光性物質を形成したものを被露光物体10として置けば、その下表面をカエル形のプラスチック物体の表面の模様に対応する明暗に露光することができる。
【0054】
被露光物体10を、原図物体9と同じ表面形状、寸法を有する、露光光線を透過する物質で作った薄い被露光物体10とし、被露光物体10の下面ではなく上面に感光性物質を形成すれば、下方から被露光物体10を透過する結像光線により、被露光物体10の上表面に形成した感光性物質を、原図物体9の外形面上に形成された反射パターン通りに露光することもできる。
【0055】
露光光線を透過する物質で作った薄い被露光物体10を用いる場合、被露光物体10の厚さと材質は必ずしも原図物体9と同じにする必要はない。被露光物体10上の結像させる面の表面形状、寸法を、原図物体9の反射パターン面と同じにしさえすればよい。
【0056】
回転放物面鏡2の中央部の開口6内の回転放物面鏡1の焦点3付近に被露光物体10を置くには、保持する機構が必要であり、下方の斜め方向から来る結像光の光路を妨げないようにする必要がある。
【0057】
図1に示したように、被露光物体10の下面側に感光性物質を形成して該下面に原図物体9の外面の像を形成する場合は、被露光物体10の上面側を被露光物体保持具16により保持すればよい。
【0058】
また、被露光物体10を薄い露光光線を透過する物質で作った物体とし、透過した上面側に感光性物質を形成して該上面に原図物体9の外面の像を形成する場合は、下方の斜め方向から来る結像光の光路を妨げないように被露光物体10の側面側を被露光物体保持具16により保持すればよい。やむを得ずして被露光物体10の下面側を保持する場合には、下方斜め方向から来る結像光の光路を妨げないように、極力光路を妨げる保持部面積を少なくする。
【0059】
被露光物体保持具16を前後左右上下に動かして位置および/または向きを調整できるように、前後、左右、上下の位置を調整するステージおよび/または前後、左右、上下軸回りの回転角を調整するステージ、あるいはそれらのステージのうちの一部からなる被露光物体位置姿勢調整ステージ17を必要に応じて取り付ければなおよい。18は被露光物体保持具16を被露光物体位置姿勢調整ステージ17に取り付けるための接続部品である。
【0060】
被露光物体位置姿勢調整ステージ17を取り付ける場合には、被露光物体保持具16や接続部品18を用いずに、被露光物体10を直接、被露光物体位置姿勢調整ステージ17に装着してもよい。
【0061】
一方、原図物体9についても、原図物体支持台15を前後左右上下に動かして位置および/または向きを調整できるように、前後、左右、上下の位置を調整するステージおよび/または前後、左右、上下軸回りの回転角を調整するステージ、あるいはそれらのステージのうちの一部からなる原図物体位置姿勢調整ステージ19を必要に応じて取り付ければなおよい。
【0062】
原図物体位置姿勢調整ステージ19を取り付ける場合には、原図物体支持台15を用いずに、原図物体9を直接、原図物体位置姿勢調整ステージ19に装着してもよい。
【0063】
なお、以上の装備を一つにまとめて立体面投影露光装置とするため、各部を基台20に取り付け、所定の位置、高さに設定することが必要である。支持台21はリング照明光源14を基台20に取り付ける支持台、支持台22は被露光物体位置姿勢調整ステージ17を基台20に取り付ける支持台である。
【0064】
図1においては、回転放物面鏡1と回転放物面鏡2はリング照明光源14の上に設置しているが、別途、回転放物面鏡1と回転放物面鏡2を基台20に支持して取り付ける支持台を設ける構造としてもよい。
【0065】
ところで、以上の説明では、原図物体9の凸状の外面の反射パターン11に対応する明暗像を被露光物体10上に形成して投影露光した。しかし、原図物体9を薄い露光光線を透過する物質で作り、いずれかの表面、または両表面に遮光物質により透過パターンを形成した原図物体9’とし、該原図物体9’を
図1の場合と同様に斜め下方向から照明すれば、原図物体9’の透過パターンの形状を、被露光物体10上に投影露光ができることは明らかである。
【0066】
図3は、このように、露光光線を透過する物質で原図物体9’を薄く作り、いずれかの表面、または両表面に遮光物質によりパターンを形成した原図物体9’を使用する投影露光装置の例である。
【0067】
図1の実施例において、被露光物体10を、露光光線を透過する物質で作った原図物体9と同じ表面形状、寸法を有する薄い被露光物体10とし、被露光物体10の下面ではなく上面に感光性物質を形成すれば、下方から被露光物体10を透過する結像光により、該被露光物体10の上表面に形成した感光性物質を、原図物体9の外形面上に形成された反射パターン通りに露光することもできることを述べた。
【0068】
図3に示す実施例においては、露光光線を透過する物質で原図物体9’を薄く作り、いずれかの表面、または両表面に遮光物質により透過パターン23を形成した原図物体9’を使用する。
【0069】
そして、被露光物体10’を、原図物体9’と同じ表面形状、寸法を有する薄い被露光物体10’とし、被露光物体10’の下面ではなく上面に感光性物質を形成する。下方から被露光物体10’を透過する結像光により、被露光物体10’の上表面に形成した感光性物質上に、原図物体9’の透過パターン23の像24を形成すれば、該感光性物質を、原図物体9’の外形面上に形成された透過パターン23の通りに露光することができる。
【0070】
被露光物体10’の厚さと材質はは必ずしも原図物体9’と同じにする必要はない。被露光物体10’上の結像させる面の表面形状、寸法を、原図物体9’の透過パターン面と同じにしさえすればよい。
【0071】
原図物体9’を凹状の外形面を有する物体とし、被露光物体10’も凹状の外形面を有する物体として、原図物体9’の透過パターン23の像24を該被露光物体10’の凹状外形の下表面上に形成した感光性物質上に作るようにしてもよい。
【0072】
投影される原図物体9’の外形面上に形成された透過パターンの像24の明暗に対応して該感光性物質が露光され、現像すれば、被露光物体10’の凹状の外形下表面上に感光性物質のパターンとして転写することができる。
【0073】
原図物体9’および被露光物体10’の付近には光線の通過を妨げる障害物を置くことができないため、原図物体9’および被露光物体10’は、たとえば側面から、原図物体支持台25および被露光物体保持具26によって保持する。
【0074】
やむを得ずして光路に入る部分にて原図物体9’および/または被露光物体10’を保持する場合には、保持部面積を少なくするなど、照明光や結像光の光路を極力妨げない方法で保持する。
【0075】
図1においては、原図物体位置姿勢調整ステージ19を直接、基台20に取り付けるようにしたが、
図3では原図物体位置姿勢調整ステージ支持台27を介して基台20に取り付けるようにした。基台20への被露光物体位置姿勢調整ステージ17、原図物体位置姿勢調整ステージ19、原図物体9’、被露光物体10’、照明光源14などの支持方法は任意でよい。
【0076】
図3に示した実施の形態においては、上に凸の原図物体9’ではなく、下に凸すなわち上面が凹んだ原図物体9’でも、透過パターンを下方から照明することができる。したがって、凸面の被露光物体10’を、パターン投影面を下にして置けば、投影露光可能である。
【0077】
このため、たとえば、透過パターンを有する下に凸すなわち上面が凹んだ半円筒状のレチクルを原図物体9’とすれば、同じ半径の外表面を有する円筒または円柱状被露光物体30の外表面の半分弱を同時に投影露光できる。
【0078】
また、
図1、
図3に示した実施の形態において、原図物体9’の反射パターン面、透過パターン面や、被露光物体10’のパターン投影面を単純な凸面や凹面であるとして説明したが、照明光線をほぼ均等に照明でき、投影できさえすれば、凹凸が連続した任意の立体面でもよい。
【0079】
原図物体9’、と被露光物体10’が平面状の物体であってもよいことは言うまでもない。したがって、たとえば、原図物体9’を石英、ガラス、フイルムなどに遮光パターンを形成したレチクルとし、被露光物体10’をシリコンウエハ、金属板、プラスチック板などとして、露光光線が入射して来る面に感光性物質を形成して用いれば、通常の投影露光装置としても使える。
【0080】
なお、以上の説明においては、原図物体9または9’を下方に置き、下方から照明して上方に置いた被露光物体10または10’を露光するとした。しかし、原図物体9と9’は被露光物体10または10’に対し、回転放物面鏡1と回転放物面鏡2とからなる投影光学系、の相対位置関係が保持されれば、装置全体を任意の向きに設置してもよい。
【0081】
すなわち、たとえば、原図物体9または9’を上方において、上方から照明して下方に置いた被露光物体10または10’を露光するようにしてもよい。
【0082】
また、回転放物面鏡1と回転放物面鏡2とからなる投影光学系の光軸が、鉛直方向ではなく、水平方向や斜め方向になるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明を用いれば、立体的なマイクロ部品の表面に一定の模様でレジストパターンを形成することが、安価簡便に高い処理速度でできる。そして、該レジストパターンをマスキング材として被露光物体の表面をエッチングすれば、溝パターン、ドットアレイなどを高精度に製作できる。
【0084】
したがって、半円筒型凹面軸受の油溝、静圧ポケット、空気軸受けのヘリングボーン溝などの量産加工に大いに役立つ。
【0085】
また、内視鏡先端部外側に術具、センサなどを後付けするための半円筒型凹面部品への溝加工、穴加工などにも役立つ。
【0086】
指先や体の一部の曲面に取り付けるため、曲面基板とすることが必要なセンサやバイオ部品を製作するための配線パターンや電極パターンなどの加工にも役立つ。
【0087】
また、鋳造や塑性加工で原型を製作した硬貨の表面および/または裏面に感光性物質の膜を形成し、硬貨の曲面をなす模様部分に複雑な微細形状を投影露光し、該投影露光後現像して形成した感光性物質のパターンをマスキング材として硬貨の表面および/または裏面をエッチングすれば、硬貨に模倣が困難な微細形状を刻むことができ、硬貨の偽造防止に大いに役立つ。
【0088】
さらに、中実または中空の円錐面や円錐台面、またはそれらのうちのいずれかが歪んだり一部で凹んだりした被露光物体に、感光性物質の膜を形成し、所定の幅のカム溝形状を投影露光し、該投影露光後現像して形成した感光性物質のパターンをマスキング材として、前記中実または中空の円錐面や円錐台面、またはそれらのうちのいずれかが歪んだり一部で凹んだりした被露光物体をエッチングすることにより、円錐面や円錐台面、またはそれらのうちのいずれかが歪んだり一部で凹んだりした立体的な面にガイド溝を有する非線形カムを製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る立体面投影露光装置
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る立体面投影露光が可能であることを示す実験結果の写真
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る別の構成の立体面投影露光装置
【符号の説明】
【0089】
1 回転放物面鏡
2 回転放物面鏡
3 回転放物面鏡1の焦点
4 回転放物面鏡2の焦点
5 開口
6 開口
7 光線
8 光線
9 原図物体
9’原図物体
10 被露光物体
10’ 被露光物体
11 反射パターン
12 反射パターンの像
13 発光ダイオード
14 リング照明光源
15 原図物体支持台
16 被露光物体保持具
17 被露光物体位置姿勢調整ステージ
19 原図物体位置姿勢調整ステージ
20 基台
23 透過パターン
24 透過パターンの像
25 原図物体支持台
26 被露光物体保持具