(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-57213(P2021-57213A)
(43)【公開日】2021年4月8日
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/42 20060101AFI20210312BHJP
【FI】
H01R13/42 F
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-179734(P2019-179734)
(22)【出願日】2019年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】390033318
【氏名又は名称】日本圧着端子製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 誠
【テーマコード(参考)】
5E087
【Fターム(参考)】
5E087EE14
5E087GG15
5E087GG23
5E087GG24
5E087RR26
5E087RR36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コンタクトの半挿入を抑止可能なコネクタを提供する。
【解決手段】コンタクト収容空間121の後方からコンタクト30が収容され、収容位置にあるコンタクト30の被係止部にランス係止部が係止するハウジング10を備え、ハウジング10はコンタクト収容空間121の前方に補助空間を連続して備える。コンタクト30は挿入過程でコンタクト30とランス130との係止開始位置を通過し、コンタクト30の先端部がコンタクト収容空間121の先端部にあるとき、ランス係止部は被係止部の縁部に係り、コンタクト30の先端部が補助空間内にあるとき、ランス係止部は被係止部の縁部より前方で係止状態にある。ハウジング10はリテーナ20を備え、リテーナ20はコンタクト収容空間121にあるコンタクト30に当接する調整部231を備え、リテーナ20の装着でコンタクト30が前後方向に整列される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンタクト収容空間の後方からコンタクトが収容され、収容位置にある前記コンタクトの側面の被係止部にランスの係止部が係止するハウジングを備え、
前記ハウジングは前記コンタクト収容空間の前方に補助空間を連続して備え、
前記コンタクトは挿入過程で前記コンタクトと前記ランスとの係止開始位置を通過し、前記コンタクトの先端部が前記コンタクト収容空間の先端部にあるとき、前記係止部は前記被係止部の縁部に係り、前記コンタクトの先端部が前記補助空間の先端部にあるとき、前記係止部は前記被係止部の前記縁部より前方で係止可能状態にあるところに特徴を有するコネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のコネクタにおいて、
前記ハウジングは前方から装着されるリテーナを備え、
前記リテーナは前記コンタクト収容空間又は前記補助空間にある前記コンタクトに当接する調整部を備え、前記リテーナの装着で前記コンタクトが前後方向に整列されるところに特徴を有するコネクタ。
【請求項3】
請求項2記載のコネクタにおいて、前記リテーナの先端部にランス制御部が備わり、装着位置にある前記リテーナの前記制御部が前記ランスに係り、前記係止状態の係止量が増加するところに特徴を有するコネクタ。
【請求項4】
請求項3記載のコネクタにおいて、前記ランス制御部の先端部に前記ランスとの係止を生じやすくするためにテーパー面が備わるところに特徴を有するコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトの半挿入を抑止するコネクタに関する。
【0002】
この分野の技術として特許文献1に記載の技術が知られている。一方のコネクタのハウジングには、嵌合部の先端部と基端部とに弾性リングが装着され、嵌合状態のハウジング間の傾きが抑制されるというものである。ここで、一方のハウジングの組立時に、コンタクトの不完全挿入(半挿入)が生じている状態で、フロントリテーナを装着したとき、挿入途中でハウジングランスの先端部と、リテーナの先端部との衝突が生じ、フロントリテーナは正規装着位置まで挿入されずに途中位置で停止することとなる。このとき、作業者はコンタクトが不完全挿入状態(半挿入)であることを検知し、不具合品が後工程に流出することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−171621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、特許文献1記載の発明では、フロントリテーナの装着時にコンタクトの半挿入状態を知る(推測する)ことができ、不具合品の次工程への流出を防ぐことができる。しかし、特許文献1記載の技術では、コンタクトの半挿入の発生自体を抑止することはできない。また、ハウジングはセパレート構造なので、このままでは生産性が低下するものと思われる。
【0005】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、コンタクトの半挿入の抑止可能なコネクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコネクタは、(1)コンタクト収容空間の後方からコンタクトが収容され、収容位置にある前記コンタクトの側面の被係止部にランスの係止部が係止するハウジングを備え、前記ハウジングは前記コンタクト収容空間の前方に補助空間を連続して備え、前記コンタクトは挿入過程で前記コンタクトと前記ランスとの係止開始位置を通過し、前記コンタクトの先端部が前記コンタクト収容空間の先端部にあるとき、前記係止部は前記被係止部の縁部に係り、前記コンタクトの先端部が前記補助空間の先端部にあるとき、前記係止部は前記被係止部の前記縁部より前方で係止可能状態にあるところに特徴を有するものである。
【0007】
この発明によれば、ハウジングは、コンタクト収容空間の前方に補助空間を備えるので、ランスの係止部と、コンタクトの被係止部とが係止するコンタクトの挿入位置よりも前方位置までコンタクトは挿入されることとなる。このように係止可能状態の範囲が拡大されるので、半挿入状態が解消されコンタクトの半挿入の抑止可能なコネクタが得られる。
【0008】
好ましくは、本発明のコネクタは、(2)上記(1)記載のハウジングにおいて、前記ハウジングは前方から装着されるリテーナを備え、前記リテーナは前記コンタクト収容空間又は前記補助空間にある前記コンタクトに当接する調整部を備え、前記リテーナの装着で前記コンタクトが前後方向に整列されるところに特徴を有するものである。
【0009】
この発明によれば、コンタクト収容空間又は補助空間にあるコンタクトは、先端部がリテーナとの当接によって位置が揃えられるので、前後方向に整列されたコンタクトが得られる。
【0010】
好ましくは、本発明のコネクタは、(3)上記(2)記載のハウジングにおいて、前記リテーナの先端部にランス制御部が備わり、装着位置にある前記リテーナの前記ランス制御部が前記ランスに係り、前記係止状態の係止量が増加するところに特徴を有するものである。
【0011】
この発明によれば、リテーナの装着によりランスとコンタクトとの係止量が増加するので、コンタクトの保持力が強化されたコネクタが得られる。
【0012】
好ましくは、本発明のコネクタは、(4)上記(3)記載のハウジングにおいて、前記ランス制御部の先端部に前記ランスとの係止を生じやすくするためにテーパー面が備わるところに特徴を有するものである。
【0013】
この発明によれば、ランス制御部の先端部にテーパー面が備わり、ランスとの係止がスムースに行われるコネクタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るハウジングにコンタクトとリテーナが組み込まれたコネクタの断面図である。
【
図2】
図2は、同コネクタにリテーナが装着される外観図であって、(1)は装着前、(2)は装着状態である。
【
図3】
図3は、同コネクタのハウジング単体の断面図である。
【
図4】
図4は、同コネクタのリテーナ単体の外観斜視図である。
【
図5】
図5は、同コネクタに組み込まれるコンタクトの外観図である。
【
図6】
図6は、同コネクタのハウジングにリテーナが装着される工程図であって、(1)は第1装着工程、(2)は第2装着工程である。
【
図7】
図7は、同コネクタのハウジングにリテーナが装着される過程を示す図であって、コンタクトの半挿入状態が生じている場合のリテーナの不完全装着状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施形態によって限定的に解釈されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することができる。
図1は、本実施形態に係るハウジングにコンタクトとリテーナが組み込まれたコネクタの断面図である。
図2は、同コネクタにリテーナが装着される外観図であって、(1)は装着前、(2)は装着状態である。
図3は、同コネクタのハウジング単体の断面図である。
図4は、同コネクタのリテーナ単体の外観斜視図である。
図5は、同コネクタに組み込まれるコンタクトの外観図である。
図6は、同コネクタのハウジングにリテーナが装着される工程図であって、(1)は第1装着工程、(2)は第2装着工程である。
図7は、同コネクタのハウジングにリテーナが装着される過程を示す図であって、コンタクトの半挿入状態が生じている場合のリテーナの不完全装着状態を示す図である。なお、説明中の方向指示は対象図面に記載された方向定義に従う。
【0016】
本実施形態のコネクタ1は、
図1に示されるように、リテーナ20を備える。リテーナ―20は、ハウジング10の前方からハウジング10の前面に装着されてハウジング10と一体化する。ハウジング10は、内部にコンタクト収容空間121が形成された嵌合部120と、その後方に電線Wの取出し口をカバーする本体部とを備える。ハウジング10
と、リテーナ20は、共に非導電性合成樹脂の射出成形品である。本実施形態では、ハウジング10とリテーナ20とは、別部材として構成されているが、これに限るものではなく、たとえば両者が一部で繋がった構成であってもよい。
【0017】
嵌合部120は、
図1、2に示されるように、扁平状の箱体で、内部にはコンタクト30を収容するためのコンタクト収容空間121が形成されている。コンタクト収容空間121は、コンタクト30毎に仕切り壁で区画され、左右方向及び上下方向に沿って等間隔に配置されている。ピン状のコンタクト30は、コンタクト収容空間121の後方の開口部から挿入され、正規装着位置で保持される。コンタクト収容空間121の前壁には開口部が形成され、正規装着位置に保持されたコンタクト30は、嵌合時この開口部を通過した図示しない相手方コンタクトと接続する。
嵌合部120の左右側壁には、上下方向に延びる溝状のリテーナ係止部123が形成されている。
【0018】
コンタクト収容空間121の内壁下側面には、
図1、3に示されるように、ランス130が延在する。ランス130は、正規装着位置に装着されたコンタクト30を定位置に保持するものであり、先端部が上下方向に沿って変位可能な片持ち梁である。コンタクト収容空間121の一部は、ランス可動空間と共有する。ランス130は、先端部にあるランス係止部131で装着位置にあるコンタクト30に係止し、この位置で保持する。コンタクト挿入時には、コンタクト30の進行を妨げないようにランス130全体が内壁側に倒れ、コンタクト収容空間121内にコンタクトの進行路が確保される。
【0019】
<補助空間>
コンタクト収容空間121の前方には、
図3に示されるように、補助空間150が連続的に形成されている。補助空間150は、ランス係止部131と、コンタクト30の被係止部311との係止を確実に作用させるために備わる装置である。補助空間150を構成する内壁は、コンタクト収容空間121を構成する内壁と何れも連続的である。補助空間150は、コンタクト収容空間121を進行するコンタクトの進入を妨げない。補助空間の前後寸法は、1.0~2.0mmが好ましく、より好ましくは、1.0~1.5mmである。補助空間150の前後寸法が大きすぎるとコネクタ寸法が拡大し、コンタクト30のがたつきも大きくなる。一方、小さすぎると半挿入抑止効果が減殺される場合がある。
【0020】
コンタクト30の挿入過程で、コンタクト30の先頭部がコンタクト収容空間121の先頭部(前端部)に到達したとき、ランス係止部131とコンタクト30の被係止部311との係止状態が生じるように、ランス係止部131とコンタクト30の被係止部311とは所定の位置関係を有している。しかし、ハウジング10には、金型の加工精度、成型時の収縮率などによる個体間の寸法バラつきがあり、同様にコンタクト30にも、金型の加工精度などによる個体間の寸法バラつきが生じている。これら寸法精度のバラつきの他コンタクト挿入深さのバラつきもあり、ランス係止部131と、コンタクト30の被係止部311との係止が作用しない状態が生じる場合がある。本実施形態に備わる補助空間150は、このようなコンタクト30の未係止状態が生じることがないようにするために備わる装置である。
【0021】
コンタクト30は、装着時コンタクト収容空間121の後方開口部から挿入され前方に進行する。コンタクト30の先端部(前端部)がコンタクト収容空間121の前端部に到達した位置では、上述した寸法バラつきにより、ランス係止部131と、コンタクト30の被係止部311との未係止状態のものが所定の確率で生じうる。
本実施形態のコネクタ1の場合、コンタクト30は、この位置からさらに前方に、補助空間150の前後寸法相当分進行可能であり、挿入は進行する。したがって、あと一歩で係止する状態にあった未係止状態のものは、補助空間150により生じた延長分前進する
ことによりすべてが係止状態に至ることとなる。これにより、半挿入状態の発生は解消される。
【0022】
<リテーナ>
リテーナ20は、
図4に示されるように、基部210と、カバー部220とからなる基本構造部と、基部210内壁に延在するポスト状の制御部230とからなる。基部210には、等間隔に開口部211が備わり、開口部211の脇には制御部230が備わる。基部210の端部に繋がるカバー部220は、一対の対向面に係止部221が備わる。
【0023】
制御部230には、
図4に示されるように、基端部寄りに段差状の調整部231と、先端部にテーパー面が形成されたランス制御部232が備わる。
【0024】
リテーナ20は、
図2に示されるように、ハウジング10の前方から装着され、カバー部220に備わる係止部221と、ハウジング10側面に備わるリテーナ係止部123とが係止し固定される。制御部230は、ハウジング10前面の開口部122からコンタクト収容空間121に進入する。リテーナ20の装着により、調整部231は、コンタクト30の先端部に当接し、ランス制御部232はランス130に当接する。
【0025】
<コンタクト>
コンタクト30は金属圧延材の塑性加工品で、
図5に示されるように、前方から後方に向かって接触部310、連結部313、接続部317が連なるピン状である。
【0026】
接触部310は、筒状で内側に形成された弾性部が図示しない相手方コンタクトに接続する。接触部310の後端部の後方には被係止部311が形成されている。被係止部311は、装着時ランス係止部131に当接しコンタクト30の後方への抜け出しが抑止される。
【0027】
接続部317は、電線Wの導体部に接続する導体接続部と、電線Wの被覆部に接続する被覆部接続部とが備わる。導体部とは圧着加工で接続される。
【0028】
<コンタクトの挿入とリテーナの装着>
コンタクト30は、
図6に示されるように、ハウジング10の後面から挿入される。挿入されたコンタクト30は、挿入量にばらつきが生じているが先頭部は補助空間150内にある。たとえば、奥部まで挿入されたものは、先頭部が補助空間150の前壁に当接する位置にあり、挿入が浅いものは、先頭部が補助空間150の後方寄りの位置にある。このように、挿入量にばらつきが生じていても、何れのコンタクト30の被係止部311も、ランス係止部131と係止可能状態にある。
すなわち、相対的に挿入量が少ない場合が生じても、補助空間150による前方への挿入量の延長領域が設けられたことにより、絶対挿入量が増加しているので、挿入不足による未係止状態の発生は解消されることとなる。
【0029】
上述した補助空間150による絶対挿入量の増分により、装着状態にあるコンタクト30の前後方向への動き許容量も増加している。すなわち、がたつきが生じている。ハウジング10内でのコンタクト30の動きを所定量に規制したい場合には、リテーナ20をハウジング10に装着することで解消される。
【0030】
リテーナ20は、
図6に示されるように、ハウジング10の前面から装着される。ハウジング10前面の開口部122から進入した制御部230は、基端寄りの調整部231でコンタクト30の先端部に当接する。当接したコンタクト30は、後方へ位置がずらされる。リテーナ20が正規装着位置まで装着されることにより、コンタクト30は、コンタ
クト収容空間121内で後退する。このとき、リテーナ係止部123は、コンタクト30の被係止部311と略当接状態にある。すなわち、装着状態にあるコンタクト30の前方移動はリテーナ20で規制され、後方移動はランス130で規制されることとなる。これにより、コンタクト収容空間121でのコンタクト30のがたつきの少ないハウジング10が得られる。
【0031】
リテーナ20が装着されると、
図6に示されるように、制御部230の先端にあるランス制御部232がランス130の下面に当接しランス130の先端を起き上がらせる。これにより、ランス係止部131と、コンタクト30の被係止部311との係止量が増加するので、コンタクト30の保持力が強化されたコネクタ1が得られる。
【0032】
<半挿入検知>
コンタクト30の不完全挿入(半挿入)が生じている場合は、
図7に示されるように、リテーナ20が正規装着位置まで装着されないので、コンタクト30の半挿入の検知が可能である。すなわち、コンタクト30の挿入不足が生じている場合には、ランス130は、コンタクト収容空間121の内壁側に撓み、この状態でリテーナ20が装着されると、制御部230の先端部は、リテーナ20の先端部に衝突する。衝突により、リテーナ20の進行は阻止され正規装着位置まで装着できなくなる。これにより、コンタクト30の挿入に不具合が生じていることが作業者に検知される。
【0033】
<効果>
・コンタクト収容空間121をわずかに延長して補助空間150を設けることで、コンタクト30の半挿入が抑止可能なコネクタ1が得られる。
・コンタクト30のがたつきは、リテーナ20で整列可能なコネクタ1が得られる。
・リテーナはランスに当接して、係止量を増加させるので、コンタクトの抜け出しが抑止されたコネクタ1が得られる。
・リテーナ20の制御部230の先端部にはテーパー面が備わり、ランスとの係合がスムースに行われるコネクタ1が得られる。
・コンタクト30の半挿入が生じている場合は、リテーナ20が正規装着位置まで装着できないので、半挿入の検知可能なコネクタ1が得られる。
【符号の説明】
【0034】
1 コネクタ
10 ハウジング
120 嵌合部
121 コンタクト収容空間
122 開口部
123 リテーナ係止部
130 ランス
131 ランス係止部
150 補助空間
20 リテーナ
210 基部
211 開口部
220 カバー部
221 係止部
230 制御部
231 調整部
232 ランス制御部
30 コンタクト
310 接触部
311 被係止部
313 連結部
317 接続部
W 電線