特開2021-58171(P2021-58171A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-58171核酸試料のデジタル定量的PCR測定方法
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  • 特開2021058171-核酸試料のデジタル定量的PCR測定方法 図000005
  • 特開2021058171-核酸試料のデジタル定量的PCR測定方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-58171(P2021-58171A)
(43)【公開日】2021年4月15日
(54)【発明の名称】核酸試料のデジタル定量的PCR測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20210319BHJP
【FI】
   C12Q1/6851 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-186091(P2019-186091)
(22)【出願日】2019年10月9日
(71)【出願人】
【識別番号】519364808
【氏名又は名称】奎克生技光電股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100086368
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 誠
(72)【発明者】
【氏名】味 正 唯
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 章 維
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】核酸試料のデジタル定量的PCR測定方法に係り、より具体的には、幅広いバリエーションの異なる濃度範囲を有する複数の核酸標的を有する被験核酸試料に適した測定方法の提供。
【解決手段】デジタルPCR及び定量的PCRを同時に行って高濃度の核酸標的と低濃度の核酸標的とを同時に含む核酸試料を検出する核酸試料の測定方法であって、前記核酸試料中の前記高濃度の核酸標的のコピー数が10000より大きく、前記核酸試料中の前記低濃度の核酸標的のコピー数が10000以下であることを特徴とする、核酸試料の測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルPCR及び定量的PCRを同時に行って高濃度の核酸標的と低濃度の核酸標的とを同時に含む核酸試料を検出する核酸試料の測定方法であって、前記核酸試料中の前記高濃度の核酸標的のコピー数が10000より大きく、前記核酸試料中の前記低濃度の核酸標的のコピー数が10000以下であることを特徴とする、核酸試料の測定方法。
【請求項2】
前記核酸試料に対してデジタル定量的PCRを行うための複数の反応ウェルを有する試験板を設けること、及び
前記デジタルPCRによって前記低濃度の核酸標的のコピー数を直接定量化し、前記定量的PCRによって前記高濃度の核酸標的のCq値を検出した後、前記核酸試料中の前記高濃度の核酸標的のコピー数を求めるために変換ステップを実行すること、
を含む、請求項1に記載の核酸試料の測定方法。
【請求項3】
定量的PCR反応曲線によってPCR効率を求め、その後、
前記PCR効率に1を足して基数とすること、
前記低濃度の核酸標的のCq値から前記高濃度の核酸標的のCq値を引いてΔCqを求めて指数とすること、
前記基数及び前記指数をべき乗演算に用いて各反応ウェルの核酸標的のコピー数を求めること、及び
各反応ウェルの前記核酸標的のコピー数に前記デジタルPCRにおける前記反応ウェルの数を乗じて、前記高濃度核酸標的の総コピー数を求めること、
を含む前記変換ステップを実行する、請求項2に記載の核酸試料の測定方法。
【請求項4】
前記デジタル定量的PCRが64個以上の反応ウェルを使用して行われる、請求項2に記載の核酸試料の測定方法。
【請求項5】
前記デジタル定量的PCRが64〜20000個の反応ウェルを使用して行われる、請求項4に記載の核酸試料の測定方法。
【請求項6】
前記変換ステップの後、ダイナミックレンジが9ログまで増大する、請求項2に記載の核酸試料の測定方法。
【請求項7】
前記反応ウェルの全てが核酸標的に対する陽性反応を示す場合、前記核酸標的が前記高濃度の核酸標的である、請求項2に記載の核酸試料の測定方法。
【請求項8】
前記反応ウェルの全てが核酸標的に対する陽性反応を示すわけではない場合、前記核酸標的が前記低濃度の核酸標的であり、前記低濃度の核酸標的のコピー数が直接測定される、請求項2に記載の核酸試料の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸試料のデジタル定量的PCR測定方法に係り、より具体的には、幅広いバリエーションの異なる濃度範囲を有する複数の核酸標的を有する被験核酸試料に適した測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のデジタルPCRの利点は、実験的検出において検量線法を行うことなく試料濃度を直接測定できることである。しかしながら、実際的適用では使用上不便であるという欠点が存在する。なぜなら、デジタルPCRは主にポアソン分布を利用して試料濃度を推定し、試料濃度は全ての検出反応ウェルが陽性反応を示すほど高すぎてはならないからである。つまり、デジタルPCRによる試料濃度の良好な測定を期待する場合、試料濃度をある程度低く保つ必要があり、試料を全ての検出反応ウェルに分配してはならない。このように、濃度が未知の試料に直面したとき、最初に事前定量化及び希釈を行う他の方法を用いる必要がある。結果として、試料濃度はデジタルPCRに適用可能な濃度範囲内に収まり、デジタルPCRによって試料濃度が良好に測定される。したがって、検出のダイナミックレンジ及び操作上の利便性が共に制限される。
【0003】
一般に、被験核酸試料中の核酸標的は広い濃度範囲を有することがあり、この現象は臨床試料で特によく見られる。核酸試料中に高濃度の核酸標的及び低濃度の核酸標的が同時に示される場合、デジタルPCR測定のために核酸試料を希釈する必要がある。結果として、高濃度の核酸標的はデジタルPCRに適用可能な濃度範囲内に収まり、その結果、高濃度の核酸標的をデジタルPCRによって測定することができる。しかしながら、核酸試料の希釈中に、高濃度の核酸標的はデジタルPCRに適用可能な濃度範囲内に収まることができるが、低濃度の核酸標的は過度に希釈され、検出できなくなる結果として感度が低下する問題が発生する。この状況は、液体生検試料中の遺伝子突然変異の検出においてよく発生する。例えば、被験核酸試料中に高濃度の野生型遺伝子及び低濃度の突然変異遺伝子が同時に示される場合、検出感度が影響を受ける可能性がある。
【0004】
現在市場に出回っている検出のための反応ウェル又はドロップレットの数は一般に増えており、その結果、デジタルPCRの適用条件を満たす高濃度の核酸標的を分配した後に十分な陰性反応ウェルが存在する可能性があり、被験試料のコピー数を測定することができる。しかしながら、検出のための反応ウェルの数が増えるとプラットフォーム技術の困難性が増し、検出コスト及び検出時間が増大する。
【0005】
上記に基づくと、デジタルPCRによって高濃度の核酸標的を検出する場合、反応ウェルの数を増加させたり、試料を希釈したりすることなく試料濃度を良好に検出して、研究を必要とする重要なトピックであるダイナミックレンジ及び操作上の利便性を改善することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リアルタイムの定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)及びデジタルPCRを同時に行うという特徴を有する核酸試料の測定方法を提供する。本発明の測定方法は、同時に示された高濃度の核酸標的及び低濃度の核酸標的を同時に検出して、検出のダイナミックレンジを拡大することができる。この方法はデジタル定量的PCRと呼ばれ、デジタルPCRと定量的PCRの二重機能を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の核酸試料の測定方法は、以下のステップを含む。複数の反応ウェルを有する試験板を設けて核酸試料に対してデジタル定量的PCRを行う。特に、低濃度の核酸標的のコピー数をデジタルPCRの機能によって直接定量化する。qPCRの機能によって高濃度核酸標的のCq値が検出され、核酸試料中の高濃度核酸標的のコピー数を求めるために変換ステップを実行する。
【0008】
本発明のある実施形態では、PCR効率がqPCR反応曲線によって求められる。その後、以下のステップを含む変換ステップが実行される。PCR効率に1を加えて基数とする。低濃度核酸標的のqPCR Cq値から高濃度核酸標的のCq値を引いてΔCqを求めて指数とする。次に、基数及び指数をべき乗演算に使用して、各反応ウェルの核酸標的のコピー数を求め、このコピー数にデジタルPCRにおける反応ウェルの総数を乗じて高濃度核酸標的の総コピー数を求める。
【0009】
本発明のある実施形態では、核酸試料は2種類以上の核酸標的を含み、複数の核酸標的は異なる濃度範囲を有する。
【0010】
本発明のある実施形態では、デジタル定量的PCRは64個以上の反応ウェルを使用して行われる。
【0011】
本発明のある実施形態では、デジタル定量的PCRは64〜20000個の反応ウェルを使用して行われる。
【0012】
本発明のある実施形態では、変換ステップの後、ダイナミックレンジが9ログまで増大する。
【0013】
本発明のある実施形態では、2500個の実験用反応ウェルを有する試験板を使用する。核酸標的の濃度が高い(2500個の全ての実験用反応ウェルが核酸標的に対する陽性反応を示すことを意味する)場合、核酸試料中の核酸標的のコピー数は10000より大きい。
【0014】
本発明のある実施形態では、核酸標的の濃度が低い(実験用反応ウェルの全てが核酸標的に対する陽性反応を示すわけではないことを意味する)場合、核酸試料中の核酸標的のコピー数は直接測定することができる。
【0015】
本発明のある実施形態では、2500個の実験用反応ウェルを有する試験板を使用する。2500個の全ての実験用反応ウェルが核酸標的に対する陽性反応を示すわけではない場合、核酸試料中の核酸標的のコピー数は10000以下である。
【発明の効果】
【0016】
上記に基づいて、本発明は、低濃度の核酸標的のコピー数をデジタルPCRの機能によって直接定量化する核酸試料の測定方法(デジタル定量的PCRと称される)を提供する。qPCRの機能によって高濃度核酸標的のCq値が検出され、高濃度核酸標的のコピー数を求めるために変換ステップを実行する。このように高濃度核酸標的が検出される場合、試料を希釈することなく試料濃度を良好に検出することができ、その結果、検出のダイナミックレンジ及び操作上の利便性を効果的に改善することができる。
【0017】
本発明の前述の特徴及び利点をより理解しやすくするために、図面を伴う実施形態を以下で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
添付図面は、本発明のさらなる理解のために含められ、本明細書に組み込まれてその一部を構成する。図面は本発明の実施形態を示し、記述とともに本発明の原理を説明する働きをする。
【0019】
図1】本発明がデジタルPCRと定量的PCRの二重機能をどのようにして同時に実行して9ログのダイナミックレンジを実現し、変換ステップによって高濃度核酸標的のqPCR Cq値を高濃度核酸標的のコピー数に変換するかを説明する、本発明のある実施形態に係る核酸試料の測定方法の試験結果を示すグラフ。
図2】本発明がデジタルPCRと定量的PCRの二重機能をどのようにして同時に実行して9ログのダイナミックレンジを実現し、変換ステップによって高濃度核酸標的のqPCR Cq値を高濃度核酸標的のコピー数に変換するかを説明する、本発明のある実施形態に係る核酸試料の測定方法の試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は核酸試料の測定方法を提供する。最初に、本明細書で使用する用語を以下に定義及び説明する。
【0021】
「qPCR」又は「リアルタイムの定量的PCR」は、標的DNAを増幅すると同時に定量化するのにPCRを用いる実験的方法を指す。様々な検出用化学物質(蛍光染料SYBR(登録商標)greenや蛍光レポーターオリゴヌクレオチドプローブTaqmanプローブなどを含む)を使用して定量化を行い、各増幅サイクルの後に反応中に蓄積された増幅されたDNAに対してリアルタイムの定量化を行う。
【0022】
「デジタルPCR」とは、核酸分子に対する絶対的定量化技術である。qPCRと比較すると、デジタルPCRは核酸分子のコピー数を直接測定することができる。試料を数十から数万の部分に分割し、異なる反応ウェルに分配した後、各反応ウェル中の核酸標的に対してPCR増幅をそれぞれ行う。増幅が完了した後、各反応ウェルの蛍光信号を解析する。
【0023】
「Cq値」とは、qPCR操作プロセス中に蛍光強度が大幅に増加した増幅サイクルの数である。
【0024】
「PCR効率」とは、各PCRサイクル後の核酸の増加量を指す。良い設計は通常、90%〜110%の間の効率をもたらし、これは核酸の量が追加の各PCRサイクルの後に90%〜110%増加する可能性があることを意味する。この方法は、文献(Biochem Biophys Res Commun.2002年6月7日;294(2):347−53)に記載の蛍光強度の増加量を用いてPCR効率を測定する方法を参照し、PCR効率は、(RCq−RCq−1)/RCq−1に等しい。ここでRCqはサイクルCqの蛍光強度であり、RCq−1はサイクルCq−1の蛍光強度であり、最初にRCqとRCq−1の両方から蛍光バックグラウンド値を差し引く必要がある。
【0025】
「試料」とは、被験核酸試料を指す。例えば試料は、血液、組織、唾液などのソースから抽出した核酸フラグメント(DNAやRNAなどを含む)であってよい。「鋳型」とは、バイオマーカとも称され、qPCR反応によって検出可能な特定配列を有するDNA鎖、RNA鎖、又はマイクロRNA鎖を指す。
【0026】
「複数の反応ウェルを有する試験板」とは、それぞれがdqPCR反応を行うのに使用される複数の反応ウェルを有するスライド板を指す。
【0027】
「ダイナミックレンジ」とは、一般に濃度範囲の1つの区間を指す、既知の試料濃度(例えば既知の段階希釈率)と測定された試料濃度とが許容可能な線形性を示す線形ダイナミックレンジを指す(Huggett,Jim F.,et al.“Guidelines for minimum information for publication of quantitative digital PCR experiments”)。ダイナミックレンジの単位は通常、ログで表される。
【0028】
本発明は核酸試料の測定方法を提供する。初めに、1種類以上の核酸標的を含み得る核酸試料に対してデジタル定量的PCRを行うために複数の反応ウェルを有する試験板を設ける。核酸試料が2種類以上の核酸標的を含む場合、各核酸標的の濃度範囲は異なるか又は大幅に異なる可能性がある。試験板中の反応ウェルは、様々な濃度範囲を有する異なるタイプの核酸標的を同時に測定するために個別に割り当てられる。本実施形態では、例えば64個以上の反応ウェルを使用してデジタル定量的PCR反応が行われ、好ましくは、例えば64〜20000個の反応ウェルを使用してデジタル定量的PCR反応が行われる。
【0029】
全ての反応ウェルが核酸標的に対する陽性反応を示す場合、核酸標的の濃度はより高く、核酸試料中の核酸標的のコピー数は、例えば10000より大きい。既存のデジタルPCRでは、高濃度の核酸標的の場合、初めに希釈を行う必要がある。結果として、試料濃度はデジタルPCRに適用可能な濃度範囲内に収まり、その結果、試料濃度をデジタルPCRによって良好に測定することができる。しかしながら、本発明では、全ての反応ウェルが核酸標的に対して陽性反応を示す場合に変換ステップが実行され、その結果、核酸試料中の高濃度の核酸標的のコピー数が求められる。このように、試料を希釈することなく試料濃度を良好に検出することができる。
【0030】
本発明では、PCR効率がqPCR反応曲線によって求められ、その後、以下のステップを含む変換ステップが実行される。PCR効率に1を加えて基数とする。低濃度核酸標的のqPCR Cq値から高濃度核酸標的のCq値を引いてΔCqを求め指数とする。その後、基数及び指数をべき乗演算に使用して、各反応ウェルの核酸標的のコピー数を求め、これにデジタルPCRにおける反応ウェルの総数を乗じて、変換された高濃度核酸標的の総コピー数を求める。
【0031】
全ての実験用反応ウェルが核酸標的に対する陽性反応を示すわけではない場合、この核酸標的の濃度はより低い。核酸試料中の核酸標的のコピー数は、例えば10000以下であり、コピー数の具体的な範囲は、例えば1〜10000である。本発明の核酸試料の測定方法を用いて、核酸試料中の核酸標的のコピー数は定量的PCRによって直接測定することができる。
【0032】
本発明の核酸試料の測定方法では、リアルタイムの定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)の特徴とデジタルPCRの特徴とを組み合わせることができる。デジタルPCRのダイナミックレンジは3ログであり、qPCRのダイナミックレンジは6ログである。本発明の核酸試料の測定方法では、ダイナミックレンジをdqPCR技術によって9ログまで増大させることができる。
【0033】
検出のダイナミックレンジを測定するために、文献(Huggett,Jim F.,et al.“Guidelines for minimum information for publication of quantitative digital PCR experiments”)に記載の一般的に用いられる方法は、被験試料を用意することと、次にこの試料に対して複数回の連続した段階希釈、例えば5回の連続した10倍の段階希釈を実行して、全部で6つの段階希釈した試料(100000倍、10000倍、1000倍、100倍、10倍、1倍)を得ることである。その後、6つの段階希釈した試料を検出してその検出濃度を求め、次に既知の希釈率及び個々の検出濃度を有する6つの試料間の線形性を計算する。線形性が0.98より大きい相関係数R2に達する場合は、この検出が6ログのダイナミックレンジに達し得ることを意味する。
【0034】
図1図2及び表1は、本発明のある実施形態に係る核酸試料の測定方法により得られた検出結果であり、どのようにして本発明のデジタルPCRと定量的PCRの二重機能が同時に実行されて、その結果、9ログのダイナミックレンジ(既知の段階希釈濃度及びdqPCRにより測定した検出濃度(コピー数)の相関係数R2は0.99以上である)を実現するかを説明し、高濃度核酸標的のqPCR Cq値は変換ステップによって高濃度核酸標的のコピー数に変換される。
【0035】
同じ試料から得られた連続した10倍希釈試料が、表1に上から下に記載され、表中、上位5つの希釈率は100,000,000倍から10,000倍である。PCR反応後は全ての反応ウェルが陽性であり、デジタルPCRによって直接測定することができない。残りの4つの希釈率はいずれも反応後に陰性の反応ウェルを示し、1ウェル当たりの試料のコピー数は、デジタルPCRによって測定することができ、これに反応ウェル数を乗じて総コピー数が求められる。例えば試料希釈率が100倍の場合、デジタルPCRにより測定された1ウェル当たりのコピー数は0.23であり、これに反応ウェル数2500が乗じられて総コピー数576が求められる。試料希釈率が10,000倍以上の場合、試料のCq値は定量的PCRによって測定することができ、総コピー数は本発明の方法の変換によって求めることができる。例えば試料希釈率が10,000倍である場合、定量的PCRにより測定されたCq値は20.72である。単一コピー数でのこの試料のCq値は25.66であり、PCR効率は92%である。25.66から20.72を引いて4.94を求める。効率0.92に1を足して1.92を求め、1.92の4.94乗は、1ウェル当たりの変換されたコピー数である24.97であり、反応ウェル数2500が乗じられて変換された総コピー数62416が与えられる。この9つの試料は、本発明の方法により求められる変換された総コピー数及び試料希釈率によって線形回帰される。相関係数R2は、本発明の方法が実行可能性及び線形性に優れていることを示す0.9988(図1)及び0.9996(図2)である。
【0036】
図1及び図2のデータソースは表1であり、図1のX座標軸は表1の試料希釈率であり、図1のY軸は表1の被験試料の総コピー数である。図1では、Y軸の最大値がより大きいため、図中のより小さい座標点を見分けることができない。図中の各座標を明確に示すために、図1図2のように修正した。図2では、図1の座標軸が10を底とする対数(log10)の形に修正されている。
【0037】
【表1】
【0038】
表2は、本発明のある実施形態に係る核酸試料の測定方法の検出結果である。本実施形態では、被験核酸試料は、高濃度の野生型遺伝子及び低濃度の突然変異遺伝子を同時に含む。本実施形態の目的は、本発明が高濃度の核酸標的と低濃度の核酸標的が共に存在する場合に良好な線形ダイナミックレンジを実現できることを示すことである。
【0039】
表2には、5つの被験試料があり、各被験試料はEGFR野生型遺伝子とEGFR T790M突然変異遺伝子の両方を含み、突然変異遺伝子は0.2%〜3.2%の変異アレル頻度(VAF)を有する。本実施形態では、検出のために2種類の蛍光信号を同時に使用する。2種類の蛍光信号とは、それぞれ突然変異EGFR遺伝子を検出するのに使用されるFAM蛍光信号、及び野生型EGFR遺伝子を検出するのに使用されるCY5蛍光信号である。第1の測定において、デジタルPCRのFAM蛍光信号により測定された1ウェル当たりのコピー数は0.006であり、これに反応ウェル数2500が乗じられて突然変異EGFRの総コピー数15が求められる。定量的PCRのCY5蛍光信号により測定されたCq値は28.5である。このとき、単一コピー数のCq値は30.22であり、PCR効率は0.90であり、1ウェル当たりの変換されたコピー数は1.9の1.72(30.22−28.5)乗、すなわち3.01であり、これに反応ウェル数2500が乗じられて野生型EGFRの総コピー数7516が求められる。突然変異EGFRの総コピー数を野生型EGFRの総コピー数で割って、被験試料のVAFに非常に近い本発明の方法により測定されたVAF0.20%(15/7516)が求められる。この方法に従って、他の4つの測定のVAFも求めることができる。全部で5つの測定のVAF及び被験試料の希釈率のVAFは、この方法の実行可能性及び線形性がより低い濃度(0.2%〜3.2%)でのVAF区間において優位性を維持することを示す0.9996の線形回帰R2を有する。
【0040】
【表2】
【0041】
上記に基づいて、本発明は核酸試料の測定方法を提供する。本発明の測定方法は、高濃度核酸標的を含む核酸試料がデジタルPCRによって測定される場合に、試料を希釈せずに良好に試料濃度を検出することができる。核酸試料中の核酸標的が幅広い濃度範囲を有する場合(特に臨床試料の場合)、核酸試料を希釈する必要がなく、その結果、高濃度の核酸標的及び低濃度の核酸標的を同時に良好に測定することができる。また、低濃度の核酸標的が過希釈される感度の低下問題を回避することができ、その結果、検出のダイナミックレンジ及び操作上の利便性を効果的に改善することができる。より詳細には、高濃度の核酸標的はデジタルPCR検出によって検出され、Cq値は本発明の変換ステップによってコピー数に変換することができる。低濃度の核酸標的については、核酸試料中の核酸標的のコピー数は、定量的PCRによって直接測定することができる。
【0042】
さらに、核酸試料中の核酸標的が幅広い濃度範囲を有する場合(特に臨床試料の場合)、核酸試料を希釈する必要がなく、その結果、高濃度の核酸標的及び低濃度の核酸標的を同時に良好に測定することができ、低濃度の核酸標的が過希釈される感度の低下問題を回避することができる。
【0043】
上記の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、説明した実施形態に対する修正を本発明の趣旨から逸脱することなく行うことができることは当業者に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は上記の詳細な説明ではなく添付の請求項によって規定されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の測定方法は、同時に示された高濃度の核酸標的及び低濃度の核酸標的を同時に検出して、検出のダイナミックレンジを拡大することができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2021年2月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度と低濃度の核酸標的とを同時に含む核酸試料に対してデジタルPCR(dPCR)とリアルタイム定量的PCR(qPCR)とを同時に実行して前記核酸標的に対する核酸分子のコピー数を測定するデジタル定量的PCR(dqPCR)測定方法であって、
複数の反応ウェルを有する試験板を設け前記核酸試料を収納し、
全ての前記反応ウェルが前記核酸標的に対する陽性反応を示す場合には、前記リアルタイム定量的PCR(qPCR)に基づいて、
全ての前記反応ウェルが前記核酸標的に対する陽性反応を示すわけではない場合には、前記デジタルPCR(dPCR)に基づいて、前記核酸標的に対する前記コピー数を測定することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
記デジタルPCR(dPCR)によって前記低濃度の核酸標的のコピー数を直接定量化し、前記リアルタイム定量的PCR(qPCR)によって前記高濃度の核酸標的のCq値を検出した後、前記核酸試料中の前記高濃度の核酸標的のコピー数を求めるために変換ステップを実行すること、
を含む、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記リアルタイム定量的PCR(qPCR)反応曲線によってPCR効率を求め
前記PCR効率に1を足して基数とし、
前記低濃度の核酸標的のCq値から前記高濃度の核酸標的のCq値を引いてΔCqを求めて指数とし、
前記基数及び前記指数をべき乗演算に用いて各反応ウェルの核酸標的のコピー数を求め
各反応ウェルの前記核酸標的のコピー数に前記デジタルPCR(dPCR)における前記反応ウェルの数を乗じて、前記高濃度核酸標的の総コピー数を求めること、
を含む前記変換ステップを実行する、請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記デジタル定量的PCR(dqPCR)が64個以上の反応ウェルを使用して行われる、請求項2に記載の測定方法。
【請求項5】
前記デジタル定量的PCR(dqPCR)が64〜20000個の反応ウェルを使用して行われる、請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
前記変換ステップの後、ダイナミックレンジ9ログまで増大させる請求項2に記載の測定方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
全ての実験用反応ウェルが核酸標的に対する陽性反応を示すわけではない場合、この核酸標的の濃度はより低い。核酸試料中の核酸標的のコピー数は、例えば10000以下であり、コピー数の具体的な範囲は、例えば1〜10000である。本発明の核酸試料の測定方法を用いて、核酸試料中の核酸標的のコピー数はデジタルPCRによって直接測定することができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
上記に基づいて、本発明は核酸試料の測定方法を提供する。本発明の測定方法は、高濃度核酸標的を含む核酸試料がデジタルPCRによって測定される場合に、試料を希釈せずに良好に試料濃度を検出することができる。核酸試料中の核酸標的が幅広い濃度範囲を有する場合(特に臨床試料の場合)、核酸試料を希釈する必要がなく、その結果、高濃度の核酸標的及び低濃度の核酸標的を同時に良好に測定することができる。また、低濃度の核酸標的が過希釈される感度の低下問題を回避することができ、その結果、検出のダイナミックレンジ及び操作上の利便性を効果的に改善することができる。より詳細には、高濃度の核酸標的はリアルタイム定量的PCR検出によって検出され、Cq値は本発明の変換ステップによってコピー数に変換することができる。低濃度の核酸標的については、核酸試料中の核酸標的のコピー数は、デジタルPCRによって直接測定することができる。
【外国語明細書】
2021058171000001.pdf