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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-5954(P2021-5954A)
(43)【公開日】2021年1月14日
(54)【発明の名称】整流子、ロータ及びモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 13/00 20060101AFI20201211BHJP
【FI】
   H02K13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-118732(P2019-118732)
(22)【出願日】2019年6月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000113791
【氏名又は名称】マブチモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】木村 和揮
【テーマコード(参考)】
5H613
【Fターム(参考)】
5H613AA02
5H613AA06
5H613BB04
5H613GA05
5H613GB09
(57)【要約】
【課題】熱接合の際に溶けた樹脂により巻線が覆われる状況を回避して、巻線の断線を防ぐ。
【解決手段】整流子10は、段付き円筒状に形成された樹脂製の支持体11と、支持体11の小径部分における外周面に面接触する円弧状の曲板部12a及び曲板部12aの軸方向端部から径方向外側に延設された板状の端子12bを有する金属製の整流子片12と、支持体11の段差面11aに対し端子12bの根元部21を挟んで載置され、支持体11に対する整流子片12の位置を固定するワッシャー13と、を備える。端子12bは、支持体11の大径部分の外周面に沿う内壁部22と、内壁部22の径方向外側に位置する外壁部24と、内壁部22及び外壁部24の軸方向の各端部を繋ぐ谷折り部23とを有する軸方向の一方に開放した屈曲形状である。谷折り部23の幅は、内壁部22の幅よりも小さく、且つ、根元部21の幅よりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
段付き円筒状に形成された樹脂製の支持体と、
前記支持体の小径部分における外周面に面接触する円弧状の曲板部と、前記曲板部の軸方向端部から径方向外側に延設された板状の端子とを有する金属製の整流子片と、
前記支持体の段差面に対し前記端子の根元部を挟んで載置され、前記支持体に対する前記整流子片の位置を固定するワッシャーと、を備え、
前記端子は、前記支持体の大径部分の外周面に沿う内壁部と、前記内壁部の同一軸方向位置で径方向外側に位置する外壁部と、前記内壁部及び前記外壁部の軸方向の各端部を繋ぐ谷折り部とを有する軸方向の一方に開放した屈曲形状であり、
前記谷折り部の幅は、前記内壁部の幅よりも小さく、且つ、前記根元部の幅よりも大きい
ことを特徴とする、整流子。
【請求項2】
前記外壁部の幅は、前記谷折り部の幅よりも大きい
ことを特徴とする、請求項1記載の整流子。
【請求項3】
前記外壁部の先端には、前記端子が前記谷折り部で折り曲げられた状態で前記根元部と対面する凸部が設けられており、
前記凸部の幅は、前記根元部の幅と同等である
ことを特徴とする、請求項2記載の整流子。
【請求項4】
前記整流子片に接触配置され、前記支持体よりも熱膨張係数が小さい付属品を備え、
前記内壁部は、前記谷折り部とは逆側の端面が前記段差面よりも前記谷折り部側に位置する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の整流子。
【請求項5】
シャフトと一体回転するとともに、複数のティース部がスロットを挟んで周方向に並設されたコアと、
前記シャフトと一体回転する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の整流子と、
前記整流子の前記端子に接続されるとともに前記ティース部に巻回された巻線と、を備えた
ことを特徴とする、ロータ。
【請求項6】
前記巻線は、前記端子と対応する前記ティース部を除く他の前記ティース部に捨て巻きされたのち軸方向に沿って延設されて前記端子の前記谷折り部に係止される
ことを特徴とする、請求項5記載のロータ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のロータと、
ハウジングの内部において前記ロータと対向配置される永久磁石を有するステータと、
前記ロータが有する前記整流子の前記曲板部に接触可能なブラシと、を備えた
ことを特徴とする、モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ付きモータに備えられる整流子と、この整流子を有するロータと、このロータを備えたモータとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシ付きのモータとして、ハウジングの内周面に永久磁石が固定されてなるステータの内側に、コアに巻線が巻回されてなるロータが回転自在に配置された、所謂インナロータ型モータが一般的に知られている。ロータには、シャフトに対して相対回転しないように固定される絶縁性の支持体(ホルダー)と複数個の金属製の整流子片とからなる整流子(コミュテータ)が設けられる。整流子片は、ブラシが摺動接触する円弧状の部分(ブラシ接触部)と、巻線が係止される端子とを有する。
【0003】
巻線は、コアのティース部に巻回されてコイル部を形成するとともに、整流子片の端子に係止されて熱接合(ヒュージング)されることで整流子片と電気的に接続される。端子の形状としては、例えば特許文献1のように、ブラシ接触部の軸方向一端部から径方向外側に向かって直線的に突設されたものや、ブラシ接触部の軸方向一端部から径方向外側に向かって屈曲しながら突設されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−73471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、整流子の支持体は樹脂製であることが多い。このため、整流子片の端子と巻線とを熱接合する際の熱で支持体が溶け、溶けた樹脂が巻線を覆った状態で固まってしまうことがある。この状態では、巻線に過度なテンションが作用して断線を招くおそれがあるため、熱接合の際に樹脂が溶けてしまったとしても、その樹脂が巻線に接触しない構成とすることが望ましい。
【0006】
本件は、このような課題に鑑み案出されたもので、熱接合の際に溶けた樹脂により巻線が覆われる状況を回避して、巻線の断線を防ぐことを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する整流子は、段付き円筒状に形成された樹脂製の支持体と、前記支持体の小径部分における外周面に面接触する円弧状の曲板部と、前記曲板部の軸方向端部から径方向外側に延設された板状の端子とを有する金属製の整流子片と、前記支持体の段差面に対し前記端子の根元部を挟んで載置され、前記支持体に対する前記整流子片の位置を固定するワッシャーと、を備える。前記端子は、前記支持体の大径部分の外周面に沿う内壁部と、前記内壁部の同一軸方向位置で径方向外側に位置する外壁部と、前記内壁部及び前記外壁部の軸方向の各端部を繋ぐ谷折り部とを有する軸方向の一方に開放した屈曲形状であり、前記谷折り部の幅は、前記内壁部の幅よりも小さく、且つ、前記根元部の幅よりも大きい。すなわち、折り曲げ式の端子の幅(周方向寸法)が、「根元部の幅<谷折り部の幅<内壁部の幅」という関係になっている。
【0008】
(2)前記外壁部の幅は、前記谷折り部の幅よりも大きいことが好ましい。
(3)前記外壁部の先端には、前記端子が前記谷折り部で折り曲げられた状態で前記根元部と対面する凸部が設けられており、前記凸部の幅は、前記根元部の幅と同等であることが好ましい。
(4)前記整流子は、前記整流子片に接触配置され、前記支持体よりも熱膨張係数が小さい付属品を備えることが好ましい。この場合、前記内壁部は、前記谷折り部とは逆側の端面が前記段差面よりも前記谷折り部側に位置することが好ましい。
【0009】
(5)ここで開示するロータは、シャフトと一体回転するとともに、複数のティース部がスロットを挟んで周方向に並設されたコアと、前記シャフトと一体回転する上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の整流子と、前記整流子の前記端子に接続されるとともに前記ティース部に巻回された巻線と、を備えている。
(6)前記巻線は、前記端子と対応する前記ティース部を除く他の前記ティース部に捨て巻きされたのち軸方向に沿って延設されて前記端子の前記谷折り部に係止されることが好ましい。
【0010】
(7)ここで開示するモータは、上記(5)又は(6)に記載のロータと、ハウジングの内部において前記ロータと対向配置される永久磁石を有するステータと、前記ロータが有する前記整流子の前記曲板部に接触可能なブラシと、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
開示の整流子によれば、整流子片の端子と巻線との熱接合の際の熱で樹脂が溶けたとしても、その溶けた樹脂により巻線が覆われる状況を回避できるため、巻線の断線を防ぐことができる。
また、開示のロータ及びモータによれば、巻線が断線することを防止できるため、品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るモータの軸方向半断面図である。
図2図1に示すモータのロータが有するロータコアを軸方向から見た平面図である。
図3図1に示すモータのロータが有する整流子の平面図及び軸方向半断面図である。
図4図1に示すモータのロータにおける整流子と巻線との接続箇所の周辺を拡大して示す模式的な側面図である。
図5図3に示す整流子の整流子片を折り曲げる前の状態を示す平面図である。
図6図1に示すロータの結線方法を説明するための結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての整流子、ロータ及びモータについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
[1.全体構成]
図1は、本実施形態のモータ1の軸方向半断面図である。本実施形態のモータ1は、永久磁石界磁式のブラシ付き直流モータであり、ステータ2,ロータ3,エンドベル4を有する。ステータ2は、有底筒状に形成されたハウジング2Aと、ハウジング2Aの内周面に沿って固定された永久磁石2Bとを有する。永久磁石2Bは、ロータ3が組み立てられた状態で、ロータ3のコア30(以下「ロータコア30」という)と対向配置され、ロータコア30を囲むように軸方向に延設される。
【0015】
ハウジング2Aの底部中央には円形状の孔部2hが貫設される。この孔部2hには、ロータ3のシャフト5の一端側を回転自在に支持する軸受2Cが内嵌される。エンドベル4は、ハウジング2Aの開口部に固定される蓋部材であり、図示しないブラシやターミナルを有する。ブラシは、後述する整流子10のブラシ接触部12aに接触可能に配置される。また、エンドベル4は、シャフト5の他端側を回転自在に支持する軸受2Dが内嵌される凹部4aとシャフト5が挿通される孔部4hとを有する。
【0016】
ロータ3は、いずれもシャフト5と一体回転するロータコア30及び整流子10を有する。本実施形態では、3溝ロータを例示する。シャフト5はロータ3を支持する回転軸であり、モータ1の出力を外部に取り出す出力軸としても機能する。ロータコア30は、同一形状の複数の鋼板が積層された積層コアであり、その中心には、鋼板の積層方向に軸方向を一致させた状態でシャフト5が固定される。整流子10はシャフト5に圧入固定されるとともに、ロータコア30に対して取り付けられて周方向位置が規定される。
【0017】
図2に示すように、本実施形態のロータコア30は、軸方向視で三回回転対称性を持った外形を有する。具体的には、ロータコア30は、シャフト5が固定される貫通孔31hが形成された中央部31と、中央部31から径方向外側へ放射状に延設された三つのティース部32と、各ティース部32の外端部において周方向に互いに離隔して設けられた三つの円弧部33とから構成される。中央部31は、貫通孔31hを構成する内周面を径方向外側に向かって切り欠いて形成された三つのキー溝35を有する。各キー溝35には、整流子10の軸方向一端部に軸方向へ突設された足部11f(図3参照)が嵌合され、整流子10の位置決めがされる。
【0018】
周方向に隣接する二つのティース部32及び円弧部33と中央部31とで囲まれた空間(以下「スロット34」という)には、巻線40(図1参照)が配置される。スロット34は、図1に示すようにシャフト5の軸方向に延びた溝であり、図2に示すようにロータコア30の周方向において等間隔に三つ形成される。言い換えると、ロータコア30には、複数のティース部32がスロット34を挟んで周方向に並設されている。ロータコア30のティース部32には、そのティース部32の両側のスロット34を通して所定のターン数だけ巻線40が巻回される。
【0019】
巻線40は、電流が流れることで磁力を生じさせる絶縁電線であり、所定のテンションでΔ結線方式によりティース部32に巻回される。なお、巻線40が巻回されるロータコア30の部分には絶縁層(図示略)がコーティングされており、絶縁性が保たれている。以下、ティース部32に巻回された巻線40を「コイル部41」という。巻線40の詳しい結線方法については後述する。
【0020】
[2.要部構成]
図1に示すように、整流子10は、ロータコア30との間に軸方向に間隔をあけて配置される複数の金属製の整流子片12と、整流子片12が装着される樹脂製の支持体11と、ワッシャー13(図3参照)とを有する。本実施形態の3溝ロータ3の整流子10は、同一形状の三つの整流子片12を有する。支持体11は、シャフト5に固定されるとともにロータコア30に取り付けられ、シャフト5と一体回転する絶縁部品である。
【0021】
図3に示すように、本実施形態の支持体11は、軸方向中間部の外径寸法が軸方向両端部の外径寸法よりも大きな段付き円筒状に形成されており、軸方向に貫設された軸孔11hを有する。以下、支持体11のうち、外径寸法の小さい部分(軸方向両端部)を「小径部分」ともいい、外径寸法の大きい部分(軸方向中間部)を「大径部分」ともいう。上記の足部11fは、ロータコア30側に位置する小径部分の端面から軸方向に突設される。なお、整流子10の説明において、軸方向の足部11f側(ロータコア30側,図3中の下側)を「下方」とも表現し、これと逆側(エンドベル4側,図3中の上側)を「上方」とも表現する。
【0022】
各整流子片12は、ブラシが摺動接触するブラシ接触部12a(曲板部)と、巻線40が接続される端子12bとを有する。ブラシ接触部12aは、板厚一定の円筒を三分割した形状(すなわち円弧状)をなし、支持体11の上側の小径部分における外周面に面接触した状態で配置される。端子12bは、ブラシ接触部12aの軸方向端部から径方向外側に延設された板状の部位であり、支持体11の大径部分の上側の端面11a(以下「段差面11a」という)に載置される。なお、端子12bの形状については後述する。
【0023】
ワッシャー13は、支持体11に対する整流子片12の位置を固定するための円環状の部品である。ワッシャー13は、支持体11の外周面に接触配置された三つのブラシ接触部12aの外周面に嵌め込まれ、支持体11の段差面11aに対し端子12bの根元部21を挟んで載置される。
【0024】
本実施形態の整流子10では、モータ1のノイズを低減するための付属品として、ゴムリング抵抗14(図3参照)及びリングバリスタ15(図4参照)が設けられる。ゴムリング抵抗14は、導電性ゴムを環状薄板に加工した抵抗器である。ゴムリング抵抗14及びリングバリスタ15はいずれも、整流子片12に対して接触配置される環状の部品である。図3に示すように、ゴムリング抵抗14は、支持体11の段差面11aと端子12bの根元部21との間に挟持されて圧縮状態とされる。一方、リングバリスタ15は、図4に示すように、ワッシャー13の外周側に嵌合される。ゴムリング抵抗14及びリングバリスタ15はいずれも、樹脂製の支持体11よりも熱膨張係数が小さい材質で形成される。
【0025】
図3に示すように、端子12bは、支持体11の大径部分の周辺において屈曲形成されており、図3下側の断面図で示すように上方(軸方向の一方)に開放した屈曲形状(例えばU字状)となっている。端子12bは、支持体11の大径部分の外周面に沿う内壁部22と、内壁部22の径方向外側に位置する外壁部24と、内壁部22及び外壁部24の軸方向の各端部(下端部)を繋ぐ谷折り部23とを有する。なお、上記の根元部21は、内壁部22の上端部とブラシ接触部12aの下端部とを繋ぐ部位である。また、本実施形態の端子12bでは、外壁部24の先端に略矩形状の凸部25が設けられる。凸部25は、端子12bが谷折り部23で折り曲げられた状態で根元部21と対面する部位である。なお、ここでは、整流子片12のブラシ接触部12a側を上方としたときに、上方に凸となるように曲げることを「山折り」と表現し、下方に凸となるように曲げることを「谷折り」と表現している。
【0026】
図4に示すように、谷折り部23は、巻線40が係止される部位であるとともに端子12bが折り曲げられるときの谷折り線Lv(図5参照)を有する部位である。言い換えると、端子12bは、谷折り部23に巻線40が係止された状態で谷折り部23において谷折りされる。巻線40と端子12bとは、熱接合手段(例えば熱圧着やスポット溶接)により電気的に接続される。さらに本実施形態の整流子10では、リングバリスタ15と、巻線40と熱接合された端子12bとが、熱接合手段(例えば半田)により接合される。なお、図4中のドット模様で示す部分は半田を示す。
【0027】
このように、端子12bは、巻線40と熱接合され、熱伝導性が高いことから、端子12bの直近傍に位置する支持体11にも接合時の熱が伝わり、支持体11が部分的に溶け、溶けた樹脂が巻線40を覆った状態で固まってしまうことがある。この場合、巻線40の一部が樹脂により支持体11に拘束された状態となるため、巻線40に過度なテンションが作用し、断線を招くおそれがある。
【0028】
モータ1が温度変化の大きな環境下で使用された場合、支持体11は熱膨張係数が比較的大きいため膨張と収縮とを繰り返すが、端子12b及びリングバリスタ15は熱膨張係数が支持体11よりも小さいことから、支持体11ほど体積変化しない。このように、支持体11と端子12b及びリングバリスタ15とでは、温度変化に伴う体積変化(膨張と収縮)に差があることから、端子12bと支持体11との間の相対位置が変化する。このため、樹脂で拘束された巻線40に異常なテンションを生じ、特に樹脂と巻線40との境界部分に応力集中が生じて、上記のとおり断線を招くおそれがある。
【0029】
さらに、本実施形態の整流子10では、支持体11及び端子12bの体積変化の差に起因してゴムリング抵抗14を挟持(圧縮)する力が弱まり、ゴムリング抵抗14が元の形状に復元して、端子12bを上方に押し上げてしまう。このように、ゴムリング抵抗14によっても、樹脂で拘束された巻線40(特に樹脂と巻線40との境界部分)に応力が集中し、断線を招くおそれもある。
【0030】
これらの課題に対し、本実施形態の整流子10には上記の端子12bが設けられる。ここで、整流子片12を折り曲げる前の状態を図5に示す。なお、端子12bは、図中一点鎖線で示す山折り線Lmで山折りされるとともに、図中破線で示す谷折り線Lvで谷折りされて、図3に示す形状となる。山折り線Lmは根元部21に位置し、谷折り線Lvは谷折り部23に位置する。
【0031】
図5に示すように、本実施形態の端子12bは左右対称形状となっており、根元部21及び凸部25が略矩形状であり、内壁部22と谷折り部23と外壁部24とが、根元部21及び凸部25よりも幅広に形成されている。これら三つの部位22,23,24では、中央に位置する谷折り部23が、両側の内壁部22及び外壁部24よりも曲線的に凹んで形成されている。
【0032】
すなわち、谷折り部23における最も凹んだ位置(谷折り線Lv上)での幅W3は、内壁部22の幅W2よりも小さく、且つ、根元部21の幅W1よりも大きい(W1<W3<W2)。これにより、谷折り部23に係止された巻線40と支持体11との間には内壁部22が存在するため、熱接合時に溶けた樹脂が内壁部22によってブロックされ、溶けた樹脂と巻線40との接触が阻止される。また、谷折り部23に係止された巻線40が根元部21から離隔して位置することから、これによっても溶けた樹脂と巻線40との接触が回避される。
【0033】
また、本実施形態の整流子10では、外壁部24の幅W4が谷折り部23の幅W3よりも大きい(W3<W4)。これにより、溶けた樹脂が外壁部24によってもブロックされ、谷折り部23に係止された巻線40と溶けた樹脂との接触が阻止される。
【0034】
さらに、本実施形態の整流子10では、根元部21の幅W1と凸部25の幅W5とが同等である(W1≒W5)。これにより、端子12bが谷折り部23の谷折り線Lvで折り曲げられたときに、根元部21と凸部25とが余剰なく重なるため、凸部25が支持体11に接することで支持体11の樹脂溶けを促進してしまうことがない。なお、本実施形態の整流子10では、内壁部22の幅W2と外壁部24の幅W4も互いに略同一になっている(W2≒W4)。
【0035】
また、図3図5に示すように、本実施形態の整流子10では、内壁面22の上端面22e(谷折り部23とは逆側の端面)が、支持体11の段差面11aよりも下方(谷折り部23側)に位置する。言い換えると、上端面22eが、根元部21における段差面11aに載置される部位よりも下方に離隔している。このため、上端面22eの上方であって根元部21の両側には空間S(図5参照)が存在する。この空間Sには、熱接合により溶けた樹脂の固まりが位置する。これにより、上端面22eは樹脂の固まりに当接することとなり、上述した端子12bの持ち上がりが抑制され、整流子片12全体としても移動が抑制される。
【0036】
図5に示すように、本実施形態の端子12bでは、上端面22eと根元部21の各端面とのなす角は略直角となっているが、この角度は90度に限られず、90度未満であってもよい。すなわち、空間Sを小さくする方向に上端面22eが傾斜していてもよい。また、本実施形態の上端面22eは略平面状であるが、曲面状に形成されていてもよい。少なくとも、樹脂の固まりに当接して端子12bの位置を規制しうる形状であればよい。
【0037】
[3.巻線の構成]
本実施形態に係る巻線40の結線図を図6に示す。この結線図では、巻線40が各ティース部32に対し、径方向外側から見て左回りに巻回される場合を例示する。
詳細は後述するが、巻線40は、その一端が一つ目の端子12bに係止されてから一つ目のティース部32に巻回されてコイル部41を形成する。次いで、巻線40は二つ目の端子12bに係止されるとともに別のティース部32に巻回されて二つ目のコイル部41を形成する。そして、残りの端子12bに係止されるとともに残りのティース部32に巻回されて三つ目のコイル部41を形成し、巻線40の他端が最初の端子12bに係止されることで結線が完成する。
【0038】
以下、三つの端子12bのうち、最初に巻線40が係止される端子12bを「1極目」とし、次に巻線40が係止される端子12bを「2極目」とし、最後に巻線40が係止される端子12bを「3極目」とする。また、三つのティース部32のうち、一つ目のコイル部41が形成されるティース部32を「1極目」とし、次にコイル部41が形成されるティース部32を「2極目」とし、最後にコイル部41が形成されるティース部32を「3極目」とする。以下の説明では、端子12bとティース部32との極数が同一のもの(例えば1極目の端子12b及び1極目のティース部32)を「対応する」と表現する。
【0039】
本実施形態の巻線40は、より具体的には、端子12bと対応するティース部32を除く他のティース部32に捨て巻きされたのち軸方向に延設されて端子12bの谷折り部23に係止される。以下、他のティース部32に捨て巻きされた巻線40の部分を「捨て巻線43」という。また、端子12bに係止されたのち対応するティース部32に巻回されるまでの巻線40の部分を「巻き始め線42」といい、ティース部32に巻回された巻線40が次の端子12bに向かう巻線40の部分を「巻き終わり線44」という。
【0040】
例えば、1極目のティース部32に巻回された巻線40は、1極目のティース部32の時計回り側(図中左側)に隣接する2極目の端子12bに係止されるが、図中二点鎖線で示すように直接的には係止されず、2極目のティース部32に一巻きされることで捨て巻線43となる。そして、2極目の端子12bの下方から、この端子12bに係止される。つまり、1極目のコイル部41の巻き終わり線44は、軸方向に沿って延設される。また、本実施形態のロータ3では、3極目のコイル部41の巻き終わり線44が1極目の端子12bに対し時計回り側(図中左側)から係止される。なお、2極目のコイル部41の巻き始め線42(2極目の端子12bに係止されたのちの巻線40)は、2極目のティース部32に直接的に巻回される。
【0041】
[4.効果]
(1)上述した整流子10では、屈曲形状である端子12bの幅が「W1<W3<W2」の関係になっている。これにより、巻線40を端子12bの谷折り部23に係止したときに、巻線40と支持体11との間に内壁部22が位置するため、熱接合時に溶けた樹脂が巻線40に接触しないよう内壁部22によりブロックすることができる。また、谷折り部23に係止した巻線40が根元部21から離れて位置することになるため、これによっても溶けた樹脂と巻線40との接触を回避できる。したがって、溶けて固まった樹脂により巻線40が覆われる状況を回避できるため、巻線40の断線を防止できる。
【0042】
(2)上述した整流子10では、端子12bの幅が「W3<W4」の関係にもなっている。これにより、溶けた樹脂が、径方向外側や谷折り部23側(下方)から巻線40に接触することも防止できる。このため、溶けて固まった樹脂により巻線40が覆われる状況をより回避でき、断線防止効果を高めることができる。
【0043】
(3)さらに、上述した整流子10では、端子12bの幅が「W1≒W5」の関係にもなっているため、端子12bを折り曲げたときに根元部21と凸部25とが余剰なく重なる。例えば、巻線40と端子12bとをスポット溶接により接合する場合には、凸部25に電極が押し当てられるが、凸部25と根元部21とが余剰なく重なっていれば、凸部25が支持体11に接することがないため、支持体11が接合時の熱で溶けやすくなることがない。つまり、樹脂の溶け量を抑えることができるため、溶けて固まった樹脂により巻線40が覆われる状況を回避しやすくなる。
【0044】
(4)上述した整流子10では、端子12bの内壁部22の上端面22eが、支持体11の段差面11aよりも下方に位置することから、溶けて固まった樹脂に上端面22eを当接させることができる。これにより、支持体11と端子12b及び付属品14,15との熱膨張係数の違いから、整流子片12が軸方向に変位(上昇)しようとしても、その変位を抑制することができる。本実施形態の整流子10に設けられるゴムリング抵抗14は、整流子片12と隙間なく面接触しているほどノイズ低減能力が高いため、上端面22eにより整流子片12の変位が抑制されることで、モータ1のノイズ低減も図ることができる。
【0045】
(5)上述した整流子10を備えたロータ3であれば、巻線40の断線のおそれがないことから、品質を高めることができる。
(6)さらに、巻線40が、他のティース部32に捨て巻きされたのち端子12bに係止されるロータ3の場合、端子12bに係止される直前の巻線40(巻き終わり線44)が軸方向に沿って延設されるため、溶けた樹脂により巻線40が覆われることをより一層回避できる。このため、より品質の高いロータ3を提供できる。
(7)また、このようなロータ3を備えていれば、品質の高いモータ1を提供できる。
【0046】
[5.その他]
上述した実施形態にかかる整流子10は一例であって、上述した構成に限られない。例えば、ゴムリング抵抗14及びリングバリスタ15の一方又は両方を省略してもよい。また、端子12bに凸部25を設ける場合に、凸部25の幅W5と根元部21の幅W1とが同等でなくてもよい。なお、端子12bから凸部25を省略してもよい。この場合、外壁部24と根元部21とを重ねて熱接合すればよい。
【0047】
また、内壁部22の幅W2と外壁部24の幅W4とは同等でなくてもよいし、谷折り部23の幅W3と外壁部24と幅W4とが同等であってもよい。少なくとも、谷折り部23の幅W3が、内壁部22の幅W2よりも小さく、且つ、根元部21の幅W1よりも大きく設定されていれば、溶けた樹脂が巻線40に接触しないよう、内壁部22によりブロックすることができるとともに、谷折り部23に係止された巻線40を根元部21から離すことができる。なお、上記の端子12bでは、谷折り部23が両側の内壁部22及び外壁部24よりも曲線的に凹んでいるが、谷折り部が矩形状に凹んでいてもよい。
【0048】
上述したロータ3は一例であって、上述した構成に限られない。上記のロータ3では、巻線40がティース部32に巻回されたのち、次の端子12bに対応する(同じ極数の)ティース部32に捨て巻きされてからその端子12bに係止されているが、捨て巻きされるティース部32は次の極数のティース部32でなくてもよい。なお、巻き終わり線44を軸方向に沿って延設させて端子12bに係止することが好ましいが、捨て巻線43を省略し、斜め方向に延設させてもよい。
【0049】
また、図6に示すロータ3では、軸方向視で時計回りに1極目,2極目,3極目が並んでいるが、これらが反時計回りに並んでいてもよい。また、端子12bと同じ極のティース部32(対応するティース部32)が、端子12bの時計回り側に隣接するものでなくてもよい。また、ティース部32に対する巻線40の巻回方向は、径方向外側から見て時計回りであってもよい。なお、モータ1の構成,形状も一例であって、上述したものに限られない。
【符号の説明】
【0050】
1 モータ
2 ステータ
2A ハウジング
2B 永久磁石
3 ロータ
5 シャフト
10 整流子
11 支持体
11a 段差面
12 整流子片
12a ブラシ接触部(曲板部)
12b 端子
13 ワッシャー
14 ゴムリング抵抗(付属品)
15 リングバリスタ(付属品)
21 根元部
22 内壁部
22e 上端面(端面)
23 谷折り部
24 外壁部
25 凸部
30 ロータコア(コア)
32 ティース部
34 スロット
40 巻線
W1 根元部の幅
W2 内壁部の幅
W3 谷折り部の幅
W4 外壁部の幅
W5 凸部の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6