【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0031】
〈分子量及び分子量分布〉
本発明の超高分子量ポリエチレン樹脂の分子量及び分子量分布は、溶融動的粘弾性測定を行うことにより得られた。動的粘弾性測定装置(TA Instruments株式会社によって製造されたDHR)を用いて、添加された1.0wt%のIrganox 1010(酸化防止剤)を含む超高分子量ポリエチレン樹脂を、160℃の測定温度及び0.1%の歪みの下で、貯蔵弾性率及び損失弾性率の周波数依存性の測定に供した。モル質量及びモル質量分布は、TA Instruments株式会社によって製造されたOrchestratorソフトウェアV7.2.0.4を用いることによって決定した。
【0032】
〈かさ密度〉
本発明におけるかさ密度は、ASTM D1895/Bに従って測定された。
【0033】
〈溶融動的粘弾性測定において、貯蔵弾性率が平衡状態に達するのに必要な時間〉
溶融動的粘弾性測定において、本発明の超高分子量ポリエチレン樹脂の貯蔵弾性率が平衡状態に達するまでの時間は、溶融動的粘弾性を測定することにより得られた。動的粘弾性測定装置(TA Instruments株式会社によって製造されたDHR)を用いて、添加された1.0wt%のIrganox 1010(酸化防止剤)を含む超高分子量ポリエチレン樹脂を、160℃の測定温度、10rad/sの周波数、及び0.3%の歪みの条件下で、貯蔵弾性率における変化の測定に供した。測定開始から貯蔵弾性率が最大貯蔵弾性率の98%に達するまでの時間を、貯蔵弾性率が平衡状態に達するのに必要な時間と見なした。
【0034】
〈溶融動的粘弾性試験において、正規化された貯蔵弾性率(G’/G
0N)〉
溶融動的粘弾性試験において、本発明の超高分子量ポリエチレン樹脂の正規化された貯蔵弾性率(G’/G
0N)は、溶融動的粘弾性を測定することにより得られた。動的粘弾性測定装置(TA Instruments株式会社によって製造されたDHR)を用いて、添加された1.0wt%のIrganox 1010(酸化防止剤)を含む超高分子量ポリエチレン樹脂を、160℃の測定温度、10rad/sの周波数、及び0.3%の歪みの条件下で、時間の経過に伴う貯蔵弾性率の変化の測定に供した。平衡状態での貯蔵弾性率(G’)を、t=0(ポリマーが初めて溶融物に達した時として)での貯蔵弾性率(G
0N)で割った値を、測定値とした。
【0035】
〈圧縮成形法〉
本発明の超高分子量ポリエチレン成形体は、圧縮成形により作製した。本発明の超高分子量ポリエチレン樹脂をキャビティ面積63.5×12.7mm又は40×40mmの金型に均一になるように充填し、60分間にわたって、180℃の最高温度及び40MPaの最大圧力下で圧縮し、成形体を作製した。
【0036】
〈アイゾット衝撃試験〉
本発明についてのアイゾット衝撃試験は、ASTM D256/Aに従って、180℃及び40MPaで圧縮成形によって作製された試料を用いて、衝撃強度を測定することによって行われた。また、測定後の試料の破壊のタイプは、ASTM D256/Aに従って以下のように分類された:
【0037】
完全破壊(Complete Break):試料が二つ以上の破片に分かれる破壊。
ヒンジ破壊(Hinge Break):試料の一部以外の他の部分が垂直に保持されている場合に、試料の一部がそれ自体を水平より上に支えることができない(内角90℃未満)、不完全破壊。
部分破壊(Partial Break):ヒンジ破壊の定義を満たしていないが、ノッチの頂点とその反対側との間の距離の少なくとも90%が破損している、不完全破壊。
未破壊(Non−Break):ノッチの頂点とその反対側との間の距離の90%未満が破損している、不完全破壊。
【0038】
〈粒界の観察〉
本発明において、「粒界をもたない」とは、微分干渉顕微鏡(OPTIPHOT−2)を用いて、測定倍率20倍の透過モードの条件下で、厚さ30μmの成形体のスライスを測定して得られた画像を、画像処理ソフト(Nano Hunter NS2K−Pro version3.00)を用いて、判別分析法によりバイナリ画像に加工したときに、得られたバイナリ画像の暗い領域が5%以下であることを意味する。
【0039】
〈強制酸化試験〉
本発明についての強制酸化試験は、180℃及び40MPaで作製した試料を用いて、ASTM F2003−02に従って行われた。さらに、試験後の試料をASTM D256/Aに従ってアイゾット衝撃試験に供し、衝撃強度を測定した。
【0040】
〈実施例1〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの10Lのオートクレーブに、脱水トルエン9.0Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液67mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド90mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液23mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が2.0バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、50℃で5分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1に示されているように、実施例1で得られた超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、十分な衝撃強度を有し、かつ粒界をもたないことが確認された。また、表1に示されているように、実施例1で得られた超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、強制酸化試験を行った後にも十分な衝撃強度を有することが確認された。
【0041】
〈実施例2〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの1.0Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液7.5mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。
【0042】
続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド10mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液2.5mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が4.0バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、50℃で10分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1に示されているように、実施例2で得られた超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、十分な衝撃強度を有することが確認された。
【0043】
〈実施例3〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの10Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液4.8mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。
【0044】
続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド6mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液1.2mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が4.0バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、50℃で10分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1に示されているように、実施例3で得られた超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、十分な衝撃強度を有することが確認された。
【0045】
〈実施例4〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの1.5Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液4.8mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。
【0046】
続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド6mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液1.2mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が2.0バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、50℃で5分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1に示されているように、実施例4で得られた超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、十分な衝撃強度を有することが確認された。
【0047】
〈比較例1〉
セラニーズ社製の超高分子量ポリエチレン樹脂GUR1050の物性を表1に示す。表1から、比較例1の超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、ヒンジ破壊を示し、十分な衝撃強度を有しておらず、また粒界を有していることが確認された。また、表1に示されているように、比較例1で得られた超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、強制酸化試験を行った後に衝撃強度が著しく低下したことが確認された。
【0048】
〈比較例2〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの1.0Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液4.8mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド6mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液1.2mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が1.2バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、10℃で60分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1から、比較例2の超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、ヒンジ破壊を示し、十分な衝撃強度を有していないことが確認された。比較例2の超高分子量ポリエチレン樹脂の溶融動的粘弾性測定において、貯蔵弾性率(G’)の値が150,000秒以内に平衡状態に達せず、G’/G
0Nが得られなかった。
【0049】
〈比較例3〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの1.0Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液4.8mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド6mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液1.2mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が1.2バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、10℃で10分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1から、比較例3の超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、ヒンジ破壊を示し、十分な衝撃強度を有していないことが確認された。
【0050】
〈比較例4〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの1.0Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液4.8mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド6mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液1.2mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が2.0バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、10℃で10分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1から、比較例4の超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、ヒンジ破壊を示し、十分な衝撃強度を有していないことが確認された。
【0051】
〈比較例5〉
真空下で加熱乾燥した、攪拌機付きの1.0Lのオートクレーブに、脱水トルエン0.6Lを加え、50℃に加熱した後に、10%メチルアミノキサンのトルエン溶液4.8mLを加え、液相及び気相をエチレンで飽和させた。続いて、ビス[(3−tert−ブチル−サリチリデン)ペンタフルオロアルジミナト]チタン(IV)ジクロライド6mg及び10%メチルアミノキサンのトルエン溶液1.2mlを予め混合して調製した溶液を加え、重合を開始した。圧力が4.0バールに保つようにエチレンを連続的に供給し、30℃で10分間重合を行った後、少量のエタノールを加えて重合を停止させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂をエタノール及びアセトンで洗浄した後、乾燥させた。得られた超高分子量ポリエチレン樹脂及びその成形体の物性を表1に示す。表1から、比較例5の超高分子量ポリエチレン樹脂の成形体は、ヒンジ破壊を示し、十分な衝撃強度を有していないことが確認された。
【表1】