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特開2021-60704移動体検知システムおよび移動体検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-60704(P2021-60704A)
(43)【公開日】2021年4月15日
(54)【発明の名称】移動体検知システムおよび移動体検知方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/01 20060101AFI20210319BHJP
【FI】
   G08G1/01 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-183461(P2019-183461)
(22)【出願日】2019年10月4日
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391029347
【氏名又は名称】西尾レントオール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤穂 健斗
(72)【発明者】
【氏名】横井 修司
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB09
5H181CC12
5H181CC14
5H181DD04
5H181FF12
(57)【要約】
【課題】レーダを備える可搬式の移動体検知システムにおいて当該レーダによる移動体の検知位置を容易に設定することができる技術を提供する。
【解決手段】照射範囲内に道路を含むように設けられ、当該道路上の移動体を検出するレーダ1と、道路の所定の交通状況を解析するコントローラ2と、を備え、コントローラ2は、レーダ1が検出した移動体の位置情報に基づいて当該移動体の移動軌跡を生成し、生成した移動軌跡に基づいて、交通状況を解析する際の基準となる移動体の検知位置を設定し、検知位置で検知された移動体に関する情報に基づいて、交通状況を解析する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬式の移動体検知システムであって、
照射範囲内に道路を含むように設けられ、当該道路上の移動体を検出するレーダと、
前記道路の所定の交通状況を解析するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記レーダが検出した前記移動体の位置情報に基づいて当該移動体の移動軌跡を生成し、
生成した前記移動軌跡に基づいて、前記交通状況を解析する際の基準となる前記移動体の検知位置を設定し、
前記検知位置で検知された前記移動体に関する情報に基づいて、前記交通状況を解析する、
移動体検知システム。
【請求項2】
長さの異なる複数の前記移動軌跡が生成された場合に、
前記検知位置は、前記レーダの照射方向又は前記移動軌跡に直交し、且つ、最も多くの前記移動軌跡と交差する直線上に設定される、
請求項1に記載の移動体検知システム。
【請求項3】
前記レーダの水平方向における照射方向を変更する照射方向変更手段をさらに備え、
前記コントローラは、
前記照射方向が前記移動軌跡と平行になるように前記照射方向変更手段を制御する、
請求項2に記載の移動体検知システム。
【請求項4】
前記所定の交通状況は、前記道路が渋滞しているか否かに関する状況であって、
前記コントローラは、
前記検知位置で検知された前記移動体の速度に基づいて、前記道路が渋滞しているか否かを解析する、
請求項1から3のいずれか一つに記載の移動体検知システム。
【請求項5】
照射範囲内に道路を含むように設けられ、当該道路上の移動体を検出するレーダを用いた移動体検知方法であって、
前記レーダが検出した前記移動体の位置情報を取得し、
取得した前記位置情報に基づいて当該移動体の移動軌跡を生成し、
生成した前記移動軌跡に基づいて、前記交通状況を解析する際の基準となる前記移動体の検知位置を設定し、
前記検知位置で検知された前記移動体に関する情報に基づいて、前記交通状況を解析する、
移動体検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬式の移動体検知システム、および移動体検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対距離及び速度を検知するマイクロ波を利用したレーダを備えた移動体検知システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなシステムは、例えば、高速道路脇に設置される渋滞検知システムとして、高速道路を走行する車両の移動速度を検知し、検知した車両の移動速度が一定速度を下回った場合に、道路を通行する車両の運転手等に対して渋滞の発生を報知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−182256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されたようなシステムは、一般的には常設のシステムである。そして、当該システムを高速道路脇等に設置する際には、移動体の速度等を好適に検知できる設置場所(例えば長い直線道)を選ぶとともに、設置場所においては、当該システムが備えるレーダの照射方向や、移動体を検知する際の基準となる検知位置等を適切に設定するための相応の時間が必要となる。
【0005】
一方で、任意の場所の交通状況を限られた期間だけ解析したいという要望に対して、上記システムのような常設ではなく、可搬式(仮設式)の移動体検知システムを提供することが検討されている。しかしながら、このような要望に応える際には、交通状況を解析したい道路がレーダの特性に対して必ずしも移動体を検知しやすい場所であるとは限らない。また、可搬式であることから、レーダの照射方向や検知位置を設定するための時間を出来る限り短くしたいという事情もある。すなわち、特に可搬式の移動体検知システムでは、その設置場所において、レーダによる移動体の検知位置を出来るだけ早く、容易に設定したいという課題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされた発明であり、レーダを備える可搬式の移動体検知システムにおいて当該レーダによる移動体の検知位置を容易に設定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による移動体検知システムは、可搬式の移動体検知システムであって、照射範囲内に道路を含むように設けられ、当該道路上の移動体を検出するレーダと、道路の所定の交通状況を解析するコントローラと、を備える。コントローラは、レーダが検出した移動体の位置情報に基づいて当該移動体の移動軌跡を生成し、生成した移動軌跡に基づいて、交通状況を解析する際の基準となる移動体の検知位置を設定し、検知位置で検知された移動体に関する情報に基づいて、交通状況を解析する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移動体の移動軌跡に基づいて、交通状況を解析する際の基準となる適切な検知位置をコントローラが自動的に設定するので、ユーザの手動による厳密な調整作業を要さずにレーダによる移動体の検知位置を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る可搬式移動体検知システムの構成例を示すブロック図である。
図2図2は、コントローラが生成する移動軌跡を説明する図である。
図3図3は、検知位置の設定方法を説明する図である。
図4図4は、第1実施形態の検知位置設定処理のフローを示すフローチャートである。
図5図5は、観測対象の道路がカーブを含む場合に算出される検知位置範囲を説明する図である。
図6図6は、観測対象の道路がカーブを含む場合に算出される検知位置範囲の他の例を説明する図である。
図7図7は、検知位置を設定する際に、観測対象の道路の車線数が設定された例を説明する図である。
図8図8は、第2実施形態の移動体検知システムの構成例を示すブロック図である。
図9図9は、第2実施形態の検知位置設定処理のフローを示すフローチャートである。
図10図10は、レーダの照射方向を変更する前のレーダの照射方向と移動軌跡との位置関係を説明する図である。
図11図11は、レーダの照射方向を変更した後のレーダの照射方向と移動軌跡との位置関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る可搬式移動体検知システム10の構成例を示すブロック図である。
【0011】
本実施形態に係る可搬式移動体検知システム10(以下、単に移動体検知システム10)は、レーダ1と、コントローラ2と、バッテリ3とを備える。移動体検知システム10は、後述するレーダ1の照射範囲(移動体検出可能範囲)内に一般道路や高速道路等の車両が走行する道路を含むように当該道路脇等に設置(仮設)される可搬式の車両検知システムとして構成される。
【0012】
レーダ1は、ドップラレーダ、またはドップラセンサにより構成される。レーダ1は、いわゆるドップラ効果による周波数の変位を観測することによって、観測対象である移動体の有無、相対速度、および変位(相対距離)を検出することができるレーダである。本実施形態のレーダ1は、マイクロ波(周波数3G〜30GHz、波長1〜10cmの範囲内の電波)、または、ミリ波(周波数30G〜300GHz、波長1〜10mmの範囲内の電波)を出力(照射)し、出力したマイクロ波又はミリ波に由来する反射波を受信することによって、照射範囲内における車両の存在の有無、車両との相対速度、および相対距離を検出するように構成される。なお、ここでの照射範囲とは、レーダ1が出力するマイクロ波又はミリ波が到達可能な範囲と定義され得る。
【0013】
なお、レーダ1は、少なくとも一般的な車両の車高よりも高く設置されるのが好ましい。ここで、従来の常設タイプの移動体検知システムが有するレーダは6mほどの高さに設置されるのが一般的である。これに対して、可搬式(仮設式)である本実施形態のシステムでは、強風等の影響を考慮した安全性の観点から、レーダ1を常設のシステムほどの高さに設置することは難しく、例えば2〜3m程度の高さに設置され得る。
【0014】
コントローラ2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)等から構成されたコントローラである。コントローラ2は、レーダ1が検出した車両情報(車両の存在の有無、車両との相対速度、および相対距離)に基づいて、渋滞や速度超過等に関する所定の交通状況を解析して、解析した所定の交通状況に関する情報をドライバ等に報知するように構成される。コントローラ2は、このような所定の交通状況を適切に解析するための機能部として、軌跡生成部20と、検知位置設定部21と、解析部22と、報知制御部23と、を有する。これら各機能部の詳細については後述する。
【0015】
バッテリ3は、レーダ1およびコントローラ2の電源として構成される。バッテリ3は、可搬性を向上させる観点から、充放電可能な二次電池であることが好ましい。本実施形態のバッテリ3は、ソーラーパネルを利用して充電可能ないわゆるソーラー充電タイプの蓄電池が採用される。
【0016】
軌跡生成部20は、レーダ1が検出した車両の位置情報に基づいて、レーダ1の照射範囲内(検出範囲内)を移動する車両の移動軌跡を生成する。軌跡生成部20が生成する移動軌跡の詳細について、図2を参照して説明する。
【0017】
図2は、コントローラ2が生成する移動軌跡を説明する図である。図示する移動軌跡20a〜20eは、レーダ1が検出範囲内の移動体を所定時間(例えば10分)観測した場合に生成される車両の移動軌跡の一例である。具体的には、先ず、レーダ1は、照射範囲内を走行する車両を所定のサンプリング周波数で検出する。コントローラ2は、レーダ1が検出した車両の位置を、例えばXY座標に変換された位置情報として取得するとともに、当該位置情報に対応する座標をサンプリング毎にXY座標平面上にプロットする。そして、コントローラ2は、サンプリング毎にプロットされた座標を結ぶ線を、車両の移動軌跡として生成する。すなわち、図示する移動軌跡20a〜20eは、レーダ1が検出した位置情報から変換される車両の走行経路が2次元平面上に単純な線で表されることによって生成された移動軌跡の一例である。
【0018】
換言すると、移動軌跡20aから20eは、レーダ1の照射範囲内において、当該照射範囲内に進入した車両が当該照射範囲外へ移動するまでの間にレーダ1が検出することができた車両の移動軌跡を示している。例えば、図2で示す移動軌跡20a〜20eが、図の上方から下方へ移動する車両、すなわち、レーダ1が道路の下流側に設置されている場合に検出された車両の移動軌跡を示す場合には、移動軌跡20a〜20eの上端(上流端)が、照射範囲内に進入した車両を最初に検出した位置に相当し、移動軌跡20a〜20eの下端(下流端)が、照射範囲内から照射範囲外へ進む車両を最後に検出した位置に相当し、これら上端と下端との間が、照射範囲内における車両の走行経路に相当する。
【0019】
なお、図示する移動軌跡20a〜20eは、レーダ1の照射範囲内に5車線の直線道路が含まれるように移動体検知システム10を設置した場合に生成される移動軌跡の一例を単純化して表現したものである。したがって、実際には、図示するような略平行な複数の直線状に生成されるとは限らず、車両の実際の走行経路に応じて、蛇行した波線で表されたり、車線変更した際の経路に応じた曲線で表されたりする場合もある。また、図示する移動軌跡20a〜20eは、車線数に合わせた5本の移動軌跡として表現されているが、実際には、同じ車線を通る車両であっても各車両の移動軌跡は必ずしも一致しないため、車線数よりも多い移動軌跡が生成され得る。すなわち、図示する移動軌跡20a〜20eは、説明のために便宜上単純化した表現であって、実際の移動軌跡がこのような単純化された線として取得されることを必ずしも示すものではない。
【0020】
検知位置設定部21は、軌跡生成部20が生成した移動軌跡に基づいて、所定の交通状況を解析する際の基準となる検知位置を設定する。例えば、レーダ1の照射範囲に含まれる道路(例えば5車線)の交通量を観測したい場合には、5車線の道路を横断するような所定のラインを設定し、設定したラインを通過する車両の数をカウントする。このように、所定の交通状況を適切に解析するために、検知位置設定部21は、車両情報を検知する際の基準となる位置(検知ライン)を検知位置として設定する。検知位置の具体的な設定方法について、図3を参照して説明する。
【0021】
図3は、検知位置設定部21による検知位置の設定方法を説明する図である。図示する移動軌跡20a〜20eは図2で示す移動軌跡20a〜20eと同じである。図示するように、移動軌跡20a〜20eは、その長さにばらつきがある。これは、レーダ1が、出力するマイクロ波又はミリ波の照射方向に対する移動体の角度や、レーダ1と移動体との相対距離等の種々の要因により、その照射範囲内において移動体を好適に検知できる領域(位置)と検知できない領域(位置)とが混在していることを示している。すなわち、レーダ1は、その照射範囲内の全領域に存在する車両を全て一律に検知できるわけではない。従って、レーダ1を用いて道路の交通状況を解析する際には、レーダ1の照射範囲内において車両をより良好に検知できる位置を見出し、その位置を車両を検知する際の基準となる位置として設定する必要がある。
【0022】
そこで、本実施形態の検知位置設定部21は、レーダ1の照射範囲内において、車両を最も良好に検知できる位置を検知位置(検知ライン)として設定するための処理を実行する。具体的には、先ず、検知位置設定部21は、移動軌跡20a〜20eに直交する直線を想定した場合に、当該直線が最も多くの移動軌跡と交わる範囲を検知位置設定可能範囲(以下単に検知位置範囲とも称する)として算出する。図3では、当該検知位置範囲が上下方向の両矢印で示されている。図示するとおり、検知位置範囲では、移動軌跡20a〜20eに直交する直線がすべての移動軌跡20a〜20eと交差していることが分かる。すなわち、算出した検知位置範囲内は、レーダ1の照射範囲内において、最も多くの車両を検出することができる領域である。したがって、検知位置設定部21は、車両情報を検知する際の基準となる検知位置(検知ライン)を検知位置範囲内に設定する。図では、検知ラインが検知位置範囲内の上下方向における略中央に設定された例が示されている。これにより、検知位置設定部21は、レーダ1の照射範囲内において、道路を走行する車両を最も取りこぼさずに検知できるラインを車両情報を検知する際の基準となる検知位置として設定することができる。
【0023】
解析部22は、検知位置設定部21が設定した検知位置に基づいて、所定の交通状況を解析する。例えば、解析部22は、検知位置を所定時間内に車両が何台通過するかカウントすることで交通量を解析するように構成されてもよい。或いは、解析部22は、検知位置を通過する車両の移動速度に基づいて、道路が渋滞しているか否かを解析するように構成されてもよい。この場合、例えば、高速道路における検知位置を通過する車両の移動速度が所定速度以下である場合に、当該高速道路が渋滞していると判断されてよい。
【0024】
報知制御部23は、解析部22が解析した所定の交通状況を不図示の報知手段を用いて報知するための報知制御を実行する。ここでの報知手段とは、例えば、一般道路や高速道路を走行する車両のドライバに所定の交通状況を表示するための表示装置(例えば電光掲示板)や、ウェブサイト等を介して交通情報を提供可能なコンピュータ又は携帯端末等が想定されるが、どのような報知手段を用いてもよく特に制限されない。報知制御部23は、無線通信、および/またはインターネット回線等の情報通信手段と上記の報知手段を介して所定の交通状況をドライバ等に報知する。
【0025】
以上が本実施形態にかかる移動体検知システム10の構成の詳細である。以下では、コントローラ2が実行する検知位置設定処理の詳細について図4を参照して説明する。
【0026】
図4は、コントローラ2が実行する検知位置設定処理のフローを示すフローチャートである。コントローラ2には、図示するフローチャートを参照して以下に説明する処理が所定のタイミングで実行されるようにプログラムされている。なお、ここでの所定のタイミングとは、移動体検知システム10の起動直後、或いは、移動体検知システム10の起動後、ユーザによる検知位置設定処理を実行する指示をコントローラ2が受け付けたタイミング等である。
【0027】
ここで、ステップS10からの処理が実行される前に、移動体検知システム10が道路脇等に設置(仮設)される。移動体検知システム10が設置される際には、ユーザは、レーダ1の照射範囲に観測対象の道路が含まれるようにレーダ1の向きを調整する必要がある。ただし、ここでの調整は、アンテナの向き等、外観上認識できるレベルでレーダ1の照射方向を観測対象の道路に向ける程度の調整でよく、検知精度を意識した厳密な調整を要しない。なお、従来の常設型のシステムでは、以下に説明する検知位置設定処理が実行されないので、検知精度を担保する観点からレーダの位置と観測対象との相対距離および角度等を厳密に測量したうえでの調整が必要である。
【0028】
すなわち、本実施形態の移動体検知システム10を設置するユーザ(システム管理者等)は、以下に説明する検知位置設定処理が実行されることによって、移動体検知システム10を設置してレーダ1の検知位置を設定する際に要求される作業負担が大幅に低減される。
【0029】
ステップS10では、コントローラ2は、レーダ1が検出した車両情報(移動体の位置情報)を取得する。位置情報が取得されると、車両の移動軌跡を生成するために続くステップS11の処理が実行される。
【0030】
ステップS11では、コントローラ2は、取得した位置情報に基づいて車両の移動軌跡を生成する。なお、本実施形態では、照射範囲内を移動する車両の移動軌跡をリアルタイムで生成する。そのため、後述する検知位置(検知ライン)を設定するのに十分な数(本数)、および長さ(距離)の移動軌跡が生成されることを担保するためにステップS12の処理が実行される。
【0031】
ステップS12では、コントローラ2は、所定時間経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、十分な数および長さの移動軌跡を生成する観点から適宜設定されてよい。本実施形態では、ある程度交通量の多い高速道路を想定して例えば5分に設定される。所定時間経過したと判定されると、続くステップS13の処理が実行される。所定時間経過したと判定されない場合には、所定時間経過するまで、ステップS10〜S11の処理が繰り返し実行される。
【0032】
なお、ステップS12において十分な数および長さの移動軌跡が生成されたか否かは、必ずしも所定時間経過したか否かで判断される必要は無い。例えば、コントローラ2は、ユーザによる所定の入力操作により移動軌跡の生成の停止指示を受け付けた場合に、十分な数および長さの移動軌跡が生成されたと判断して続くステップS13の処理を実行するように構成されてもよい。また、コントローラ2は、移動軌跡の十分な数および長さの少なくとも一方を予め設定しておき、生成した移動軌跡が設定した値を超えた場合に、十分な数および長さの移動軌跡が生成されたと判断して続くステップS13の処理を実行するように構成されてもよい。
【0033】
ステップS13では、コントローラ2は、生成した移動軌跡に基づいて、検知ラインを設定可能な範囲である検知位置設定可能範囲を算出する。検知位置設定可能範囲(以下、単に検知位置範囲という)の算出方法は、図3を参照して上述したとおりである。また、観測対象の道路がカーブしている場合には、カーブを走行する車両の移動軌跡として、図5で示すような曲線に基づいて検知位置範囲が算出されてよい。
【0034】
図5は、観測対象の道路がカーブを含む場合に算出される検知位置範囲を説明する図である。移動軌跡30a〜30dは、観測対象の道路がカーブを含む場合にステップS12で生成される移動軌跡の一例を示し、矢印(a)は、レーダ1の照射方向を示し、矢印(b)は、移動軌跡30a〜30dの方向(車両の走行方向)を示している。
【0035】
そして、図中に示す2本の破線で挟む両矢印部分が検知位置範囲として算出される。ここで、図5は観測対象の道路がカーブを有している場合を示しているが、検知位置範囲の算出方法は図3で示す直線道路を参照して説明したのと同様である。すなわち、移動軌跡30a〜30dの方向(矢印(b)が示す方向)に直交する直線を想定し、当該直線が最も多くの移動軌跡と交差する範囲が検知位置範囲として算出されてよい。一方で、図6で示すようにして検知位置範囲が算出されてもよい。
【0036】
図6は、観測対象の道路がカーブを含む場合に算出される検知位置範囲の他の例を説明する図である。本例では、レーダ1の照射方向、すなわち、矢印(a)が示す方向に直交する直線を想定した場合に、当該直線が最も多くの移動軌跡と交わる範囲を検知位置範囲として算出する例が示されている。このように、本実施形態における検知位置範囲は、ステップS11で生成された移動軌跡の方向またはレーダ1の照射方向に直交する直線を想定した場合に、当該直線が最も多くの移動軌跡と交わる範囲を検知位置範囲として算出されてよい。なお、観測対象の道路が直線の場合でも、レーダ1の照射方向と移動軌跡の方向とが一致しない場合には、検知位置範囲を算出する際にいずれの方向と直交する直線を想定するかについて適宜選択されてよい。検知位置範囲が算出されると、続くステップS14の処理が実行される。
【0037】
ステップS14では、コントローラ2は、前ステップで算出された検知位置範囲内に検知ラインを設定する。検知ラインの設定方法は、図3を参照して上述したとおりである。ただし、検知ラインは、上述したように1本である必要は必ずしもなく、複数本設定されてもよい。この場合、所定の交通状況は、複数本の検知ラインに基づいて解析されてよい。例えば、検知ラインを通る車両の台数をカウントしたい場合には、各検知ラインでカウントされた台数の平均値を算出する、或いは、各検知ラインでカウントされた台数を比較して、台数の多い方の値を採用する等してもよい。なお、レーダ1の上下方向に係る照射方向と走行車両との角度によっては、つらなって走行する2台の車両を1台とカウントしてしまう場合がある。例えば、観測対象の道路の下流側にレーダ1を設置した場合において、大型トラックの後ろを軽自動車がある場合には、特にレーダ1からみて遠い位置に設定された検知ラインでは軽自動車を検出できないことが起こり得る。また、例えば車両の形状によっては(例えば流線型)、レーダ1から照射されるミリ波又はマイクロ波が当たる角度によって検出精度が著しく低下する場合もある。したがって、このような事態を想定して複数本の検知ラインを設定することによって、レーダ1による車両の検出精度を向上させることができる。
【0038】
このようにして検知ラインが設定されると、コントローラ2は検知位置設定処理を終了する。
【0039】
以上が本実施形態における検知位置設定処理の詳細である。ただし、検知位置設定処理は、必ずしもコントローラ2が上述のフローに従って全ての処理を実行する必要は無い。例えば、ステップS10で車両情報が取得される前に、観測対象である道路の詳細情報(例えば車線数や車線幅)を設定してもよい。
【0040】
図7は、検知位置を設定する際に、観測対象の道路の車線数が設定される例を説明する図である。図示するように、例えば、観測対象の道路の車線に対応する車線(1)〜(5)を設定することにより、観測範囲を任意に設定することが容易に可能となる。例えば、図示するように車線(1)〜(5)を設定することによって、車線(1)と(5)の交通状況だけを解析する等、測定したい車線を容易に設定することができる。なお、車線は、ユーザが手動で設定してもよいし、例えばカメラを備えることによって、当該カメラの撮像データに基づいて、コントローラ2がレーダ1の照射方向を考慮して自動的に設定するように構成してもよい。
【0041】
また、上述したように、ステップS14での検知ラインの設定をコントローラ2が自動的に行う必要は必ずしもなく、ユーザが手動で設定してもよい。例えば、図7で示すような画像をモニターに表示して、表示された検知位置設定バーをユーザが手動で動かすことによって検知ラインを設定できるように構成されたソフトウェア(セットアップウィザード)を提供してもよい。その場合には、例えば、ユーザが手動で移動させた設定バーが(a)の位置にある場合には、設定バーが赤くなる等してその位置は不適切であることをユーザに報知し、設定バーが(b)の位置、すなわちステップS13で算出された検知位置範囲内に位置する場合には、当該設定バーが緑に変化する等してその位置が適切であることをユーザに報知してもよい。このような態様であっても、ユーザは、車両の検知位置を従来よりも容易に、すばやく適切な位置に設定することができる。
【0042】
以上、第1実施形態の移動体検知システム10は、可搬式の移動体検知システム10であって、照射範囲内に道路を含むように設けられ、当該道路上の移動体を検出するレーダ1と、道路の所定の交通状況を解析するコントローラ2と、を備える。コントローラ2は、レーダ1が検出した移動体の位置情報に基づいて当該移動体の移動軌跡を生成し、生成した移動軌跡に基づいて、交通状況を解析する際の基準となる移動体の検知位置を設定し、検知位置で検知された移動体に関する情報に基づいて、交通状況を解析する。これにより、交通状況を解析する際の基準となる適切な検知位置を移動体の移動軌跡に基づいてコントローラが自動的に設定することができるので、ユーザの手動による厳密な調整作業を要さずに、レーダによる移動体の検知位置を容易に設定することができる。
【0043】
また、第1実施形態の移動体検知システム10によれば、長さの異なる複数の移動軌跡が生成された場合に、検知位置は、レーダ1の照射方向又は移動軌跡に直交し、且つ、最も多くの移動軌跡と交差する直線上に設定される。これにより、レーダ1の照射範囲内において、移動体を良好に検出できる検知位置を適切に設定することができる。
【0044】
また、第1実施形態の移動体検知システム10によれば、所定の交通状況は、道路が渋滞しているか否かに関する状況であって、コントローラ2は、検知位置で検知された移動体の速度に基づいて、道路が渋滞しているか否かを解析する。これにより、適切な位置に設定された検知位置に基づいて、道路が渋滞しているか否かを正確に解析することができる。
【0045】
[第2実施形態]
以下では、本発明の第2実施形態に係る移動体検知システム200について説明する。第2実施形態の移動体検知システム200は、レーダ1の照射方向を調整可能な照射方向変更手段4と、当該照射方向変更手段を自律的に制御するようにプログラムされた照射方向制御部24とを更に備える点が、第1実施形態と相違する。以下、第2実施形態の移動体検知システム200の詳細について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同じ指示番号を付して、説明を省略する。
【0046】
図8は、第2実施形態の移動体検知システム200の構成例を示すブロック図である。移動体検知システム200は、第1実施形態の構成に加えて、照射方向変更手段4と、コントローラ2の一機能部としての照射方向制御部24と、をさらに備える。
【0047】
照射方向変更手段4は、コントローラ2の制御によってレーダ1の照射方向を変更する機能を有する。本実施形態の照射方向変更手段4は、例えば、モータを備えた回転駆動可能な雲台であって、レーダ1を支持するように構成される。照射方向変更手段4は、当該モータを駆動して支持するレーダ1を少なくとも水平方向に回転させることで、レーダ1の照射方向を変更することができる。
【0048】
照射方向制御部24は、照射方向変更手段4を介してレーダ1の照射方向を制御する。当該制御の詳細については、図9から11を参照して後述する。
【0049】
図9は、本実施形態のコントローラ2が実行する検知位置設定処理のフローを示すフローチャートである。コントローラ2には、図示するフローチャートを参照して以下に説明する処理が実行されるようにプログラムされている。なお、図4を参照して説明した内容と同様のステップには同じステップ番号が付されている。なお、ステップS10〜12についての説明は省略する。
【0050】
ステップS13では、コントローラ2は、第1実施形態と同様に検知位置範囲を算出する。ステップS13では、例えば、図10に示すような検知位置範囲が算出される。図10において両矢印で示す検知位置範囲は、第1実施形態の説明で用いた図5で示す検知位置範囲と同様である。検知位置範囲が算出されると、コントローラ2は、レーダ1の照射方向を変更する必要があるか否かを判断するためにステップS20の処理を実行する。
【0051】
ステップS20では、コントローラ2は、レーダ1の照射方向と、検知位置範囲における移動軌跡30a〜30dの方向とが平行か否かを判定する。図10を参照すれば、コントローラ2は、レーダ1の照射方向である矢印(a)が示す方向と、移動軌跡30a〜30dの方向と略一致する方向である矢印(b)が示す方向とが平行か否かを判定する。矢印(a)が示す方向と矢印(b)が示す方向とが平行ではないと判定された場合には、コントローラ2は、レーダ1の照射方向を変更する必要があると判断して、ステップS21の処理を実行する。一方、矢印(a)が示す方向と矢印(b)が示す方向とが平行であると判定された場合には、レーダ1の照射方向を変更する必要がないと判断され、続くステップS14の処理が実行される。
【0052】
ステップS21では、コントローラ2は、照射方向変更手段4を介してレーダ1の照射方向を変更可能か否か判定する。レーダ1の照射方向を変更可能か否かは、照射方向の変化に対する検知位置範囲の変化の程度に基づいて判定されてよい。例えば、レーダ1の照射方向を水平方向に回転させると、回転に伴ってレーダ1の照射範囲が変化するので、これに応じて検知位置範囲が狭くなる場合がある。したがって、コントローラ2は、照射方向の変化に応じて、検知位置範囲が所定幅以下に狭くなった場合に、レーダ1の照射方向は変更可能ではないと判定してもよい。なお、ここでの所定幅は、車両の検出精度の観点から適宜設定されてよい。あるいは、コントローラ2は、照射方向変更手段4の回転が物理的な限界に達した際に、レーダ1の照射方向は変更可能ではないと判定してもよい。コントローラ2は、このようにして、レーダ1の照射方向が変更可能か否かを判定して、レーダ1の照射方向が変更可能と判定された場合には、レーダ1の照射方向を変更するためにステップS22の処理が実行される。レーダ1の照射方向は変更可能ではないと判定された場合は、検知ラインを設定するためにステップS14の処理が実行される。
【0053】
ステップS22では、コントローラ2は、レーダ1の照射方向と略一致する矢印(a)が示す方向と、移動軌跡30a〜30dと略一致する矢印(b)が示す方向とがより平行になるように、レーダ1の照射方向を変更する。図10を参照すれば、コントローラ2は、矢印(a)が示す方向と矢印(b)が示す方向とがより平行になるように、レーダ1の照射方向を矢印(c)の方向に移動させる。レーダ1の照射方向が移動軌跡30a〜30dの方向と平行になるようにレーダ1の照射方向が変更されると、変更されたレーダ1の照射方向に応じた検知位置範囲を算出するために、ステップS13の処理が実行される。なお、ステップS22でレーダ1の照射方向を矢印(c)の方向に移動させた場合のレーダ1の照射方向と移動軌跡とは、例えば図11に示すような位置関係となる。
【0054】
図11は、ステップS22においてレーダ1の照射方向を変更した場合の、レーダ1の照射方向と移動軌跡との位置関係を説明する図である。図から、レーダ1の照射方向を図10で示す矢印(c)の方向に回転させることによって、レーダ1の照射方向と移動軌跡30a〜30dの方向とが平行に近づいていることがわかる。このようにして、レーダ1の照射方向、すなわち、レーダ1から出力されるマイクロ波又はミリ波が、観測対象道路を走行する車両のより正面(又は背面)にあたるように調整されることで、車両からの反射波をより受信し易くなるので、レーダ1による移動体の検出精度をより向上させることができる。
【0055】
そして、ステップS20において、照射方向と移動軌跡とが平行であると判定されるか、又は、ステップS21において、照射方向をこれ以上変更することができないと判定されると、ステップS13で算出された検知範囲内において検知ラインを設定するためにステップS14の処理が実行される。
【0056】
このようにして検知ラインが設定されると、コントローラ2は検知位置設定処理を終了する。
【0057】
以上が本実施形態における検知位置設定処理の詳細である。ただし、検知位置設定処理は、必ずしもコントローラ2が上述のフローに従って全ての処理を実行する必要は無い。例えば、ステップS22でレーダ1の照射方向を変更した後に、ステップS13の処理が実行される必要は必ずしもない。例えば、ステップS22の次にステップS10の処理を実行して、変更された照射範囲における車両の移動軌跡を改めて生成するように構成されてもよい。
【0058】
なお、照射方向変更手段4は、レーダ1の照射方向を、水平方向だけでなく上下方向にも変更可能に構成されてもよい。その場合には、例えば、レーダ1の照射方向を水平方向および上下方向に所定の角度の範囲内を移動させながら車両を検出し、検出した車両の移動軌跡に基づいて、上述したような方法で適切な検知ラインを自動的に設定するように構成されてもよい。
【0059】
以上、第2実施形態の移動体検知システム200によれば、レーダ1の水平方向における照射方向を変更する照射方向変更手段4をさらに備え、コントローラ2は、照射方向が移動軌跡と平行になるように照射方向変更手段4を制御する。これにより、レーダの照射方向についても自動的に調整されるので、ユーザの手動による厳密な調整作業を要さずに、レーダによる移動体の検知位置を容易に、且つより最適に設定することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0061】
例えば、図4図9を用いて説明したフローは、必ずしも図示するステップを説明した順序で実行する必要は無く、上述した検知位置を設定できる限りにおいて適宜変更あるいは削除してもよい。
【0062】
なお、本明細書で用いた「平行」、「直行」等の用語は、必ずしも厳密に「平行」、「直行」していることを示す意図ではない。レーダ1による移動体の検出精度を担保する観点から許容できる範囲において、「平行」、「直行」の用語は、略平行、略直行の意味を含むものとする。
【符号の説明】
【0063】
1…レーダ
2…コントローラ
4…照射方向変更手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11