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特開2021-63018神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-63018(P2021-63018A)
(43)【公開日】2021年4月22日
(54)【発明の名称】神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/14 20060101AFI20210326BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20210326BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210326BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210326BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20210326BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20210326BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20210326BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20210326BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20210326BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20210326BHJP
   A61K 36/75 20060101ALI20210326BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20210326BHJP
【FI】
   A61K36/14
   A61P25/28
   A61P43/00 111
   A61P29/00
   A61P43/00 121
   A61P25/24
   A61P25/22
   A61P25/18
   A61P25/00
   A61K36/53
   A61K36/752
   A61K36/75
   A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-186661(P2019-186661)
(22)【出願日】2019年10月10日
(71)【出願人】
【識別番号】514258269
【氏名又は名称】グリーン・テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】杉本 八郎
(72)【発明者】
【氏名】奥田 充顕
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018MD52
4B018MD66
4B018ME14
4B018MF01
4C088AB03
4C088AB38
4C088AB62
4C088AC01
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA08
4C088BA10
4C088CA04
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA07
4C088CA09
4C088CA11
4C088CA12
4C088CA17
4C088MA13
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA23
4C088MA28
4C088MA32
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088MA56
4C088MA59
4C088MA63
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA12
4C088ZA15
4C088ZA16
4C088ZA18
4C088ZC41
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】神経変性疾患関連蛋白質への作用剤及び該作用剤を含有する組成物を提供すること。
【解決手段】ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、神経変性疾患予防及び治療剤、好ましくは脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生促進剤、炎症反応抑制剤、アミロイドβ蛋白の産生抑制剤、又はタウ蛋白のリン酸化抑制剤である神経変性疾患予防及び治療剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項2】
脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生促進剤である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
炎症反応抑制剤である、請求項1記載の剤。
【請求項4】
アミロイドβ蛋白の産生抑制剤である、請求項1記載の剤。
【請求項5】
タウ蛋白のリン酸化抑制剤である、請求項1記載の剤。
【請求項6】
ラベンダーの抽出物、オレンジの抽出物及びマジョラムの抽出物を含む第一抽出物と、ローズマリーの抽出物、レモンの抽出物及びサイプレスの抽出物を含む第二抽出物を組み合わせてなる、請求項1〜5いずれかに記載の剤。
【請求項7】
アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の治療又は予防に用いられる、請求項1〜6いずれか記載の剤。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の剤を含有してなる、組成物。
【請求項9】
ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生促進方法。
【請求項10】
ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、脳内炎症反応の抑制方法。
【請求項11】
ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、アミロイドβ蛋白の産生抑制方法。
【請求項12】
ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、タウ蛋白のリン酸化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の予防剤及び/治療剤に関する。より詳しくは、神経変性疾患に関連する、アミロイドβ蛋白質、タウ蛋白質、脳由来神経栄養因子、及び/又は脳内炎症性サイトカインへの作用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然物から特定の薬理作用のある物質又は成分を探索して創薬に利用することが、一般に行われている。このように有用な物質又は成分は、しばしば、新たな治療・予防法の開発や発症メカニズム解明の研究などに利用されるが、近年、植物から抽出した精油を用いる手法についても検討が種々行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レッドキドニービーンズ、グアバ、発酵グアバ、ゲットウ、発酵ゲットウ、オレガノ、バジル、レモンバーベナ、ハマナス、アオサ、マジョラム、ギンネム、発酵ギンネム、コブミカン及びギムネマシルベスタからなる群から選ばれる1以上の植物の植物体もしくはその処理物又はその抽出物に、アミロイドβ蛋白の凝集抑制作用及び/又は凝集アミロイドβ蛋白の分解作用を有することが開示されている。そして、前記処理物や抽出物は、錠剤、散剤、顆粒剤等の経口剤や、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤として用いられることが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1及び2には、植物の精油を用いる手法として、ローズマリーカンファーオイルとレモンオイル、及び、真正ラベンダーオイルとオレンジオイルを組み合わせて、アルツハイマー病の患者にアロマテラピーを行うことで、嗅覚刺激を介して脳内の神経の機能が改善し、認知機能が改善したことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−202606号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】木村有希ら、日本痴呆学界誌第19巻第1号、p.1-10
【非特許文献2】Daiki JIMBO, et al., PSYCHOGERIATRICS, 2009, 9:173-179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤及び該作用剤を含有する組成物を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、アミロイドβ蛋白質の減少方法、タウ蛋白質のリン酸化阻害方法、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生促進方法、及び脳内炎症性サイトカインの減少方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の精油を用いることで、アミロイドβ蛋白質の生成量を減少させたり、タウ蛋白質のリン酸化を阻害したり、また、脳内の脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生量を増加させ、脳内の炎症性サイトカインも減少させることを見出し更なる検討を行って本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔12〕に関する。
〔1〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とする、神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤。
〔2〕 脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生促進剤である、前記〔1〕記載の剤。
〔3〕 炎症反応抑制剤である、前記〔1〕記載の剤。
〔4〕 アミロイドβ蛋白の産生抑制剤である、前記〔1〕記載の剤。
〔5〕 タウ蛋白のリン酸化抑制剤である、前記〔1〕記載の剤。
〔6〕 ラベンダーの抽出物、オレンジの抽出物及びマジョラムの抽出物を含む第一抽出物と、ローズマリーの抽出物、レモンの抽出物及びサイプレスの抽出物を含む第二抽出物を組み合わせてなる、前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載の剤。
〔7〕 アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の治療又は予防に用いられる、前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の剤。
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の剤を含有してなる、組成物。
〔9〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生促進方法。
〔10〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、脳内炎症反応の抑制方法。
〔11〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、アミロイドβ蛋白の産生抑制方法。
〔12〕 ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を吸入することを特徴とする、タウ蛋白のリン酸化抑制方法。
【0011】
また、本発明は、下記の態様〔13〕〜〔16〕も包含する。
〔13〕 前記〔1〕〜〔7〕いずれか記載の剤を投与する工程を含む、アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防及び/又は治療方法。
〔14〕 投与が吸入によるものである、前記〔13〕記載の方法。
〔15〕 アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防及び/又は治療するための、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物の使用。
〔16〕 アルツハイマー病、ダウン症候群、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷及び虚血性脳障害から選ばれる疾患の予防及び/又は治療剤を製造するための、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、アミロイドβ蛋白質そのものの生成量を減少することができ、ひいてはアミロイドβ蛋白の重合や凝集、蓄積も抑制することが可能となる。
【0013】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、タウ蛋白質のリン酸化を阻害することができ、ひいてはリン酸化タウ蛋白の凝集、蓄積も抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生量を増加することができ、ひいては神経細胞の再生分化増殖を促進することが可能となる。
【0015】
また、本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、脳内の炎症性サイトカインの生成量を減少することができ、脳内の炎症反応を抑制する効果に優れる。
【0016】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤により、神経細胞の機能低下や減少を予防あるいは抑制する効果を奏することが可能となる。また、炎症あるいはアミロイドβ及びタウ蛋白のリン酸化が関連する疾患、例えば、アルツハイマー病などの神経変性疾患に対して予防あるいは治療効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、アロマテラピーによる認知機能に対する影響を調べた結果を示す図である。
図2図2は、アロマテラピーによる脳内BDNF量に対する影響を調べた結果を示す図である。
図3図3は、アロマテラピーによる脳内インターロイキン1β(以下「IL-1β」)に対する影響を調べた結果を示す図である。
図4図4は、アロマテラピーによる脳内アミロイドβ量に対する影響を調べた結果を示す図である。
図5図5は、アロマテラピーによる脳内リン酸化タウ蛋白に対する影響を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を有効成分とするものであり、以降、これらをまとめて本発明の抽出物と記載することもある。
【0019】
アルツハイマー病は、アミロイドβ蛋白から成る老人斑とリン酸化タウ蛋白から成る神経原線維変化の形成、またこれらに伴って進行する神経細胞の機能障害、神経細胞死及び脳萎縮を特徴的病変とする神経変性疾患である。アミロイドβ蛋白は、蛋白凝集体を形成して組織に沈着することによって機能障害を引き起こすが、その凝集体と共にアミロイドβ蛋白自身も細胞毒性作用を有することから、アミロイドβ蛋白そのものの産生を抑制することがアルツハイマー病の治療法として期待されている。また、組織へ沈着して機能障害を引き起こす蛋白質としてはリン酸化タウ蛋白も知られているが、タウ蛋白そのものは中枢神経細胞に多量に存在し、脳の神経ネットワークを構成することから、タウ蛋白のリン酸化を抑制することもアルツハイマー病治療に有効であると考えられている、一方、アルツハイマー病の発症・進行リスクを高める要因として、加齢、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、睡眠不足、運動不足、過度の飲酒や喫煙、頭部への外傷などが挙げられるが、これらのリスク要因から推察すると、アルツハイマー病の発症・進行には、脳血流量の低下や糖・脂質代謝異常あるいは慢性炎症による神経細胞の機能障害や神経細胞死といった、アミロイドβ蛋白やタウ蛋白が直接関与しない経路も存在すると考えられる。しかしながら、いずれにしても神経細胞の機能障害や神経細胞死を経て認知機能低下が進行すると考えられる。このような状況下において、本発明者らは、脳神経細胞に着目し、本発明の抽出物を曝露させることで、脳内での脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor:BDNF)の産生が促進され、また炎症反応が抑制されること、さらにアミロイドβ蛋白の産生が抑制されること及びタウ蛋白のリン酸化が抑制されることを見出した。従来は、例えば、芳香成分が嗅覚神経を介して自律神経系や内分泌系を調整している視床下部を刺激し、アセチルコリンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が放出されることでリラックス効果やリフレッシュ効果等がもたらされて認知機能が向上すると考えられていたが、詳細なる機序は不明なるも、本発明の抽出物が嗅覚神経を介して脳内の神経細胞に作用する、あるいは、抽出物の一部が鼻粘膜から吸収され脳内の神経細胞に直接作用することで、BDNF産生促進作用を介して神経細胞の新生・成長・分化・再生を促進し、また、慢性炎症の抑制作用を介して神経細胞障害や神経細胞死を防止し、さらに、アミロイドβ蛋白の産生抑制・分解除去、タウ蛋白のリン酸化抑制といった効果をもたらすと推察される。これらにより、本発明の抽出物はアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の発症・進行を抑制する効果、あるいは、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の症状を改善する効果を有することが期待される。但し、これらの推測は、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明の抽出物は、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジからなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物の抽出物であるが、これらの植物に対し人為的な処理を施して得られたものであれば特に限定はなく、例えば、抽出物(エキス)の他、精油(例えば、水蒸気蒸留物、搾汁液、圧搾物、溶剤抽出物、超臨界流体抽出物)も含まれる。また、2種以上の植物の抽出物である場合には、これらの植物に対して、個別に処理を行って併せたものであっても、まとめて処理を行ったものでもよい。個別に処理を行う場合は、処理方法が同一でも異なってもよい。本発明の抽出物としては、例えば、ローズマリーの抽出物、レモンの抽出物、ラベンダーの抽出物、マジョラムの抽出物、サイプレスの抽出物及びオレンジの抽出物を含む態様の他、ローズマリーの精油、レモンの精油、ラベンダーの精油、マジョラムの精油、サイプレスの精油及びオレンジの精油を含む態様を用いることができる。ローズマリーやレモンの抽出物や精油には集中力を高める作用や抗不安・抗うつ作用が、またラベンダーやオレンジの抽出物や精油には鎮静作用や安眠作用があることが知られており、それぞれが異なる作用によって脳機能改善に寄与しながらも脳神経作用へ作用すると考えられる。また、心身のバランスを整えて脳神経細胞への作用をより向上させる観点から、少なくとも、サイプレスの抽出物や精油を含む態様や、サイプレスの抽出物や精油とマジョラムの抽出物や精油を含む態様も好ましい。
【0021】
ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジとしては、公知のものであれば特に限定なく用いることができ、例えば、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)、レモン(Citrus limon)、ラベンダー(Lavandula angustifolia、Lavandula vera、Lavandula officinalis、Lavandula latifolia)、マジョラム(Origanum majorana)、サイプレス(Cupressus sempervirens)及びオレンジ(Citrus sinensis、Citrus aurantium)を用いることができる。産地や品種も特に限定されない。
【0022】
使用される部位については、例えば、根茎、葉、果実、種子、花又は植物全体を使用することができ、これらの裁断物や破砕物、乾燥物等の加工品としても使用することができる。
【0023】
抽出方法としては、特に限定はなく、例えば、前記した植物を公知の方法に従って溶媒により抽出し、溶媒を留去する方法が挙げられる。
【0024】
抽出溶媒としては、例えば、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等)、多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル(ジオキサン、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等)、ハロゲン化炭化水素(クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、極性溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等)のほか、酢酸エチル、トルエン、n-ヘキサン、石油エーテル等の各種有機溶媒、或いは水等を、それぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることが出来る。組み合わせる際には、その比率は適宜調整することができる。
【0025】
抽出温度は、用いる溶媒や植物の部位・形態などによって一概には設定することができないが、抽出効率の観点から、下限としては4℃、上限としては150℃を挙げることができる。本発明においては、前記した温度範囲内であれば上限値や下限値を適宜設定することができ、例えば、10℃、15℃、20℃、30℃、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、140℃等を上限値あるいは下限値として設定することができる。抽出時間は、抽出に供する原料の使用量や装置に応じて適宜設定することができる。
【0026】
なお、抽出により得られた抽出物に対しては、ろ過、遠心分離、濃縮、希釈、限外ろ過、凍結乾燥、粉末化及び分画からなる群より選ばれる1種又は2種以上の処理を、公知の方法に従って行ってもよい。また、必要により、常圧下又は減圧下で前記処理を行うことができる。得られた抽出物は、体温付近の温度で揮発性を有するものであってもよい。
【0027】
本発明で用いる抽出物は、前記した公知の抽出方法によって調製したものであっても、市販品であってもよい。市販のアロマオイルであってもよい。例えば、ローズマリーの抽出物としては、ローズマリー・シネオールのアロマオイル、ローズマリー・カンファーのアロマオイル、ローズマリー・ベルベノンのアロマオイルなどが挙げられるが、ローズマリー・カンファーのアロマオイルを好適に用いることができる。レモンの抽出物としては、レモンのアロマオイルなどが挙げられる。ラベンダーの抽出物としては、真正ラベンダーのアロマオイル、ラベンダー・ストエカスのアロマオイル、ラベンダー・スピカのアロマオイル、ラベンダー・レイドバンのアロマオイル、ラベンダー・スーパーのアロマオイルなどが挙げられるが、真正ラベンダーのアロマオイルを好適に用いることができる。マジョラムの抽出物としては、マジョラム・スイートのアロマオイルなどが挙げられる。サイプレスの抽出物としては、サイプレスのアロマオイルなどが挙げられる。オレンジの抽出物としては、オレンジ・スイートのアロマオイル、オレンジ・ビターのアロマオイル、オレンジ・ブラッドのアロマオイルなどが挙げられる。
【0028】
本発明の抽出物の形状は、特に限定されず、粉状、固形状、液状のいずれの形状であっても良い。また、個別の抽出物を用いる場合、その形状は同一でも異なってもよい。
【0029】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤における、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジの抽出物の含有量は、特に限定されず、例えば、0.01〜100重量%が例示される。なお、前記含有量は、2種以上の抽出物を含む場合には合計含有量のことである。
【0030】
また、2種以上の抽出物を含む場合には、各抽出物の含有量比としては、抽出物の形状や抽出方法によって一概には設定することができず、技術常識に従って適宜調整することができる。以下に一例を示すが、例えば、ローズマリーの含有量を1とする場合、その他は0.01〜100の範囲内で適宜調整することができる。具体的な各抽出物の含有量比(体積比)としては、例えば、ローズマリー抽出物/レモン抽出物/ラベンダー抽出物/マジョラム抽出物/サイプレス抽出物/オレンジ抽出物が、0.1〜10/0.1〜10/0.1〜10/0.1〜10/0.1〜10/0.1〜10、1〜5/1〜5/1〜5/1〜5/1〜5/1〜5が例示される。また、レモン抽出物/ローズマリー抽出物としては、1〜5/2〜10、2〜4/4〜8が例示される。レモン抽出物/ローズマリー抽出物/サイプレス抽出物としては、1〜5/2〜10/0.5〜5、2〜4/4〜8/0.75〜3が例示される。ラベンダー抽出物/オレンジ抽出物としては、1〜5/2〜10、2〜4/4〜8が例示される。ラベンダー抽出物/オレンジ抽出物/マジョラム抽出物としては、1〜5/2〜10/0.5〜5、2〜4/4〜8/0.75〜3が例示される。また、マジョラム抽出物/サイプレス抽出物としては、0.1〜10/0.1〜10、0.5〜5/0.5〜5が例示される。
【0031】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、BDNF産生を促進し、また、炎症反応やアミロイドβ蛋白の産生及びタウ蛋白のリン酸化を抑制することにより、アルツハイマー病、ダウン症候群、タウオパチー(例えば、嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病)、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷、虚血性脳障害等の疾患や前記疾患に基づく症状の予防、改善又は治療に好適に用いることができる。
【0032】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤の形態としては、本発明の抽出物が嗅覚神経を介して脳内の神経細胞に作用する、あるいは、抽出物の一部が鼻粘膜から吸収されて生体内に摂取することができる形態であれば特に限定はなく、そのまま製剤化したり、医薬品、医薬部外品、飲食品、飲食品用添加剤、化粧品等の原材料に用いることが可能な形態に調製してもよい。前記した原材料としては、公知のものが特に限定なく用いられ、その成分及び配合量を適宜選択して常法により調製される。
【0033】
医薬品、医薬部外品としては、例えば、錠剤(素錠、糖衣錠、フィルムコーティング錠、舌下錠、口腔内崩壊錠、バッカル錠等を含む)、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、トローチ剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、放出制御製剤(例、速放性製剤、徐放性製剤、徐放性マイクロカプセル剤)、エアゾール剤、フィルム剤(例、口腔内崩壊フィルム、口腔粘膜貼付フィルム)、経皮吸収型製剤、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、ペレット、経鼻剤、経肺剤(吸入剤)等の経口剤又は非経口剤が挙げられる。
【0034】
飲食品、飲食品用添加剤としては、例えば、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料、スープ類、食用油等の各種食品の他、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。また、上記した医薬品、医薬部外品の経口投与型の形態も含まれる。
【0035】
化粧品としては、洗浄剤、シャンプー、リンス、ヘアートニック、ヘアーローション、アフターシェーブローション、ボディーローション、化粧ローション、クレンジングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、エアゾール製品、芳香剤又は入浴剤などを例示することができる。
【0036】
本発明の抽出物の含有量は、剤型、摂取方法、担体等により異なるが、例えば、製品中、通常0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜95重量%である。なお、本明細書において、本発明の抽出物の含有量とは、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジの抽出物の合計含有量のことを意味する。
【0037】
摂取量は、使用者、症状、摂取ルートなどにより差異はあるが、経口摂取の場合、一般的に例えば、体重約60kgのヒトにおいては、本発明の抽出物の乾燥重量として、1日当たり約0.01〜1000mg、好ましくは約0.1〜100mg、より好ましくは約0.5〜50mgである。また、非経口摂取で使用する場合には、好ましくは経口摂取した場合の摂取量が生体内に取り込まれるよう、適宜設定することができる。
【0038】
摂取方法としては、摂取の形態に関わらず、前記した摂取量を1日1回〜数回に分けて摂取すればよい。また、本発明においては、本発明の抽出物として、例えば、ローズマリー、レモン、ラベンダー、マジョラム、サイプレス及びオレンジの抽出物を分割して摂取してもよく、抽出物を分割して摂取する場合には連続的に摂取しても、断続的に摂取してもよい。具体的には、例えば、ローズマリーの抽出物、レモンの抽出物及びサイプレスの抽出物を第一抽出物として、ラベンダーの抽出物、オレンジの抽出物及びマジョラムの抽出物を第二抽出物として分割し、第一抽出物を朝に、第二抽出物を夜に摂取してもよい。また、第一抽出物としてローズマリーの抽出物とレモンの抽出物を、第二抽出物としてラベンダーの抽出物とオレンジの抽出物を前記と同様に摂取してもよい。サイプレスの抽出物を第一抽出物として、マジョラムの抽出物を第二抽出物としてもよい。
【0039】
また、本発明においては、本発明の抽出物をアロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いてもよく、所定の場所に撒布、拡散して、吸入し得る形態で使用することもできる。該オイルは、拡散器(ディフューザー)等を用いて撒布、拡散してもよい。撒布・拡散場所としては、特に限定されないが、例えば、前記した疾患や前記疾患に基づく症状を呈する患者が存在する家庭、病院、施設などで用いることが好ましい。具体的には、例えば、ローズマリーの抽出物、レモンの抽出物及びサイプレスの抽出物を第一抽出物として、ラベンダーの抽出物、オレンジの抽出物及びマジョラムの抽出物を第二抽出物として分割し、第一抽出物を朝に、第二抽出物を夜に、それぞれ病院や施設内で拡散器(ディフューザー)等を用いて撒布、拡散してもよい。第一抽出物、第二抽出物としては、上述の例も用いることができる。
【0040】
また、本発明の一態様として、本発明の抽出物を吸入することを特徴とする、BDNFの産生促進方法、炎症反応抑制方法、アミロイドβ蛋白の産生抑制方法、及びタウ蛋白のリン酸化阻害方法を提供する。炎症反応としては、脳内の炎症反応が好ましい。ここで用いられる抽出物は、本発明の抽出物の項を参照して用いることができる。また、吸入方法としては、本発明の抽出物を吸入できるのであれば、公知の吸入方法が限定されずに用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
実施例1
アロマテラピーによる、認知機能への影響を調べた。
【0043】
具体的には、老化促進・認知機能低下モデル動物であるSAMP8/TaSlcマウス(雄、3ヶ月齢、Japan SLC Inc.)を個別にケージに入れた状態で飼育室にて飼育した(n=10)。その際に、アロマテラピー第1群には朝(8〜12時)に真正ラベンダー精油、オレンジ精油の1:2混合物を、夕方(16〜19時)にレモン精油、ローズマリー・カンファー精油の1:2混合物を、それぞれ直径10cmの濾紙に5μL含浸させて、個々の飼育ケージの近くに載置した。またアロマテラピー第2群には朝(8〜12時)に真正ラベンダー精油、オレンジ精油及びマジョラム精油の4:8:3混合物を、夕方(16〜19時)にレモン精油、ローズマリー・カンファー精油及びサイプレス精油の4:8:3混合物を、それぞれ直径10cmの濾紙に5μL含浸させて、個々の飼育ケージの近くに載置した。さらにアロマテラピー第3群には朝(8〜12時)に真正ラベンダー精油、オレンジ精油及びマジョラム精油の2:4:3混合物を、夕方(16〜19時)にレモン精油、ローズマリー・カンファー精油及びサイプレス精油の2:4:3混合物を、それぞれ直径10cmの濾紙に5μL含浸させて、個々の飼育ケージの近くに載置した。このようなタイムスケジュールでアロマオイルに曝露させて治療を行うことを1サイクルとし、かかるサイクルを週に4日間、2ヶ月にわたって行った。そして、治療開始前と2ヶ月後に、それぞれ以下に示す空間作業記憶に関するテストを行った。結果を図1に示す。なお、対照としては、アロマオイルに曝露させない以外は同じようにして飼育した対照群(Control群)を用いた。
【0044】
<空間作業記憶に関するテスト>
Y字迷路試験(Y-maze test)を用いて評価した。具体的には、同じ大きさの3本のアームが120°で連結されたY字型の装置内を自由に8分間移動させ、進入したアームを順番に記録した。3本のアームに侵入した総回数のうち、3回連続で異なるアームを選択した場合を自発交替行動とし、時間内のアームへの総進入回数及び自発交替行動数をカウントし、以下の式から、自発交替行動率(%)を算出した。なお、自発交替行動率(%)が高いほど、空間作業記憶が高く認知機能が良好であることを示す。
自発交替行動率(%)=自発交替行動数/(総進入回数-1)×100
【0045】
図1にY字迷路試験における自発交替行動率(%)を示す。治療開始時、各群の自発交替行動率は平均68.0%〜68.1%であり、全個体の認知機能は正常範囲であった。そして、治療開始2ヵ月後には、自発交替行動率は対照群では平均53.4%まで低下し認知機能障害が認められたが、アロマテラピー第1群は平均61.0%となり対照群と比較して有意に自発交替行動率が高かった(p<0.05, Bonferroni test)。さらにアロマテラピー第2群では平均64.2%(p<0.001)、アロマテラピー第3群では平均63.0%(p<0.01)となり、第1群より高い平均値を示し、かつ対照群との間の有意水準も第1群よりも高かった。これらの結果は、各アロマテラピーがSAMP8マウスの認知機能障害を予防あるいは改善し、中でもマジョラムとサイプレスが含まれるアロマテラピー第2群及び第3群の方が高い効果を有することを示唆している。
【0046】
実施例2
アロマテラピーによる、脳内のBDNF産生量に対する影響を調べた。
【0047】
具体的には、実施例1の治療終了時に、100mg/kgペントバルビタールナトリウム(共立製薬)を腹腔内投与して深麻酔下でマウスを開腹し、心臓より生理食塩水で灌流して血液を取り除いた後に脳を摘出し海馬及び大脳皮質を採取した。得られた組織に、0.5mMのフェニルメチルスルホニルフルオライド(Sigma-Aldrich)、1×PhosSTOP(Roche)及び1%プロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク)を含む2×RIPA緩衝液を10倍量添加してホモジネートし、さらに15,000×g、4℃で60分間遠心分離して、上清を蛋白質抽出物として回収した。
【0048】
次に、BDNF測定キット(プロメガ)を用いて、海馬及び大脳皮質中のBDNF量を測定した。結果を図2に示す。
【0049】
図2より、記憶に関する脳領域である海馬や大脳皮質において、アロマテラピー第1〜3群において総じてBDNF量が増加する傾向にあることが分かった。中でもマジョラムとサイプレスを含む第2群と第3群においてその傾向が強かった。この結果は、アロマテラピーが脳におけるBDNF産生を促進することによって、SAMP8マウスにおける認知機能障害を改善することを示唆しており、中でもアロマテラピー第2群及び第3群においてその効果が高いことを示唆している。
【0050】
実施例3
アロマテラピーによる、炎症性サイトカイン産生に対する影響を調べた。
【0051】
具体的には、実施例2で調製した蛋白質抽出物を用い、IL-1β測定キット(R and D)を用いて海馬及び大脳皮質中のIL-1β量を測定した。結果を図3に示す。
【0052】
図3より、記憶に関する脳内領域である海馬において、アロマテラピー第1〜3群において総じてIL-1β量が減少しており、中でもマジョラムとサイプレスを含む第2群と第3群においてその傾向が強かった。また、海馬同様記憶に関する脳領域である大脳皮質においても、第2群と第3群でIL-1β量が減少していることが分かった。これらの結果は、アロマテラピーが脳における炎症反応を抑制することによって、SAMP8マウスにおける認知機能障害を改善することを示唆しており、中でもアロマテラピー第2群及び第3群においてその効果が高いことを示唆している。
【0053】
実施例4
アロマテラピーによる、アミロイドβ蛋白産生に対する影響を調べた。
【0054】
具体的には、実施例2で調製した蛋白質抽出物を用い、アミロイドβ測定キット(和光純薬)を用いて大脳皮質中のアミロイドβ1-42蛋白量及びアミロイドβ1-40蛋白量を測定した。結果を図4に示す。
【0055】
図4より、記憶に関する脳内領域である大脳皮質において、アロマテラピー第1〜3群において総じてアミロイドβ1-42量が減少していることが分かり、また、アミロイドβ1-40量も第3群において減少する傾向が見られた。これらの結果は、アロマテラピーが脳におけるアミロイドβ産生を抑制することによって、SAMP8マウスにおける認知機能障害を改善することを示唆しており、中でもアロマテラピー第2群及び第3群においてその効果が高いことを示唆している。
【0056】
実施例5
アロマテラピーによる、タウ蛋白のリン酸化に対する影響を調べた。
【0057】
具体的には、実施例2で調製した蛋白質抽出物を用い、抗リン酸タウ抗体AT8を用いたウェスタンブロッティング法により海馬及び大脳皮質中のリン酸化タウ量を測定した。結果を図5に示す。
【0058】
図5より、記憶に関する脳内領域である海馬及び大脳皮質において、マジョラムとサイプレスを含む第2群及び第3群においてリン酸化タウが減少する傾向が見られた。これらの結果は、アロマテラピーが脳におけるタウ蛋白のリン酸化を抑制することによって、SAMP8マウスにおける認知機能障害を改善することを示唆しており、中でもアロマテラピー第2群及び第3群においてその効果が高いことを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、脳内のBDNFの産生促進作用及び炎症性サイトカイン産生抑制作用に優れ、また、アミロイドβ産生抑制作用及びタウ蛋白のリン酸化抑制作用にも優れることから、アルツハイマー病、ダウン症候群、タウオパチー(嗜銀顆粒性認知症、神経原繊維変化型老年期認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質変性症、ピック病等)、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、うつ病、双極性障害、不安障害、パニック障害、統合失調症、自閉症、外的神経損傷、虚血性脳障害等の疾患や前記疾患に基づく症状の予防、改善又は治療に好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5