(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-63223(P2021-63223A)
(43)【公開日】2021年4月22日
(54)【発明の名称】多孔質シクロデキストリンポリマー
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20210326BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20210326BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20210326BHJP
【FI】
C08B37/16
B01J20/26 G
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-171802(P2020-171802)
(22)【出願日】2020年10月12日
(31)【優先権主張番号】201910962587.7
(32)【優先日】2019年10月11日
(33)【優先権主張国】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】謝 顕伝
(72)【発明者】
【氏名】屠 一舟
【テーマコード(参考)】
4C090
4G066
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA10
4C090BB12
4C090BB32
4C090BB36
4C090BB52
4C090BB76
4C090BB84
4C090BB92
4C090BD21
4C090BD36
4C090CA36
4C090DA05
4C090DA31
4G066AC14B
4G066BA22
4G066BA26
4G066CA56
4G066DA08
4G066FA07
4G066FA11
4G066FA34
4G066FA37
4G066FA38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い比表面積を有する両親媒性シクロデキストリンポリマーを調製するための方法およびその使用の提供。
【解決手段】芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトする工程と、触媒としてルイス酸を用いた条件下で、アルキル化剤により架橋する工程と、を有する両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの調製方法であって、前記両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積は、1200m
2g
-1以上であることを特徴とする調製方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトする工程と、
触媒としてルイス酸を用いた条件下で、アルキル化剤により架橋する工程と、を有する両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの調製方法であって、
前記両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積は、1200m2g-1以上であることを特徴とする調製方法。
【請求項2】
前記芳香族化合物は、ハロゲン化芳香族化合物であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記芳香族化合物は、ベンジル化試薬であることを特徴とする請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
前記ベンジル化試薬とシクロデキストリンのモル比は、3〜7:1の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
アルキル化剤は、ベンゼン環を有するアルキル化剤を1種または2種以上含むことを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項6】
前記ベンゼン環を有するアルキル化剤は、p-ジクロロベンジル、ビフェニルジクロロベンジル、p-ジブロモベンジル、およびビフェニルジブロモベンジルからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の調製方法。
【請求項7】
アルキル化剤とベンジル化シクロデキストリンのモル比が5〜8:1であることを特徴とする請求項6に記載の調製方法。
【請求項8】
前記ルイス酸は金属塩化物または硫酸であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項9】
シクロデキストリンを溶解し、氷水浴で冷却し、水素化ナトリウムを加えて攪拌し、グラフトする試薬を滴下してから、室温まで加熱して一晩攪拌し、
一晩反応させた後淡黄色の溶液を得、メタノールを加えて急冷し反応を停止させ、
蒸留水を加えて、混合し、連続的にジクロロメタンで抽出し、乾燥させ、濾過し、ジクロロメタンの沸点で回転蒸発させて、淡黄色の溶液を得る、ハロゲン化芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトするステップaと、
ベンジル化シクロデキストリンとアルキル化剤を溶解し、窒素雰囲気で触媒としてルイス酸を加えて反応させ、
褐色の沈殿物を得、ろ液が中性で無色になるまでメタノールと水で洗浄し、メタノールでソックスレー抽出し、真空乾燥機で乾燥させ、粉砕、篩い分けて、褐色粉末を得るステップbと、を含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項10】
芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトし、ルイス酸を触媒とする条件下で、アルキル化剤で架橋されて得られ、
窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積が1200m2g-1以上である両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの有機微量汚染物質の吸着および濃縮における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保護材料の技術分野に属し、具体的には、高い比表面積を有する両親媒性シクロデキストリンポリマーを調製するための方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリン(CD)は、デンプンに対するシクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼの作用によって調製される。シクロデキストリン材料は、低コスト、優れた吸着性能、および優れた再現性能を有するという利点があり、潜在的な新しい吸着剤である。そのユニークな疎水性の空洞と親水性の外側の裏地は、ホストーゲストメカニズムを通じて有機汚染物質をカプセル化できる。また、CD分子は、反応性が高く、両端にも多数の水酸基が存在し、異なる架橋剤で架橋して高分子ネットワークを形成でき、汚染物質に対する吸着効果もある。しかしながら、現在報告されているシクロデキストリンポリマーは、比表面積が非常に低く(1〜10m
2g
-1)、細孔構造がほとんどないため、工業用途には制限がある。
【0003】
フーリエアルキル化反応は、超高架橋ポリマーの調製によく使用され、合成が簡単で、材料の多孔性、非毒性、優れた熱安定性などの特性を備えている。しかしながら、超高架橋のポリマーは、疎水性が高く密度が低い傾向があるため、一般的にガス吸着に使用され、濡れ性が悪いため、水処理への用途は制限される。したがって、両親媒性の超高架橋シクロデキストリン材料、特に高い比表面積を有し、吸着容量が大きく、吸着速度が速く、再現性が高く、コストが低い理想的な材料を合成することが、新しい課題になっている。
【0004】
特許文献1にはシクロデキストリン誘導体が開示されている。特許文献1では、シクロデキストリンをベンジル基で完全に置換した後、特定の位置のベンジル基を水酸基で1個または2個取り除いてさらに修飾することが記載されている。
本発明では、グラフト反応の供給比を直接制御し、置換度を低くすることにより、得られた中間体は、次の反応部位のための大量のベンジル基を有し、同時に大量の水酸基を保持する。次のステップのアルキル化反応後、本発明により得られるポリマーの構造は、(BnO)x-(HO)y-CD-[C
14H
12]z-[C
8H
8]
rである。ここで、x+y=21、zおよびrは自然数である。
特許文献1で開示された(BnO)m-CD-[CH
2-O-R
4-CN]nの構造と異なる点は、後者の反応部位ではシクロデキストリンの水酸基がエーテル結合を形成し、m+n=21(完全に置換され)、得られた物質は中間体であることである。前者は水酸基を保持し、x<21(低置換度)、且つアルキル化反応部位がベンジル基の芳香環にあり、最終的な合成物質は中間体ではなくポリマーである。この違いにより、最終的な物質には大量のベンジル基、水酸基およびベンゼン環を含む架橋剤が含まれる。重合プロセス中、これらの剛性構造は細孔形成に好ましい条件となり、大きな疎水効果を生じ、大量の水酸基は、材料を親水性にし、汚染物質を吸着するときに水素結合効果を呈する。両者の組み合わせにより、材料は有機物の吸着に顕著な利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】:WO2011/117317
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Wood,C.D.;Tan,B.;Trewin,A.;Su,F.;Rosseinsky,M.J.;Bradshaw,D.;Sun,Y.;Zhou,L.;Cooper,A.I.,MicroporousOrganicPolymersforMethaneStorage.AdvancedMaterials2008,20,(10),1916-1921.
【0007】
【非特許文献2】Schute,K.;Rose,M.,Metal-freeandScalableSynthesisofPorousHyper-cross-linkedPolymers:TowardsApplicationsinLiquid-PhaseAdsorption.ChemSusChem2015,8,(20),3419-23.
【0008】
【非特許文献3】Li,H.;Meng,B.;Chai,S.H.;Liu,H.;Dai,S.,Hyper-crosslinkedbeta-cyclodextrinporouspolymer:anadsorption-facilitatedmolecularcatalystsupportfortransformationofwater-solublearomaticmolecules.ChemSci2016,7,(2),905-909.
【0009】
【非特許文献4】Alsbaiee,A.;Smith,B.J.;Xiao,L.;Ling,Y.;Helbling,D.E.;Dichtel,W.R.,Rapidremovaloforganicmicropollutantsfromwaterbyaporousbeta-cyclodextrinpolymer.Nature2016,529,(7585),190-4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術に対して、本発明では、シクロデキストリンをベンジル化し、剛性構造を有するアルキル化剤と架橋させて、高い比表面積を有する多孔質ポリマーを調製することを提案する。シクロデキストリンのベンジル化比率を調整することにより、シクロデキストリンの水酸基の多くが保持され、材料表面の親水性が調整される。このため、調製されたシクロデキストリンポリマー材料は、水中の有機汚染物質に対して非常に高速な吸着性能を発揮する。具体的には、1分間の除去率は95%以上であり、同時に活性炭の2倍以上、EPI-CDPの4倍以上の高い吸着容量を有する。そして、疎水作用、シクロデキストリン包接作用、および水素結合作用などの複数の吸着メカニズムが同時に作用するため、本発明のシクロデキストリン多孔質ポリマーでは疎水性汚染物質と親水性汚染物質を同時に吸着することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の技術的解決策は以下の通りである。
すなわち、本発明の両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの調製方法は、芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトする工程と、触媒としてルイス酸を用いた条件下で、アルキル化剤により架橋する工程と、を有する調製方法であって、両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積は、1200m
2g
-1以上であることを特徴とする。
具体的には、シクロデキストリンを溶解し、氷水浴で冷却し、水素化ナトリウムを加えて攪拌し、グラフトする試薬を滴下してから、室温まで加熱して一晩攪拌し、一晩反応させた後淡黄色の溶液を得、メタノールを加えて急冷し反応を停止させ、蒸留水を加えて、混合し、連続的にジクロロメタンで抽出し、乾燥させ、濾過し、ジクロロメタンの沸点で回転蒸発させて、淡黄色の溶液を得る、ハロゲン化芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトするステップaと、ベンジル化シクロデキストリンとアルキル化剤を溶解し、窒素雰囲気で触媒としてルイス酸を加えて反応させ、褐色の沈殿物を得、ろ液が中性で無色になるまでメタノールと水で洗浄し、メタノールでソックスレー抽出し、真空乾燥機で乾燥させ、粉砕、篩い分けて、褐色粉末を得るステップbと、を含むことが好ましい。
また、本発明では、芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトし、ルイス酸を触媒とする条件下で、アルキル化剤で架橋されて得られ、 窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積が1200m
2g
-1以上である両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの有機微量汚染物質の吸着および濃縮における使用を提案する。
【0012】
高い比表面積を有するシクロデキストリン多孔質ポリマーを調製し、芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトした後、ルイス酸を触媒として一定温度でアルキル化剤により架橋する。反応終了後、濾過し、水、メタノールで数回洗浄し、乾燥させて高い比表面積を有する多孔質ポリマーを得る。
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、グラフト化芳香族化合物はハロゲン化化合物であることが好ましい。これは、グラフト反応において、シクロデキストリン水酸基上の水素原子を水素化ナトリウムで置換した後、ハロゲン化芳香族化合物を添加することが好ましいためであり、以下に反応式を示す。
【0014】
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、グラフト化されたハロゲン化化合物は、ベンジル化試薬であることが好ましい。ベンジル化反応の条件は穏やかで、室温でも反応でき、反応は迅速である。
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、前記ベンジル化試薬は、臭化ベンジル、および塩化ベンジルの1つまたはそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0015】
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、シクロデキストリン中には21個の水酸基が含有されている。ベンジル化の比率を制御するために、ベンジル化試薬とシクロデキストリンのモル比は1〜21:1の範囲とする。上記比率は3〜7:1が好ましく、7:1がより好ましい。さまざまなベンジル化率で架橋後の比表面積と接触角を比較することにより、低ベンジル化シクロデキストリンは、架橋後の比表面積がより大きく、材料表面が超疎水性(接触角118.3°)から親水性(接触角7.8°)に変化することがわかった。これは、低ベンジル化シクロデキストリンでは架橋の立体障害が低く、より多くのマイクロポアを生成し、より大きい比表面積を得るためである。同時に、大量の水酸基が保持されるため、表面の親水性が向上するとともに、液相吸着における材料の濡れ性が大幅に向上し、吸着の外部拡散プロセスを促進し、材料の吸着速度が非常に高くなる。
【0016】
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、アルキル化剤は、ベンゼン環を含むアルキル化剤の1つまたはそれらの組み合わせである。これは、剛性構造を有するベンゼン環が導入され、ポリマー中に大量のベンゼン環が存在することで、強い疎水作用が生じ、有機物に対する吸着・濃縮に重要な影響を及ぼすためである。
【0017】
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、前記ベンゼン環構造を含むアルキル化剤は、p-ジクロロベンジル、ビフェニルジクロロベンジル、p-ジブロモベンジル、ビフェニルジブロモベンジルからなる群から選択されたものであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。これらになかでも、ビフェニルジクロロベンジルとp-ジクロロベンジルとの組み合わせが好ましい。この組み合わせで得られたシクロデキストリンポリマーの比表面積は1273〜1445m
2g
-1であり、単一の架橋剤(710〜1061m
2g
-1)と比較すると、より高い比表面積を得ることができることがわかった。
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、アルキル化剤とベンジル化シクロデキストリンのモル比は5〜8:1であることが好ましい。
【0018】
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、使用するルイス酸は金属塩化物および硫酸のうちの少なくとも1種である。フーリエアルキル化反応プロセスは以下の通りである:アルキル化剤は、ルイス酸触媒の存在下で最初にカルベニウムイオンを生成し、次にカルベニウムイオンが豊富に帯電した芳香環と求電反応して、アルキル化生成物を生成する。
【0019】
上記シクロデキストリンポリマーにおいて、使用する金属塩化物は、塩化第二鉄および三塩化アルミニウムの少なくとも1種である。塩化第二鉄は、三塩化アルミニウムよりも耐水性が優れているので好ましい。
【0020】
本発明の高い比表面を有するシクロデキストリンポリマーは、水中の有機微量汚染物質を除去するための吸着剤として使用でき、水中の低濃度有機微量汚染物質を濃縮および抽出するための前処理材料としても使用できる。
さらに、前記シクロデキストリンポリマーは、芳香族化合物に対する濃縮および除去効果がより優れている。
【0021】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
本発明の調製方法では、調製された材料が1445m
2g
-1までの比表面積を有し、マイクロポア比表面積が523m
2g
-1に達し、良好な熱安定性を有し、275℃での質量損失は5%である。また、ベンジル化の比率を調整することにより、材料表面の親水性と疎水性を変更して、異なる用途に適用できる。例えば、ベンジル化の比率が7:1である場合、シクロデキストリン上の水酸基が一部保持されるため、材料の親水性が向上し、液相中の吸着プロセスに寄与し、材料の吸着速度が非常に高くなり、1分間の除去率は95%以上に達する。より高いベンジル化の比率、例えば14:1および21:1の場合、調製された材料表面の疎水性が非常に高いため、水分の干渉を取り除く必要があるガス吸着に使用できる。さらに、材料は両親媒性を有し、大量の疎水性基を含むと同時に大量の親水性水酸基を含むため、複数の吸着メカニズムが同時に作用し、疎水性汚染物質と親水性汚染物質を同時に吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】β-シクロデキストリンをベンジル化した後、ビフェニルジクロロベンジルおよびp-ジクロロベンジルと架橋して、高い比表面積を有するシクロデキストリン多孔質ポリマーを得る合成ルートを示す図である。
【
図2】実施例1のPBCD-B-Dの接触角を示す図である。
【
図3】実施例1のPBCD-B-Dと実施例2の窒素吸着等温線、比表面積、細孔サイズ分布を示す図である。
【
図4】実施例1のPBCD-B-Dの熱重量分析結果と赤外線吸収スペクトルを示すである。
【
図5】実施例1のPBCD-B-Dの走査型電子顕微鏡写真と透過型電子顕微鏡写真である。
【
図6】実施例1のPBCD-B-Dと比較例1、比較例2の選択された汚染物質に対する吸着速度を示す図である。
【
図7】実施例1のPBCD-B-Dと比較例1、比較例2の選択された汚染物質に対する吸着等温線を示す図である。
【
図8】実施例1のPBCD-B-Dの再現性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
材料を評価する方法およびそれに用いた機器は、具体的には以下の通りである。
物理化学吸着装置:ASAP2020(Micromeritics,USA)。材料の窒素吸着等温線、比表面積および細孔サイズ分布を測定した。
赤外線測定装置:TENSOR27(BRUKER,germany)。
【0024】
元素分析装置:ElementarvarioELcube(Elementar,germany)。材料のCHNO元素の含有量を測定してポリマー組成を調査した。
熱分析装置:Pyris1DSC(PerKinElmer,USA)。熱重量曲線により材料の熱安定性を調査した。
走査型電子顕微鏡:FEIQUANTA250FEG(FEI,USA)。サンプルの観察前に、表面を金メッキ処理して導電性を高めた。
透過型電子顕微鏡:JEM-2100F(JEOL,Japan)。
接触角測定装置:DSA100(Kruss,germany)。
実施例1
多孔質シクロデキストリンポリマーの調製:
【0025】
シクロデキストリンを溶解し、氷水浴で冷却し、水素化ナトリウムを加えて均一に攪拌し、ベンジル化試薬をゆっくりと滴下し一晩反応させ、ベンジル化シクロデキストリンを得た。ベンジル化試薬とシクロデキストリンのモル比は以下の表に示すとおりである。次に、ベンジル化シクロデキストリンに、ルイス酸触媒下でアルキル化剤を添加して、窒素雰囲気下で、磁気攪拌機能を備えた油浴内で、一定の回転速度と温度で一定時間反応させた。アルキル化剤とベンジル化シクロデキストリンのモル比は5〜8:1とした。反応温度は通常55〜100℃であり、好ましくは75〜90℃である。反応時間は、好ましくは15〜30時間、より好ましくは19〜25時間、最も好ましくは19時間である。上記の好ましい範囲外であると、反応が不完全となり収率が低くなる。得られた生成物を蒸留水およびメタノールで数回洗浄し、メタノールソックスレーで抽出し、真空下で乾燥させ、シクロデキストリン材料を得た。
【0026】
化学試薬および材料:表中のすべての実施例のサンプルは、同じ条件下で合成した。使用するシクロデキストリンはα、β、γシクロデキストリンのいずれか1つであり、ベンジル化試薬は臭化ベンジル、塩化ベンジルのいずれか1つであり、アルキル化剤は、ビフェニルジクロロベンジル、p-ジクロロベンジル中のいずれか1つまたはそれらの組み合わせであり、ルイス酸は金属塩化物または硫酸であり、金属塩化物は三塩化アルミニウムおよび塩化第二鉄のいずれか1つである。
【0027】
ベンジル化試薬とシクロデキストリンの比率を変更することにより、材料表面の親水性と疎水性が変わる。異なるサンプルを得るために、実施例1に基づいて、表1に示すように、ベンジル化試薬とシクロデキストリンの比率を調整し、得られたポリマーを評価した結果を表1に示す。
【0028】
表1には、低ベンジル化のシクロデキストリンでは架橋後の比表面積が大きくなっていることが示される。これは、低ベンジル化シクロデキストリンでは、架橋反応時の立体障害がより小さく、メソポアが十分に抑制され、より多くのマイクロポアが形成され、より大きい比表面積が得られるためである。そして水酸基の一部が保持され、親水性が向上し、材料表面の濡れ性が向上し、吸着の外部拡散プロセスが改善され、吸着速度が顕著に高くなり、1分間の除去率が95%に達した。ベンジル化試薬とシクロデキストリンのモル比は1:1〜21:1の範囲であり、3〜7:1が好ましく、7:1がより好ましい。
【0029】
表2に示すように、種類の異なるシクロデキストリンによって得られたポリマーを分析した。表2より、α、β及びγシクロデキストリンのいずれにおいても架橋後に比表面積が大きく良好な吸着効果を有する試料が得られることがわかった。
【0030】
表3に、触媒の影響を確認するための評価を行った結果を示す。表3より、金属塩化物と硫酸のいずれを触媒として使用しても反応が進行することがわかった。三塩化アルミニウムは水を吸収するため、塩化第二鉄が好ましい。硫酸を触媒として使用すると、反応の耐水性が向上するが、得られた試料の比表面積が低かった。臭化ベンジルと塩化ベンジルをベンジル化試薬として使用すると良好な効果を達成できることがわかった。
【0031】
表4には、架橋剤(アルキル化剤)の種類を変えて評価した結果を示す。架橋剤の種類によりポリマーの比表面積が異なり、吸着効果が異なることが確認された。BCMBPとDCXの組み合わせにおいて効果が最も高く、次に高いのはBCMBP、最後はDCXであることがわかった。
表の符号の意味および解釈は以下の通りである:
aベンジル化試薬とシクロデキストリンのモル比
b比表面積単位:m
2g
-1
BnBr:臭化ベンジル
BnCl:塩化ベンジル
BCMBP:ビフェニルジクロロベンジル
DCX:p-ジクロロベンジル
FeCl
3:塩化第二鉄
AlCl
3:三塩化アルミニウム
非常に高い:5分以内に吸着バランスに達した、
高い:10分以内に吸着バランスに達した、
遅い:20分以内に吸着バランスに達した、
非常に遅い:30分以内に吸着バランスに達した、
本発明の合成方法をより明確にするため、以下、番号1(PBCD-B-D)について具体的に説明する。
高い比表面を有する両親媒性シクロデキストリンポリマーPBCD-B-Dの調製:
部分的にベンジル化されたシクロデキストリンPBCDの調製
【0032】
丸底フラスコに2gのβ-シクロデキストリンを入れて、40mLの無水ジメチルホルムアミドに溶解し、低温の恒温反応槽で0℃まで冷却した後、0.59gの60%水素化ナトリウムを加え、15分間攪拌した。
定圧漏斗で0.8mLの臭化ベンジルをゆっくりと溶液に滴下した後、室温まで加熱し、一晩攪拌した。
一晩反応させた後、5mLのメタノールを加え反応を停止させた。
【0033】
100mLの蒸留水を加え、ジクロロメタンで連続的に3回抽出した(各回50mL)。得られた溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥・濾過した後、ロータリーエバポレーターを使用して35℃で濃縮して、部分的にベンジル化されたシクロデキストリンPBCDを得た。
PBCD-B-Dの調製
【0034】
1)1.06gのPBCD、0.82gのビフェニルジクロロベンジルおよび0.19gのp-ジクロロベンジルを厚壁の圧力ボトルに入れ、40mLの無水1,2-ジクロロエタンで溶解し、窒素雰囲気下で4.12gの無水塩化第二鉄をゆっくりと加えた。80℃に加熱し、19時間反応させた。
【0035】
2)反応終了後、褐色の沈殿物を回収し、濾液が中性で無色になるまで水とメタノールで洗浄した。メタノールで24時間ソックスレー抽出した後、50℃の真空オーブンで24時間乾燥させ、粉砕してふるいにかけ、褐色の粉末PBCD-B-Dを得た。
実施例2
硫酸ルートによる高い比表面積を有するシクロデキストリンポリマーPBCD-B-D-Hの調製:
a.部分的にベンジル化されたシクロデキストリンPBCDの調製
【0036】
1)丸底フラスコに2gのβ-シクロデキストリンを入れて、40mLの無水ジメチルホルムアミドに溶解し、低温恒温反応槽で0℃に冷却した後、0.59gの60%水素化ナトリウムを加え、15分間攪拌した。
2)定圧漏斗で0.8mLの臭化ベンジルを溶液にゆっくりと滴下した後、室温まで加熱し、一晩攪拌した。
3)一晩反応させた後、5mLのメタノールを加え反応を停止させた。
【0037】
4)100mLの蒸留水を加え、ジクロロメタンで連続的に3回抽出した(各回50mL)。得られた溶液を無水硫酸ナトリウムで乾燥・濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて35℃で濃縮し、部分的にベンジル化されたシクロデキストリンPBCDを得た。
b.PBCD-B-D-Hの調製
【0038】
1)1.06gのPBCD、0.82gのビフェニルジクロロベンジルおよび0.19gのp-ジクロロベンジルを三口フラスコに入れ、20mLの無水1,2-ジクロロエタンに溶解し、5mLの98%硫酸をゆっくりと加えた後、84℃に加熱し、19時間反応させ、同時に反応物を還流させた。
【0039】
2)反応終了後、褐色の沈殿物を回収し、濾液が中性で無色になるまで水とエタノールで洗浄した。50℃の真空オーブンで24時間乾燥させ、粉砕してふるいにかけ後、褐色の粉末PBCD-B-D-Hを得た。
比較例1:非多孔β-シクロデキストリンポリマーEPI-CDPの調製
【0040】
EPI-CDPは、最も広く使用されているシクロデキストリンポリマーであるが、細孔構造が少なく、吸着容量が小さいという欠点がある。それと比較すると、本発明は、1445m
2g
-1の比表面積を有し、同時に吸着速度が非常に高く、1分間の除去率が95%以上に達する。
EPI-CDPは、Alsbaieeらの報告した方法に従い調製した。
【0041】
(1)3gのβ-シクロデキストリンを丸底フラスコに入れ、5mLの6.25molL
-1のNaOHアルカリ溶液を加え、β-シクロデキストリンを完全に溶解させた。(2)フラスコをオイルバスに入れ、温度を60℃、回転速度を120rpmに調整し、2.5mLのエピクロロヒドリン溶液を滴下した後、1時間反応させた。(3)反応終了後に得られた白色ゲルを回収し、ビーカーに濾過し、蒸留水、テトラヒドロフランおよびジクロロメタンで3〜4回洗浄した。(4)洗浄した生成物を50℃で12〜24時間真空凍結乾燥した。(5)得られた非多孔β-シクロデキストリンポリマーEPI-CDPを粉末(60〜80メッシュ)に粉砕した。
比較例2:粒状活性炭(GAC)
【0042】
水処理で最も広く使用される吸着剤である。大量のマイクロポア構造を有するが、吸着速度が遅く、30分でもバランスが取れなく、再現のためのエネルギー消費が大きいという欠点がある。粒状活性炭(DARCO-AC、12〜20メッシュ)はSigma会社から購入し、細かい粉末(60〜80メッシュ)に粉砕した。それと比較すると、本発明の試料は、1445m
2g
-1の比表面積を有し、吸着速度が非常に速く、1分間の除去率が95%以上に達した。
実施例3:
【0043】
実施例1で調製した高い比表面を有する両親媒性シクロデキストリンポリマーPBCD-B-Dの材料性能を十分に確認するために、活性炭GACおよび非多孔シクロデキストリンポリマーEPI-CDPを比較材料とし、異なる水溶性の4つのモデル汚染物質(3-フェニルフェノール、2-ナフトール、p-ニトロフェノール、p-クロロフェノール)を選択して吸着実験を行った。具体的な方法は以下の通りである。
【0044】
使用する吸着剤は、使用前に粉末(60〜80メッシュ)に粉砕した。採取したサンプルをAgilent 0.22μmPTFE-Qフィルターで濾過した(上記の汚染物質の吸着はほとんどない)。次に、水サンプル中のさまざまな汚染物質の濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。クロマトグラフィーカラムはAgilent XDB-C18分析カラム(5μm,4.6×250mm)を使用し、検出器は紫外線検出器とした。
【0045】
吸着等温線を測定する方法は、以下の通りである。10mgの吸着剤を汚染物質濃度が0.1〜2.4mmolL
-1である40mLの汚染物質溶液に注ぎ込んだ。20℃で、150rpmの回転速度で12時間反応させた。吸着容量は次の式を使用した。
【0046】
ここで、q
e(mmolg
-1)はgあたりの汚染物質の吸着量であり、C
0(mmolL
-1)とC
e(mmolL-
1)はそれぞれ汚染物質の初期濃度と残留濃度である。m(g)は吸着剤の質量、V(L)は汚染物質水溶液の体積である。
【0047】
吸着速度評価の方法は、以下の通りである。10mgの吸着剤を汚染物質濃度が0.1mmolL-
1の40mlの汚染物質溶液に注ぎ込んだ。磁気攪拌下で、少量の水サンプルを一定の間隔でシリンジにより採取し、フィルターで濾過した後HPLCで測定した。溶液中の汚染物質の除去率は、次の式を使用して算出した。
ただし:C
0(mmoll-
1)とC
e(mmoll-
1)はそれぞれ溶液中の汚染物質の元の濃度と残留濃度である。
【0048】
以下は、さまざまな水溶性汚染物質吸着実験の結果である。PBCD-B-Dはすべての対象汚染物質に対して吸着効率が非常に高く、1分間の除去効率が95%以上に達した。また、PBCD-B-Dはすべての対象汚染物質に対して吸着容量が活性炭の2倍以上、EPI-CDPの4倍以上であり、PBCD-B-Dの吸着容量は汚染物質の水溶性の影響をあまり受けないことがわかった。
図6に速度測定結果を示し、
図7に、吸着等温線を示す。
【0049】
(1)3-フェニルフェノール(C
s:0.14gL
-1)
初期濃度2.4mmolL
-1では、PBCD-B-Dの3-フェニルフェノールのバランス吸着容量は3.38mmolg
-1と高く、GACの2倍を超え(1.52mmolg
-1)、EPI-CDPの4倍(0.77mmolg
-1)であった。PBCD-B-Dの10秒以内の除去率は93.23%であり、除去率は1分以内に99%以上に達し、30分以内に、除去率は100%に近付いた(機器の定量限界未満)。これに対して、GACは30分以内にはバランスに達せず、除去率は77.71%であり、非多孔のEPI-CDPも30分以内にはバランスに達せず、除去率は70.42%でより低かった。
【0050】
(2)2-ナフトール(C
s:0.76gL
-1)
【0051】
初期濃度2.4mmolL
-1では、2-ナフトールに対するPBCD-B-Dの吸着容量は2.50mmolg
-1に達し、GAC(1.52mmolg
-1)およびEPI-CDP(0.77mmolg
-1)よりはるかに高かった。PBCD-B-Dは10秒以内の除去率は95.99%であり、除去率が1分以内に99%以上に達し、30分以内に、除去率が100%に近付いた(機器の定量限界未満)。これに対して、GACとEPI-CDPは30分以内にはバランスに達せず、除去率はそれぞれ85.55%と49.22%であった。
【0052】
(3)p-ニトロフェノール(C
s:11.6gL
-1)
初期濃度2.4mmolL
-1では、p-ニトロフェノールに対するPBCD-B-Dの吸着容量は1.96mmolg
-1に達し、GAC(1.32mmolg
-1)とEPI-CDP(0.43mmolg
-1)よりもはるかに高かった。PBCD-B-Dは10秒以内に除去率が79.25%となり、除去率は1分以内に95%以上に達し、30分以内に、除去率が100%に近付いた(機器の定量限界未満)。これに対して、GACとEPI-CDPは30分以内にはバランスに達せず、除去率はそれぞれ87.74%と47.34%であった。
(4)4-クロロフェノール(C
s:24gL
-1)
【0053】
初期濃度2.4mmolL
-1では、4-クロロフェノールに対するPBCD-B-Dの吸着容量は1.96mmolg
-1に達し、GAC(0.99mmolg
-1)とEPI-CDP(0.22mmolg
-1)よりもはるかに高かった。PBCD-B-Dは10秒以内に除去率が89.91%となり、除去率は1分以内に95%以上に達し、30分以内に、除去率が100%に近付いた(機器の定量限界未満)。これに対して、GACとEPI-CDPは30分以内にはバランスに達せず、除去率はそれぞれ74.49%と29.01%であった。高い比表面積は吸着能力の重要な要素であり、シクロデキストリンに大量の表面水酸基が保持されているため、親水性汚染物質と水素結合を生成する可能性が高く、PBCD-B-Dは親水性汚染物質にも良好な吸着性能を持っていることがわかった。これらの結果は、PBCD-B-Dが効果的な両親媒性吸着剤であることを示した。
【0054】
実施例4:
実施例1で調製された両親媒性超高架橋多孔質シクロデキストリンポリマーPBCD-B-Dの再現実験
【0055】
材料の再現性能実験の方法は、以下の通りである。40mgのPBCD-B-Dを、40mLの0.1mmolL
-1の3-フェニルフェノール溶液に加え、20℃において、200rpmで10分間振動した。PBCD-B-Dを濾過・分離してエタノールで脱着により再現した。濾液中の3-フェニルフェノールの濃度を分析し、除去効率を算出した。このプロセスを5回繰り返して再現性能を調べた。
【0056】
図8に示すように、単純なエタノールでの溶出再現によって、PBCD-B-Dは迅速に吸着および脱着できることが確認された。3-フェニルフェノールに対して室温で5回吸着-脱着実験を行った結果、吸着効率がほとんど低下せず、97.89%であった。このように、材料の優れた吸着性能および良好な再現性を有し、本発明の多孔質シクロデキストリンポリマーは、非常に優れた吸着・濃縮効果を有する材料である。
【0057】
図1は、超高架橋多孔質シクロデキストリンポリマーPBCD-B-Dを合成するルートを示す図である。まずβ-シクロデキストリンを部分的にベンジル化し、アルキル化剤ビフェニルジクロロベンジルとp-ジクロロベンジルで架橋して、多孔質ポリマーを形成する。
【0058】
図2は、ベンジル化の比率を変えた時のポリマーの接触角の変化を示す。β-シクロデキストリンのベンジル化の比率が14:1から7:1に減少すると、材料表面が超疎水性から親水性に変化した。これは、水酸基の作用によるものである。高ベンジル化シクロデキストリン材料は、超疎水性と軽量のため、濡れ性が悪く、液相吸着の拡散プロセスに影響を及ぼす。逆に、PBCD-B-Dは水にすばやく分散できる。この良好な濡れ性により、その多孔質構造と相まって、有機汚染物質の迅速な除去が可能となる。たとえば、水の干渉を取り除く必要があるガス吸着では、ベンジル化の程度を調整することにより、さまざまな条件下でこの材料を使用できる。
【0059】
図3は、実施例1のPBCD-B-Dと実施例2の試料の窒素吸着等温線図と細孔サイズ分布図を示す。得られた材料はすべて超高比表面積で大きなマイクロポア体積を示すことが分かる。また、細孔構造の分布は主にマイクロポアである。
【0060】
図4は、実施例1のPBCD-B-Dの熱重量分析結果および赤外線吸収スペクトルを示す図である。熱重量分析結果から分かるように、PBCD-B-Dは275℃で質量損失が5%しかない。他のシクロデキストリン材料と比較すると、架橋度が高く、高い熱安定性を有すると考えられる。良好な熱安定性は実際の用途における材料の利点を示している。
【0061】
赤外線吸収スペクトルは、上から順にPBCD、β-シクロデキストリン、PBCD-B-D、DCX、BCMBPである。β-シクロデキストリンの赤外線スペクトルと比較すると、PBCD-B-Dでは3400cm
-1付近に明確な水酸基ピークが認められた。これは、シクロデキストリンの水酸基が一部保持されていることを示す。1450cm
-1〜1600cm
-1の範囲の吸収は、芳香環が付加したことを示し、680cm
-1〜880cm
-1のピークは、芳香環の炭化水素の変角振動の吸収を示す。1100cm
-1のピークは、脂肪族エーテルの存在を示す。また、反応原料ビフェニルジクロロベンジルとp-ジクロロベンジルと比較すると、PBCD-B-Dでは680cm
-1のクロロメチルのピークが消失した。これらの変化はポリマーの架橋を示す。
【0062】
図5は、実施例1のPBCD-B-Dの走査電子顕微鏡写真と透過型電子顕微鏡写真である。SEM写真からは、PBCD-B-Dの表面形態を分かり、粒子サイズが均一であることが確認された。該材料は明らかにマクロ細孔構造を有し、これは窒素吸着等温線によって得られた細孔サイズ分布と一致する。TEM写真からは、この材料は多量のマイクロポア構造を有することが分かりる。このことは、該材料は細孔体積が大きく、比表面積が非常に高いことを示す。
【手続補正書】
【提出日】2021年1月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンジル化試薬をシクロデキストリンにグラフトして、ベンジル化シクロデキストリンを得る工程と、
触媒としてルイス酸を用いた条件下で、アルキル化剤により架橋する工程と、を有する両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの調製方法であって、
前記ベンジル化試薬は、臭化ベンジル、および塩化ベンジル1つまたはそれらの組み合わせであり、
前記アルキル化剤は、p-ジクロロベンジル、ビフェニルジクロロベンジル、p-ジブロモベンジル、およびビフェニルジブロモベンジルからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積は、1200m2g-1以上であることを特徴とする調製方法。
【請求項2】
前記ベンジル化試薬と前記シクロデキストリンのモル比は、3〜7:1の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記アルキル化剤と前記ベンジル化シクロデキストリンのモル比が5〜8:1であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項4】
前記ルイス酸は金属塩化物または硫酸であることを特徴とする請求項1に記載の調製方法。
【請求項5】
シクロデキストリンを溶解し、氷水浴で冷却し、水素化ナトリウムを加えて攪拌し、グラフトする試薬を滴下してから、室温まで加熱して一晩攪拌し、
一晩反応させた後淡黄色の溶液を得、メタノールを加えて急冷し反応を停止させ、
蒸留水を加えて、混合し、連続的にジクロロメタンで抽出し、乾燥させ、濾過し、ジクロロメタンの沸点で回転蒸発させて、淡黄色の溶液を得る、ハロゲン化芳香族化合物をシクロデキストリンにグラフトするステップaと、
ベンジル化シクロデキストリンとアルキル化剤を溶解し、窒素雰囲気で触媒としてルイス酸を加えて反応させ、
褐色の沈殿物を得、ろ液が中性で無色になるまでメタノールと水で洗浄し、メタノールでソックスレー抽出し、真空乾燥機で乾燥させ、粉砕、篩い分けて、褐色粉末を得るステップbと、を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項6】
ベンジル化試薬をシクロデキストリンにグラフトし、ルイス酸を触媒とする条件下で、アルキル化剤で架橋されて得られ、
前記ベンジル化試薬は、臭化ベンジル、および塩化ベンジルの1つまたはそれらの組み合わせであり、
前記アルキル化剤は、p-ジクロロベンジル、ビフェニルジクロロベンジル、p-ジブロモベンジル、およびビフェニルジブロモベンジルからなる群から選択される少なくとも1種であり、
窒素ガスによる吸着脱離等温線から算出されたBET比表面積が1200m2g-1以上である両親媒性シクロデキストリン多孔質ポリマーの有機微量汚染物質の吸着および濃縮における使用。