【解決手段】エンジン40の駆動力が、自動クラッチ50を介して、多段式の変速歯車機構60に入力される。手動変速モードが選択されているときに、操作レバー10を前方へ揺動操作することによりシフトダウンが行われ、操作レバー10を後方へ揺動操作することによりシフトアップが行われる。操作レバー10の操作速度が早いときは遅いときに比して、自動クラッチ50の締結速度が早くされる。操作レバー10の操作速度に応じて、変速歯車機構60における変速段変更用の内部摩擦締結要素の締結速度を変更することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動変速モードとなるDレンジ位置が選択されているときは、比較的ゆったりとした走行を望んでいることが多いことから、自動変速に際しての変速ショック抑制が強く望まれるものである。このため、通常は、Dレンジ位置での自動変速の際には、変速の際に締結される摩擦締結要素の締結は比較的ゆっくりと行われるものである(例えば締結油圧が低めの設定)。
【0007】
一方、手動変速モードは、スポーツ走行のように積極的な走行を行う場合に選択されることが多い。このため、手動変速モードでは、自動変速モードの場合に比して、変速ショックを積極的に運転者に体感させることが望まれる。変速ショックを運転者に積極的に体感させるために、例えば摩擦締結要素の締結油圧を高めに設定して、その締結速度を早くすることが考えられる。
【0008】
しかしながら、手動変速モードは、スポーツ走行を行う場合に限らず、ゆったりとした走行を望みつつも急な坂道を走行する等のときにも適宜選択されるものである。したがって、手動変速モードにおいて、スポーツ走行に合わせて常に変速ショックが大きくなるように制御したのでは、運転者がゆったりとした走行を望んでいる場合に、変速ショックが大きすぎて運転者が不快な思いをしてしまうことになる。
【0009】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、手動変速モードにおいて、運転者の要求に応じた適切な変速ショックが得られるようにした変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、
変速に際して締結される摩擦締結要素を備えた多段式の自動変速機における変速制御装置であって、
自動変速を行う自動変速モードと、変速用操作手段を手動操作した際に変速を行わせる手動変速モードとが選択可能とされ、
前記手動変速モードが選択されているときに、前記変速用操作手段の手動操作に応じた変速段となるように変速制御を行う制御手段を備え、
前記変速用操作手段の操作速度を検出する操作速度検出手段を備え、
前記制御手段は、前記手動変速モードでの変速が行われるときは、前記操作速度検出手段で検出される操作速度が早いときは遅いときに比して前記摩擦締結要素の締結速度が早くなるように制御する、
ようにしてある(請求項1対応)。
【0011】
上記解決手法によれば、変速の際に締結される摩擦締結要素の締結速度を変更することにより、発生する変速ショックの大きさが変更される。そして、運転者がスポーツ走行を望んでいるのかあるいはゆったりとした走行を望んでいるのかを、手動変速モードで変速操作を行うときの操作速度でもって判別するようにしてある。すなわち、変速操作の操作速度が早いときは、スポーツ走行を望んでいるときであるとして摩擦締結要素の締結速度を早くする一方、操作速度が遅いときはスポーツ走行を望んでいないときであるとして、摩擦締結要素の締結速度が遅くなるようにしてある。これにより、スポーツ走行に対応させて適度な変速ショックを得ることと、ゆったりとした走行を望む場合に対応させた十分な変速ショック抑制とを共に満足させることができる。
【0012】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、次のとおりである。すなわち、
前記制御手段は、前記摩擦締結要素の締結を早く行う急速モードと該急速モードのときよりも該摩擦締結要素の締結を遅く行う通常モードとの2段階でもって締結速度を切替制御するようにされ、
前記制御手段は、前記操作速度検出手段によって検出される操作速度があらかじめ設定された所定操作速度以上のときは前記急速モードでの制御を実行し、該操作速度検出手段によって検出される操作速度が該所定操作速度未満のときは前記通常モードでの制御を実行する、
ようにすることができる(請求項2対応)。この場合、締結速度を2段階で切替えることにより、運転者は変速ショックの相違を明確に体感することができ、また制御の簡単化の上でも好ましいものとなる。
【0013】
前記制御手段は、前記手動変速モードのときのシフトアップ時には、アクセル開度があらかじめ設定された所定開度以上であることを条件として前記急速モードでの制御を実行し、アクセル開度が該所定開度未満のときは前記通常モードでの制御を実行する、ようにすることができる(請求項3対応)。この場合、スポーツ走行時でのシフトアップ要求は、アクセル開度が十分に踏み込まれて加速している際に行われることが多いものである。したがって、アクセル開度をも加味することによって、締結速度を早くしてもよい状況であるのか否かをさらに精度よく判定して、変速ショックの大きさを運転者の要望に対してより十分に対応させる上で好ましいものとなる。
【0014】
前記制御手段は、前記手動変速モードのときのシフトダウン時には、運転者の要求減速度に関連した値があらかじめ設定された所定のしきい値以上であることを条件として前記急速モードでの制御を実行し、運転者の要求減速度に関連した値が該所定のしきい値未満のときは前記通常モードでの制御を実行する、
ようにすることができる(請求項4対応)。この場合、スポーツ走行時でのシフトダウン要求は、急減速を行う際に行われることが多いものである。したがって、運転者の要求減速度の大きさをも加味することによって、締結速度を早くしてもよい状況であるのか否かをさらに精度よく判定して、変速ショックの大きさを運転者の要望に対してより十分に対応させる上で好ましいものとなる。
【0015】
前記変速用操作手段が、前後左右に揺動可能な操作レバーとされ、
前記操作レバーの左右方向の揺動によって、少なくとも後退レンジと前記自動変速モードとなるDレンジとの間での切替えを行うレンジ切替モードの選択と、前記手動変速モードの選択とが行われるようにされ、
前記レンジ切替モードのときの前記操作レバーの前後方向の揺動によって、前記後退レンジと前記Dレンジとの切替えが行われ、
前記手動変速モードのときの前記操作レバーの前後方向の揺動によって、シフトアップとシフトダウンとの切替えが行われる、
ようにすることができる(請求項5対応)。この場合、操作レバーの前後左右の4方向の揺動という運転者にとって明確に理解しやすい動きによって、レンジ切替モードと手動変速モードとの間での切替え、レンジ切替モードでのレンジ位置の切替え、手動変速モードでのシフトアップ要求とシフトダウン要求とを、操作レバーを目視することなく間違いなく確実に行わせることができる。
【0016】
前記自動変速機が、多段式の変速歯車機構と、エンジンの動力を該変速歯車機構に伝達するための自動クラッチと備え、
前記制御手段によって締結速度が変更制御される前記摩擦締結要素が、前記自動クラッチとされている、
ようにすることができる(請求項6対応)。この場合、エンジンからの動力が直接的に入力される要素となる自動クラッチの締結速度を変更することにより、運転者に体感させる変速ショックを大きく変更させることができる。
【0017】
前記自動変速機が、変速段変更用の複数の内部摩擦締結要素を有する多段式の変速歯車機構を有し、
前記制御手段によって締結速度が変更制御される前記摩擦締結要素が、前記複数の内部摩擦締結要素のうち変速の際に締結が行われる内部摩擦締結要素とされている、
ようにすることができる(請求項7対応)。この場合、変速歯車機構が有する内部摩擦締結要素を有効に利用して、運転者に体感させる変速ショックを変更することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、手動変速モードにおいて、運転者の要求に応じた適切な変速ショックを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の実施形態
第1の実施形態について、全体構成と共に以下に説明する。まず、
図1は、車両Vにおける車室前部の構造を示すものである、この
図1において、1はインストルメントパネル、2はステアリングハンドル、3はコンソールボックスである。インストルメントパネル1には、ステアリングハンドル2の直前方位置において、メータパネル4が設けられている。コンソールボックス3の上面には、運転者から操作しやすい位置において、変速用の操作レバー(シフトレバー)10が配設されている。操作レバー10が、変速用操作手段を構成する。
【0021】
図2は、操作レバー10を含む変速操作部Hの全体を示す。変速操作部Hは、操作レバー10の他、操作レバー10を取り囲むようにパネル部11を有し、パネル部11には、Pレンジ選択用のスイッチ12と表示部13とが設けられている。
【0022】
操作レバー10は、上方から見た
図2の矢印で示すように、前後左右の4方向に揺動可能とされている(所定以上の左右方向の揺動および所定以上の前後方向の揺動はそれぞれ規制されている)。操作レバー10の左右方向の揺動によって、レンジ切替モードと手動変速モードとが切替えられる(選択される)。すなわち、
図2の状態では、操作レバー10がレンジ切替モードの位置にあり、この位置から操作レバー10を左方向へ揺動させることによって手動変速モードとなる。
【0023】
操作レバー10は、左右方向の揺動についてはステーショナリ式とされて、その揺動位置に保持される。一方、操作レバー10は、前後方向の揺動についてはモーメンタリ式とされて、前方あるいは後方へ揺動操作する操作力を解除した際には、操作レバー10が前後方向中立位置に自動復帰される。このため、
図6に示すように、操作レバー10には、前後一対のリターンスプリング14、15の各一端部が取付けられている。各リターンスプリング14、15の他端部は、車体に固定されている。
【0024】
レンジ切替モードにおいて、操作レバー10を前方へ揺動させると後退レンジ(Rレンジ)の選択となり、後方へ揺動させるとDレンジの選択となる。手動変速モードにおいて、操作レバー10を前方へ揺動させるとシフトダウンの指令となり、後方へ揺動させるとシフトアップの指令となる。
【0025】
前記スイッチ12は、例えばプッシュ、プッシュ式とされて、押圧される毎に、Pレンジ(パーキングレンジ)とPレンジ開放とが切替えられる。Pレンジ開放直後では、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択となる。表示部13は、操作レバー10の操作位置が、どのような位置であるかを文字表示で示すものとなっている。具体的には、レンジ切替モードで選択可能なレンジ位置が、前方(
図2上方)から後方へ順次、R(Rレンジ)、N(ニュートラルレンジの他、操作レバー10の中立復帰位置を示す)、D(Dレンジ)の表示を有する。また、前後方向に延びるR−N−Dの表示の左隣りに、手動変速モードを示すM(Mレンジ=手動変速モード)を示す表示と、Mの表示の前方にシフトダウンを示す−の表示と、Mの表示の後方にシフトアップを示す+の表示が行われている。
【0026】
操作レバー10の操作位置に応じた表示が、メータパネル4において表示される。具体的には、PレンジのときはPの表示が行われ、RレンジのときはRの表示が行われ、DレンジのときはDの表示が行われる。手動変速モードが選択されているときは、現在の変速段が表示される(例えば現在の変速段が4速のときは4の表示が行われ、現在の変速段が3速のときは3の表示が行われる)。なお、手動変速モードのときは、現在の変速段の表示と共にあるいは代えて、Mの表示を行うこともできる。
【0027】
なお、手動変速モードは、Dレンジが選択されている状態であることを条件として選択可能とされている。また、Rレンジは、車両が停止していることを条件として選択可能とされている。
【0028】
図4は、操作レバー10の基端部付近の構造を示すものである。この
図4において、前後方向に延びる取付軸20が、前後方向軸線αを中心に回動可能として車体に保持されている。この取付軸20に対して、ピン21によって、操作レバー10の基端部が前後方向に揺動可能に連結されている。取付軸20の回動軸線が符号αで示され、操作レバー10のピン21を中心とする揺動軸線が符号βで示される。
【0029】
取付軸20の回動角度(操作レバー10の左右方向位置)が、センサS1で検出される。また、操作レバー10の前後方向の揺動角度が、センサS2で検出される。センサS1、S2が、操作レバー10の位置検出手段を構成する。特に、センサS2の出力に基づいて、操作レバー10の前後方向の操作速度が演算によって決定される。
【0030】
図5は、前述した操作レバー10の前後左右の揺動(平面視においてH型パターンでの動き)によって、とり得る変速用の各位置の関係をまとめて示すものである。
【0031】
次に、
図6を参照しつつ、操作レバー10の関連した部分の構成についてさらに説明する。まず、操作レバー10に関連させて、ディテント機構30が設けられている。ディテント機構30は、レンジ切替モード用と手動変速モード用との左右一対設けられている。ディテント機構30は、操作レバー10の操作に対して所定のクリック感や反力を与えるものとなっている。
【0032】
ディテント機構30は、前後方向に延びる案内壁部31を有する。案内壁部31の上面には、操作レバー10が中立位置にある状態から前方および後方へ向かうにつれて順次、徐々に高くなる立ち上がりの傾斜部32、徐々に低くなる凹部33、急激に立ち上がる規制壁部34が形成されている。なお、傾斜部31、凹部33、規制壁部34は、前後対称形状となるようにして、前後一対形成されている。
【0033】
一方、操作レバー10(のアーム部)には、上下方向に摺動可能として、摺動子(ガイドピン)16が取付けられている。この摺動子16は、操作レバー10内に配設された押圧スプリング(図示略)によって、常時下方へ向けて付勢されている。
【0034】
上記摺動子16の下端が、案内壁部31の上面に常時当接されている。これにより、操作レバー10が
図6に示す中立位置にある状態から、前方あるいは後方へ揺動されると、傾斜部32を通過する際に大きな反力を受けつつ、凹部33に到達した際にクリック感(節度感)が付与され、規制壁部34に到達した段階でそれ以上の揺動が規制される。傾斜部32を含む山形状部分(凸部)が、摺動子16が乗り越えるための抵抗用段部となる。
【0035】
なお、
図6は、理解容易等のために傾斜部32等を誇張して描いており、実際の形状等とは相違するものである。また、摺動子16は、転動されるローラ式のものにする等、適宜の形式のものを採択できる。
【0036】
図6中、実線で示すものが、操作レバー10がレンジ切替モードにあるときの傾斜部32、凹部33、規制壁部34を示す。また、
図6中、破線で示すものが、操作レバー10が手動変速モードにあるときの傾斜部32、凹部33、規制壁部34を示す。破線で示す傾斜部32、凹部34の方が(手動変速モードのときの方が)が、実線で示す傾斜部32、凹部34よりも(レンジ切替モードよりも)高い位置に設定されている。これにより、手動変速モードでは、レンジ切替モードに比して、操作レバー10の前後方向の揺動操作に際して、大きな操作力(大きな反力)が付与されることになる。
【0037】
なお、操作レバー10の前方への揺動量(最大ストローク量)は、レンジ切替モードと手動変速モードとで同じである。同様に、操作レバー10の後方への揺動量(最大ストローク量)は、レンジ切替モードと手動変速モードとで同じである。
【0038】
図7には、操作レバー10の前後方向の揺動ストローク量と操作力(反力)との関係が示される。
図7中、実線がレンジ切替モードの場合に対応し、破線が手動変速モードの場合に対応している。
【0039】
図7において、操作レバー10の摺動子16が凹部33(の底部)に到達した際に、操作レバー10のストローク量がST1で示される。操作レバー10の操作速度は、操作開始時点からストローク量ST1に到達するまでの時間とされる。そして、操作レバー10がストローク量ST1に到達した時点で、変速が開始される。操作レバー10は、ストローク量ST1となった後に、さらにストローク量ST2まで操作可能であるが、このストローク量ST2になるまでの短い時間内に変速が完了される。
【0040】
図7についてさらに説明すると、自動変速モードのときは、レンジ切替モードの場合に比して、傾斜部32からの反力が大きくなり、かつ摺動子16を下方へ押圧しているスプリングの反力も大きくなって、手動変速モードにおける操作レバー10の前後方向の揺動について、より大きな操作反力が付与されることになる。
【0041】
また、操作レバー10(の摺動子16)が凹部33に到達した時点(ストローク量ST1のとき)に、変速歯車機構60の変速を開始させるようにしてある。これにより、操作レバー10が凹部33に到達した際に節度感が与えられるのと同時に変速開始とされることによって、マニュアル式変速機のシフトレバーを操作したのとほぼ同様な操作感を運転者に与えることができる。なお、操作レバー10がストローク量ST2まで操作した時点で、変速歯車機構60の変速が終了するようにしてある。
【0042】
次に、
図3を参照しつつ、車両Vの駆動系統例について説明する。まず、エンジン40の駆動力が、自動クラッチ50、多段式の変速歯車機構60、プロペラシャフト70、デファレンシャルギア71を介して、左右の駆動輪(実施形態では後輪)72に伝達される。自動クラッチ50と変速歯車機構60とによって、自動変速機ATが構成される。変速は、自動クラッチ50の締結解除→変速歯車機構60での変速→自動クラッチ50の締結という順で行われる。
【0043】
自動クラッチ50は、例えば湿式多板式のクラッチ51と、電動アクチュエータとしての電動モータ52と、を有する。電動モータ52によって、クラッチ51の断続が行われる。具体的には、クラッチ51は、常時は図示を略すスプリングによって締結解除状態とされている。そして、電動モータ52の駆動力によって、上記スプリングに抗してクラッチ51が締結される。電動モータ52の駆動力を大きくする(駆動電圧つまり駆動電流を大きくする)ほど、クラッチ51の締結速度が速くされる。なお、電動モータ52によるクラッチ51に対する締結力の付与は、図示を略すカム機構を介して行われる。
【0044】
多段式の変速歯車機構60は、例えば遊星歯車機構を利用して構成されて、例えば前進6段、後退1段とされる。この変速歯車機構60は、既知のように、油圧式とされた内部摩擦締結要素としてのクラッチやブレーキを複数個有している。この複数の内部摩擦締結要素の締結と締結解除との組み合わせに応じて、全ての変速段を選択的にとり得るようになっている。変速の際に締結される内部摩擦締結要素の締結速度は、従来と同様にして行われ、操作レバー10の操作速度とは無関係に設定される。なお、前進の変速段数は、例えば7段、8段等、特に変速段数は問わないものである。
【0045】
ここで、本実施形態では、手動変速モードにおいて、操作レバー10の操作速度に応じて締結速度が適宜変更される摩擦締結要素を、自動クラッチ50としてある。すなわち、電動モータ52の駆動力を変更することにより、クラッチ51の締結速度を変更するようにしてある。本実施形態では、
図8に示すように、締結速度を、2段階で変更するようにしてある。すなわち、通常変速時(通常変速モード)に対応した遅い締結速度と、急速変速時(急速変速モード)に対応した早い締結速度との2段階で変更を行うようにしてある。なお、締結速度は、3段階以上あるいは無段階で変更することもできる。
【0046】
手動変速モードのときに、操作レバー10の前方あるいは後方への操作速度が、あらかじめ設定した所定の操作速度以上のときには、自動クラッチ50の締結速度を早くする急速変速が行われる(急速変速モードでの変速)。一方、操作レバー10の前方あるいは後方への操作速度が、上記所定の操作速度未満のときには、自動クラッチ50の締結速度を遅くする通常変速が行われる(通常変速モードでの変速)。なお、操作レバー10の前後方向の操作速度は、
図4に示すセンサS2の出力に基づいて、演算によって決定することができる。
【0047】
なお、上記通常変速モードでもって行うときの自動クラッチ50の締結速度は、例えば、自動変速モード(Dレンジ)において自動クラッチ50を締結するときの締結速度と同じに設定することができる(変速ショックの十分な抑制)。
【0048】
図9は、自動クラッチ50の締結速度を変更制御するための制御系統例を示す。図中Uは、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)である。コントローラUは、変速制御用の制御手段を構成するものである。このコントローラUには、センサS1、S2からの出力に基づく操作レバー10の操作位置が入力される。コントローラUは、操作速度検出手段ともなるセンサS2からの出力に基づいて、操作レバー10の前後方向での操作速度を演算によって決定する。
【0049】
コントローラUには、後述する別の制御例に用いるために、アクセル開度を検出するアクセル開度センサS3からの信号と、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキセンサS4からの信号が入力される。コントローラUは、自動クラッチ50(の電動モータ52)を制御する。
【0050】
次に、コントローラUによる自動クラッチ50の締結速度の制御の点について、
図10に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明でQはステップを示し、また
図10に示す制御例ではアクセル開度センサS3やブレーキセンサS4の出力は利用しないものとなっている。
【0051】
まず、Q1において、各種信号(センサS1、S2からの信号)が読み込まれる。Q2では、操作レバー10がMレンジ位置(つまり手動変速モード)にあるか否かが判別される。このQ2の判別でYESのときは、Q3において、変速操作が行われたか否かが判別される(シフトアップ操作またはシフトダウン操作のいずれかが行われた否かの判別)。
【0052】
上記3の判別でYESのときは、Q4において、操作レバー10の操作速度が、あらかじめ設定された閾値以上であるか否かが判別される。このQ4の判別でYESのときは、Q5において、自動クラッチ50の締結速度が、早い速度でもって行われる(急速変速モードでの締結)。
【0053】
上記Q4の判別でNOのときは、Q6において、自動クラッチ50の締結速度が、遅い速度でもって行われる(通常変速モードでの締結)。前記Q2の判別でNOのとき、あるいはQ3の判別でNOのときは、それぞれリターンされる。
【0054】
第2の実施形態
図11は、本発明の第2の実施形態を示すものであり、
図10の制御例の変形例となるものである。本実施形態は、手動変速モードにおけるシフトアップ時には、操作レバー10の操作速度に加えて、アクセル開度の大きさをも加味して、自動クラッチ50の締結速度を制御するようにしてある。また、手動変速モードにおけるシフトダウン時には、操作レバー10の操作速度に加えて、ブレーキペダルの操作量をも加味して、自動クラッチ50の締結速度を制御するようにしてある。
【0055】
図11の制御では、まず、Q11において各種センサS1〜S4からの信号が読み込まれる。Q12では、操作レバー10がMレンジ位置(つまり手動変速モード)にあるか否かが判別される。
【0056】
上記Q12の判別でYESのときは、Q13において、シフトアップ操作が行われたか否かが判別される。このQ13の判別でYESのときは、Q14において、操作レバー10の操作速度が、あらかじめ設定された閾値以上であるか否かが判別される。このQ14の判別でYESのときは、Q15において、アクセル開度が、あらかじめ設定された所定開度(例えば1/2開度)以上であるか否かが判別される。このQ15の判別でYESのときは、Q16において、自動クラッチ50の締結速度が、早い速度でもって行われる(急速変速モードでの締結)。
【0057】
上記Q14の判別でNOのとき、あるいはQ15の判別でNOときは、それぞれQ17において、自動クラッチ50の締結速度が、遅い速度でもって行われる(通常変速モードでの締結)。
【0058】
前記Q13の判別でNOのときは、Q18において、シフトダウン操作が行われたか否かが判別される。このQ18の判別でYESのときは、Q19において、操作レバー10の操作速度が、あらかじめ設定された閾値以上であるか否かが判別される。このQ19の判別でYESのときは、Q20において、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)が、あらかじめ設定された所定量(例えば踏み込み量が1/3程度)以上であるか否かが判別される。このQ20の判別でYESのときは、Q16において、自動クラッチ50の締結速度が、早い速度でもって行われる(急速変速モードでの締結)。
【0059】
上記Q20での判別は、運転者による要求減速度が大きいか否かを判別するものである。このため、Q20では、ブレーキペダルの踏み込み量に代えてあるいは加えて、ブレーキペダルの踏み込み力や踏み込み速度の大きさをみるようにしてもよい。
【0060】
上記Q19の判別でNOのとき、あるいはQ20の判別でNOときは、それぞれQ21において、自動クラッチ50の締結速度が、遅い速度でもって行われる(通常変速モードでの締結)。また、前記Q12の判別でNOのとき、あるいはQ18の判別でNOのときは、それぞれリターンされる。
【0061】
第3の実施形態
第3の実施形態においては、車両Vの駆動系統としては、
図3と同様のものとしてある。本実施形態では、手動変速モード時に、操作レバー10の操作速度に応じて締結速度が変更される摩擦締結要素としては、変速歯車機構60の内部摩擦締結要素としてある。すなわち、変速時に締結される(新たに締結される)内部摩擦締結要素の締結速度を変更することによって、変速ショックの大きさを変更するようにしてある。なお、本実施形態では、手動変速モードにおいて、自動クラッチ50の締結速度は操作レバー10の操作速度に依存しないものとしてあるが、操作レバー10の操作速度に応じて、自動クラッチ50と上記内部摩擦締結要素との両方の締結速度を変更することもできる。
【0062】
第4の実施形態
図12は、第4の実施形態を示すもので、駆動系統を
図3とは異なる構成としてある。すなわち、本実施形態では、自動変速機AT2が、
図3に示す自動クラッチ50に代えてトルクコンバータ55を用いたものとなっている。トルクコンバータ55は、ロックアップクラッチ55aを有する。そして、手動変速モード時に、操作レバー10の操作速度に応じて締結速度が変更される摩擦締結要素を、変速歯車機構60の内部摩擦締結要素としてある。
【0063】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。
【0064】
多段式の自動変速機構としては、実施形態に示すものに限らず、適宜の構造のものを採択できる。例えば、自動クラッチ50に代えて、第1自動クラッチと第2自動クラッチとの2つの自動クラッチを有するDCS(デュアルクラッチシステム)とされた自動変速機であってもよい。このDCSにあっては、変速歯車機構60に相当するものが常時噛合式の多段変速歯車機構とされて、第1クラッチが奇数段の変速段用とされ、第2クラッチが偶数段の変速段用とされている。変速に際しては、第1クラッチと第2クラッチとの一方が切断された後に他方が締結されるが、この他方の自動クラッチが締結される際の締結速度を、操作レバー10の操作速度に応じて変更すればよい。また、変速歯車機構60は、常時噛合式のものであってもよい(変速段選択用のドグクラッチを有するもの)。
【0065】
レンジ切替モードと手動変速モードとの切替えを行う変速用操作手段は、操作レバー10のような揺動レバーを用いることなく、適宜の形式のものを採択することができ、例えば押圧操作されるスイッチ形式であってもよい。また、ステアリングハンドル2を把持した状態で操作(一般的には手前への引き操作)が可能なパドルスイッチ(シフトアップ用スイッチとシフトダウン用スイッチ)を設けて、手動変速モード時に、このパドルスイッチの操作速度に応じて変速ショック変更のために行われる摩擦締結要素の締結速度を変更するようにしてもよい。また、手動変速モードでの変速指令を、上記パドルスイッチのみによって行うようにすることもできる。
【0066】
Rレンジ位置とDレンジ位置とを、前後逆の位置関係としてもよい。同様に、シフトアップ要求位置とシフトダウン要求位置とを前後逆の位置関係としてもよい。操作レバー10の前後方向の操作によってレンジ切替モードと手動変速モードとの切替えを行う一方、操作レバー10の左右方向の操作によってシフトアップ要求とシフトダウン要求とを行うこともできる。レンジ切替モードにおいて、操作レバー10によって、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジの切替えを行うようにしてもよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。