特開2021-65052(P2021-65052A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-65052(P2021-65052A)
(43)【公開日】2021年4月22日
(54)【発明の名称】プラズマ装置用直流パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 9/02 20060101AFI20210326BHJP
【FI】
   H02M9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-189437(P2019-189437)
(22)【出願日】2019年10月16日
(71)【出願人】
【識別番号】392026888
【氏名又は名称】京都電機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 敏一
(72)【発明者】
【氏名】伏谷 周一
(72)【発明者】
【氏名】木村 智
(72)【発明者】
【氏名】辻本 正志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇人
【テーマコード(参考)】
5H790
【Fターム(参考)】
5H790BA08
5H790BB11
5H790CC01
5H790CC04
5H790CC09
5H790EB03
(57)【要約】
【課題】限流抵抗での発熱を軽減し、限流抵抗のサイズ、重量を小さくする。
【解決手段】第1直流電源部11と、該電源部による直流電圧を第1電圧出力端に出力する状態と該第1電圧出力端を短絡する状態とを切り替えるスイッチング部13、15と、第2直流電源部21と、該電源部による直流電圧を第2電圧出力端に出力する状態と該第1電圧出力端を短絡する状態とを切り替えるスイッチング部23、25と、第1電圧出力端に出力される電圧が変化するようにスイッチング部13、15を動作させた時点から所定の遅延時間だけ遅れた時点で、第2電圧出力端に出力される電圧が変化するようにスイッチング部23、25を動作させる制御部30と、を備える。これにより、限流抵抗31に流れるピーク電流が抑制され実効電流が減少することでエネルギー消費が抑えられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを形成する電極を含む容量性負荷回路に所定の波高値の直流パルス電圧を印加するプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
a)前記波高値よりも小さい第1電圧値である直流電圧を発生する第1電圧発生部と、
b)前記第1電圧発生部による直流電圧を第1電圧出力端に出力する状態と該第1電圧出力端を短絡する状態とを切り替える第1スイッチング部と、
c)前記波高値から第1電圧値を差し引いた第2電圧値である直流電圧を発生する第2電圧発生部と、
d)前記第2電圧発生部による直流電圧を、前記第1電圧出力端の高電圧側に直列に接続された第2電圧出力端に出力する状態と該第2電圧出力端を短絡する状態とを切り替える第2スイッチング部と、
e)前記1電圧出力端と前記第2電圧出力端とが直列に接続されてなる電圧出力端と、前記容量性負荷回路と、の間に接続されている限流用の抵抗と、
f)前記電圧出力端に直流パルス電圧を生成するために前記第1及び第2スイッチング部をそれぞれ制御するものであって、前記第1電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第1スイッチング部を動作させた時点から所定の遅延時間だけ遅れた時点で前記第2電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第2スイッチング部を動作させるべく、該第1及び第2スイッチング部をそれぞれ制御する制御部と、
を備えることを特徴とするプラズマ装置用直流パルス電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
前記制御部は、前記第1電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第1スイッチング部を動作させた時点から所定の時間だけ遅延した時点で、前記第2電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第2スイッチング部を動作させる第1の動作モードと、前記第1電圧出力端に出力される電圧の変化と前記第2電圧出力端に出力される電圧の変化とが同時になるように前記第1及び第2スイッチング部を動作させる第2の動作モードと、を選択的に実行可能であることを特徴とするプラズマ装置用直流パルス電源装置。
【請求項3】
請求項2に記載のプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
前記制御部は、直流パルス電圧の電圧値若しくは周波数、又は、負荷容量の少なくともいずれか一つに応じて、前記第1の動作モードと前記第2の動作モードのいずれかを選択することを特徴とするプラズマ装置用直流パルス電源装置。
【請求項4】
請求項2に記載のプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
負荷に供給される電流の実効値を検出する電流検出部を、さらに備え、
前記制御部は、直流パルス電圧の電圧値若しくは周波数、又は、前記電流検出部による検出結果の少なくともいずれか一つに応じて、前記第1の動作モードと前記第2の動作モードのいずれかを選択することを特徴とするプラズマ装置用直流パルス電源装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
前記遅延時間は、直流パルス電圧の電圧値、周波数、前記容量性負荷回路において想定される負荷容量、少なくともいずれか一つに応じて設定されることを特徴とするプラズマ装置用直流パルス電源装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
前記第1電圧値と前記第2電圧値は実質的に同一であることを特徴とするプラズマ装置用直流パルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ装置に用いられる直流パルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体プロセスを始めとする様々な分野において、プラズマを利用して対象物を加工したり処理したりするプラズマ装置が用いられている。
図8は、プラズマ装置を駆動する従来の電源装置の一例の概略構成を示す図である。このプラズマ装置は、高周波プラズマにパルス状の直流電力を加えることで処理対象物を加工するものである。
【0003】
図8において、プラズマ装置は、真空排気された減圧雰囲気の下で放電ガスや反応ガスが導入されるチャンバ(図示せず)内に二つの電極が配置された、ごく簡略化されたモデルで示されている。この例では、上側の電極がカソード電極521であり、所定のガスに電力を供給して放電プラズマ523を生成するための電極である。一方、下側の電極は、カソード電極521との間に均一な電場を形成するように該カソード電極521と対向して設置されている対向電極522である。ここでは、対向電極522はチャンバと共に、電気的に接地されている。処理対象物は、カソード電極521又は対向電極522のいずれか一方に固定される。互いに所定距離だけ離して配置されているカソード電極521と対向電極522との間にはキャパシタが形成され、このキャパシタの容量は、その電極521、522の間に生成される放電プラズマ523自体の容量と合成され、プラズマ負荷回路52となる。
【0004】
高周波電源60は、図示しない結合コンデンサやインピーダンス整合回路を介してカソード電極521に高周波電力を供給するものである。一方、直流パルス電源100は、カソード電極521に負極性の直流パルス電圧を与えるものである。直流パルス電源100と高周波電源60はカソード電極521に対して並列に接続されるため、高周波電源60による高周波電圧が直流パルス電源100に印加されないように、カソード電極521と直流パルス電源100との間には、リアクトル511とコンデンサ512とを含むローパスフィルタ51が挿設されている。このため、直流パルス電源100の負荷は、ローパスフィルタ51と上記プラズマ負荷回路52との並列合成回路である容量性負荷回路50である。
【0005】
よく知られているように、高周波電源60により放電プラズマ523を励起するとき、電子電流とイオン電流とがほぼ均等な状態となるように負のセルフバイアス電圧が電極521、522間に生起される。このときのセルフバイアス電圧を高周波電源60に直列に挿入される直流電圧源から印加されるものとみなし、図中には、直流電圧源61を等価的に示している。この直流電圧源61によって、容量性負荷回路50は所定のセルフバイアス電圧に充電されるとみなせる。容量性負荷回路50に充電されるセルフバイアス電圧によって、放電プラズマ523は高いイオン加速エネルギーを処理対象物に照射することができる。
【0006】
上述したような容量性負荷回路に直流パルス電圧を印加するための従来の一般的な直流パルス電源100は、図8中に概略的に示すように、直流電源と相補的にオン・オフ動作する二つのスイッチング素子を含む構成である(特許文献1など参照)。即ち、二つのスイッチング素子が相補的にオン・オフ動作すると、直流電源の出力電圧−V0(一般には数百〜千V以上)と接地電位(0V)とが交互に直流パルス電源100の出力端に現れ、波高値がV0である負極性の直流パルス電圧が生成される。また、特許文献1には、直流パルス電圧を容量性負荷回路に印加するだけでなく、スイッチング素子と共振回路とを用い、容量性負荷回路に蓄積されたエネルギーを電源装置側に回生する構成も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018−107904号公報(図6、[0002]〜[0007])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、上記のような直流パルス電源では、パルスオン・オフ時に、容量性負荷回路の過大な充電又は放電電流(突入電流)がスイッチング素子に流れて該素子が破壊に至るのを防止するために、図8中にも記載しているように、該電源100の出力端と容量性負荷回路50のカソード側との間に数Ωから数十Ω程度の抵抗が限流抵抗として設けられる。しかしながら、限流抵抗を設けると、定常動作時において直流パルス電圧の電圧値が変化する毎に、該限流抵抗の抵抗値と直流パルス電圧の波高値とに依存するピーク電流が発生する。直流パルスの電圧や周波数が高いほどピーク電流の電流値やその発生頻度が高くなり、限流抵抗の電力損失が増加する。限流抵抗では電力損失によって熱が生じるが、電流の実効値が増加すると発熱量はかなり大きいものとなる。そのため、通常、かなりサイズや重量が大きな抵抗が限流抵抗として必要になる。それによって、電源装置のサイズが大きくなる、重量が重くなる、さらにはコストが高くなる、といった問題があった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、限流抵抗における電力損失を低減することで、限流抵抗として従来よりもサイズや重量が小さい抵抗を用いることができる直流パルス電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明は、プラズマを形成する電極を含む容量性負荷回路に所定の波高値の直流パルス電圧を印加するプラズマ装置用直流パルス電源装置であって、
a)前記波高値よりも小さい第1電圧値である直流電圧を発生する第1電圧発生部と、
b)前記第1電圧発生部による直流電圧を第1電圧出力端に出力する状態と該第1電圧出力端を短絡する状態とを切り替える第1スイッチング部と、
c)前記波高値から第1電圧値を差し引いた第2電圧値である直流電圧を発生する第2電圧発生部と、
d)前記第2電圧発生部による直流電圧を、前記第1電圧出力端の高電圧側に直列に接続された第2電圧出力端に出力する状態と該第2電圧出力端を短絡する状態とを切り替える第2スイッチング部と、
e)前記1電圧出力端と前記第2電圧出力端とが直列に接続されてなる電圧出力端と、前記容量性負荷回路と、の間に接続されている限流用の抵抗と、
f)前記電圧出力端に直流パルス電圧を生成するために前記第1及び第2スイッチング部をそれぞれ制御するものであって、前記第1電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第1スイッチング部を動作させた時点から所定の遅延時間だけ遅れた時点で前記第2電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第2スイッチング部を動作させるべく、該第1及び第2スイッチング部をそれぞれ制御する制御部と、
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るプラズマ装置用直流パルス電源装置において、第1電圧発生部及び第2電圧発生部は通常、数十〜千V程度の直流電圧を発生するものであり、例えば昇圧コンバータを用いたものとすることができる。当然のことながら、第1電圧発生部及び第2電圧発生部は、同じ商用交流電源より供給される交流電力からそれぞれ必要な電圧値の直流電圧を生成するものであることが望ましいから、第1電圧発生部と第2電圧発生部とは完全に独立したものではなく、一部の回路が共用されているものとすることができる。
【0012】
第1スイッチング部の動作により波高値が第1電圧値であるパルス電圧が出力される第1電圧出力端と、第2スイッチング部の動作により波高値が第2電圧値であるパルス電圧が出力される第2電圧出力端とは直列に接続されている。そのため、両方のパルス電圧が同時に出力される期間には、それらパルス電圧は重畳されて波高値が所定の目標値であるパルス電圧となる。一方、いずれか一方のパルス電圧のみが出力される期間には、波高値が第1電圧値又は第2電圧値であるパルス電圧となる。
【0013】
そのため、制御部が適切な遅延時間の下で第1及び第2スイッチング部が動作するようにそれぞれを制御すると、電圧出力端には、基準電位(典型的には接地電位)からまず第1電圧値まで電圧が上昇し、そのあと第2電圧値に相当する分だけ電圧が上昇して所定の波高値に達するように、2段階で電圧が上昇する、また逆に2段階で電圧が下降するようなパルス電圧が得られる。
【0014】
なお、本明細書において、直流パルス電圧は正極性でも負極性でもよいが、その極性に拘わらず、アクティブになる(つまりは直流パルス電源装置から容量性負荷に電力を供給する)方向の電圧の変化を「電圧上昇」、逆に非アクティブになる(つまりは容量性負荷から直流パルス電源装置に電力を戻す)方向の電圧の変化を「電圧降下」ということとする。したがって、基準電位が接地電位である場合、本明細書における「電圧上昇」は電圧の絶対値の上昇であり、「電圧下降」は電圧の絶対値の下降である。
【0015】
直流パルス電圧の電圧が変化する度に限流抵抗にはピーク電流が流れるため、上述したように、直流パルス電圧の電圧上昇時及び電圧下降時に電圧値が2段階で変化すると1段階で変化する場合に比べて、ピーク電流の発生回数は増加する。一方で、電圧変化時の波高値は抑えられるため、1回のピーク電流による実効電流は減少する。その実効電流による限流抵抗でのエネルギー消費つまりは発熱量は、電圧変化の大きさ(波高値)の二乗に依存するため、ピーク電流の発生回数が増加したとしても限流抵抗での電力損失は減少し、熱の発生量は減少する。それにより、限流抵抗として従来よりも小形、軽量、そして廉価な抵抗を使用することができる。
【0016】
また本発明に係るプラズマ装置用直流パルス電源装置において、前記制御部は、前記第1電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第1スイッチング部を動作させた時点から所定の時間だけ遅延した時点で、前記第2電圧出力端に出力される電圧が変化するように前記第2スイッチング部を動作させる第1の動作モードと、前記第1電圧出力端に出力される電圧の変化と前記第2電圧出力端に出力される電圧の変化とが同時になるように前記第1及び第2スイッチング部を動作させる第2の動作モードと、を選択的に実行可能である構成とすることができる。
【0017】
この構成において、第1の動作モードでは上述したように直流パルス電圧の上昇及び下降が2段階で行われる。一方、第2の動作モードでは直流パルス電圧の上昇及び下降が1段階で、つまりは従来の一般的な電源装置と同様に行われる。プラズマ装置用直流パルス電源装置ではプラズマ装置側での成膜等の処理の要請から直流パルス電圧の電圧値(波高値)や周波数が変更されることがあるが、この電圧値や周波数が低い場合にはピーク電流の電流値やその発生頻度に起因する損失が小さいため、限流抵抗の発熱があまり問題とならない。上記構成によれば、こうした場合には、第2の動作モードを選択することで、直流パルス電圧の上昇及び下降を迅速に行い、矩形波としてより理想的な波形形状のパルス電圧を負荷に印加することができる。
【0018】
また上記構成のプラズマ装置用直流パルス電源装置の一態様として、前記制御部は、直流パルス電圧の電圧値又は周波数、若しくは負荷容量、の少なくともいずれか一つに応じて、前記第1の動作モードと前記第2の動作モードのいずれかを選択するようにするとよい。
【0019】
また、別の態様として、容量性負荷の充放電電流の実効値を検出する電流検出部を、さらに備え、前記制御部は、直流パルス電圧の電圧値若しくは周波数、又は、前記電流検出部による検出結果、の少なくともいずれか一つに応じて、前記第1の動作モードと前記第2の動作モードのいずれかを選択するようにしてもよい。
【0020】
こうした構成によれば、負荷の容量や直流パルス電圧の電圧値や周波数など、容量性負荷の充放電電流の実効値が変動する要因に応じて、限流抵抗での発熱が大きくなる場合にのみ、直流パルス電圧の上昇及び下降を2段階で行うようにすることができる。
【0021】
なお、上記遅延時間が大きすぎると、直流パルス電圧の電圧上昇及び電圧降下における波形が明瞭な階段状波形となり、プラズマ装置に印加する電圧として適切でなくなる可能性がある。一方、上記遅延時間が小さすぎると、直流パルス電圧の電圧上昇及び電圧降下において発生するピーク電流を十分に抑えることができず、そもそもの効果が得られなくなる。
【0022】
そこで、本発明に係るプラズマ装置用直流パルス電源装置において、前記遅延時間は、直流パルス電圧の電圧値若しくは周波数、又は、前記容量性負荷回路において想定される負荷容量、の少なくともいずれか一つに応じて設定されるようにするとよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る直流パルス電源装置によれば、限流抵抗での電力損失を減少させ、その発熱を軽減することができるので、限流抵抗として使用する抵抗のサイズ、重量を小さくすることができ、また低コストの抵抗を使用することができる。それによって、電源装置自体のサイズや重量を小さくし、コスト削減も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態であるプラズマ装置用直流パルス電源装置の概略構成図。
図2図1に示した装置の要部の動作波形図。
図3図1に示した装置の要部の動作波形図。
図4図1に示した装置における電流の流れを説明する図。
図5図1に示した装置に基づくプラズマ装置用直流パルス電源装置のより詳しい回路構成図。
図6】本発明の他の実施形態であるプラズマ装置用直流パルス電源装置の構成図。
図7】本発明の他の実施形態であるプラズマ装置用直流パルス電源装置の構成図。
図8】従来のプラズマ装置用電源装置の一例の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るプラズマ装置用直流パルス電源装置の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態であるプラズマ装置用直流パルス電源装置の概略構成図である。図2及び図3はそれぞれ、図1に示した装置の要部の動作波形図である。図2図3とは異なる動作モードを示す。図4図1に示した装置における電流の流れを説明する図である。
【0026】
<本実施形態の装置の構成>
図1に示す直流パルス電源装置は、容量性の負荷回路40に正極性の直流パルス電圧を印加するものである。ここでは、負荷回路40をキャパシタ41と抵抗42との並列回路で簡易的に示している。直流パルス電源装置の電圧出力端と負荷回路40との間には、限流抵抗31とフィルタ用のリアクトル32が設けられている。
【0027】
直流パルス電源装置は、同一構成である第1、第2なる二つのパルス電圧発生部10、20を有する。第1パルス電圧発生部10は、直流電源部11、コンデンサ12、フォワードスイッチング部13、第1ダイオード14、短絡スイッチング部15、及び、第2ダイオード16、を含む。第2パルス電圧発生部20は同様に、直流電源部21、コンデンサ22、フォワードスイッチング部23、第1ダイオード24、短絡スイッチング部25、及び、第2ダイオード26、を含む。各スイッチング部13、15、23、25は電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子から成り、制御部30からそれぞれ入力される制御信号G1、G2、G3、G4によりオン・オフ動作が制御される。
【0028】
制御部30は、例えばCPU、ROM、RAM、タイマなどを含むマイコン(マイクロコンピュータ)を含み、予め与えられたプログラムに従った処理を実行することで、上記制御信号を生成して出力する。
【0029】
<本実施形態による装置の動作>
本装置は大別して二つの動作モードを有する。一つは2段パルス発生モード、他の一つは1段パルス発生モードである。まず、図2及び図4を参照して、本装置における2段パルス発生モードの動作を説明する。
【0030】
図2(a)に示すように、制御部30から出力され、第1パルス電圧発生部10におけるフォワードスイッチング部13に入力される制御信号G1と短絡スイッチング部15に入力される制御信号G2とはほぼ逆極性のパルス信号である。したがって、フォワードスイッチング部13と短絡スイッチング部15は相補的にオン・オフ動作する。また、第2パルス電圧発生部20におけるフォワードスイッチング部23に入力される制御信号G3と短絡スイッチング部25に入力される制御信号G4もほぼ逆極性のパルス信号である。したがって、フォワードスイッチング部23と短絡スイッチング部25は相補的にオン・オフ動作する。但し、厳密には、フォワードスイッチング部13、23と短絡スイッチング部15、25とが同時にオン動作することがないように、制御信号G1、G2のタイミング、及び、制御信号G3、G4のタイミングはそれぞれ調整される。
【0031】
制御信号G1とG3、及び、制御信号G2とG4はそれぞれハイレベルの期間が同一であるが、制御部30は制御信号G1、G2の信号変化から所定の遅延時間Δtだけ遅れて制御信号G3、G4の信号変化が生じるようにタイミングを制御する。そのため、第2パルス電圧発生部20におけるスイッチング部23、25のオン・オフ動作の切替りは第1パルス電圧発生部10におけるスイッチング部13、15のオン・オフ動作の切替り時点よりも遅延時間Δtだけずれる。
【0032】
図2中のt4〜t1の期間(短絡期間)には、制御信号G1、G3がローレベル、制御信号G2、G4がハイレベルであり、短絡スイッチング部15、25が共にオン状態、フォワードスイッチング部13、23が共にオフ状態である。そのため、第1パルス電圧発生部10の第1電圧出力端(短絡スイッチング部15の両端)、第2パルス電圧発生部20の第2電圧出力端(短絡スイッチング部25の両端)はいずれも短絡され、電圧出力端の電圧Voは0Vである(図2(b)参照)。このとき、その直前に容量性負荷回路40に蓄積された電荷の放電による電流が、図4(a)に示すように、負荷回路40→リアクトル32→限流抵抗31→オン状態である短絡スイッチング部25→オン状態である短絡スイッチング部15→負荷回路40、と流れる。このときの電流はその殆どが限流抵抗31で消費される。
【0033】
次のt1〜t2の期間(フォワード期間)には、制御信号G2、G3がローレベル、制御信号G1、G4がハイレベルであり、第1パルス電圧発生部10のフォワードスイッチング部13と第2パルス電圧発生部20の短絡スイッチング部25とがオン状態、第1パルス電圧発生部10の短絡スイッチング部15と第2パルス電圧発生部20のフォワードスイッチング部23とがオフ状態である。そのため、第2パルス電圧発生部20の第2電圧出力端は短絡されるものの、第1パルス電圧発生部10の第1電圧出力端には直流電源部11の出力電圧が現れ、電圧出力端の電圧はV0/2となる。つまり、t1の時点で電圧出力端の電圧Voは0からV0/2に上昇する。このとき、図4(b)に示すように、直流電源部11→オン状態であるフォワードスイッチング部13→オン状態である短絡スイッチング部25→限流抵抗31→リアクトル32→負荷回路40→直流電源部11、と電流が流れる。
【0034】
次のt2〜t3の期間(フォワード期間)には、制御信号G2、G4がローレベル、制御信号G1、G3がハイレベルであり、フォワードスイッチング部13、23がオン状態、短絡スイッチング部15、25がオフ状態である。そのため、第1パルス電圧発生部10の第1電圧出力端及び第2パルス電圧発生部20の第2電圧出力端に共に直流電源部11、21による出力電圧が現れ、電圧出力端の電圧はそれらが重畳されたV0となる。つまり、t2の時点で電圧出力端の電圧VoはV0/2からV0に上昇する。このとき、図4(c)に示すように、直流電源部11→オン状態であるフォワードスイッチング部13→直流電源部21→オン状態である短絡スイッチング部25→限流抵抗31→リアクトル32→負荷回路40→直流電源部11、と電流が流れる。
【0035】
さらに次のt3〜t4の期間(短絡期間)には、制御信号G1、G4がローレベル、制御信号G2、G3がハイレベルであり、第1パルス電圧発生部10のフォワードスイッチング部13と第2パルス電圧発生部20の短絡スイッチング部25とがオフ状態、第1パルス電圧発生部10の短絡スイッチング部15と第2パルス電圧発生部20のフォワードスイッチング部23とがオン状態である。そのため、第1パルス電圧発生部10の第1電圧出力端は短絡されるものの、第2パルス電圧発生部20の第2電圧出力端には直流電源部21の出力電圧が現れ、電圧出力端の電圧はV0/2となる。つまり、t3の時点で電圧出力端の電圧VoはV0からV0/2に下降する。このとき、その直前に容量性負荷回路40に蓄積された電荷の放電による電流が、図4(d)に示すように、負荷回路40→リアクトル32→限流抵抗→オン状態である短絡スイッチング部25→オン状態である短絡スイッチング部15→負荷回路40、と流れる。
【0036】
上述したような動作により、2段パルス発生モードでは、直流パルス電圧が0からV0に上昇する際、及びV0から0に下降する際に、その電圧の上昇及び下降は2段階の階段状になる(図2(b)参照)。実際に負荷回路40に印加される電圧Vcは図2(c)に示すようにエッジが鈍ったものとなる。また、電圧が急峻に変化する際にピーク電流が発生するが、負荷回路40に流れる電流Ioは図2(d)に示すように、小さな二つのピークが連続して現れる電流波形となる。
【0037】
次に1段パルス発生モードの動作を説明する。
図3(a)に示すように、このモードでは、図2に示した遅延時間Δtが0となるように、制御部30は制御信号G1、G2、G3、G4を出力する。詳しい説明は省略するが、このモードでは、第1パルス電圧発生部10と第2パルス電圧発生部20とが同じように動作するので、t1の時点で電圧出力端の電圧Voは0からV0に上昇し、t3の時点で電圧出力端の電圧はV0から0に下降する。これにより、電圧出力端には理想的には図3(b)に示すような矩形波状の直流パルス電圧が発生する。波高値が大きいため、図3(d)に示すように、負荷回路40に流れる電流には大きなピークが現れる。
【0038】
<本実施形態による装置の利点>
2段パルス発生モードと1段パルス発生モードとの、限流抵抗31でのエネルギー消費量つまり発熱量を比較する。限流抵抗31でのエネルギー消費は簡易的に次の(1)式で表すことができる。
W=n・(1/2)C・V2・f …(1)
ここでCは負荷の容量、Vは電圧変化の波高値、fは周波数、nは1周期内の電圧変化(電圧上昇又は下降)の回数である。2段パルス発生モードと1段パルス発生モードとでC、fは同一である。また、nの値は2段パルス発生モードでは「4」、1段パルス発生モードでは「2」であり、Vは1段パルス発生モードでは2段パルス発生モードの2倍である。したがって、(1)式によれば、2段パルス発生モードにおける限流抵抗31での消費エネルギーは1段パルス発生モードにおけるそれよりも1/2になる。即ち、理論的には、2段パルス発生モードにおける限流抵抗31での発熱量は1段パルス発生モードにおけるそれの半分程度で済むことになる。
【0039】
本発明者らは、図1に示した回路における2段パルス発生モードと1段パルス発生モードでのエネルギー消費(損失)をシミュレーション計算により求めた。シミュレーションの際の回路定数は以下のように定めた。
・負荷回路40のキャパシタ41の容量値:1000pF
・負荷回路40の抵抗42の抵抗値:375Ω
・限流抵抗31の抵抗値:30Ω
・リアクトル32のインダクタンス値:1μH
・コンデンサ12、22の容量値:20μF
・直流電源部11、21の出力電圧:750V(波高値V0:1500V)
【0040】
上記条件の下で、遅延時間Δt=50ns、周波数f=400kHzに定めたとき、1段パルス発生モードに対する2段パルス発生モードでのエネルギー消費の減少は約30%と得られた。また、さらに遅延時間Δtを75ns、100nsに増加させると、1段パルス発生モードに対する2段パルス発生モードでのエネルギー消費の減少は約42%、47%と増加した。このように遅延時間が比較的小さい場合にはエネルギー消費は理論値に及ばず、遅延時間を大きくするほどエネルギー消費は理論値に近づく。これは、遅延時間Δtが小さいと、図2(d)に示すように連続的に現れる二つのピーク電流が重なってしまい実効電流が増加するためである。
【0041】
次に、遅延時間Δt=100ns、周波数f=100kHzに変更して、1段パルス発生モードと2段パルス発生モードとのエネルギー消費をシミュレーションしたが、この場合には有意な差異がなかった。また、遅延時間Δtを200ns及び300nsに増加させても、その結果はほぼ同様であった。
【0042】
一方、負荷回路40のキャパシタ41の容量値を4000pFに増加し、遅延時間Δt=300ns、周波数f=100kHzとした場合には、1段パルス発生モードに対する2段パルス発生モードでのエネルギー消費は約38%減少した。即ち、遅延時間は、周波数のほか、負荷容量に応じて適切に定めることが望ましいということができる。
【0043】
電圧が変化する際のピーク電流の高さはその電圧変化の大きさ、つまり波高値に依存するから、エネルギー消費の抑制効果の点では、直流電源部11、21の出力電圧を等しくし、連続する二つのピーク電流の高さがほぼ同じになるように遅延時間を設定することが望ましい。但し、遅延時間を大きくすると直流パルス電圧が所定の波高値にまで立ち上がるのに時間が掛かることになるし、遅延時間の設定によっては電圧の上昇・下降が階段状になる。こうした電圧波形が許容できる場合には遅延時間は固定であってもよいが、一般的には、プラズマ装置側の要請から直流パルス電圧の立ち上がり(立ち下がり)はできるだけ急峻であることが好ましい。そこで例えば、直流パルス電圧の電圧値や周波数が低く2段パルス発生モードにおけるエネルギー消費低減の効果が小さい場合や、負荷容量が小さくそもそも電圧変化時のピーク電流が小さい場合には、1段パルス発生モードを実行し、2段パルス発生モードにおけるエネルギー消費低減の効果が大きい場合にのみ、適当な遅延時間の下での2段パルス発生モードを実行するようにするとよい。遅延時間も適宜に設定できるようにしておくとよい。
【0044】
上述したような1段パルス発生モードと2段パルス発生モードとのモードの切替えや遅延時間の設定をユーザがマニュアル操作で実施する構成としてもよいが、自動的に実施する構成とすることもできる。図6はそうした機能を加えた本発明の他の実施形態であるプラズマ装置用直流パルス電源装置の構成図である。
【0045】
このプラズマ装置用直流パルス電源装置は電圧出力端と限流抵抗31との間に電流検出部33を備え、電流検出部33による電流検出信号が制御部30に入力される。また、ユーザにより操作される設定部34が制御部30に接続されている。直流パルス電圧の周波数はプラズマ装置側での要請によるものであるから、ユーザ(プラズマ装置の使用者)が設定部34で直流パルス電圧の周波数を設定する。一方、電流検出部33は電源装置の動作時に負荷に供給される電流をリアルタイムで検出し、その検出信号を制御部30に入力する。
【0046】
負荷に供給される電流はキャパシタ51の容量に応じて異なる。プラズマ装置では、キャパシタ51の容量を測定することは実質的にできないが、負荷電流はその容量に応じたものとなるので、制御部30は電流検出信号に基づいてそのときのキャパシタ51の容量を推定する。そして、直流パルス電圧の周波数、及び推定されるキャパシタ51の容量値に応じて、1段パルス発生モードと2段パルス発生モードとのいずれかを選択するとともに、2段パルス発生モードの場合には遅延時間を決定する。これにより、そのときの負荷の状態に応じて適切な電圧波形の直流パルス電圧をプラズマ装置に印加することができ、限流抵抗31での発熱も抑えることができる。
【0047】
<本実施形態による装置のより具体的な構成>
プラズマ装置用直流パルス電源装置では一般に、出力される直流パルス電圧の波高値は最大で数百V〜千V(場合によっては更に高い)程度である。そのため、図1に示した実施形態における直流電源部11、21は最大数百Vの直流電圧を発生する必要がある。こうした高電圧は通常、昇圧コンバータを利用した回路により生成される。図5は、上記実施形態の装置における直流電源部を実用的な回路構成で示した図である。
【0048】
この回路はフルブリッジ型のDC−DCコンバータであり、直流電源110と、フルブリッジ回路を構成する四つのスイッチング素子111、211、113、213及びダイオード112、212、114、214と、リアクトル117と、二つのトランス115、215と、ダイオード整流回路116、216と、平滑用リアクトル117、217と、を含む。即ち、直流電源110による出力直流電圧をフルブリッジ回路により交流電圧に変換し、並列に設けられたトランス115、215でそれぞれ昇圧する。そして昇圧後の交流電圧を、ダイオード整流回路116、216及び平滑用リアクトル117、217により、整流及び平滑化して直流電圧に変換することで、二系統の直流電圧をそれぞれ得る。
例えば直流パルス電圧の波高値を1500Vにする場合、トランス115、215以降の2系統の回路を全く同一の構成として、それぞれ750Vの直流電圧を生成するようにすればよい。
【0049】
なお、上記実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
例えば、図1図5図6に示した回路において、スイッチング部13、15、23、25には電力用MOSFETなどの半導体スイッチング素子が用いられるが、該スイッチング素子のオフ時における、回路インダクタンスに起因して生じるサージ電圧を抑えるために、図7に示すような放電阻止型のスナバ回路200を追加してもよい。
【0050】
また例えば上記実施形態では、直流パルス電圧は正電圧方向に凸である正極性のパルスであるが、負電圧方向に凸である負極性のパルスとしてもよいことは当然であり、それに伴う回路構成の変更も容易に想到し得るものである。
【符号の説明】
【0051】
10、20…パルス電圧発生部
11、21…直流電源部
12、22…コンデンサ
13、15、23、25…スイッチング部
14、16、24、26…ダイオード
30…制御部
31…限流抵抗
32…リアクトル
40…負荷回路
41…キャパシタ
42…抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8