【解決手段】多孔質材料からなる基材21と、該基材の表面に形成され、殻体32に油水分離体33を内包させたマイクロカプセル31を含む親水撥油層22と、を有する油水分離濾材12であって、前記親水撥油層は、前記マイクロカプセルに含まれる油水分離体が前記殻体の外部に拡散放出されたものを含み、前記油水分離体は、撥油性付与基および親水性付与基と、を有するフッ素系化合物を含み、前記フッ素系化合物は、下記式(1)又は(2)で示される構造の化合物のうち、一種又は二種以上を含むことを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般家庭や営業用調理場、ビルの排水、公共事業体の汚水廃液処理施設への導管からの排水には、油・ラード類が混入しており、このような水と油が混合した混合液体である排水は、油分の固着による下水道管の詰まりや、油分の酸化による臭気などの原因となる。さらには、公共下水道施設の機能の著しい妨げとなるという問題や、大雨の後等に下水道施設からの油塊(白色固形物)が港湾に流出するという問題等もあった。このため、各地域では、飲食店事業者に対して、混合液体中の油脂類等を分離、回収する阻集器を設置させて、下水道への油・ラード類を流出させないという対策もとられている。
【0003】
また、食品製造、繊維処理、機械加工、石油精製などの廃液処理、さらに事故などによる河川、海洋などへの油の流出による油回収作業として、油水混合液を油と水とに分離する処理が行われている。
【0004】
その他にも、例えば、原油採掘の際に海水を地層の油層に注入して、非水溶性油分の圧力を高め、生産量を確保することが一般的に行われているが、このような原油採掘に使用された排水である「油田随伴水」は非水溶性油分を多く含むため、非水溶性油分の除去処理がなされた後に廃棄されている。しかしながら、近年、海洋・湖沼等の汚染を引き起こす要因となることから、排水中の非水溶性油分含有量の規制が強化されてきており、最も厳格な国や地域では5mg/L未満の非水溶性油分含有量とすることが要求されている。
【0005】
ところで、従来の油水分離方法としては、凝集剤による分離、吸着分離、遠心分離、加圧浮上分離、電解浮上法、コアレッサーによる粗粒化分離(例えば、特許文献1を参照)、微生物分解による分離等が知られている。
【0006】
しかしながら、凝集剤を用いる分離方法の場合には、経費が日常的に掛かるばかりか濾過した凝集物の処理も手間と費用が掛かるという課題があった。また、遠心分離器のような機械によるもの、加圧浮上分離によるものは、多量に且つ大型の施設においては有効かもしれないが、限られたスペースに備え付けるには困難であるという課題があった。また、電解浮上法では、安定な油水分離を行うために、処理液の電気伝導度と処理量に応じて印加電力を変えるなど、制御が煩雑であるという課題があった。コアレッサー法では、超極細繊維の網目構造を有するフィルターを用いるため、保守管理上、常に目詰まりが問題になるという課題があった。さらに、微生物を用いる分離方法では、時間が掛かるとともに管理が大変であるという課題があった。
【0007】
一方で、従来から、多孔質膜を用いた濾過膜による水処理が行われている。そして、油水分離においても、逆浸透法、限外濾過法、精密濾過法(例えば、特許文献2を参照)等が知られている。
【0008】
しかしながら、逆浸透法、限外濾過法、精密濾過法は、原水中に存在する油などの分離対象物質が濾過膜に付着して起こるファウリング(目詰り)のため、定期的に逆圧洗浄、エアスクラビング等の物理洗浄を行う必要があるという課題があった。したがって、多孔質膜を用いた濾過膜には、長期間継続して使用できるようにするために、油の吸着しにくさ(防汚性)や、吸着した油の除去し易さ(易洗浄性)の向上が望まれているのが実情であった。
【0009】
一方、本願の出願人は、特許文献3において、含窒素ペルフルオロアルキル基からなる撥油性賦与基と、アニオン型、カチオン型及び両性型のいずれかの親水性賦与基とを分子中に含む、特定の含窒素フッ素系化合物が、優れた親水性及び撥油性を有することを見出し、その含窒素フッ素系化合物からなる新規な親水撥油剤およびその製造方法を開示している。また、出願人は、特許文献4において、前記親水撥油剤を、液体の流路を構成する基材の表面に存在させた、油水分離が可能な濾材及びその製造方法を開示している。
【0010】
特許文献4において開示した技術は、簡易な構成で低コストに、水と油とを含む混合液体を水分と油分に分離でき、耐ファウリング性にも優れた従来にない新しい材料あったが、前記濾材の表面を被覆している前記親水撥油剤が次第に流出して油水分離性能が低下してしまう点でさらなる改良の余地があった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した一実施形態である本発明の油水分離濾材および油水分離装置について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
<油水分離濾材、油水分離装置>
図1は、本発明の油水分離濾材を備えた油水分離装置の一例を示す概略構成図である。
本実施形態の油水分離装置10は、筐体11と、この筐体11の内部に収容された油水分離濾材(油水分離フィルター)12とを備えている。
【0024】
筐体11は、例えば、両端が狭められた略円筒形の部材であり、水と油とを含む混合液体を内部に流入させる流入口11a,および油水分離濾材12によって分離、濾過された水分を選択的に流出させる流出口11bが形成されている。
本実施形態では、鉛直方向の上側に流入口11aが、下側に流出口11bがそれぞれ位置するように筐体11が縦置きで設置された重力式(自然流下式)の油水分離装置10を構成する。
【0025】
図2は、本発明の油水分離濾材を示す外観斜視図である。また、
図3は、油水分離濾材を構成するマイクロカプセルを示す要部拡大断面図である。
油水分離濾材12は、全体が水浸透性の多孔質材料からなる基材21と、この基材21の表面に形成された親水撥油層22とを有する。本実施形態では、親水撥油層22は、基材21の表面のうち、筐体11の流入口11a(
図1を参照)に対面する側に形成されている。
【0026】
基材21は、多数の気孔(空孔)を備えた材料からなり、例えば、繊維、多孔質樹脂、セラミックス等から構成され、気孔は水分の流路とされている。こうした基材21は、例えば、個々の気孔の平均開口径が0.1μm以上、180μm以下のものを用いることが好ましい。気孔の平均開口径を180μm以下にすることによって、基材21を油滴が透過することを防止できる。また、気孔の平均開口径を0.1μm以上にすることによって、基材21が水分を円滑に通過させることができる。
【0027】
親水撥油層22は、殻体32に油水分離体33を内包させたマイクロカプセル31が分散形成されている。マイクロカプセル31は、例えば、外形形状が微細な球形を成すように形成されている。このマイクロカプセル31のうち、少なくともその一部は、親水撥油層22において、殻体32から油水分離体33が放出した状態にされている。即ち、親水撥油層22は、油水分離体33が殻体32に覆われた状態のマイクロカプセル31と、油水分離体33が殻体32から放出した状態のものとが混在している。こうしたマイクロカプセル31の状態は経時変化し、マイクロカプセル31から油水分離体33が徐々に放出される徐放性によって、長期間にわたって親水撥油層22が保持される。
【0028】
マイクロカプセル31を構成する殻体32は、油水分離体33が徐々に放出可能な素材であれば有機高分子や無機材料のいずれでも使用可能である。有機高分子としては、例えば、ポリスチレン、スチレン−メタクリレート重合体、スチレン−アクリレート重合体、メラミン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーポネート、ゼラチン、エチルセルロースなどが挙げられる。無機材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどが挙げられる。
【0029】
マイクロカプセル31は基材21の気孔内に分散担持される。個々のマイクロカプセル31の粒径(直径)Dは、担持させる基材21の気孔の平均開口径に近いものを選択するのが好ましい。具体的には、0.1μm以上、180μm以下にすることが好ましい。マイクロカプセル31の粒径Dが0.1μm未満では、内部に適切な量の油水分離体33を封入することが困難である。また、マイクロカプセル31の粒径Dが180μmを超えると、基材21に対してマイクロカプセル31を分散させて親水撥油層22を形成する際に、マイクロカプセル31を均一に分散させることや、基材21の気孔内に担持させることが困難となる。
【0030】
殻体32の吸油量としては、10ml/100g以上が好ましい。前記吸油量が10ml/100g未満であると、油水分離体33を担持できる量が少なくなるために、持続性が不充分となることがある。ここで、前記吸油量は、JIS K5101により測定することができる。
【0031】
油水分離体33は、撥油性付与基および親水性付与基とを有するフッ素系化合物を含む材料から構成されている。油水分離体33を内包するマイクロカプセル31を基材21に分散定着させておき、水と油とを含む混合液体中の水分がマイクロカプセル31が有する細孔を通して外側から内部に侵入すると、水に溶解した油水分離体33がマイクロカプセル31の内部から放出されることにより基材21の表面に親水撥油層22が形成される。フッ素系化合物の有する撥油性付与基は、親水撥油層22の表面に例えば40°以上の接触角で油滴を形成させる官能基である。また、親水性付与基は、親水撥油層22の表面に例えば20°以下の接触角で水分に対する濡れ性を付与する官能基である。
なお、こうした接触角は、例えば、自動接触角計(協和界面科学社製、「Drop Master 701」)により測定することができる。
【0032】
油水分離体33は、こうした撥油性付与基および親水性付与基の存在によって、親水撥油性を持つ。この親水撥油層22に水と油とを含む混合液体が接触すると、油分は接触角の大きい油滴として凝集し、水分は接触角が小さい濡れ性を保ったままとなる。これによって、凝集して大きい油滴となった油分は親水撥油層22の表面に留まり、あるいは水との比重差によって混合液体の表層に浮遊する。一方、濡れ性を保った水分は凝集することなく親水撥油層22が形成されている基材21の気孔を通過することができる。こうした作用によって、親水撥油層22は、水と油とが混合した混合液体から、油分だけを選択的に分離することができる。
【0033】
(親水撥油剤)
親水撥油層22を形成する油水分離体33を構成するフッ素系化合物としては、例えば、下記式(1)又は(2)で示されるフッ素系化合物のうち、少なくとも一種又は二種以上を含む。下記式(1)又は(2)で示されるフッ素系化合物は、分子中に撥油性賦与基と親水性賦与基とを含む親水撥油剤である。
以下、油水分離体33を構成する親水撥油剤について、詳細に説明する。
【0036】
前記式(1)中、Rf
1、Rf
2は、それぞれ同一または互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rf
3は、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。
【0037】
また、前記式(2)中、Rf
4、Rf
5は、それぞれ同一または互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。また、Rf
6は、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。また、Zは、酸素原子、置換基を有していてもよいイミノ基及び置換基を有していてもよいCF
2基のいずれかを表す。イミノ基及びCF
2基の置換基の例としては、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基が挙げられる。
【0038】
前記式(1)に示す、直鎖状又は分岐状のRf
1とRf
2さらにRf
3が含まれる含窒素ペルフルオロアルキル骨格、及び前記式(2)に示す、直鎖状又は分岐状のRf
4、Rf
5、Rf
6のペルフルオロアルキレン基、さらにはZが含まれる含窒素ペルフルオロアルキル骨格が、撥油性賦与基を構成する。また、前記式(1)又は(2)に示すフッ素系化合物では、前記撥油性賦与基であるRf
1〜Rf
6中の、フッ素が結合した炭素数の合計が4〜18個の範囲であることが好ましい。フッ素が結合した炭素数が4未満であると、撥油効果が不十分であるために好ましくない。
【0039】
また、前記式(1)及び(2)中、Rは、2価の有機基である連結基である。2価の有機基の例としては、炭素数1〜12の2価の炭化水素基、2価の炭化水素基とアミド基との組合せ、2価の炭化水素基とエステル基との組合せ、2価の炭化水素基とウレタン基(−NH−CO−O−)との組合せを挙げることができる。2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、炭化水素基は鎖状炭化水素基であってもよいし、環状炭化水素基であってもよい。鎖状炭化水素基は、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよい。炭化水素基の例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基およびこれらの組合せを挙げることができる。アミド基は、カルボン酸アミド基(−CO−NH−)およびスルホンアミド基(−SO
2−NH−)を含む。エステル基は、カルボン酸エステル基(−CO−O−)およびスルホン酸エステル基(−SO
2−O−)を含む。アミド基およびウレタン基の窒素原子に結合している水素原子は、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。
【0040】
さらに、前記式(1)及び(2)中、Xは、両性型の親水性賦与基である。Xは、末端に、カルボキシベタイン型の「−N
+R
2R
3(CH
2)mCO
2−」、スルホベタイン型の「−N
+R
2R
3(CH
2)mSO
3−」、アミンオキシド型の「−N
+R
2R
3O
−」又はホスホベタイン型の「−OP(O)(O
−)O(CH
2)mN
+R
2R
3R
4」及び[−N
+R
2R
3−(CH
2)m−OP(O)(O
−)OR
4](mは1〜5の整数、R
2、R
3、R
4は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)を有する。
【0041】
前記式(1)で示される親水撥油剤の構造の具体例としては、例えば、下記式(3)〜(11)の構造のものが挙げられる。
【0051】
前記式(2)で示される親水撥油剤の構造の具体例としては、例えば、下記式(12)〜(21)の構造のものが挙げられる。
【0062】
なお、上述した本実施形態の親水撥油剤の構造の具体例は一例であって、本発明の技術範囲は前記具体例に限定されるものではない。すなわち、本実施形態の親水撥油剤は、含窒素ペルフルオロアルキル骨格からなる撥油性賦与基と、両性型の親水性賦与基と、を分子中に少なくともそれぞれ1以上有していればよい。
【0063】
(結合剤)
マイクロカプセル31は基材21の気孔内に担持されるが、マイクロカプセル31を気孔内に定着させるために、結合剤を用いるのが好ましい。また、前記結合剤は、油水分離体33がマイクロカプセル31の殻体32から放出した後、油水混合液によって前記フッ素系化合物が流失しないために、基材21に当該フッ素系化合物を固着させる効果も期待できる。本実施形態における油水分離体33は、基材21の表面側に前記式(1)又は(2)で示されるフッ素系化合物(親水撥油剤)が単独または結合剤と複合化され、親水撥油層22を成すことが好ましい。
【0064】
親水撥油層22は、上述したフッ素系化合物(親水撥油剤)のみからなる場合と、結合剤を含む場合とがある。具体的には、親水撥油層22は、気孔の表面を含む基材21の表面の一部又は全部が、前記式(1)又は(2)で示されるフッ素系化合物(親水撥油剤)を含む塗膜(塗布膜)、あるいは前記式(1)又は(2)で示されるフッ素系化合物と結合剤とを成分とする親水撥油層22によって被覆されていてもよい。
【0065】
結合剤を含む場合は、マイクロカプセル31と結合剤との質量組成比は、0.2対99.8〜99.8対0.2の範囲であることが好ましい。ここで、マイクロカプセル31の質量組成比が0.2未満であると、十分な親水撥油性が得られないために好ましくない。また、マイクロカプセル31の質量組成比が99.8を超えると、結合剤による固定効果が不十分となるため、経済的に好ましくない。
【0066】
結合剤としては、具体的には、例えば、有機結合剤(樹脂)や無機結合剤(無機ガラス)が挙げられる。有機結合剤(樹脂)としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等があり、具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリルポリオール系樹脂、ポリエステルポリオール系樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂や熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0067】
無機結合剤(無機ガラス)としては、具体的には、例えば、化学式[R
11Si(OR
12)
3]で示されるトリアルコキシシラン、化学式[Si(OR
13)
4](R
11〜R
13はそれぞれ独立した炭素数1〜6までのアルキル基)で示されるテトラアルコキシシラン等のシラン化合物や、水ガラス等が挙げられる。これらの中でも、水ガラスは、耐久性の向上効果が高いために好ましい。
【0068】
(基材)
本実施形態の親水撥油層22において、分離された水を主体的に通過させる気孔は、多孔質材料から成る基材21によって形成されている。基材21の材質としては、後述する平均開口径の気孔が形成された多孔質材料であれば特に限定されるものではなく、有機物であってもよいし、無機物であってもよい。更には有機物と無機物との複合物であってもよい。したがって、本実施形態の基材21の態様としては、多孔質材料の一種である有機物の繊維質材料または無機物の繊維質材料が挙げられる。
【0069】
ここで、基材21として利用可能な有機物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、セルロース製のろ紙、ろ布(ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ナイロン、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド等)、不織布フィルタ(ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、レーヨン、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド等)、繊維フィルタ(樹脂、ガラス、セラミックス、金属)、焼結フィルタ(金属、セラミックス、プラスチック等の粉末や繊維を熱および圧力により直接接着したもの)、およびこれらの材料を複合化したものなどが挙げられる。
【0070】
これら多孔質材料からなる基材21において、気孔の平均開口径(繊維質材料にあっては繊維どうしの間隔)は、0.1μm以上、180μm以下のものが選択される。気孔の平均開口径が0.1μm未満であると、水(水分)の透過抵抗が大きくなり、加圧が必要となる場合や、透過に時間が必要となる場合があるために好ましくない。
【0071】
一方、気孔の平均開口径が180μmを超えると、油(油分)が通過し始めるために好ましくない。これに対して、気孔の平均開口径が前記範囲内であると、油の透過が起こらず、かつ、実用上適した範囲の通水速度となるために好ましい。なお、基材21に形成された気孔は、必ずしも油分を全く通過させない構成に限定されるものではなく、水分を主体的に通過させ、油分も一定割合(少量)通過可能な幅のものも含む。
【0072】
油水分離体33は、前記式(1)又は(2)で示されるフッ素系化合物(親水撥油剤)を多孔質材料からなる基材21に担持させ、親水撥油層22を形成する。フッ素系化合物を基材21に担持させる方法としては、前記フッ素系化合物(親水撥油剤)を含むマイクロカプセル31を基材21に分散させ、油水分離体33を放出させることによって、親水撥油層22が形成される。こうした本発明の油水分離濾材12の製造方法は後述する。
【0073】
油水分離体33は、親水撥油剤のほかに、流動性改善剤、界面活性剤、難燃剤、導電付与剤、防カビ剤等の親水撥油以外の機能を付与するために添加剤を任意成分としてさらに含んでもよい。
【0074】
また、油水分離体73がマイクマロカプセルから放出され易くなるように、水やアルコールなどの極性溶剤やフッ素系溶剤などを、予めマイクルカプセル内に含ませておいてもよい。
【0075】
以上のような構成の油水分離濾材12およびこれを備えた油水分離装置10の作用を説明する。
【0076】
本実施形態の油水分離装置10の流入口11aから、例えば、水と油とを含む混合液体を流入させると、この混合液体は、油水分離体33を成す基材21の一面側に形成された親水撥油層22に接する。そして、混合液体を構成する油分および水分は、油水分離濾材12の親水撥油層22に存在する油水分離体33の親水撥油性によって、油分は凝集されて大きな油滴となり、水分から分離される。
【0077】
そして、分離された油分は、例えば、基材21を成す多孔質材料の平均開口径が0.1μm〜180μmの範囲の気孔を通過することができず、水分との比重差によって筐体11の上部に浮上する。一方、水分は親水撥油層22の親水性によってトラップされて液膜化され、基材21の気孔を通過して流出口11bから油分を含まない水分として排出される。
【0078】
こうした親水撥油性によって油分と水分とを分離させる油水分離体33は、徐々に基材21から離脱して流出することによって、徐々にその油水分離性能が低下するが、本発明の油水分離濾材12は、油水分離体33を殻体32で包んだマイクロカプセル31として基材21に分散担持させることによって、油水分離体33は、徐々に基材21に放出される。こうした徐放性によって徐々に油水分離体33が基材21に広がって親水撥油層22を形成することによって、長期間にわたって高い油水分離性能を維持することが可能になる。よって、油水分離濾材12のライフサイクルが延ばされ、油水分離濾材12を交換せずに、長期間連続して混合液体の油水分離を実現することが可能になる。
【0079】
また、油水分離体33は、基材21に対して親水撥油性を付与するため、有機分子や土泥類が付着し難く、優れた耐ファウリング性が得られる。また、逆洗浄する等の物理処理によって付着した汚れが除去され易く、易洗浄性にも優れる。
【0080】
また、油水分離体33は、前記式(1)又は(2)に示すフッ素系化合物のみを含む場合には、連続して結合している炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を含有せず、生体蓄積性や環境適応性の点で問題となるPFOSまたはPFOAを生成する懸念がない化学構造でありながら、優れた親水撥油性を付与することが可能である。
【0081】
<油水分離濾材の製造方法>
本発明の油水分離濾材の製造にあたっては、まず、油水分離体33を包含したマイクロカプセル31を作製する。
【0082】
本発明で使用するマイクロカプセル31の作製方法としては、公知の方法、例えば、日本化学会編「新実験化学講座」や、牧野公子著「入門講座マイクロカプセルの化学」に記載されている、界面重合法、コアセルベーション法、液中乾燥法、スプレードライ法、界面無機反応法などを用いることができる。特に界面重合法や、液中乾燥法、スプレードライ法、界面無機反応法が好ましい。
【0083】
また、市販の中空粒子や多孔質粒子を殻体32として使用し、これに油水分離体33を内包させても良い。粒子一個当たりに油水分離体33を担持できる量が多い中空粒子のほうが、殻体32としてより好ましい。中空粒子としては、例えば、高架橋スチレン−アクリル樹脂中空粒子(JSR社製SX−866)や真球状多孔質シリカ中空粒子(鈴木油脂工業社製ゴッドボールB−6C、B−25C)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
中空粒子に油水分離体33を内包させる方法としては、例えば、中空粒子を密閉容器に入れて真空脱気し、油水分離体33を溶媒に溶解させた溶液を前記容器に注入し、中空粒子の孔から内部に浸透させる。その後、常圧に戻して溶媒を乾燥除去させると油水分離体33が内包されたマイクロカプセル31が得られる。
【0085】
本発明のマイクロカプセルは、油水分離体33が中空部分にのみ充填されているものの他、マイクロカプセルの中空部分とその表面に油水分離体33が吸着されているものも含む。
【0086】
前記有機高分子からなるマイクロカプセル31の表面に対して、無機材料のマイクロカプセル31を吸着させた複合粒子も使用可能である。逆に、無機材料のマイクロカプセル31の表面に有機高分子からなるマイクロカプセル31を吸着させた複合粒子でも同様に使用できる。
【0087】
基材の表面にマイクロカプセル31を分散担持させる方法としては、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、マイクロカプセルが分散された液中に基材を浸漬する浸漬法や、スプレー、刷毛、ローラなど塗布手段を使用する、あるいは密閉可能な容器に基材を入れて置き、この容器内にマイクロカプセルが分散された液を通液する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例によって本発明の効果をさらに詳細に説明する。なお、本発明は実施例によって、なんら限定されるものではない。
【0089】
(調製例1)
「無機材料マイクロカプセルの調製」
中空多孔質シリカ球形粒子(鈴木油脂工業(株)製のゴッドボールB−6C、粒子径範囲が2〜3μm、吸油量140〜160mL/100g)10gを250mLの三角フラスコに採取し、吸引ろ過鐘にセットして1時間真空脱気した後、WO2016/017686号に開示された合成例17に記載の製造方法により合成した式(5)の化合物20質量%のエタノール分散液100mLを注入して中空多孔質シリカ球形粒子に分散液を浸透させた。常圧に戻して24時間放置した後、ろ別、乾燥させて式(5)の化合物を内包したシリカマイクロカプセル体を得た。
【0090】
(調製例2)
「界面重合法による有機高分子マイクロカプセルの調製」
0.45Mの炭酸ナトリウムと0.4Mのヘキサメチレンジアミン水溶液100mLに、WO2016/017686号に開示された合成例16に記載の製造方法により合成した式(9)の化合物2.5gを分散させた。この水溶液を500mLのクロロホルム−シクロヘキサン1:3(体積比)混合液(15質量%ソルビタントリオレアート含有)中に投入し、撹拌機で5分間程度激しく撹拌して乳化させた。このエマルションをかき混ぜながら、前記混合溶媒500mL中にテレフタル酸ジクロライド8gを溶解させた溶液を添加した。さらに撹拌を継続してマイクロカプセル体を生成させた。この分散液に混合溶媒500mLを加え、ろ別、乾燥して式(9)の化合物を内包したポリアミド樹脂マイクロカプセル体を得た。走査型電子顕微鏡の視野内の粒子像を写真撮影後に目視計測して求めたマイクロカプセルの平均径は6〜7μmであった。
【0091】
(調製例3)
「液中乾燥法による有機高分子マイクロカプセルの調製」
12.5質量%のソルビタントリオレアートを含むエチルセルロースの5質量%ジクロロメタン溶液250mL中に、WO2016/017686号合成例46に記載の製造方法により合成した式(17)の化合物を7質量%配合した水分散液60mLを撹拌しながら室温下で添加し、W/O型エマルションを作製した。このW/O型エマルション300mLを5%ゼラチン水溶液中にかき混ぜながら添加し、40℃で60分間撹拌を続けた。得られたW/O/W型複合エマルションを約50℃まで加熱し、撹拌を継続しながら約3時間かけてジクロロメタンを蒸発させた。次に、生成したマイクロカプセルを水洗してソルビタントリオレアートを除き、さらに40℃の温水で洗浄してゼラチンを除去した。このようにして式(17)の化合物を内包したエチルセルロースマイクロカプセルを調製した。走査型電子顕微鏡の視野内の粒子像を写真撮影後に目視計測して求めたマイクロカプセルの平均径は7μmであった。
【0092】
(調製例4)
「無機材料マイクロカプセルの調製 」
特許第6563041号に開示された合成例2に記載の製造方法により合成した式(19)の化合物を使用したこと以外は、調製例1と同様にして、式(19)の化合物を内包したシリカマイクロカプセル体を得た。
【0093】
(基材)
基材として、目付80g/m
2、厚さ0.40mm、濾過精度5〜7μmのポリエステル/ガラス繊維複合不織布を直径47mmの円形状に切り取ったものを使用した。
【0094】
(結合剤)
結合剤として、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製エスレックB BL−1、同BH−3)を使用した。
【0095】
<濾材の作製>
予め所定量の結合剤を溶解させておいた分散媒であるエタノール、または水に、調製例で作製した化合物を内包したマイクロカプセルを所定の割合で配合してマイクロカプセルの分散液を作製した。
次に、この分散液に前記基材を浸漬し、分散液を十分に含浸させたのち、引き揚げてエタノール分散媒の場合は自然乾燥により、水分散媒の場合は室温下での真空乾燥により分散媒を除去して、浸透試験用濾材を作製した。浸漬前の基材の重量と、分散液に浸漬して乾燥した後の基材の重量を計量し、増加量を固形分の付着量とした。実施例と対応する比較例において固形分中のフッ素系化合物の重量がほぼ等しくなるように、浸漬・乾燥の回数を調節した。
【0096】
<浸透試験による親水撥油性の評価>
作製した油水分離濾材を予め水でぬらしてから、水とn−ヘキサデカンをそれぞれ滴下し、その浸透性を下記定義に基づき目視判定して、親水撥油性を評価した。さらに、油水分離濾材を50ml純水に浸漬し、アズワン製超音波洗浄器USK−5R(240W,40kHz)を用いて、1時間毎に純水の入れ替えをしながら室温下で超音波洗浄を行った。
超音波照射開始から20時間後、同40時間後、同80時間後、同120時間後、同180時間後、またはそれぞれの中間の時間に濾材を取り出し、浸透試験による親水撥油性を評価した。
【0097】
なお、水及びn−ヘキサデカンの滴下方法としては、下記の条件を用いた。
滴下容量:40〜45μL/水滴、20〜25μL/n−ヘキサデカン滴
滴下高さ:濾材の表面から5cm
滴下冶具:ポリスポイト
測定温度:室温(22±1℃)
【0098】
また、濾材の浸透試験において、評価結果の定義は以下の通りである。
A:油水分離濾材に液滴を滴下後、30秒以内に浸透するもの
B:液滴を滴下後、30秒〜5分以内に浸透するもの
C:液滴を滴下後、30分間浸透しないもの
【0099】
(実施例1)
マイクロカプセル体として調製例1で得られたシリカマイクロカプセル2.5質量%、結合剤として、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製エスレックB BL−1)を0.5質量%、および分散媒としてエタノールを97質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、前記基材を用い、分散液を上述した方法によりコーティングして実施例1の油水分離濾材を作製した。作製条件を表1に示す。なお、表1中の付着量は、基材に付着している固形分の量である。評価結果を表2にそれぞれ示す。
実施例1の油水分離濾材に水とn−ヘキサデカンをそれぞれ滴下し、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。評価結果を表2示す。
【0100】
(実施例2)
調製例2で得られたポリアミド樹脂マイクロカプセル10質量%、分散媒としてエタノールを90質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、結合剤を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の油水分離濾材を作製し、実施例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0101】
(実施例3)
マイクロカプセル体として調製例3で得られたエチルセルロースマイクロカプセル10質量%、結合剤として、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製エスレックB BH−3)を4質量%、および分散媒として水を86質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、実施例1と同様にして、実施例3の油水分離濾材を作製し、実施例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0102】
(実施例4)
マイクロカプセル体として調製例4で得られたシリカマイクロカプセル10質量%、分散媒としてエタノールを90質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、結合剤を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の油水分離濾材を作製し、実施例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0103】
(比較例1)
マイクロカプセル体の代わりに式(5)の化合物を0.5質量%、結合剤として、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製エスレックB BL−1)を0.5質量%、および分散媒としてエタノールを97質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、実施例1と同様の基材を用い、分散液を上述した方法によりコーティングして比較例1の油水分離濾材を作製し、実施例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0104】
(比較例2)
マイクロカプセル体の代わりに式(9)の化合物を2質量%、分散媒としてエタノールを98質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、実施例2と同様にして比較例2の油水分離濾材を作製し、実施例2と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0105】
(比較例3)
マイクロカプセル体の代わりに式(17)の化合物を2質量%、結合剤として、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製エスレックB BH−3)を4質量%、および分散媒としてエタノールを94質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、実施例3と同様にして比較例3の油水分離濾材を作製し、実施例3と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0106】
(比較例4)
マイクロカプセル体の代わりに式(19)の化合物を2質量%、分散媒としてエタノールを98質量%の割合で配合した分散液を作製した。
次いで、実施例4と同様にして比較例4の油水分離濾材を作製し、実施例4と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表2に示すように、フッ素系化合物を内包したマイクロカプセル体を用いた実施例1〜4の油水分離濾材は、対応するフッ素系化合物を単独で用いた比較例1〜4と比べて、水とn−ヘキサデカンの浸透試験の結果において、親水性と撥油性の持続性が2倍程度に増加することが確認された。