特開2021-66775(P2021-66775A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大倉工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-66775(P2021-66775A)
(43)【公開日】2021年4月30日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系熱収縮性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20210402BHJP
【FI】
   C08J5/18CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-191602(P2019-191602)
(22)【出願日】2019年10月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原口 喬
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 美貴
(72)【発明者】
【氏名】竹田 吉男
(72)【発明者】
【氏名】笠岡 啓吾
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA18
4F071AA19
4F071AA82
4F071AA88
4F071AF61Y
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB09
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】 植物由来のポリエチレンを用いた熱収縮フィルムにおいて、低温において高い熱収縮性を有するポリオレフィン系熱収縮性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 低密度ポリエチレンを80〜95重量%、直鎖状低密度ポリエチレンを5〜20重量%含んでなるポリオレフィン系熱収縮性フィルムであって、前記低密度ポリエチレンのうち5重量%以上が植物由来の低密度ポリエチレンであることを特徴とするポリオレフィン系熱収縮性フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低密度ポリエチレンを80〜95重量%、直鎖状低密度ポリエチレンを5〜20重量%含んでなるポリオレフィン系熱収縮性フィルムであって、
前記低密度ポリエチレンのうち5重量%以上が植物由来の低密度ポリエチレンであることを特徴とするポリオレフィン系熱収縮性フィルム。
【請求項2】
110℃における縦、横方向のいずれかの熱収縮率が50%以上であることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン系熱収縮性フィルム。
【請求項3】
前記植物由来の低密度ポリエチレンは、オリゴマー抽出量が前記植物由来の低密度ポリエチレンの重量に対し、1.6重量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のポリオレフィン系熱収縮性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来のポリエチレンを含むポリオレフィン系熱収縮性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、将来的な石油枯渇や地球温暖化などの環境問題を背景に、樹脂フィルムの原材料として、石油由来樹脂の代わりに、カーボンニュートラルで再生可能な資源である植物由来樹脂を使用することへの関心が高まっている。
一方で、ポリエチレンを用いた熱収縮性フィルムにおいては低温で高い熱収縮性を有することが従来から課題となっている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−146050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物由来のポリエチレンを用いたポリオレフィン系熱収縮フィルムにおいて、低温で高い熱収縮性を有するポリオレフィン系熱収縮性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると上記課題を解決する為の手段として、
(1)低密度ポリエチレンを80〜95重量%、直鎖状低密度ポリエチレンを5〜20重量%含んでなるポリオレフィン系熱収縮性フィルムであって、前記低密度ポリエチレンのうち5重量%以上が植物由来の低密度ポリエチレンであることを特徴とするポリオレフィン系熱収縮性フィルムが提供される。
(2)110℃における縦、横方向のいずれかの熱収縮率が50%以上であることを特徴とする(1)のポリオレフィン系熱収縮性フィルムが提供される。
(3)前記植物由来の低密度ポリエチレンは、オリゴマー抽出量が前記植物由来の低密度ポリエチレンの重量に対し、1.6重量%以上であることを特徴とする(1)または(2)のポリオレフィン系熱収縮性フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムは、植物由来のポリエチレンを配合することで石油資源の節約や二酸化炭素の排出量削減による地球温暖化防止に貢献するとともに、低温において高い熱収縮性を有するポリオレフィン系熱収縮性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲において、種々の形態をとることができる。
【0008】
本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムは、低密度ポリエチレンを80〜95重量%、直鎖状低密度ポリエチレンを5〜20重量%含んでなり、前記低密度ポリエチレンのうち5重量%以上が植物由来の低密度ポリエチレンからなることを特徴とするものである。
【0009】
ここで、植物由来のポリエチレンと化石燃料由来のポリエチレンについて以下に説明する。
化石燃料由来のポリエチレンは、石油などの化石燃料から得られる原料から製造される樹脂であって、エチレンを単量体成分とする樹脂である。一方、植物由来のポリエチレンは、化石燃料以外の再生可能な資源、特にサトウキビなどの植物由来のバイオエタノールを原料とした樹脂である。
植物由来の樹脂と化石燃料由来の樹脂とは、一般的にISO16620またはASTM D6866で規定されたバイオマスプラスチック度で区別される。大気中では1012個に1個の割合で放射性炭素14Cが存在し、この割合は大気中の二酸化炭素でも変わらないので、この二酸化炭素を光合成で固定化した植物の中でも、この割合は変わらない。このため、植物由来樹脂の炭素には放射性炭素14Cが含まれる。これに対し、化石燃料由来樹脂の炭素には放射性炭素14Cがほとんど含まれない。そこで、加速器質量分析器で樹脂中の放射性炭素14Cの濃度を測定することにより、樹脂中の植物由来樹脂の含有割合、すなわちバイオマスプラスチック度を求めることができる。
【0010】
本発明においては、主成分が低密度ポリエチレンからなる。尚、低密度ポリエチレンは、高圧法低密度エチレンとも呼ばれるもので、エチレンガスに酸素、有機過酸化物、アゾ化合物などの触媒の作用で100〜300℃の温度と圧力1000〜2000気圧をかけ重合して生成されるものである。
そして、本発明においては、80〜95重量%の低密度ポリエチレンのうち、少なくとも5重量%が植物由来の低密度ポリエチレンで構成され、残りが化石燃料由来の低密度ポリエチレンで構成される。
このように植物由来の低密度ポリエチレンを一定量以上用いることで、石油資源の節約や二酸化炭素の排出量削減による地球温暖化防止に貢献することができる。
植物由来の低密度ポリエチレンと化石燃料由来の低密度ポリエチレンの配合比は適宜設計することができるが、植物由来の低密度ポリエチレンの配合量を、10〜50重量%とすることが好ましく、更に20〜40重量%とすることが特に好ましい。植物由来の低密度ポリエチレンの占める量を増やすことで地球温暖化防止に貢献するが、増やしすぎると低分子量成分のブリード等の影響が懸念される。
【0011】
また、後述する実施例1乃至2と比較例1の110℃における熱収縮率から、低密度ポリエチレン成分全てを化石燃料由来の低密度ポリエチレンとした場合よりも、一定量植物由来の低密度ポリエチレンを配合する方が、低温時の熱収縮性が良好であった。
この理由は定かではないが、一般的に、植物由来のポリエチレンは、化石燃料由来のポリエチレンに比べて低分子量成分(オリゴマー成分)が多いことが知られており、植物由来のポリエチレンの低分子量成分が低温時の収縮性に関係しているのではないかと推察される。
【0012】
尚、植物由来のポリエチレンは、オリゴマー抽出量が1.6重量%以上であり、化石燃料由来のポリオレフィンのオリゴマー抽出量は1.6重量%未満である。
上記オリゴマー抽出量は、次のような条件で抽出される量のことをいう。試料を23±2℃、湿度65%±15%の条件下で24時間以上放置し、試料約15gを秤量する。一方、500mlの丸底フラスコをシリカゲル入りのデシケーターに入れ、23±2℃の条件下で24時間以上放置し、重量を秤量する。当該丸底フラスコにヘキサン(試薬特級)を約200ml入れ前記秤量した試料を所定位置に封入してソックスレー抽出器をセットする。水温約90℃のウォーターバスに前記ソックスレー抽出器の丸底フラスコを浸漬して6時間抽出する。抽出後、ヘキサンを蒸発させ、100℃の条件の下、2時間丸底フラスコを減圧乾燥させる。乾燥後、丸底フラスコをシリカゲル入りのデシケーターに入れ、23±2℃の条件下で24時間以上放置し、重量を秤量する。以下の数式でオリゴマー抽出量(重量%)を求める。
・オリゴマー抽出量(重量%)={(抽出処理後の丸底フラスコの重量−抽出処理前の丸底フラスコの重量)/試料の重量}×100
【0013】
本発明で用いる植物由来の低密度ポリエチレンは、オリゴマー抽出量が2.0重量%以上であることが好ましく、更には2.5重量%以上が特に好ましい。
また、本発明に用いる植物由来の低密度ポリエチレンは、ISO16620またはASTM D6866で規定されたバイオマスプラスチック度が80%以上、好ましくは90%以上であるものが好ましい。例えば、Braskem社製の商品名「SBC818」「SPB608」「SBF0323HC」「STN7006」「SEB853」「SPB681」などが挙げられる。
【0014】
更に、本発明に用いる植物由来の低密度ポリエチレンは、密度が920〜925kg/m、好ましくは922〜924kg/mであり、またMFRが0.1〜5.0g/10分(JIS−K7210)、好ましくは2.5〜4.0g/10分であることが、製膜性や熱収縮応力等の観点から好ましい。
また、本発明に用いる化石燃料由来の低密度ポリエチレンも、上記と同様、密度が920〜925kg/m、好ましくは922〜924kg/mであり、またMFRが0.1〜5.0g/10分(JIS−K7210)、好ましくは2.5〜4.0g/10分であることが、製膜性や熱収縮応力等の観点から好ましい。
【0015】
また、本発明においては、80〜95重量%の低密度ポリエチレンに対し、5〜20重量%の直鎖状低密度ポリエチレンを含むものである。直鎖状低密度ポリエチレンを5〜20重量%含むことで、フィルムの強度を高めることができ且つ低温時において高い熱収縮性を付与することができる。直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が5重量%未満であるとフィルムの強度不足の点で好ましくなく、また20重量%を超えると低温時における熱収縮率が低い点、易開封性付与の観点で好ましくない。直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、6〜15重量%が好ましく、更には、7〜13重量%であることが好ましい。
【0016】
尚、直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンに少量のα−オレフィンをチーグラー触媒やフィリップス触媒を用いて共重合することにより得られるものである。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどを例示することができる。
本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が915〜930kg/m、特に915〜925kg/mであることが好ましく、915〜923kg/mであることがより好ましい。密度が上記範囲より小さいと、機械的強度が低くなるため好ましくなく、密度が上記範囲より大きいと、低温収縮性が悪くなる恐れがある。なお、本発明における密度はJIS−K7112に準拠して測定された値をいう。
また、本発明に用いられる直鎖状低密度ポリエチレンは、化石燃料由来の直鎖状低密度ポリエチレンであっても良いし、植物由来の直鎖状低密度ポリエチレンであっても良い。
【0017】
本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムには、本発明の目的を損なわない範囲において、通常熱可塑性樹脂に使用する公知の酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、造核剤、防曇剤、帯電防止剤、可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、着色剤などの添加剤を配合することができる。
また、本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムの厚みは、特に制限するものではないが、機械的強度や作業性等の観点から、5〜50μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。
更に、本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムは、上記組成からなる単層のフィルムについて説明したが、上記組成からなる層を備える多層フィルムであってもよい。
【0018】
そして、本発明は、上記構成を備えることで、低温時の収縮性が高いポリオレフィン系熱収縮性フィルムを得ることができる。具体的には、110℃における縦、横方向のいずれかの熱収縮率が50%以上とすることができる。110℃における収縮率は、特に60%以上が好ましく、更には65%以上であることが好ましい。
【0019】
本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムの製造方法は、従来公知の方法を採用することができ、特に制限するものではないが、溶融押出法でインフレーションダイより溶融押出しした溶融チューブを内部の空気圧で膨張させ、空気冷却や水冷却により固定させるインフレーション法や、インフレーション法やTダイ法等により未延伸フィルムを製膜し、次工程で延伸する方法が挙げられる。延伸方法としては、従来公知の方法を採用することができ、特に制限するものではないが、例えばテンター式二軸延伸成型法、チューブラー式二軸延伸成型法等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明のポリオレフィン系熱収縮性フィルムについて、実施例に基づき説明する。なお、各熱収縮性フィルムにおいて行った測定・評価方法は以下の通りである。
【0021】
(1)収縮率
JIS Z1709−1995に準拠して測定した。なお、熱溶媒はグリセリン、浸漬時間は10秒として、110℃、120℃、130℃における熱収縮率を測定した。
このうち、110℃における熱収縮率の測定結果を、以下の基準で評価した。
<低温収縮性評価基準>
110℃における、フィルムの縦方向(製膜時の流れ方向、MD方向)またはフィルムの横方向(製膜時の幅方向、TD方向)の熱収縮率の結果から以下の基準で評価した。
〇:MD方向又はTD方向における熱収縮率が65%以上
△:MD方向又はTD方向における熱収縮率が50%以上65%未満
×:MD方向又はTD方向における熱収縮率が50%未満
(2)バイオマス度
使用する植物由来原料のバイオマス度と配合比率から、フィルム全体のバイオマス度を算出した。
【0022】
各実施例、比較例で使用した原料は以下の通りである。
・化石燃料由来の低密度ポリエチレン(化石燃料由来 LDPE)[密度:922kg/m、MFR:0.42g/10分]
・植物由来の低密度ポリエチレン(1)(植物由来 LDPE(1))[密度:924kg/m、MFR:0.60g/10分、バイオマス度:95%](Braskem社製「STN7006」)
・植物由来の低密度ポリエチレン(2)(植物由来 LDPE(2))[密度:922kg/m、MFR:3.8g/10分、バイオマス度:95%](Braskem社製「SPB681」)
・化石燃料由来の直鎖状低密度ポリエチレン(化石燃料由来 LLDPE)[密度:920kg/m、MFR:1.0g/10分]
・植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン(植物由来 LLDPE)[密度:920kg/m、MFR:0.80g/10分、バイオマス度:84%](Braskem社製「SLH0820/30AF」)
【0023】
[実施例1乃至2、比較例1乃至4]
表1に示す樹脂組成及びインフレーション法のブロー比にて、表1に示すフィルム厚みのポリオレフィン系熱収縮性フィルムを製膜した。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示すように、実施例1乃至2のポリオレフィン系熱収縮性フィルムは、比較例1と低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンの配合比は同じであるにもかかわらず、植物由来の低密度ポリエチレンを用いることで比較例1よりも低温における収縮率が良好であった。
また、直鎖状低密度ポリエチレンの配合割合が30重量%である比較例2乃至4のポリオレフィン系熱収縮性フィルムは、実施例1〜2及び比較例1よりも低温収縮性が劣るものであった。