【解決手段】本発明の一態様によれば、所望の三次元造形物が形成される造形領域に材料層を形成する材料層形成装置と、前記材料層にレーザ光または電子ビームを照射して焼結または溶融させ固化層を形成する照射装置と、前記固化層が積層してなる固化体の上面を含む少なくとも一部を所定の冷却温度に冷却する冷却装置と、を備え、前記材料層形成装置は、前記造形領域を有するベース台と、前記ベース台上に配置されるリコータヘッドと、前記リコータヘッドを水平1軸方向に往復移動させるリコータヘッド駆動装置と、前記リコータヘッドに設けられ、材料粉体を均して前記材料層を形成するブレードと、を含み、前記冷却装置は、前記リコータヘッドに設けられ、前記冷却温度に温度調整され、前記固化体の上面と接触する冷却部を含む、積層造形装置が提供される。
前記冷却装置は、前記リコータヘッドに設けられ、前記固化体の上面から前記材料粉体を除去するワイパをさらに含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0012】
1.構成例
図1は、本発明の実施形態に係る積層造形装置1の構成を示した図である。
図1に示すように、積層造形装置1は、チャンバ11と、材料層形成装置4と、照射装置5と、冷却装置6と、を備える。
【0013】
チャンバ11は、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域Rを覆う。チャンバ11は所定濃度の不活性ガスが供給されるとともに、材料層Mの固化時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスを排出している。好ましくは、チャンバ11から排出された不活性ガスは、ヒュームが除去されチャンバ11に返送される。具体的には、チャンバ11には、不図示の不活性ガス供給装置と、不図示のヒュームコレクタが接続されている。なお、本発明において、不活性ガスとは、材料層Mや固化層Sと実質的に反応しないガスをいい、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等から材料の種類に応じて適当なものが選択される。
【0014】
不活性ガス供給装置は、不活性ガスを供給する機能を有し、例えば、周囲の空気から所定濃度の不活性ガスを生成する不活性ガス発生装置、または所定濃度の不活性ガスが貯留されたガスボンベである。不活性ガス発生装置は、膜分離方式、PSA方式等、生成する不活性ガスの種類や濃度に応じて種々の方式のものが採用できる。不活性ガス供給装置は、チャンバ11内に不活性ガスの供給を行い、チャンバ11内を所定濃度の不活性ガスで充満させる。ここで、不活性ガス供給装置から供給される不活性ガスは乾燥していることが望ましい。具体的には、不活性ガスの露点温度は、冷却装置6の冷却温度よりも低いことが望ましい。後述する冷却装置6の冷却部はチャンバ11内を移動するため、チャンバ11内に乾燥した不活性ガスが充満されていれば、冷却部が結露することを抑制することができる。すなわち、不活性ガス供給装置が不活性ガス発生装置であるとき、不活性ガス発生装置は不活性ガスを生成するための原料とする空気を乾燥させる乾燥装置を備えていることが望ましい。また、不活性ガス供給装置がガスボンベであるとき、ガスボンベには十分に乾燥した不活性ガスが貯留されていることが望ましい。
【0015】
チャンバ11から排出されたヒュームを多く含む不活性ガスはヒュームコレクタへと送られ、ヒュームが除去された上でチャンバ11へと返送される。ヒュームコレクタはヒュームを除去する機能を有していればよく、例えば、電気集塵機またはフィルタである。
【0016】
材料層形成装置4は、造形領域R上に、材料粉体を平坦化して所定厚みの材料層Mを形成する。材料層形成装置4は、ベース台41と、リコータヘッド42と、リコータヘッド駆動装置44と、ブレード424と、を含む。ベース台41はチャンバ11内に設けられ、造形領域Rを有している。
【0017】
造形領域Rには、造形テーブル2が配置される。造形テーブル2は、造形テーブル駆動装置3によって鉛直方向(矢印U方向)に移動することができる。三次元造形物を形成する際には、造形テーブル2上にベースプレート21が載置されてもよい。このとき、ベースプレート21上に1層目の材料層Mが形成される。造形テーブル2の周りには、粉体保持壁13が設けられる。粉体保持壁13と造形テーブル2とによって囲まれる材料保持空間には、未固化の材料粉体が保持される。
【0018】
図2に示すように、造形テーブル2は、天板22、支持板23、支持板24、支持板25を有しており、これらが重ね合わされて、造形テーブル2が構成される。また、造形テーブル2の内部には、造形テーブル2の温度を調整するための温度調整機構26が設けられている。温度調整機構26は、造形テーブル2の内部に設けられた加熱器261および冷却器262を有する。加熱器261は、例えば、電熱器等の発熱体または熱媒体が流通される管路である。冷却器262は、例えば、熱媒体が流通される管路である。熱媒体としては、水や油等の種々の流体を用いることができる。なお、温度調整機構26の冷却器262はある程度の冷却が行える構造であればよく、後述する冷却装置6による冷却温度よりも高い温度に冷却が行えるものでよい。例えば、冷却器262は造形テーブル2を常温に冷却可能である。
【0019】
造形テーブル駆動装置3としては、造形テーブル2を矢印U方向に沿って往復移動させることができる任意のアクチュエータを含むものが採用できる。本実施形態においては、造形テーブル駆動装置3は、造形テーブル2下に設けられるスライドベースと、ボールねじと、ボールねじを支持するガイドベースとを備える。ボールねじは、モータによって回転するネジ軸と、ボールを介してネジ軸と螺合するナットと、を含む。ナットはスライドベースの側面に固定される。
【0020】
リコータヘッド42は、ベース台41上に配置され、リコータヘッド駆動装置44によって水平1軸方向(矢印B方向)に往復移動する。リコータヘッド42は、少なくともブレード424を矢印B方向に移動させる機能を有する。加えて、本実施形態のリコータヘッド42は、材料層Mとなる材料粉体を貯留して、造形領域Rに吐出する機能を有する。
図3および
図4に示すように、リコータヘッド42は、材料収容部421と、材料供給部422と、材料吐出部423と、を有し、側面にブレード424が配設されている。
【0021】
材料収容部421は、材料供給装置14から供給される材料粉体を収容する。材料供給部422は、材料収容部421の上面に配設され、材料供給装置14から材料収容部421に供給される材料粉体の受口となる。材料吐出部423は、材料収容部421の底面に配設され、材料収容部421内の材料粉体を吐出する。また、材料吐出部423はスリット形状を有し、その長手方向は、リコータヘッド42の移動方向である矢印B方向に直交する水平1軸方向(矢印C方向)である。リコータヘッド42は、造形領域R上を矢印B方向に往復移動し、その際に、材料吐出部423から材料粉体を吐出する。
【0022】
ブレード424は、リコータヘッド42の側面に配設される。ブレード424は、リコータヘッド42とともに造形領域R上を往復移動して、リコータヘッド42から造形領域Rに吐出された材料粉体を均し、材料層Mを形成する。本実施形態ではリコータヘッド42の両側面に1つずつブレード424が設けられるが、少なくとも1つのブレード424がリコータヘッド42に取り付けられればよい。また、ブレード424としては、平板状のもの、可撓性のあるもの、ブラシ状のもの、ローラ状のもの等、所定厚みの材料層Mを形成可能なものであれば、種々の形態が採用可能である。
【0023】
リコータヘッド駆動装置44としては、リコータヘッド42を矢印B方向に沿って往復移動させることができる任意のアクチュエータを含むものが採用できる。本実施形態においては、リコータヘッド駆動装置44は、モータと、ボールねじと、一対のガイドと、を含む。ボールねじは、モータによって回転するねじ軸と、ボールを介してねじ軸と螺合しリコータヘッド42と接続されるナットを有する。ガイドは、ベース台41上に設けられ矢印B方向に延びる。リコータヘッド42はガイドに案内され、矢印B方向に移動される。
【0024】
材料供給装置14は、ベース台41の矢印B方向における一端の上側に、チャンバ11を貫通して設けられる。材料供給装置14は、材料粉体が貯留されているボトル14aと、ボトル14aから供給される材料粉体を受けるホッパ14bと、ホッパ14bと接続されリコータヘッド42に材料粉体を案内する中間ダクト14cと、を含む。リコータヘッド42に材料粉体を補充する際は、材料供給装置14の下方にリコータヘッド42が移動される。そして、中間ダクト14cが下降され、中間ダクト14cの先端が材料供給部422から材料収容部421に挿入される。この状態でシャッタが開放され、ボトル14aからホッパ14bに供給されている材料粉体が所定量自由落下されて、材料収容部421内に材料粉体が補給される。なお、材料供給装置14は、リコータヘッド42に材料粉体を供給できるものであればよく、上述の実施形態に限定されない。
【0025】
本実施形態の積層造形装置1で使用される材料は、例えば、金属の材料粉体である。特に、所定数の固化層Sを形成する毎に固化層Sに対して温度調整を行って、意図的に固化層Sのマルテンサイト変態を進行させながら三次元造形物の造形を行う場合は、マルテンサイト系ステンレスや炭素鋼等のマルテンサイト系の材料が使用される。
【0026】
ベース41台の矢印B方向の端部、少なくとも矢印B方向において造形領域Rよりも外側の位置に、材料排出部15が形成されている。本実施形態では材料排出部15はベース台41の両端に1つずつ設けられているが、一方の端部にのみ設けられてもよい。材料排出部15は開口であり、材料排出部15から落下した材料粉体はシュート16に案内されて、バケット17に貯蔵される。バケット17に回収された材料粉体は、再利用されてもよい。造形テーブル2上部の材料保持空間に保持されなかった余剰の材料粉体は、リコータヘッド42を材料排出部15近辺まで移動させることで、材料排出部15から排出される。また、材料排出部15上にリコータヘッド42を移動させることにより、リコータヘッド42の材料収容部421に収容されている材料粉体を材料吐出部423から排出し、材料収容部421内を略空にすることができる。
【0027】
照射装置5は、材料層Mにレーザ光Lを照射して焼結または溶融させ固化層Sを形成する。照射装置5は、レーザ光Lを出力する出力源51と、出力源51から出力されたレーザ光Lを造形テーブル2上の材料層Mの所望の位置に走査させる走査手段と、を含む。より、具体的には、照射装置5は、出力源51と、コリメータ52と、フォーカス制御ユニット53と、走査手段と、を有している。
【0028】
出力源51は、レーザ光Lを出力する。レーザ光Lは、材料層Mを焼結または溶融することが可能であり、例えば、CO
2レーザ、ファイバーレーザ、またはYAGレーザである。コリメータ52は、出力源51から出力されたレーザ光Lを平行光に変換する。フォーカス制御ユニット53は、コリメータ52で平行光に変換されたレーザ光Lを集光し、所定のスポット径に調整する。
【0029】
走査手段は、具体的にはガルバノミラー54x、ガルバノミラー54yと、ガルバノミラー54x、ガルバノミラー54yをそれぞれ回転させるアクチュエータ56x、アクチュエータ56yと、を有するガルバノスキャナである。ガルバノミラー54xとガルバノミラー54yの回転角度を制御することでレーザ光Lの照射位置が制御される。
【0030】
ガルバノミラー54xとガルバノミラー54yにより照射位置が制御されたレーザ光Lは、チャンバ11の上面に設けられたウインドウ12を通して造形テーブル2上の材料層Mに照射され、固化層Sを形成する。ウインドウ12は、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバーレーザまたはYAGレーザの場合、ウインドウ12は石英ガラスで構成可能である。
【0031】
チャンバ11の上面には、ウインドウ12を覆うように汚染防止装置7が設けられる。汚染防止装置7は、不活性ガスをウインドウ12の下に充満させてウインドウ12の汚染を防止し、不活性ガスを下方に噴出させてレーザ光Lの経路からヒュームを排除する。
【0032】
本実施形態の照射装置5はレーザ光Lを照射して固化層Sを形成するように構成されるが、照射装置は電子ビームを照射するものであってもよい。例えば、照射装置は、電子を放出するカソード電極と、電子を収束して加速するアノード電極と、磁場を形成して電子ビームの方向を一方向に収束するソレノイドと、被照射体である材料層Mと電気的に接続されカソード電極との間に電圧を印加するコレクタ電極と、を有するよう構成されてもよい。このとき、カソード電極およびアノード電極が電子ビームを出力する出力源の役割を果たし、ソレノイドが電子ビームを走査する走査手段の役割を果たす。なお、ウインドウ12および汚染防止装置7を省略し、カソード電極がチャンバ11内に突出するように設けられてもよい。また、電子ビームを照射する照射装置を用いる場合は、チャンバ11内の雰囲気を、真空に近い状態の貴ガス雰囲気下においてもよい。
【0033】
積層造形装置1は、所定数の固化層Sを形成する毎に固化層Sの端面に切削加工を行う第1の加工装置をさらに備えていてもよい。第1の加工装置は、第1の加工ヘッドと、第1の加工ヘッドを駆動するための第1の加工ヘッド駆動装置を備える。第1の加工ヘッド駆動装置は、チャンバ11内に配置される第1の加工ヘッドをY軸方向に移動させるY軸駆動部と、ベース台41上に配置されY軸駆動部をX軸方向に移動させるX軸駆動部と、第1の加工ヘッドをZ軸方向に移動させると、を有する。第1の加工ヘッドは、スピンドルヘッドを備える。スピンドルヘッドは、エンドミル等の切削工具を把持して回転させることができるように構成されており、固化層Sの表面や不要部分に対して切削加工を行うことができる。
【0034】
また、積層造形装置1は、第1の加工装置に代えて、積層造形した三次元造形物の上面および側面に対し、二次加工における基準面を切削加工する第2の加工装置をさらに備えていてもよい。第2の加工装置は、バイト等の切削工具を把持するとともに切削工具を鉛直方向の回転軸に沿って回動させる旋回機構が設けられた第2の加工ヘッドと、第2の加工ヘッドを水平駆動するための第2の加工ヘッド駆動装置を備えていてもよい。第2の加工ヘッド駆動装置は、例えば、一対の第1水平移動機構と、一対の第1水平移動機構に設けられているガントリと、ガントリに取り付けられており第2の加工ヘッドが固定された第2水平移動機構と、を有する。このとき、第2の加工ヘッド駆動装置は、第2の加工ヘッドをZ軸方向に移動させる駆動装置を有していなくてもよい。
【0035】
2.冷却装置
冷却装置6は、固化層Sが積層してなる固化体の上面を含む少なくとも一部を所定の冷却温度に冷却する。以下においては、冷却対象となる固化体の上面を含む少なくとも一部を、上面層と呼ぶ。
図3から
図5に示すように、冷却装置6は、冷却部と、昇降装置62と、ワイパ63と、冷媒流入口64と、冷媒流出口65と、を有する。
【0036】
冷却部は、リコータヘッド42に設けられ、上面層の冷却を行う際は、冷却温度に温度調整される。そして、冷却部は、固化体の上面と接触することで、上面層を冷却する。本実施形態においては、冷却部は、具体的にはローラ61である。ローラ61は、リコータヘッド42と接続された支持部66によって回転自在に支持され、リコータヘッド42の移動に伴って、固化体の上面と接触しながら回転移動する。ローラ61の表面をある程度弾性のある素材で構成すれば、ローラ61を固化体の上面に押し当てて、所定の接触面積を確保しながら移動させることができ、好ましい。例えば、ローラ61の表面には、弾力性のある熱伝導シートが貼り付けられていてもよい。熱伝導シートは、例えば、熱伝導フィラーが混練されたアクリル系樹脂またはシリコーンゴムである。なお、冷却装置6の冷却部は、放熱性能の高い金属、例えば、フィンを有するヒートシンクであってもよい。ただし、冷却部を固化体の上面と接触しながら回転移動するローラ61とすることで、ローラ61を移動させながら冷却を行うことができ、冷却部を小型なものとすることができる。ひいては、冷却部の冷却効率がよく、また、冷却装置6をより小型に構成することができる。
【0037】
ワイパ63は、リコータヘッド42に設けられる。より具体的には、リコータヘッド42と接続された支持部66にワイパ63が取り付けられる。ワイパ63としては、可撓性がある平板状のものや、ブラシ状のものが好ましい。また、ワイパ63の下端は、冷却部であるローラ61の下端よりも、下方に位置するようにされる。ワイパ63は、リコータヘッド42の移動に伴って、固化体の上面に接触しながら移動され、固化体の上面から材料粉体を除去する。好ましくは、ワイパ63は、リコータヘッド42の移動に伴い固化体の側面の少なくとも一部からも材料粉体を除去する。冷却時に固化体上や固化体の側面に材料粉体が存在していると、冷却部と固化体が接触することの妨げとなるだけではなく、材料粉体に蓄えられている熱エネルギが冷却効率の低下をもたらす。そのため、ワイパ63により固化体の上面や、固化体の側面の少なくとも一部から材料粉体を払拭したうえで、冷却部による冷却を行うことにより、効率よく上面層を冷却することができる。なお、本実施形態においてはワイパ63を支持部66の一側面にのみ設けているが、支持部66の両側面に1つずつワイパ63を設けてもよい。
【0038】
昇降装置62は、冷却部であるローラ61を昇降させる任意のアクチュエータである。昇降装置62としては、例えば、エアシリンダが用いられる。昇降装置62は、材料層形成装置4が材料層Mを形成する際には、冷却部を上昇させ、冷却部と材料層Mとを非接触状態に保つ。また、昇降装置62は、上面層を冷却する際には、冷却部を下降させ、冷却部と固化体とを接触状態に保つ。このように構成することで、冷却部が材料層Mの形成の妨げになることを防止することができる。
【0039】
冷媒流入口64および冷媒流出口65は、それぞれ、冷却部であるローラ61の内部に配設された冷媒が流通する管路611の入口と出口である。冷媒流入口64および冷媒流出口65は、それぞれ、不図示の配管を介して、冷媒を循環させる不図示のチラーと接続される。当該配管には、冷媒の供給をON/OFFするための電磁弁68が設けられる。チラーにおいて所定の冷却温度に温度調整された冷媒は、冷媒流入口64から管路611に流入され、管路611を通って冷媒流出口65から再度チラーに戻される。冷媒としては、水や油、エチレングリコール等の不凍液、液化窒素等の種々の流体を用いることができる。
【0040】
また、冷却部であるローラ61の内部に配設された管路611は、好ましくは
図7に示すように、螺旋状の形状を有している。このような管路611によれば、より効率よく冷却部を冷却できる。
【0041】
また、固化体上面の温度を測定する温度センサが設けられてもよい。温度センサは、積層造形装置1内の任意の位置に設けられればよいが、例えば、第1の加工ヘッドまたは第2の加工ヘッドに設けられる。温度センサが接触式である場合は、温度センサを上下移動させるエアシリンダ等の駆動装置がさらに設けられてもよい。冷却装置6による冷却後に、固化体上面の温度を測定し、所定の冷却温度に到達していないようであれば、再度冷却装置6による冷却を行うよう構成してもよい。また、固化体上面の温度を測定しながら冷却装置6による冷却を行い、所定の冷却温度に到達するまで冷却を継続するよう構成してもよい。
【0042】
3.制御装置
次に、積層造形装置1を制御する制御装置8について説明する。
図8に示すように、制御装置8は、数値制御装置82、表示装置83、材料層形成制御装置84、造形テーブル制御装置85、昇降装置駆動装置86、照射制御装置87、第1のミラー制御装置871xおよび第2のミラー制御装置871yを有している。制御装置8は、少なくとも、積層造形装置1の造形テーブル駆動装置3と、材料層形成装置4と、温度調整機構26と、冷却装置6と、照射装置5と、を制御するものである。
【0043】
CAM装置81は、所望の三次元造形物を形成するためのメインプログラムと、造形プログラムとを含むプロジェクトファイルを作成する。メインプログラムは、シーケンス番号をふられた複数のプログラム行で構成され、各プログラム行には、所定の層における焼結または溶融の指令等を含む。また、造形プログラムは、照射プログラムファイルであり、レーザ光Lの照射位置等の指令を含む。
【0044】
数値制御装置82は、CAM装置81が作成したプロジェクトファイルにしたがって、所望の三次元造形物を形成すべく、材料層形成装置4、造形テーブル2の高さと温度、冷却装置6の冷却部の温度と位置および照射装置5等を制御するもので、記憶装置821と演算装置822とメモリ823とを有している。
【0045】
記憶装置821は、通信線や可搬記憶媒体を介してCAM装置81から取得したプロジェクトファイルを記憶する。
【0046】
演算装置822は、記憶装置821に記憶したプロジェクトファイルにしたがって、材料層形成装置4、造形テーブル2の高さと温度、冷却装置6の冷却部の温度と位置および照射装置5等を制御するための演算処理を実行する。
【0047】
メモリ823は、演算装置822による演算処理の過程で一時的に記憶する必要のある数値やデータを一時的に記憶する。
【0048】
表示装置83は、数値制御装置82に接続され、数値制御装置82が通知するデータやエラーメッセージ等を表示する。
【0049】
材料層形成制御装置84は、数値制御装置82からの指令に基づいて材料層形成装置4を制御する。材料層形成制御装置84からの指令は、駆動電流供給装置43に入力され、当該指令に応じた電力を駆動電流供給装置43が出力することでリコータヘッド駆動装置44のモータが回転し、リコータヘッド42がベース台41上を往復移動する。また、材料層形成制御装置84には、駆動電流供給装置43の出力に応じた信号やモータに取り付けられたエンコーダ等からの信号が入力され、これら入力された信号に基づいて材料層形成制御装置84は、フィードバック制御を行う。
【0050】
造形テーブル制御装置85は、数値制御装置82からの指令に基づいて造形テーブル駆動装置3を制御する。造形テーブル制御装置85からの指令は、駆動電流供給装置31に入力され、当該指令に応じた電力を駆動電流供給装置31が出力することで造形テーブル駆動装置3のモータが回転し、造形テーブル2が上方向または下方向に移動し、その高さが変化する。また、造形テーブル制御装置85には、駆動電流供給装置31の出力に応じた信号やモータに取り付けられたエンコーダ等からの信号が入力され、これら入力された信号に基づいて造形テーブル制御装置85は、フィードバック制御を行う。
【0051】
昇降装置駆動装置86は、数値制御装置82からの指令に基づいて、冷却装置6の昇降装置62を制御する。昇降装置駆動装置86からの指令は、駆動電流供給装置67に入力され、当該指令に応じた電力を駆動電流供給装置67が出力することで冷却装置6の昇降装置62が動作し、支持部を昇降させる。こうして、支持部に設けられた冷却部であるローラ61と、ワイパ63が昇降される。また、昇降装置駆動装置86には、駆動電流供給装置67の出力に応じた信号が入力され、これら入力された信号に基づいて昇降装置駆動装置86は、フィードバック制御を行う。
【0052】
また、数値制御装置82は、電磁弁68を開閉することで、冷却部の管路611への冷媒の供給を制御する。チラーと冷媒流入口64間およびチラーと冷媒流出口65間の電磁弁68がそれぞれ開かれると、チラーと管路611間を循環する冷媒の流れが形成され、冷却部が冷却温度に温度調整される。冷却部の冷却を行わないときは、電磁弁68は閉じられる。
【0053】
さらに、数値制御装置82は、造形テーブル2の温度調整機構を制御する。具体的に、数値制御装置82は温度調整機構の加熱器および冷却器を適宜ON/OFFすることで、造形テーブル2を所望の温度に調整する。
【0054】
照射制御装置87は、数値制御装置82から造形プログラムを受信し、この造形プログラムに基づいて照射データの生成を行い、生成した照射データに基づいて第1のミラー制御装置871xと第2のミラー制御装置871yに指令を送出する。また、照射制御装置87は、出力源51に指令を送出し、レーザ光Lの強度やオン/オフの切り替えを制御する。
【0055】
第1のミラー制御装置871xは、照射制御装置87からの指令に基づいて照射装置5の走査手段を制御する。第1のミラー制御装置871xからの指令は、照射装置5の駆動電流供給装置55xに入力され、当該指令に応じた電力を駆動電流供給装置55xが出力することで照射装置5のアクチュエータ56xが動作し、ガルバノミラー54xが回転する。
【0056】
第2のミラー制御装置871yは、照射制御装置87からの指令に基づいて照射装置5の走査手段を制御する。第2のミラー制御装置871yからの指令は、照射装置5の駆動電流供給装置55yに入力され、当該指令に応じた電力を駆動電流供給装置55yが出力することで照射装置5のアクチュエータ56yが動作し、ガルバノミラー54yが回転する。
【0057】
4.動作説明
本実施形態の積層造形装置1は、造形途中に固化層に対して温度調整を行う三次元造形物の製造方法を実施するにあたり、特に有効である。そのような製造方法の一例として、本実施形態においては、固化層Sに対して所定の温度条件で加熱および冷却を行いながら造形を行うことで、意図的にマルテンサイト変態を進行させて三次元造形物の応力制御を行う積層造形方法が実施される。より具体的には、1層または複数層の固化層Sが新たに造形される毎に、新たに造形された固化層S、すなわち上面層に対し、造形温度、冷却温度、造形温度の順番で温度調整が行われる。以下、本積層造形方法を実施する積層造形装置1の造形に係る動作を説明する。
【0058】
本積層造形方法において、造形温度および冷却温度は、マルテンサイト変態を進行させるための所定の温度条件を満たす。すなわち、造形温度は、固化層Sのマルテンサイト変態終了温度以上である。また、冷却温度は、造形温度よりも低く、固化層Sのマルテンサイト変態開始温度以下である。造形温度および冷却温度は、この温度条件を満たす範囲において、造形中一定でなくてもよい。換言すれば、造形温度に加熱された固化層Sを冷却温度に冷却する際において、都度前述の温度条件を満足していればよい。また、三次元造形物のマルテンサイト変態が造形後に進行することを防止するため、冷却温度を固化層Sのマルテンサイト変態終了温度以下に設定してもよい。
【0059】
まず、造形テーブル2上にベースプレート21が載置され、造形テーブル2の高さが適切な高さに調整される。一方、材料層形成装置4のリコータヘッド42が材料供給装置14の下方に移動し、材料供給装置14から材料粉体の供給を受ける(A101)。続いて、リコータヘッド42が造形領域R上を移動して、造形領域R上に1層目の材料層Mを形成する(A102)。このとき、造形テーブル2は、造形テーブル2内部に設けられた温度調整機構により所定温度に加熱されている。具体的には、造形テーブル2は造形温度に温度調整され、材料層Mを予熱する。
【0060】
続いて、照射装置5が動作して、1層目の材料層Mにレーザ光Lを照射して1層目の固化層Sを形成する(A103)。1層目の固化層Sが形成されたあと、造形テーブル2が材料層M1層分下げられ、リコータヘッド42が造形領域R上を移動して、固化層Sの上に2層目の材料層Mを形成する。2層目の材料層Mに対し、照射装置5によりレーザ光Lが照射され、2層目の固化層Sが形成される。このようにして、材料層Mの形成と固化層Sの形成は、所定数だけ繰り返される。造形された複数の固化層Sは互いに固着する。このとき、固化層Sはオーステナイト相を含んでいる。なお、材料層Mと固化層Sの形成を繰り返している間にリコータヘッド42内の材料粉体が不足した場合、再度材料供給装置14から材料粉体の供給を受けてもよい。また、材料層Mと固化層Sの形成を繰り返している間は、造形テーブルは造形温度に温度調整されている。すなわち、造形テーブルは材料層Mを予熱するだけではなく、形成された固化層Sを順次造形温度、すなわちマルテンサイト変態終了温度以上の温度に温度調整している。
【0061】
所定数の固化層Sが形成されると、リコータヘッド42は、材料排出部15上に移動して、材料吐出部423から材料排出部15へ材料粉体を排出し、材料収容部421を略空にする(A104)。このようにすることで、冷却時に固化体の上面に材料粉体が撒布されることを防止できる。
【0062】
続いて、リコータヘッド42が造形領域R上の所定位置まで移動され、昇降装置62が、冷却部であるローラ61を下降させる(A105)。なお、固化体の上面にレーザ光Lを照射した際に飛散したスパッタが付着するなどして、固化体の上面に突起物が形成されている可能性がある。そのため、ブレード424と突起物が干渉するのを防止するため、リコータヘッド42を造形領域R上に移動する前に、あらかじめ造形テーブル2を所定高さ下げておくことが望ましい。本実施形態では、材料層M1層分、造形テーブル2が下げられる。
【0063】
また、冷却部を所定の冷却温度に冷却するため、電磁弁68が開かれ、チラーが冷却装置6に冷媒を供給し、管路611内に冷媒を流通させる(A106)。冷却部が固化体に接触する前に冷却部が所定の冷却温度に到達するよう、冷媒の流通が開始されることが望ましい。本実施形態では、所定数の固化層Sが形成されたタイミングで、管路611への冷媒の流通が開始される。なお、上面層の冷却時は、造形テーブル2に設けられた温度調整機構による造形テーブル2の加熱は停止されてもよい。より好ましくは、温度調整機構の加熱器を停止させ、冷却器によって造形テーブル2の温度を低下させる。このとき、造形テーブル2は固化体に過剰に熱が伝達することを抑制できる程度に冷却されていればよく、所定の冷却温度まで冷却される必要はない。例えば、造形テーブル2は常温に温度調整される。
【0064】
この状態で、リコータヘッド42が造形領域R上を移動して、ローラ61が固化体の上面と接触しながら回転移動し、上面層を冷却する(A107)。上面層が所定の冷却温度に冷却されることで、上面層に含まれるオーステナイト相の少なくとも一部がマルテンサイト相へと変態する。上面層に対して十分な冷却がなされるまで、リコータヘッド42は複数回造形領域R上を往復移動する。なお、ワイパ63が設けられる場合は、ローラ61が固化体の上面と接触するよりも先に、固化体の上面や固化体の側面の少なくとも一部から余分の材料粉体を払拭することが望ましい。本実施形態では、
図1および
図5に示すように、ワイパ63は、ローラ61よりも左側に設けられている。そのため、冷却時には、まずは造形領域Rの右側から左側に移動するように、リコータヘッド42が制御される。ワイパ63によって固化体上面の材料粉体を除去したあとは、リコータヘッド42はいずれの方向に移動されてもよい。なお、ワイパ63がローラ61の両側に設けられる場合は、冷却時の最初のリコータヘッド42の移動方向は、右側からでも左側からであってもよい。なお、冷却時にリコータヘッド42が移動する範囲は、造形領域R全体を含んでいなくてもよい。例えば、固化体の上面の範囲を、冷却時点での最上位の固化層Sの形成にかかる造形プログラムから算出し、当該範囲上のみリコータヘッド42を往復移動させるよう、構成してもよい。このとき、ワイパ63により固化体の側面の少なくとも一部における材料粉体を除去するため、各冷却時の最初にリコータヘッド42が固化体上を移動する際は、ワイパ63が摺動する範囲が固化体の上面の範囲よりも大きくなるよう構成されることが望ましい。すなわち、算出した固化体の上面の範囲に所定のオフセットを加えて、リコータヘッド42の冷却時の最初の移動範囲とすることが望ましい。また、冷却装置6による上面層の冷却は、固化層表面の温度が冷却温度に到達するまで行われてもよいし、リコータヘッド42が所定回数移動するまで行われてもよいし、冷却を開始してから所定時間経過するまで行われてもよい。リコータヘッド42の移動回数または冷却時間は、あらかじめ測定したデータに基づいて決定されてもよいし、材料の種類、固化層または上面層の体積、固化層表面の面積、加熱温度、冷却温度等から都度算出されてもよい。また、上面層を冷却する際と、材料層Mを形成する際のリコータヘッド42の移動速度も異なるようにすることができる。例えば、冷却時のリコータヘッド42の移動測度は、材料層M形成時の移動測度よりも低速であってもよい。
【0065】
上面層の冷却が終了すると、昇降装置62が、ローラ61を上昇させるとともに(A108)、電磁弁68が閉じられ、チラーによる冷媒の供給が停止され、管路611内の冷媒の流通が停止される(A109)。
【0066】
リコータヘッド42は材料供給装置14により材料粉体が補充され、造形テーブル2は造形温度に再加熱される。造形テーブル2を介して、固化体が造形温度に温度調整される。そして、前述と同様の手順で材料層Mの形成と固化層Sの形成が繰り返され、所定数の固化層Sが新たに積層された段階で、再度当該固化層S、すなわち上面層の冷却が行われる。積層造形装置1は、これらの処理を造形が終了するまで繰り返し、造形が終了すると、造形動作を終了する。なお、積層造形装置1が第1の加工装置または第2の加工装置を備える場合は、造形途中または造形後に、固化層Sに対して切削加工がおこなわれてもよい。
【0067】
なお、リコータヘッド42に、造形温度に温度調整され固化体の上面と接触する加熱部を含む加熱装置を設け、上面層の冷却後に、上面層を含む固化体を再度造形温度に温度調整するにあたり、当該加熱装置を使用して固化体の加熱を行ってもよい。加熱装置の加熱部は冷却装置6の冷却部と別体に設けられてもよいし、冷却部が加熱部としての機能も有するものであってもよい。例えば、冷却部が管路611を有するローラ61であるとき、管路611は造形温度に温度調整された熱媒も流通するよう構成されてもよいし、ローラ61内に管路611とは別の、熱媒が流通する管路が設けられてもよいし、熱媒が流通する管路が設けられたローラ61とは別のローラがリコータヘッド42に設けられてもよい。