【課題】染色性及びギラツキのある光沢感、ハリコシ感に優れる布帛を得ることができる常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を提供する。また、染色性及びギラツキのある光沢感、ハリコシ感に優れる布帛を提供する。
【解決手段】主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、ポリエステル全体の酸成分に対して2.0〜3.0モル%の金属スルホネート基含有イソフタル酸成分を含有し、平均分子量が150〜400のポリアルキレングリコールをポリエステル全体に対して2.0〜3.5質量%の割合で含有するポリエステルからなり、繊維の横断面形状が長軸方向の繊維表面に凹凸部を有さない扁平断面形状を呈しており、繊維横断面のアスペクト比が4.0〜6.0、単糸繊度が9〜15dtexであることを特徴とする常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維。前記常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いた布帛。
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、ポリエステル全体の酸成分に対して2.0〜3.0モル%の金属スルホネート基含有イソフタル酸成分を含有し、平均分子量が150〜400のポリアルキレングリコールをポリエステル全体に対して2.0〜3.5質量%の割合で含有するポリエステルからなり、繊維の横断面において、長軸方向の繊維表面に凹凸部を有さない扁平形状を呈しており、繊維横断面の長軸の最大径(L)と短軸の最大径(l)長さの比であるアスペクト比(L/l)が4.0〜6.0、単糸繊度が9〜15dtexであることを特徴とする常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、その優れた力学的特性及び化学的特性から、衣料用途に数多く利用されている。
しかし、ポリエステル繊維は染色性が劣り、分散染料やカチオン染料を使用して130℃の高温高圧下で染色しなければ、鮮明かつ深みのある色が得られにくい。
したがって、ポリエステル繊維を天然繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維等のポリエステル以外の繊維と組み合わせて交編、交織した後に染色した場合、ポリエステルの染色環境である高温高圧下により、組み合わせた繊維が劣化してしまう。
【0003】
上記の問題を克服するために、100℃の常圧下における染色が可能なポリエステル繊維が開発されている。具体的には、ポリエステルに5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのスルホン酸金属塩基を有するジカルボン酸及びポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールを共重合させることで、100℃の常圧下でカチオン染料による染色を可能とした常圧カチオン可染性ポリエステル繊維である。
【0004】
また、常圧カチオン可染性ポリエステル繊維は、導入したスルホン酸基とカチオン染料がイオン結合するため、分散染料と比べ染色性(発色性及び堅牢度)に優れる。
また、常圧カチオン可染性ポリエステル繊維と、発色性が異なる他の繊維とを組み合わせて布帛とした場合、杢調を呈するため意匠性に優れた布帛を得ることが出来る。
【0005】
上記のことから、常圧カチオン可染性ポリエステル繊維を用いた布帛は、衣料用途に有効に利用することができる。
【0006】
また、衣料用途においては、様々な要求特性があり、これまで様々な異形断面繊維が提案されている。例えば、婦人服などの用途において光沢感に優れた外観を得る方法としては、繊維横断面を扁平形状にすることが知られている。
【0007】
また、常圧カチオン可染性ポリエステル繊維の異形断面繊維として、丸断面単糸が接合したような形状であり、長軸を軸として凸部と凸部、凹部と凹部が互いに重なり合う形をした扁平形状である常圧可染性ポリエステル繊維が知られている(特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明におけるポリエステルは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである。
【0018】
本発明における金属スルホネート基含有イソフタル酸(以下、SIPと記す)成分は、ポリエステルの全体の酸成分に対して2.0〜3.0モル%である。SIP成分が2.0モル%以上であれば、十分な常圧カチオン可染性を得ることが出来る。また、発色性が良好であり、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維としたときの扁平形状による光沢感と相まってより一層光沢感が増す。また、本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いて布帛としたときには、通常、布帛中の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の繊維横断面の長軸方向の繊維表面が全て同じ方向を向いていることはないため、布帛を見たときに、一枚鏡のように、布帛全面が一様に光を放つように見えるのではなく、光を放つように見える部分が散在しているように見える。本発明のように、発色性が良く光沢感が増すと、光を放つように見える部分とそうでない部分とのコントラストがより強調され、布帛はギラツキのある光沢感を呈する。
また、SIP成分が3.0モル%以下であれば、SIP成分のイオン結合分子間力による粘度上昇やゲル化が発生せず、紡糸操業性が良好である。
【0019】
本発明におけるSIP成分は、例えば、5−金属スルホイソフタル酸ジメチル(以下、SIPMと記す)又はジメチル基をエチレングリコールでエステル交換させた化合物(以下、SIPEと記す)等が挙げられる。SIPMは多量に投入するとスラリー物性を悪化させるおそれがあるため、SIPEが好ましい。また、SIP成分の金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが挙げられる。最も好ましいのはナトリウムである。
【0020】
本発明におけるポリアルキレングリコール(以下、PAGと記す)は、平均分子量が150〜400である。平均分子量が150以上であれば、溶融紡糸時に加水分解が起こりにくく、融点やガラス転移点が低下しないことにより、ポリエステルペレット同士の融着や仮撚り工程での白粉の発生を防ぐことができる。また、常圧カチオン可染性が十分である。また、発色性が良好であり、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維としたときの扁平形状による光沢感と相まってより一層光沢感が増す。また、発色性が良く光沢感が増すと、光を放つように見える部分とそうでない部分とのコントラストがより強調され、ギラツキのある光沢感を呈する。平均分子量が400以下であれば堅牢度が優れる。
【0021】
本発明におけるPAGは、一般式 HO(C
nH
2nO)
mH( 但し、n、mは正の整数) で表されるもので、n=2のポリエチレングリコールが汎用的で好ましい。
【0022】
本発明におけるPAGは、共重合又は、重合時混合ブレンド、混練時ブレンドなど、いずれの形態でポリエステルに含有しても良いが、後加工工程での安定性の点から、共重合せしめたものであることが好ましい。
【0023】
本発明におけるPAGの含有量は、ポリエステル全体に対して2.0〜3.5質量%とする必要があり、なかでも2.5〜3.0質量%が好ましい。含有量が2.0質量%以上であれば、SIP成分の電荷による増粘・ゲル化を抑制することができ、紡糸操業性が良好である。また、常圧カチオン可染性が十分であり、発色性が良好である。発色性が良好であると、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維としたときの扁平形状による光沢感と相まってより一層光沢感が増す。発色性が良く光沢感が増すと、光を放つように見える部分とそうでない部分とのコントラストがより強調され、ギラツキのある光沢感を呈する。含有量が3.5質量%以下であれば、ポリエステルの耐熱性が低下せず、ポリエステルの堅牢度が良好である。また、ガラス転移点が低下しにくいため、ポリエステルペレット同士の融着が発生しにくい。なお、共重合の際の比率も上記の含有量を共重合せしめたものが好ましい。
【0024】
本発明におけるポリエステルの固有粘度は特に限定されるものではなく、通常のポリエステル繊維に利用されている固有粘度と同じで良く、紡糸操業性及び力学的強度の点から、0.4〜1.5dl/gであることが好ましい。
【0025】
本発明におけるポリエステルには、各種物性を改善する目的で耐光剤、耐熱剤などの改質剤が添加されていても良い。
【0026】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の繊維横断面形状は、長軸方向の繊維表面に凹凸部を有さない扁平形状である。長軸方向の繊維表面に凹凸部を有さない扁平形状とは、積極的に繊維表面に凹凸を設けるものではないことを意味し、俵型、長円形状、楕円形状、ラグビーボール形状等のような形状が挙げられる。具体的には、
図1に示すように、長軸方向の繊維表面が平坦な扁平形状が挙げられる。また、
図2に示すように、外周部に局所的な凹部を有さなければ、長軸の一端から他端にかけて緩やかに湾曲していても良いが、
図1に示すような長軸方向の繊維表面が平坦な扁平形状が好ましい。
【0027】
また、繊維横断面の長軸の最大径(L)と短軸の最大径(l)の比であるアスペクト比が4.0〜6.0であることが好ましい。繊維横断面の長軸の最大径(L)と短軸の最大径(l)とは、
図1に示すように、一見して扁平と判断されるものは、図中に示したL、lの数値をもって表す。また、長軸の一端から他端にかけて緩やかに湾曲しているものは、
図2に示すように、短軸の最大径(l)は、長軸と平行で輪郭線と接する上下2直線の間の距離を表す。アスペクト比が4.0以上であればギラツキのある光沢感に優れ、ハリコシ感が強い布帛を作製することができる繊維が得られる。6.0以下であれば操業性が良く紡糸することができ、繊維が薄くなることによる繊維表面のひび割れが発生しにくく、ハリコシ感が強い布帛を作製することができる繊維が得られる。
【0028】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の単糸繊度は、9〜15dtexである。単糸繊度が大きい繊維を用いることでハリコシの強い布帛が得られるが、単糸繊度が大きすぎるとマルチフィラメントの総繊度が上がり、軽量な布帛が得られない。また、単糸繊度を上げても軽量な布帛を得るためにマルチフィラメントの構成本数を減らすと、マルチフィラメントとしての比表面積が小さくなり、ギラツキのある光沢感が現れにくくなる。そこで、本発明においては、単糸繊度を上記特定の範囲とすることで、衣料用途に使用した場合にギラツキのある光沢感に優れ、ハリコシ感が強く、ドレープ性が良好な布帛を得ることができる。すなわち、単糸繊度が9dtex以上であれば、主に衣料用途に使用した場合にハリコシ感に優れる。また、紡糸操業性が良い。単糸繊度が15dtex以下であれば、ギラツキのある光沢感に優れ、布帛としたときに軽量さを保つ。また、紡糸操業性が良い。
【0029】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の総繊度は、50〜150dtexであることが好ましい。総繊度が50〜150dtex以上であれば、衣料用途に使用した場合に、ギラツキのある光沢感とハリコシ感が十分な布帛が得られる。
【0030】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の破断強度は、2.5cN/dtex以上であることが好ましい。破断強度が2.5cN/dtex以上であれば、紡糸操業性や製編織工程の工程通過性が良好であり、布帛としたときに十分な強度を保つ。また、破断強度が2.5cN/dtex以上であれば、ハリコシ感が強い布帛を作製することがきる繊維が得られる。
【0031】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の破断伸度は、25%以上であることが好ましい。破断伸度が25%以上であれば、紡糸操業性や製編織工程の工程通過性が良好である。
【0032】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の製造方法としては、例えばコンベ方式、POY方式、SPD方式が挙げられるが、省力化、生産性の観点から、SPD方式を採用することが好ましい。
【0033】
本発明においてSPD方式で紡糸する際に、紡糸温度は270〜300℃であることが好ましい。
【0034】
本発明においてSPD方式で紡糸する際に、第1ゴデットローラー(GR1)と第2ゴデットローラー(GR2)の間で延伸を行い、延伸倍率が1.5〜4.0倍となるようにGR2の周速を速くすることが好ましい。延伸倍率が1.5倍以上であれば、繊維の破断強度が高くなる。
【0035】
本発明においてSPD方式で紡糸する際に、GR1の温度は、70〜90℃であることが好ましい。GR1の温度が70℃以上であれば、紡糸操業性が良好であり、得られる常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の破断強度及び破断伸度が高くなる。
【0036】
本発明におけるGR2の温度は、120〜160℃であることが好ましい。GR2の温度が120℃以上であれば、紡糸操業性が良好であり、得られる常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の破断強度及び破断伸度も高く、熱水収縮率の低い繊維が得られる。常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を他の繊維と組み合わせる場合、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の熱水収縮率が、組み合わせる糸の熱水収縮率より10%以上高くなることがないようにすれば、他の繊維と組み合わせて布帛とし、染色したときに、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維が組み合わせる糸に埋もれることなく光沢感が表面に現れ、好適である。
【0037】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は単独糸としても混繊糸としても用いることができる。混繊糸として用いる場合は、組み合わせる繊維としては、レーヨンや綿、ポリアミド繊維等の高温高圧では染色が困難なものとも組み合わせることができる。 また、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維と発色性が異なる繊維と組み合わせることができる。この場合、発色性が異なり、布帛としたときに杢調を呈し意匠性に優れる。また、肌触りが良好な繊維、例えばレーヨンと組み合わせた場合、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維のギラツキのある光沢感とハリコシ感とレーヨンのさらりとした肌触りを兼ね備える。
【0038】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を混繊糸として用いる場合、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維と、組み合わせる他の繊維との混繊率は、10:90〜90:10であることが好ましく、40:60〜60:40であることが更に好ましい。混繊率が10:90〜90:10の領域では、ギラツキのある光沢感とハリコシ感と、組み合わせる繊維の肌触りとのバランスに優れた布帛を得ることができる。
【0039】
本発明における常圧カチオン可染性ポリエステル繊維を用いた混繊糸は、エアー混繊、合撚、複合仮撚り等の公知の混繊方法により得ることができる。混繊の制御が容易であり、生産性が良い点からエアー混繊が好ましい。エアー混繊は、例えば、インターレース加工、タスラン加工、旋回気流による加工等により行う。
【0040】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いた布帛は、織物でも、編物でも、目的に応じて適宜設定すればよい。織編物の組織は、例えば、織物では平組織、綾組織、朱子組織等が挙げられる。編物では丸編地の天竺組織、インターロック組織、経編地のハーフ組織、サテン組織、ジャカード組織等が挙げられる。これらは、目的に応じて適宜設定すれば良く、公知の製織方法、製編方法で得ることができる。
【0041】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いた布帛は、常圧カチオン可染性ポリエステル繊維を、単独糸として用いたものでも、混繊糸として用いたものでも良い。
【0042】
本発明の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いた布帛は、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維だけで布帛としても良いが、他の繊維と組み合わせても良い。組み合わせる他の繊維としては、混繊糸とする際に組み合わせる繊維と同様に、レーヨンや綿、ポリアミド繊維等が挙げられる。他の繊維との組み合わせは、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の単独糸と他の繊維を用いて布帛とする場合、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維と他の繊維との混繊糸だけを用いて布帛とする場合、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維と他の繊維との混繊糸と他の繊維を用いて布帛とする場合がある。
【0043】
他の繊維と組み合わせる場合は、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維と他の繊維との質量比が10:90〜90:10となるようにすることが好ましく、40:60〜60:40となるようにすることがより好ましい。常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維との質量比が10:90〜90:10の領域では、組み合わせる繊維の肌触りを残しつつ、ギラツキのある光沢感とハリコシ感に優れた布帛を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。また、実施例中の各評価は以下のようにして行った。
【0045】
(破断強度、破断伸度)
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製AGS−1kNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定した。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とし、5回測定の平均値を求めた。
【0046】
(紡糸操業性)
実施例1〜6及び比較例1〜11において、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を製造したときの、紡糸濾過圧上昇具合、糸切れ回数から、紡糸操業性を評価した。評価基準は以下の通りである。
非常に優れる:◎
優れる:○
劣る:×
【0047】
(発色性(染着性))
常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いて筒編み試料を作製し、カチオン染料による染着性能は、Kayacryl Blue GSL−ED(日本化薬株式会社製)3.0%owf、酢酸0.2g/l、浴比1:50にて常圧沸騰温度(98℃)で60分間染色し、染色前後の染色液吸光度を測定した。そして、吸尽率(%)を下記の式より算出し、吸尽率が90%以上の場合を◎、80%以上90%未満の場合を○、80%未満の場合を×として評価した。
吸尽率(%)=(染色前吸光度−染色後吸光度)/染色前吸光度}×100
【0048】
(堅牢度(耐光性))
常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を用いて筒編み試料を作製し、堅牢度の評価として耐光性試験を行った。Kayacryl Blue GSL−ED(日本化薬株式会社製)0.2%owf又は1.0%owfにて常圧下98℃で浴比1:30にて30分間染色し、水洗後に乾燥し、160℃×1分ヒートセットを施した後、それぞれをフェードメータにて63℃の環境下、20時間耐光試験したもの、40時間耐光試験したものをブランクと比較し、退色状況を比較した。なお、判定には20時間耐光試験後ブランクとの差がないものを3級以上、40時間耐光試験後ブランクとの差がないものを4級以上とし、3級未満を×、3級以上4級未満を○、4級以上を◎とした。
【0049】
(光沢感)
作製した布帛を目視評価。評価基準は以下の通りである。
非常に強いギラツキのある光沢感:◎
ギラツキのある光沢感:○
やや劣る:△
劣る:×
【0050】
(ハリコシ感(手触り評価))
作製した布帛を手で触り、ハリコシ感を評価した。評価基準は以下の通りである。
非常に優れる:◎
優れる:○
やや劣る:△
劣る:×
【0051】
(ハリコシ感(ドレープ性))
作製した布帛を直径100mmの円状に切り取り試験片とする。
布帛は筒編みの内側を裏、外側を表として、試験台と接触する面を裏になるようにした。
直径50mm、高さ180mmの円柱の試料台に試験片を試料台の中心に試験台から高さ約10mmの位置から落としそのときのドレープ形状面積を測定し下記の数式1によってドレープ係数を求め、5回測定の平均値を求めた。
【0052】
【数1】
D
s:ドレープ係数
S:試験片の投影面積(ドレープ形状面積)(mm
2)
S
0:試料台面積(mm
2)
S
1:サンプル面積(mm
2)
【0053】
(実施例1)
主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、ポリエステル全体の酸成分に対して2.5モル%の5−ナトリウムスルホネート基含有イソフタル酸(SIPE)を含有し、平均分子量が200のポリエチレングリコール(PEG)をポリエステル全体に対して3.0質量%の割合で含有するポリエステルを、292℃で溶融吐出し、周速870m/min、温度78℃のGR1と、周速3100m/min、温度140℃のGR2で3.6倍に延伸し、
図1に示すような扁平形状(アスペクト比(扁平度)5.18)、79.6dtex/6fの常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を紡糸した。
紡糸した繊維の引張試験測定と紡糸操業性を評価した。
【0054】
次に、紡糸した常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維の単独糸の生糸を、NCR−EW(英光産業株式会社製)を用いて丸編みを実施し、ウェール73、コース65の編地を得た。得られた編地を98℃にてカチオン染料1.0質量%で染色後、染着性、耐光性、光沢感、ハリコシ感を評価した。
これらの結果を表1に併せて示す。
【0055】
(実施例2〜実施例5、比較例1〜比較例6)
表1に示すように、常圧カチオン可染性ポリエステルの組成を変更した他は、実施例1と同様にして、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を紡糸した。
紡糸した繊維の引張試験測定と紡糸操業性を評価した。
次に、実施例1と同様にして、編地を作製し、染色後、染着性、耐光性、光沢感、ハリコシ感を評価した。
これらの結果を表1に併せて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1および実施例2〜実施例5の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、破断強度、破断伸度は十分高い値を示した。また、染着性、耐光性、光沢感、ハリコシ感が◎又は○であった。
【0058】
比較例1、比較例3の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、耐光性、ハリコシ感は◎であったが、染着性は×であり、発色性は満足のいくものではなかった。また、光沢感は△であり満足のいくものではなかった。
【0059】
比較例2、比較例4の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、染着性は◎であったが、耐光性は×であり、堅牢度は満足のいくものではなかった。また、光沢感は〇であったが、ハリコシ感は△であり、満足のいくものではなかった。
【0060】
比較例5の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、染着性が×であり、発色性は満足のいくものではなかった。また、耐光性は◎であったが、光沢感、ハリコシ感は△であり、満足のいくものではなかった。
【0061】
比較例6の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、染着性は○であったが、耐光性は×であり、堅牢度は満足のいくものではなかった。なお、光沢感は〇であり、ハリコシ感は◎であった。
【0062】
(実施例6、比較例7〜比較例10)
表2に示すように、ポリエステルの総繊度、構成フィラメント本数、扁平度を変更した他は、実施例1と同様にして、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を紡糸した。
紡糸した繊維の引張試験測定と紡糸操業性を評価した。
次に、実施例1と同様にして、編地を作製し、染色後、染着性、耐光性、光沢感、ハリコシ感を評価した。
これらの結果を表2に併せて示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例6の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、染着性、耐光性、光沢感、ハリコシ感が◎又は○であった。
【0065】
比較例7〜比較例10の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、染着性、耐光性は良かったが、光沢感又はハリコシ感が満足のいくものではなかった。比較例7の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は単糸繊度が小さく、ハリコシ感が×であった。比較例8の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は単糸繊度が大きく、光沢感が×であった。比較例9の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は、扁平度が小さく、光沢感、ハリコシ感が×であった。比較例10の常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維は扁平度が高く、ハリコシ感が×であった。
【0066】
(比較例11)
表3に示すように、扁平形状を長軸対称に凸部分を3個ずつ有する多葉型にした他は、実施例6と同様にして、常圧カチオン可染性ポリエステル扁平繊維を紡糸した。
紡糸した繊維の引張試験測定と紡糸操業性を評価した。
次に、実施例1と同様にして、編地を作製し、染色後、染着性、耐光性、光沢感、ハリコシ感を評価した。
これらの結果を表3に併せて示す。
【0067】
【表3】
【0068】
比較例11は、染着性、耐光性が◎又は○であったが、多葉型であり繊維表面に凹凸が多く、凹部が局所的に深くなっているため、光沢感、ハリコシ感が×であった。