【解決手段】筒状のアウタコラム24と、アウタコラム24に内嵌支持された筒状のインナコラム23とを備える。アウタコラム24の内周面とインナコラム23の外周面とが、周方向に離隔した複数箇所でのみ締め代を有する状態で接触している。インナコラム23のうちで少なくともアウタコラム24と嵌合する部分の径方向に関する剛性が、アウタコラム24のうちで少なくともインナコラム23と嵌合する部分の径方向に関する剛性よりも低い。
前記インナコラムのうちで少なくとも前記アウタコラムと嵌合する部分の厚さ寸法が、前記アウタコラムのうちで少なくとも前記インナコラムと嵌合する部分の厚さ寸法よりも小さい、
請求項1に記載のステアリングコラム。
【背景技術】
【0002】
図25は、自動車用のステアリング装置の1例を示している。運転者により操作されるステアリングホイール1は、ステアリングシャフト2の後側端部に取り付けられている。ステアリングシャフト2は、車体に支持された筒状のステアリングコラム3の内径側に回転自在に支持されている。ステアリングホイール1の回転運動は、ステアリングシャフト2、自在継手4a、中間シャフト5、および別の自在継手4bを介して、ステアリングギヤユニット6を構成するピニオン軸7に伝達される。ピニオン軸7の回転運動は、ステアリングギヤユニット6を構成する図示しないラック軸の直線運動に変換される。これにより、1対のタイロッド8が押し引きされ、左右1対の操舵輪に、ステアリングホイール1の操作量に応じた舵角が付与される。
【0003】
なお、ステアリング装置に関して、前後方向、幅方向、および上下方向は、ステアリング装置が組み付けられる車体の前後方向、幅方向、および上下方向である。
【0004】
図26〜
図28は、特開2013−136385号公報に記載された、ステアリング装置のより具体的な構造を示している。このステアリング装置は、自動車の衝突事故に伴う二次衝突時の衝撃荷重の吸収機能を有する。
【0005】
ステアリングコラム3aは、前側に配された筒状のインナコラム9と、後側に配された筒状のアウタコラム10とを備える。インナコラム9の後側部は、アウタコラム10の前側部に圧入により内嵌されている。インナコラム9は、後側部の外周面の周方向等間隔となる4箇所に、径方向外側に突出しかつ軸方向に伸長する突条11を有する。インナコラム9の外周面は、突条11のそれぞれの頂部に対応する部分のみで、アウタコラム10の内周面と締め代を有する状態で接触している。
【0006】
インナコラム9は、通常時だけでなく、二次衝突時にも、車体に対して前方へ変位しないように支持されている。このために、インナコラム9の前側端部は、車体に支持された電動アシスト装置12を構成するギヤハウジング13の後側端部に結合固定されている。アウタコラム10の軸方向中間部は、車体に取り付けられる車体側ブラケット14などを介して、二次衝突時の衝撃により前方への変位が可能となるように支持されている。
【0007】
衝突事故の際には、二次衝突時の衝撃荷重によって、ステアリングホイール1(
図25参照)と、ステアリングシャフト2aの後側部を構成する後側シャフトと、アウタコラム10とが、インナコラム9に対して前方へ変位する。そして、この際に、インナコラム9の外周面とアウタコラム10の内周面とが軸方向に摺動することに基づいて、二次衝突時の衝撃荷重が吸収される。
【0008】
特に、上述したステアリング装置では、アウタコラム10の内周面に対するインナコラム9の外周面の接触箇所が、突条11のそれぞれの頂部に対応する部分に限定されている。すなわち、二次衝突時には、インナコラム9の外周面のうち、突条11のそれぞれの頂部に対応する部分のみが、アウタコラム10の内周面と軸方向に摺動する。このため、二次衝突時にインナコラム9の外周面とアウタコラム10の内周面とを軸方向に安定して摺動させることができ、衝撃荷重の吸収性能を安定したものとすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図26〜
図28に示した従来構造は、以下のような点で、改良の余地がある。
【0011】
すなわち、
図26〜
図28に示した従来構造は、インナコラム9の外周面とアウタコラム10の内周面とを軸方向に摺動させることに基づいて二次衝突時の衝撃荷重を吸収するものであるため、運転者の保護を十分に図る観点から、インナコラム9とアウタコラム10との軸方向の摺動抵抗、すなわち、アウタコラム10の内周面に対するインナコラム9の外周面の圧入荷重Fを適正範囲に収めることが重要となる。
【0012】
ここで、
図26〜
図28に示した従来構造では、インナコラム9とアウタコラム10とは、厚さ寸法が互いに等しくなっており、それぞれが十分に高い剛性を有する。このため、インナコラム9とアウタコラム10との嵌合部の締め代λがわずかに変化しただけでも、アウタコラム10の内周面に対するインナコラム9の外周面の圧入荷重Fが大きく変化しやすい。換言すれば、圧入荷重Fを適正範囲に収めるための、締め代λの許容範囲が狭くなりやすい。
【0013】
したがって、
図26〜
図28に示した従来構造では、圧入荷重Fを適正範囲に収めるために、締め代λのばらつき幅を小さくすべく、インナコラム9およびアウタコラム10を高精度な設備を用いて製造したり、インナコラム9とアウタコラム10とを選択的に組み合わせたりするといった、製造コストが嵩む手段を採用しなければならない可能性がある。
【0014】
本発明の目的は、インナコラムとアウタコラムとの軸方向の摺動抵抗を適正範囲に収めることが容易な構造を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のステアリングコラムは、筒状のアウタコラムと、前記アウタコラムに内嵌支持された筒状のインナコラムとを備える。
前記アウタコラムの内周面と前記インナコラムの外周面とは、周方向に離隔した複数箇所でのみ直接または他の部材を介して締め代を有する状態で接触している。
前記インナコラムのうちで少なくとも前記アウタコラムと嵌合する部分の径方向に関する剛性は、前記アウタコラムのうちで少なくとも前記インナコラムと嵌合する部分の径方向に関する剛性よりも低い。
【0016】
本発明のステアリングコラムにおいては、前記インナコラムのうちで少なくとも前記アウタコラムと嵌合する部分の厚さ寸法が、前記アウタコラムのうちで少なくとも前記インナコラムと嵌合する部分の厚さ寸法よりも小さい構成を採用することができる。
【0017】
本発明のステアリングコラムにおいては、前記インナコラムが、外周面の周方向に離隔した複数箇所に、径方向外側に突出しかつ軸方向に伸長する突条を有しており、前記インナコラムの外周面が、前記突条のそれぞれの頂部に対応する部分のみで前記アウタコラムの内周面と締め代を有する状態で接触する構成を採用することができる。
【0018】
本発明のステアリングコラムにおいては、前記突条が、前記インナコラムのうち、二次衝突の進行に伴って前記アウタコラムと嵌合する部分にも存在する構成を採用することができる。
【0019】
本発明のステアリングコラムにおいては、前記インナコラムが、周方向に離隔した複数箇所に、径方向内側に突出しかつ軸方向に伸長する補強リブをさらに備えた構成を採用することができる。
【0020】
本発明のステアリング装置は、本発明のステアリングコラムを備える。
また、前記インナコラムが、前記アウタコラムの前側に配され、かつ、車体に対して前方への変位を阻止された状態で支持されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、インナコラムとアウタコラムとの軸方向の摺動抵抗を適正範囲に収めることが容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1〜
図9を用いて説明する。
【0024】
本例のステアリング装置は、たとえば
図1および
図2に示すように、ステアリングシャフト15と、ステアリングコラム16と、車体側ブラケット18と、クランプ機構19とを備える。
【0025】
ステアリングシャフト15は、筒状のステアリングコラム16の内径側に回転自在に支持されている。運転者により操作されるステアリングホイール1(
図25参照)は、ステアリングシャフト15の後側端部に取り付けられる。車体側ブラケット18は、車体に取り付けられた状態で、ステアリングコラム16の軸方向中間部を車体に対して支持するためのものである。クランプ機構19は、ステアリングホイール1の高さ位置を調節可能とするために、ステアリングコラム16が車体側ブラケット18に対して上下方向に変位することを許容するアンロック状態と、ステアリングコラム16が車体側ブラケット18に対して上下方向に変位することを阻止するロック状態とを切り換えるためのものである。このような本例のステアリング装置について、以下、より具体的に説明する。
【0026】
ステアリングコラム16は、たとえば
図4〜
図6に示すように、前側に配されたインナコラム23と、後側に配されたアウタコラム24と、アウタコラム24に結合固定されたコラム側ブラケット17とを備える。
【0027】
インナコラム23およびアウタコラム24のそれぞれは、鋼、アルミニウムなどの金属製の略円筒状部材である。本例では、インナコラム23およびアウタコラム24のそれぞれは、中間素材である引抜き管などの素管に対して、ハイドロフォーミングや絞り加工などの塑性加工を施すことにより、この素管の軸方向の一部分の内径寸法および外径寸法を変化させる工程を含む、所定の製造方法によって造られている。なお、本発明を実施する場合、インナコラム23およびアウタコラム24のそれぞれは、鋳造などの他の製造方法によって製造することもできる。本例では、インナコラム23の厚さ寸法は、全体的にほぼ一定であり、アウタコラム24の厚さ寸法は、後側端部(後述する軸受保持部36)を除いた残りの部分でほぼ一定である。インナコラム23の後側部は、アウタコラム24の前側部に、圧入により内嵌されている。換言すれば、インナコラム23の後側部は、アウタコラム24の前側部に、締り嵌めにより内嵌されている。
【0028】
インナコラム23は、円筒状の大径筒部25と、大径筒部25よりも前側に位置する円筒状の小径筒部26とを備える。小径筒部26の外径寸法は、大径筒部25の外径寸法よりも小さい。また、大径筒部25の前側端部と小径筒部26の後側端部とは、前側に向かうほど外径寸法が小さくなる円すい筒状の連結部27により連結されている。
【0029】
大径筒部25は、外周面の周方向に離隔した複数箇所(3箇所以上)に、径方向外側に突出しかつ軸方向に伸長する突条28を有する。本例では、突条28は、大径筒部25の外周面の周方向等間隔となる4箇所に配されている。また、突条28のそれぞれは、大径筒部25のうち、ステアリングコラム16の組立状態でアウタコラム24と嵌合する軸方向範囲、具体的には、大径筒部25の軸方向の後側端部および中間部に対応する連続した軸方向範囲に存在している。
【0030】
本例では、突条28のそれぞれは、大径筒部25の一部を径方向外側に向けて塑性変形させることで形成されている。このため、突条28のそれぞれの背面側には、軸方向に伸長する凹溝が存在している。なお、突条28を形成するための塑性加工としては、たとえばプレス加工などを採用することができる。
【0031】
また、突条28の径方向外側面は、凸円弧形の断面形状を有する。なお、本例では、突条28の径方向高さ寸法H
28を、大径筒部25の外周面の突条28から外れた箇所の外径寸法D
25の0.5%以上7.0%以下としている(
図3参照)。たとえば、大径筒部25の外周面の突条28から外れた箇所の外径寸法D
25が38.5mmである場合には、突条28の径方向高さ寸法H
28を0.5mm〜1.0mmとすることができる。
【0032】
インナコラム23は、通常時だけでなく、二次衝突時にも、車体に対して前方へ変位しないように支持されている。このために、インナコラム23の前側端部は、車体に支持された電動アシスト装置20を構成するギヤハウジング21の後側端部に結合固定されている。電動アシスト装置20は、ステアリングホイール1から操舵輪につながる操舵力伝達経路に、電動モータ40を動力源として発生した補助動力を付与することにより、運転者がステアリングホイール1を操作するのに要する力を低減するものである。本例では、ステアリングホイール1の高さ位置を調節可能とするために、ギヤハウジング21は、車体に対し、チルト軸22を中心とする揺動変位を可能に支持されている。
【0033】
また、本例では、ステアリングコラム16は、インナコラム23の前側端部をギヤハウジング21の後側端部に結合固定するための取付板29をさらに備える。取付板29は、環状の平板部材であり、インナコラム23の小径筒部26の前側端部に外嵌固定されている。取付板29は、周方向に離隔した複数箇所(図示の例では3箇所)に、取付孔30を有する。一方、ギヤハウジング21は、後側端部のうち、取付板29の取付孔30のそれぞれと整合する箇所に、図示しないねじ孔を有する。インナコラム23の前側端部は、取付板29の取付孔30のそれぞれに後側から挿通した図示しないボルトを、ギヤハウジング21の前記ねじ孔に螺合することによって、ギヤハウジング21の後側端部に結合固定されている。
【0034】
本例では、インナコラム23の前側端部がギヤハウジング21の後側端部に結合固定された状態で、ギヤハウジング21に対する複数の突条28の周方向位置、すなわち、使用状態での複数の突条28の周方向位置が一義的に決まるように、取付板29が備える取付孔30の周方向に関する配置の位相が規制されている。具体的には、取付孔30が周方向に関して不等間隔に配されている。
【0035】
本例では、使用状態での複数の突条28の周方向位置を、
図2および
図3に示すように、上端部から周方向両側にそれぞれ45゜ずれた2箇所位置と、下端部から周方向両側にそれぞれ45゜ずれた2箇所位置との、合計4箇所位置としている。なお、使用状態での複数の突条28の周方向位置は、図示の例と異ならせることもできる。たとえば、使用状態での複数の突条28の周方向位置は、本例の周方向位置から45゜回転した周方向位置、すなわち、上端部および下端部の2箇所位置と、幅方向両端部の2箇所位置との、合計4箇所位置とすることもできる。また、本例を実施する場合には、突条28の数を、本例と異ならせることもできる。
【0036】
アウタコラム24は、円筒状の前側小径筒部31と、前側小径筒部31よりも後側に位置する円筒状の大径筒部32と、大径筒部32よりも後側に位置する後側小径筒部33とを備える。大径筒部32の内径寸法は、前側小径筒部31および後側小径筒部33のそれぞれの内径寸法よりも大きい。また、大径筒部32の前側端部と前側小径筒部31の後側端部とは、前側に向かうほど内径寸法が小さくなる円すい筒状の前側連結部34により連結されている。また、大径筒部32の後側端部と後側小径筒部33の前側端部とは、後側に向かうほど内径寸法が小さくなる円すい筒状の後側連結部35により連結されている。
【0037】
後側小径筒部33は、後側半部に、軸受保持部36を有する。軸受保持部36は、アウタコラム24の内径側にステアリングシャフト15(後述する後側シャフト39)を回転自在に支持するための図示しない転がり軸受が内嵌保持される部位である。軸受保持部36の内径寸法は、後側小径筒部33の前側半部の内径寸法よりも大きい。したがって、軸受保持部36の厚さ寸法は、後側小径筒部33の前側半部の厚さ寸法よりも小さい。
【0038】
大径筒部32は、軸方向中間部の周方向1箇所に、ステアリングロック機構のロックピンを挿通するためのキーロック孔37を有する。
【0039】
前側小径筒部31は、インナコラム23の後側部が圧入により内嵌される部位である。すなわち、本例では、アウタコラム24の前側部である前側小径筒部31に、インナコラム23の後側部である大径筒部25の軸方向中間部および後側部が、圧入により内嵌されている。また、この状態で、大径筒部25の外周面は、突条28のそれぞれの頂部に対応する部分のみが、前側小径筒部31の内周面に締め代を有する状態で接触している。本例では、前側小径筒部31は、アウタコラム24の中間素材となる前記素管の一部となっている。
【0040】
また、本例では、たとえば
図3に示すように、インナコラム23の厚さ寸法T
inを、アウタコラム24(軸受保持部36を除く)の厚さ寸法T
outよりも小さくしている(T
in<T
out)。本例では、インナコラム23の大径筒部25の厚さ寸法T
inは、アウタコラム24の前側小径筒部31の厚さ寸法T
outの90%以下50%以上としている。たとえば、アウタコラム24の厚さ寸法T
outが2.3mmである場合には、インナコラム23の厚さ寸法T
inを1.6mm〜1.8mmとすることができる。
【0041】
コラム側ブラケット17は、鋼などの金属製で、U字形状を有する。すなわち、コラム側ブラケット17は、幅方向に離隔して互いに平行に配された1対の側板部41と、1対の側板部41の下端部同士を連結した連結板部42とを備える。側板部41のそれぞれは、幅方向に関して互いに整合する箇所に、円形の通孔43を有する。コラム側ブラケット17は、1対の側板部41のそれぞれの上端部を、アウタコラム24の前側小径筒部31の幅方向両側部に溶接接合することにより、アウタコラム24に結合固定されている。また、この状態で、1対の側板部41のそれぞれの幅方向外側面は、前側小径筒部31の外周面よりも幅方向外側に張り出している。
【0042】
ステアリングシャフト15は、
図1に示すように、前側に配された前側シャフト38と、後側に配された後側シャフト39とを備える。前側シャフト38と後側シャフト39とは、トルク伝達を可能に、かつ、軸方向の相対変位を可能にスプライン嵌合している。
【0043】
後側シャフト39は、アウタコラム24に対し、軸受保持部36に内嵌保持された図示しない転がり軸受により、回転のみを可能に支持されている。後側シャフト39のうち、軸方向に関してアウタコラム24のキーロック孔37と整合する箇所には、ステアリングロック機構の図示しないキーロックカラーが外嵌固定されている。後側シャフト39の後側端部は、アウタコラム24の内径側から軸方向に突出している。ステアリングホイール1は、後側シャフト39の後側端部に取り付けられる。
【0044】
前側シャフト38は、図示しない転がり軸受により、インナコラム23およびギヤハウジング21に対して、回転のみを可能に支持されている。前側シャフト38の前側端部は、インナコラム23の内径側から軸方向に突出するとともに、ギヤハウジング21の内側に挿入されている。
【0045】
車体側ブラケット18は、鋼などの金属製で、取付板部44と、1対の支持板部45とを備える。取付板部44は、車体側ブラケット18の上側部を構成するもので、幅方向に配されている。取付板部44は、車体に対し、二次衝突時の衝撃によって前方への離脱が可能となるように支持されている。1対の支持板部45は、コラム側ブラケット17を幅方向両側から挟む位置に、互いに略平行に配されている。支持板部45のそれぞれは、上端部が取付板部44の幅方向中間部に結合固定されている。支持板部45のそれぞれは、幅方向に関して互いに整合し、かつ、コラム側ブラケット17の通孔43と整合する箇所に、上下方向に伸長するチルト調節用長孔46を有する。チルト調節用長孔46のそれぞれは、チルト軸22を中心とする円弧形状を有する。
【0046】
クランプ機構19は、
図2に示すように、調節ロッド47と、調節ナット48と、カム装置49と、調節レバー50と、スラスト軸受51とを備える。
【0047】
調節ロッド47は、1対のチルト調節用長孔46と1対の通孔43とを幅方向に挿通している。調節ロッド47は、基端部(
図2の左端部)に頭部52を有し、先端部(
図2の右端部)に雄ねじ部53を有する。調節ナット48は、雄ねじ部53に螺合している。カム装置49は、頭部52と一方(
図2の左方)の支持板部45との間に配されている。カム装置49は、幅方向外側に位置する駆動側カム54と、幅方向内側に位置する被駆動側カム55とを有する。調節レバー50は、その基端部が、駆動側カム54に固定されている。被駆動側カム55は、一方の支持板部45のチルト調節用長孔46に対し、相対回転不能に係合している。調節ロッド47を中心として調節レバー50を揺動させることにより、駆動側カム54と被駆動側カム55とを相対回転させると、駆動側カム54と被駆動側カム55との互いに対向する側面(カム面)同士の押し付け合いに基づいて、カム装置49の軸方向寸法が拡縮する。本例では、調節レバー50を所定方向に揺動させた場合にカム装置49の軸方向寸法が増大し、調節レバー50を所定方向と反対方向に揺動させた場合にカム装置49の軸方向寸法が減少する。スラスト軸受51は、調節ナット48と他方(
図2の右方)の支持板部45との間に配されている。
【0048】
ステアリングホイール1の高さ位置を調節する際には、調節レバー50を所定方向に揺動させることにより、クランプ機構19をアンロック状態とする。すなわち、調節レバー50を所定方向(たとえば下方)に揺動させると、カム装置49の軸方向寸法が減少し、被駆動側カム55とスラスト軸受51との間隔が拡がる。この結果、1対の支持板部45の幅方向内側面と1対の側板部41の幅方向外側面との間に作用する摩擦力が低下または喪失し、車体側ブラケット18に対するコラム側ブラケット17の変位が可能なアンロック状態となる。このアンロック状態では、ステアリングコラム16aをチルト軸22を中心として揺動変位させることにより、調節ロッド47が1対のチルト調節用長孔46の内側で動ける範囲で、ステアリングホイール1の高さ位置が調節可能となる。
【0049】
ステアリングホイール1の高さ位置の調節後は、調節レバー50を所定方向と逆方向(たとえば上方)に揺動させることにより、クランプ機構19をロック状態とする。すなわち、調節レバー50を所定方向と反対方向に揺動させると、カム装置49の軸方向寸法が増大し、被駆動側カム55とスラスト軸受51との間隔が縮まる。この結果、1対の支持板部45の幅方向内側面と1対の側板部41の幅方向外側面との間に作用する摩擦力が増大し、車体側ブラケット18に対するコラム側ブラケット17の変位が不能なロック状態となる。そして、このロック状態とすることで、ステアリングホイール1を、調節後の高さ位置に保持する。
【0050】
自動車が衝突事故を起こし、運転者の身体がステアリングホイール1に衝突する二次衝突が発生すると、ステアリングホイール1から後側シャフト39を介して、アウタコラム24および車体側ブラケット18に前方に向いた衝撃荷重が加わる。そして、この衝撃荷重により、車体側ブラケット18が車体に対して前方へ離脱するとともに、アウタコラム24、後側シャフト39、およびステアリングホイール1が、インナコラム23および前側シャフト38に対して前方へ変位する。また、この際に、インナコラム23の大径筒部25の外周面と、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面とが軸方向に摺動することに基づいて、二次衝突時の衝撃荷重が吸収される。
【0051】
特に、本例では、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面に対する、インナコラム23の大径筒部25の外周面の接触箇所が、突条28のそれぞれの頂部に対応する部分に限定されている。すなわち、二次衝突時には、インナコラム23の大径筒部25の外周面のうち、突条28のそれぞれの頂部に対応する部分のみが、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面と軸方向に摺動する。このため、二次衝突時にインナコラム23の大径筒部25の外周面とアウタコラム24の前側小径筒部31の内周面とを軸方向に安定して摺動させることができ、衝撃荷重の吸収性能を安定したものとすることができる。
【0052】
上述したような本例のステアリング装置は、インナコラム23の外周面とアウタコラム24の内周面とを軸方向に摺動させることに基づいて二次衝突時の衝撃荷重を吸収するものであるため、運転者の保護を十分に図る観点から、インナコラム23とアウタコラム24との軸方向の摺動抵抗、すなわち、アウタコラム24の内周面に対するインナコラム23の外周面の圧入荷重Fを適正範囲に収めることが重要となる。この点に関して、本例のステアリング装置では、アウタコラム24の内周面に対するインナコラム23の外周面の圧入荷重Fを適正範囲に収めることが容易である。この理由について、以下に説明する。
【0053】
本例では、アウタコラム24の前側小径筒部31は、アウタコラム24の中間素材となる素管の一部である。素管の内周面は、形状精度が高く、内径寸法のばらつきが小さい円筒面である。このため、前側小径筒部31の内周面も、形状精度が高く、内径寸法のばらつきが小さい円筒面となっている。したがって、その分、前側小径筒部31の内周面と複数の突条28との接触部の締め代である、インナコラム23の大径筒部25とアウタコラム24の前側小径筒部31との嵌合部の締め代λのばらつきを小さくすることができ、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面に対するインナコラム23の大径筒部25の外周面の圧入荷重Fを適正範囲に収めることが容易となる。
【0054】
また、本例では、インナコラム23の厚さ寸法T
inを、アウタコラム24の厚さ寸法T
outよりも小さくしている(T
in<T
out)。すなわち、本例では、互いに嵌合する、インナコラム23の大径筒部25とアウタコラム24の前側小径筒部31との間に、径方向に関する剛性(ばね定数)の差を意図的に生じさせている。具体的には、インナコラム23の大径筒部25の径方向に関する剛性を、アウタコラム24の前側小径筒部31の径方向に関する剛性よりも、積極的に低くしている。このため、本例の構造では、インナコラムの厚さ寸法T
inとアウタコラムの厚さ寸法T
outとを互いに等しくした比較例の構造(T
in=T
out)に比べて、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面にインナコラム23の大径筒部25の外周面を圧入する際に、インナコラム23の大径筒部25にたわみが生じやすくなっている。具体的には、インナコラム23の大径筒部25のうち、周方向に隣り合う突条28同士の間部分に、たわみが生じやすくなっている。この結果、本例の構造では、インナコラム23の大径筒部25とアウタコラム24の前側小径筒部31との嵌合部の締め代λと、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面に対するインナコラム23の大径筒部25の外周面の圧入荷重Fとの相関に関して、比較例の構造よりも、締め代λのばらつきに対する、圧入荷重Fのばらつきを小さくすることができる。
【0055】
図9は、この点を視覚化したイメージ図であり、具体的には、インナコラム23の大径筒部25とアウタコラム24の前側小径筒部31との嵌合部の締め代λと、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面に対するインナコラム23の大径筒部25の外周面の圧入荷重Fとの相関を表したグラフである。
図9のグラフに示すように、本例の構造(実線α)では、比較例の構造(破線β)に比べて、締め代λの変化に対し、圧入荷重Fが緩やかに変化するようになっている。すなわち、本例の構造では、比較例の構造に比べて、圧入荷重Fを適正範囲に収めるための、締め代λの許容範囲が広くなっている。
【0056】
したがって、本例の構造では、比較例の構造に比べて、圧入荷重Fを適正範囲に収めるために、インナコラム23およびアウタコラム24の精度を高くする必要がない。また、圧入荷重Fを適正範囲に収めるために、インナコラム23とアウタコラム24とを選択的に組み合わせる作業が不要になるか、あるいは、この作業が必要になる場合でも、その作業時間を短くすることができる。したがって、ステアリング装置の製造コストを低く抑えることができる。
【0057】
また、本例では、インナコラム23の厚さ寸法T
inをアウタコラム24の厚さ寸法T
outよりも小さくしており、逆に言えば、アウタコラム24の厚さ寸法T
outをインナコラム23の厚さ寸法T
inよりも大きくしているため、アウタコラム24の剛性を確保しやすい。したがって、たとえば、クランプ機構19のロック状態で、コラム側ブラケット17からアウタコラム24の前側小径筒部31に大きな力が作用した場合でも、前側小径筒部31の変形量を十分に抑えて、前側小径筒部31の内周面とインナコラム23の複数の突条28との接触状態を、所望の接触状態に維持することができる。また、ステアリングロック機構を作動させ、キーロック孔37を挿通したロックピンの先端部をキーロックカラーの係合凹部に係合させた状態で、ステアリングホイール1を大きな力で回転させることにより、ロックピンからキーロック孔37の内周縁部に回転方向の大きな力が加わった場合でも、アウタコラム24に亀裂などの損傷が生じることを防止できる。
【0058】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図10および
図11を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第1例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16aを構成するインナコラム23aが備える突条28のそれぞれは、大径筒部25aの全長にわたって形成されている。換言すれば、突条28のそれぞれは、大径筒部25aのうち、ステアリングコラム16aの組立状態(
図10)でアウタコラム24と嵌合する軸方向範囲だけでなく、二次衝突の進行に伴ってアウタコラム24と嵌合する軸方向範囲にまで延長して存在している。
【0059】
このような本例の構造では、二次衝突の発生後、アウタコラム24がインナコラム23に対して前側に変位し始めてから、しばらくの間、具体的には、アウタコラム24の前側小径筒部31の前側端部が、インナコラム23の大径筒部25aの前側端部(突条28のそれぞれの前側端部)と同じ前後方向位置に到達するまでの間、アウタコラム24の前側小径筒部31の内周面と突条28のそれぞれとの接触面積が、減少することなく、一定に保たれる。したがって、高効率な衝撃吸収を行えるストロークを長くして、より高い衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0060】
また、本例では、突条28のそれぞれが大径筒部25aの全長にわたって存在している。このため、アウタコラム24(軸受保持部36を除く)の厚さ寸法よりもインナコラム23aの厚さ寸法を小さくした構造でありながらも、インナコラム23aの大径筒部25aの全体の曲げ剛性を確保しやすい。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0061】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図12〜
図14を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第1例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16bを構成するインナコラム23bの大径筒部25bは、周方向に離隔した複数箇所に、径方向内側に突出しかつ軸方向に伸長する補強リブ56を有する。本例では、補強リブ56のそれぞれは、周方向に隣り合う1対の突条28同士の間の周方向中央位置に配されている。また、補強リブ56のそれぞれは、大径筒部25bのうち、前側端部を除く軸方向範囲に存在している。より具体的には、補強リブ56のそれぞれは、大径筒部25bのうち、突条28のそれぞれが存在する軸方向範囲を含み、かつ、該軸方向範囲よりも若干前側に延長された軸方向範囲に存在している。本例では、補強リブ56のそれぞれは、大径筒部25bの一部を径方向内側に向けて塑性変形させることで形成された塑性変形部であり、径方向内側に凸となる円弧形の断面形状を有する。なお、補強リブ56を形成するための塑性加工としては、たとえばプレス加工などを採用することができる。
【0062】
上述のような本例の構造では、アウタコラム24(軸受保持部36を除く)の厚さ寸法よりもインナコラム23bの厚さ寸法を小さくした構造でありながらも、インナコラム23bの大径筒部25bのうち、補強リブ56が存在する軸方向範囲で、曲げ剛性を確保しやすい。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0063】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図15および
図16を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第3例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16cを構成するインナコラム23cが備える突条28および補強リブ56のそれぞれは、大径筒部25cの全長にわたって形成されている。このため、大径筒部25cの曲げ剛性を、より確保しやすくできる。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第2例および第3例と同様である。
【0064】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図17および
図18を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第1例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16dを構成するインナコラム23dは、突条28が形成された箇所を除き、全長にわたり径寸法が変化しない円筒形状を有する。このような本例の構造では、インナコラム23dを製造する際の工数を少なくできるため、製造コストを抑えられる。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0065】
[実施の形態の第6例]
実施の形態の第6例について、
図19および
図20を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第5例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16eを構成するインナコラム23eが備える突条28のそれぞれは、インナコラム23eの全長にわたって形成されている。このような本例の構造では、インナコラム23eの断面形状が軸方向の何れの箇所においても同一である。このため、インナコラム23eは、たとえばインナコラム23eと同一の断面形状を有する長尺な中間素材を造った後、この中間素材を所定の長さに切断することによって、低コストで造ることができる。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第2例および第5例と同様である。
【0066】
[実施の形態の第7例]
実施の形態の第7例について、
図21および
図22を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第5例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16fを構成するインナコラム23fは、軸方向の後側端部および中間部の周方向複数箇所に突条28を有し、軸方向の前側端部および中間部の周方向複数箇所に補強リブ56を有する。このような本例の構造では、突条28が形成された軸方向範囲と、補強リブ56が形成された軸方向範囲とが、インナコラム23fの軸方向中間部でのみ重畳し、インナコラム23fの前側部および後側部では重畳していない。このため、インナコラム23fの前側部および後側部において、インナコラム23fの形状精度を良好にしやすい。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第3例および第5例と同様である。
【0067】
[実施の形態の第8例]
実施の形態の第8例について、
図23および
図24を用いて説明する。
本例は、実施の形態の第7例の変形例である。本例では、ステアリングコラム16gを構成するインナコラム23gが備える突条28および補強リブ56のそれぞれは、インナコラム23gの全長にわたって形成されている。
その他の構成および作用効果は、実施の形態の第2例および第6例と同様である。
【0068】
なお、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【0069】
また、本発明を実施する場合には、アウタコラムの内周面とインナコラムの外周面とが、周方向に離隔した複数箇所でのみ、他の部材を介して締め代を有する状態で接触している構成を採用することもできる。この場合に、他の部材としては、たとえば、軸方向に配された金属製の線材などを用いることができる。