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特開2021-70667芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び芳香族ニトリル化合物合成用触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-70667(P2021-70667A)
(43)【公開日】2021年5月6日
(54)【発明の名称】芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び芳香族ニトリル化合物合成用触媒
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/24 20060101AFI20210409BHJP
   C07C 255/49 20060101ALI20210409BHJP
   B01J 29/08 20060101ALI20210409BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20210409BHJP
【FI】
   C07C253/24
   C07C255/49
   B01J29/08 Z
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-199748(P2019-199748)
(22)【出願日】2019年11月1日
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 康裕
(72)【発明者】
【氏名】シルピ ゴーシュ
(72)【発明者】
【氏名】シャンカ シュブラ アチャリヤ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC01A
4G169BC02B
4G169BC03B
4G169BC05B
4G169BC06A
4G169BC06B
4G169BC08A
4G169BC09B
4G169BC10B
4G169BC12B
4G169BC13B
4G169CB55
4G169CB76
4G169DA06
4G169FA02
4G169FB14
4G169ZA04A
4G169ZA04B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AC54
4H006BA02
4H006BA04
4H006BA06
4H006BA71
4H006BB61
4H006BC18
4H006BE14
4H006BE30
4H006QN24
4H039CA70
4H039CL50
(57)【要約】
【課題】アンモ酸化法によって芳香族環に直接結合するメチル基をシアノ基に酸化し芳香族ニトリル化合物を効率よく製造することである。
【解決手段】アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種を担持するゼオライトを用いて、アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化する、芳香族ニトリル化合物の製造方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種を担持するゼオライトを用いて、アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化する、芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項2】
前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物は、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライトは、Y型ゼオライトである、請求項1又は2に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトは、Csを担持する、請求項1から3のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライトは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される1種を担持する、請求項1から4のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物の酸化は、330℃〜400℃で行う、請求項1から5のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライト全量に対し、前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の合計量は1〜3質量%である、請求項1から6のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記ゼオライトを収容する反応容器に、前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を気体状で含む原料ガスと、アンモニア及び酸素を含む反応ガスとを導入することを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を気体状で含む原料ガスの流量は、0.1〜1.0ml/minである、請求項1から8のいずれか1項に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【請求項10】
アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化する、芳香族ニトリル化合物の合成に用いるための触媒であって、ゼオライトと、前記ゼオライトに担持されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種とを含む、芳香族ニトリル化合物合成用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ニトリル化合物の製造方法、及び芳香族ニトリル化合物合成用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾニトリルに代表される芳香族ニトリル化合物は、農薬、医薬品、その他の化成品の原料等に用いられる有用な物質である。
芳香族ニトリル化合物は、アンモ酸化法によって合成することができる。アンモ酸化法では、アンモニア及び酸素の作用によって、トルエン等の原料化合物に含まれるメチル基を、直接シアノ基に変えることで、ベンゾニトリル等の芳香族ニトリル化合物を合成することができる。アンモ酸化法は、1段階の反応で、主生成物を高い収率で得ることができる。
【0003】
特許文献1〜6には、芳香族ニトリル化合物の合成方法について開示されている。従来、アンモ酸化法に用いられる触媒には遷移金属が必須とされている。特許文献1〜6においても、触媒として、バナジウム、アンチモン、モリブデン、タングステンの中から少なくとも1種の遷移金属を含む触媒、好ましくは複数種類の遷移金属を含む触媒を用いることが開示されている。また、特許文献1〜6には、これらの触媒を、アルミナ、シリカ、チタニア等の無定形の担体に担持させて用いることが開示されている。
非特許文献1〜3においても、芳香族ニトリル化合物の合成方法において、バナジウム、モリブデン、タングステンの中から少なくとも1種の遷移金属を含む触媒を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−216362号公報
【特許文献2】特表2009−501624号公報
【特許文献3】特開2007−075819号公報
【特許文献4】特表2005−532344号公報
【特許文献5】特開2001−335552号公報
【特許文献6】特開2002−136872号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Catal.,344(2016),346−353
【非特許文献2】RSC Adv.,4(2014),37679
【非特許文献3】Green Chem.,4(2002),206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遷移金属は産地が限られ希少金属に分類されるため、遷移金属を必須としない触媒の開発は、より多様で汎用的であるという利点がある。遷移金属を用いない触媒においても、反応性が高く、主生成物の収率を高めることが期待される。
本発明の一目的としては、アンモ酸化法によって芳香族環に直接結合するメチル基をシアノ基に酸化し芳香族ニトリル化合物を効率よく製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を要旨とする。
[1]アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種を担持するゼオライトを用いて、アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化する、芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[2]前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物は、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[3]前記ゼオライトは、Y型ゼオライトである、[1]又は[2]に記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[4]前記ゼオライトは、Csを担持する、[1]から[3]のいずれか1つに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[5]前記ゼオライトは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される1種を担持する、[1]から[4]のいずれか1つに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
【0008】
[6]前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物の酸化は、330℃〜400℃で行う、[1]から[5]のいずれか1つに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[7]前記ゼオライト全量に対し、前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種の合計量は1〜3質量%である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[8]前記ゼオライトを収容する反応容器に、前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を気体状で含む原料ガスと、アンモニア及び酸素を含む反応ガスとを導入することを含む、[1]から[7]のいずれか1つに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[9]前記芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を気体状で含む原料ガスの流量は、0.1〜1.0ml/minである、[1]から[8]のいずれか1つに記載の芳香族ニトリル化合物の製造方法。
[10]アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化する、芳香族ニトリル化合物の合成に用いるための触媒であって、ゼオライトと、前記ゼオライトに担持されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種とを含む、芳香族ニトリル化合物合成用触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アンモ酸化法によって芳香族環に直接結合するメチル基をシアノ基に酸化し芳香族ニトリル化合物を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の一例による芳香族ニトリル化合物を製造するための固定床流通式反応装置を模式的に表した図である。
図2図2は、例1−2について、反応時間に対するトルエン転化率及びベンゾニトリル選択率を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る本実施形態について説明するが、本実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0012】
本実施形態による芳香族ニトリル化合物の製造方法は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種を用い、それらの担体としてゼオライトを用いて、アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化することを特徴とする。
本実施形態によれば、アンモ酸化法によって芳香族環に直接結合するメチル基をシアノ基に酸化し芳香族ニトリル化合物を効率よく製造することができる。また、アンモ酸化法において、アンモニア(NH)の消費量を削減することができる。
以下、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上を担持するゼオライトを「金属担持触媒」とも記し、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を「メチル基含有芳香族化合物」とも記す。
【0013】
本実施形態による芳香族ニトリル化合物の製造方法によれば、メチル基含有芳香族化合物を、酸素及びアンモニアの存在下で、金属担持触媒を用いて酸化反応させることで、芳香族ニトリル化合物を得ることができる。この酸化反応は下記式に示す通りである。下記式において、Arは置換又は非置換のアリール基である。
Ar−CH→Ar−CN
【0014】
具体例として、トルエンからベンゾニトリルを合成する酸化反応は、下記式に示す通りである。
【化1】
【0015】
本実施形態では、触媒活性を得るために金属を担持する担体に着目し、担体としてゼオライトを用いている。担体としてゼオライトを用いることで触媒活性を高めることができ、担体に担持させる金属としてアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を用いることで、反応性が高く、主生成物の収率を高めることができる。また、担体に担持させる金属には、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を用いればよく、遷移金属を必須としないため、より汎用的で安価に触媒を提供することができる。
【0016】
従来の触媒通念では、酸塩基性を持ち酸化還元特性を持たないアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンは、酸化還元触媒反応である選択酸化反応及びアンモ酸化反応には触媒活性を持たないとされている。本実施形態では、アルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンをゼオライトの細孔内に担持させた触媒において、十分な触媒活性を得ることができる。
従来のアンモ酸化では、活性をもつ金属酸化物触媒、又はこれらの複合酸化物触媒が、金属原子と酸素原子など複数の原子の相互作用により触媒反応が進行する。本実施形態による金属担持触媒では、Cs等の単一のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオン(シングルサイト)の働きにより触媒反応が進行すると考えらえる。このように、本実施形態は従来技術と異なる触媒反応のメカニズムであることから、本実施形態では、遷移金属を必須とせずに、アルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持するゼオライトを用いることで十分な反応性を得ることができる。
【0017】
また、触媒にアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持するゼオライトを用いることで、ともに用いるアンモニア消費量を削減することができる。アンモニアは、比較的高価なガスであるため、アンモニア消費量を削減することが望ましい。触媒反応でのアンモニア消費量を削減することで、酸化反応後にアンモニアを再利用することも可能である。
従来の触媒を用いる場合では、トルエン等のメチル基含有芳香族化合物がアンモニアと反応して芳香族ニトリル化合物を生成する反応以外に、アンモニアが酸素により酸化されて窒素になってしまう副反応が起こり、その分、高価なアンモニアが余計に消費されるという問題がある。
【0018】
本実施形態において、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を担持するゼオライト(金属担持触媒)は、アンモニアの存在下でのメチル基含有芳香族化合物と酸素の酸化反応において触媒として作用する。
【0019】
ゼオライトは、結晶性の含水アルミノケイ酸塩鉱物であって、三次元網目構造を有する。ゼオライトの孔部にアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属が担持された状態で、ゼオライトの孔部に原料のメチル基含有芳香族化合物が入り込むことで、ゼオライトの孔部において触媒によって酸化反応が進行すると考えられる。
ゼオライトの具体例としては、Y型、L型、β型、モルデナイト、フェリエライト、ZSM−5等が挙げられる。なかでもY型ゼオライトを用いることが好ましい。
Y型ゼオライトは、トルエン、キシレン等のベンゼン環構造を備えるメチル基含有芳香族化合物の酸化反応をより促進することができる。
Y型ゼオライトは、孔部の開口部が、トルエン、キシレン等のベンゼン環構造を備える化合物が入り込みやすい形状又は寸法のため、酸化反応が進行しやすいと考えられる。また、Y型ゼオライトは、孔部の内周面にアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持することによりもたらされる化学的な活性が、トルエン、キシレン等のメチル基をシアノ基に酸化するのに適すると考えられる。
【0020】
ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SiO/Al)(モル比)は、特に制限されないが、1〜200であることが好ましく、1〜100であることがより好ましく、1〜50であることが特に好ましい。
アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を担持する前のゼオライトのカチオン種は、特に制限されないが、アンモニウム型(NH4+)・プロトン型(H)ゼオライトが好適である。
【0021】
上記したゼオライトが担持するアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属イオン、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属イオン等を挙げることができる。
これらの中でも、芳香族ニトリル化合物を効率よく製造できるとともに、入手しやすいものとして、セシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等を用いることが好ましい。さらに芳香族ニトリル化合物の生成反応を短時間に進めるためには、セシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウムを用いることが好ましく、セシウムがより好ましい。
【0022】
ゼオライトには、上記したアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを単独で、又は2種以上を組み合わせて担持させてもよい。本実施形態によれば、ゼオライトに1種類の金属を担持させることによっても、触媒活性を得ることができる。ゼオライトに担持させる金属種類が1種類であることで、反応の熱力学の制御がより簡便になって、副生成物の発生をより低減することができる。
【0023】
ゼオライトに、アルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持させる方法としては、物理混合法やイオン交換法、含浸法、沈殿法、混錬法及び化学蒸着法等の各種方法を適用することができる。
イオン交換法としては、例えば、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の前駆体の水溶液に、ゼオライトを添加して撹拌し、ゼオライトの細孔内に存在するNH4+イオンと金属イオンを交換して、ゼオライトにアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持させる方法がある。
含浸法としては、所定量のゼオライトにアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の前駆体の水溶液を導入し、撹拌後に水を蒸発除去し、その後、乾燥することでゼオライトにアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持させる方法がある。
【0024】
アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の前駆体としては、例えば、これらの金属のアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。
【0025】
金属担持触媒において、金属担持触媒全量に対して、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンを担持される合計量は、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましく、1〜5質量%であることが特に好ましく、1〜3質量%が一層好ましい。
【0026】
本実施形態によれば、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物(メチル基含有芳香族化合物)から、芳香族ニトリル化合物を製造することができる。芳香環の炭素炭素二重結合を構成する炭素原子に結合するメチル基を、本実施形態による金属担持触媒を用いて酸化することで、シアノ基を生成することができる。
【0027】
メチル基含有芳香族化合物において、芳香環としては、芳香族炭素環及び芳香族複素環のいずれであってもよく、単環、多環及び縮合環のいずれであってもよく、置換及び非置換のいずれであってもよい。例えば、置換又は非置換の単環の芳香族炭素環が好ましく、具体的には置換又は非置換のベンゼン環がより好ましい。
メチル基含有芳香族化合物には、Ar−CHで表される化合物を用いることができる。ここで、Arは、置換又は非置換のアリール基であって、例えば、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基等、これらに置換基を導入した基等を挙げることができる。Arに導入される置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、ニトロ基等を挙げることができる。Arにおいて、これらの置換基は、芳香環の炭素原子に結合して導入されることが好ましい。
【0028】
メチル基含有芳香族化合物としては、例えば、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、1−クロロ−2−メチルベンゼン、1−クロロ−3−メチルベンゼン、1−クロロ−4−メチルベンゼン、2−ニトロトルエン、3−ニトロトルエン、4−ニトロトルエン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、ジメチルニトロベンゼン等を挙げることができる。
なかでも、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、これらの誘導体、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができる。
上記したメチル基含有芳香族化合物は、反応工程において、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記したAr−CHで表される化合物においてArに置換基が導入される場合は、分子構造の長径に対して短径がより短い化合物の方が、金属担持触媒のゼオライトの孔部に入り込みやすく、反応効率をより高めることができる。例えば、o−キシレンに比べp−キシレンの方が反応効率が高い傾向がある。
【0030】
本実施形態にしたがって、上記したメチル基含有芳香族化合物のメチル基が酸化されてシアノ基が生成されることで、芳香族ニトリル化合物を製造することができる。
製造される芳香族ニトリル化合物としては、Ar−CNで表される化合物を用いることができる。ここで、Arは、上記した「Ar−CH」で説明した通りである。
芳香族ニトリル化合物としては、例えば、ベンゾニトリル、o−シアノトルエン、m−シアノトルエン、p−シアノトルエン、2−クロロベンゾニトリル、3−クロロベンゾニトリル、4−クロロベンゾニトリル、2−ニトロベンゾニトリル、3−ニトロベンゾニトリル、4−ニトロベンゾニトリル、3,5−ジメチルベンゾニトリル、2,3−ジメチルベンゾニトリル、2,4−ジメチルベンゾニトリル、シアノニトロトルエン等を挙げることができる。
【0031】
好ましくは、トルエンを酸化してベンゾニトリルを製造することができる。また、o−キシレン、m−キシレン、又はp−キシレンを酸化して、それぞれo−シアノトルエン、m−シアノトルエン、又はp−シアノトルエンを製造することができる。原料のメチル基含有芳香族化合物は、1種単独で用いることで、得られる芳香族ニトリル化合物の選択率を高めることができる。なお、原料のメチル基含有芳香族化合物を2種類以上用いて酸化することも可能である。
【0032】
本実施形態による芳香族ニトリル化合物の製造方法としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上を担持するゼオライト(金属担持触媒)、及びアンモニアの存在下で、メチル基含有芳香族化合物を酸素で酸化する段階を有する。以下、この段階を酸化反応と称することがある。
【0033】
酸化反応は、金属担持触媒及びアンモニアの共存下、メチル基含有芳香族化合物に酸素を直接付加させることにより行われる。この酸化反応は、気相接触法で行われることが好ましい。また、酸素としては分子状酸素であることが好ましい。反応装置は特に制限されず、固定床、流動床での実施が可能であるが、固定床が好ましい。
【0034】
酸化反応の反応温度は、メチル基含有芳香族化合物と酸素との酸化反応を促進させるために、300℃以上が好ましく、330℃以上がより好ましく、340℃以上がさらに好ましい。
一方、酸化反応温度は、生成された芳香族ニトリル化合物が高温によって分解され副生成物が生成されないように、500℃以下であることが好ましく、より好ましくは400℃以下であり、さらに好ましくは360℃以下である。
例えば、酸化反応の反応温度は、300〜500℃が好ましく、330〜400℃がより好ましく、350℃プラスマイナス10℃がさらに好ましい。
具体例として、トルエンからベンゾニトリルを合成する場合の反応温度は、ベンゼン転化率及びベンゾニトリル選択率の観点から、330〜400℃が好ましい。
【0035】
酸化反応の反応圧力は、0.05〜10MPaであればよく、流通式反応装置を用いる場合には、大気圧下で反応をすることができる。
【0036】
酸化反応は、メチル基含有芳香族化合物、酸素、アンモニアの各気体を金属担持触媒に接触させて行うことができる。
メチル基含有芳香族化合物、酸素、アンモニアの各気体を混合して混合ガスとして用いて、不活性ガスをキャリアガスとして用いて、金属担持触媒に流通させて接触させることができる。
金属担持触媒に混合ガスを継続的に流通させて接触させることで、酸化反応を連続して行うことができ、排出ガスから芳香族ニトリル化合物を回収することができる。
【0037】
具体的には、酸化反応は、金属担持触媒を収容する反応容器に、メチル基含有芳香族化合物を気体状で含む原料ガスと、アンモニア及び酸素を含む反応ガスとを導入して行うことができる。
ここで、原料ガスの流量は、0.05〜10ml/minが好ましく、0.1〜1.0ml/minがより好ましく、0.1〜0.8ml/minがさらに好ましい。
原料ガスの流量が10ml/min以下であることで、金属担持触媒とメチル基含有芳香族化合物との接触時間が十分となって、反応性をより高めることができる。原料ガスの流量が低下しても副生成物が発生しにくいことから、反応性をより高めるために原料ガスの流量はより低くしてもよい。
【0038】
酸化反応における酸素の使用割合は、メチル基含有芳香族化合物1モル当たり0.1〜50モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜20モルである。
酸化反応におけるアンモニアの使用割合は、メチル基含有芳香族化合物1モル当たり0.01〜200モルであることが好ましく、より好ましくは0.5〜50モルである。
酸化反応において、酸素およびアンモニアは、窒素、ヘリウム、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。また、アンモニアと空気との混合ガスを用いてもよい。
【0039】
酸化反応における金属担持触媒の使用割合は、W/F値(触媒量/供給原料比)にして0.01〜100g−cat・h・mol−1であることが好ましく、より好ましくは0.1〜50g−cat・h・mol−1である。
【0040】
メチル基含有芳香族化合物と酸素による酸化反応をより促進させるために、酸化反応の前に、金属担持触媒を300〜450℃で熱処理する段階を設けることができる。以下、この段階を前処理と称することがある。
前処理温度は、300℃以上であることが好ましく、330℃以上であることがより好ましい。これによって、続く酸化反応において、メチル基含有芳香族化合物と酸素とアンモニアとの反応を促進させることができ、芳香族ニトリル化合物を生成することができる。
前処理温度は、450℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましい。過剰な熱処理によって、金属担持触媒が損傷したり、続く酸化反応において芳香族ニトリル化合物以外の副生成物が発生したりことを防止するためである。
【0041】
前処理は、上記した酸化反応の初期段階において、不活性雰囲気下、又は酸化反応に用いる雰囲気下で、加熱温度を320〜400℃に調整することで行うことができる。前処理を酸化反応に用いる雰囲気下で行う場合、引き続き、加熱温度を酸化反応用に調整して、酸化反応を行うことができる。
【0042】
前処理の加熱時間は、特に限定されないが、20分〜1時間の範囲とすることができる。メチル基含有芳香族化合物と酸素とアンモニアが互いに高温下で反応して、副生成物が発生しないように、前処理は60分以内で行うことが好ましい。
【0043】
より好ましい態様では、酸化反応に用いる雰囲気下で、320℃超過400℃以下、20〜30分で前処理を行い、続いて、加熱温度を酸化反応用に調整して、酸化反応を行うことができる。
メチル基含有芳香族化合物は気化して供給する際に、供給濃度が一定になるまで時間を要する。前処理においてメチル基含有芳香族化合物を供給し始めることで、メチル基含有芳香族化合物の供給量が安定し、酸化反応の開始からメチル基含有芳香族化合物を十分な濃度で供給することができる。
【0044】
本実施形態では、酸化反応の前に、金属担持触媒を熱処理し、焼成する段階を設けてもよい。以下、この段階を焼成処理と称することがある。
焼成処理を行うことで、ゼオライトにアルカリ金属イオン及び/またはアルカリ土類金属イオンを担持させた状態で、この金属担持触媒に付着している揮発分や不純物を除去することができる。揮発分や不純物としては、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を金属前駆体として導入する際に、残留した炭素成分や揮発成分等がある。焼成処理する場合も、焼成処理しない場合も、続く酸化反応において芳香族ニトリル化合物を効率よく製造することができる。
【0045】
焼成処理は、300〜450℃で行うことが好ましい。これによって、金属担持触媒から不純物を除去することができるとともに、金属担持触媒が過剰な加熱によって損傷することを防止することができる。
焼成処理は酸素雰囲気によって行うことで、金属担持触媒の不純物を酸化して除去することができる。
処理時間は、特に制限されないが、20分〜1時間の範囲とすることができる。
焼成処理の後、続けて、酸化反応の雰囲気及び加熱温度に切り替えて、酸化反応を行うことができる。必要であれば、焼成処理と酸化反応との間に、上記した前処理を行ってもよい。
【0046】
次に、本実施形態による芳香族ニトリル化合物を製造するための装置の一例について説明する。
図1は、本実施形態の一例による芳香族ニトリル化合物を製造するための固定床流通式反応装置を模式的に表した図である。
【0047】
図1に示す装置は、供給部10、反応部20、検出部30、排出部40、排出部50を備える。
供給部10は、酸素収容部、アンモニア収容部、ヘリウム等のキャリアガス収容部、メチル基含有芳香族化合物収容部を備える。酸素、アンモニア及びメチル基含有芳香族化合物を含む供給原料は、キャリアガスとともに供給部10から供給され、反応部20、検出部30を通り排出部40に排出される。もしくは,反応部20から排出部50に排出される。
供給部10では、芳香族ニトリル化合物の合成反応に用いられる供給原料がそれぞれの収容部に収容され、各原料の組成を制御して混合ガスとなって反応部20に供給される。例えば、気体状態の酸素、アンモニア、キャリアガスは、マスフローコントローラーを用いて供給量を制御しながら供給できる。また、メチル基含有芳香族化合物は、シリンジを使い液体状態で規定量を定常的に供給することで、反応部20へ気化されて供給できる。
このように混合ガスの組成を制御して、混合ガスを反応部20に供給することができる。
反応部20は、反応管を備え、不図示の電気炉によって加熱可能になっている。反応管内には、所定量の金属担持触媒を収容する。反応部20では、例えば、プログラム温度調節計と熱電対温度計を用いて、反応管内の温度を制御することができる。
排出部40と排出部50は、反応部20から排出されたガスを排出する。必要であれば、排出部40と排出部50には有害ガスを除去する洗浄部を設けてもよい。
【0048】
反応部20から排出されたガスを分析するために、反応部20から排出部40の間に検出部30を設けることができる。検出部30としては、例えばガスクロマトグラフ(GC)を利用することができ、排出ガスは、ガスクロマトグラフによって検出することができる。
ガスクロマトグラフは、水素炎イオン化型検出器(FID)と熱伝導度型検出器(TCD)の2種類の検出器を用いることで、排出ガス中の芳香族ニトリル化合物成分、メチル基含有芳香族化合物成分、副生成物、アンモニア成分をより精度よく検出することができる。
【0049】
本実施形態による芳香族ニトリル化合物合成用触媒は、アンモニアの存在下で、芳香環の炭素原子に結合するメチル基を有する芳香族化合物を酸素で酸化する、芳香族ニトリル化合物の合成に用いるための触媒であって、ゼオライトと、ゼオライトに担持されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする。
本実施形態による触媒を用いることで、アンモ酸化法によって芳香族環に直接結合するメチル基を酸化し芳香族ニトリル化合物を効率よく製造することができる。また、アンモ酸化法において、アンモニア(NH)の消費量を削減することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<触媒調製>
Y型ゼオライト(ZEOLYST INTERNATIONAL製「CBV720」、以下同じ)を金属前駆体水溶液中に添加し、80℃で、12時間撹拌し、ろ過した。ろ過後、1500mlのイオン交換水で洗浄し(500ml×3回)、80℃で、6時間乾燥し、金属/ゼオライト触媒を調製した。金属/ゼオライト全体に対する金属量が2質量%となるように調製した。
以下の各金属前駆体水溶液10mlを用いて、各金属を担持するゼオライト触媒2gを調製した。
【0052】
Cs/Yゼオライト触媒:3.2×10−2MのCsNO(関東化学株式会社)水溶液。
Na/Yゼオライト触媒:1.8×10−1MのNaNO(富士フイルム和光純薬株式会社製)水溶液。
K/Yゼオライト触媒:1.1×10−1MのKNO(関東化学株式会社製)水溶液。
Rb/Yゼオライト触媒:5.0×10−2MのRbNO(SIGMA−ALDRICH製)水溶液。
Mg/Yゼオライト触媒:1.8×10−1MのMg(NO・6HO(富士フイルム和光純薬株式会社)水溶液。
Ca/Yゼオライト触媒:3.2×10−2MのCa(NO・4HO(SIGMA−ALDRICH製)水溶液。
Sr/Yゼオライト触媒:4.9×10−2MのSr(NO(SIGMA−ALDRICH製)水溶液。
Ba/Yゼオライト触媒:3.1×10−2MのBa(NO(SIGMA−ALDRICH製)水溶液。
【0053】
(製造例1)
<ベンゾニトリル製造>
製造例1の処方及び評価結果を表1に示す。
Cs/Yゼオライト触媒を用いて、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
ベンゾニトリルの製造は、図1に示す固定床流通式反応装置を用いて行った。
直径6mm(内径4mm)、長さ25mmの反応管に、表1に示す添加量のCs/Yゼオライト触媒を入れ、反応管を電気炉内に配置した。
【0054】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:Cs/Yゼオライト触媒
触媒量:表中に記載
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0055】
<評価>
反応管から排出される排出ガスをそれぞれ1mlずつサンプリングバルブで採取し、これらを株式会社島津製作所製「GC−2014」を用いて、FID検出器、TCD検出器に導入して、反応生成物を検出した。検出器の詳細は以下の通りである。
FID検出器:a ZB−WAXplus capillary column」、30m×0.25mm×0.25μm、Phenomenex社製、カラム温度は保持時間0〜2分間は110℃で、それ以降は25℃/分の昇温速度で210℃まで昇温し、その後210℃に保持した。
TCD検出器:「a WG−100 column」、GL Science Japan製、カラム温度50℃。
ガスクロマトグラフの測定データは、株式会社島津製作所製「LabSolutions LC/GC」のソフトウェアを用いて解析した。
【0056】
トルエン転化率及びベンゾニトリル選択率は、カーボンバランス(炭素による物質量で判断)一定として行った。
トルエン転化率及びベンゾニトリル選択率は、触媒反応後の物質量(未反応物と生成物)の値を利用して、以下の式から求めた。トルエンは、CCHと表し、ベンゾニトリルは、PhCNと表す。
【0057】
【数1】
【0058】
[注:CCHの一個のトルエン分子から7個のCO二酸化炭素分子ができる。]
【0059】
NH消費量/PhCN生成量は、触媒反応中で、一定時間に一定量の触媒で反応したアンモニアの物質量と生成したベンゾニトリルの物質量で判断し、以下の式から求めた。
【0060】
【数2】
【0061】
アンモニア転化率は、窒素による物質量で判断し、以下の式から求めた。
【0062】
【数3】
【0063】
トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、及びNH消費量/PhCN生成量の計算に使われる物質量の求め方は、ガスクロマトグラフによる面積を利用した。
測定対象とする物質の物質量が違う数種類の試料(気体及び液体)をガスクロマトグラフで測定した。測定によって出た面積を用いて、物質量と面積の一次関数を作り、係数を導き出した。それで、導き出した係数を用いて、触媒反応を行う際に検出した面積を係数に掛ける事で対象とする物質量を導き出した。
【0064】
【表1】
【0065】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができ、さらにNH消費量を削減することができた。
また、Cs/Yゼオライト触媒の添加量が0.4g以上であることで、トルエン転化率をより高めることができた。
【0066】
(製造例2)
<ベンゾニトリル製造>
製造例2の処方及び評価結果を表2に示す。
Cs/Yゼオライト触媒を用いて、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す反応温度とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0067】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:Cs/Yゼオライト触媒
触媒量:0.5g
反応温度:表中に記載
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0068】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0069】
【表2】
【0070】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができ、さらにNH消費量を削減することができた。
また、反応温度が350℃以上であることで、トルエン転化率をより高めることができた。
【0071】
(製造例3)
<ベンゾニトリル製造>
製造例3の処方及び評価結果を表3に示す。
表中に示す触媒を用いて、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す触媒とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0072】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:表中に記載
触媒量:0.5g
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:He:O:NH=0.2:5.0:1.0:1.8(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0073】
用いた触媒は、以下の担持体を用いた他は、上記した触媒調製のCs/Yゼオライト触媒と同様にして、調製した。
Zeolyst社製SiO/Al(30):Yゼオライト、ZEOLYST INTERNATIONAL製「CBV720」。
Zeolyst社製SiO/Al(12):Yゼオライト、ZEOLYST INTERNATIONAL製「CBV712」。
Zeolyst社製SiO/Al(5.2):Yゼオライト、ZEOLYST INTERNATIONAL製「CBV500」。
TOSOH社製SiO/Al(115):Yゼオライト、東ソー株式会社製「HSZ−300シリーズ 385HUA」。
カッコ内は、SiO/Alのモル比である。
【0074】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0075】
【表3】
【0076】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができ、さらにNH消費量を削減することができた。
また、ゼオライトのSiO/Alのモル比が10〜30でよりよい結果が得られた。SiOの割合が多くなることで、ベンゾニトリル選択率がより高くなることがわかった。また、NH消費量をより削減することができた。
【0077】
(製造例4)
<ベンゾニトリル製造>
製造例4の処方及び評価結果を表4に示す。
表中に示す触媒を用いて、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す触媒とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0078】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:表中に記載
触媒量:0.2g
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0079】
用いた触媒は、以下の担持体を用いた他は、上記した触媒調製のCs/Yゼオライト触媒と同様にして、調製した。
Cs/SiO−Al:富士フイルム和光純薬株式会社製「ケイ酸アルミニウム、Al・3SiO」。
Cs/β Zeolite:ZEOLYST INTERNATIONAL製「CP814E」。
Cs/Y Zeolite:上記した触媒調製のCs/Yゼオライト触媒を用いた。
【0080】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0081】
【表4】
【0082】
表中に示すとおり、担持体がゼオライトである触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができ、さらにNH消費量を削減することができた。
また、ゼオライトがY型ゼオライトであることで、トルエン転化率がより改善された。
例4−1は、ゼオライトの組成比SiO/Alと近い無定形シリカアルミナ(SiO・Al)を担体に用いているが、ベンゾニトリルは生成されなかった。
【0083】
(製造例5)
<ベンゾニトリル製造>
製造例5の処方及び評価結果を表5に示す。
表中に示す触媒を用いて、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す触媒とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0084】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:表中に記載
触媒量:0.2g
トルエン流量:0.2ml/min
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
反応時間:30〜180分
【0085】
用いた触媒は、上記した触媒調製で説明した通りである。
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0086】
【表5】
【0087】
表中に示すとおり、アルカリ金属/ゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができ、さらにNH消費量を削減することができた。
また、触媒がCs/Yゼオライト触媒であることで、トルエン転化率がより改善され、さらにNH消費量をより削減することができた。
【0088】
(製造例6)
<ベンゾニトリル製造>
製造例6の処方及び評価結果を表6に示す。
表中に示す触媒を用いて、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す触媒とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0089】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:表中に記載
触媒量:0.2g
トルエン流量:0.2ml/min
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
反応時間:30〜180分
【0090】
用いた触媒は、上記した触媒調製で説明した通りである。
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0091】
【表6】
【0092】
表中に示すとおり、アルカリ土類金属/ゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができた。
【0093】
(製造例7)
<芳香族ニトリル化合物の製造>
製造例7の処方及び評価結果を表7に示す。
Cs/Yゼオライト触媒を用いて、表中に示す原料化合物を酸化して、主生成物である芳香族ニトリル化合物を製造した。
表中に示す原料化合物とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0094】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:Cs/Yゼオライト触媒
触媒量:0.4g
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0095】
表7に示す原料化合物の詳細は以下の通りである。
p−キシレン:富士フイルム和光純薬株式会社製。
m−キシレン:富士フイルム和光純薬株式会社製。
o−キシレン:富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0096】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率に対応する原料化合物の転化率、ベンゾニトリル選択率に対応する主生成物の選択率を求めた。
【0097】
【表7】
【0098】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、キシレン化合物から芳香族ニトリル化合物を効率よく生成することができた。詳しくは、キシレン化合物において、ベンゼン環に直接結合する2個のメチル基うち1個のみを選択してニトリル化し、シアノトルエン化合物を生成することができた。
p−キシレンは、分子構造から、ゼオライトの孔部に入り込みやすく、原料化合物の転化率が高くなったと考えられる。
【0099】
(製造例8)
<芳香族ニトリル化合物の製造>
製造例8の処方及び評価結果を表8に示す。
Cs/Yゼオライト触媒を用いて、表中に示す原料化合物を酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す原料化合物とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0100】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:Cs/Yゼオライト触媒
触媒量:0.4g
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0101】
表中に示す原料化合物の詳細は以下の通りである。
1−クロロ−3−メチルベンゼン:SIGMA−ALDRICH製。
1−クロロ−4−メチルベンゼン:SIGMA−ALDRICH製。
m−ニトロトルエン:富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0102】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率に対応する原料化合物の転化率、ベンゾニトリル選択率に対応する主生成物の選択率を求めた。
【0103】
【表8】
【0104】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、クロロメチルベンゼン化合物からクロロベンゼンニトリル化合物を効率よく生成することができた。詳しくは、クロロメチルベンゼン化合物において、ベンゼン環に直接結合する1個のメチル基をニトリル化し、クロロベンゾニトリル化合物を生成することができた。
1−クロロ−4−メチルベンゼンは、分子構造から、ゼオライトの孔部に入り込みやすく、原料化合物の転化率が高くなったと考えられる。
また、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ニトロトルエン化合物からシアノニトロトルエン化合物を効率よく生成することができた。
【0105】
(製造例9)
<ベンゾニトリル製造>
製造例9の処方及び評価結果を表9に示す。
表中に示すトルエン流量とし、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示すトルエン流量とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0106】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:Cs/Yゼオライト触媒
触媒量:0.2g
反応温度:350℃
反応ガス組成(流量比):O:NH:He=1.0:1.8:5.0(ml/min)
トルエン流量:表中に記載
反応時間:30〜180分
【0107】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0108】
【表9】
【0109】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができた。
トルエン流量が速くなると、触媒とトルエンとの接触時間が短くなるため、トルエン転化率が低下したと考えられる。トルエン流量が遅くてもベンゾニトリル選択率は低下しないことからも、トルエン流量が0.20ml/minである場合により良い結果が得られることがわかる。
【0110】
(製造例10)
<ベンゾニトリル製造>
製造例10の処方及び評価結果を表10に示す。
表中に示すCs/Yゼオライト触媒のCs担持量(質量%)とし、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示すCs担持量(質量%)とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0111】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:表中に記載のCs担持量(質量%)のCs/Yゼオライト触媒
触媒量:0.2g
反応温度:350℃
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0112】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0113】
【表10】
【0114】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができた。
トルエン転化率は、Cs/Yゼオライト触媒全量に対しCs担持量(質量%)が1質量%以上でより良好であり、1質量%〜3質量%でさらに良好であった。Cs担持量が少ないと、触媒活性が低下することが、反応性低下の一因と考えられる。また、Cs担持量が多いと、低反応性のCsサイトが形成されそれが増えてしまい触媒活性が低下するものと考えられる。
【0115】
(製造例11)
<ベンゾニトリル製造>
製造例11の処方及び評価結果を表11に示す。
表中に示す反応温度とし、トルエンを酸化して、ベンゾニトリルを製造した。
表中に示す反応温度とし、下記条件とした以外は、上記製造例1と同様にした。
【0116】
電気炉内で反応管内の試料を、以下の条件で酸化処理した。
触媒:Cs/Yゼオライト触媒
触媒量:0.2g
反応温度:表中に記載
反応ガス組成:トルエン:O:NH:He=0.2:1.0:1.8:5.0(体積比)
トルエン流量:0.2ml/min
反応時間:30〜180分
【0117】
上記製造例1と同様にして、トルエン転化率、ベンゾニトリル選択率、NH消費量/PhCN生成量を求めた。
【0118】
【表11】
【0119】
表中に示すとおり、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができ、さらにNH消費量を削減することができた。
また、反応温度が350℃以上であることで、トルエン転化率をより高めることができた。
また、反応温度が低い方が、ベンゾニトリル選択率がより高かった。反応温度が高くなると、過剰な酸化、副反応等が進行して、副生成物が生成するからと考えられる。
この点から、反応温度は330〜400℃が好ましく、340〜370℃がより好ましい。
【0120】
(製造例12)
上記した製造例1−2の例(製造例11−3の例と同じ)について、反応時間に対するトルエン転化率及びベンゾニトリル選択率を測定した。結果を図2に示す。
図2に示す通り、Cs/Yゼオライト触媒を用いることで、長時間にわたって、ベンゾニトリル(PhCN)を効率よく生成することができた。
【0121】
(製造例13)
上記した製造例1−2の例(製造例11−3の例と同じ)について、Cs担持前のY型ゼオライト、反応前のCs/Yゼオライト触媒、及び4時間反応後のCs/Yゼオライト触媒について、XRD分析をした。
XRD結果から、Cs担持前のY型ゼオライトに対して、反応前のCs/Yゼオライト触媒でも、4時間反応後のCs/Yゼオライト触媒でも、ピーク変化に有意差は確認されなかった。このことから、Csの担持によっても、長時間の反応後においても、Y型ゼオライトの骨格は変化せず安定に保たれており、Cs/Yゼオライト触媒は化学変化せず、長時間にわたって触媒活性を備えることがわかる。また、反応後のCs/Yゼオライト触媒を再利用する用途にも適用可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0122】
10 供給部
20 反応部
30 検出部
40 排出部
50 排出部
図1
図2