【課題】インテリア用、自動車用、航空機用、鉄道車両用等のシートの表皮材又は内装材等、服飾製品等に好適に用いることができる、風合い(剛軟度)と防しわ性を両立した人工皮革の提供。
【解決手段】繊維シートとポリウレタン樹脂とを含む人工皮革であって、該繊維シートが、該人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)を少なくとも含み、かつ、該繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率が15%以上30%以下であり、かつ、該断面ポリウレタン樹脂面積率の標準偏差が25%以下であることを特徴とする前記人工皮革。
繊維シートとポリウレタン樹脂とを含む人工皮革であって、該繊維シートが、該人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)を少なくとも含み、かつ、該繊維層(A)の厚み方向断面における断面ポリウレタン樹脂面積率が15%以上30%以下であり、かつ、該断面ポリウレタン樹脂面積率の標準偏差が25%以下であることを特徴とする前記人工皮革。
前記人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下である、請求項1に記載の人工皮革。
前記繊維シートが、前記第1の外表面を構成する繊維層(A)と、該繊維層(A)に接するスクリム及び/又は繊維層(B)とで構成された2層以上の構造を有する、請求項1又は2に記載の人工皮革。
JIS L 1059−1:2009「繊維製品の防しわ性試験方法−第1部:水平折りたたみじわの回復性の測定(モンサント法)」に従う防しわ率が60%以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の人工皮革。
前記水流分散処理が、ノズル孔間隔が1.0mm以下であり、かつ、ノズル孔径が0.05mm以上0.30mm以下である複数のノズルを用いて実施される、請求項10〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
不織布等の繊維質基材(繊維シート)とポリウレタン(以下、PU樹脂ともいう。)樹脂とを主材として構成された人工皮革は、イージーケア、機能性、均質性等、天然皮革では実現が難しい優れた特徴を有しており、衣類、靴、鞄、更に、インテリア用、自動車用、航空機用、鉄道車両用等のシートの表皮材及び内装材、リボン、ワッペン基材等の服飾材、等に好適に用いられている。
【0003】
このような人工皮革を製造する方法としては、従来、繊維シートにPU樹脂の有機溶剤溶液を含浸せしめた後、PU樹脂の非溶媒(例えば、水又は有機溶剤)中に浸漬してPU樹脂を湿式凝固せしめる方法が、一般的に採用されている。例えば、以下の特許文献1では、PU樹脂の溶媒である有機溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた有機溶剤系PU樹脂が用いられている。しかしながら、一般的に有機溶剤は人体及び環境への有害性が高いことから、人工皮革の製造に関しては、有機溶剤を使用しない手法が強く求められている。
【0004】
以下の特許文献2には、従来の有機溶剤系PU樹脂に替えて、水中にPU樹脂を分散させた水分散型PU樹脂分散液を用いる方法が検討されているが、「水分散型PU樹脂分散液を繊維シートに含浸し、PU樹脂を凝固したシート状物は、風合いが硬くなりやすいという問題がある。その主な理由の一つとして、両者の凝固方式の違いがある。すなわち、有機溶剤系PU樹脂分散液の凝固方式は、PU分子を溶解している有機溶剤を水で溶媒置換することでPU分子を凝集析出させて凝固する「湿式凝固方式」であり、PU膜で見ると、密度が低い多孔膜を形成する。そのため、PU樹脂が繊維シート内へ含浸され凝固された場合も繊維とPU樹脂の接着箇所が点状に存在し、かつ、PU樹脂が多孔構造になりやすいので、柔らかいシート状物となる。他方、水分散型PU樹脂は、主に加熱することにより、水に分散させたPU分子の水和状態を崩壊させ、PU分子同士を凝集させることにより凝固する「乾熱凝固方式」であり、得られるPU膜構造は密度が高い無孔膜となる。そのため、繊維とPU樹脂の接着は密になり、繊維の交絡部分を強く把持するため、風合いが硬くなる。この水分散型PU樹脂適用による風合いの改善、すなわち、PU樹脂による繊維交絡点の把持を抑制するために、シート状物内でのPU樹脂を多孔構造とする技術が提案されているとの認識の下、繊維シートに、水分散型PU樹脂と発泡剤とアニオン系界面活性剤及び/又は両イオン系界面活性剤を含有するPU樹脂分散液を付与することを特徴とするシート状物の製造方法により、発泡剤とPU樹脂の種類に関係なく、シート状物内部にPU樹脂の多孔構造を発現でき、有機溶剤系PU樹脂を適用した人工皮革と同等に均一な起毛長からなり、繊維緻密感に優れる優美な表面品位と柔軟で反発感にも優れる良好な風合いを有するシート状物を製造することができる旨開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載された方法で得られたシート状物では、極細繊維束とPU樹脂間の空隙が大きくなっており(PU樹脂の多孔構造化)、極細繊維束にPU樹脂が強固に接着することが抑制される結果として、風合いの柔軟化が一部認められるものの、断面PU樹脂面積率が未だ比較的高く、PU樹脂の分散性が充分でないばかりか、防しわ性、単繊維の分散性については検討されていない。
【0005】
また、以下の特許文献3には、柔軟性に優れた風合いと、さらには柔軟でありながらも高い耐折れシワ性を兼ね備えた立毛調皮革様のシート状物を提供すべく、平均単繊維直径が0.3〜7μmの極細繊維からなる不織布と弾性体樹脂からなるシート状物であって、前記のシート状物の表面には立毛を有し、前記の弾性体樹脂が多孔構造を有しており、前記の多孔構造の全孔に占める孔径0.1〜20μmの微細孔の割合が60%以上のシート状物が開示されている。特許文献3には、このような多孔構造は、連通孔と独立気泡も採用することができ、弾性体樹脂中に微細孔を一定の割合以上有することにより、弾性樹脂の柔軟性を高め、シート状物に折り曲げ変形を加えた際に、変形の力を弾性樹脂の一部ではなく、全体で分散して受けることができるため、弾性樹脂の座屈を伴う折れシワの発生が抑えられ、優れた耐折れシワ性を有するシート状物とすることができると記載されている。また、このような多孔構造は、N,N’−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶解したPU樹脂溶液に、不織布を浸漬する等により、PU樹脂を不織布に付与した後、非溶解性の溶剤に又は溶解性の溶剤と非溶解性の溶剤の混合物に浸漬させる湿式凝固によって、得られることとが記載されている。
このように、特許文献3では、不織布に含浸させるPU樹脂として、水分散型PU樹脂ではなく、有機溶剤(ジメチルホルムアミド)系PU樹脂が使用されているため、前記した水分散型PU樹脂場合の問題、すなわち、「主に加熱することにより、水に分散させたPU樹脂分散液の水和状態を崩壊させ、PU同士を凝集させることにより凝固する乾熱凝固方式により得られるPU樹脂膜構造は密度が高い無孔膜となり、PU樹脂塊の分散性が悪化する」という問題はそもそもなく、繊維とPU樹脂との接着が点状となり、柔らかいシート状物となると想定される。
このように、特許文献3には、PU樹脂の多孔構造により柔軟性と耐折れシワ性が両立したと記載されているが、記載された人工皮革は水分散型PU樹脂で充填された人工皮革に関するものではなく、また、断面PU樹脂面積率、単繊維の分散性については検討されていない。
【0006】
以下の特許文献4には、高い機械特性、柔軟性、軽量性、品位を備えたシート状物とその製造方法、並びに高い機械特性、風合い(柔軟性)、軽量性を備え、かつ耐屈曲性に優れた銀付調人工皮革を提供すべく、平均単繊維径が0.05〜10μmの極細中空繊維を主体とする不織布と弾性重合体を構成成分として備えるシート状物であって、前記の極細中空繊維中に中空部を2〜60個有することを特徴とするシート状物が開示されている。同書では、中空部を有する極細繊維を人工皮革に適用することにより、中実繊維同様の高い機械的特性・風合い(柔軟性)、中空繊維による軽量性を兼ね備えた人工皮革に好適なシート状物が得られ、また、銀付調人工皮革に適用することにより、中実繊維同様の高い機械的特性、風合い(柔軟性)、中空繊維による軽量性、繊維が柔軟になることによる品位を兼ね備えた耐屈曲性に優れた銀付調人工皮革が得られると記載されている。特許文献4には、中空部の形成には、精密に制御された海島型複合繊維から得ることができ、また、被覆層(銀面層)は、繊維シート上にPU樹脂溶液をコーティングする方法等を用いることで形成されると記載されている。特許文献4でも、PU樹脂塊は、N,N’−ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の有機溶媒に溶解したPU樹脂溶液に、繊維シートを浸漬する等により、PU樹脂を繊維シートに付与した後、非溶解性の溶剤に又は溶解性の溶剤と非溶解性の溶剤の混合物に浸漬させる湿式凝固によって、得られている。
このように、特許文献4でも、不織布に含浸させるPU樹脂として、水分散型PU樹脂ではなく、有機溶剤(ジメチルホルムアミド)系PU樹脂が使用されているため、前記した水分散型PU樹脂を用いた場合の問題、すなわち、「主に加熱することにより、水に分散させたPU樹脂分散液の水和状態を崩壊させ、PU同士を凝集させることにより凝固する乾熱凝固方式により得られるPU樹脂膜構造は密度が高い無孔膜となり、PU樹脂塊の分散性が悪化する」という問題はそもそもなく繊維とPU樹脂との接着が点状となり、柔らかいシート状物となると想定される。
特許文献4には、得られた人工皮革において、中空部の個数と風合い、耐屈曲性との関係について検討されているものの、記載された人工皮革は水分散型PU樹脂で充填された人工皮革に関するものではなく、また、断面PU樹脂面積率、単繊維の分散性については検討されていない。
【0007】
また、以下の特許文献5には、極細繊維からなる不織布と高分子弾性体からなる人工皮革において、極細繊維とPU樹脂との色斑がなく、弾力感があり手触り感触が滑らかな均一で表面品位に優れた人工皮革を提供すべく、平均単繊維繊度が0.01〜0.50dtexの極細繊維からなる不織布と高分子弾性体からなる人工皮革であって、前記高分子弾性体を10〜50質量%の割合で含み、前記人工皮革を表面方向に対して垂直に切断したときの断面において、前記人工皮革の立毛部を除く表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の塊の表面方向の断面長あたりの数が0.1〜2.5個/mmであることを特徴とする人工皮革が開示され、また、その製法として、極細繊維からなる不織布内部に水流を通過させて、極細繊維を分散させる処理を施す工程を含むものが開示されている。特許文献5には、極細繊維と高分子弾性体との色調差に由来する人工皮革表面の色斑を解消するためには、製造工程の途中で極細繊維を分散させ、人工皮革内部に存在する高分子弾性体の樹脂塊のサイズを適当な範囲とすることが効果的であり、極細繊維を分散させる処理としては、液中において極細繊維シート内部に水流を通過させる方法が好ましく用いられ、水流によって極細繊維の束に機械的な衝撃を与えることによって、極細繊維を分散させること、具体的には、バイブロウォッシャーなどの装置を用いることができ、バイブロウォッシャーは、シート全面にわたって均一な分散処理を行うことができる点で好ましいが、液浴外において、局所的な高圧水流による機械的衝撃を与えるウォータジェットパンチのような手法は好ましくなく、なぜなら、ウォータジェットパンチ処理は、通液が局所的であるために、均一な処理が難しく、ノズル数を増やした場合であっても、長さ方向に筋状の規則的な外観不良を生じる傾向にあり、人工的な風合いの人工皮革となるからである旨記載されている。特許文献5の実施例では、極細繊維の分散処理として、「海島型複合繊維の海成分を除去し、極細繊維を発現させた脱海後の繊維シートを、バイブロウォッシャーで処理し、水中で、脱海シート内部に水流を通過させ、極細繊維の分散処理を行った」との記載はあるが、その処理条件の詳細は一切記載されていない。一般的な分散処理では、依然として繊維束が残ってしまい、起毛処理時に繊維束とともに分散した繊維が存在することで緻密感や立毛感が均一なものとならない。また、得られる人工皮革の「表面から厚み方向200μm以内に存在する、厚み方向に100μm以上の大きさを有する高分子弾性体の樹脂塊の表面方向の断面長あたりの数が0.1〜2.5個/mm」であれば、外観品位(色調)がより均一であったことは記載されているものの、断面PU樹脂面積率、その標準偏差について検討されていないし、ましてや単繊維の分散性については検討されていない。
さらに、特許文献5では、シート状物に含浸させるPU樹脂として、水分散型PU樹脂ではなく、有機溶剤(ジメチルホルムアミド)系PU樹脂が使用されているため、前記した水分散型PU樹脂を用いた場合の問題、すなわち、「主に加熱することにより、水に分散させたPU樹脂分散液の水和状態を崩壊させ、PU樹脂分散液同士を凝集させることにより凝固する乾熱凝固方式により得られるPU樹脂膜構造は密度が高い無孔膜となり、PU樹脂塊の分散性が悪化する」という問題はそもそもなく、繊維とPU樹脂との接着が点状となり、柔らかいシート状物となると想定される。
【0008】
他方、以下の特許文献6には、有機溶剤を利用しない水分散型PU樹脂分散液を用いて、柔軟でしかも製品の品位が天然皮革に近い人工皮革を得ることを目的として、人工皮革に供する繊維質基材に、固着したとき弾性を呈するPU樹脂分散液状態の重合体溶液を塗布又は含浸した後、該繊維質基材に含ませた重合体溶液を、湿熱とマイクロ波を併用して、繊維質基材中に固着させることを特徴とする人工皮革の製造方法が開示されている。特許文献6には、マイクロ波を照射することにより弾性重合体であるPU樹脂の固着がより均一に行われ、しかも、固着したPU樹脂自体に多数の空隙(ポーラス化)ができて、湿熱固着直後のシート状物の風合は、従来の乾式による固着(キュアリング)によるものに比べて柔らかくソフト夕ツチなものが得られたと記載されている。
特許文献6には、マイクロ波処理により、人工皮革の風合いが高まったことが記載されているものの、防しわ性について、ましてや、断面PU樹脂面積率、単繊維の分散性については何ら検討されていない。
【0009】
自動車用途のカーシートなどで用いられる人工皮革にはクッション性が求められる。そのため、皮革にはゴム弾性体であるPU樹脂が用いられており、PU樹脂の量を多くすることで、クッション性や防しわ性が高くなるが、皮革が硬くなり風合い(剛軟値)が損なわれてしまう。
前記したように、特許文献3では、有機溶剤型PU樹脂に発泡処理を施すことにより、繊維に付着するPU樹脂量を抑えることができ、皮革が硬くなるのを抑えつつ、皮革内部にあるゴム弾性体であるPU樹脂量を多くすることで、防しわ性が良好な皮革を得ているが、水分散型PU樹脂を用いる場合には有機溶剤型PU樹脂を用いる場合よりも得られる人工皮革が硬くなりやすく、より改善が必要である。
このように、従来技術においては、海島型繊維を用いた繊維シートに有機溶媒系PU樹脂の湿式凝固により得られる人工皮革において風合い(剛軟値)や防しわ性に優れる人工皮革を提供するための、又は水分散型PU樹脂の感熱凝固で得られるシート状物の乾燥時にマイクロ波を適用して得られる人工皮革において風合い(剛軟値)に優れる人工皮革を提供するための試みがなされてきたものの、水分散型PU樹脂を用いて得られる人工皮革においても、風合い(剛軟値)と防しわ性を共に満足できるレベルの人工皮革及びその製法は未だ達成されていないのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明は実施形態に限定されるものではない。また、本開示の各種値は、特記がない限り、本開示の[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で得られる値である。
【0016】
<人工皮革>
本発明の一の実施形態は、繊維シートとPU樹脂とを含む人工皮革であって、該繊維シートが、該人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)を少なくとも含み、かつ、該人工皮革の厚み方向断面におけるPU樹脂面積率(断面PU樹脂面積率)が15%以上30%以下であり、かつ、該断面PU面積率の標準偏差が25%以下であることを特徴とする前記人工皮革である。
【0017】
本明細書中、「人工皮革」とは、家庭用品品質表示法に準じ「基材に特殊不織布(ランダム三次元立体構造を有する繊維層を主とし、PU樹脂又はそれに類する可撓性を有する高分子弾性体を含浸させたもの)を用いているもの」である。また、JIS−6601の定義では、人工皮革は、その外観によって、革の銀面様外観を持つ「スムーズ」と、革のスエード、ベロア等の外観を持つ「ナップ」に分類されるが、本実施形態の人工皮革は「ナップ」に分類されるもの(すなわち、起毛調外観を有するスエード調人工皮革)に関するものである。スエード調外観は、繊維層(A)の外表面(すなわち、人工皮革の第1の外表面となる面)をサンドペーパー等でバフィング処理(起毛処理)することにより形成することができる。尚、本明細書中、人工皮革の第1の外表面とは、人工皮革が使用される際に外部に露出する表面(例えば、椅子用途の場合は人体と接触する側の表面)である(
図1、
図3参照)。一態様において、スエード調人工皮革の場合には、第1の外表面が、バフィング加工等により起毛又は立毛されている。
本明細書中、特段の定めなき限り、用語「繊維ウェブ」とは、短繊維の交絡前の状態を、用語「繊維シート」とは、交絡後からPU樹脂充填前の状態を、用語「シート状物」とは、PU樹脂充填後から染色仕上げ前の状態を、そして用語「人工皮革」とは、染色仕上げ後の製品の状態を意味する。また、用語「不織布」とは、「繊維ウェブ」、「繊維シート」、「シート状物」、「人工皮革」を包含し、また、用語「繊維質基材」とは、用語「不織布」に加えて、織編物等も包含する。
【0018】
[繊維層(A)の厚み方向断面における断面PU樹脂面積率とその標準偏差]
本実施形態の人工皮革では、繊維層(A)の厚み方向断面における断面PU樹脂面積率が15%以上30%以下であり、かつ、該断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下である。
断面PU樹脂面積率が30%を超えると、PU樹脂付着率が高すぎるものとなり、人工皮革のゴムライク感が強くなり、防しわ性は向上するが、風合い(剛軟値)は悪化し、硬いものとなる。断面PU樹脂面積率が15%未満であれば、風合い(剛軟値)は良好となるが防しわ性が低下する。また、人工皮革にスクリムがない場合には、平面方向における充分な機械物性が得られ易い点で、断面PU樹脂面積率は15%以上である。断面PU樹脂面積率は、好ましくは15%以上28%以下、さらに好ましくは15%以上26%以下である。
【0019】
断面PU樹脂面積率は、後述するk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)と相俟って、以下に説明する風合い(剛軟値)、防しわ性を指標する。例えば、k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が80%を超える場合は、過剰な単繊維束が存在する。他方、水分散型PU樹脂は、単繊維や単繊維束に付着した状態で固着する傾向が大きい。つまり、k近傍距離割合値が80%以上である過剰な単繊維束の存在下では、PU樹脂塊が単繊維束に凝集して付着するため、防しわ性は向上するが、風合い(剛軟値)が悪化傾向になる。他方、k近傍距離割合値が10%未満の場合は、単繊維が過度に分散するのでPU樹脂も過度に分散することになり、繊維間のPU樹脂による接着が不充分になるので、防しわ性が悪化し且つ皮革様の風合いが得られ難い、また充分な機械物性が得られ難い。
後述するk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であれば、単繊維が適度に分散しているため、良好な風合い(剛軟値)と防しわ性が得られ易い。
【0020】
後述するように(
図6参照)、断面PU樹脂面積率は、SEM画像内のPU樹脂を黒色部分として二値化し、得られた二値化像から、区画法により各区画に対するPU樹脂の面積割合を求め、全区画について断面PU樹脂面積率(%)を平均したものであり、その標準偏差は、全区画についての平均からのバラツキを指標する。
【0021】
本実施形態の人工皮革は、人工皮革の厚み方向断面における断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下であることを特徴とする。断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下であれば、繊維に付着するPU樹脂塊が均一に付着しているため、風合い(剛軟値)が向上する。つまり、人工皮革の厚み方向の断面におけるPU樹脂の繊維への付着状態を均一に微細化することで繊維周囲の微細なPU樹脂塊がクッションとなり、良好な防しわ性が得られる。またPU樹脂が繊維を過剰に把持する部分やPU樹脂塊が過度に偏在する部分が少ないので、良好な風合い(剛軟値)が得られ、風合い(剛軟値)のバラツキも小さくなる。断面PU樹脂面積率の標準偏差は、好ましくは22%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは16%以下である。断面PU樹脂面積率の標準偏差の下限は特に限定されず、0%以上であればよい。
【0022】
後述するように、例えば、単繊維が分散した繊維ウェブに、例えば、ポリビニルアルコール樹脂微粒子(以下、PVA樹脂微粒子ともいう。)などの熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸後、湿熱処理後乾燥時にマイクロ波を併用して該PU樹脂を繊維に固着させて、PU樹脂が充填された繊維ウェブを得ることにより、及び/又は海島型短繊維を熱水溶解性樹脂繊維と混用して用い、後工程、例えば、染色時に、熱水溶解性樹脂繊維及び熱水溶解性樹脂微粒子(例えば、PVA樹脂微粒子)を溶出させることにより、断面PU樹脂面積率の標準偏差25%以下に制御することができる。また、水蒸気温度100℃以上110℃以下、処理時間1分〜5分間の条件下での湿熱凝固、及びマイクロ波出力10kw、処理時間1分〜5分間の条件下でのマイクロ波処理を実施することで、PU樹脂が多孔化し、染色時に熱水溶解性樹脂繊維及び熱水溶解性樹脂微粒子(例えば、PVA樹脂微粒子)が溶出して、PU樹脂に隣接する熱水溶解性樹脂繊維及び熱水溶解性樹脂微粒子がなくなることでPU樹脂が多孔化、微細化し、かつ、繊維との点状接着化が進むので風合い(剛軟値)が良好となり、且つ防しわ性が向上する。
【0023】
また、例えば、海島型短繊維でウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートの交絡繊維を脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程後、得られた繊維ウェブに後述する水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維ウェブを得る工程を施すことで、単繊維の分散に伴い、繊維に付着するPU樹脂も分散する結果、断面PU樹脂面積率の標準偏差を25%以下に制御することができる。
【0024】
[繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)]
本実施形態では、人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上80%以下であることが好ましい。k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)は、単繊維の密集度合いを指標する。
測定方法は後述するが、k近傍法とは、任意の1つの単繊維断面に近いk個の単繊維断面を取り上げ、ユークリッド距離(すなわち、X方向とY方向の距離の二乗和の平方根(=最短距離))においてk番目に近い半径を決定境界とする手法であり、本実施形態においては、SEM画像を撮影し、任意の1つの単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在しているか否かを決定する。1つのSEM画像内の全ての単繊維断面について、該存在の有無を求め、単繊維断面k=9近傍距離割合値(%)を以下の式で求める:
単繊維断面(k=9)近傍距離割合値(%)={(単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在している単繊維断面の個数)/(1つのSEM画像内の単繊維断面の全数)}×100。
人工皮革の厚み方向断面における繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が10%以上であれば、単繊維が適度に分散している状態で存在し、その結果、繊維層(A)のPU樹脂塊も適度に分散して存在し、人工皮革を指先で触れるとかかる適度に分散した繊維に触れることになるため、起毛感が満足できるものとなる。他方、k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)が80%以下であれば、粗大なPU樹脂塊が過剰とならないため、表面においては、粗い触感とはならずり、また、断面においては大きなPU樹脂塊が繊維に付着しないため風合い(剛軟値)が悪化しない。k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)は、20%以上70%以下がより好ましく、30%以上60%以下がさらに好ましい。
【0025】
後述するように、海島短繊維で繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程の後に、得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程を施すことにより、k近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)を80%以下の範囲内に制御することができる。水流分散処理としては、ノズル孔間隔が1.00mm以下である複数のノズルを用いて高圧水を噴射させて実施することが好ましい。
図7に示すように、ノズル孔間隔とは、ノズル孔と該ノズル孔にノズル幅方向で最も隣接するノズル孔とのノズル幅方向の距離である(ノズル孔が2列以上の場合も、1列の場合と同様である)。ノズル孔間隔を1.00mm以下にすることによって、繊維シート上に緻密な間隔の水流を吐出することができ、単繊維束の状態である単繊維を分散することで緻密感やしっとり感を向上させ易い。また、繊維シート表面に水流分散処理による水流軌跡が目立ち難い。ノズル孔間隔は好ましくは0.60mm以下、さらに好ましくは0.30mm以下である。
【0026】
また、水流分散処理設備の幅方向に開孔されたノズル孔列の列数は1列でも2列以上の多列でもかまわない。水流分散処理を行う場合は、繊維シートの均一性や形態安定性保持の点から水流分散処理で繊維シートへ投入した水分を取り除くことが一般的であり、水流分散処理面の反対面からサクション法などによって脱水する。その場合、例えばノズル列数1列でノズル孔間隔を狭くする場合は投入水量に対して脱水能力が不足し、結果として繊維シートの均一性や形態安定性が悪化する場合がある。それに対し列数を多列とし、ノズル孔列1列あたりのノズル孔間隔を広くすることでノズル孔列1列あたりの投入水量を低下させることは投入水量と脱水能力のバランスが取り易いので好ましい態様である。例えば、ノズル孔間隔0.30mmの1列ノズルにおいて脱水不良が発生した場合、1列のノズル孔間隔が0.60mmの2列ノズルとし、2列目を1列目に対して位相差0.30mmでノズル孔間隔0.60mmのノズル列を配置すれば水流軌跡(ノズル孔間隔)は0.30mmになり、脱水不良を改善する効果が得られる。また、ノズル孔間隔を広くし、多列にすることはノズル工作(開孔加工)が容易になることからも好ましい。ノズル孔間隔(水流軌跡)は単繊維を均一に分散させ易く、水流軌跡が目立ち難く表面品位が良好となることから等間隔が好ましい。
ノズル列数が多列の場合のノズル列間距離は、脱水性の点から例えばノズル1列内のノズル孔間隔相当の距離にすることが好ましい。
【0027】
水流分散処理における高圧水噴射ノズルの孔径は、高い単繊維分散化が得られ易く、且つ水流軌跡が目立ち難く、さらには投入水量が過多とならず脱水能力とのバランスが取り易い点から0.05mm以上0.30mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上0.20mm以下、さらに好ましくは0.08mm以上0.13mm以下である。
また、水流分散処理の水圧は1.0〜10.0MPaで噴射させることが好ましい。水流分散処理の水圧を1.0Mpa以上にすることにより、単繊維束を過度に分散させることがないので、k近傍距離割合値を10%以上80%以下にコントロールさせ易い。また、単繊維束の状態である単繊維を分散させ易く、水流分散処理の水圧を10.0Mpa以下にすることにより、単繊維束の状態である単繊維を分散させ、且つ水流軌跡が目立ち難くなり易い。水流分散処理の水圧が高い場合は水流が繊維シートを貫通することがあり、単繊維束を分散させるエネルギーとして使われず、返って低水圧で処理する場合よりも単繊維束の分散化効果が低下する場合がある。また、水流分散処理の水圧が高い場合は繊維シートが高密度化し、風合い(剛軟値)が悪化する傾向がある。水流分散処理の水圧は、より好ましくは1.5〜7.0MPa、さらに好ましくは2.0〜4.5MPaである。
【0028】
ノズル孔より吐出される水流の形状としては、水流の擾乱が10%以上である水流を吐出する複数のノズルを用いて実施することも好ましい。擾乱とは、水流の直径の変動の指標である。水流のエネルギーを効率よく繊維の分散に変換できるため、擾乱は12%以上が好ましく、さらに好ましくは15%以上である。擾乱は、ノズル孔の吐出口より28mmから35mmまでの範囲における水流の平均径をW、該平均径の標準偏差をσとして、以下の式:
擾乱(%)=σ(mm)/W(mm)×100
により算出する。
擾乱による単繊維束の分散化メカニズムは明確になっていないが、本願発明者らは、擾乱が小さい場合に対して大きい場合には、水流エネルギーが繊維シートの垂直方向に加え水平方向へ向かった多方向へも分散され易くなることで、水流エネルギーを効率よく単繊維束の分散化エネルギーに変換できるため分散化効果が高くなると考えている。一例として、高水圧では繊維シートを貫通して無駄になる水流エネルギーを分散化エネルギーとして取り込み易いと考えている。
【0029】
また、高圧水噴射ノズルを円運動させること、あるいは工程進行方向(機械方向)に対して直角に往復運動させることなども、単繊維分散化を促進するので、繊維とPU樹脂との接着が点状となるため、防しわ性や風合い(剛軟値)が向上する上で好ましい。
高圧水噴射面から被処理物までの距離は、単繊維束の分散化効果に加え、水流分散処理前の導布、及び水流分散処理時の工程通過性の点から、好ましくは5mm以上100mm以下であり、より好ましくは10mm以上60mm以下、さらに好ましくは20mm以上40mm以下である。
【0030】
[繊維シートに対するPU樹脂の付着率]
本実施形態の人工皮革においては、繊維シートに対するPU樹脂の付着率は、15質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは22質量%以上45質量%以下、更に好ましくは26質量%以上40質量%以下である。繊維シートに対するPU樹脂の比率は、前記した断面PU樹脂面積率に影響する。PU樹脂の比率が低い場合は、断面PU樹脂面積率が低い傾向がある。他方、PU樹脂の比率が高い場合は、断面PU樹脂面積率が高い傾向がある。繊維シートに対するPU樹脂の比率が15質量%以上であれば、PU樹脂によって繊維同士が良好に把持されるとともにPU樹脂により人工皮革のクッション性が高まることにより、市場ニーズを満足する耐摩耗性等の機械強度や防しわ性が得られ易い。他方、繊維シートに対するPU樹脂の比率が50質量%以下であれば、柔軟な風合いが得られ易い。
【0031】
[ポリウレタン(PU)樹脂]
PU樹脂としては、ポリマージオールと有機ジイソシアネートと鎖伸長剤との反応により得られるものが好ましい。
ポリマージオールとしては、例えば、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系、シリコーン系、フッ素系等のジオールを採用することができ、これらの2種以上を組み合わせた共重合体を用いてもよい。耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系若しくはポリエーテル系又はこれらの組み合わせのジオールが好ましく用いられる。また、耐光性及び耐熱性の観点からは、ポリカーボネート系、ポリエステル系、又はこれらの組み合わせのジオールが好ましく用いられる。さらに、コスト競争力の観点からは、ポリエーテル系、ポリエステル系、又はこれらの組み合わせのジオールが好ましく用いられる。
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルとのエステル交換反応、ホスゲン又はクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応等によって製造することができる。
【0032】
アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の直鎖アルキレングリコール;ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の分岐アルキレングリコール;1,4−シクロヘキサンジオール等の脂環族ジオール;ビスフェノールA等の芳香族ジオール;等が挙げられ、これらを1種又は2種以上の組み合わせで使用できる。
ポリエステル系ジオールとしては、各種低分子量ポリオールと多塩基酸とを縮合させて得られるポリエステルジオールを挙げることができる。
低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールから選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。また、ビスフェノールAに各種アルキレンオキサイドを付加させた付加物も使用可能である。
また、多塩基酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びヘキサヒドロイソフタル酸からなる群から選ばれる一種又は二種以上が挙げられる。
【0033】
ポリエーテル系ジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、又はそれらを組み合わせた共重合ジオールを挙げることができる。
ポリマージオールの数平均分子量は、500〜4000であることが好ましい。数平均分子量を500以上、より好ましくは1500以上とすることにより、風合いが硬くなることを防ぐことができる。また、数平均分子量を4000以下、より好ましくは3000以下とすることにより、PU樹脂の強度を良好に維持することができる。
有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート;ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート;が挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネートが好ましく用いられる。
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン及びメチレンビスアニリン等のアミン系の鎖伸長剤、又はエチレングリコール等のジオール系の鎖伸長剤を用いることができる。また、ポリイソシアネートと水とを反応させて得られるポリアミンを鎖伸長剤として用いることもできる。
【0034】
また、PU樹脂は、PU樹脂をN,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒で溶解した溶剤型PU樹脂、PU樹脂を乳化剤で乳化させて水中へ分散させた水分散型PU樹脂等の形態で使用できる。中でも、PU樹脂を微細な形態で繊維シートに充填し易く、少量の付着でも風合い及び機械物性等の人工皮革としての要求性能が得られ易く、且つ、有機溶媒を使用する必要がなく環境負荷を低減できる点から、水分散型PU樹脂が好ましい。すなわち、水分散型PU樹脂は、PU樹脂が所望の粒子径で分散した分散液(以下、PU樹脂分散液ともいう)の形態で繊維シートに含浸させることができるため、当該粒子径の制御によってPU樹脂の繊維シート中での充填形態を良好に制御できる。
水分散型PU樹脂としては、PU分子内に親水基を含有する自己乳化型PU樹脂、外部乳化剤でPU樹脂を乳化させた強制乳化型PU樹脂等を使用することができる。
水分散型PU樹脂には、耐湿熱性、耐摩耗性、耐加水分解性等の耐久性を向上させる目的で架橋剤を併用することができる。液流染色加工時の耐久性を向上させ、繊維の脱落を抑制し、優れた表面品位を得るために、架橋剤を添加することが好ましい。架橋剤は、PU樹脂に対し、添加成分として添加する外部架橋剤でもよく、また、PU樹脂構造内に予め架橋構造を採ることができる反応基を導入する内部架橋剤でもよい。
人工皮革に使用される水分散型PU樹脂は、一般的には染色加工耐性を具備させるために架橋構造を有しているため、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶剤に溶け難い傾向にある。そのため、例えば、人工皮革をN,N−ジメチルホルムアミドに室温で12時間浸漬させて、PU樹脂の溶解処理を行った後、電子顕微鏡等で断面を観察した際に、繊維形状を有しない樹脂状物が残存していれば、該樹脂状物は水分散型PU樹脂であると判断できる。
【0035】
好ましい態様においては、断面PU樹脂面積率とその標準偏差を容易にコントロールする観点から、PU樹脂分散液を用いてPU樹脂の充填を行い、かつその際に該分散液中のPU樹脂の平均一次粒子径を0.1μm以上0.8μm以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.6μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上0.5μm以下である。尚、平均一次粒子径は、PU樹脂分散液のレーザー型回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−920」)による測定で得られる値である。PU樹脂の平均一次粒子径を0.1μm以上とすることで、繊維シート中の繊維同士をPU樹脂によって把持する力(すなわち、バインダー力)を良好にすることによって優れた機械強度を有する人工皮革が得られる。また、PU樹脂の平均一次粒子径を0.8μm以下とすることで、PU樹脂が凝集又は粗大化することを抑制し、断面PU樹脂面積率の標準偏差を25%以下に容易に制御できる。PU樹脂分散液中のPU樹脂の平均一次粒子径を0.1μm以上0.8μm以下とすることで、人工皮革(特にその表層)を構成する繊維同士が把持される点が多くなり、柔軟な風合い(剛軟値)と優れた防しわ性を両立することが可能である。
【0036】
[PU樹脂分散液の固形分濃度]
後述するように、典型的な態様において、PU樹脂は、溶液(例えば、溶剤溶解型の場合)、分散液(例えば、水分散型の場合)等の含浸液の形態で含浸される。例えば、水分散型PU樹脂分散液の固形分濃度は、10重量%以上35重量%以下であることができ、より好ましくは15〜30質量%、さらに好ましくは15〜25質量%である。一態様において、繊維シート100質量%に対するPU樹脂の比率が15〜50質量%となるように含浸液の調製及び繊維シートへの含浸を行う。
【0037】
PU樹脂(例えば、水分散型PU樹脂)を含む含浸液には、必要に応じて安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤等)、難燃剤、帯電防止剤、顔料(カーボンブラック等)等の添加剤を添加してよい。人工皮革中に存在するこれら添加剤の総量は、PU樹脂100質量部に対して、例えば、0.1〜10.0質量部、又は0.2〜8.0質量部、又は0.3〜6.0質量部であってよい。尚、このような添加剤は、人工皮革のPU樹脂中に分布することになる。本開示において、PU樹脂のサイズ及び繊維シートに対する質量比率について言及するときの値は添加剤(用いる場合)も含んでの値を意図する。
【0038】
[熱水溶解性樹脂微粒子]
PU樹脂を含む含浸液を繊維シートに含浸させることによって繊維シートにPU樹脂を充填する場合、繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、さらにその後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程を施すことが好ましい態様である。後工程、又は染色工程において、得られた繊維シートから熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子を除去することで、PU樹脂の連続層の一部を分断、多孔化し、PU樹脂の付着状態を微細化する効果が得られる。
熱水溶解性樹脂微粒子としては、部分ケン化型PVA樹脂微粒子、完全ケン化型PVA樹脂微粒子等が挙げられる。完全ケン化型PVA樹脂微粒子は部分ケン化型PVA樹脂微粒子と比べて常温(20℃)の水に溶出し難い傾向があるため、熱水溶解性樹脂微粒子として完全ケン化型PVA樹脂微粒子を用いることが好ましい。常温(20℃)の水に溶出し難いという観点から、完全ケン化型PVA樹脂微粒子のケン化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。繊維を接着し把持する力とPU樹脂の付着状態の微細化を両立するため、熱水溶解性樹脂微粒子の平均粒子径(サイズ)は1μm以上8μm以下が好ましく、2μm以上6μm以下がより好ましく、2μm以上4μm以下がさらに好ましい。前記平均粒子径を1μm以上とすることで、熱水溶解性樹脂微粒子が凝集し難く、前記平均粒子径を8μm以下とすることで、熱水溶解性樹脂微粒子が繊維シートへ良好に含浸しやすい。前記微粒子として三菱ケミカル株式会社製「NL−05」を用いることができ、前記微粒子の微細化は特開平7−82384号公報に記載の方法等により達成できる。
前記水分散型PU樹脂分散液中の熱水溶解性樹脂微粒子の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは2重量%以上15重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以上10重量%以下である。水分散型PU樹脂分散液中に熱水溶解性樹脂微粒子が1質量%以上含まれることにより、PU樹脂塊の分散化が促進されやすい。他方、水分散型PU樹脂分散液中に熱水溶解性樹脂微粒子が20重量%以下含まれることにより、該微粒子が凝集せず該分散液の安定性が保持され易い。
尚、本明細書中、「熱水溶解性樹脂」とは、常温水に難溶解性である。
【0039】
[熱水溶解性樹脂]
繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、該PU樹脂を加熱により固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る場合、繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸する前に、繊維シートに熱水溶解性樹脂を付着させる工程を施すこともできる。熱水溶解性樹脂(例えば、PVA樹脂)の付着方法としては、熱水溶解性樹脂水溶液を調製し、該水溶液を繊維シートへ含浸後、乾燥するなどの方法で付着させることができる。後工程、又は染色工程において、得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子とともに該熱水溶解性樹脂を除去することで、繊維とPU樹脂との接着の阻害や、PU樹脂の連続層の一部を分断し、PU樹脂の付着状態を微細化する効果が得られるので、人工皮革の風合いが向上し易い。熱水溶解性樹脂としては、部分ケン化型PVA樹脂、完全ケン化型PVA樹脂等が挙げられる。完全ケン化型PVA樹脂は部分ケン化型PVA樹脂と比べて常温(20℃)の水に溶出し難い傾向があるため、熱水溶解性樹脂として完全ケン化型PVA樹脂を用いることが好ましい。常温(20℃)の水に溶出し難いという観点から、完全ケン化型PVA樹脂のケン化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましい。また、含浸時の熱水溶解性樹脂水溶液の浸透性を高めるため、重合度は1000以下であることが好ましく、700以下であることがより好ましい。
【0040】
[繊維シート]
図1に示すように、繊維シート1は、少なくとも繊維層(A)12を含み、スクリム11と繊維層(B)13は任意であり必須要素ではない。したがって、本実施形態の人工皮革は、繊維層(A)の単層の場合、繊維層(A)とスクリム又は繊維層(B)との2層の場合、繊維層(A)とスクリムと繊維層(B)の3層の場合がある。
スクリム11及び/又は繊維層(B)13を含まない場合、繊維層(A)は、後述するように、PU樹脂が充填された単層の繊維シートを半裁したものであってもよい。一態様では、繊維シートは、スクリムを含まない単層構造である。半裁することにより生産性が高まるからである。
他の態様においては、繊維シートは、3層構造であり、且つ、スクリムが中間層である。例えば、人工皮革の第1の外表面を構成する繊維層(A)12と、人工皮革の第2の外表面を構成する繊維層(B)13との間に、織編物であるスクリム11をサンドイッチ状に挟み込み、繊維をこれらの層間で交絡させてなる3層構造は、寸法安定性、引張強度、引裂強度等においては好ましいものとなる。また、繊維層(A)と、繊維層(B)と、これらに挟まれたスクリムとの3層構造によれば、繊維層(A)と繊維層(B)とをそれぞれ個別に設計できるので、これらの層を構成する繊維の直径、種類等を、人工皮革に要求される機能及び用途に合わせて自由にカスタマイズできる点では好ましい。例えば、繊維層(A)に極細繊維を、繊維層(B)に難燃繊維をそれぞれ使用すれば、優れた表面品位と高い難燃性とを両立できる。
【0041】
繊維シートがスクリムを含む場合、織編物であるスクリムは、染色による同色性の点から、繊維層(A)を構成する繊維と同じポリマー系であることが好ましい。例えば、繊維層(A)を構成する繊維がポリエステル系であれば、スクリムを構成する繊維もポリエステル系であることが好ましく、繊維層(A)を構成する繊維がポリアミド系であれば、スクリムを構成する繊維もポリアミド系であることが好ましい。編物の場合のスクリムは、22ゲージ以上28ゲージ以下で編み上げたシングルニットが好ましい。スクリムが織物の場合、編物よりも高い寸法安定性及び強度が実現できる。織物の組織は、平織、綾織、朱子織等であってよいが、コスト面、及び交絡性等の工程面から、平織が好ましい。
織物を構成する糸条は、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。糸条の単繊維繊度は、柔軟な人工皮革が得られ易い点で5.5dtex以下が好ましい。織物を構成する糸条の形態としては、ポリエステル、ポリアミド等のマルチフィラメントの生糸、又は仮撚り加工を施した加工糸等に撚数0〜3000T/mで撚りを施したものが好ましい。該マルチフィラメントは通常のものでよく、例えば、ポリエステル、ポリアミド等の33dtex/6f、55dtex/24f、83dtex/36f、83dtex/72f、110dtex/36f、110dtex/48f、167dtex/36f、166dtex/48f等が好ましく用いられる。織物を構成する糸条は、マルチフィラメントの長繊維であってよい。織物における糸条の織密度は、柔軟で且つ機械強度に優れる人工皮革を得る点で、30〜150本/インチが好ましく、更に好ましくは40〜100本/インチである。良好な機械強度と適度な風合いとを具備するためには、織物の目付は20〜150g/m
2が好ましい。尚、織物における仮撚り加工の有無、撚数、マルチフィラメントの単繊維繊度、織密度等は、繊維層(A)及び任意の層である繊維層(B)を構成する繊維との交絡性、人工皮革の風合いに加え、縫目強力、引裂強力、引張強伸度、伸縮性等の機械物性にも寄与するため、目標とする物性及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
耐摩耗性、染色性、及び表面品位を更に高いレベルで兼ね備えた人工皮革を得る観点から、本実施形態の人工皮革では、繊維層(A)が平均直径1μm以上8μm以下の繊維から構成されていることが好ましく、より好ましくは2μm以上6μm以下、更に好ましくは2μm以上5μm以下である。繊維の平均直径が1μm以上であれば、耐摩耗性、染色による発色性、及び耐光堅牢度が良好になる。他方、繊維の平均直径が8μm以下であれば、繊維の本数密度が大きいため、緻密感が高く、表面の触感が滑らかで、表面品位がより良好な人工皮革が得られ易い。
【0043】
人工皮革を構成する繊維層(繊維層(A)、並びに任意の層としての繊維層(B)及び追加の層)を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のボリアミド系繊維;等の合成繊維が好適である。その中でも、カーシート分野等の、耐久性が要求される用途を考慮すると、直射日光に長時間曝露しても繊維自身が黄変等せず、染色堅牢度に優れる点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。また、環境負荷を低減するという観点から、人工皮革を構成する繊維層を構成する繊維としては、ケミカルリサイクル若しくはマテリアルリサイクルされたポリエチレンテレフタレート、又は植物由来原料を使ったポリエチレンテレフタレート等が更に好ましい。
【0044】
本明細書中、繊維が「単繊維分散している」とは、繊維が、例えば、下記の海島型複合繊維中の島成分のような繊維束を形成していないことを意味する。例えば、海島型複合繊維(例えば、共重合ポリエステルを海成分、レギュラーポリエステルを島成分に用いたもの)等の極細繊維発生型繊維を使用し、スクリムとの三次元交絡体とした後で細繊化処理(海島型複合繊維の海成分を溶解、分解等によって除去)することによって得られる繊維は、繊維層(A)中では繊維束として存在することになり、単繊維分散していない。一例として、島成分が単繊維繊度0.2dtex相当で24島/1fである海島型複合短繊維を作製し、該海島型複合短繊維で繊維層(A)を形成した後、ニードルパンチ処理等でスクリムとの三次元交絡体を形成し、該三次元交絡体にPU樹脂を充填した後、海成分を溶解又は分解することで、単繊維繊度が0.2dtex相当の極細繊維が得られる。この場合、単繊維が24本収束した繊維束の状態(収束状態では4.8dtex相当)で繊維層(A)に存在することになる。
【0045】
繊維層(A)が、単繊維分散している繊維から構成されている場合、表面平滑性に優れ、例えば、繊維層(A)の外表面をバフィング加工等によって起毛させる際に均質な起毛が得られ易く、且つ、PU樹脂の付着率が比較的少ない場合でも、摩擦によってピリングと呼ばれる毛玉状の外観が生じ難いため、より優れた表面品位と耐摩耗性とを有する人工皮革が得られる。また、繊維が単繊維分散している場合、繊維間隔が狭く均一になり易いため、PU樹脂が微細な形態で付着していても、良好な耐摩耗性が得られる。繊維を単繊維分散させる方法としては、直接紡糸法により製造された繊維を抄造法により繊維シート化する方法、海島型複合繊維で作製された繊維シートの海成分を溶解又は分解して極細繊維束を発生させた後に、極細繊維束面に前述の水流分散処理を施すことで、極細繊維束の単繊維化を促進する方法等が挙げられる。
【0046】
人工皮革を構成する繊維層のうち繊維層(A)以外の繊維層においては、繊維が単繊維分散していてもしていなくてもよいが、好ましい態様においては、繊維層(A)以外の層も単繊維分散している繊維で構成されている。繊維層(A)以外の層を構成する繊維が単繊維分散していることにより、人工皮革の厚みが均質となり加工精度が向上し、品質を安定化させるという観点から、また、人工皮革の表裏の外観が同質化する観点から好ましい。
【0047】
人工皮革が繊維層(A)のみで構成される場合、繊維層(A)を構成する繊維の目付は、耐摩耗性等の機械強度の観点から、好ましくは40g/m
2以上500g/m
2以下、より好ましくは50g/m
2以上370g/m
2以下、更に好ましくは60g/m
2以上320g/m
2以下である。
人工皮革が繊維層(A)、スクリム、及び繊維層(B)3層構造で構成される場合、繊維層(A)を構成する繊維の目付は、耐摩耗性等の機械強度の観点から、好ましくは10g/m
2以上200g/m
2以下、より好ましくは30g/m
2以上170g/m
2以下、更に好ましくは60g/m
2以上170g/m
2以下である。また、繊維層(B)を構成する繊維の目付は、コスト及び製造のしやすさの観点から、好ましくは10g/m
2以上200g/m
2以下、より好ましくは20g/m
2以上170g/m
2以下とすることができる。スクリムの目付は、機械強度、及び繊維層とスクリムとの交絡性の観点から、好ましくは20g/m
2以上150g/m
2以下、より好ましくは20g/m
2以上130g/m
2以下、更に好ましくは30g/m
2以上110g/m
2以下である。
PU樹脂が充填された人工皮革の目付は、好ましくは50g/m
2以上550g/m
2以下、より好ましくは60g/m
2以上400g/m
2以下、更に好ましくは70g/m
2以上350g/m
2以下である。
【0048】
一態様において、人工皮革の風合い(剛軟値)は、28cm以下であることが好ましく、より好ましくは6cm以上26cm以下、更に好ましくは8cm以上22cm以下である。剛軟値とは、人工皮革の風合いを示す指標である。剛軟値を28cm以下とすることで、インテリア、自動車、航空機、鉄道車両等のシートの表皮材又は内装材の成形性が向上し、且つ、消費性能も良好となり、風合いに関して市場から求められるニーズを満足させ易い。
【0049】
一態様において、人工皮革のJIS L 1059−1:2009「繊維製品の防しわ性試験方法−第1部:水平折りたたみじわの回復性の測定(モンサント法)」に従う防しわ性(防しわ率)は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。防しわ性(防しわ率)とは、人工皮革の折りじわの回復性を示す指標である。例えば、自動車、航空機、鉄道車両等のシートの表皮材に人工皮革を用いた場合、長時間シートに座った状態でいることにより、背もたれ部分に細かい折りじわが形成されるが、防しわ性(防しわ率)を60%以上とすることで、折りじわが回復しやすく、長時間のシート使用時にも表面品位が維持し易い。
【0050】
一態様において、後述する評価方法に従う、人工皮革の起毛感は、3級以上であることが好ましい。起毛感が3級以上であると人工皮革の表面品位が満足できるものとなる。
【0051】
<人工皮革の製造方法>
以下、本実施形態の人工皮革の製造方法一例を説明する。
本実施形態の人工皮革の製造方法一例は、以下の工程:
必要により熱水溶解性樹脂繊維を海島型短繊維と混用して、繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程;及び
得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程;
を含むことができ、以下の工程:
前記単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、必要により該PU樹脂を湿熱とマイクロ波を併用して固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程;及び
得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子及び/又は該熱水溶解性樹脂繊維を除去する工程;をさらに含むものである。
前記湿熱とマイクロ波を併用した繊維へのPU樹脂の固着を、水蒸気温度100℃以上110℃以下、マイクロ波出力10kw、処理時間1分〜5分間の条件下で実施することが好ましい。
【0052】
以下、順番に各工程を説明する。
[必要により熱水溶解性樹脂繊維を海島短繊維と混用して、繊維ウェブを形成し、その後ニードルパンチ処理して得た繊維シートを脱海処理して、島成分の単繊維が露出した繊維シートを得る工程]
人工皮革の繊維シートを構成する各繊維層(繊維層(A)、任意の繊維層(B)等)の製造方法としては、紡糸直結型の方法(例えば、スパンボンド法及びメルトブローン法)、又は、短繊維を用いて繊維シートを形成する方法(例えば、カーディング法、エアレイド法等の乾式法、及び、抄造法等の湿式法)が挙げられ、いずれも好適に用いることができるが、本実施形態では、必要により熱水溶解性樹脂繊維と海島(SIF)短繊維を原料として使用する。繊維シート形成後、該繊維ウェブを後述する水流分散処理を施し、得られる繊維シートにPU樹脂を充填させたシート状物の熱水溶解性樹脂繊維を除去することにより、熱水溶解性樹脂繊維を取り巻くPU樹脂が多孔構造となり、柔軟なシート状物が得られる。人工皮革が繊維層(A)のみで構成される場合、機械物性と風合い(柔軟性)の観点から、熱水溶解性樹脂繊維は全繊維質量に対して5〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。
繊維層が2層以上の場合、繊維層(A)の場合と同様の混率でも構わない。また、2層以上の場合、より柔らかい人工皮革を得るためには繊維層(A)と同様に繊維層(B)にも熱水溶解性樹脂繊維を混用することが好ましい。短繊維を用いて製造される繊維シートは、目付斑が小さく均一性に優れ、且つ、均一な起毛が得られ易いため、人工皮革の表面品位を向上させる点で好適である。
【0053】
繊維シートの極細繊維を形成する手段は、極細繊維発現型繊維を用いることができる。極細繊維発現型繊維を用いることにより、極細繊維束が絡合した形態を安定して得ることができる。
極細繊維発現型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分を、溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面に放射状又は多層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維などを採用することができる。なかでも、海島型繊維は、海成分を除去することによって島成分間、すなわち極細繊維間に適度な空隙を付与することができるので、シート状物の柔軟性や風合いの観点からも好ましく用いられる。
海島型繊維には、海島型複合用口金を用い、海成分と島成分の2成分を相互配列して紡糸する海島型複合繊維や、海成分と島成分の2成分を混合して紡糸する海島型混合繊維などがある。均一な繊度の極細繊維が得られる点、また、充分な長さの極細繊維が得られシート状物の強度にも資する点からは、海島型複合繊維が好ましく用いられる。
海島型繊維の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルおよびポリ乳酸などを用いることができる。なかでも、環境配慮の観点から、有機溶剤を使用せずに分解可能なアルカリ分解性のナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合した共重合ポリエステルやポリ乳酸が好ましい。
海島型繊維を用いた場合の脱海処理は、繊維シートへのPU樹脂の付与前が好ましい。PU樹脂付与前に脱海処理を行えば、極細繊維に直接PU樹脂が密着する構造となって極細繊維を強く把持できることから、シート状物の耐摩耗性が良好となる。
【0054】
繊維ウェブの繊維又は繊維束を交絡させる方法としては、海島型繊維を所定の繊維長にカットしてステープルとし、カード及びクロスラパーを通じて繊維ウェブを形成し、ニードルパンチやスパンレース法と呼ばれる水流交絡処理により交絡させる方法を採用することができる。
ニードルパンチ法では、使用される針のバーブ本数は1〜9本が好ましい。バーブの本数を1本以上とすることにより、交絡効果が得られ、且つ、繊維の損傷を抑えることができる。バーブ数を9本以下とすることにより、繊維の損傷を小さくすることができ、また、人工皮革に残る針跡を減らすことができるので、製品の外観を向上させることができる。
繊維の交絡性及び製品外観への影響を考慮すると、バーブのトータルデプス(バーブの先端部からバーブ底部までの長さ)は0.05mm以上0.10mm以下であることが好ましい。バーブのトータルデプスが0.05mm以上であることで、繊維への良好な引掛かりが得られるため効率的な繊維交絡が可能となる。また、バーブのトータルデプスが0.10mm以下であることで、人工皮革に残る針跡が低減され、品位が向上する。バーブ部の強度と繊維交絡とのバランスを考慮すると、バーブのトータルデプスは、0.06mm以上0.08mm以下であることがより好ましい。
ニードルパンチ法により繊維を絡合させる場合は、パンチ密度の範囲を300本/cm
2以上6000本/cm
2以下とすることが好ましく、1000本/cm
2以上6000本/cm
2以下とすることがより好ましい。
ニードルパンチ処理により得られた繊維シートは、例えば、熱風乾燥機を用いて150℃の温度で2分間乾燥させることにより、脱海前の繊維シートとすることができる。
脱海処理は、溶剤中に海島型繊維を浸漬し、窄液することによって行うことができる。海成分を溶解する溶剤としては、海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合には水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。工程の環境配慮の観点からは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液での脱海処理が好ましい。
【0055】
短繊維(ステープル)を用いた方法を選択する場合の短繊維長は、乾式法(カーディング法、エアレイド法等)で、好ましくは13mm以上102mm以下、より好ましくは25mm以上76mm以下、更に好ましくは38mm以上76mm以下であり、湿式法(抄造法等)で、好ましくは1mm以上30mm以下、より好ましくは2mm以上25mm以下、更に好ましくは3mm以上20mm以下である。例えば、湿式法(抄造法等)に用いられる短繊維の、長さ(L)と直径(D)との比であるアスペクト比(L/D)は、好ましくは500以上2000以下、より好ましくは700〜1500である。このようなアスペクト比は、短繊維を水中に分散してスラリーを調製する際の該スラリー中での短繊維の分散性及び開繊性が良好であること、繊維層強度が良好であること、乾式法と較べて繊維長が短く且つ単繊維分散し易いため、摩擦によってピリングと呼ばれる毛玉状の外観になり難いこと、から好ましい。例えば、直径4μmの短繊維の繊維長は、好ましくは2mm以上8mm以下、より好ましくは3mm以上6mm以下である。
【0056】
[得られた繊維シートに水流分散処理を施し、単繊維が分散した繊維シートを得る工程]
得られた繊維シートに、前述の水流分散処理を施すことによって、単繊維が分散した繊維シートを得ることができる。前述の水流分散処理を、脱海工程の後に実施することにより、人工皮革の厚み方向断面における該繊維層(A)を構成する単繊維断面の間のk近傍距離割合値(k=9、半径r=20μm)を80%以下にコントロールすることが可能となる。
【0057】
[前記単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、必要により該PU樹脂を湿熱とマイクロ波を併用して固着させて、PU樹脂が充填されたシート状物を得る工程]
この工程では、繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させ、その後、必要により該PU樹脂を湿熱とマイクロ波を併用して固着させて、PU樹脂を充填する。典型的な態様において、PU樹脂は、分散液(例えば、水分散型の場合)等の含浸液の形態で含浸される。含浸液中のPU樹脂の濃度は、例えば、10〜35質量%であることができる。一態様において、繊維シート100質量%に対するPU樹脂の比率が15〜50質量%となるように含浸液の調製及び繊維シートへの含浸を行う。
【0058】
水分散型PU樹脂は、界面活性剤を用いて強制的に分散・安定化させる強制乳化型PU樹脂と、PU分子構造中に親水性構造を有し、界面活性剤が存在しなくても水中に分散・安定化する自己乳化型PU樹脂に分類される。本実施形態ではいずれを用いてもよいが、後述する感熱凝固性を付与する観点から、強制乳化型PU樹脂を用いることが好ましい。
本実施形態では、繊維シートに熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸するが、水分散型PU樹脂分散液に熱水溶解性樹脂微粒子が溶解することは好ましくない。他方、熱水溶解性樹脂微粒子は、水よりも界面活性剤が溶解している水溶液の方が溶解しにくい性質を示すことから、界面活性剤を含む強制乳化型PU樹脂分散液の方が界面活性剤を含まない自己乳化型PU樹脂分散液より好ましい態様である。水分散型PU樹脂の濃度(水分散型PU樹脂分散液に対するPU樹脂の含有量)は、水分散型PU樹脂の付着量を制御する点、そして、高濃度であるとPU樹脂の凝集が促進され、前記含浸液の安定性が低下する点から、10〜35質量%が好ましく、より好ましくは15〜30質量%、さらに好ましくは15〜25質量%である。である。
また、水分散型PU樹脂分散液としては、感熱凝固性を有するものが好ましい。感熱凝固性を有する水分散型PU樹脂分散液を用いることにより、繊維シートの厚み方向に均一にPU樹脂を付与することができる。感熱凝固性とは、PU樹脂分散液を加熱した際に、ある温度(感熱凝固温度)に達するとPU樹脂分散液の流動性が減少し、凝固する性質のことを言う。PU樹脂が充填されたシート状物の製造においてはPU樹脂分散液を繊維シートに含浸後、それを乾熱凝固、湿熱凝固、熱水凝固、あるいはこれらの組み合わせにより凝固させ、乾燥することにより繊維シートにPU樹脂を付与する。感熱凝固性を示さない水分散型PU樹脂分散液を凝固させる方法としては乾式凝固が工業的な生産において現実的であるが、その場合、シート状物の表層にPU樹脂が集中するマイグレーション現象が発生し、PU樹脂が充填されたシート状物の風合いは硬化する傾向にある。
水分散型PU樹脂分散液の感熱凝固温度は、40〜90℃であることが好ましい。感熱凝固温度を40℃以上とすることにより、PU樹脂分散液の貯蔵時の安定性が良好となり、操業時のマシンへのPU樹脂の付着等を抑制することができる。また、感熱凝固温度を90℃以下とすることにより、繊維シート中でのPU樹脂のマイグレーション現象を抑制することができる。
感熱凝固温度を前記のとおりとするために、適宜、感熱凝固剤を添加してもよい。感熱凝固剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機塩や過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等のラジカル反応開始剤が挙げられる。
【0059】
水分散型PU樹脂分散液を、繊維シートに含浸、塗布等し、乾熱凝固、湿熱凝固、熱水凝固、あるいはこれらの組み合わせによりPU樹脂を凝固させることができる。湿熱凝固の温度は、PU樹脂の感熱凝固温度以上とし、40〜200℃であることが好ましい。湿熱凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、PU樹脂の凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。他方、湿熱凝固の温度を200℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、PU樹脂やPVA樹脂の熱劣化を防ぐことができる。
【0060】
また、湿熱凝固とマイクロ波を併用する場合、湿熱処理時の水蒸気温度を100℃以上110℃以下とし、処理時間を1分〜5分間、かつ、マイクロ波処理時のマイクロ波出力を10kw、処理時間を1分〜5分間とすることで、PU樹脂の多孔化を促進することができる。熱水凝固の温度は、PU樹脂の感熱凝固温度以上とし、40〜100℃とすることが好ましい。熱水中での熱水凝固の温度を40℃以上、より好ましくは80℃以上とすることにより、PU樹脂の凝固までの時間を短くしてマイグレーション現象をより抑制することができる。乾式凝固温度、及び乾燥温度は、80〜180℃であることが好ましい。乾式凝固温度、及び乾燥温度を80℃以上、より好ましくは90℃以上とすることにより、生産性に優れる。他方、乾式凝固温度、及び乾燥温度を180℃以下、より好ましくは160℃以下とすることにより、PU樹脂やPVA樹脂の熱劣化を防ぐことができる。
【0061】
前記したように、該単繊維が分散した繊維シートに、熱水溶解性樹脂微粒子を含む水分散型PU樹脂分散液を含浸させる場合には、前記水分散型PU樹脂分散液中の熱水溶解性樹脂微粒子の含有量は、1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、好ましくは2重量%以上15重量%以下、さらに好ましくは3重量%以上10重量%以下である。水分散型PU樹脂分散液中に熱水溶解性樹脂微粒子が含まれることにより、PU樹脂塊のさらなる分散化が促進される。
【0062】
[得られたシート状物から熱水を用いて該熱水溶解性樹脂微粒子及び/又は熱水溶解性樹脂繊維を除去する工程]
熱水溶解性樹脂をシート状物から除去する手段としては、例えば、60℃以上、好ましくは80℃以上の熱水に浸漬させる方法、液流染色機内で染色加工を行う前に80℃以上の熱水を循環させながら熱水溶解性樹脂微粒子及び/又は熱水溶解性樹脂繊維を除去する方法等が挙げられる。特に、液流染色機内で熱水溶解性樹脂微粒子及び/又は熱水溶解性樹脂繊維を除去する方法が、熱水溶解性樹脂微粒子を除去した後のシート状物の乾燥及び巻き取りという工程を省略でき、生産効率を高くできる点で好ましい。本実施形態では、PU樹脂付与後のシート状物から、熱水溶解性樹脂微粒子を除去することにより、柔軟なシート状物を得る。熱水溶解性樹脂微粒子及び/又は熱水溶解性樹脂繊維を除去する方法は特に限定しないが、例えば、60〜100℃の熱水にシートを浸漬し、必要に応じてマングル等で搾液することにより、溶解除去することが好ましい態様である。
【0063】
[後工程]
繊維シートにPU樹脂を充填し、熱水溶解性樹脂微粒子及び/又は熱水溶解性樹脂繊維を除去した後、スクリムを含まない場合には、PU樹脂が充填されたシート状物をシート厚み方向に半裁することができる。これにより、生産効率を向上することができる。
また、後述する起毛処理の前に、PU樹脂が充填されたシート状物にシリコーン分散液などの滑剤を付与してもよい。また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくする上で好ましい態様である。
シート状物の表面に立毛を形成するために、起毛処理を行うことができる。起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。また、起毛処理の前に滑剤としてシリコーン等を付与することは、表面研削による起毛が容易に可能となり、表面品位が非常に良好となる。
人工皮革は、感性面の価値(すなわち視覚効果)を高める目的で、染色処理されていることが好ましい。染料は、繊維シートを構成する繊維の種類にあわせて選択すればよく、例えば、ポリエステル系繊維であれば分散染料を用いることができ、ポリアミド系繊維であれば酸性染料や含金染料を用いることができ、更にそれらの組み合わせを用いることができる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。染色方法としては、染色加工業者に良く知られた通常の方法を用いることができる。染色方法としては、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。染色温度は、繊維の種類にもよるが、80〜150℃であることが好ましい。染色温度を80℃以上、より好ましくは110℃以上とすることにより、繊維への染着を効率良く行わせることができる。他方、染色温度を150℃以下、より好ましくは130℃以下とすることにより、PU樹脂の劣化を防ぐことができる。
このようにして染色された人工皮革には、ソーピング、及び必要に応じて還元洗浄(すなわち化学的還元剤の存在下での洗浄)を実施し、余剰染料を除去することが好ましい。また、染色時に染色助剤を使用することも好ましい態様である。染色助剤を用いることにより、染色の均一性や再現性を向上させることができる。また、染色と同浴又は染色後に、シリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤、難燃剤、耐光剤、抗菌剤等を用いた仕上げ剤処理を施すことができる。
【0064】
本実施形態の人工皮革は、家具、椅子、壁材、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材、シャツ、ジャケット、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴、婦人靴等の靴のアッパー、トリム等、鞄、ベルト、財布等、それらの一部に使用した衣料用資材、ワイピングクロス、研磨布、CDカーテン等の工業用資材としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。実施例及び比較例に係る人工皮革サンプルについて、各物性、品位等を以下の手順、方法で評価した。
【0066】
(1)サンプルの採取箇所
図3にサンプルの採取箇所を示す。
まず、繊維層(A)又は該繊維層(A)を含む人工皮革の機械方向(MD)における略均等に10箇所(サンプリング領域1、2、…)を帯状(点線で示す)に切り出す。各サンプリング領域において、厚み(t)方向断面を作製する。作製した厚み(t)方向断面に、オスミウム原子を1nmコーティング加工することで導電処理する。この断面において、単繊維断面k近傍距離割合値(%)、断面PU樹脂面積率(%)を求めるために、MD方向に直交するCD方向において略均等に10箇所のSEM画像を撮影する。また、各サンプリング領域において、表面PU樹脂面積率(%)を求めるために、CD方向において略均等に10箇所の繊維層(A)の第1の外表面に、オスミウム原子を1nmコーティング加工することで導電処理し、その第1の外表面のSEM画像を撮影する。すなわち、単繊維断面k近傍距離割合値(%)、断面PU樹脂面積率(%)を求めるために用いる各画像は、それぞれ、100枚用意する。この場合、各値の平均値、及び標準偏差は、画像100枚分のものとする。
尚、人工皮革が起毛している場合、起毛方向がMD方向であると判断できる。人工皮革が起毛しておらず、MD方向が不明な場合には、任意の一方向とそれに直交する方向においてサンプルを切り出せばよい。
【0067】
(2)断面PU樹脂面積率(%)、及び標準偏差
・前処理
厚み方向断面におけるサンプルを1cm×0.5cm(ヨコ(x)×タテ(y))にカットした後、該サンプルの内部空間をエポキシ系樹脂(主剤:日新EM株式会社製「Quetol812」、固着剤:日新株式会社EM製「MNA」、加速剤:日新株式会社EM製「DMP−30」)で包埋した。得られた樹脂包埋サンプルをミクロトームで厚み方向と平行に切断し、平滑な切断面を得る。次いで、四酸化ルテニウムの飽和蒸気中に4時間静置し、サンプルに付着しているPU樹脂をルテニウムで電子染色する。次いで、オスミウム原子を1nmコーティング加工することで導電処理する。
・観察
サンプルがスクリムを有する場合、導電処理済みのサンプルの上記切断面における繊維層(A)の最深部(すなわち、最もスクリム側の部分)を観察領域とし、且つ、スクリムを構成する繊維を観察対象外として、走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立製作所製「SU8220」)で観察する。尚、サンプルがスクリムを有しない場合、導電処理済みのサンプルの上記切断面における人工皮革厚み方向の中央部を観察領域の中心点とし、前記SEMで観察する。観察条件は以下の通りである。
加速電圧:10kV
検出器 :YAG−BSE(円環状シンチレータ型反射電子)
撮像倍率:500倍
観察視野:約230μm×約173μm
・画像解析
得られたSEM反射電子像について、画像解析ソフト「ImageJ(バージョン:1.51j8)アメリカ国立衛生研究所)を用いて、以下の方法で画像を二値化し、PU樹脂の平均サイズを求める。
(i)SEM画像をフィルター処理する。処理条件は以下の通りである:
ハンドパスフィルター処理Filter large structures down to 40 pixels、Filter small structures up to 3 pixels、Suppress stipes None、Tolerance of direction 5%、Autoscale after filtering あり、Saturate image when autoscaling あり、加えてメディアンフィルター処理として、radius:4.0、1回のフィルター処理。
(ii)MaxEntropy法で二値化を実施し、二値化後のSEM画像内の黒色部分をPU樹脂とする。
(iii)得られた二値化像から、各区画に対するPU樹脂の面積割合を求める。
図6に示すように、得られた二値化像(1280×960pixel、画像下の帯を除くと1280×896pixel)を32×32pixelに区画分割し(この場合、1120分割)、ImageJのAnalyze Particle機能(条件:Size=0−infinity、Circularity=0.00−1.00)を用い、各区画内に分布するそれぞれのPU樹脂の面積の合計を、各区画の面積で除した値を、各区画の断面PU樹脂面積率(%)とする。対象画像のx、y軸のピクセル数を読み取り、区画サイズをピクセルサイズで指定し、x、y軸の分割数を求め、各分割領域内のPU樹脂面積%を計算する。
1枚のSEM画像から算出されるPU樹脂の面積割合は、1枚のSEM画像の全区画についてのPU樹脂の面積割合を平均したものであり、その標準偏差は、
図6に示す式により計算される。
尚、断面PU樹脂面積率(%)及び標準偏差は、1枚のSEM画像から算出したPU樹脂の面積割合および標準偏差の、100枚についての平均値である。すなわち、
図6に示すとおり、まずは1つのSEM画像について区画分割した全区画を対象として標準偏差を算出し、100枚のSEM画像それぞれから算出される標準偏差の平均を標準偏差とする。
【0068】
(3)単繊維断面k近傍距離割合値(%)
図5に示すように、k近傍法とは、任意の1つの単繊維断面に近いk個の単繊維断面を取り上げ、ユークリッド距離においてk番目に近い半径を決定境界とする手法である。
本実施形態においては、1つのSEM画像において、画像下の帯込みで640×480pixelで約250μm×約186μmの範囲を撮影し(この場合、1pixelは約0.40μm×約0.40μmに相当する)、任意の1つの単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在しているか否かを求める。1つのSEM画像内の全ての単繊維断面について、存在の有無を求め、単繊維断面k=9近傍距離割合値(%)を以下の式で求める:
単繊維断面(k=9)近傍距離割合値(%)={(単繊維断面の略中心から半径20μmの距離内にk=9番目に近い単繊維断面が存在している単繊維断面の個数)/(1つのSEM画像内の単繊維断面の全数)}×100。
尚、単繊維断面k=9近傍距離割合値(%)は、100枚のSEM画像から算出した各値の平均値である。また、サンプルがスクリムを有する場合、導電処理済みのサンプルの上記切断面における繊維層(A)の最深部(すなわち、最もスクリム側の部分)を観察領域とし、且つ、スクリムを構成する繊維を観察対象外として、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM−5610」)で観察する。サンプルがスクリムを有しない場合には、導電処理済みのサンプルの上記切断面における人工皮革厚み方向の中央部を観察領域の中心点とし、前記SEMで観察する。
SEM画像内の単繊維断面は、
図4に示すように、人によりマーキングを行うことで、その存在を同定することができる。具体的な手順は以下のとおりである:
[手順1]
SEM画像(グレー)において、繊維断面に赤色(R)の丸点を付けた後、繊維の断面の座標を算出する。
<詳細な方法>
(i)OpenCV (Python用のcv2モジュール)を用いて画像を読み込む。
(ii)RGBのRが220以上、かつ、G、Bが100以下のピクセルを抽出する。
(iii)ノイズ処理のため、検出された丸点の膨張処理(cv2.dilateをiteration=2で)と収縮処理(cv2.erodeをiteration=2で)を行う。
(iv)ノイズ処理された画像をcv2.connectedComponentsWithStatsで処理し、得られる4つの結果のうち3番目の結果である検出された丸点の重心座標を得る。
(v)上記の重心座標を繊維断面位置とする。
(vi)更に、座標上の特定位置間距離を算出する。繊維断面Aと繊維断面Bの座標を(Ax, Ay)、(Bx, By)としたとき、2つのユークリッド距離Rは、R=√((Ax-Bx)
2+(Ay-By)
2)で計算される。
[手順2]
全ての繊維断面について、k番目に近い繊維断面までのユークリッド距離(k近傍距離:行列距離)を算出する。
<詳細な方法>
(i)繊維断面Aと他の断面の座標の距離を計算する。
(ii)計算した距離を昇順に並べる。
(iii)並べた距離k番目をk近傍距離とする。
[手順3]
k近傍距離がR以下の断面の数を全繊維断面数で割り、そのSEM画像におけるk近傍距離割合値とする。
尚、SEM画像数が多数になる場合には、繊維断面に赤色(R)の丸点を付けた教師データ(正解ラベル)を含む画像を学習データとして用いて、すべてが畳み込み層から構成されるネットワークFCN(Fully Convolutional Networks)手法(Jonathan Long, Evan Shelhamer, and Trevor Darrel (2015): Fully Convolutional Networks for Semantic Segmentation. In The IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR)を用いたセマンティック・セグメンテーションによりピクセルレベルでクラス分類を行う機械学習(深層学習)により、人によるマーキングを代替して、繊維断面の位置を特定してもよい。
【0069】
(4)繊維層(A)を構成する単繊維の平均直径(μm)
繊維層(A)を構成する繊維の平均直径は、人工皮革を構成する繊維層(A)の厚み方向断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製「JSM−5610」)を用いて倍率1500倍でSEM画像を10枚撮影し、人工皮革の厚み方向断面をなす繊維をランダムに100本選び、単繊維の断面の直径を測定して、100本の測定値の算術平均値として求める。
単繊維の断面の観察形状が円形ではない場合は、単繊維断面の最長径の中点に直交する直線上の外周間距離を繊維径とする。
図2は、繊維直径の求め方を説明する概念図である。例えば、
図2のように繊維の断面Aが楕円形である場合、観察像における断面Aの最長径aの中点pに直交する直線b上の外周間距離cを繊維直径とする。
【0070】
(5)風合い(剛軟値)の算出
サンプルを20cm×20cmの正方形にカットし測定サンプルとした。測定サンプルを水平面上に置き、正方形の頂点をA、B、C、Dとして、対角線で対面する頂点Aと頂点Cとを重ね合わせた。頂点Aを水平面に置き、頂点Cを頂点Aに重ね合わせた。次いで、頂点Cを、測定サンプルに接触させた状態で対角線ACに沿って頂点Aから徐々に遠ざけてゆき、頂点Cが測定サンプル面から離れた点を点Eとし、点Eと頂点Cとの距離を剛軟値1とした。頂点Aを頂点Bに、頂点Cを頂点Dにそれぞれ置き換えて上記と同様の手順で剛軟値2を測定した。剛軟値1と剛軟値2との算術平均値をサンプルの風合い(剛軟値)とした。尚、人工皮革が単層の場合、10枚のサンプルについての平均値を風合い(剛軟値)とする。人工皮革が2層構造又は3層構造の場合、人工皮革を構成する繊維層(A)を上面にして測定した5枚のサンプルと、該繊維層(A)を下面にして測定した5枚のサンプルについての平均値を風合い(剛軟値)とする。
【0071】
(6)防しわ性(防しわ率)
JIS L 1059−1:2009「繊維製品の防しわ性試験方法−第1部:水平折りたたみじわの回復性の測定(モンサント法)」の記載に基づき、10Nの荷重装置を用い、人工皮革が単層の場合、10枚でのシワ回復角を測定して、10「しわ回復角及び防しわ率の計算」に記載の式で算出し、10枚の平均値を防しわ性(防しわ率)とする。人工皮革が2層構造又は3層構造の場合、人工皮革を構成する繊維層(A)を上面にして測定した5枚のサンプルと、該繊維層(A)を下面にして測定した5枚のサンプルについての平均値を防しわ性(防しわ率)とする。防しわ率は、60%以上を良好とした。
【0072】
(7)起毛感
サンプルについて、健康状態の良好な成人男性及び成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、目視及び官能評価によって下記の基準で7段階評価し、最も多かった評価を起毛感とした。起毛感は、3.0〜7.0級を良好(合格)とする。
7級:起毛感が非常に強く、外観は非常に良好である。
6級:7級と5級の間の評価である。
5級:起毛感が強く、外観は良好である。
4級:5級と3級の間の評価である。
3級:起毛感があり、外観は充分である。
2級:3級と1級の間の評価である。
1級:起毛感がなく、外観は粗悪である。
尚、10枚のサンプルについての平均値を起毛感の級とする。
【0073】
(8)繊維シートに対するPU樹脂の比率
繊維シートに対するPU樹脂の比率は下記の方法で測定した。
PU樹脂含浸前の繊維シートの質量をA(g)とする。繊維シートにPU樹脂分散液を含浸し、次いでピンテンター乾燥機を用いて130℃で加熱乾燥し、次いで90℃に加熱した熱水に浸漬した状態で柔布し、次いで乾燥して、PU樹脂が充填された繊維シート(以下、「樹脂充填繊維シート」ともいう。)を得る。樹脂充填繊維シートの質量をB1(g)とする。PU樹脂の比率(C1)を以下の式で算出する。
C1=(B1−A)/A×100(wt%)
【0074】
(9)PU樹脂分散液中のPU樹脂の平均一次粒子径
レーザー型回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−920」)にて、同装置測定マニュアルに従い測定し、メディアン径を平均一次粒子径とした。
【0075】
(10)PU樹脂分散液に含まれる熱水溶解性樹脂微粒子のケン化度
JIS K 6726(1994)3.5に準じて測定した。
【0076】
(11)PU樹脂分散液に含まれる熱水溶解性樹脂微粒子の重合度
JIS K 6726(1994)3.7に準じて測定した。
【0077】
(12)PU樹脂分散液に含まれる熱水溶解性樹脂微粒子の平均粒子径(μm)
微粒子として三菱ケミカル株式会社製「NL−05」を用いることができ、熱水溶解性樹脂微粒子の微細化は特開平7−82384号公報に記載の方法に準じた。
【0078】
(13)水流分散処理におけるノズルから吐出される水流の擾乱
水流分散処理におけるノズルから吐出される水流の擾乱は下記の方法で測定した。
ノズルから吐出される水流を、テレセントリックレンズ(Sill Optics GmbH & Co.KG製「S5LPJ007/212」)を装着した一眼カメラ(株式会社ニコン製「D600」)で撮影し、画像データを得る。該画像データをPCに取り込み、ノズル吐出口から25mm〜35mmの範囲の水流を切り取り、水流の幅方向の1pixel列(約6μm)毎の水流直径を測定する。測定した全データより、ノズルの吐出口より25mmから35mmまでの範囲における水流の平均径Wおよび標準偏差σを算出し、擾乱を以下の式で算出する。
擾乱(%)=σ(mm)/W(mm)×100
なお、擾乱は5枚の画像データから得られた値の平均値とする。
【0079】
[実施例1]
海成分として、5−スルホイソフタル酸ナトリウムを8モル%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分として、ポリエチレンテレフタレートを用い、海成分が20質量%で島成分が80質量%の複合比率で、島数16島/1f、平均繊維径が18μmの海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維を、繊維長51mmにカットしてステープルとし、カード及びクロスラッパーを通して繊維ウェブを形成し、ニードルパンチ処理により繊維シートを得た。得られた繊維シートを、熱風乾燥機を用いて150℃で2分間熱風乾燥し、目付600g/m
2の単層の繊維シートを得た。
得られた繊維シートを、50℃の温度に加熱した濃度50g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して60分間処理を行い、海島型複合繊維の海成分を除去する脱海処理を行った。脱海後の繊維シートを構成する繊維の単繊維の平均直径は4μmであった。
次いで、ノズル孔間隔0.25mm、擾乱7%、孔径0.10mm、ノズル孔3列の直進流噴射ノズルを用いた高速水流を上層側から4MPa、下層側から3MPaの圧力で噴射し、繊維束を構成する繊維の単繊維化を促進させた。
次いで、平均一次粒子径:0.3μmのポリエーテル系水分散型PU分散液「AE−12」(日華化学株式会社製) (固形分濃度:35質量%)を、含浸液中の量(固形分の質量%として)9.0%、含浸助剤として無水芒硝を含浸液中の量(固形分の質量%として)3.0重量%、及び平均粒径3μmのPVA樹脂微粒子「NL―05」(三菱ケミカル株式会社製)を含む含浸液を上記繊維シートに含浸させ、次いで、100℃で5分間湿熱凝固させ、熱風乾燥機を用いて130℃で5分間熱風乾燥させた。
その後、95℃に加熱した熱水に浸漬させて、含侵した無水芒硝とPVA樹脂微粒子を抽出、除去し、水分散型PU樹脂が充填されたシート状物を得た。このシート状物の繊維総質量に対する水分散型PU樹脂の比率は30質量%であった。
その後、エンドレスのバンドナイフを有する半裁機を用いて、シート状物を厚み方向に対して垂直に半裁し、半裁されていない面を#400のエメリペーパーを用いて起毛処理した後、染料濃度5.0%owfのブルー分散染料(住友化学株式会社製「BlueFBL」)で液流染色機を用いて130℃で15分間染色し、還元洗浄を行った。その後熱風乾燥機を用いて100℃で5分間乾燥し、単層の人工皮革を得た。
【0080】
[実施例2]
水流分散処理における上層側からの水圧を4.0MPaに変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0081】
[実施例3]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を44質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0082】
[実施例4]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を47質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0083】
[実施例5]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を17質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0084】
[実施例6]
PU樹脂含浸後、湿熱処理を水蒸気温度110℃、処理時間3分間の条件下、かつ、マイクロ波処理をマイクロ波出力10kw、処理時間3分間の条件下で施した以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0085】
[実施例7]
海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を10質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0086】
[実施例8]
海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を18質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0087】
[実施例9]
海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を25質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0088】
[実施例10]
海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を35質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0089】
[実施例11]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.50mm、ノズル孔の列数を2に変更した以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0090】
[実施例12]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.50mm、ノズル孔の列数を1に変更した以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0091】
[実施例13]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.90mm、ノズル孔の列数を1に変更した以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0092】
[実施例14]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.50mm、ノズル孔径を0.15mm、ノズル孔の列数を2に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0093】
[実施例15]
水流分散処理におけるノズル孔間隔を0.50mm、ノズル孔径を0.22mm、ノズル孔の列数を2に変更した以外は、実施例1と同様に人工皮革を得た。
【0094】
[実施例16]
PU樹脂含浸後、湿熱処理を水蒸気温度110℃、処理時間3分間の条件下、かつ、マイクロ波処理をマイクロ波出力10kw、処理時間3分間の条件下で施し、かつ、海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を10質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0095】
[実施例17]
PU樹脂含浸後、湿熱処理を水蒸気温度110℃、処理時間3分間の条件下、かつ、マイクロ波処理をマイクロ波出力10kw、処理時間3分間の条件下で施し、かつ、海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を10質量%とし、かつ、水流分散処理の擾乱を13%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0096】
[実施例18]
水流分散処理の擾乱を13%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0097】
[実施例19]
水流分散処理の擾乱を11%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0098】
[実施例20]
水流分散処理の擾乱を16%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0099】
[実施例21]
PU樹脂含浸におけるPVA粒子の平均粒子径を5μmとし、かつ、水流分散処理の擾乱を13%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0100】
[実施例22]
PU樹脂含浸におけるPVA粒子の平均粒子径を7μmとし、かつ、水流分散処理の擾乱を13%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0101】
[実施例23]
海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を45質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0102】
[実施例24]
水流分散処理における上層側からの水圧を12.0MPaに変更した以外は、実施例1又は2と同様に人工皮革を得た。
【0103】
[比較例1]
PU樹脂含浸液にPVA樹脂微粒子を添加しなかった以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0104】
[比較例2]
PU樹脂含浸液にPVA樹脂微粒子を添加せず、かつ、水流分散処理の擾乱を13%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0105】
[比較例3]
水流分散処理をせず、かつ、PU樹脂含浸液にPVA樹脂微粒子を添加せず、かつ、PU樹脂含浸後、湿熱処理を水蒸気温度110℃、処理時間3分間の条件下、かつ、マイクロ波処理をマイクロ波出力10kw、処理時間3分間の条件下で施した以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0106】
[比較例4]
水流分散処理をしなかった以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0107】
[比較例5]
PU樹脂含浸液にPVA樹脂微粒子を添加せず、かつ、海島型複合繊維にPVA繊維を混用し、全繊維量に対するPVA繊維の比率を10質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0108】
[比較例6]
水流分散処理における上層側からの水圧を0.7MPaに変更した以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0109】
[比較例7]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を58質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0110】
[比較例8]
繊維シートに対するPU樹脂の比率を13質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0111】
[比較例9]
PU樹脂含浸におけるPVA粒子の平均粒子径を10μmとし、かつ、水流分散処理の擾乱を13%とし、かつ、繊維シートに対するPU樹脂の比率を13質量%とした以外は、実施例2と同様に人工皮革を得た。
【0112】
実施例1〜24、及び比較例1〜9の結果を、以下の表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
これらの結果から、各実施例においては、厚み方向断面におけるポリウレタン面積率(断面PU樹脂面積率)が15%以上30%以下であり、かつ、該断面PU樹脂面積率の標準偏差が25%以下であり、PU樹脂と単繊維が特定構造で分布していることで、風合い(剛軟値)と防しわ性(防しわ率)とを両立した人工皮革が得られたことが分かる。