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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-72232(P2021-72232A)
(43)【公開日】2021年5月6日
(54)【発明の名称】電極及び電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20210409BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210409BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20210409BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20210409BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210409BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210409BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20210409BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/0562
   H01M10/052
   H01M4/139
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-199388(P2019-199388)
(22)【出願日】2019年10月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ミリ波照射加熱によるバルク型全固体電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺西 貴志
(72)【発明者】
【氏名】岸本 昭
(72)【発明者】
【氏名】布施 裕大
(72)【発明者】
【氏名】平松 健矢
(72)【発明者】
【氏名】山田 博俊
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA05
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】酸化物系電解質を用いた全固体リチウムイオン電池の電極において、電極と電解質との界面での反応生成物の形成が抑制された電極及び園製造方法を提供する。
【解決手段】粉末状とした電解質材料を加圧成型して電解質層を形成する一次成型工程と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料を電解質層の上面に堆積させて加圧成型することで電極層を形成する二次成型形工程と、電極層と電解質層とをミリ波の電磁波を照射することで焼結させて一体の電極とする焼成工程とで、電極を形成する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状とした電解質材料で電解質層を形成する工程と、
粉末状とした電極材料と前記電解質材料との混合材料で電極層を前記電解質層に積層させて形成する工程と、
前記電解質層と前記電極層との積層体に電磁波を照射して焼結させる工程と
により電解質と一体化した電極とする電極の製造方法。
【請求項2】
粉末状とした電解質材料を加圧成型して電解質層を形成する一次成型工程と、
粉末状とした電極材料と前記電解質材料との混合材料を前記電解質層の上面に堆積させて加圧成型することで電極層を形成する二次成型形工程と、
前記電極層と前記電解質層とを焼結させることで一体の電極とする焼成工程と
を有する電極の製造方法であって、
前記焼成工程では、ミリ波の電磁波を照射することで前記電極層と前記電解質層とを焼結させている電極の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程での焼成温度を1200℃以上としている請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記電解質材料は、複数種類の粉末原料を混合して焼結させた後に粉砕することで粉末状としている請求項1または請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記電極材料は、組成式LiM11-x-yM2xM3yO2で表され、x、yは0〜1であり、M1、M2、M3はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Cu、Feのうちのいずれかであり、
前記電解質材料は、組成式Li7-zLa3Zr2-zM4zO12で表され、zは0〜1であり、M4はTa、Nb、Vのうちのいずれか、
である請求項2〜4のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
粉末状とした電解質材料で形成した電解質層と、
粉末状とした電極材料と前記電解質材料との混合材料から形成される電極層と
を接合して焼結させることで積層構造とした電極であって、
前記電極層と前記電解質層との接合界面での前記電極材料と前記電解質材料との融合を抑制した電極。
【請求項7】
前記電極材料と前記電解質材料との融合の抑制は、前記電極材料と前記電解質材料との反応による反応生成物の形成が抑制されていることである請求項6に記載の電極。
【請求項8】
前記電極材料は、組成式LiM11-x-yM2xM3yO2で表され、x、yは0〜1であり、M1、M2、M3はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Cu、Feのうちのいずれかであり、
前記電解質材料は、組成式Li7-zLa3Zr2-zM4zO12で表され、zは0〜1であり、M4はTa、Nb、Vのうちのいずれかであって、
前記電極材料と前記電解質材料との反応による反応生成物が、組成式M53O4、La4LiM5O8、M52La3TaO9、La2Zr2O7で表され、M5はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Feのいずれか、である請求項7に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の電極及び電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の一つとして、酸化物系電解質を用いた全固体リチウムイオン電池が知られている。この全固体リチウムイオン電池では、酸化物系電解質の焼結と同時に、この酸化物系電解質に接続した電極も焼結させて、電解質と電極とを一体的に形成している。
【0003】
電解質と電極との同時焼結は、通常は電気炉による加熱で行っている。このような通常の電気炉を用いた焼結では、ヒーターで空気が温まることにより、空気からの熱伝達によって被焼結体を加熱して焼結温度としている。このような空気による熱伝達では、空気と接する被焼結体の外部と、空気と接しない被焼結体の内部とで加熱のされやすさが異なり、被焼結体の外部から焼結が進行することとなって焼結状態にムラが生じるおそれがある。
【0004】
特に、電解質と電極との界面では、電解質を構成している材料と電極を構成している材料との物質相互拡散が生じ、反応生成物が形成されることがある。この反応生成物は高抵抗体となっていて、電池性能を低下させる内部抵抗の原因となることが知られている。
【0005】
このような反応生成物の形成抑制を目的として、パルスレーザー堆積法などのエピタキシャル薄膜形成技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
このパルスレーザー堆積法では、電極上に電解質の単結晶膜をナノメートルの膜厚で直接形成するものである。この電解質の単結晶膜によって、焼成の際における電解質を構成している材料の熱拡散を抑制して、反応生成物の形成を抑制することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018−029046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、パルスレーザー堆積法は、モバイル器機等に搭載されるような小型の全固体電池には適用可能な技術ではあるが、電気自動車等への搭載を想定した大型の全固体電池には、製造コストの面で適用が困難であった。
【0009】
本発明者らは、焼成にともなって電解質と電極との界面に反応生成物が形成されることを、より簡便な方法で抑制できないかとの検討を行って、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電極の製造方法では、粉末状とした電解質材料で電解質層を形成する工程と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料で電極層を電解質層に積層させて形成する工程と、電解質層と電極層との積層体に電磁波を照射して焼結させる工程とにより電解質と一体化した電極とする電極の製造方法とした。
【0011】
より具体的には、粉末状とした電解質材料を加圧成型して電解質層を形成する一次成型工程と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料を電解質層の上面に堆積させて加圧成型することで電極層を形成する二次成型形工程と、電極層と電解質層とを焼結させることで一体の電極とする焼成工程とを有する電極の製造方法であって、焼成工程では、ミリ波の電磁波を照射することで電極層と電解質層とを焼結させることとした。
【0012】
さらに、本発明の電極の製造方法では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)焼成工程での焼成温度を1200℃以上としていること。
(2)電解質材料は、複数種類の粉末原料を混合して焼結させた後に粉砕することで粉末状としていること。
(3)電極材料は、組成式LiM11-x-yM2xM3yO2で表され、x、yは0〜1であり、M1、M2、M3はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Cu、Feのうちのいずれかであり、電解質材料は、組成式Li7-zLa3Zr2-zM4zO12で表され、zは0〜1であり、M4はTa、Nb、Vのうちのいずれかであること。
【0013】
また、本発明の電極では、粉末状とした電解質材料で形成した電解質層と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料から形成される電極層とを接合して焼結させることで積層構造とした電極であって、電極層と電解質層との接合界面での電極材料と電解質材料との融合を抑制した電極である。
【0014】
さらに、本発明の電極では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)電極材料と電解質材料との融合の抑制は、電極材料と電解質材料との反応による反応生成物の形成が抑制されていること。
(2)電極材料は、組成式LiM11-x-yM2xM3yO2で表され、x、yは0〜1であり、M1、M2、M3はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Cu、Feのうちのいずれかであり、電解質材料は、組成式Li7-zLa3Zr2-zM4zO12で表され、zは0〜1であり、M4はTa、Nb、Vのうちのいずれかであって、電極材料と電解質材料との反応による反応生成物が、組成式M53O4、La4LiM5O8、M52La3TaO9、La2Zr2O7で表され、M5はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Feのいずれかであること。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、粉末状とした電解質材料で形成した電解質層と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料から形成される電極層とを接合して、ミリ波の電磁波を照射して焼結させることにより積層構造の電極としていることで、電極と電解質との接合界面での電極材料と電解質材料との融合を抑制して、反応生成物の形成を抑制できる。したがって、電極と電解質との間の界面抵抗を低減でき、全固体電池の能力向上に寄与することができる。しかも、ミリ波の電磁波を用いた焼成プロセスとなるので、量産化も容易であり、製造コストへの影響を著しく低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】LLZTペレットを焼成する際の温度計測方法の説明図である。
図2】各焼成条件で焼成したLLZTペレットのXRDパターンの計測結果のグラフである。
図3】各焼成条件で焼成したLLZTペレットの表面のSEM像である。
図4】二層ペレットを焼成する際の焼成方法と温度計測方法の説明図である。
図5】左側写真は、焼成後の二層ペレットの電極側の面であり、右側写真は、焼成後の二層ペレットの電解質側の面である。
図6】各焼成条件で焼成した二層ペレットのXRDパターンの計測結果のグラフである。
図7】条件2及び条件4で焼成した場合の二層ペレットの電極側の表面と電解質側の表面のSEM像である。
図8】条件4で焼成した場合の二層ペレットの断面のSEM像である。
図9】充放電試験の構成の説明図である。
図10】充放電曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
酸化物系電解質を用いた全固体リチウムイオン電池の電極は、特に正極となる電極は、焼成によって電極を形成する際に、電極に接合させる電解質を同時に焼成して一体的な積層構造の電極としている。
【0018】
本発明の電極の製造方法では、粉末状とした電解質材料で電解質層を形成する工程と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料で電極層を電解質層に積層させて形成する工程と、電解質層と電極層との積層体に電磁波を照射して焼結させる工程とにより電解質と一体化した積層構造の電極としている。
【0019】
より具体的には、粉末状とした電解質材料を加圧成型して電解質層を形成する一次成型工程と、粉末状とした電極材料と電解質材料との混合材料を電解質層の上面に堆積させて加圧成型することで電極層を形成する二次成型形工程と、電極層と電解質層とを焼結させることで一体の電極とする焼成工程とで、電極を形成している。
【0020】
特に、焼成工程では、ミリ波の電磁波を照射することで電解質層及び電極層の一部を構成している電解質材料に自己発熱を生じさせ、この自己発熱の熱でそれぞれの焼結を促すことで、電解質と一体化した電極を形成している。
【0021】
電極材料としては、組成式LiM11-x-yM2xM3yO2で表され、x、yは0〜1であり、M1、M2、M3は、Co、Ni、Mn、Ti、Al、Cu、Feのうちのいずれかである材料を用いることが望ましい。
【0022】
電解質材料は、組成式Li7-zLa3Zr2-zM4zO12で表され、zは0〜1であり、M4はTa、Nb、Vのうちのいずれかである材料を用いることが望ましい。この電解質材料は、La、Zr、M4をそれぞれ含有する複数種類の粉末原料、例えばLa2O3、ZrO2、Ta2O5等及びLiOHを適量混合し、焼結させて形成することができる。また、焼結後には粉砕することで粉末状としている。
【0023】
電極層と電解質層とを通常の電気炉を用いて焼結させた場合には、電極と電解質との接合界面での電極材料と電解質材料との融合が生じやすい。この融合とは、電極と電解質の接合界面で、電極材料と電解質材料との反応による反応生成物が形成されることである。この反応生成物としては、具体的には、組成式M53O4、La4LiM5O8、M52La3TaO9、La2Zr2O7で表される化合物である。ここで、M5はCo、Ni、Mn、Ti、Al、Feのいずれかである。
【0024】
本発明では、ミリ波の電磁波を照射することで電解質材料の自己発熱を生じさせて、この熱を利用して焼成するため、電解質層の全体及び電極層の全体を加熱ムラを生じさせることなく、一様に加熱することができるとともに、電気炉の場合よりも大きな昇温速度で加熱することができるので、電極と電解質の接合界面での反応生成物の形成が抑制されているものと考えている。
【0025】
また、ミリ波ではなくマイクロ波、たとえば電子レンジで使用されている周波数が2.45GHzのマイクロ波を用いることも考えられるが、後述する実施例に示すような大きな昇温速度を実現するには、マイクロ波による加熱よりもエネルギーの大きいミリ波による加熱である必要があった。しかも、実際にミリ波による加熱によって、電極層と電解質層とを焼結させるとともに、電極と電解質との接合界面での電極材料と電解質材料との融合が抑制された焼結が可能であった。
【0026】
以下において具体的な実施例を示しながら詳説する。
【0027】
<電解質材料の調整>
まず、電解質材料を準備する。本実施例では、電解質材料には、ガーネット構造のジルコン酸タンタル酸リチウムランタンLi6.5La3Zr1.5Ta0.5O12(以下において、LLZTという。)を用いた。
【0028】
LLZTは、粉末状のLiOH、La2O3、ZrO2、Ta2O5をそれぞれ秤量し、遊星型ボールミルで粉砕・混合し、マッフル炉で焼成した後に粉砕することで粉末状とした。マッフル炉での焼成条件は、900℃、12時間とした。焼成時のLi成分の揮発を考慮して、LiOHは組成比より10%多く加えた。
【0029】
粉末状としたLLZTにミリ波の電磁波を照射して焼成した際の状態を確認するために、LLZTペレットを作成し、焼成を行った。
【0030】
LLZTペレットはφ10mmの円盤状としており、粉末状のLLZTを0.5g秤量し、成型治具に投入して一軸加圧を30MPaで1分行い、さらに等方静水圧加圧(CIP)を180MPaにて1分行って作製した。
【0031】
このLLZTペレットに対して、波長12.5mm(周波数24GHz)のミリ波域の電磁波を照射して、焼成を行った。照射するミリ波の電磁波としては、波長12.5mm(周波数24GHz)に限定するものではなく、波長10.7mm(周波数28GHz)の電磁波や、他の波長の電磁波を用いてもよい。
【0032】
電磁波の照射による加熱状態を確認するために、図1に示すように、下側断熱壁11aと、中空筒状体の中間断熱壁11bと、上側断熱壁11cとで前後上下左右をそれぞれ遮蔽した断熱空間を形成し、下側断熱壁11aの上面にアルミナ製の基台であるアルミナ板12を載置して、このアルミナ板12の上面に測温用ペレット13を載置し、この測温用ペレット13の上面に、第1ダミーペレット14を介してLLZTペレット15を載置し、さらにこのLLZTペレット15の上面に第2ダミーペレット16を載置して、電磁波の照射を行った。測温用ペレット13には熱電対(図示せず)を装着して、測温可能とした。第1ダミーペレット14、第2ダミーペレット16及び測温用ペレット13は、それぞれLLZTペレット15と同様に、粉末状としたLLZTを加圧成型して作製した。
【0033】
焼成条件は、第1条件として、昇温速度15℃/minで950℃−10min保持とし、第2条件として、昇温速度15℃/minで1200℃−10min保持とした。ミリ波照射装置としては、MSP社製の最大出力3kWの照射装置(24-3GS)を用いた。比較試験として、ヒーター加熱型の電気炉を用いて同条件でLLZTペレットを焼成した。
【0034】
それぞれの条件での焼成後、各試料のXRDパターンを計測した結果を図2に示す。図2に示すように、焼結温度を950℃とした場合には、電気炉、ミリ波照射のいずれにおいても単相のLLZTが得られ、不純物は確認されなかった。一方、焼結温度を1200℃とした場合には、ミリ波照射ではLLZT以外の不純物は確認されなかったが、電気炉による焼成においてLa2Zr2O7と微量のLa3TaO7が確認された。これは、電気炉による焼成にともなってLiの揮発が生じることでLLZTの一部が分解して形成された反応生成物である。
【0035】
このように、ミリ波を照射して行った焼成では、LLZTを構成している金属の自己発熱によりカチオン拡散が均一に生じ、Liの揮発が抑制されたものと考えられ、反応生成物の生成抑制が可能であることが確認できた。
【0036】
図3に各焼成条件での焼成後におけるLLZTペレット表面のSEM像を示す。図3に示すように、焼成温度が950℃の場合では、電気炉とミリ波照射とのどちらでも粒子の緻密化は生じておらず、密度にも大きな違いは見られなかった。焼成温度が1200℃の場合では、電気炉での焼成では緻密化は生じていない一方で、ミリ波照射の焼成では明らかに焼結が進行して緻密化が生じていることがわかる。
【0037】
下表に、各焼成条件での焼成後における各試料の相対密度と粒径の計測結果を示す。
【表1】
【0038】
また、下表に、各焼成条件での焼成後における各試料のリチウムイオン導電率の測定結果を示す。ここで、リチウムイオン導電率は、1MHzにおけるリチウムイオン導電率としている。
【表2】
【0039】
<電極の作製>
電極材料には、コバルト酸リチウムLiCoO2(日本化学工業,セルシードC-8hV,以下において、LCという。)を用いた。本発明では、粉末状のLCと粉末状のLLZTとを重量比で1:1として混合し、混合材料を作製した。特に、メノウ乳鉢で2-プロパノールを添加しつつ混合することで均質な複合電極とした。LCとLLZTとの混合比率は1:1に限定するものではなく、適宜調整してもよい。
【0040】
(一次成型工程)
成型治具に40mgの粉末状のLLZTを投入して、弱く加圧成型することで、φ10mmの円盤状の電解質層とした。
【0041】
(二次成型工程)
上記の成型治具内の電解質層の上面に10mgの粉末状の混合材料を均一に広げつつ堆積させた後、30MPaで30秒の一軸加圧を行い、次いで40MPaで1分の一軸加圧を連続して行う二段階一軸加圧を行って、電解質層の上面に電極層を形成した。説明の便宜上、電解質層の上面に電極層を積層したペレットを二層ペレットと呼ぶこととする。この二層ペレットは、φ10mmで厚さ約200μmの円盤状とした。
【0042】
(焼成工程)
上記の二層ペレットを焼成することで、電極層と電解質層とを焼結させて一体の電極とした。
【0043】
二層ペレットを焼成する際には、図4に示すように、下側断熱壁11a'と、中空筒状体の中間断熱壁11b'と、上側断熱壁11c'とで前後上下左右をそれぞれ遮蔽した断熱空間を形成し、この断熱空間内で焼成した。特に、二層ペレット20を第1金シート21と第2金シート22とで挟み、さらに、それを第1アルミナ板23と第2アルミナ板24とで挟んで、焼成した。なお、焼成時の温度を計測するために、測温用アルミナ板25の上面に第1電解質ペレット26と第2電解質ペレット27とを重ねて載置し、第1電解質ペレット26には熱電対(図示せず)を装着して測温可能とし、第2電解質ペレット27は熱電対を被覆する蓋体とした。
【0044】
ここで、第1金シート21及び第2金シート22は、ミリ波をほとんど吸収せず、比較的柔らかい材質であることから、ミリ波の電磁波の照射による焼成の際に加熱の障害となるおそれがなく、しかも二層ペレット20に歪曲変形が生じることを抑制できるため、用いることとした。
【0045】
本実施例では、焼成条件は以下の4通りとして焼成した。
条件1:昇温速度100℃/minで、900℃−1h保持
条件2:昇温速度100℃/minで、1200℃−1h保持
条件3:昇温速度100℃/minで、1300℃−1h保持
条件4:昇温速度100℃/minで、1400℃−1h保持
【0046】
上記条件での焼成においても、波長12.5mm(周波数24GHz)のミリ波域の電磁波を照射して、焼成を行った。照射するミリ波の電磁波としては、波長12.5mm(周波数24GHz)に限定するものではなく、波長10.7mm(周波数28GHz)の電磁波や、他の波長の電磁波を用いてもよい。
【0047】
条件3で焼成した二層ペレットの電極側の面を図5の左側写真、条件3で焼成した二層ペレットの電解質側の面を図5の右側写真に示す。
【0048】
各条件で焼成した二層ペレットをそれぞれ乳鉢で粉砕し、XRDパターンを計測した結果を図6に示す。比較例として、二層ペレットを電気炉で1200℃で1h保持して焼成した試料のXRDパターンを計測した結果を合わせて示している。
【0049】
図6に示すように、電気炉で焼成した場合には、1200℃と比較的低温での焼成にもかかわらず、電極材料のLC、あるいは電解質材料のLLZTが全く残っておらず、Co2La3TaO9とLa2Zr2O7に分解していた。これはLiの揮発と、電極と電解質の界面での電極材料(LC)と電解質材料(LLZT)の拡散と融合が進行して、反応生成物が形成されたためだと考えられる。
【0050】
一方、ミリ波照射による焼成では、条件2の1200℃焼成において僅かにLa2Zr2O7の形成が確認されるが、電極層と電解質層は融合せずにLCあるいはLLZTとして残っていることが確認できた。さらに、条件4の1400℃焼成においても電極層と電解質層は融合せずに残っており、ミリ波の電磁波による焼成が効果的に行えていることが確認できた。しかも、電極材料(LC)と電解質材料(LLZT)との反応生成物の形成がみられず、目的の電極を作製することができることを確認できた。
【0051】
図7に、条件2及び条件4で焼成した場合の二層ペレットの電極側の表面と電解質側の表面のSEM像を示す。図7に示すように、条件2の1200℃焼成では、特に電解質側の焼結が進行しておらず、多数の気孔が確認できた。一方、条件4の1400℃焼成では,電解質側と電極側のいずれでも十分緻密化が進んでいることが確認できた。
【0052】
図8に、条件4の1400℃焼成した場合の二層ペレットの断面のSEM像を示す。図7で示した表面のSEM像と同様に、断面像でも電極と電解質のいずれにおいても緻密化が生じており、しかも電極と電解質との接合界面において良好な界面が形成されていることが確認できた。
【0053】
<特性評価>
上記の焼成方法によって二層ペレットを焼成して作製した電極を用いて全固体電池としての評価を行った。
【0054】
本実施では、全固体セル(宝泉KP-Solid Cell)を用いてグローブボックス中にて電池を組み立てた。二層ペレットの電極側の表面には金蒸着を行った。
【0055】
全固体セルは、図9に示すように、中央部分にステージSを設けた負極プレート31と、この負極プレート31のステージSが挿入される中空空間を設けた絶縁管32と、この絶縁管32の中空空間内に挿入する突出片Tを設けた正極プレート33を備えている。本実施例では、中空空間はφ15mmであって、ステージSは、この中空空間に挿入可能な円柱状とし、突出片Tも中空空間に挿入可能な円柱状としている。
【0056】
負極プレート31のステージSを絶縁管32の中空空間に挿入させて絶縁管32を負極プレート31に嵌め合わせ、中空空間内のステージSの上面に、負極電極としてのφ12mmの円盤状としたLi箔34と、φ19mmの円盤状としたポリマー電解質35と、二層ペレット20'とを順次入れて積層状態とし、この状態で絶縁管32の中空空間に正極プレート33の突出片Tを挿入して、突出片Tの先端を二層ペレット20'の電極に当接させた。
【0057】
このように、負極プレート31と、Li箔34と、ポリマー電解質35と、二層ペレット20'と、正極プレート33とを順次積層して電池ユニットとし、この電池ユニットを、下部ケース36と、中間ケース37と、上部ケース38とで構成した封止ケースに密封収容した。下部ケース36は負極プレート31と電気的に接続して通電可能とし、また、上部ケース38は正極プレート33と電気的に接続して通電可能とし、下部ケース36及び上部ケース38を介して電池ユニットに所定の通電を可能として、充放電試験を行った。
【0058】
充放電試験では、1Cを160mAh/gとし、Cレートを0.01C、温度を80℃、電位範囲を2.0〜4.2Vとして、CC-CV測定において行った。
【0059】
充放電試験の結果の充放電曲線を図10に示す。図10に示すように、焼成温度の上昇にともなって充放電容量が顕著に増大した。下表に、1サイクル目及び5サイクル目における充放電容量と、5サイクル目の1サイクル容量に対する容量保持率の計測結果を示す。
【表3】
【0060】
上表に示すように、焼成温度の上昇にともなって容量保持率も大きく向上し、1400℃で焼成した場合には、充電容量保持率は59.7%、放電容量保持率は60.6%であり、優れた全固体電池特性が得られることが確認できた。上表から、1200℃で焼成した場合でも、一応全固体電池としての機能を生じていることは確認できたが、好適には焼成温度は1300℃以上とすることが望ましい。
【符号の説明】
【0061】
11a,11a' 下側断熱壁
11b,11b' 中間断熱壁
11c,11c' 上側断熱壁
12 アルミナ板
13 測温用ペレット
14 第1ダミーペレット
15 LLZTペレット
16 第2ダミーペレット
20,20' 二層ペレット
21 第1金シート
22 第2金シート
23 第1アルミナ板
24 第2アルミナ板
25 測温用アルミナ板
26 第1電解質ペレット
27 第2電解質ペレット
31 負極プレート
32 絶縁管
33 正極プレート
34 Li箔
35 ポリマー電解質
36 下部ケース
37 中間ケース
38 上部ケース
S ステージ
T 突出片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10