【解決手段】上下方向に延びる状態に張架されたワイヤ電極Wに対して、相対的に上側の所定部分と、該上側の所定部分から所定長さ離れた相対的に下側の所定部分とに、それぞれ拡散光L1、L2を照射する1以上の光源部52、53、62、64と、ワイヤ電極Wを介して拡散光L1、L2を受光することにより、上側ワイヤ電極影像と下側ワイヤ電極影像とを撮像して、これらの電極影像を示す画像データを出力するイメージセンサ31と、上記画像データに基づいて上側ワイヤ電極影像と下側ワイヤ電極影像とを、予め定められた垂直基準線に平行な方向に互いに近接させた状態で、1つの表示画面上に表示する画像表示装置6とから垂直出し装置を構成する。
上下方向に延びる状態に張架されたワイヤ電極に対して、相対的に上側の所定部分と、該上側の所定部分から所定長さ離れた相対的に下側の所定部分とに、それぞれ拡散光を照射する1以上の光源部と、
前記ワイヤ電極を介して前記拡散光を受光することにより、前記上側の所定部分を示す上側ワイヤ電極影像と、前記下側の所定部分を示す下側ワイヤ電極影像とを同時に撮像して、これらの電極影像を示す画像データを出力するイメージセンサと、
前記画像データに基づいて前記上側ワイヤ電極影像と前記下側ワイヤ電極影像とを、予め定められた垂直基準線に平行な方向に互いに近接させた状態で、1つの表示画面上に表示する画像表示装置と、
を含んでなるワイヤ電極の垂直出し装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1および
図2はそれぞれ、本発明の第1実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置1を示す平面図および側面図である。また
図3は、ワイヤ電極の垂直出し装置1を
図1および
図2中の左方側から見て示す正面図である。以下これらの図を参照して、ワイヤ電極の垂直出し装置1について説明する。このワイヤ電極の垂直出し装置1は、詳細は省略するワイヤ放電加工機に搭載されて、上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間に張架されるワイヤ電極Wの垂直出しを行うために設けられたものである。この垂直出しとは、ワイヤ電極Wが上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間で正確に垂直方向(鉛直方向)に延びるように、張架方向を調整することを意味する。
【0017】
ワイヤ電極Wの張架方向を調整するには、従来からなされているように、上側ワイヤガイド2および下側ワイヤガイド3の一方あるいは双方を、垂直方向に対して直交する方向に移動させればよい。本実施形態では一例として上側ワイヤガイド2のみを、垂直方向であるZ軸方向に対して直交して、互いに直交するU軸方向およびV軸方向に移動させるようにしている。すなわち上側ワイヤガイド2が、U軸モータ4とV軸モータ5とによってそれぞれU軸方向、V軸方向に移動される。
【0018】
なお
図2および
図3では、U軸モータ4、V軸モータ5および表示装置6を概略的に示している。また
図2および
図3では、上側ワイヤガイド2がU軸モータ4とV軸モータ5とによって直接的に移動するように示しているが、従来なされているように、上側ワイヤガイド2をUVクロステーブルに連結し、そのUVクロステーブルをU軸モータ4とV軸モータ5とによってU軸方向、V軸方向に移動させるようにしてもよい。
【0019】
ここで、U軸方向およびV軸方向について説明する。ワイヤ電極の垂直出し装置1を搭載するワイヤ放電加工機は、ベッドおよびその上に搭載された加工テーブル(共に図示せず)を有する。加工テーブルは、互いに直交する水平なX軸方向およびY軸方向に移動自在とされたものであり、ワーク(被加工物)はこの加工テーブルに載置されたワークスタンド10に水平に取り付けられる。一方ワイヤ電極Wは、図示外の供給リールから上側ワイヤガイド2および下側ワイヤガイド3を経て図示外の回収容器に至る経路を所定の速さで走行する。
【0020】
ワークスタンド10に取り付けられた図示外のワークは、上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間に張架されたワイヤ電極Wに対して、被加工部が微小な加工間隙を置く状態に配置される。そしてワイヤ電極Wから加工間隙に加工電圧が印加されて放電がなされると共に、加工テーブルの駆動によりワークがワイヤ電極Wに対してX軸およびY軸方向に相対移動されて、ワークが所望の形状に加工される。上述したU軸方向とV軸方向は、
図2および
図3に示す通り、上記加工におけるX軸方向とY軸方向に各々平行な方向である。
【0021】
本実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置1は、一例として、ワイヤ電極Wの垂直出しを手動操作によって実行可能としたものである。そのためにU軸モータ4およびV軸モータ5は、操作者の手動操作によって回転・停止の指令、および回転方向の指定がなされるものとされている。上記ワークスタンド10の上には載置台11が固定され、この載置台11の上にはさらに、レンズユニット保持部12およびカメラ保持部13が固定されている。レンズユニット保持部12にはフォーカスレンズユニット20が保持され、カメラ保持部13にはカメラ30が保持されている。
【0022】
フォーカスレンズユニット20は、Y軸と平行な方向に光軸Cが延びる状態に配されてなる、例えば物体側テレセントリック光学系である。すなわち、フォーカスレンズユニット20は基本的に、物体側つまりカメラ30と反対側から光軸Cに沿って順次配置されたフォーカスレンズ21と絞り22とから構成されている。絞り22は、フォーカスレンズ21の後側焦点位置に配置されている。
【0023】
カメラ30は、例えばCMOSセンサ等のイメージセンサ31を備えて構成されている。イメージセンサ31は、フォーカスレンズユニット20による結像位置に撮像面が位置する状態に配設されている。イメージセンサ31は、後述の通りにして形成されるワイヤ電極Wの2つの部分についての影像を撮像し、これらの影像を示す画像データDを表示装置6に入力する。表示装置6は例えば液晶表示装置等から構成されている。なお、この表示装置6は
図1〜
図3の中で
図2のみに示し、
図1および
図3では図示を省略している。
【0024】
レンズユニット保持部12には、フォーカスレンズユニット20と共に光学偏向ユニット40が保持されている。光学偏向ユニット40は、フォーカスレンズユニット20と一体化されたブロック41を有する。このブロック41には、側面から見て「コ」字状に開かれた通路部分と、この部分の上下方向中央部からフォーカスレンズユニット20側に向かって開かれた通路部分とからなる導光通路42が形成されている。この導光通路42の上端部、下端部でそれぞれ直角に折れる部分には、各々直角プリズム45、46が配設されている。また、この導光通路42の上下方向中央部には、ナイフエッジプリズムミラー44が配設されている。ナイフエッジプリズムミラー44は、直角の頂角部、つまり上側ミラー面44aと下側ミラー面44bとが交差する部分に、フォーカスレンズユニット20の光軸Cが位置する状態にして配設されている。
【0025】
ブロック41の上端部には、横方向に延びる光源連結部材51が連結されている。この光源連結部材51には、乳白板52と、この乳白板52を介して直角プリズム45の側に光を発するLED等の光源53とが保持されている。またブロック41の下端部には、横方向に延びる光源連結部材61が連結されている。この光源連結部材61には、乳白板62と、この乳白板62を介して直角プリズム46の側に光を発するLED等の光源63とが保持されている。
【0026】
乳白板52および光源53は、間にワイヤ電極Wを置いて上側の直角プリズム45と向かい合うように配置されている。光源53から発せられた光は乳白板52を通過することにより多大に拡散された状態となる。こうして拡散された光を、拡散光L1と称する。拡散光L1はワイヤ電極Wの所定部分を照射してから直角プリズム45に入射する。同様に、乳白板62および光源63は、間にワイヤ電極Wを置いて下側の直角プリズム46と向かい合うように配置されている。光源63から発せられて乳白板62を通過した後の、拡散光L1と同様の拡散光L2は、ワイヤ電極Wの所定部分を照射してから直角プリズム46に入射する。なお、上記透過型の乳白板52および62の代わりに、光源からの光を拡散反射させる手段が用いられてもよい。
【0027】
上の説明から明らかな通り、拡散光L1が照射されるワイヤ電極Wの所定部分は、相対的に上側の所定部分であり、拡散光L2が照射されるワイヤ電極Wの所定部分は、相対的に下側の所定部分である。そして乳白板52および光源53は、ワイヤ電極Wの上側の所定部分に拡散光L1を照射する光源部を構成し、乳白板62および光源63は、ワイヤ電極Wの下側の所定部分に拡散光L2を照射する光源部を構成している。
【0028】
以下、上記構成を有するワイヤ電極の垂直出し装置1の作用について説明する。上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間に張架されて、この張架部分では下方に連続的に走行するワイヤ電極Wには、上側の所定部分において拡散光L1が照射され、該上側の所定部分を経た拡散光L1はブロック41の導光通路42を通過し、直角プリズム45によって45°下方に向けて偏向される。この偏向された拡散光L1は、ナイフエッジプリズムミラー44の上側ミラー面44aに入射する。同様に、ワイヤ電極Wには下側の所定部分において拡散光L2が照射され、該下側の所定部分を経た拡散光L2はブロック41の導光通路42を通過し、直角プリズム46によって45°上方に向けて偏向される。この偏向された拡散光L2は、ナイフエッジプリズムミラー44の下側ミラー面44bに入射する。
【0029】
以上の通り、拡散光L1と拡散光L2とは、それぞれ直角プリズム45と直角プリズム46とによって、互いに近付く方向に偏向される。拡散光L1はワイヤ電極Wの上側の所定部分を経ているので、この上側の所定部分の影像(これを上側ワイヤ電極影像という)を担持するものとなっている。一方、拡散光L2はワイヤ電極Wの下側の所定部分を経ているので、この下側の所定部分の影像(下側ワイヤ電極影像という)を担持するものとなっている。
【0030】
拡散光L1は、ナイフエッジプリズムミラー44の上側ミラー面44aで反射して、フォーカスレンズユニット20に入射する。同様に拡散光L2は、ナイフエッジプリズムミラー44の下側ミラー面44bで反射して、フォーカスレンズユニット20に入射する。フォーカスレンズユニット20に入射した拡散光L1、L2は、フォーカスレンズ21で集光され、絞り22を通過してから、イメージセンサ31の撮像面で収束する。こうしてイメージセンサ31により、拡散光L1、L2が各々担持している上側ワイヤ電極影像、下側ワイヤ電極影像が撮像される。イメージセンサ31は、これらの電極影像を示す画像データDを表示装置6に入力する。それにより表示装置6において、これらの上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像が表示される。
【0031】
なお
図1および
図2では、物体側テレセントリック光学系であるフォーカスレンズユニット20を概略的に示しているが、撮像される上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像は、基本的に下記の通りの位置およびサイズのものとなる。すなわち、
図2に表されている側面視状態では、ワイヤ電極Wを横切る拡散光L1の光軸Cとその外側(上側)の横向き破線との間の電極部分および、ワイヤ電極Wを横切る拡散光L2の光軸Cとその外側(下側)の横向き破線との間の電極部分の各影像が、それぞれ上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像として撮像される。
【0032】
また上記各影像は、物体側テレセントリック光学系の倍率(光学倍率)と、表示装置6による表示倍率(モニタ倍率)とを乗じた倍率(総合倍率)で、表示装置6に表示される。ワイヤ電極Wの直径は例えば0.2mm程度と一般に極めて小さいので、この細いワイヤ電極Wを見やすく表示装置6に拡大表示するために、上記総合倍率は例えば数十倍程度とされる。操作者は、表示装置6に拡大表示された上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像を見ながら、ワイヤ電極の垂直出しを行うことができる。以下、この垂直出しについて詳しく説明する。
【0033】
図4および
図5は、上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間に張架されたワイヤ電極Wを、Y軸方向から見た状態、つまりXZ面内の状態を示している。なおこれらの
図4および
図5において、先に説明した
図1〜
図3のものと同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は、特に必要の無い限り省略する(以下、同様)。
図4は、ワイヤ電極Wが正確に垂直出しされた状態を示している。つまりこの
図4の場合はX軸およびZ軸を含む面であるXZ面内において、図中の上下方向である垂直方向(鉛直方向)に対して、ワイヤ電極Wが平行に張架された状態となっている。
【0034】
それに対して
図5は、ワイヤ電極WがXZ面内で正確に垂直出しされていない状態を示している。つまりこの
図5の場合はワイヤ電極Wが、XZ面内において、図中Cvとして示す垂直方向に対して、ワイヤ電極Wが傾いた状態となっている。なお、
図4および
図5には、
図2に示すフォーカスレンズユニット20の光軸Cの高さ位置および、該光軸Cがナイフエッジプリズムミラー44および直角プリズム45、46で折れた後の高さ位置を、Chとして示している。
【0035】
ワイヤ電極Wの張架状態が
図4、
図5の状態となっている場合に、イメージセンサ31が撮像して、表示装置6に拡大表示される画像をそれぞれ
図6、
図7に概略的に示す。それらの図において、PU、PLは各々、イメージセンサ31が受光した拡散光L1、L2に基づく画像の領域を示している。画像領域PUと画像領域PLとは、実際には互いに所定距離を置いて垂直方向に離れた空間を示す領域であるが、前述したように拡散光L1、L2が各々直角プリズム45、46によって偏向されていることにより、ここに図示する通り互いに近接した状態に表示される。またGU、GLは各々、上記各画像領域の中に表示される、ワイヤ電極Wの上側ワイヤ電極影像、下側ワイヤ電極影像を示している。またRCvで示す1点鎖線は、予め定められた垂直基準線である。
【0036】
上側ワイヤ電極影像GU、下側ワイヤ電極影像GLが表示装置6において
図6のように表示されていれば、操作者は、ワイヤ電極WがXZ面内で正確に垂直方向に延びている、つまり垂直出しがなされて正常に張架されていると認識できる。それに対して、上側ワイヤ電極影像GU、下側ワイヤ電極影像GLが表示装置6において
図7のように表示されていれば、操作者は、ワイヤ電極WがXZ面内で垂直方向に対して傾いた状態に張架されていると認識できる。そこで操作者は、表示装置6での表示状態を見ながら、
図3に示すU軸モータ4を手動操作によって正方向あるいは逆方向に回転させ、上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLの表示状態が、
図6の状態となるように上側ワイヤガイド2のU軸(X軸)方向位置を調整する。それによりワイヤ電極Wを、XZ面内で正確に垂直方向に延びた正常状態に設定することができる。なお、上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLの表示状態が
図6の状態となったときの該電極影像GUおよびGLを示す前記画像データDは、例えばワイヤ電極Wの垂直状態を示す基準位置データとして記憶手段に記憶されてもよい。そのように記憶された基準位置データは、後にワイヤ電極Wの位置の補正を行う場合において、補正のための基準データ等として利用することができる。
【0037】
本実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置1においては、ワイヤ電極影像GUおよびGLを表示させるために拡散光L1、L2を利用しているので、表示装置6においてワイヤ電極影像GUおよびGLの周りの部分は十分明るく表示される。そこで、ワイヤ電極影像GUおよびGLの表示状態、つまりはワイヤ電極Wの張架状態を容易かつ精度良く認識可能となる。また、ワイヤ電極影像GUおよびGLを、互いに近接させた状態に表示させているので、ワイヤ電極影像GUおよびGLが表示されるワイヤ電極Wの2つの所定部分、つまり上側の所定部分と下側の所定部分とが大きく離れていなくても、ワイヤ電極Wの張架状態を容易かつ正確に判別可能となる。そのような効果は具体的に、直角プリズム45と直角プリズム46との間の距離が40mm〜50mm程度確保されていれば、得ることができる。この点は、本実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置1を小型に形成する上で有利に作用する。
【0038】
なおワイヤ電極Wは、
図5に示した傾斜の向きとは逆の向きに傾斜した不正な張架状態になることもあるし、所定の張架位置から全体的に水平方向にずれた不正な張架状態になることもある。
図8には、そのような2つの点で不正な張架状態になっているワイヤ電極Wがイメージセンサ31により撮像されて、表示装置6に拡大表示された画像の例を概略的に示す。前者の不正な張架状態を正常な張架状態に修正するためには、U軸モータ4の回転方向を、前述した場合とは反対の方向とすればよい。後者の不正な張架状態を正常な張架状態に修正するためには、U軸モータ4に加えてさらに、下側ワイヤガイド3をU軸(X軸)方向に移動させる手段が必要になる。
【0039】
ここで、
図6〜
図8に示す垂直基準線RCvについて説明する。この垂直基準線RCvを定める際には、まずワイヤ電極Wと形状が類似した校正治具(ワイヤ治具)を、上側ワイヤガイド2と下側ワイヤガイド3との間に正確に垂直状態に配置する。それと共にカメラ30のイメージセンサ31を、例えばその矩形の撮像面を左右2領域に分ける中央線(撮像面の左右2辺と平行で該2辺からの距離が等しい線)が正確に垂直となる状態に位置調整して、その状態にイメージセンサ31をカメラ30内に固定する。以上のワイヤ治具の配置およびイメージセンサ31の位置調整は、例えば、イメージセンサ31が撮像したワイヤ治具の像を表示装置6に表示させ、その表示画像を参考にしながら正確に行うことができる。
【0040】
以上により本例では、イメージセンサ31の撮像面における上記中央線が、垂直基準線RCvとして予め定められる。したがって本例では、表示装置6において上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLが、双方とも
図6に示す表示状態、つまり垂直基準線RCvに対して平行となる状態に表示されれば、ワイヤ電極Wが垂直に張架されていると判断できることになる。
【0041】
上述の通りに定められる垂直基準線RCvは、表示装置6において表示させてもよいし、表示させなくてもよい。垂直基準線RCvが表示されていない場合でも、表示装置6において上側ワイヤ電極影像GUと下側ワイヤ電極影像GLとが、概略上下方向に延びて一線に連なって表示されていれば、操作者は、ワイヤ電極Wが垂直基準線RCvと平行になって垂直状態に張架されていると判断することができる。つまり、表示された上側ワイヤ電極影像GUと下側ワイヤ電極影像GLとが一線に連なって表示されていないのにワイヤ電極Wが垂直状態に張架されているということは、両ワイヤ電極影像GUおよびGLの傾きの有無に拘わらず、有り得ないからである。
【0042】
ここで
図9〜
図11を参照して、イメージセンサ31の撮像面と垂直基準線RCvとの相対位置関係について説明する。これらの図において、Sはイメージセンサ31の矩形の撮像面を、その中の格子状のマス目は1個の画素を、そしてGwは上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLを含む全体のワイヤ電極影像をそれぞれ概略的に示している。
図9〜
図11の各例において、ワイヤ電極Wは垂直に張架されているものとする。
【0043】
まず
図9は、上に述べたように、イメージセンサ31の撮像面Sにおける中央線が、垂直基準線RCvとして定められる場合を示している。この場合は、
図2に示す光源53および乳白板52からなる光源部と、光源63および乳白板62からなる光源部と、光学偏向ユニット40と、フォーカスレンズユニット20とから構成される光学系の垂直方向に対して、撮像面Sの中央線が平行に配置されている。この例においては、前述したように表示装置6に表示される画像を目視しながら手動操作によってワイヤ電極Wの垂直出しを行う場合、ワイヤ電極Wの張架状態を判別し易いという利点が有る。しかし、その反面、上記光学系の垂直方向と実際の垂直とのずれを極力小さく抑える必要がある。
【0044】
次に
図10は、上記光学系の垂直方向に対して、撮像面Sの中央線が傾斜した状態にイメージセンサ31が配置された場合を示している。この例において、垂直基準線RCvは上記光学系の垂直方向と平行で、撮像面Sの中央線から傾いた状態とされる。この例においては、光学系の水平方向に対して画素の並び方向を斜めに配置したことにより、イメージセンサ31の水平方向の分解能を理論上高めることができる。具体的には、多数の画素が格子状に等間隔で正確に配置されていることを前提とすれば、上記斜め配置の傾きが1/nの場合、分解能はn倍に高められる。逆に言えば、高分解能のイメージセンサ31を用いなくても、ワイヤ電極Wの傾きを高精度で検出可能となるので、垂直出し装置のコストダウンや小型化の上で有利となる。
【0045】
次に
図11は、光学系の垂直方向に対する撮像面Sの相対位置関係は
図10の例と同じであるが、画素の並び方向が水平方向となるようにイメージセンサ31が配置された場合を示している。この例において、イメージセンサ31の撮像面Sに対する垂直基準線RCvの相対位置を、
図9の例におけるのと同様に設定すると、上側ワイヤ電極影像GUの重心Q1および下側ワイヤ電極影像GLの重心Q2のイメージセンサ31上における水平方向位置を、垂直基準線RCvからの水平方向ずれ量で規定可能である。つまり、例えば
図11の例では、下側ワイヤ電極影像GLの重心Q2を通る垂直線Cv2の垂直基準線RCvからのずれ量で、下側ワイヤ電極影像GLの重心Q2の水平方向位置を規定可能となる。こうして求めた、2つの重心Q1およびQ2のイメージセンサ31上の水平方向位置に基づいて、ワイヤ電極Wの傾きを数値によって表すことができる。そうであれば、
図9の例について説明したように、光学系の垂直方向と実際の垂直とのずれを極力小さく抑える必要がなくなるので、垂直出し装置の製作が容易になる。
【0046】
以下、イメージセンサ31の分解能について、具体例を挙げて説明する。イメージセンサ31の撮像面のサイズが6mm×8mmであるとすると、撮像面の面積は6×8=48mm
2=48×1,000,000μm
2である。イメージセンサ31の画素数が12M(メガ)pixelの場合、1画素当たりの面積は、48/12=4μm
2で、画素間のピッチは2μmとなる。ワイヤ電極Wの実空間での変位を分解能1μmで検出するには、イメージセンサ31上での拡大倍率として2倍以上が必要である。そこでフォーカスレンズユニット20は、直径0.2mmのワイヤ電極Wの影像を、イメージセンサ31上で直径0.4mm以上つまり200画素分以上のサイズに結像させるものであることが望ましい。なお、上に例示した画素数よりも少ない画素数のイメージセンサ31を用いても、画像処理によって、ワイヤ電極Wの影像をより高精細化できることもある。
【0047】
以上、ワイヤ電極WをXZ面内で垂直出しすることについて説明したが、ワイヤ電極Wは、XZ面と直交するYZ面内で垂直方向に対して傾斜することもある。このような不正な張架状態となっているワイヤ電極Wを正常な張架状態に直すためには、例えば
図2に示すV軸モータ5を手動操作して、上側ワイヤガイド2をV軸(Y軸)方向位置に移動させればよい。また、ワイヤ電極Wが上記不正な張架状態となっていることを検出するためには、例えば
図2に示す光源53、乳白板52および光源連結部材51とからなる上側光照射手段と、光源63、乳白板62および光源連結部材61とからなる下側光照射手段と、光学偏向ユニット40と、フォーカスレンズユニット20と、カメラ30とからなるワイヤ電極影像手段と同様の構成を有し、その構成が上記ワイヤ電極影像手段に対して水平面内で90°回転した状態に配置されてなるワイヤ電極撮像手段を利用することができる。
【0048】
また、本発明によるワイヤ電極の垂直出し装置は、ワイヤ電極Wの上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像を表示装置に表示させることに加えて、ワイヤ電極Wの垂直からの傾き量を数値化して、その数値化結果を表示装置に表示させるように構成されてもよい。以下、このワイヤ電極Wの傾き量を数値化する手法の一例を、
図12〜
図16を参照して説明する。
【0049】
本例では、上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLが、
図12に示す状態で表示装置6に表示されているものとする。この表示画像は、画像の輝度の高い部分を利用してワイヤ電極Wの位置を正確に判別するために、イメージセンサ31が出力した画像データD(
図2参照)が示す画像をグレースケール化し、さらにその画像を輝度反転(白黒反転)したものである。ここでは説明を簡素化するために、上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLはそれぞれ、垂直基準線RCvと平行な状態で示されているとする。なお仮に、実際このような表示となっているとしても、上側ワイヤ電極影像GUと下側ワイヤ電極影像GLとが一線に連なって表示されていないので、ワイヤ電極Wは垂直に張架されていないと判断することができる。
【0050】
次に
図13に示すように、表示画像において、ワイヤ電極Wの傾き量を数値化するために使用するエリアを設定する。本例では、画像領域PUにおいて2本の横破線および2本の縦破線で挟まれたエリア、並びに画像領域PLにおいて同じく2本の横破線および2本の縦破線で挟まれたエリアが、上記数値化のためのエリアとして設定される。次に
図14に示すように、設定された上記エリアに含まれない領域の明るい画像は輝度をゼロにして、数値化のための解析対象から除外する。
【0051】
次に
図15に示すように、表示画像内で、特に高輝度となっている部分の重心Q1およびQ2の座標(X座標およびZ座標)を求める。通常、この特に高輝度となっている部分は2つ存在し、表示画像中で上側の部分は、前述の設定されたエリア内の上側ワイヤ電極影像GUに対応し、下側の部分は下側ワイヤ電極影像GLに対応している。したがって、特に高輝度となっている上側の部分の重心Q1は、上記エリア内の上側ワイヤ電極影像GUの重心であり、他方、特に高輝度となっている下側の部分の重心Q2は、上記エリア内の下側ワイヤ電極影像GLの重心である。
【0052】
重心Q1およびQ2の座標からそれぞれX座標のみを抽出し、例えばそれら2つのX座標の差分を、例えば
図1〜
図3に示す構成における表示装置6に表示させる。そこで操作者は数値化されたこの差分の表示を見ながら、
図3に示すU軸モータ4を手動操作し、該U軸モータ4を上記差分が減少する方向に回転させる。この操作が続けられると、ワイヤ電極WのXZ面内における垂直方向からの傾きは次第に減少し、上記差分がゼロとなったところで、ワイヤ電極WはXZ面内で垂直出しされることになる。このとき、表示画像において特に高輝度となっている2つの部分は、
図16に示すように、XZ面内で一線に並ぶ状態となる。
【0053】
以上説明した方法は、数値化されたワイヤ電極Wの傾き量に基づいてU軸モータ4を手動操作して、ワイヤ電極Wの垂直を出すものであるが、手動操作は不要にして自動処理でワイヤ電極Wの垂直を出すことも可能である。
図17は、この自動処理を実施可能とした、本発明の第2実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置100の概略構成を示す側面図である。以下、
図17を参照して垂直出し装置100の構成、および作用を説明する。
【0054】
この垂直出し装置100において、イメージセンサ31が出力する画像データDは、表示装置6に入力されると共に、制御装置7にも入力される。制御装置7は入力された画像データDに基づいて、前述した重心Q1およびQ2の各X座標の差分を求める。この場合も該差分は、ワイヤ電極Wの垂直からの傾き量を数値化して示している。制御装置7は求めたこの差分を示すデータを、表示装置6に入力させる。そこで操作者は、入力された上記データに基づいて表示装置6に表示された差分の値を参考にして、また、画像データDに基づいて表示装置6に表示された上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像を参考にしてU軸モータ4を手動操作して、ワイヤ電極Wの垂直を出すことができる。
【0055】
さらに制御装置7は、U軸モータ4を連続的に正逆回転させて、上側ワイヤガイド2をX軸方向に往復移動させる。そして制御装置7は、上側ワイヤガイド2の移動に伴って刻々変化する上記差分の値がゼロとなったところで、U軸モータ4の回転を停止させる。先に
図15および
図16を参照して説明した通り、上記差分の値がゼロとなるのは、上側ワイヤ電極影像GUと下側ワイヤ電極影像GLとが垂直基準線RCvに平行になった場合、つまりワイヤ電極Wが垂直方向に張架されている場合である。そこで、U軸モータ4の回転を上述のように停止させれば、ワイヤ電極Wが垂直出しされた状態となる。なお、U軸モータ4の回転停止が比較的早い時点でなされた場合、上側ワイヤガイド2は往復移動せずに、片道だけ移動した後に停止することもある。
【0056】
制御装置7には、自動モードと手動モードの一方を選択的に設定するモード切替部が設けられるのが望ましい。そして自動モードが選択された場合は、上記差分の値に基づいてU軸モータ4の回転を停止させて、ワイヤ電極Wの垂直出しを自動処理で行う方法が実施される。この自動モードが選択された場合は、混乱を避けるために、画像データDに基づいて表示装置6に上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLを表示させること、並びに、上記差分の値を表示装置6に表示させることは行わない方が望ましい。一方、手動モードが選択された場合は、上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLや、あるいは上記差分の値が表示装置6に表示される。そして、ワイヤ電極Wの垂直出しを行う自動処理は実行されない。
【0057】
次に
図18を参照して、本発明の第3実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置200について説明する。
図18は、ワイヤ電極の垂直出し装置200の概略構成を示す側面図である。このワイヤ電極の垂直出し装置200においては、上側ワイヤ電極影像GUおよび下側ワイヤ電極影像GLを担持している拡散光L1、L2を各々偏向させる直角プリズム45、46(
図2参照)は設けられていない。そしてそれらに代えて、拡散光L1を受光するイメージセンサ231を有するカメラ230と、拡散光L2を受光するイメージセンサ331を有するカメラ330とが設けられている。また、
図2に示したフォーカスレンズ21および絞り22と同様のフォーカスレンズ221および絞り222が拡散光L1の光路に沿って配設され、同じくフォーカスレンズ21および絞り22と同様のフォーカスレンズ321および絞り322が拡散光L2の光路に沿って配設されている。
【0058】
イメージセンサ231および331が各々出力する画像データD1およびD2は、制御装置207に入力される。画像データD1は、ワイヤ電極Wの互いに上下方向に離れた部分の一方(上側の所定部分)に関する上側ワイヤ電極影像を示すものである。また画像データD2は、ワイヤ電極Wの互いに上下方向に離れた部分の他方(下側の所定部分)に関する下側ワイヤ電極影像を示すものである。制御装置207は入力された画像データD1、D2を処理して、例えば
図6に示すように、上側ワイヤ電極影像GUと下側ワイヤ電極影像GLとが互いに上下に近接して示される画像を示す画像データを作成し、その画像データを表示装置6に入力する。
【0059】
表示装置6では、入力された上記画像データに基づいて、
図6に示すような画像が表示される。そこで操作者はこの場合も、表示装置6に表示された上側ワイヤ電極影像および下側ワイヤ電極影像を参考にしてU軸モータ4を手動操作して、ワイヤ電極Wの垂直を出すことができる。また制御装置207は入力された画像データD1、D2に基づいて、前述した重心Q1およびQ2(
図15および
図16参照)の各X座標の差分を求める。制御装置207は求めたこの差分を示すデータを、表示装置6に入力させる。そこで操作者は、入力された上記データに基づいて表示装置6に表示された差分の値を参考にして、U軸モータ4を手動操作して、ワイヤ電極Wの垂直を出すことができる。
【0060】
さらに制御装置207は、U軸モータ4を連続的に正逆回転させて、上側ワイヤガイド2をX軸方向に往復動させる。そして制御装置207は、上側ワイヤガイド2の往復動に伴って刻々変化する上記差分の値がゼロとなったところで、U軸モータ4の回転を停止させる。以上の工程を実施することにより、
図17に示した第2実施形態によるワイヤ電極の垂直出し装置100におけるのと同様に、ワイヤ電極Wが垂直出しされた状態となる。
【0061】
本発明によるワイヤ電極の垂直出し装置および垂直出し方法は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。