【課題】ナノカーボン材料等の導電性材料を、導電性の損失を抑制しつつ、高濃度であっても安定して分散させることが可能な、高分子分散剤として使用しうる導電性ポリマーを提供する。
前記ポリマー鎖Aが、(i)オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノメタクリレート単位(a−1)、及び(ii)オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜18)エーテルメタクリレート単位(a−2)の少なくともいずれかを含む請求項1に記載の導電性ポリマー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
界面活性剤を分散剤として用いれば、ナノカーボン材料を液媒体にある程度良好な状態で分散させることが可能ではあった。しかし、分散性が不十分であったり、ナノカーボン材料が再凝集しやすかったりする等の課題があった。一方、高分子分散剤を用いれば、ナノカーボン材料が再凝集しにくく、良好な状態で分散させることが可能であった。しかし、高分子分散剤自体の導電性が低いため、ナノカーボン材料の優れた導電性が損なわれる場合があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ナノカーボン材料等の導電性材料を、導電性の損失を抑制しつつ、高濃度であっても安定して分散させることが可能な、高分子分散剤として使用しうる導電性ポリマーを提供することにある。また、本発明の課題とするところは、導電性やイオン電導性等の特性の良好な塗膜を形成することが可能であるとともに、導電性材料を含有させた場合には、導電性材料を安定して分散させることができ、導電性やイオン電導性等の特性により優れた塗膜を形成することが可能な導電性ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す導電性ポリマー、及び導電性ポリマー組成物が提供される。
[1]下記(1)〜(4)の要件を満たす、その体積抵抗率が1×10
10Ω・cm未満である導電性ポリマー。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA−Bブロックコポリマーである。
(2)前記ポリマー鎖Aが、アミン価が0.5mgKOH/g以下、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000〜15,000のポリマーブロックである。
(3)前記ポリマー鎖Bが、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0〜150mgKOH/gのポリマーブロックである。
(4)前記メタクリレート系モノマー単位(b)の含有量が、ポリマー全体を基準として、30〜80質量%である。
【0009】
(前記一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、又はアリルメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1〜8のフッ化アルキル基を示す)
【0010】
[2]前記ポリマー鎖Aが、(i)オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノメタクリレート単位(a−1)、及び(ii)オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜18)エーテルメタクリレート単位(a−2)の少なくともいずれかを含む前記[1]に記載の導電性ポリマー。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す導電性ポリマー組成物が提供される。
[3]前記[1]又は[2]に記載の導電性ポリマー、有機溶媒、及びアルカリ金属塩を含有する導電性ポリマー組成物。
[4]前記アルカリ金属塩の含有量が、前記導電性ポリマーの含有量を基準として、0.1〜30質量%である前記[3]に記載の導電性ポリマー組成物。
[5]前記アルカリ金属塩が、下記一般式(2)で表される無機塩である前記[3]又は[4]に記載の導電性ポリマー組成物。
【0012】
(前記一般式(2)中、Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1〜8のフッ化アルキル基を示す)
【0013】
[6]前記有機溶媒が、その比誘電率が20以下の非プロトン性溶媒である前記[3]〜[5]のいずれかに記載の導電性ポリマー組成物。
[7]無機の導電性材料をさらに含有する前記[3]〜[6]のいずれかに記載の導電性ポリマー組成物。
[8]前記導電性材料が、カーボンナノチューブ類及びナノグラフェン類の少なくともいずれかのナノカーボン材料である前記[7]に記載の導電性ポリマー組成物。
[9]前記ナノカーボン材料が、その表面にカルボキシ基を有するナノカーボン材料である前記[8]に記載の導電性ポリマー組成物。
[10]前記ナノカーボン材料100質量部に対する、前記導電性ポリマーの含有量が、10〜200質量部であり、前記ナノカーボン材料の含有量が、組成物全体を基準として、15質量%以下である前記[8]又は[9]に記載の導電性ポリマー組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノカーボン材料等の導電性材料を、導電性やイオン電導性等の特性の損失を抑制しつつ、高濃度であっても安定して分散させることが可能な、高分子分散剤として使用しうる導電性ポリマーを提供することができる。また、本発明によれば、導電性やイオン電導性等の特性の良好な塗膜を形成することが可能であるとともに、導電性材料を含有させた場合には、導電性材料を安定して分散させることができ、導電性やイオン電導性等の特性により優れた塗膜を形成することが可能な導電性ポリマー組成物を提供することができる。
【0015】
本発明の導電性ポリマー組成物は、分散性、保存安定性、粘度特性、及び加工性に優れており、そのまま塗布することで導電性の塗膜を形成することができる。また、カーボンナノチューブ類やナノグラフェン類等の難分散性のナノカーボン材料を、低〜中極性の有機溶媒中に安定して微分散させることができる。さらに、ナノカーボン材料等の導電性材料を微分散させることが可能であることから、透明性の高い塗膜(皮膜)を形成することも期待される。そして、高分子分散剤として機能する導電性ポリマーの含有量が少なくても、高濃度のナノカーボン材料を良好に分散させることができるので、導電性や熱伝導性等のナノカーボン材料自体の性能を十分に発揮させることができる。本発明の導電性ポリマー及びそれを用いた導電性ポリマー組成物を用いれば、例えば、ナノカーボン材料等の導電性材料が良好に分散した塗料、インキ、プラスチック、電池用部材等を提供することが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0017】
<導電性ポリマー>
本発明の導電性ポリマーは、下記(1)〜(4)の要件を満たす、その体積抵抗率が1×10
10Ω・cm未満のポリマーである。以下、本発明の導電性ポリマーの詳細について説明する。
(1)メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA−Bブロックコポリマーである。
(2)前記ポリマー鎖Aが、アミン価が0.5mgKOH/g以下、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000〜15,000のポリマーブロックである。
(3)前記ポリマー鎖Bが、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0〜150mgKOH/gのポリマーブロックである。
(4)前記メタクリレート系モノマー単位(b)の含有量が、ポリマー全体を基準として、30〜80質量%である。
【0018】
(一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、又はアリルメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1〜8のフッ化アルキル基を示す)
【0019】
導電性ポリマーは、メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを有するA−Bブロックコポリマーである(要件(1))。A−Bブロックコポリマーは、その構造が的確に制御されたポリマーであり、リビング重合、なかでもリビングラジカル重合によって製造することができる。特に、開始化合物として有機ヨウ化物を用いるリビングラジカル重合の場合、末端成長基であるヨウ素原子が第3級の炭素原子に結合していることが好ましい。このため、A−Bブロックコポリマーは、メタクリレート系モノマー単位を90質量%以上含む。
【0020】
メタクリレート系モノマー単位は、例えば、メタクリレート系モノマーを重合することで形成される。メタクリレート系モノマー単位の含有量が多いと、A−Bブロックコポリマーのガラス転移温度が高くなり、耐熱性等の熱的性質が向上する。なかでも、A−Bブロックコポリマーは、メタクリレート系モノマー単位の含有量が100質量%であることが好ましい。
【0021】
メタクリレート系モノマーとしては、従来公知のメタクリレート系モノマーを用いることができる。メタクリレート系モノマーとしては、例えば、メタクリル酸;メチル、エチル、プロピル、ブチル、アミル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イソステアリル、ベヘニル、シクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、t−ブチルシクロヘキシル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、イソボルニル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、ジシクロペンテニロキシエチル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、グリシジル等の置換基を有する単官能メタクリレートを挙げることができる。
【0022】
ポリマー鎖A(以下、単に「A鎖」とも記す)は、アミン価が0.5mgKOH/g以下、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が3,000〜15,000のポリマーブロックである(要件(2))。ポリマー鎖Aは有機溶媒に溶解しうるポリマーブロックであり、導電性材料を有機溶媒へ親和させるとともに、その立体反発や電気的反発によって有機溶媒中に分散した導電性材料の再凝集を抑制する機能を有する。
【0023】
ポリマー鎖Aのアミン価は0.5mgKOH/g以下であり、好ましくは0.1mgKOH/g以下、さらに好ましくは0mgKOH/gである。アミン価が0mgKOH/gである場合には、ポリマー鎖Aはアミノ基を実質的に有しないことを意味する。一方、ポリマー鎖B(以下、単に「B鎖」とも記す)は、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有する。これらのアミノ基や第4級アンモニウム塩基が、イオン結合、電気的作用、水素結合、π−πスタッキング、又は疎水性相互作用等によって導電性材料に結合することで、ポリマー鎖Bは導電性材料に吸着すると考えられる。しかし、ポリマー鎖Aが一定量を超えるアミノ基を有していると、ポリマー鎖Aも導電性材料に積極的に吸着しやすくなるので、分散性や保存安定性が低下する傾向にある。
【0024】
GPCにより測定されるポリマー鎖Aのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、3,000〜15,000であり、好ましくは4,000〜10,000である。A−Bブロックコポリマーを構成するポリマーブロックのうち、ポリマー鎖Bが導電性材料に吸着し、ポリマー鎖Aが有機溶媒に親和及び溶解する。これにより、導電性材料を有機溶媒中に分散させることができる。ポリマー鎖Aは、その立体反発等によって導電性材料どうしの再凝集を抑制する機能を発揮しうる分子量のポリマーブロックであることを必要する。このため、ポリマー鎖Aの数平均分子量が3,000未満であると、立体反発等が不足し、分散安定性が不十分になる。一方、ポリマー鎖Aの数平均分子量が15,000超であると、分散液の粘度が過度に高くなる又は有機溶媒に溶解しにくくなるとともに、形成される塗膜の導電性が低下する場合がある。
【0025】
ポリマー鎖Aは、(i)オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノメタクリレート単位(a−1)、及び(ii)オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜18)エーテルメタクリレート単位(a−2)の少なくともいずれかを含むことが好ましい。これにより、ポリマー鎖Aの親水性が向上するとともに、親水性が向上したポリマー鎖Aが水分を保持しやすくなるので、形成される塗膜の導電性をより高めることができる。また、導電性ポリマーをアルカリ金属塩と組み合わせると、アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属イオンが導電性ポリマーのオキシエチレン鎖(ポリエチレングリコール鎖)に配位し、イオン伝導性を示す塗膜を形成することができる。
【0026】
ポリエチレングリコールモノメタクリレートやポリエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜18)エーテルメタクリレート中のオキシエチレン単位の繰り返し数nは、好ましくは3〜10であり、さらに好ましくは4〜8である。また、A鎖中の構成単位(a−1)及び構成単位(a−2)の含有量は、1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。これらの構成単位の割合が多すぎると、ポリマーの親水性が高くなりすぎることがあるので、吸水しやすくなったり、形成される塗膜の耐水性が低下したりする場合がある。
【0027】
ポリマー鎖Bは、下記一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)を含む、アミン価が0〜150mgKOH/gのポリマーブロックである(要件(3))。導電性ポリマー(A−Bブロックコポリマー)中のポリマー鎖Bの含有量は、50〜80質量%であることが好ましい。
【0028】
(一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、相互に独立に、炭素数1〜18のアルキル基、アルケニル基、又はアリルメチル基を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1〜8のフッ化アルキル基を示す)
【0029】
一般式(1)で表される官能基は、特定の対アニオンを含む第4級アンモニウム塩基である。この官能基はイオン性であって、導電性を発揮する官能基である。この第4級アンモニウム塩基は水溶解性が低いとともに、有機溶媒、なかでも低〜中極性の有機溶媒に溶解しやすい。一般式(1)中、X
1及びX
2で表されるフッ化アルキル基の炭素数が8超であると、フッ化アルキル基(パーフルオロアルキル基)の撥水性が高くなりすぎるため、用いる有機溶媒の種類が制限される可能性がある。一般式(1)中のX
1及びX
2で表されるフッ化アルキル基の炭素数は、1〜4であることが好ましい。フッ化アルキル基の炭素数が1〜4であると、イオン性の第4級アンモニウム塩でありながら、低極性の有機溶媒、さらには非プロトン性の有機溶媒に溶解しやすくなる。また、このようなイオン性の第4級アンモニウム塩とすることで、電気的作用又はイオン的作用でナノカーボン材料等の導電性材料に吸着しやすくなり、導電性材料の分散性を向上させることができる。
【0030】
第4級アンモニウムカチオンの対アニオンとしては、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホン)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドアニオン、ビス(2,2,2−トリフルオロエチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロプロピルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロブチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロオクチルスルホン)イミドアニオン、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンイミドアニオン等を挙げることができる。なかでも、有機溶媒への溶解性や入手のしやすさ等の観点から、炭素数がさほど多くないパーフルオロアルキル基を有するアニオンが好ましく、ビス(トリフルオロメチルスルホン)イミドアニオン、ビス(パーフルオロブチルスルホン)イミドアニオンがさらに好ましい。
【0031】
ポリマー鎖Bは、一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマーを構成成分とするポリマーブロックである。一般式(1)で表される官能基は、任意の有機基に結合している。上記のメタクリレート系モノマーは、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートやジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基含有メタクリレートのアミノ基に4級化剤を反応させ、アミノ基を第4級アンモニウム塩基とすることで形成される。例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレートに塩化ベンジルを反応させることで、ベンジルジメチル−2−メタクロイルオキシエチルアンモニウムの塩化物塩とすることができる。
【0032】
第4級アンモニウム塩基は、上記以外の方法によっても形成することができる。具体的には、以下に示す(i)〜(iii)の方法等を挙げることができる。
(i)グリシジル基を有するメタクリレートやイソシアナトエチルメタクリレート等に、1級又は2級アミノ基と、第3級アミノ基とを有する化合物を反応させて第3級アミノ基を導入した後、この第3級アミノ基を第4級アンモニウム塩基とする。
(ii)グリシジル基を有するメタクリレートに第3級アミンを反応させて第4級アンモニウム塩基とする。
(iii)3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のハロゲン化アルキル基を有するメタクリレートに第3級アミンを反応させて第4級アンモニウム塩基とする。
【0033】
一般式(1)中、「−N
+(−R
1)(−R
2)(−R
3)」で表される第4級アンモニウムカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、ブチルジメチルアンモニウムカチオン、ジエチルメチルアンモニウムカチオン、ブチルジエチルアンモニウムカチオン、ジプロピルメチルアンモニウムカチオン、ジブチルメチルアンモニウムカチオン、ベンジルジメチルアンモニウムカチオン、ベンジルジエチルアンモニウムカチオン、ベンジルジプロピルアンモニウムカチオン、ベンジルジブチルアンモニウムカチオン、ジメチル(ナフチルメチル)アンモニウムカチオン、ジメチル(アントラセニルメチル)アンモニウムカチオン、ジメチル(ピレンメチル)アンモニウムカチオン等を挙げることができる。
【0034】
一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)の含有量は、ポリマー全体を基準として、30〜80質量%である(要件(4))。一般式(1)で表される官能基を有するメタクリレート系モノマー単位(b)の含有量(以下、単に「単位(b)の含有量」とも記す)を上記の範囲とすることで、形成される塗膜の導電性をさらに向上させることができる。なお、単位(b)の含有量は、ポリマー全体を基準として、50〜70質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
ポリマー鎖Bは、メタクリレート系モノマー単位(b)のみで実質的に構成されていてもよく、メタクリレート系モノマー単位(b)以外の構成単位(その他の構成単位)をさらに有していてもよい。その他の構成単位としては、前述のメタクリレート系モノマーに由来する構成単位等を挙げることができる。なかでも、ポリマー鎖Bは、アミノ基を有するメタクリレート系モノマーに由来する構成単位をさらに含むことが好ましい。ポリマー鎖Bにアミノ基が導入されていると、導電性材料との吸着性をさらに高めることができ、導電性材料の分散安定性をより向上させることができる。特に、その表面にカルボキシ基、スルホン酸基、又はリン酸基等の酸性基を有するナノカーボン材料等の導電性材料と併用する場合、これらの酸性基とイオン結合するので、導電性材料とポリマーとの吸着性が向上するとともに、導電性材料からのポリマー(高分子分散剤)の脱離が抑制されるので、導電性材料の分散安定性をさらに向上させることができる。
【0036】
ポリマー鎖Bのアミン価は、0〜150mgKOH/gであり、好ましくは100mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。ポリマー鎖Bのアミン価が150mgKOH/g超であると、アミノ基の量が多すぎるので、ポリマー鎖Bが親水性になりやすい。また、ポリマーが隣接する導電性材料の粒子にまたがって吸着しやすくなるので、凝集剤として機能してしまうことがあるとともに、着色等の問題が生ずる場合がある。
【0037】
ポリマー鎖Bの分子量は、ポリマー鎖B中の第4級アンモニウム塩基の含有量や、ポリマー鎖Aの分子量等を勘案して設計すればよい。具体的には、GPCにより測定されるポリスチレン換算のポリマー鎖Bの数平均分子量Mnは、500〜15,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明の導電性ポリマーは、ナノカーボン材料等の粒子状の導電性材料を有機溶媒中に分散させるための高分子分散剤として用いることができる。そして、この導電性ポリマー自体が導電性を示すので、分散させる導電性材料の導電性が損なわれにくく、良好な導電性を有する塗膜等の物品を形成可能な分散液(導電性ポリマー組成物)とすることができる。具体的には、導電性ポリマーの体積抵抗率は1×10
10Ω・cm未満であり、好ましくは5×10
9Ω・cm未満である。なお、本明細書におけるポリマーの体積抵抗率は、ポリマーを乾燥して得られるフィルム等の固体の体積抵抗率である。
【0039】
導電性ポリマー(A−Bブロックコポリマー)は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。なかでも、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合、リビングラジカル重合によって製造することができ、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合によって製造することが好ましい。リビングラジカル重合には、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP法)、ニトロキサイドを介したラジカル重合(NMP法)、可逆的付加解裂連鎖移動重合(RAFT法)、有機テルル系リビングラジカル重合(TERP法)、可逆的移動触媒重合(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合(RCMP法)等がある。なかでも、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。これらの方法は、比較的安全な市販の化合物を使用するが、重金属や特殊な化合物を使用しない方法であることから、コスト面で有利であるとともに、精製や処理の簡便さの面でも有利である。さらに、末端成長基であるヨウ素原子が第3級の炭素原子に結合しているため、特定のブロック構造を有するA−Bブロックコポリマーを一般的な設備で精度よく容易に製造することができるために好ましい。
【0040】
無溶剤、溶液重合、及び乳化重合等のいずれの重合形式によってA−Bブロックコポリマーを製造してもよい。なかでも、溶液重合が好ましい。溶液重合で用いる溶剤は、導電性ポリマー組成物に用いる有機溶媒と同一であることが好ましい。重合後のA−Bブロックコポリマー溶液の状態で、A−Bブロックコポリマーを取り出すことなく、そのまま用いることができるためである。上記のRTCP法やRCMP法は、導電性ポリマー組成物に用いる有機溶媒中で実施することができる。
【0041】
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bのいずれのポリマーブロックを先に重合してもよいが、先にポリマー鎖Aを重合した後、後でポリマー鎖Bを重合することが好ましい。先にポリマー鎖Bを重合すると、重合率が100%未満であった場合に、残存したモノマーに由来する構成単位が、後で重合するポリマー鎖Aに導入されてしまう可能性があるためである。第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを重合することで、ポリマー鎖Bに第4級アンモニウム塩基を導入することができる。また、アミノ基を有するメタクリレートを重合した後、4級化剤を反応させることでも、ポリマー鎖Bに第4級アンモニウム塩基を導入することができる。さらに、対アニオンがハロゲン化物イオンである第4級アンモニウム塩を形成しておき、特定の対アニオンを持った金属塩を添加してイオン交換することでも、ポリマー鎖Bに第4級アンモニウム塩基を導入することができる。
【0042】
<導電性ポリマー組成物>
本発明の導電性ポリマー組成物は、前述の導電性ポリマー、有機溶媒、及びアルカリ金属塩を含有する組成物である。この導電性ポリマー組成物を基材等に塗布及び乾燥させることで、導電性膜を形成することができる。このようにして形成される導電性膜は、例えば、リチウムイオン電池、全固体電池、及び太陽電池等の電池の構成材料や、フレキシブル基板、ICチップ保護剤、及び防曇性皮膜等として有用である。
【0043】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、導電性ポリマーを溶解しうる従来公知の有機溶媒を用いることができる。なお、有機溶媒には少量の水が含まれていてもよい。有機溶媒としては、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ドデカノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸ジメチル等のエステル系溶媒;ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶媒;テトラメチルウレア、ジメチルイミダゾリジノン等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールジエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルモノエーテルエステル系溶媒;等を挙げることができる。
【0044】
また、(メタ)アクリル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、エポキシ化合物、オキセタン化合物等の反応性モノマーを有機溶媒として用いることができる。反応性モノマーを有機溶媒として用いることで、紫外線硬化性又は電子線硬化性のインクやコーティング剤に適用可能な組成物とすることができる。
【0045】
有機溶媒としては、非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。さらには、有機溶媒は、非プロトン性の低極性溶媒及び非プロトン性の非極性溶媒を含有するが、プロトン性溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。非プロトン性溶媒は、プロトン(H
+)化する水素原子を有しない溶媒である。また、非プロトン性溶媒の極性は、20〜25℃の温度条件下における比誘電率で定義することができる。非プロトン性溶媒の比誘電率は20以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましい。その比誘電率が20以下の非プロトン性溶媒としては、酢酸エチル(6.0)、酢酸ブチル(5.0)、シクロヘキサノン(18.3)、メチルエチルケトン(18.5)、テトラヒドロフラン(7.5)、トルエン(2.4)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(8.0)、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(13)、アクリル酸ブチル(5.1)等を挙げることができる(括弧内の数値は25℃における比誘電率を示す)。非プロトン性溶媒の比誘電率は、実測値であってもよいし、メーカーのカタログやインフォメーション、溶剤ポケットブックなどの文献、化学便覧、化学大辞典等に記載されている値であってもよい。
【0046】
非プロトン性溶媒、なかでも非プロトン性の低極性溶媒及び非プロトン性の非極性溶媒には、イオン性基である第4級アンモニウム塩基を有する一般的なポリマーは溶解しにくい。このため、第4級アンモニウム塩基を有する一般的なポリマーを溶解させるには、通常、プロトン性の極性溶媒を用いる。これに対して、本発明の導電性ポリマー組成物に用いるポリマーは、特定の対アニオンを持った第4級アンモニウム塩基を有するため、非プロトン性溶媒にも溶解しやすく、ナノカーボン材料等の導電性材料を安定した状態で分散させることができる。さらに、非プロトン性溶媒を用いることで、インクや塗料などの乾燥性、吸湿性、作業性等を向上させることができるとともに、他の反応性物質との混合が容易になる等の利点がある。
【0047】
導電性ポリマー中の導電性ポリマーの含有量や有機溶媒の含有量は、特に限定されない。ポリマーや有機溶媒の含有量は、導電性ポリマー組成物の用途や使用時の粘度等に応じて適宜設定することができる。
【0048】
(アルカリ金属塩)
導電性ポリマー組成物は、アルカリ金属塩を含有する。アルカリ金属塩はポリマーと親和するので、アルカリ金属塩を含有させることで、有機溶媒中にポリマーを溶解させることができる。また、導電性ポリマーを構成するポリマー鎖Aが、ポリエチレングリコールモノメタクリレート単位(a−1)及びポリエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜18)エーテルメタクリレート単位(a−2)の少なくともいずれかを含む場合、アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属イオンが導電性ポリマーのオキシエチレン鎖に配位するので、導電率がさらに向上した塗膜を形成可能な導電性ポリマー組成物とすることができる。
【0049】
アルカリ金属塩は、一般的に、アルカリ金属のカチオンとアニオンで構成される。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。アニオンとしては、炭素数1〜18のモノカルボン酸、炭素数1〜18のポリカルボン酸、スルホン酸(メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸)等の有機酸のアニオン;フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物アニオン;過塩素酸、硫酸、炭酸、硝酸、リン酸、重炭酸、チオシアン酸、テトラフルオロホウ酸、ジシアナミド、ヘキサフルオロリン酸などの無機酸のアニオン;等を挙げることができる。上記の炭素数1〜18のモノカルボン酸としては、酢酸、乳酸等を挙げることができる。上記の炭素数1〜18のポリカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができる。また、上記のスルホン酸としては、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等を挙げることができる。
【0050】
アルカリ金属塩のさらに具体的な例としては、ビス(フルオロアルカンスルホニル)イミド塩、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩、ビス(トリメチルシリル)アミド塩、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート塩;等を挙げることができる。
【0051】
アルカリ金属塩としては、下記一般式(2)で表される無機塩が好ましい。
【0052】
(一般式(2)中、Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示し、X
1及びX
2は、相互に独立に、フッ素原子又は炭素数1〜8のフッ化アルキル基を示す)
【0053】
一般式(2)中のMはリチウム原子であること、すなわち、リチウム塩を用いることが好ましい。リチウム塩は導電性ポリマーとの親和性が高いとともに、有機溶媒への溶解性も良好でる。また、イオン半径が小さいリチウム塩を用いることで、形成される塗膜の導電性やリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0054】
導電性ポリマー組成物中のアルカリ金属塩の含有量は、導電性ポリマーの含有量を基準として、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがさらに好ましい。アルカリ金属塩の含有量が多すぎると、有機溶媒に溶解しにくくなって「ブツ」と呼ばれる欠陥が塗膜に生成しやすくなるとともに、塗膜にブリードアウトしやすくなることがある。
【0055】
(導電性材料)
導電性ポリマー組成物は、無機の導電性材料をさらに含有することが好ましい。導電性ポリマーは導電性材料等の難分散性の微粒子を分散させるための高分子分散剤としても機能しうる成分であるため、導電性材料を配合することで、長期間の分散安定性に優れた導電性材料の分散液とすることができる。
【0056】
無機の導電性材料としては、カーボン系材料、金属系材料、金属酸化物系材料、金属硫化物系材料、金属や金属酸化物で被覆した有機材料等を挙げることができる。金属系材料としては、金、銀、白金、銅、鉄、ニッケルなどの貴金属のナノ粒子や金属粉末等を挙げることができる。金属酸化物系材料としては、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、複合酸化物であるアンチモンドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、インジウム−ガリウム−亜鉛系アモルファス酸化物等の透明電極用部材に用いられる材料;Li
7La
3Zr
2O
12、Li
3BO
3−Li
2SO
4、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3、Li
29PO
33N
0.46などの全固体リチウム電池部材に用いられる材料等を挙げることができる。金属硫化物系材料としては、Li
10GeP
2S
12、Li
6PS
5Cl、Li
9.54Si
1.74P
1.44S
11.7Cl
0.3などの全固体リチウム電池部材に用いられる材料等を挙げることができる。
【0057】
導電性ポリマー組成物に含有させる導電性ポリマーは、高分子分散剤として機能しうる成分であることから、難分散性のナノカーボン材料を分散させることができる。すなわち、無機の導電性材料として、ナノカーボン材料を用いることが好ましい。ナノカーボン材料としては、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン、カーボンナノホーン、カーボンナノリボン、カーボンフラーレン、炭素系量子ドット、ナノダイヤモンド等を用いることができる。なかでも、カーボンナノチューブ類及びナノグラフェン類の少なくともいずれかが、導電性及び熱伝導性等の特性に優れているために好ましい。
【0058】
カーボンナノチューブ類は、円筒形状に丸まったグラフェンシートで構成されるナノカーボン材料である。カーボンナノチューブ類としては、1層の円筒形状のグラフェンシートからなる単層カーボンナノチューブ(SWNT)や、複数の円筒形状のグラフェンシートが同心円状に積層した多層カーボンナノチューブ(MWNT)等がある。また、ナノグラフェン類は、ナノサイズのグラフェンシートそのものであり、1枚のグラフェンシートや、複数枚のグラフェンシートが積層した積層シート等がある。ナノカーボン材料の形状、大きさ、及び製造方法等については特に限定されない。ナノカーボン材料には、白金やパラジウム等の金属又は金属塩がドープされていてもよい。
【0059】
ナノカーボン材料は、その表面にカルボキシ基を有するナノカーボン材料であることが好ましい。高分子分散剤として機能しうる導電性ポリマーは、その分子構造中にアミノ基や第4級アンモニウム塩基等の塩基性基をその分子構造中に有するポリマーである。塩基性基を有するポリマーと、カルボキシ基を有するナノカーボン材料とを併用すると、塩基性基がカルボキシ基とイオン結合することで、ポリマーが顔料に吸着しやすくなる。これにより、ポリマーとナノカーボン材料との親和性が向上するので、ナノカーボン材料からのポリマーの脱離が抑制され、ナノカーボン材料の分散安定性がさらに向上するとともに、ナノカーボン材料の再凝集をより抑制することができる。
【0060】
カルボキシ基は、従来公知の方法によりナノカーボン材料の表面に導入することができる。具体的には、ナノカーボン材料の表面を(i)酸化処理する;(ii)シランカップリング剤などの処理剤で表面処理する;(iii)カルボキシ基を有する芳香族ジアゾニウム塩等で表面カップリング処理する;等の方法によってナノカーボン材料の表面にカルボキシ基を導入することができる。
【0061】
導電性ポリマー組成物が、ナノカーボン材料を無機の導電性材料として含有する場合、導電性ポリマー組成物中のナノカーボン材料の含有量は、組成物全体を基準として、15質量%以下であることが好ましく、1〜12質量%であることがさらに好ましい。ナノカーボン材料の含有量が15質量%超であると、導電性ポリマー組成物が増粘しやすく、均一な分散状態とすることが困難になることがある。一方、ナノカーボン材料の含有量が少なすぎる(例えば、0.01質量%以下である)と、ナノカーボン材料特有の性質や機能を十分に発現させることが困難になる傾向にある。
【0062】
導電性ポリマー組成物が、ナノカーボン材料を無機の導電性材料として含有する場合、ナノカーボン材料100質量部に対する、導電性ポリマーの含有量は、10〜200質量部であることが好ましく、20〜150質量部であることがさらに好ましく、30〜100質量部であることが特に好ましい。導電性ポリマーの含有量が少なすぎると、ナノカーボン材料を十分に分散させることが困難になる場合がある。一方、導電性ポリマーの含有量が多すぎると、導電性ポリマー組成物が増粘しやすいとともに、ナノカーボン材料の含有比率が相対的に低下する傾向にある。
【0063】
(その他の成分)
導電性ポリマー組成物には、従来公知の添加剤や樹脂等の成分(その他の成分)をさらに含有させることができる。添加剤としては、油溶性染料、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、光重合開始剤、その他の分散剤等を挙げることができる。樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリハロゲン化オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリフェノール樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂等を挙げることができる。
【0064】
(導電性ポリマー組成物の調製方法)
導電性材料を配合した導電性ポリマー組成物は、無機の導電性材料、有機溶媒、アルカリ金属塩、及び高分子分散剤として機能する導電性ポリマーを混合し、分散処理することで容易に調製することができる。例えば、ディスパー撹拌、三本ロールでの混練、超音波分散、ビーズミル分散、乳化装置、高圧ホモジナイザー等を用いる分散方法によって、導電性材料を分散した状態で含有する導電性ポリマー組成物を調製することができる。なかでも、導電性材料を分散させる効果が高いことから、ビーズミル分散、超音波分散、高圧ホモジナイザーを用いる方法によって調製することが好ましい。
【0065】
(導電性材料の分散状態の確認方法)
導電性ポリマー組成物中の無機の導電性材料の分散性については、以下に示すような分光光度計を用いる吸光度測定法によって確認することができる。まず、分光光度計を使用して、極低濃度かつ濃度既知の導電性材料の分散液の特定波長における吸光度を測定し、導電性材料の濃度に対して吸光度をプロットした検量線を作成する。次いで、導電性材料、有機溶媒、アルカリ金属塩、及び導電性ポリマーを混合及び分散処理した後、遠心分離処理して分散しきれない導電性材料を沈降分離するとともに、適当な濃度に希釈した上澄み液の吸光度を測定し、検量線から導電性材料の濃度を算出する。そして、導電性材料の仕込み量と、検量線から算出した導電性材料の濃度とを比較することで、導電性ポリマー組成物中の導電性材料の分散性を評価することができる。また、遠心分離後の導電性ポリマー組成物を長期間静置し、凝集物の有無を確認する方法によっても、導電性材料の分散性を評価することができる。さらに、ガラスプレート等に滴下した導電性ポリマー組成物の状態を、電子顕微鏡等を使用して確認してもよいし、作製した塗膜の電気導電率等の物性を測定し、所定の物性を示した塗膜を作製した導電性ポリマー組成物の分散性が良好であったと評価してもよい。
【0066】
<導電性ポリマー、導電性ポリマー組成物の使用>
本発明の導電性ポリマー及び導電性ポリマー組成物は、導電性材料を分散させることで、塗料、インキ、プラスチック成形体等の用途に用いることができる。さらには、電気伝導体や熱導電剤としての利用が期待される他、帯電防止材料としての応用も期待される。塗料組成やインキ組成となるように溶剤、樹脂、及び添加物等を導電性ポリマー組成物に添加することで、塗料やインキを調製することができる。また、市販の塗料やインキに導電性ポリマー組成物を添加しても、所望とする塗料やインキを調製することができる。また、溶融状態のプラスチックに導電性ポリマーを添加及び混練したり、導電性ポリマー組成物を混合した後に有機溶媒を除去したりすることで、導電性材料が分散したプラスチック成形体を製造することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0068】
<第4級アンモニウム塩基含有ポリマーの合成>
(合成例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管をセパラブルフラスコに取り付けた反応装置を用意した。この反応装置に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)134.9部、ヨウ素1.4部、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名「V−70」、富士フィルム和光純薬製)(V−70)4.9部、ジフェニルメタン(DPM)0.2部、メタクリル酸メチル(MMA)20.0部、メタクリル酸ブチル(BMA)22.7部、及びメタクリル酸2−エチルへキシル(EHMA)21.1部を入れ、窒素をバブリングしながら撹拌し、45℃に加温して4.5時間重合し、ポリマー(A鎖)を合成した。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は26.3%であり、それに基づいて算出した重合率は76.8%であった。テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPCにより測定した、A鎖の数平均分子量(Mn)は4,500、分散度(PDI)は1.23であった。
【0069】
次いで、V−70 1.9部、及びメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)62.8部を添加し、45℃に加温して4時間重合した。これにより、ポリマー(B鎖)を形成し、ブロックコポリマーであるポリマーNP−1を含有するポリマー溶液を得た。反応溶液の一部をサンプリングして測定した固形分は47.7%であり、それに基づいて算出した重合率は約100%であった。ポリマーNP−1のMnは5,100、PDIは1.36であった。なお、ポリマーNP−1のMnがそれほど増加しなかったのは、塩基性のアミノ基がカラムに吸着して厳密に測定できなかったためと推測される。ポリマーNP−1のアミン価(実測値)は、175.8mgKOH/gであった。ポリマーのアミン価は、試料約0.5部をトルエン/2−プロパノール混合溶媒(3/2(v/v))20部で希釈して均一化した後、ブロモフェノールブルーを指示薬とし、0.1N塩酸エタノール溶液を滴定溶液として用いて滴定し、測定及び算出した。
【0070】
室温まで冷却したポリマーNP−1にBDG116.4部を加えて希釈した後、塩化ベンジル(BzCl)49.5部及びBDG49.5部の混合溶液を30分間かけて滴下した。80℃に昇温して5時間反応させ、DMAEMAに由来するアミノ基を第4級アンモニウム塩化して、固形分38.3%であるポリマーCP−1の溶液を得た。ポリマーCP−1のアミン価(実測値)は約0mgKOH/gであり、ポリマーNP−1中のすべてのアミノ基が第4級アンモニウム塩基となったことを確認した。ポリマーCP−1中の第4級アンモニウムカチオンの対アニオンは、塩化物イオン(Cl
−)である。
【0071】
ポリマーCP−1 50部を水800部に添加して撹拌したところ、溶解して透明になった。次いで、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)12部及び水50部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。塩交換によって生じた、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI)を対イオンとする第4級アンモニウム塩の疎水性が高いため、析出物が生成したと推測される。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーFP−1)27.5部を得た。
【0072】
(合成例2及び3)
表1に示す組成及び組成比となるように各種モノマーを用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、第4級アンモニウム塩基含有ポリマーFP−2及びFP−3を得た。
【0073】
【0074】
(合成例4〜7)
表2に示す組成及び組成比となるように各種モノマーを用いたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、第4級アンモニウム塩基含有ポリマーFP−4、FP−5、FP−6、及びFP−7を得た。表2中、「PE350」は、オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名「ブレンマー(登録商標)PE−350」、日油社製)に由来する構成単位(a−1)である。また、「PME400」及び「PME200」は、いずれも、オキシエチレン単位の繰り返し数nが2以上であるポリエチレングリコールモノアルキルエーテルメタクリレート(それぞれ、商品名「ブレンマー(登録商標)PME−400」、商品名「ブレンマー(登録商標)PME−200」(いずれも日油社製))に由来する構成単位(a−2)である。
【0075】
【0076】
(合成例8)
ポリマーCP−1 33.2部を水600部に添加して撹拌し、ポリマーCP−1の水溶液を得た。得られた水溶液に、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiFSI)5.0部及び水27.5部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。塩交換によって生じた、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)を対イオンとする第4級アンモニウム塩の疎水性が高いため、析出物が生成したと推測される。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーFP−8)15.3部を得た。
【0077】
(比較合成例1)
ポリマーCP−1 73.4部を水1,100部に添加して撹拌し、ポリマーCP−1の水溶液を得た。得られた水溶液に、テトラフルオロホウ酸ナトリウム6.5部及び水30部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。塩交換によって生じた、テトラフルオロホウ酸アニオン(BF
4−)を対イオンとする第4級アンモニウム塩の疎水性が高いため、析出物が生成したと推測される。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーHP−1)26.8部を得た。
【0078】
(比較合成例2)
ポリマーCP−1 25.9部を水600部に添加して撹拌し、ポリマーCP−1の水溶液を得た。得られた水溶液に、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム3.5部及び水20部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。塩交換によって生じた、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF
6−)を対イオンとする第4級アンモニウム塩の疎水性が高いため、析出物が生成したと推測される。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーHP−2)10.4部を得た。
【0079】
合成例1及び8、比較合成例1及び2で得た第4級アンモニウム塩基含有ポリマーの物性と各種溶剤に対する溶解性を表3に示す。表3中の略号の意味は以下に示す通りである。
・MEK:メチルエチルケトン
・THF:テトラヒドロフラン
・PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
・KJCMPA:3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド
【0080】
また、表3中の「溶解性」の評価基準は以下に示す通りである。
○:可溶(透明溶液)
△:半透明溶液
×:不溶(沈殿)
【0081】
【0082】
表3に示すように、第4級アンモニウムカチオンの対アニオンがBF
4−やPF
6−であるポリマーHP−1及びHP−2は、各種の有機溶媒に溶解しにくい。このため、ポリマーHP−1及びHP−2を用いても、これらの有機溶媒中でナノカーボン類を分散させるのは実質的に不可能であることが分かる。
【0083】
(合成例9)
ポリマーNP−1 240部にBDG63.4部を加えて希釈した後、BzCl30.3部及びBDG30.3部の混合溶液を30分間かけて室温条件下で滴下した。80℃に昇温して5時間反応させ、DMAEMAに由来するアミノ基の75%を第4級アンモニウム塩化して、ポリマーCP−2を得た。ポリマーCP−2のアミン価(実測値)は33.6mgKOH/gであった。このことから、約75%のアミノ基が理論通りに第4級アンモニウム塩基となったことを確認した。得られたポリマーCP−2 66部を水1,000部に添加して撹拌し、ポリマーCP−2の水溶液を得た。得られた水溶液にLiTFSI12.5部及び水50部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーFP−9)32.1部を得た。得られたポリマーFP−9のアミン価(実測値)は25.7mgKOH/gであった。
【0084】
(合成例10)
ポリマーNP−1 300部にBDG50.1部を加えて希釈した後、BzCl25.3部及びBDG25.3部の混合溶液を30分間かけて室温条件下で滴下した。80℃に昇温して5時間反応させ、DMAEMAに由来するアミノ基の50%を第4級アンモニウム塩化して、ポリマーCP−3を得た。ポリマーCP−3のアミン価(実測値)は72.2mgKOH/gであった。このことから、約50%のアミノ基が理論通りに第4級アンモニウム塩基となったことを確認した。得られたポリマーCP−3 76.8部を水1,000部に添加して撹拌し、ポリマーCP−3の水溶液を得た。得られた水溶液にLiTFSI11部及び水50部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーFP−10)37.2部を得た。得られたポリマーFP−10のアミン価(実測値)は56.3mgKOH/gであった。
【0085】
(比較合成例3)
ポリマーNP−1 240部にBDG35部を加えて希釈した後、BzCl10.1部及びBDG10.1部の混合溶液を30分間かけて室温条件下で滴下した。80℃に昇温して5時間反応させ、DMAEMAに由来するアミノ基の25%を第4級アンモニウム塩化して、ポリマーCP−4を得た。ポリマーCP−4のアミン価(実測値)は117.0mgKOH/gであった。このことから、約25%のアミノ基が理論通りに第4級アンモニウム塩基となったことを確認した。得られたポリマーCP−4 77.1部を水1,200部に添加して撹拌し、ポリマーCP−4の水溶液を得た。得られた水溶液にLiTFSI6.0部及び水40部の混合液を滴下したところ、系が白濁して析出物が生成した。析出物を吸引ろ過した後、水で洗浄及び乾燥して、白色固体である第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(ポリマーHP−3)33.0部を得た。得られたポリマーHP−3のアミン価(実測値)は103.2mgKOH/gであった。
【0086】
合成例1、9、及び10、比較合成例3で得た第4級アンモニウム塩基含有ポリマーの詳細を表4に示す。
【0087】
【0088】
<ポリマー(塗膜)の導電性評価>
(実施例1〜10、比較例1及び2)
ポリマーFP−1〜FP−10、HP−3、及びNP−1をそれぞれPGMAcに溶解させ、固形分約20%のPGMAc溶液を調製した。厚さ100μmのPETフィルムの表面に、バーコーターを用いてPGMAc溶液をそれぞれ塗工した後、85℃で12時間乾燥させて塗膜を形成した。25℃、相対湿度50%の条件下で形成した塗膜の体積抵抗率を測定した。結果を表5に示す。
【0089】
【0090】
<グラフェン分散液の調製及び評価(1)>
(実施例11)
薄層グラフェン(商品名「N006−P」、石原ケミカル社製)5.0部、ポリマーFP−1 5.0部、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート(商品名「ソルフィットAC」、クラレ社製)90部、及びジルコニアビーズ(直径0.8mm)150部をプラスチック製のボトルに入れ、スキャンデックスを使用して1時間分散処理した。その結果、グラフェンの凝集状態がほぐれ、低粘性のグラフェン分散液−1を得ることができた。E型粘度計を使用し、100rpm、25℃の条件で測定したグラフェン分散液−1の粘度は、39.9mPa・sであった。厚さ100μmのPETフィルムの表面に、アプリケーターを用いてグラフェン分散液−1を塗工した後、85℃で12時間乾燥させて、膜厚15.83μmの塗膜を形成した。25℃、相対湿度50%の条件下で測定した塗膜の体積抵抗率は、2.20×10
−2Ω・cmであった。
【0091】
(実施例12〜20、比較例3及び4)
表6に示す種類の第4級アンモニウム塩基含有ポリマー(高分子分散剤)を用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にしてグラフェン分散液−2〜12を調製した。そして、調製したグラフェン分散液−2〜12をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして塗膜を形成するとともに、各物性値を測定した。結果を表6に示す。
【0092】
【0093】
表6に示すように、すべてのグラフェン分散液が低粘度であることから、高分子分散剤によってグラフェンの凝集状態がほぐれ、有機溶媒中にグラフェンを分散させることができたと考えられる。また、グラフェン分散液−1〜10を用いて形成した塗膜の体積抵抗率が、グラフェン分散液−11及び12を用いて形成した塗膜の体積抵抗率に比して、顕著に低いことが分かる。これは、グラフェン分散液−1〜10を調製するのに用いた高分子分散剤(第4級アンモニウム塩基含有ポリマー)自体が導電性を示し、グラフェンの導電性を阻害することなく有機溶媒中にグラフェンを分散させることができたためであると考えられる。
【0094】
<グラフェン分散液の調製及び評価(2)>
(実施例21〜24)
グラフェン分散液−1、2、5、及び6に、高分子分散剤(第4級アンモニウム塩基含有ポリマー)の5%となる量のLiTFSIをそれぞれ添加し、撹拌して溶解させて、グラフェン分散液−13〜16を得た。そして、得られたグラフェン分散液−13〜16をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例11と同様にして塗膜を形成するとともに、各物性値を測定した。結果を表7に示す。
【0095】
【0096】
表7に示すように、グラフェン分散液−5とグラフェン分散液−15、及びグラフェン分散液−6とグラフェン分散液−16をそれぞれ比較すると、LiTFSIを添加したことで、形成される塗膜の体積抵抗率が顕著に低下したことが分かる。これは、高分子分散剤として用いたポリマーFP−5やFP−6を構成するA鎖中のポリエチレングリコール鎖がアルカリ金属塩(LiRFSI)を錯体のように取り込むとともに、取り込まれたアルカリ金属塩によって、導電性がさらに向上したためであると推測される。
【0097】
<カーボンナノチューブ分散液の調製>
(実施例25)
カーボンナノチューブ(平均径:15nm、平均長:3.0μm、MWNT、表面酸化処理して酸性表面としたもの)(CNT)2.0部、PGMAc91.6部、及びポリマーFP−1 5.0部をプラスチック製のボトルに入れた。CNTは湿潤したが、当初の形状のままボトルの底に沈んでおり、上層は透明であった。ボトルに撹拌子を入れ、マグネチックスターラーを使用して撹拌するとともに、超音波分散機を使用し、出力300Wで60分間超音波を照射した。これにより、系内は均一な黒色となり、CNTの凝集状態がほぐれた状態となった。十分に分散しなかったCNTの固形物を遠心分離して沈降分離して、CNT分散液−1を得た。
【0098】
(実施例26)
ポリマーFP−1に代えてポリマーFP−10を用いたこと以外は、前述の実施例25と同様にして、CNT分散液−2を得た。
【0099】
<カーボンナノチューブ分散液の評価>
CNT分散液−1及び2をそれぞれサンプル瓶に入れて密栓し、45℃の恒温槽に入れて1週間放置した。その結果、サンプル瓶の底にはほとんど沈降物がなく、いずれも良好な分散性を示していた。さらに1ヶ月放置したところ、CNT分散液−1については若干の沈降物が生じたとともに、透明な上澄み液も若干生じていた。一方、CNT分散液−2については、沈降物も上澄み液も生じていなかった。これは、ポリマーFP−10のアミノ基がCNTのカルボキシ基とイオン結合し、ポリマーFP−10がCNTに強く吸着することで良好な分散性を示したためであると考えられる。