【実施例1】
【0017】
[吊り足場について]
本発明の遮水部材1を適用する吊り足場Bは、水平に配置した平板状の足場板B1と、遮水部材1を介して足場板B1を吊下する複数の吊りチェーンB2と、を少なくとも有する。
足場板B1は、上下に連通した複数の取付孔B3を有し、足場板B1の下方から取付孔B3を通って環状の吊り金具B4が上方へ突出する(
図4)。
本例では、足場板B1として、幅方向に連結した複数のアルミパネルを採用する。
吊りチェーンB2は、足場板B1の幅方向に沿って複数配置して一列とし、これを足場板B1の長手方向に沿って複数列配列する(
図3)。
【0018】
[遮水部材]
<1>全体の構成(
図1)。
本発明の吊り足場の遮水部材1は、吊りチェーンB2を伝い下りる水を導水ジョイント10から排水カバー20上に誘導して外側に排除することで、取付孔B3からの落水を防止する部材である。
遮水部材1は、吊りチェーンB2と吊り金具B4を接続する導水ジョイント10と、導水ジョイント10の外周を包持して下方を覆う排水カバー20と、を少なくとも備える。
【0019】
<2>導水ジョイント(
図2)。
導水ジョイント10は、吊りチェーンB2から伝い下りた水を導水部11a上へ誘導する構成要素である。
導水ジョイント10は、長尺状の棒状部11と、棒状部11の一端に設けた吊下部12と、棒状部11の他端に設けた連結部13と、を少なくとも有する。
吊下部12は、吊りチェーンB2と連結する部材である。本例の吊下部12は環状を呈し、棒状部11の長軸と直交する軸を中心に回動可能に棒状部11の上部に接続する。
連結部13は、吊り金具B4と連結する部材である。本例の連結部13はフック構造を備え、棒状部11の長軸を中心に回動可能に棒状部11の下部に接続する。
なお、吊下部12と連結部13の構造は上記に限らず、吊りチェーンB2と吊り金具B4とに連結可能であれば、環状構造やフック構造以外の構造であってもよい。また、接続部の回動方向は上記と異なっていてもよいし、固定式であってもよい。
【0020】
<2.1>棒状部。
棒状部11は、吊下部12と連結部13を接続する棒状の部材である。
棒状部11は、少なくとも一定長が、同一断面の直線状を呈する導水部11aを構成する。「同一断面の直線状」とは、同一の断面形状が直線状に連続して構成される形状である。具体的には、正円柱形状、楕円柱形状、角柱形状等を意味し、その表面は柱面又は平面を構成する。
本例では棒状部11として、正円柱形状の導水部11aを有する鋼製の棒材を採用する。
棒状部11が導水部11aを備えることで、後述する排水カバー20を、導水部11aの周面に一定長にわたって面状に密着させることができる。これによって、棒状部11の上部から下部への水の流れを、高度に遮断することが可能となる。
【0021】
<3>排水カバー(
図2)。
排水カバー20は、吊り金具B4の上方を被覆して、導水ジョイント10を伝い下りる水を吊り金具B4の外側へ排出する構成要素である。
排水カバー20は、遮水性を有するカバー本体21と、導水部11aの周面を密着して包持可能な襟部22と、を少なくとも有する。
本例では排水カバー20として、矩形のカバー本体21を前面と背面に折り返して形成した峰の中央に襟部22を設け、カバー本体21前面に襟部22から裾にかけて直線状の開放部を設け、開放部の両側に重ね合わせ可能な2つの前襟21aを構成したマント状の構造を採用する。
この他、排水カバー20は、襟部22側からカバー本体21の裾側に向かって略円錐状に広がるスカート構造等であってもよい。
本例では、排水カバー20が、カバー本体21の前襟21aを閉じた状態で固定する封鎖手段23と、襟部22を外側から結束する結束手段24と、をさらに備える。
【0022】
<3.1>カバー本体。
カバー本体21は、少なくとも表面が遮水素材からなるシート部材である。
本例ではカバー本体21として、ポリエステル繊維を軟質の合成樹脂フィルムで挟んだターポリンシートを採用する。ただし材質はこれに限られず、遮水性を備えていれば他の素材であってもよい。また、軟質の素材に限らず、アクリル樹脂などの硬質の素材を採用してもよい。
【0023】
<3.2>襟部。
襟部22は、導水部11aの周面を包持する部材である。
襟部22は、内側に包持面22aを有する。
襟部22を導水部11aの外周に巻き付けることで、導水部11aの周面に包持面22aを接面密着させて、棒状部11上を伝い下りる水の流れを遮断する。
本例では、包持面22aに帯状の止水ゴムを付設する。襟部22を導水部11aの周囲に緊密に巻き付けると、包持面22aの止水ゴムが弾性変形して導水部11aの表面を押し付けることで導水部11aに密着し、遮水性が更に向上する。
【0024】
<3.3>封鎖手段。
封鎖手段23は、排水カバー20の前襟21aを閉じた状態で固定する部材である。
本例では封鎖手段23として、2つの前襟21aの対向する面にそれぞれ付設した雄雌の面ファスナーを採用する。
導水部11aを襟部22で包持した後に、前襟21aを封鎖手段23で閉じることで、棒状部11の下部を封鎖して、飛散水から保護することができる(
図4)。
なお封鎖手段23は面ファスナーに限らず、マグネット、スナップボタン、粘着テープ等であってもよい。
【0025】
<3.4>結束手段。
結束手段24は、襟部22を結束する部材である。
本例では結束手段24として、ステンレス製のホースバンドを採用する。この他、結束バンド、縛り紐等を採用してもよい。
導水部11aを包持した状態で、襟部22を外側から結束することで、導水部11aの周面と包持面22aとを密着した状態に維持することができる。
また、本例の結束手段24は襟部22と独立した部材であるが、結束手段24は、襟部22に設けたベルト構造、面ファスナー、粘着テープ、ロープ等であってもよい。
【0026】
<4>遮水構造(
図3)。
本発明の遮水構造Aは、吊りチェーンB2を伝い下りる水を吊りチェーンB2の直下から排除して取付孔B3からの落水を防止する構造である。
遮水構造Aは、吊り足場Bの吊りチェーンB2と吊り金具B4とを、遮水部材1を介して上下に連結してなる。
吊りチェーンB2の表面に付着した水は、吊りチェーンB2の表面から、吊下部12を経由して棒状部11へと伝い下りる。
伝い下りた水が、棒状部11の導水部11aへ至ると、導水部11aと襟部22との面状の密着部を経由して、排水カバー20のカバー本体21上に誘導され、カバー本体21に沿って取付孔B3の外側へ伝い下り、カバー本体21の裾から下方の遮水シートC上に落水する(
図4)。
なお、遮水シートC上に落水した水は、遮水シートCの端部を上方に傾斜させておいたり、取付孔B3の周囲をウエス等で囲んでおくことで、取付孔B3に流れ込むのを防ぐことができる(不図示)。
以上の構成により、吊りチェーンB2の直下を、吊りチェーンB2を伝い下りた水から高度に遮断し、取付孔B3からの落水を防止することができる。
遮水シートC上に溜まった水は、遮水シートC上に敷いたウエスで吸水したりポンプで集水するなどの適宜の方法によって容易に処分可能である。
【実施例2】
【0027】
[ターンバックル構造を採用した例]
本例では、導水ジョイント10が吊りチェーンB2の弛み量を調整可能なターンバックル構造を有する(
図5)。
棒状部11が、上棒状部11bと下棒状部11cからなる分離構造からなり、両者を調節部14が連結する。
上棒状部11b及び下棒状部11cは、それぞれ先端の周面にネジ溝を有する。
調節部14は、内部に空間を有する枠体14aと、枠体14aの上部及び下部から枠体14aの内部へ連通する2つの連結孔14bと、連結孔14bに挿通した上棒状部11b及び下棒状部11cに螺着可能な2つの螺着部14cと、を備える。
本例では、矩形の枠体14aの上面と下面に連結孔14bを穿設し、枠体14a内側の連結孔14bに対応する位置にナットを溶接して螺着部14cとする。
上棒状部11b及び下棒状部11cをそれぞれ上方及び下方から連結孔14b内に挿通し、上棒状部11b及び下棒状部11cの先端を螺着部14cに螺着する。
上棒状部11bと下棒状部11cのネジ溝は、先端方向に向かって逆向きに刻設する。すなわち一方を正ネジ、他方を逆ネジとする。
吊り足場Bは、面状の足場板B1を複数の吊りチェーンB2で吊り下ろす構造であるため、複数の吊りチェーンB2の取付長さに差があると、比較的長い一部の吊りチェーンB2に弛みが生じ、他の吊りチェーンB2に荷重が集中する。
このような場合、弛みのある吊りチェーンB2に連結した遮水部材1の枠体14a内にラチェットレンチ等を差し入れ、水平方向に回転させることで、上棒状部11bと下棒状部11cの間隔を狭め、吊りチェーンB2の弛みを解消することができる。
これによって、足場板B1の荷重を全ての吊りチェーンB2に均等に負担させることが可能となる。
また、ターンバックル構造を利用して足場板B1に僅かな傾斜をつけることで、足場板B1上の水の流れを一方向に誘導し、排水処理を容易にすることができる。