(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-76410(P2021-76410A)
(43)【公開日】2021年5月20日
(54)【発明の名称】肺がん罹患のリスクを評価するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20210423BHJP
G01N 33/70 20060101ALI20210423BHJP
【FI】
G01N33/50 A
G01N33/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-201322(P2019-201322)
(22)【出願日】2019年11月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】519396175
【氏名又は名称】公益財団法人浜松市医療公社
(71)【出願人】
【識別番号】507129444
【氏名又は名称】一般財団法人浜松光医学財団
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【弁理士】
【氏名又は名称】望月 祐子
(72)【発明者】
【氏名】本澤 克
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB03
2G045DA08
2G045DA42
2G045FB12
2G045FB16
(57)【要約】
【課題】本発明は、肺がん罹患リスクを評価するための、新たな方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、被験者の肺がん罹患のリスクを評価するための方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、
被験者の肺がん罹患のリスクを評価するための方法。
【請求項2】
被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、
被験者が肺がんに罹患している、又は、被験者が肺がんに罹患している可能性があると判定するためのデータを収集する方法。
【請求項3】
被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を定量する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量と、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量とを比較する工程をさらに備え、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量よりも高いことは、被験者が肺がんに罹患している、又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量と、予め設定された参照値とを比較する工程をさらに備え、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、前記参照値よりも高いことは、被験者が肺がんに罹患している、又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
比較する工程において、o−アミノ馬尿酸量として、試料に含まれる基準物質、又は、基準となる試料の物性に基づいて較正した値を用いる、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
基準物質がクレアチニンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
基準となる試料の物性が、浸透圧又は比重である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
試料が、尿試料である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
o−アミノ馬尿酸の、肺がん検査マーカーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺がん罹患のリスクを評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺がんはがんの死亡原因のトップであり、自覚症状が出るころには進行していることが多いことから最も早期発見が困難ながんの一つである。肺がん検診受診率は25〜30%と国の目標とする50%を大きく下回っている。未受診の理由として「面倒だから」「時間がない」「費用が掛かり経済的にも負担になるから」といった理由が挙げられる。
【0003】
肺がんの検査方法として、従来、胸部X線検査、低線量の胸部CTが行われている。胸部X線検査は早期の段階で肺がんを発見するには不十分である。また、低線量の胸部CTは被爆の面から健常者への検診としては推奨されておらず、よりリスクの高い患者向けの検査となっている。また、これらの検査にかかるコストも決して安いものではない。肺がんの罹患リスクの高い患者を絞り込む、より安価で簡便な方法が求められている。
【0004】
近年開発された肺がんの評価方法として、例えば、特許文献1には、患者の血液から複数のアミノ酸の濃度データを取得し、該アミノ酸濃度データに基づいて肺がんの状態を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−038114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、肺がん罹患リスクを評価するための、新たな方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、肺がん患者由来の試料においてo−アミノ馬尿酸量が高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、被験者の肺がん罹患のリスクを評価するための方法。
[2]
被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、被験者が肺がんに罹患している、又は、被験者が肺がんに罹患している可能性があると判定するためのデータを収集する方法。
[3]
被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を定量する工程を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量と、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量とを比較する工程をさらに備え、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量よりも高いことは、被験者が肺がんに罹患している、又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、[3]に記載の方法。
[5]
被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量と、予め設定された参照値とを比較する工程をさらに備え、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、前記参照値よりも高いことは、被験者が肺がんに罹患している、又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、[3]に記載の方法。
[6]
比較する工程において、o−アミノ馬尿酸量として、試料に含まれる基準物質、又は、基準となる試料の物性に基づいて較正した値を用いる、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]
基準物質がクレアチニンである、[6]に記載の方法。
[8]
基準となる試料の物性が、浸透圧又は比重である、[6]に記載の方法。
[9]
試料が、尿試料である、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
o−アミノ馬尿酸の、肺がん検査マーカーとしての使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肺がん罹患リスクを評価するための、新たな方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による蛍光分析結果の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、非肺がん対照者と肺がん患者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸量(較正値)の分布を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の方法についてのROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、o−アミノ馬尿酸を、肺がん罹患リスクの評価のための指標として用いるものである。すなわち、本発明は、被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、被験者の肺がん罹患のリスクを評価するための方法である。また、本発明は、被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を指標とする、被験者が肺がんに罹患している、又は、被験者が肺がんに罹患している可能性があると判定するためのデータを収集する方法ととらえることもできる(以下、まとめて「本発明の方法」と場合により称する)。本発明の方法は、医師による患者の診断を補助する方法であって、医師による診断行為を含まない。
【0013】
本発明の方法が対象とする「肺がん」とは、肺及び気管支に発生するがんのことを指し、主に原発性肺がんを対象とするが、転移性肺がんを含んでもよい。がんのステージは特に限定されず、ステージ0、I、II、III、IVのいずれかであってよく、早期がん又は進行がんであってよい。また、がんには、小細胞がんと非小細胞がん(扁平上皮がん、腺がん、大細胞がん)が含まれる。
【0014】
本発明の方法が指標とするo−アミノ馬尿酸は、2−[(2−アミノベンゾイル)アミノ]エタン酸あるいはN-(2-アミノベンゾイル)グリシンとも称され、下記式(I)で示される構造の物質である。o−アミノ馬尿酸は自家蛍光物質であり、波長200〜380nmの励起光照射により波長350〜600nmの蛍光を発する。
【0016】
本発明においては、被験者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸を定量する工程を含むことができる。被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量よりも高い場合、そのデータは、被験者が肺がんに罹患している、又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いことを示す。非肺がん対照者は、がん及びその他の疾患を有さない、健常個体であることが好ましい。
【0017】
したがって、本発明の方法は、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量と、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量とを比較する工程をさらに備えてもよい。比較する工程により、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量よりも高い場合、そのようなデータは、被験者が肺がんに罹患している又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いと判断するためのデータとすることができる。一方、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、非肺がん対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量よりも高くない場合、そのようなデータは、被験者が肺がんに罹患していない又は被験者が肺がんに罹患している可能性が低いと判断するためのデータとすることができる。
【0018】
また、本発明の方法においては、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量を、予め設定された参照値と比較してもよい。すなわち、本発明の方法においては、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量と、予め設定された参照値とを比較する工程をさらに備えてもよい。
【0019】
参照値としては、非肺がん対照者の集団を作り、各対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量のデータを集め、その平均値、中央値又は代表値を、参照値として採用してもよい。また、非肺がん対照者のデータの95%が含まれる範囲(基準範囲)を参照値として採用してもよい。また、参照値として、肺がん患者の集団のデータと、非肺がん対照者の集団のデータとから統計学的に算出された、診断閾値(カットオフ値)、治療閾値、予防医学閾値等の臨床判断値を参照値として採用してもよい。場合によっては、年齢、性別、又は遺伝的背景等の特徴が異なる集団について、それぞれ異なる参照値を定めてもよい。
【0020】
参照値と比較する工程を備えることにより、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、参照値よりも高い場合、そのようなデータは、被験者が肺がんに罹患している又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いと判断するためのデータとすることができる。一方、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、参照値よりも高くない場合、そのようなデータは、被験者が肺がんに罹患していない又は被験者が肺がんに罹患している可能性が低いと判断するためのデータとすることができる。
【0021】
なお、本明細書において、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量が、対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量又は参照値よりも「低い」とは、統計学的に有意な差があることをいう。
【0022】
被験者又は対照者由来の試料は、被験者又は対照者から採取した体液又は組織から調製することができる。体液としては、特に限定されないが、例えば、尿、汗、腸液、唾液、胃液、胆汁、膵液、涙、鼻水、精液、膣液、羊水、乳汁、血液、リンパ液、組織液、体腔液、脳脊髄液、関節液、眼房水、細胞間液等を挙げることができ、これらの中でも尿が、被験者にとって負担なく採取できる点、採取後の尿中の生体分子の活性が変化しにくい点、及び、被験者由来の試料と対照者由来の試料又は参照値とでo−アミノ馬尿酸量を比較しやすい点から好ましい。組織としては、特に限定されないが、例えば、気管支及び肺の組織等を挙げることができる。
【0023】
体液又は組織を被験者又は対照者から採取した後、o−アミノ馬尿酸を定量するまでに、体液又は組織を破砕、懸濁、濾過、溶解、濃縮、希釈、pH調整、乾燥、冷凍、解凍、保存、滅菌、分離、精製等の処理を適宜単独で又は組み合わせて行って、試料を調製してもよい。試料を調製する際に使用できる溶媒又はバッファーは、試料とする体液又は組織によって異なるが、例えば、酢酸アンモニウム緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、クエン酸ナトリウム緩衝液、酒石酸ナトリウム緩衝液、酢酸エタノールアミン緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、ホウ酸カリウム緩衝液、ホウ酸ナトリウム緩衝液、トリス緩衝液、トリメチルアミン−ぎ酸緩衝液、トリエチルアミン−ぎ酸緩衝液、コリジン−酢酸緩衝液、トリメチルアミン−二酸化炭素緩衝液、アンモニア−ぎ酸緩衝液、アンモニア−酢酸緩衝液、モノ(またはトリ)エタノールアミン−塩酸緩衝液、炭酸アンモニウム−アンモニアを使用することができる。
【0024】
試料中のo−アミノ馬尿酸の定量は、特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。そのような方法として、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を用いて試料を分離し、光学的強度又は電気的強度を測定する方法が挙げられる。測定した光学的強度又は電気的強度を、既知濃度の試料の光学的強度又は電気的強度に基づいて濃度に換算することによって定量できる。光学的強度は、例えば、蛍光検出、紫外・可視光検出、ダイオードアレイ検出、示差屈折率検出、蒸発光散乱検出によって測定することができ、電気的強度は、例えば、電気伝導度検出、電気化学検出、コロナ荷電化粒子検出によって測定することができる。これらの中でも微量でも感度良くo−アミノ馬尿酸を定量することができる点から、蛍光検出を行って蛍光強度を測定することが好ましい。また、o−アミノ馬尿酸は自家蛍光物質であるので、蛍光標識による誘導体化を行わなくても蛍光強度を測定することができ、誘導体化にかかる時間及びコストが不要であるという利点がある。蛍光検出の場合、励起波長は200〜380nm、検出波長は350〜600nmとすることができる。
【0025】
試料中のo−アミノ馬尿酸の定量としては、上述の方法の他にも、ELISA法及びイムノクロマト法等の抗原抗体反応を利用した方法、質量分析法(MS)、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)、核磁気共鳴法(NMR)等が挙げられる。抗原抗体反応では、o−アミノ馬尿酸が、抗o−アミノ馬尿酸抗体に結合する性質を利用して定量する。
【0026】
被験者から体液又は組織を採取する前の、飲水、食事、睡眠及び運動等の被験者の行動、並びに、湿度及び気温等の被験者の置かれた環境によって、体液又は組織中に含まれる成分濃度が一律に高くなったり低くなったりする等の影響が出ることがある。そこで、肺がん患者でも非肺がん対照者でも試料とする体液又は組織中に同様に検出される成分を基準物質として選択し、該基準物質に基づいてo−アミノ馬尿酸量を較正することで、上述の被験者の行動又は置かれた環境による成分濃度への影響を排除することができる。基準物質に基づいてo−アミノ馬尿酸量を較正する方法としては、特に限定されないが、例えば、体液又は組織に含まれる基準物質の濃度を測定し、以下の式のようにして、体液又は組織に含まれるo−アミノ馬尿酸の濃度を基準物質の濃度で除して得られた値を、基準物質に基づくo−アミノ馬尿酸量の較正値とすることができる。
(基準物質に基づくo−アミノ馬尿酸量の較正値)=(体液又は組織に含まれるo−アミノ馬尿酸の濃度)/(体液又は組織に含まれる基準物質の濃度)
【0027】
上述のようにして得られた被験者由来の試料のo−アミノ馬尿酸量の較正値は、同様に較正した非肺がん対照者由来の試料のo−アミノ馬尿酸量の較正値と、又は、同様に較正した較正値の複数のデータから得られた参照値と比較できる。被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量の較正値が、対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量の較正値又は較正値のデータから得られた参照値よりも高い場合、そのようなデータは、被験者が肺がんに罹患している又は被験者が肺がんに罹患している可能性が高いと判断するためのデータとすることができ、一方、被験者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量の較正値が、対照者由来の試料におけるo−アミノ馬尿酸量の較正値又は較正値のデータから得られた参照値よりも高くない場合、そのようなデータは、被験者が肺がんに罹患していない又は被験者が肺がんに罹患している可能性が低いと判断するためのデータとすることができる。
【0028】
このような基準物質は、肺がん患者及び非肺がん対照者の体液又は組織中に同様に検出される成分であればよく、特に限定されないが、用いる体液又は組織によって適宜選択することができる。例えば、尿から試料を調製する場合、基準物質として、尿に含まれるクレアチニン等を挙げることができる。
【0029】
また、基準物質の他に、体液又は組織の、基準となる物性の測定値に基づいても、o−アミノ馬尿酸量を較正することができる。物性の測定値に基づいてo−アミノ馬尿酸量を較正する方法としては、特に限定されないが、例えば、体液又は組織の、基準となる物性を測定し、以下の式のようにして、体液又は組織に含まれるo−アミノ馬尿酸の濃度を該物性の測定値で除して得られた値を、基準となる物性に基づくo−アミノ馬尿酸量の較正値とすることができる。
(基準となる物性に基づくo−アミノ馬尿酸量の較正値)=(体液又は組織に含まれるo−アミノ馬尿酸の濃度)/(体液又は組織の、基準となる物性の測定値)
このような体液又は組織試料の物性として例えば、比重、浸透圧等を挙げることができる。例えば、尿から試料を調製する場合、基準となる物性として、尿比重、尿浸透圧等を挙げることができる。
【0030】
本発明の方法により肺がん罹患のリスクが高いと判定された被験者は、さらに、胸部X線検査、CT検査、喀痰細胞診、気管支鏡検査、経皮針生検、胸腔鏡検査、バイオマーカー検査を単独で又は組み合わせて行い、肺がん罹患の診断を確定させることができる。また、肺がんの広がりや別の臓器への転移の有無を調べるために、CT検査、MRI検査、超音波(エコー)検査、PET−CT検査、骨シンチグラフィ等の検査を適宜単独で又は組み合わせて行うことができる。
【0031】
(検査マーカー)
上述のように、被験者由来の試料中におけるo−アミノ馬尿酸量は、非肺がん対照者由来の試料中におけるo−アミノ馬尿酸量よりも高いため、o−アミノ馬尿酸は、肺がんを検査するためのマーカーとして使用することができる。すなわち、本発明は、o−アミノ馬尿酸の、肺がん検査マーカーとしての使用を提供する。
【実施例】
【0032】
(試料の調製)
肺がん患者46人、及び、がんに罹患していない健常者(非肺がん対照者)185人から、尿検体を得た。尿中の細胞及び固形物を除くために遠心分離(3000rpm、10分間)を行い、上清を回収した。100mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.7)で尿を20倍希釈し、HPLC測定用試料とした。
【0033】
(HPLCによる蛍光分析)
以下の条件で試料をHPLCによる蛍光分析に供した。
HPLC:LCシステム(東ソー)
カラム:Atlantis T3 4.6×150mm(Waters)
カラム温度:40℃
移動相:A相 100mM酢酸アンモ二ウム緩衝液(pH5.7)、
B相 アセトニトリル
グラジエント:0分/0%、10分/0%、30分/15%、40分/30%、47分/100%、52分/100%、62分/0%(時間/B相の割合(%))
流速:1ml/分
励起波長:340nm
検出波長:430nm
【0034】
得られたクロマトグラムの一例を
図1に示す。溶出時間19.2〜19.4分のピーク10番の画分は、肺がん患者群と非肺がん対照者群とで比較して蛍光強度に差異が認められた。
【0035】
(物質の同定)
ピーク10番の画分について質量分析を行い、結果を質量分析データベース(Human Metabolome Database及びMassBank)で解析したが、一致する物質は無かった。そこで、このピーク画分について核磁気共鳴分析(
1H−NMR及び
13C−NMR)を行った。
1H−NMR及び
13C−NMRの分析結果からピーク画分の物質の構造は、o−アミノ馬尿酸の構造であることが推定された。標品のo−アミノ馬尿酸を入手し、同様にHPLCによる蛍光分析及び質量分析に供した結果、ピーク画分の物質と一致し、ピーク画分の物質がo−アミノ馬尿酸であることが同定された。
【0036】
(濃度の測定)
既知濃度の標品のo−アミノ馬尿酸を同様にHPLCに供し、その蛍光強度から各試料中のo−アミノ馬尿酸濃度を求めた。
【0037】
(濃度の較正)
また、各試料中のクレアチニン濃度を求めた。クレアチニンの濃度は、クレアチナーゼ−ザルオキシダーゼ−POD法により求めた。各試料について、測定したo−アミノ馬尿酸濃度とクレアチニン濃度から以下の式により、o−アミノ馬尿酸量の較正値を求めた。
o−アミノ馬尿酸量の較正値=(o−アミノ馬尿酸濃度(mol/L))/(クレアチニン濃度(mol/L))
【0038】
図2に、非肺がん対照者と肺がん患者由来の試料中のo−アミノ馬尿酸量(較正値)の分布を示す。肺がん患者由来の試料では、対照者由来の試料よりもo−アミノ馬尿酸量(較正値)が高く分布していた。
【0039】
o−アミノ馬尿酸量の較正値を変数とし、健常者と肺がん患者由来の試料についてロジスティック回帰分析を行い、ROC曲線を得た。
図3に得られたROC曲線を示す。ROC曲線下面積(AUC)値は0.837、95%信頼区間として下側0.769、上側0.898であった。また、カットオフ値を8.0×10
−5(mol/molクレアチニン)に設定した場合、特異度95%、感度48%の結果となった。したがって、o−アミノ馬尿酸量を指標とした肺がん罹患リスクを評価するための本方法が、有効な検査方法であることが示された。