【解決手段】発泡性飲料用缶は、上面と、下面と、胴部とを有し、胴部の内面に、10〜60μmの平均直径を有する複数のカルデラ状構造が設けられており、複数のカルデラ状構造の密度が、1mm
前記塗料が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、請求項6又は7に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、充填性を損なうことなく、発泡性を更に向上させたいと考えている。そこで、本発明の課題は、充填性を損なうことなく、発泡性を更に向上させることのできる、発泡性飲料用缶及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、缶の内面に所定の構造を形成することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下の手段により実現される。
[1]上面と、下面と、胴部とを有し、少なくとも前記胴部の内面に、10〜60μmの平均直径を有する複数のカルデラ状構造が設けられており、前記複数のカルデラ状構造の個数が、1mm
2あたり7〜30個である、発泡性飲料用缶。
[2]前記複数のカルデラ状構造の平均深さが、5〜20μmである、[1]に記載の発泡性飲料用缶。
[3]少なくとも前記胴部の内面には、樹脂層が設けられており、前記カルデラ状構造は、前記樹脂層に形成されている、[1]又は[2]に記載の発泡性飲料用缶。
[4]前記上面が、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋により形成されている、[1]乃至[3]のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
[5]前記カルデラ状構造は、前記胴部の内面の95%以上の領域に設けられている、[1]〜[4]のいずれかに記載の発泡性飲料用缶。
[6]上面と、下面と、胴部とを有する発泡性飲料用缶の製造方法であって、少なくとも前記胴部の内面、又は、前記胴部の内面になる予定の領域に、樹脂及びワックスを含む塗料を塗装する工程と、前記塗装された塗料を加熱処理することにより、樹脂層を形成させ、ワックスを脱離させる工程を備え、前記塗料中の前記ワックスの平均粒径が12〜25μmであり、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対するワックスの含有量が1.5〜5質量部である、製造方法。
[7]前記ワックスが、ポリエチレンワックスを含む、[6]に記載の製造方法。
[8]前記塗料が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9][1]乃至[5]のいずれかに記載された飲料用缶と、前記飲料用缶に充填された発泡性の飲用可能液と、を備える、発泡性飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、充填性を損なうことなく、発泡性をより向上させることのできる、発泡性飲料用缶及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、上面と、胴部及び下面を有している。胴部及び下面は一体化又は接合状態にある、有底筒状であり、上部の開口部が、上面によって開栓可能に閉じられている。
【0011】
胴部の内面には、ほぼ全面(95%以上の領域)に、複数のカルデラ状構造が設けられている。
図1は、胴部の内面を示す顕微鏡写真である。また、
図2は、各カルデラ状構造を概略的に示す胴部の部分断面図である。
図1及び
図2に示されるように、各カルデラ状構造は、正面から見た場合に閉じた形状(概ね円形)を有する凸部2と、凸部2の内側に設けられた凹部3とを有している。
複数のカルデラ状構造の平均直径は、10〜60μmであり、好ましくは15〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。尚、各カルデラ状構造の直径は、凸部2の直径を意味する(
図2における直径a参照)。各カルデラ状構造の直径は、顕微鏡写真により求めることができる。
【0012】
複数のカルデラ状構造の平均深さは、例えば5〜20μmであり、好ましくは7〜13μmである。各カルデラ状構造の深さとは、凸部2の高さと、凹部3における最低部の高さとの差(
図2における深さb参照)である。尚、
図2に示されるように、凸部2の高さに差がある場合には、凸部2の頂点同士を結ぶ線と、凹部3との間の距離を、深さbとして求めることができる。各カルデラ状構造の深さは、例えば、レーザー顕微鏡を用いて求めることが可能である。
【0013】
複数のカルデラ状構造の個数は、1mm
2あたり、例えば7〜30個であり、好ましくは8〜20個である。カルデラ状構造の個数が1mm
2あたり7個以上であれば、高い発泡性能を得ることができる。また、カルデラ状構造の個数が1mm
2あたり30個以下であれば、充填性が損なわれることもない。
【0014】
好ましくは、本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、金属製である。また、好ましくは、胴部の内面には、金属層上に塗料を塗装・乾燥して得られた樹脂層が設けられており、カルデラ状構造はその樹脂層に形成されている。
尚、本発明において、「樹脂層」とは、塗装された塗料を乾燥させた後の層であることを意味し、乾燥前の塗料の層とは区別されている点に留意されたい。
【0015】
好ましくは、本実施形態に係る発泡性飲料用缶は、フルオープン形式である。すなわち、上面は、フルオープン形式で開栓するように構成された缶蓋を構成している。フルオープン形式とは、開栓時に、上面の全てが胴部から離れるような構成を言う。
【0016】
尚、
図3は、市販の金属缶の胴部における内面を示す顕微鏡写真である。
図1と
図3とを比較すると明らかなように、市販の金属缶の内面には、カルデラ状構造は見られない。
【0017】
続いて、上述した発泡性飲料用缶の製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係る製造方法は、樹脂及びワックスを含む塗料を塗装する工程と、続けて塗装された塗料を加熱処理することにより、内面に樹脂層を形成し、ワックスを脱離させる工程(以下、焼き付け工程ともいう)を含む。
なお、内面に樹脂層を有する缶体を形成する方法としては、絞りしごき加工により予め有底筒状の缶体を形成した後、スプレー塗装により本発明に係る塗料を塗装し焼き付けを行うことで樹脂層を形成する(得られた缶はツーピース缶と呼ばれる)方法や、金属板の内面となる予定の領域に本発明に係る塗料を塗装し焼き付けを行うことで樹脂層を形成した後、樹脂層を有する金属板を筒状に成形し下面となる缶底を巻き締めることで有底筒状の缶体を得る(得られた缶はスリーピース缶と呼ばれる)方法などが挙げられる。
【0018】
以下に、塗料の塗装及び焼き付け工程について説明する。
塗料としては、樹脂製のものが好ましく用いられる。塗料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等が用いられる。
焼き付け後の樹脂層の厚みは、例えば1〜10μm、好ましくは3〜8μmである。
ワックスの平均粒径は、12〜25μmであり、好ましくは15〜20μmである。ここでいう平均粒径とは、体積換算で頻度累積が50%となる粒子径(D50)を指し、ワックスを20質量%程度含む水分散体を水で500倍に希釈したものを動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックS3500」)にて測定した値である。
塗料中のワックスの含有量は、塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して1.5〜5質量部、好ましくは2.0〜4.0質量部である。
ワックスとしては、軟化点が90〜160℃、好ましくは110〜140℃のものが用いられる。
ワックスとしては、好ましくはポリエチレンワックスが用いられる。
ワックスとしては、粉末・ペースト・水ないしは溶剤分散体の形態のものを適宜用いることができるが、塗料中の分散安定性の点から、水ないし溶剤分散体のものを用いることが好ましい。
【0019】
本発明における塗料の塗装方法は、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、電着塗装等が好ましく、スプレー塗装がより好ましい。
塗料の乾燥及び均一な樹脂層の形成のため、塗装の後速やかに焼き付け処理を行うことが好ましい。
焼き付け工程における条件は、塗料の乾燥・樹脂層形成が可能な条件を適宜選択できるが、150〜280℃で10秒間〜30分間程度が好ましい。また、この焼き付けの際にワックスを溶融させることで塗膜からの脱離を生じさせるためには、180〜280℃で1分間〜30分間程度がより好ましい。
図4は、樹脂層5を模式的に示す断面図である。
図4に示されるように、塗料を塗装・乾燥させることによって、まず水や溶剤の揮発が生じ、樹脂層5が形成される。ここで、ワックス4は、樹脂層5に埋め込まれるように一旦配置される。また、ワックス4の上部は、樹脂層5の表面に露出する。続いて、ワックス4が溶融し、樹脂層5の凹部から脱離することにより、
図2に示したようなカルデラ状構造が形成される。
【0020】
その後は、当業界で通常使用されている方法と同様に、飲料用缶が製造され、缶に飲用可能液が充填され、密封される。
飲用可能液の充填は、好ましくは低温(例えば1〜20℃)で行われる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、特定の平均粒径を有するワックスが特定の量で含まれる塗料を使用することによって、特定のサイズのカルデラ状構造が、特定の密度で胴部の内面に形成される。そして、このような特殊な構造が胴部に形成された発泡性飲料用缶を用いることにより、充填性を犠牲にすることなく、極めて高い発泡性を実現することができる。
【0022】
尚、本実施形態に係る発泡性飲料用缶に充填される飲用液は、発泡性の液体であればよく、特に限定されない。好ましくは、充填される飲用液は、ビールである。本実施形態に係る発泡性飲料用缶にビールを充填した場合、開栓と同時に缶の内面から泡が発生し、泡とビールとを併せて飲用できる。
また、ビール以外の飲料を充填した場合であっても、発泡に伴い香気成分が揮散するため、内容物の風味を強く感じることができる。
好ましくは、発泡性飲料は、ガス圧が2〜4ガスボリュームである。
【実施例】
【0023】
以下、本発明をより詳細に説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。
【0024】
(例1)
下面及び胴部を有するアルミニウム製の容器(350ml容)を準備した。また、平均粒径が17μm、軟化点130℃のポリエチレン製ワックスを塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して3質量部含む水性エポキシアクリル系塗料を準備した。準備した塗料を、容器の胴部内面の全面にスプレー塗装により塗装し、続けて200℃で2分間加熱し、例1に係る飲料用缶を得た。胴部樹脂層の厚みは、平均5μmであった。
【0025】
(例2)
塗料中のワックスの含有量を塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して1質量部に変更した点を除いて例1と同様の方法を用いて、例2に係る飲料用缶を得た。
【0026】
(例3)
ワックスを、平均粒径が10μmのポリエチレン製ワックスに変更した。また、塗料中のワックスの含有量を塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して3質量部とした。その他の点は例1及び例2と同様の方法を用いて、例3に係る飲料用缶を得た。
【0027】
(例4)
ワックスを、平均粒径が10μmのポリエチレン製ワックスに変更した。また、塗料中のワックスの含有量を塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して10質量部とした。その他の点は例1〜3と同様の方法を用いて、例3に係る飲料用缶を得た。
【0028】
(発泡性能)
例1〜4の各飲料用缶に、液温2℃のビールを350ml充填し、開口部をフルオープン型の缶蓋により閉じた。次いで、缶蓋を開栓し、開口部から泡が盛り上がるまでの時間(以下、ハット時間という)を測定した。測定は、例1〜4のそれぞれにつき、5回実施した。結果を表1に示す。
【表1】
【0029】
表1に示されるように、ワックス平均粒径が17μmであり、ワックス含有量が塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して3質量部である例1が、他の例2〜4よりも、ハット時間が短い傾向にあった。すなわち、例1は、例2〜4に比べて高い発泡性を有していた。
【0030】
(充填性)
例1及び例2に係る飲料用缶それぞれ100本に、1本あたりの充填量を367gと設定した上で液温2℃のビールを充填し、缶蓋を巻き締めた。当該飲料用缶からそれぞれ72本抽出し、1本ずつ質量(g)を測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【0031】
表2の結果から、例1及び例2に係る飲料用缶は、いずれも、充填性に問題が無いことが判った。
【0032】
(カルデラ状構造の計数)
例1及び例2に係る飲料用缶について、胴部内面を顕微鏡により観察し、1mm×1mmの領域内におけるカルデラ状構造の数をカウントした。尚、
図1に示した写真は、例1に係る飲料用缶のものである。
各実施例において、5箇所の領域について、カルデラ状構造の数をカウントした。結果を表3に示す。
【表3】
【0033】
表3に示されるように、例1に係る飲料用缶においては、1mm
2あたり、平均して約12個のカルデラ状構造が観察された。一方、例2に係る飲料用缶においては、1mm
2あたりのカルデラ状構造の数は、約6個であった。
【0034】
(カルデラ状構造のプロファイル)
例1に係る飲料用缶の胴部内面をレーザー顕微鏡で観察し、カルデラ状構造のプロファイルを測定した。具体的には、カルデラ状構造の直径(凸部の直径)と、深さ(凸部と凹部の高さの差)とを測定した。測定は、5個のカルデラ状構造について行った。結果を表4に示す。
【表4】
【0035】
表4の結果から、例1に係る飲料用缶に形成されたカルデラ状構造の直径は、平均して約31μmであった。また、深さは、平均して約11μmであった。
【0036】
以上の表1〜4の結果を総合すると、以下のことが理解される。
例1に係る飲料用缶は、充填性を損なうことなく、例2〜4に係る飲料用缶に比べて発泡性が向上することが判った。この例1に係る飲料用缶は、平均粒径が17μmのワックスを塗料中の不揮発成分(ワックスを除く)100質量部に対して3質量部含有する塗料を用いて胴部の内面を被覆した缶であり、表3に示されるように、1mm
2あたり約12個のカルデラ状構造が形成されていた。更に、カルデラ状構造の平均直径は約31μmであり、平均深さは約11μmであった。