【実施例】
【0040】
実施例1:2carbaLPAの同定
(1)TLCを用いた新規スポットの発見
以下の構造を有する2ccPAを使用した。
【化5】
【0041】
2ccPA(5mg)を1mLのリン酸バッファーに溶解した後、2ccPA/PBS溶液を第十七改正日本薬局方に記載されている人工胃液(塩化ナトリウム水溶液(2g NaCl,12M HCl 7 mL/1000mL水,pH1.2))で最終濃度が1 mg/mLになるように希釈した。その後、この溶液を37℃にし、10,30,60分間インキュベートした。反応後の溶液を薄層クロマトグラフィープレート(TLC silica gel 60 plate,(Merck))上に展開溶媒(クロロホルム/メタノール/水=60:30:4(v/v/v))を用いて展開させた。分離後のプレートは、酢酸銅−リン酸試薬(3% 酢酸銅(II)一水和物(w/v)、8%リン酸(v/v)、2%硫酸(v/v))を噴霧し、150℃で5分熱することで、化合物のスポットを可視化した(
図1)。各スポットのシグナル強度はImageQuant LAS 4000(GE healthcare UK Ltd.,Buckinghamshire, UK)で測定し、ImageQuant TL,version8.1(GE healthcare)を用いて定量した(
図1内の数値)。その結果、2ccPAのスポット(Rf値=約0.35)よりもRf値が低下した位置(Rf値=約0.29)に新しいスポットが現れることが確認された。また、このスポットのシグナル強度は、インキュベート時間経過とともに増加することが示された。
【0042】
そこで、新しく得られたRf値=約0.29のスポットの化合物の同定を質量分析装置Sciex Triple TOF4600 (QqTOF)を用いて行うために、新規スポットの化合物の精製を行った。
【0043】
(2)新規スポットの精製
2ccPA(10mg)を2mLの上記人工胃液(塩化ナトリウム水溶液(2g NaCl,12M HCl 7mL/1000mL水,pH1.2))に溶解した。その後、この溶液を37℃にし、2時間後に8mLクロロホルム:メタノール(2:1,v/v)を加えた。溶液を懸濁した後、遠心(1500g×5分)により溶液を二層に分離させ下層を分取した。得られたクロロホルム含有下層溶液を薄層クロマトグラフィープレート上に展開溶媒(クロロホルム:メタノール:水=60:30:4(v/v/v))を用いて展開させた。その後、新規スポットが展開された部分のシリカゲルをかき取り、8mLクロロホルム:メタノール(1:9、v/v)溶液に懸濁し、超音波処理をウォーターバスの中で3分間行い、遠心(1500g×10分)し、上清を回収した。この作業を3回繰り返した。回収した上清を窒素乾固し、メタノール1mLに溶解後、フィルターろ過(0.2μm Captiva Premium syringe filter,アジレントテクノロジー)した。ろ液を窒素乾固し、約4.2mgのRf値約0.29の化合物を得た。
【0044】
前述の薄層クロマトグラフィーにおける新規スポットの位置の同定は、溶液を薄層クロマトグラフィープレートに展開後、プレートの一部を切り落とし、切り落としたプレートに酢酸銅−リン酸試薬(3%酢酸銅(II)一水和物(w/v)、8%リン酸(v/v)、2%硫酸(v/v))を噴霧し、150℃で5分熱することで、可視化し行った。
【0045】
(3)Sciex Triple TOF4600(QqTOF)を用いた化合物の質量分析
(2)で得られた化合物(約4.2mg)を10mLのメタノールに懸濁し、溶液を5mMギ酸アンモニウム含有メタノール/水(95:5,v/v)にて100倍希釈しSciex Triple TOF4600(QqTOF)質量分析装置のサンプルとした(測定条件は下表に記す)。50−500m/zでフルイオンスキャンを行った結果、433.2760に分子イオンピークを得た(
図2)。次に、この分子イオンをコリジョンエナジー(−30又は−75eV)でフラグメント化し、得られるフラグメントイオンの質量測定を行った。その結果、コリジョンエナジーが−30eVでは、149.0012,151.0174,169.0274,281.2494のフラグメントイオンが得られ(
図3)、コリジョンエナジーが−75eVでは、78.9602,121.0064のフラグメントイオンも得られた(
図4)。それぞれの分子量から想定される構造式を図中に示す(
図2から
図4)。これらの結果から、新規に現れたスポットの分子量は433.3の2ccPAが加水分解してできる化合物であることが示され、2carbaLPAと名付けた。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例2:2carbaLPAのautotaxin(ATX)を用いた合成法
ATX(Cayman chemical,MI) と2ccPAをTris緩衝液(50mM Tris−HCl,pH8.0,140mM NaCl,5mM KCl,1mM CaCl
2,1mM MgCl
2)40μLにそれぞれ終濃度50nM,10μMになるように溶解した。その後、37℃で0,2,4時間反応させた。反応後の溶液に160 μLの酸性メタノール(pH4.0)を添加し、よく懸濁した。その後、溶液をフィルターろ過(0.2μm Captiva Premium syringe filter,Agilent Technologies)し、QTRAP(登録商標)5500 triple quadrupole/linear ion trap mass spectrometer(SCIEX,Framingham,MA)のサンプルとした。測定は論文(Journal of Chromatography B 1076 (2018)15−21,Quantitative determination of cyclic phosphatidic acid and its carba analog in mouse organs and plasma using LC-MS/MS)と同様に行い、2ccPAはQ1/Q3=415.26/281.25、2carbaLPAはQ1/Q3=433.27/151.02で測定を行った。結果、ATXと反応させた溶液では時間依存的に2ccPA量が減少し(
図5(A))、2carbaLPAが合成されてくることが示された(
図5(B))。
【0048】
実施例3:2carbaLPAのATX活性阻害
(1)質量分析装置を用いたATX活性測定
ATXとLPC16:0をそれぞれ終濃度50nM,10μMになるように、2ccPAあるいは2carbaLPAは終濃度10μMになるように、Tris緩衝液(50 mM Tris−HCl,pH8.0,140mM NaCl,5mM KCl,1mM CaCl
2,1mM MgCl
2)40μLに懸濁した。その後37℃でインキュベートした。各反応時間ごとに溶液に160μLの酸性メタノールを添加し、よく懸濁した。その後、溶液をフィルターろ過(0.2μm Captiva Premium syringe filter,Agilent Technologies)し、QTRAP(登録商標)5500 triple quadrupole/linear ion trap mass spectrometer(SCIEX, Framingham, MA)のサンプルとした。測定は論文(Journal of Chromatography B 1076(2018)15−21,Quantitative determination of cyclic phosphatidic acid and its carba analog in mouse organs and plasma using LC−MS/MS)と同様に行い、2ccPAはQ1/Q3=415.26/281.25、2carbaLPAはQ1/Q3=433.27/151.02、LPAはQ1/Q3=409.24/153.00で測定を行った。各反応時間ごとに合成されてくるLPA16:0量を測定した。その結果、2ccPA, 2carbaLPAを含まない反応液では、時間依存的にLPAが合成されるのに対し、2ccPA, 2carbaLPAを含む反応液ではLPAの合成が抑制されていることが示された(
図6)。
【0049】
(2)LPCを基質としたcholine oxidaseによるATX活性測定
ATXとLPC16:0をそれぞれ終濃度50nM,300μMになるように、2ccPAあるいは2carbaLPAは終濃度0.01−10μMになるようにCholine oxidase反応液(0.05% 4−aminoantipyrine,0.05% TOOS(N−Ethyl−N−(2−hydroxy−3−sulfopropyl)−3−methylaniline, sodium salt, dihydrate),1unit peroxidase,1unit choline oxidase,50mM Tris−HCl,pH8.0,140mM NaCl,5mM KCl,1mM CaCl
2, 1mM MgCl
2)100μLに溶解し、96well plateに分注した(100μL/well)。その後、プレートを120分、37℃でインキュベートした。インキュベート後、吸光(555nm)をプレートリーダー(Biotek(Winooski,VT)Cytation 3 plate reader)で測定した。阻害活性は、阻害活性%=(1−阻害剤入り120分後の増加吸光度/阻害剤なし120分後の増加吸光度)×100で算出した。その結果、2ccPA, 2carbaLPAは濃度依存的にATX活性を阻害することが分かった(
図7)。
【0050】
実施例4:2carbaLPAのERKリン酸化作用
SW1353細胞を6well plateに3×10
4cells/wellの密度で播種した。翌日、細胞培養液を血清フリーの培養液に交換し、6時間培養した後、終濃度が10μMになるように0.1%BSA/PBSに溶かした2carbaLPA、あるいは0.1%BSA/PBS(Vehicle)を添加した。30分間37℃でインキュベートした後、細胞をサンプルバッファー(0.125M Tris−HCl,pH6.8,4%SDS,20%glycerol,0.01%BPB,10% 2−メルカプトエタノール)で回収した。その後、SDS−PAGEでタンパク質を分離した後、Western−blotting法によりSDS−PAGEゲルのタンパク質をPVDF膜に転写した。転写したタンパク質を一次抗体anti−pERK抗体、anti−ERK抗体、anti−β−tublin抗体、二次抗体anti−rabbit IgG抗体を用いて検出した。その結果、
図8のようにpERKのバンドが濃くなり、ERKをリン酸化できることが示された。
【0051】
実施例5:2carbaLPAのラット体内での産生
2ccPA(19.70±1.39mg)をカプセル(size 9,Torpac Inc.,Fairfield, NJ))に封入した。カプセルを腸溶化するために、カプセルをEudragit S100/ L100(4/1,11 mg/cm
2,pH6.8)にてコーティングした(Evonik Japan Co.,Ltd.,Tsukuba,Japan)。得られたカプセルを7週齢のあらかじめ経静脈にカニューレが挿入してあるSDラット(body weight 190−220g)にカプセルインジェクター(Natsume Seisakusho,Tokyo,Japan)を用いて経口投与した。カニューレ挿入ラットはオリエンタル酵母から購入した。時間ごとに300μLずつ血液を頸動脈カテーテルから回収した。回収した血液はEDTA-Na
2(1mg/mL)を加えたのち、遠心(1000×g、10分、4℃)することで、血漿を得た。血漿サンプルは、すぐに液体窒素にて凍結し、測定するまで−80℃で保存した。血漿サンプルからの脂質画分抽出はJournal of Chromatography B 1076(2018)15−21,Quantitative determination of cyclic phosphatidic acid and its carba analog in mouse organs and plasma using LC-MS/MS)と同様に行い、2ccPA, 2carbaLPAの質量分析装置を用いた測定は、実施例3(1)の質量分析装置を用いたATX活性測定と同様に行った。結果、2ccPAは2時間後をピークとして血液サンプルから検出され(
図9A)、ほぼ同じ時間をピークとして2carbaLPAが血液サンプルから検出される(
図9B)ことが示された。
【0052】
実施例6:human LPA 受容体に対する活性評価
HEK293AまたはΔLPA
2/5/6 HEK293AをDulbecco−modified Eagle’s medium(DMEM、10%fetal calf serum、100U/mLpenicillin、100μg/mLstreptomycin含有)中で2×10
5cells/mLとなるように懸濁後、100mm径dishに播種した(10mL/dish)。その後、37℃、5%CO
2下で24時間インキュベーションした。
【0053】
下記のプラスミド溶液とPolyethyleneimine(PEI、Polysciences) 溶液を500μLずつ混合し、室温下で20分間インキュベーションした後、培養上清中に滴下した(1mL/dish)。その後、細胞を37℃、5%CO
2下で24時間インキュベーションした。
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
mock−transfected細胞には、GPCR発現ベクターの代わりにempty vectorをトランスフェクションした。また、LPA
1、LPA
5発現細胞とそのコントロール細胞は、Gα
q/i1発現ベクターも合わせてトランスフェクションした (0.5μg/dish)。LPA
2、LPA
4発現細胞とそのコントロール細胞は、Gα
q/s発現ベクターも合わせてトランスフェクションした(0.5μg/dish)。HEK293A細胞は、LPA
1及びLPA
4を発現させるために使用した。ΔLPA
2/5/6HEK293Aは、LPA
2、LPA
3、LPA
5、LPA
6を発現させるために使用した。いずれのLPA受容体についても、ヒト遺伝子を使用した。
【0057】
HEK293A、ΔLPA
2/5/6HEK293AをPBSで洗浄後、0.05%Trypsin/0.53mM EDTAで剥がし(2mL/dish)、DMEMで中和した (3mL/dish)。遠心した後(190×g、5min)、Hank’s balanced salt solution(HBSS、5mM HEPES(pH7.4)含有)で再懸濁し(10mL/dish)、室温下で15分間インキュベーションした。遠心した後(190×g、5min)、HBSSで再懸濁し、96−well plate(細胞プレート) に播種した(LPA
1、LPA
2、LPA
3発現細胞とそのmock−transfected細胞:90μL/well、LPA
4、LPA
5、LPA
6発現細胞とそのmock−transfected細胞:80μL/well、1−2×10
4cells/well)。
【0058】
37℃、5%CO
2下で30分間インキュベーションした後、終濃度の10倍濃度のアゴニスト(2ccPA、又は2carbaLPA)を添加した(10μL/well、化合物は0.01%bovine serum albumin含有HBSSで希釈した)。なお、LPA
4、LPA
5、LPA
6発現細胞とそのmock−transfected細胞を添加したウェルについては、100μM Ki16425をアゴニスト添加5分前に添加した(10μL/well)。
【0059】
37℃、5%CO
2下で60分間インキュベーションした後、プレートを遠心し(190×g、2min)、上清を別の96−well plate(上清プレート) に移動した (80μL/well)。上清プレート、細胞プレートのそれぞれのウェルに、1M- p−nitrophenyl phosphate(120mM Tris−HCl(pH 9.5)、40mM NaCl、10mM MgCl
2含有)を分注し(80μL/well)、分注直後及び分注1時間後のOD405を測定した。
【0060】
計算方法
AP−TGFα release(%)=ΔOD405
Sup/(ΔOD405
Sup+ΔOD405
Cell) × 125
GPCRactivation(%)= AP−TGFα release under stimulated conditions − AP−TGFα release under non−stimulated conditions
【0061】
EC
50及びE
maxは、Graphpad Prism 6(Graphpad)を用いて、データを4パラメーターロジスティック曲線にフィッティングすることで算出した。
【0062】
実験の測定結果を
図10〜
図15に示す。
2carbaLPAは、全てのLPA受容体(LPA
1、LPA
2、LPA
3、LPA
4、LPA
5、LPA
6)に対してアゴニスト活性を示した。
2carbaLPAについて、LPA
1、LPA
2、LPA
3、LPA
4、LPA
5、LPA
6に対するアゴニスト活性(EC
50)はそれぞれ10nM、90nM、1.2nM、0.7nM、27nM、43nMであった。