【解決手段】A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤である。A鎖のポリマーブロックは、(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレート、(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレート、及び(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まず、数平均分子量が3000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下である。B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに、数平均分子量が5000以下であり、かつ、A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである。
基材に、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコーティング剤を塗布し、前記B鎖のポリマーブロックにおける前記アルコキシシリル基を、前記基材の表面に反応させ、かつ、自己縮合させて被膜を形成する被膜の製造方法。
前記コーティング剤が、前記(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートに由来する構成単位を少なくとも含む前記A鎖のポリマーブロックを含む前記A−Bブロックコポリマーを含有し、
そのコーティング剤を前記基材に塗布した後、前記A鎖のポリマーブロックにおける前記第3級アミノ基を4級化剤により第4級アンモニウム塩化させて前記被膜を形成する請求項8に記載の被膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
<コーティング剤>
本発明の一実施形態のコーティング剤は、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有する。
【0015】
A鎖のポリマーブロックは、(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレート、(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレート、及び(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まないものである。また、A鎖のポリマーブロックは、数平均分子量(以下、「Mn」と記載することがある。)が3000〜50000のものである。さらに、A鎖のポリマーブロックは、分子量分布が1.50以下のものである。なお、本明細書において、分子量分布は、Mw/Mn(Mwは重量平均分子量を表す。)で表される分子量分散指数(polydispersity index)を意味し、以下、分子量分布を「Mw/Mn」及び「PDI」と記載することがある。
【0016】
一方、B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むものである。また、B鎖のポリマーブロックは、数平均分子量(Mn)が5000以下であり、かつ、A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである。
【0017】
A−Bブロックコポリマーは、上記のA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックの構成の通り、特定のメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含むとともにアルコキシシリル基を含むブロックコポリマーである。この特定のA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤によって、良好な親水性及び耐久性を有する被膜を形成することが可能である。
【0018】
本明細書において、「親水性」とは、水との親和性や相互作用が高いことをいい、水との間で水素結合やイオン解離による水和によってなされる性質をいう。例えば、水となじみやすい、水に溶解しやすい、水と混ざりやすい、及び水滴が薄く広がりやすい(水に濡れやすい)などの性質が、親水性に含まれる。親水性を有する面に水滴が接触して得られる接触角においては、その接触角が90度以下であり、より高い親水性の場合は45度以下、さらに高い親水性の場合は20度以下になるような状態をいう場合がある。
【0019】
本発明の一実施形態のコーティング剤は、親水性を有する被膜を形成可能であることによって、その被膜に、流滴性、防曇性、水滴付着防止性、防塵性、及び帯電防止性等の機能を付与させることができる。また、被膜に、水性インクなどの受容層として印画性を向上させるインク受容性の機能を付与させることもできる。したがって、本発明の一実施形態のコーティング剤を使用することによって、表面が親水性化されたフィルム、成形品、包装材料、及び紙などを製造することが可能となる。
【0020】
本明細書において、「流滴性」とは、水滴を液滴のまま存在させないで流れさせる性質をいい、その性質を発揮させる効果を「流滴効果」という。例えば、流滴性を有する被膜に水蒸気が接触し、冷えて水滴になるとき、水滴が液滴にならず、あるいは小さい水滴が多数できるのではなく、水滴の接触角が小さくなることによって水滴は流動性を有するようになる。「防曇性」とは、水蒸気による表面の曇りを防止する性質をいい、その性質を発揮させる効果を「防曇効果」という。「水滴付着防止性」とは、水滴とならずに液滴が流れていく性質をいい、その性質を発揮させる効果を「水滴付着防止効果」という。「帯電防止性」とは、表面の親水性化によって水を吸着することによって、又はその被膜に含有されるイオン成分の移動によって、その表面の導電性を高めて表面抵抗を小さくして、静電気が帯びるのを防止することが可能な性質をいい、その性質を発揮させる効果を「帯電防止効果」という。「防塵性」とは、例えばタバコの灰を使用するアッシュテストのような、微粒子や軽い粉塵などが付着しにくい性質をいい、その性質を発揮させる効果を「防塵効果」という。さらに、「インク受容性」とは、水性インクを吸収し、その水性インク中の染料及び顔料などの色材を定着させ得る性質をいう。
【0021】
本発明の一実施形態のコーティング剤によって奏され得る効果をさらに説明する。まず、コーティング剤に含有させるA−Bブロックコポリマーは、上記のA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックの構成の通り、ポリマー(コポリマー)の合成原料(モノマー)であるメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含む。メタクリレート系モノマーは、様々な構造のアルコール残基のエステルを得ることができることから、メタクリレート系モノマーを使用して得られるポリマーにおける様々な性能や物性を調整することに適している。また、得られるポリマーのガラス転移温度(Tg)を高くすることができる。さらには、得られるポリマーは、エステル基(アルコキシカルボニル基)が結合している炭素原子に結合している炭素原子の数が3である3級のエステル構造を有するため、加水分解し難く、耐薬品性及び耐水性などの耐性を向上させることができる。また、A−Bブロックコポリマーの原料にメタクリレート系モノマーを使用することで、後述する好適な重合方法によって、温和な条件下で、高収率であり、後処理が不要であり、かつ、分子量分布が狭い好適なA−Bブロックコポリマーを得ることができる。したがって、A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーの主成分として、メタクリレート系モノマーが使用される。
【0022】
A−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックは、上記(a1)〜(a4)のうちの1種又は2種以上に由来する構成単位を含むとともにアルコキシシリル基を含まず、かつ、特定のMn及びPDIを有する。そのため、A鎖のポリマーブロックは、コーティング剤で形成される被膜に親水性を付与することができる。また、B鎖のポリマーブロックは、アルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに特定のMnを有する。そのため、B鎖のポリマーブロックは、コーティング剤が設けられる対象となる基材と反応し、かつ、自己架橋して三次元網目構造を形成することができ、被膜における基材への密着性と、耐久性を向上させることが可能となる。反応性基であるアルコキシシリル基を、A鎖のポリマーブロックには導入せず、B鎖のポリマーブロックに集中させているため、A鎖及びB鎖の各ポリマーブロックが担う機能を明確に分けることが可能となる。
【0023】
上述したA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックが有する機能について、図面を参照しながらさらに説明する。
図1は、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックの各機能を説明するための図であり、基材に設けられたコーティング剤(コーティング剤による被膜)中のA−Bブロックコポリマーの状態を模式的に表した図である。A鎖のポリマーブロックは、A−Bブロックコポリマーにおいて、反応性基であるアルコキシシリル基を含まないポリマーブロックの部分である。そのため、A鎖のポリマーブロックは、B鎖におけるアルコキシシリル基と反応せず、架橋による三次元構造をとらないポリマー鎖となる。一方、B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むため、反応性鎖として機能することで、基材と反応して密着し、かつ、自己架橋して三次元網目構造を形成することが可能である。そのため、A鎖のポリマーブロックが、基材の表面にグラフトしたような構造をとり、その構造によって、水と親和したり、水を吸収したり、水によって膨潤したりするような、高度な親水性を被膜にもたらすことができると考えられる。
【0024】
[A−Bブロックコポリマー]
次に、コーティング剤に含有させるA−BブロックコポリマーにおけるA鎖及びB鎖のそれぞれのポリマーブロックの構成について、詳細に説明する。
【0025】
(A鎖のポリマーブロック)
A鎖のポリマーブロックは、(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレート、(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレート、及び(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含む。
【0026】
(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレートは、ポリエチレングリコール鎖(−(OCH
2CH
2)
n−)を有し、その一方の末端が重合性基であるメタクリル残基(メタクリロイル基:CH
2=C(CH
3)−C(=O)−)であり、他方の末端がヒドロキシ基である。また、(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(別称:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)は、ポリエチレングリコール鎖を有し、その一方の末端が重合性基であるメタクリル残基(メタクリロイル基)であり、他方の末端がメトキシ基である。これらのポリエチレングリコール鎖を有するメタクリレートの他方の末端が、炭素原子数2以上のアルコキシ基(例えばエトキシ基やドデシロキシ基など)ではなく、ヒドロキシ基又はメトキシ基であることにより、被膜に親水性を付与することができる。
【0027】
(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレート及び(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートの平均分子量は、いずれも200〜5000であること好ましい。(a1)及び(a2)の平均分子量が200以上であることにより、ポリエチレングリコール鎖が長く、コーティング剤による被膜に親水性を付与する効果を発揮しやすくなる。この観点から、(a1)及び(a2)の平均分子量は、300以上であることがより好ましく、400以上であることがさらに好ましい。一方、(a1)及び(a2)の平均分子量が5000以下であることにより、重合性が良好であり、重合せずに残存するようなことを生じ難くすることができる。この観点から、(a1)及び(a2)の平均分子量は、4500以下であることがより好ましく、4000以下であることがさらに好ましい。
【0028】
なお、上記の(a1)及び(a2)の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の値、又はNMRなどから求められる、メタクリル基を官能基とする官能基当量から算出される値である。(a1)及び(a2)としては、それぞれ、平均分子量が異なるものを1種又は2種以上用いることができる。
【0029】
(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートの好適な具体例としては、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、及びN,N−ジエチルアミノプロピルメタクリレートなどのN,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、N−〔2−メタクリロイルオキシエチル〕ピペリジン、N−〔2−メタクリロイルオキシエチル〕ピロリジン、N−〔2−メタクリロイルオキシエチル〕モルホリン、並びに1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレートなどを挙げることができる。また、グリシジルメタクリレートと、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、及びジプロピルアミンなどの第2級アミノ化合物、又は例えばジメチルアミノプロピルメチルアミンなどのような第3級アミノ基及び第2級アミノ基を有する化合物を反応させて得られる、エポキシ基が開環してヒドロキシ基を有するメタクレート;メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基を有するメタクリレートに、ヒドロキシ基、又は1級若しくは2級アミノ基を有し、かつ、第3級アミノ基を有する化合物を反応させて得られる、ウレタン結合や尿素結合を有するメタクリレートなども挙げることができる。これらの(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートのうちの1種又は2種以上を使用することができる。(a3)としては、N,N−ジアルキルアミノアルキルメタクリレートがより好ましい。
【0030】
(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートとしては、第3級アミノ基を有するメタクリレートに、4級化剤を反応させたメタクリレートを挙げることができる。4級化剤としては、例えば、メチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、メチルアイオダイド、プロピルクロライド、ドデシルクロライド、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、ヨウ化メチル、及びベンジルアイオダイドなどの有機ハロゲン化物;メタンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸メチル、及びトリフルオロメタンスルホン酸メチルなどのスルホン酸エステル;ジメチル硫酸及びジエチル硫酸などの硫酸エステルなどが挙げられる。これらを3級アミノ基と反応させて、第4級アンモニウム塩とすることができる。また、4級化剤のうち、有機ハロゲン化物を使用した場合、窒素原子はカチオンであり、対イオンのハロゲンはアニオンとして第4級アンモニウム塩となるが、そのアニオンを他のアニオンで交換してできるモノマーを使用してもよい。そのアニオンを有する化合物しては、従来公知の化合物を使用でき、例えば、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、トリフルオロメチル硫酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウムなどの無機塩の化合物が挙げられる。
【0031】
(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートの具体例としては、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルジエチルメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルベンジルジエチルアンモニウムクロライド、及びメタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウムクロライド;メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロマイド、メタクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムブロマイド、メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムブロマイド、及びメタクリロイルオキシエチルベンジルジエチルアンモニウムブロマイドなどの第4級アンモニウムブロマイド;メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムアイオダイドなどの第4級アンモニウムアイオダイド;メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルホネート、メタクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムスルホネート、及びメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネートなどの第4級硫酸エステル;メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムテトラフロロボレート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムヘキサフロロホスホニウム、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムパークロネート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどの無機性対イオン第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0032】
これらの(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートをそのまま、A−Bブロックコポリマーの合成原料に用いることができる。また、(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートを用いてA−Bブロックコポリマーを得た後、4級化剤により、ブロックコポリマーにおける第3級アミノ基を第4級アンモニウム塩にして、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA−Bブロックコポリマーとしてもよい。
【0033】
A鎖のポリマーブロックは、上記(a1)に由来する構成単位、上記(a2)に由来する構成単位、上記(a3)に由来する構成単位、及び上記(a4)に由来する構成単位からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構成単位を含むことができる。親水性にさらに優れた被膜を得る観点から、A鎖のポリマーブロックは、平均分子量が200〜5000の(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートに由来する構成単位を含むことがより好ましい。また、同様の観点から、A鎖のポリマーブロックは、前述の(a3)に由来する構成単位における第3級アミノ基が4級化剤により4級化された(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むこともより好ましい。
【0034】
A鎖のポリマーブロックは、上述した(a1)、(a2)、(a3)、及び(a4)からなる群より選ばれる1種又は2種以上に由来する構成単位のみで構成されていてもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲において、A鎖のポリマーブロックは、(a1)〜(a4)と共重合可能な他のメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。A鎖のポリマーブロックを構成するモノマー中、(a1)〜(a4)の合計の使用量は、特に限定されず、使用されるモノマーの種類及びそれによって形成されるA鎖のポリマーブロックに由来する性能に応じて、適宜決定することができる。(a1)〜(a4)の合計の使用量は、A鎖のポリマーブロックを構成するモノマーの全質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0035】
他のメタクリレート系モノマーとしては、上述した(a1)〜(a4)以外のメタクリレート系モノマーであり、かつ、前述の通り、B鎖のポリマーブロックに使用される、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを除くメタクリレート系モノマーである。A鎖のポリマーブロックには、他のメタクリレート系モノマーの1種又は2種以上が用いられてもよい。
【0036】
他のメタクリレート系モノマーとしては、炭素原子数5以下のアルキル基を有するメタクリレート、シクロアルキル基を有するメタクリレート、芳香族基を有するメタクリレート、アルケニル基を有するメタクリレートなどを挙げることができる。炭素原子数5以下のアルキル基を有するメタクリレートの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、及びペンチルメタクリレートなどを挙げることができる。シクロアルキル基を有するメタクリレートの具体例としては、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2,2,4−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロデシルメタクリレート、及びシクロデシルメチルメタクリレートなどを挙げることができる。芳香族基を有するメタクリレートの具体例としては、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、及びナフチルメタクリレートなどを挙げることができる。アルケニル基を有するメタクリレートの具体例としては、ビニルメタクリレート及びアリルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0037】
また、他のメタクリレート系モノマーとしては、ヒドロキシ基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどのヒドロキシアルキルメタクリレート(アルキレングリコールのモノメタクリレート)、並びに3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基を有するメタクリレートを用いると、A鎖の構造中に存在するヒドロキシ基が、B鎖に存在するアルコキシシリル基と反応するため、A鎖のポリマーブロックとB鎖におけるアルコキシシリル基が分子鎖間で反応してゲル化を引き起こす可能性がある。しかし、その反応で得られたものは水分や熱によって加水分解してシラノールとなるので、ゲル化したとしても、コーティング剤として使用可能であり、また、コーティング剤の使用条件の設定などにより、ゲル化を防止することも可能である。
【0038】
他のメタクリレート系モノマーとしては、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、及びグリシジルメタクリレートなどが挙げられる。さらには、他のメタクリレート系モノマーとしては、アセチル基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、1−アセチルエチルメタクリレート、アセトアセチルエチルメタクリレート、及び2−アセトアセチルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0039】
他のメタクリレート系モノマーとしては、イソシアネート基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、メタクリロキシエチルイソシアネート、メタクリロキシエトキシエチルイソシアネート、及びそれらをカプロラクタムなどでブロックしてあるブロック化イソシアネート含有メタクリレートなどが挙げられる。
【0040】
さらには、A鎖のポリマーブロックは、メタクリレート系モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、上述の他のメタクリレート系モノマーの具体例に対応するアクリレート系モノマーを挙げることができる。また、他のモノマーとしては、例えば、カルボキシ基を有するモノマーが挙げられる。カルボキシ基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸;メタクリル酸;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、無水マレイン酸、無水コハク酸、又は無水フタル酸を反応させたモノマーなどを挙げることができる。
【0041】
また、他のモノマーとしては、例えば、メタクリロイロキシエチルモノ又はポリカプロラクトンなどのような、(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを開始剤として、ε−カプロラクトン及びγ−ブチロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られるポリエステル系モノ(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート及び2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルサクシネートなどのような、(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルに2塩基酸を反応させてハーフエステル化した後、2塩基酸のもう一方のカルボキシ基に、アルコール又はアルキレングリコールを反応させたエステル系(メタ)アクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの如き紫外線を吸収するモノマー;ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンの末端にメタクリロキシ基を導入したマクロモノマーなどが挙げられる。
【0042】
A鎖のポリマーブロックの原料には、上記のモノマーを使用することができるが、前述したA鎖としての機能を発揮できるように、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及びイソシアネート基を有しないモノマー(より好ましくはメタクリレート)を使用することが好ましい。なお、これらの反応性基を有するメタクリレートを使用し、それらの反応性基による反応を利用してポリマーを改質してもよい。
【0043】
A鎖のポリマーブロックの数平均分子量(Mn)は、3000〜50000であり、好ましくは3000〜40000、より好ましくは5000〜30000、さらに好ましくは5000〜20000である。A鎖のポリマーブロックのMnが3000未満であると、コーティング剤で形成される被膜に親水性を付与する効果が十分に得られない場合がある。一方、A鎖のポリマーブロックのMnが50000を超えると、A鎖の分子量が大きすぎて、重合機構上、末端が不活性化してしまう確率が高くなり、B鎖の重合率が低下したり、それにより、B鎖を構成するモノマーが残存したりする場合がある。また、その結果、A鎖のみポリマー成分となってしまい、B鎖の反応による固定化が十分になされずに脱落するポリマー成分が出る場合がある。
【0044】
本明細書において、A鎖のポリマーブロックのMnは、A−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックに相当するA鎖のポリマーについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の値である。例えば、後述する実施例で採られた以下に示す測定条件にてGPCによる測定を行うことができる。
装置:ショウデックスGPC−104(昭光通商社製)
カラム:LF−404R(昭光通商社製) 2本
溶離液:THF
流速:0.1mL/min
温度:40℃
検出方法:示差屈折計(RI(Refractive Index)検出器)
【0045】
A鎖のポリマーブロックの分子量分布(Mw/Mn;PDI)は、1.50以下であり、好ましくは1.48以下である。このA鎖のポリマーブロックの分子量分布は、上述の通り測定されるA鎖のポリマーブロックのMnと、A鎖のポリマーブロックの重量平均分子量(Mw)とから算出される。A鎖のポリマーブロックのMwは、上述のMnと同様、A−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックに相当するA鎖のポリマーについて、GPCにより測定される、ポリスチレン換算の値である。A鎖のポリマーブロックのMw/Mnを1.50以下とすることにより、B鎖のポリマーブロックを重合成長させるときに、B鎖の分子量も均一に伸びると考えられる。
【0046】
(B鎖のポリマーブロック)
次に、A−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックについて説明する。B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含み、その構成により、A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能する。B鎖のポリマーブロックには、アルコキシシリル基を有するメタクリレートのうちの1種又は2種以上を使用することができる。
【0047】
好適なアルコキシシリル基を有するメタクリレートとしては、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(別称:3−(ジメトキシメチルシリル)プロピルメタクリレート)、及び3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(別称:3−(ジエトキシメチルシリル)プロピルメタクリレート)などのメタクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(別称:3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート)、及び3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(別称:3−(トリエトキシシリル)プロピルメタクリレート)などのメタクリロキシプロピルトリアルコキシシランを挙げることができる。アルコキシシリル基を有するメタクリレートとしては、メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランがさらに好ましい。
【0048】
また、グリシジルメタクリレート及びメタクリロキシエチルイソシアネートなどの反応性基(グリシジル基及びイソシアネート基など)を有するモノマーに、アミノ基を有するシランカップリング剤(例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及び3−アミノプロピルメトキシシランなど)を反応させて得られる、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを使用してもよい。さらには、メタクリル酸などのカルボキシ基を有するモノマーに、グリシジル基を有するシランカップリング剤(例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど)、又は上記のアミノ基を有するシランカップリング剤を反応させて得られる、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを使用してもよい。
【0049】
また、A鎖を得た後、イソシアネート基、グリシジル基、又はカルボキシ基を有するモノマーを使用してブロックコポリマーとしてから、さらに、それらの基と反応する基を有するシランカップリング剤を反応させて、A−Bブロックコポリマーとしてもよい。その場合は、A鎖にはそのイソシアネート基、グリシジル基、又はカルボキシ基を有するモノマーを使用しないことが必要である。
【0050】
なお、B鎖のポリマーブロックにおいては、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを100質量%使用することが好ましいが、前述の他のメタクリレートを1種以上使用して、共重合鎖としてもよいし、A鎖の残留モノマーがB鎖に導入されてもよい。
【0051】
B鎖のポリマーブロックの数平均分子量(Mn)は、5000以下であり、好ましくは4000以下、より好ましくは500〜4000、さらに好ましくは1000〜3000である。このB鎖のポリマーブロックのMnは、A−BブロックコポリマーのMnから、前述したA鎖のポリマーブロックのMnを差し引いた値である。B鎖のポリマーブロックのMnが5000を超えると、B鎖が結合、粒子化して異物となる場合がある。B鎖のポリマーブロックはMnが5000以下というA鎖に比べて短い分子鎖であり、かつ、アルコキシシリル基をB鎖のポリマーブロックに集中させていることによって、B鎖のポリマーブロックが基材との反応と自己反応によって、均一な膜形成をすることができる。
【0052】
以上述べたA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーは、メタクリレート系モノマーで構成されていることが好ましい。A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーが全てメタクリレート系モノマーである場合、前述の通り、加水分解し難く、耐薬品性及び耐水性などの耐性が良好であり、かつ、分子量分布が狭いA−Bブロックコポリマーが得られ易い。コーティング剤により、良好な親水性及び耐久性を有する被膜を形成するために、A−Bブロックコポリマーの分子量分布(Mw/Mn;PDI)は、1.60以下であることが好ましく、1.55以下であることがより好ましい。これは分子量分布が狭い、すなわち、分子量が揃っているということを表す。このような分子量分布を有するA−Bブロックコポリマーは、A−Bブロックコポリマーにおける多くの又はほぼ全ての高分子鎖が、前述したA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックが担う機能を発揮できることとなるので好ましい。また、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は、3500〜55000であることが好ましく、5000〜40000であることがより好ましく、6000〜30000であることがさらに好ましい。A−BブロックコポリマーのMn及びMwは、前述のA鎖のポリマーブロックのMn及びMwと同様、GPCにより測定される、ポリスチレン換算の値である。
【0053】
A−Bブロックコポリマーの重合方法は、特に限定されないが、リビングラジカル重合により、A−Bブロックコポリマーを得ることが好ましい。このリビングラジカル重合は、下記一般反応式(1)で表される反応機構で進み、ドーマント種Polymer−X(P−X;Xは保護基)の成長ラジカルへの可逆的活性反応である。
【0055】
この重合機構は、後述するリビングラジカル重合の種類によって変わる可能性があるが、P−Xから保護基であるXが触媒や熱によってX・のラジカルとして脱離して、できたP・にモノマーMが付加する。しかし、P−Xの方が化学的に安定なので、脱離したX・がすぐに結合して、末端を保護する。その作用によって、ラジカル重合の副反応である停止反応を防止することができ、これを繰り返すことで、分子量が均一で、そのXの量で分子量を調整することができ、さらには、ブロックコポリマーなどの今までのラジカル重合で得ることができないポリマーを得ることができる。
【0056】
リビングラジカル重合は、具体的には、アミンオキシドラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization:NMP法);銅やルテニウム、ニッケル、鉄などの重金属、そして、それと錯体を形成するリガンドを使用して、ハロゲン化合物を開始化合物として重合する原子移動ラジカル重合法(Atom transfer radical polymerization:ATRP法);ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などを開始化合物として、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加開裂型連鎖移動重合法(Reversible addition− fragmentation chain transfer:RAFT法)や、MADIX(Macromolecular Design via Interchange of Xanthate)法;有機テルルや有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウムなどの重金属を用いる方法(Degenerative transfer:DT法);ヨウ素化合物を開始剤化合物としたヨウ素移動重合法(Iodine Transfer Polymerization:ITR法);ヨウ素や臭素化合物を重合開始剤とし、有機化合物やヨウ素イオンを有する化合物を重合触媒とする可逆的移動触媒重合法(Reversible Transfer Catalized Polymerization:RTCP法やReversible Complexation Mediated Polymerization :RCMP法);が用いられる。
【0057】
上記のリビングラジカル集合法のなかでも、環境やコストの面を考慮すると、特殊な化合物や金属等を使用しないITR法、RTCP法、及びRCMP法が好ましい。ITR法、RTCP法、及びRCMP法では、メタクリレートを使用することで、その重合の過程で保護基Xが結合した末端が3級となるため、その反応性の点からも好ましい。これらの重合条件、後処理方法、使用する開始化合物、及び触媒などは、特に限定されず、従来公知の方法、条件、及び材料などを適宜採用することができる。得られたポリマーはそのままでもよいし、精製してもよい。
【0058】
重合の形態としては、特に限定されない。塊状重合、懸濁重合、沈殿重合、乳化重合、分散重合、及び溶液重合などを挙げることができ、好ましくは溶液重合である。溶液重合に用いる溶媒をそのままコーティング剤に含有させる溶剤成分として利用することができ、溶液重合により、A−Bブロックコポリマー及び溶媒(溶剤)を含有するコーティング剤を得ることができる。この際に用いる溶媒は、特に限定されず、下記のものが例示できる。
【0059】
溶液重合に用いる溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンなどの炭化水素系溶剤; メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、及びシクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤; エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジプロピリングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤; ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びアニソールなどのエーテル系溶剤; メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、及びアセトフェノンなどのケトン系溶剤; 酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、及び乳酸エチルなどのエステル系溶剤; クロロホルム、及びジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤; ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、カプロラクタム、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、及び3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドなどのアミド系溶剤; ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及び炭酸ジメチルなどが挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上の混合溶剤として用いることができる。
【0060】
溶媒としては、ヒドロキシ基を有していない溶媒を用いることが好ましい。ヒドロキシ基を有する溶媒を用いると、B鎖のポリマーブロックに用いるモノマーにおけるアルコキシシリル基のアルコキシ交換が起こる場合があり、そのアルコキシ脱離の反応性が劣り、B鎖のポリマーブロックによる反応が起こり難い場合がある。さらに、A鎖のポリマーブロックを構成するモノマーに、第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートを使用する場合は、それが塩(第4級アンモニウム塩)の構造を有することから、極性の高い溶媒を用いることが好ましい。そのような溶媒としては、上述した具体例のなかでは、例えば、低級炭素のアルコール系溶剤、グリコール系溶剤、アミド系溶剤、及びスルホキシド系溶剤などが挙げられる。これらのなかでも、上述したヒドロキシ基を有しない点、並びに乾燥性及び臭気などの点から、少なくともアミド系溶剤を使用することが好ましい。
【0061】
上記のような方法で得られる重合液の固形分(モノマー濃度)は、特に限定されないが、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜60質量%である。重合が完結するように、重合液の固形分は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。一方、重合液の撹拌作業や重合収率を確保する観点から、重合液の固形分は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
重合温度は特に限定されず、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは30℃〜120℃である。重合温度は、それぞれの重合開始剤の半減期によって調整される。また、重合時間は、モノマーがなくなるまで重合を続けることが好ましいが、特に限定されず、例えば、0.5時間〜48時間、実用的な時間として好ましくは1時間〜24時間、さらに好ましくは2時間〜12時間である。
【0063】
A−Bブロックコポリマーを得る好ましい方法としては、A鎖を構成するモノマーを重合させて、その重合が完結していなくとも、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを添加してB鎖のポリマーブロックを得るようにすることである。さらには、A鎖を構成するモノマーが完全に重合していなくても、B鎖のポリマーブロックが前述した分子量になればよく、A鎖を構成するモノマーの重合率が50%以上、さらに好ましくは80%以上になった時点で、B鎖を構成するモノマーを添加して重合してもよい。その添加は、一度に添加してもよいし、滴下装置で滴下して行ってもよい。滴下することで、A−Bブロックコポリマーは、B鎖のポリマーブロックにおけるモノマー組成が分子鎖に沿って連続的に変化する(濃度勾配をもつ)こと、すなわち、グラジエントポリマーとなることができる。
【0064】
以上のようにして、A−Bブロックコポリマーを得ることができる。A−Bブロックコポリマーを得た後、このアルコキシシリル基を含むブロックコポリマーの保存において、そのブロックコポリマーを含有する重合液をそのまま保存してもよい。この際、重合液への外部からの水の進入を防止して、アルコキシシリル基の加水分解による消失を防止することが好ましい。また、重合液に、必要に応じて脱水剤を添加することが好ましい。その脱水剤としては、例えば、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、及びオルト酢酸トリプロピルなどのオルトカルボン酸エステルを挙げることができる。これらの脱水剤の1種又は2種以上を用いることができる。脱水剤は、A−Bブロックコポリマー100質量部に対し0.1〜30質量部添加することが好ましい。
【0065】
[溶剤]
コーティング剤には、前述したA−Bブロックコポリマーに加えて、溶剤を含有させることができる。この溶剤としては、従来公知のものが使用され、特に限定されない。その具体例としては、前述した溶液重合の際に用いることが可能な溶媒と同様のものを挙げることができる。コーティング剤を塗布し、乾燥させて被膜を形成する際の乾燥温度や乾燥時間を抑えるために、好ましくは沸点が200℃以下、より好ましくは150℃以下の溶剤を用いるのが良い。コーティング剤には、1種又は2種以上の溶剤を含有させることができる。
【0066】
[その他の成分]
コーティング剤には、必要に応じて、前述したA−Bブロックコポリマー及び溶剤のほか、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分としては、公知の材料を用いることができ、コーティング剤の用途に合わせて、適宜選択して用いることができる。その材料としては、例えば、染料及び顔料などの着色剤;紫外線吸収剤、抗酸化剤、及び光安定剤などの耐久性向上剤;レベリング剤、消泡剤、芳香剤、抗菌剤、防かび剤、可塑剤、つや消し剤、顔料分散剤、沈降防止剤、光塩基発生剤、光酸発生剤、表面調整剤、及びチクソトロピック剤などを挙げることができる。さらに必要であれば、他のポリマー成分として、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリスチレン、及びポリウレタンなどの熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びメラミン等の熱硬化性樹脂などをコーティング剤に含有させてもよい。また、アルコキシシリル基の反応性を上げるために、水及び塩酸などの酸性触媒、並びにアンモニア及びトリエチルアミンなどの塩基性触媒をコーティング剤に添加してもよい。上述したその他の成分は、予めコーティング剤に含有させておいてもよいし、コーティング剤を塗布する直前にコーティング剤に添加してもよい。
【0067】
[コーティング剤の組成など]
コーティング剤中の各成分の含有量は、コーティング剤の用途に応じて、適宜設計されるが、例えば、A−Bブロックコポリマーの含有量は、コーティング剤の全質量を基準として、10〜80質量%程度であることが好ましい。また、コーティング剤は、適度な流動性を示す程度の適度な粘度を有することが好ましく、コーティング剤の粘度は、例えば、1.0〜10000mPa・s程度であることが好ましい。
【0068】
コーティング剤は、従来公知の方法で得られ、その製造方法は特に限定されない。前述したA−Bブロックコポリマー、及び必要に応じて用いられる各成分を配合した後、ディスパーなどの撹拌機にて良く混合して、場合によってはフィルターにて、粗大粒子、異物、及びゴミなどを除去して、コーティング剤を製造することができる。
【0069】
<コーティング剤の使用及び被膜>
本発明の一実施形態のコーティング剤を用いて、被膜を作製することができる。コーティング剤を様々な物品である基材に塗布し、コーティング剤の乾燥及び反応により、被膜を形成することができる。コーティング剤を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、ドクタープレード法、ロールコート法、ディップ法、スプレー法、フレキソ印刷法、及びリバースロールコーター法などにより、コーティング剤を基材に塗布することができる。
【0070】
コーティング剤が塗布される基材としては、特に限定されず、例えば、光学材料分野、電気材料分野、建築材料分野、表示材料分野、エネルギー分野、分離機能材分野、及び医療材料分野などに使用される基材を挙げることができる。それらの分野における物品の表面コーティング剤や表面処理剤として、コーティング剤を好適に使用することができる。具体的には、基材の材質としては、ステンレス及び銅などの金属、ガラス、セラミック、無機酸化物、シリコン、木材、紙、ポリオレフィン及びナイロンなどのプラスチック材料、並びに炭素材料などが挙げられる。
【0071】
コーティング剤を基材に塗布した後、そのコーティング剤層から、溶剤が揮発などにより除去されて、被膜が形成される。この際、コーティング剤中のA−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックのアルコキシシリル基が、基材の表面と反応し、かつ自己架橋することで、B鎖のポリマーブロックが基材に密着し、かつ三次元網目構造を形成することができる。すなわち、本発明の一実施形態の被膜の製造方法は、基材にコーティング剤を塗布し、B鎖のポリマーブロックにおけるアルコキシシリル基を、基材の表面に反応させ、かつ、自己縮合させて被膜(親水性被膜)を形成するものである。
【0072】
したがって、基材としては、その表面にヒドロキシ基を有しているものが好ましく、例えば、ガラス製やシリコン製の基材をそのまま使用することができ、また、それらの基材の表面に処理によってシラノール基を生成させたものを使用することができる。また、金属製の基材である場合には、その表面の金属酸化物をオゾンなどで還元してヒドロキシ基を生じさせたものが好ましい。木材や紙などの基材もそのまま使用できる可能性がある。さらには、セラミック、金属、及び炭素材料などの表面が不活性な基材の場合には、その基材の表面を予め酸化させた後、還元してヒドロキシ基を生じさせたものや、基材の表面にシリカ、アルミナ、及びジルコニアなどの処理を行い、ヒドロキシ基を付与させたものが好ましい。
【0073】
A−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックが有するアルコキシシリル基の反応は、次のような反応によって行われると考えられる。すなわち、A−Bブロックコポリマーの構造中のアルコキシシリル基が、熱や空気中の水分、又は必要に応じてコーティング剤に添加される水によって、アルコールとシラノール基となり、このシラノール基が脱水縮合し、また、基材表面のヒドロキシ基と脱水縮合すると考えられる。こうした反応によって、コーティング剤による被膜と基材との密着性を向上させ、かつ、三次元網目構造により、被膜の耐久性を向上させることができる。
【0074】
より詳しく説明すると、基材の表面の活性水素官能基(好ましくはヒドロキシ基)と、B鎖におけるアルコキシシリル基の加水分解によるシラノール基との脱水縮合反応によって、A−Bブロックコポリマーを基材に結合させることができる。また、A−BブロックコポリマーにおけるB鎖は多数のアルコキシシリル基を有するポリマーブロックであることから、多点で基材表面と反応し、基材に対して優れた密着性を示す被膜が得られる。そしてさらに、B鎖は多数のアルコキシシリル基を有することから、基材だけでなく、自己架橋することによって、B鎖のポリマーブロックが三次元網目構造となって、被膜の耐久性をより向上させることができる。
【0075】
このとき、A−Bブロックコポリマーだけで基材と反応させてもよいが、必要に応じて、クロロシランやジアルコキシシリル基以上のアルコキシシリル基を有する低分子化合物であるアルコキシシリル化合物をコーティング剤に添加して、ゾルゲル法にて架橋構造をとってもよい。その際に使用する低分子化合物であるクロロシランやアルコキシシリル化合物は、特に限定されない。例えば、テトラクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。その量も特に限定されないが、好ましくは、A−Bブロックコポリマー100質量部に対して0〜50質量部となるようにすればよい。
【0076】
また、コーティング剤に、触媒を加えてアルコキシシリル基の反応を促進させてもよい。触媒としては、塩酸などの酸類;アンモニア;トリエチルアミンなどのアミン類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキシド、及びジブチル錫アセチルアセトナートなどの錫化合物;イソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート及びテトライソプロポキシチタネートなどのチタン化合物などが挙げられる。
【0077】
被膜を形成させるためのコーティング剤の乾燥温度は、特に限定されない。例えば、好ましくは50〜300℃、より好ましくは70〜250℃、さらに好ましくは100〜230℃である。乾燥時間としては、使用する溶剤の種類及び被膜の厚さなどによって適宜変更しうるが、例えば、10分間〜3時間程度とすることができる。また、塗布したコーティング剤を数回に分けて乾燥してもよい。例えば、1回目の乾燥で溶剤を揮発させ、2回目の乾燥で、場合によっては、より高温として、アルコキシシリル基の反応を十分にさせるという方法をとることができる。
【0078】
被膜の厚さは、特に限定されず、用途に応じて適宜設計される。被膜の厚さは、数nmという単層膜であってもよいし、数十μmという厚さであってもよい。
【0079】
本発明の一実施形態の被膜の製造方法では、コーティング剤中のA−BブロックコポリマーのA鎖のポリマーブロックに、前述の(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートを使用する場合、上述の方法のほか、次のようにして被膜を製造することが好ましい。すなわち、その製造方法では、前述の(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートに由来する構成単位を少なくとも含むA鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を用いる。そして、そのコーティング剤を基材に塗布した後、又はさらに前述したB鎖におけるアルコキシシリル基による反応をさせた後、A鎖のポリマーブロックにおける第3級アミノ基を前述の4級化剤により、第4級アンモニウム塩化させて被膜を形成することができる。このような方法によって、A鎖のポリマーブロックに(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を用いて得られる被膜と同様の被膜を製造することができる。
【0080】
前述の通り、第4級アンモニウム塩は、そのイオン性があることから、A−Bブロックコポリマーを合成する際、第4級アンモニウム塩を溶解させるために、極性の高い溶媒を使用することが好ましい。一方、A鎖のポリマーブロックを構成するモノマーに第3級アミノ基を有するメタクリレートを用いれば、好適に使用可能な溶媒の選択の幅を広げることができ、また、汎用性の高いモノマーを使用できる点でコストの観点からも有利である。
【0081】
すなわち、(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートは、低極性の溶媒でも溶解することができる。そして、その(a3)に由来する構成単位を含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を基材に塗布して、第3級アミノ基を付与し、それを4級化剤で第4級アンモニウム塩化し、又は、(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を基材に塗布して第4級アンモニウム塩基を付与し、例えばビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウムなどの無機塩を添加して、塩交換させることができる。このような方法により、例えばメタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのようなモノマーを事前に用意する必要がなく、汎用性のモノマーを使用して、容易に上記のモノマーのような無機系のアニオンを有する第4級アンモニウム塩基を基材表面に導入することができる。
【0082】
上述した第3級アミノ基を4級化剤で第4級アンモニウム塩化させて被膜を作製する方法としては、様々な方法を採ることができるが、その好適な具体例を以下に述べる。まず、上述の通り、第3級アミノ基をA鎖に有し、かつ、アルコキシシリル基をB鎖に有するA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を用意する。次いで、そのコーティング剤を基材に塗布し、被膜を作製する。このとき、B鎖におけるアルコキシシリル基による反応が十分に生じていなくても、次に行う4級化剤を用いた処理による第4級アンモニウム塩化を進行させることができ、乾燥被膜として得られていればよい。好ましくは、コーティング剤を基材に塗布した後、乾燥及び反応させることで、B鎖におけるアルコキシシリル基を基材の表面に反応させ、かつ、自己縮合させて被膜を形成させてから、4級化剤による処理を行うのが良い。
【0083】
上述のように形成した被膜に、前述の4級化剤を接触させる処理を行う。具体的には、水、アルコール系溶剤、及びグリコール系溶剤などの極性が高い溶媒に溶解させた4級化剤を用いて、浸漬、塗布、又は噴霧などの手法により処理を行うことが好ましい。より好ましくは、4級化剤が溶媒に溶解した溶液に、被膜を設けた基材を浸漬させるのが良い。室温又は加温して、被膜における第3級アミノ基を第4級アンモニウム塩化する処理を行い、第4級アンモニウム塩化された被膜を得ることができる。さらに、その対イオンがハロゲンイオンである場合には、無機系の4級化剤の溶液に浸漬させることなどにより、アニオン交換が起こり、無機系のアニオンを対イオンとする第4級アンモニウム塩化による親水性被膜を得ることができる。この方法は、1種類の第3級アミノ基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA−Bブロックコポリマーを用意することで、様々な対アニオンを形成させることができる点で有利である。また、4級化の処理後、水や溶剤で洗浄することで、工程などが煩雑な無機系アニオンを有する第4級アンモニウム塩を有するメタクリレートを予め調製する必要がなく、コスト、材料、及び環境の観点からも優位である。
【0084】
以上のようにして、本発明の一実施形態の親水性被膜を物品に形成させることができる。この被膜の用途は特に限定されず、例えば、光学材料分野、電気材料分野、建築材料分野、表示材料分野、エネルギー分野、分離機能材分野、及び医療材料分野などが挙げられる。本発明の一実施形態の親水性被膜が付与された物品は、その親水性被膜により、水滴付着防止効果、防曇効果、流滴効果、帯電防止効果、及び防塵効果などの効果が長期的に持続し得る性質が付与される。好適な物品としては、例えば、台所、トイレ、及び浴槽などの家庭の水周りにおけるプラスチック成形品や鏡などを挙げることができる。また、フィルム状やシート状の好適な物品として、農業用フィルム、食品包装用フィルム、シュリンクフィルム、及び水滴付着防止保護シートなどを挙げることができる。さらに、被膜が親水性であることによって、水分を吸着して膨潤することができることから、その被膜によって、インク受容性を物品に付与することができる。そのため、今まで筆記やインクジェットインクでの印画が困難であった物品に、本発明の一実施形態の被膜を形成することによって、筆記や印画を行いやすくすることが可能となる。
【0085】
以上詳述した本発明の一実施形態のコーティング剤、被膜、及び被膜の製造方法は、次のような構成をとることが可能である。
[1]A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤であって、前記A鎖のポリマーブロックは、(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレート、(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレート、及び(a4)第4級アンモニウム塩基を有するメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まず、数平均分子量が3000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下であり、
前記B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに、数平均分子量が5000以下であり、かつ、前記A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである、コーティング剤。
[2]前記(a1)ポリエチレングリコールモノメタクリレートの平均分子量が200〜5000である前記[1]に記載のコーティング剤。
[3]前記(a2)ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートの平均分子量が200〜5000である前記[1]又は[2]に記載のコーティング剤。
[4]前記A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.60以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のコーティング剤。
[5]前記アルコキシシリル基を有するメタクリレートが、メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランを含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載のコーティング剤。
[6]前記A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーが、全てメタクリレート系モノマーである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のコーティング剤。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のコーティング剤を用いて作製された被膜。
[8]基材に、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のコーティング剤を塗布し、前記B鎖のポリマーブロックにおける前記アルコキシシリル基を、前記基材の表面に反応させ、かつ、自己縮合させて被膜を形成する被膜の製造方法。
[9]前記コーティング剤が、前記(a3)第3級アミノ基を有するメタクリレートに由来する構成単位を少なくとも含む前記A鎖のポリマーブロックを含む前記A−Bブロックコポリマーを含有し、そのコーティング剤を前記基材に塗布した後、前記A鎖のポリマーブロックにおける前記第3級アミノ基を4級化剤により第4級アンモニウム塩化させて前記被膜を形成する前記[8]に記載の被膜の製造方法。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の一実施形態のコーティング剤をさらに具体的に説明するが、そのコーティング剤は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の文中において、「部」及び「%」との記載は、特に断らない限り、質量基準(それぞれ「質量部」及び「質量%」)である。
【0087】
<コーティング剤の製造>
[実施例1]
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMAcと略記)190.2部、2−アイオド−2−シアノ−プロパン(以下、CP−1と略記)1.56部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略記)1.3部、N−アイオドコハクイミド(以下、NISと略記)を0.11部、平均分子量約400のポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(以下、PEGMEMA400と略記)を160.0部入れ、窒素を流しながら75℃で撹拌した。そして、5時間重合を行い、A鎖のポリマーを合成した。得られた重合液をサンプリングしてアルミ皿にとり、130℃の乾燥機で恒量に達するまで乾燥して、固形分を測定し(この方法を「固形分測定法1」とする)、その重合転化率を算出したところ、90%であった。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーの数平均分子量(Mn)は8000、分子量分布(PDI)は1.27であった。
【0088】
次いで、得られた重合液に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−503」;以下、KBM−503と略記)を24.8部添加し、75℃で、5時間重合を行い、B鎖を形成させた。重合後、ほぼ定量的に得られた。得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは11000であり、PDIは1.42であった。分子量がA鎖よりも大きくなっていることから、得られたポリマーは、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーとなっていると考えられる。ここで、B鎖の分子量については、A−Bブロックコポリマー全体のMn値から、A鎖のポリマーブロックのMn値を引くことによって算出した。この結果、B鎖のポリマーブロックのMnは3000となった。以下、B鎖のMnは、このようにして算出した値である。
【0089】
次いで、得られた重合液を冷却し、室温(25℃;以下の室温も同じ)付近になったらトリメチルオルト酢酸(以下、TMAと略記)1.9部とPGMAc1.9部の混合物を添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の固液分は、49.0%であった。この固形分は、得られた樹脂溶液の一部をアルミ皿にサンプリングし、80℃の真空乾燥機にて恒量に達するまで乾燥させて、その残分から算出した値である(この方法を「固形分測定法2」とする)。また、ガスクロマトグラフィーで残留モノマーを測定したが、ほとんど検出されなかった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、A−Bブロックコポリマーの溶液(これを「BP−1溶液」という)である、実施例1のコーティング剤を作製した。このようにして、PEGMEMA400に由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
【0090】
[実施例2]
上記反応容器に、PGMAcを147.8部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、NISを0.11部、平均分子量約200のポリエチレングリコールモノメタクリレート(以下、PEGMA200と略記)を40.0部、平均分子量約4000のポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(以下、PEGMEMA4000と略記)を40.0部、メチルメタクリレート(以下、MMAと略記)を40.0部入れ、窒素を流しながら75℃で撹拌した。そして、5時間重合を行い、A鎖のポリマーを合成した。得られた重合液の固形分を固形分測定法1にて固形分を測定し、重合転化率を算出したところ、85%であった。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーのMnは12000、PDIは1.32であった。
【0091】
次いで、得られた重合液にKBM−503を24.8部添加し、75℃で、5時間重合を行い、B鎖を形成させた。重合後、ほぼ定量的に得られた。得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは13900であり、PDIは1.55であった。この結果、B鎖のポリマーブロックのMnは1900となった。
【0092】
次いで、得られた重合液を冷却し、室温付近になったらTMA1.47部とPGMAc1.47部の混合物を添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は、49.3%であった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、A−Bブロックコポリマーの溶液(これを「BP−2溶液」という)である、実施例2のコーティング剤を作製した。このようにして、PEGMA200、PEGMEMA4000、及びMMAのそれぞれに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
【0093】
[実施例3]
上記反応容器に、PGMAc163.5部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、NISを0.11部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、DMAEMAと略記)を62.8部、ベンジルメタクリレート(以下、BzMA)を70.48部入れ、窒素を流しながら75℃で撹拌した。そして、5時間重合を行い、A鎖のポリマーを合成した。得られた重合液の固形分を固形分測定法1にて固形分を測定し、重合転化率を算出したところ、92%であった。移動相(展開溶媒)として、臭化リチウム(LiBr)を0.1mmol/L添加したジメチルホルムアミド(DMF)を用いたGPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーのMnは15000、PDIは1.44であった。
【0094】
次いで、得られた重合液に、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBE−503」;以下、KBE−503と略記)を14.5部添加し、75℃で、5時間重合を行い、B鎖を形成させた。重合後、ほぼ定量的に得られた。得られた重合液をサンプリングして、移動相(展開溶媒)として、LiBrを0.1mmol/L添加したDMFを用いたGPCにて分子量を測定したところ、Mnは16200であり、PDIは1.55であった。この結果、B鎖の分子量は1200となった。
【0095】
次いで、得られた重合液を冷却し、室温付近になったらTMA1.63部とPGMAc1.63部の混合物を添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は、49.2%であった。得られた樹脂溶液の一部をサンプリングし、0.5部測りとり、トルエン/エタノール=1/1(質量比)の混合液を100mL加えて希釈し、0.1N塩化クロライド/イソプロパノール溶液を滴定液として、ブロモフェノールブルーを指示薬として、変色するまで滴定し、アミン価を求めたところ、ポリマー固形分換算で140.8mgKOH/gであり、ほぼ理論通りであった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、A−Bブロックコポリマーの溶液(これを「BP−3溶液」という)である、実施例3のコーティング剤を得た。このようにして、DMAEMA、及びBzMAのそれぞれに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
【0096】
[実施例4]
上記反応容器に滴下ロートを設置し、その容器内に、実施例3で得られたBP−3溶液を100.0部、N−メチルピロリドン(以下、NMP)を192.8部入れた。次いで、別の反応容器にNMP15.6部と塩化ベンジル15.6部を混合して均一化し、滴下ロートに仕込んで、室温で1時間かけて滴下した。そして、80℃に加温して、6時間反応させて、樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液をサンプリングし、実施例3で述べた方法と同様の方法でアミン価を測定したところ、2.6mgKOH/gであった。この結果、BP−3溶液に含有されていたA−Bブロックコポリマーにおける第3級アミノ基が、塩化ベンジルでほとんど4級化されたと考えられる。また、得られた樹脂溶液を水に添加したところ、析出物がなく溶解した。これも第3級アミノ基が第4級アンモニウム塩化したためと考えられる。得られた樹脂溶液をサンプリングし、移動相(展開溶媒)として、LiBrを0.1mmol/L添加したDMFを用いたGPCにて分子量を測定したところ、Mnは21000であり、PDIは1.42であった。この樹脂溶液の調製には、実施例3で得られたBP−3溶液(それに含まれるA−BブロックコポリマーのB鎖のMnは1200である)を使用したため、A鎖のポリマーブロックのMnは19800であると考えられる。得られた樹脂溶液の固形分を上記固形分測定法2で測定したところ、19.6%であった。以上のようにして、A−Bブロックコポリマーの溶液(これを「BP−4溶液」という)である、実施例4のコーティング剤を得た。
【0097】
[比較例1]
上記反応容器に、PGMAcを190.2部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、NISを0.11部、PEGMEMA400を160.0部、KBM−503を24.8部入れ、窒素を流しながら80℃で撹拌し、9時間重合を行った。得られた重合液をサンプリングして、上記固形分測定法2で固形分を測定したところ、ほぼ定量的であり、また、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは17300、PDIは1.25であった。得られた重合液を冷却し、TMAを2.8部添加し、撹拌後、取り出した。このようして得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は49.8%であった。この樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、実施例1で使用したモノマーの種類及び使用量が共通するランダムコポリマーを含有する溶液(これを「RP−1溶液」という)である、比較例1のコーティング剤を得た。
【0098】
[比較例2]
上記反応容器に、PGMAcを135.0部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、NISを0.11部、PEGMEMA400を132.0部入れ、窒素を流しながら80℃で撹拌し、9時間重合を行った。得られた重合液をサンプリングして、上記固形分測定法1で固形分を測定したところ、ほぼ定量的であり、また、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは9100、PDIは1.17であった。得られた重合液を冷却して取り出した。このようにして得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は49.2%であった。この樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、比較例2のコーティング剤を作製した。この比較例2のコーティング剤は、実施例1で製造したコーティング剤中のA−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックのみに対応する、アルコキシシリル基を有しないホモポリマーを含有する溶液(これを「HP−1溶液」という)である。
【0099】
<被膜の製造>
実施例1〜4、並びに比較例1及び2のそれぞれについて、各コーティング剤を用いて被膜を作製した。具体的には、溶剤でよく洗浄したガラス板(80mm四方、厚さ1mm)をスピンコーターにセットし、コーティング剤を最初300rpmで5秒間、次いで1200rpmで5秒間の条件でスピンコートした。次いで80℃で10分間プリベークを行った後、230℃で30分間乾燥させた。このようにして、ガラス板に厚さ1.6μmの被膜を形成したサンプル板を作製した。実施例1及び2、並びに比較例1及び2のサンプル板を、それぞれ、BP−1板、BP−2板、RP−1板、及びHP−1板と称し、4枚ずつ用意した。また、実施例3及び4のサンプル板を、それぞれ、BP−3板、及びBP−4板と称して8枚ずつ用意した。
【0100】
[実施例5]
実施例4で得られたBP−4溶液による被膜が形成されたガラス板(BP−4板)を、0.1%ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム水溶液に24時間浸漬させて、アニオン交換を行った。得られたガラス板を取り出し、イオン交換水でよく洗浄して、ドライヤーで送風乾燥した。このようにして、対イオンとして無機系のアニオンを有する第4級アンモニウム塩基を被膜に導入させたサンプル板(これをBP−5板という)を作製した。フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた全反射法(ATR法)にて、サンプル板(BP−5板)の被膜表面の吸収スペクトルを測定した結果、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンのイミド基及びスルホニル基が確認され、イオン交換したと考えられる。
【0101】
[実施例6]
ヨウ化メチルが入った200mLビーカー上に、BP−3板を、その被膜がヨウ化メチルの液面に向く状態で載せて蓋をし、10時間、室温で放置した。この作業により、ヨウ化メチルの蒸気で、BP−3板の被膜を構成するA−BブロックコポリマーにおけるDMAEMAに由来する構成単位中の第3級アミノ基を、第4級アンモニウム塩化させた。次いで、10時間放置した後、ガラス基板をメタノールでよく洗浄し、乾燥した。このようにして、第3級アミノ基を有する被膜について4級化剤を使用し、その被膜に第4級アンモニウム塩基を導入させたサンプル板(これをBP−6板という)を作製した。FT−IRを用いたATR法にて、サンプル板(BP−6板)の被膜表面の吸収スペクトルを測定した結果、ジメチルアミノエチル基で確認できる2700〜2800cm
−1のピークが消滅し、第4級アンモニウム塩が確認され、イオン化したと考えられる。
【0102】
<評価試験>
作製した各サンプル板(BP−1〜6板、RP−1板、及びHP−1板)を用いて、以下に示す試験を行った。なお、ブランク試験では、サンプル板の代わりに、何も処理されていないガラス板を溶剤でよく洗浄し、乾燥させた無処理のガラス板を用いた。また、各試験については、温度23℃、相対湿度30%の恒温室にて試験を行った。
【0103】
[接触角の測定]
サンプル板の被膜上に水を一滴垂らし、被膜に対する水滴の接触角を測定した。
【0104】
[耐水性試験]
サンプル板を80℃の熱水に浸漬させた後に取り出し、水洗し、送風乾燥機で乾燥させて、被膜の残存状態を目視にて確認し、以下の評価基準にしたがって、耐水性を評価した。
A(良好):被膜にほとんど変化は見られなかった。
C(不良):被膜がほとんど残っていなかった。
【0105】
[耐溶剤性試験]
サンプル板をテトラヒドロフランに10分間浸漬させた後に取り出し、水洗して、送風乾燥機で乾燥させて、被膜の残存状態を目視にて確認し、上記の「耐水性試験」と同様の評価基準にしたがって、耐溶剤性を評価した。
【0106】
[水滴付着防止性の確認試験]
80℃の熱水を入れたビーカー上にサンプル板を載せ、15分後、サンプル板に付着した水滴の様子を観察し、以下の評価基準にしたがって、水滴付着防止性を評価した。
A(良好):水滴が玉にならず流れていた。
B(可) :水滴が大きな玉になっていた。
C(不良):水滴が多数の小さな玉になっていた。
【0107】
以上の水滴試験の評価結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
実施例1〜6で得られた被膜(及びBP−1〜6板)は、耐水性及び耐溶剤性がいずれも良好であり、優れた耐久性を有することが確認された。この結果は、これらの被膜に用いたコーティング剤中のA−Bブロックコポリマーにおけるアルコキシシリル基を有するB鎖とガラス板との反応による被膜の密着性向上、及びB鎖の自己縮合によるものと考えられる。また、実施例1〜6で得られた被膜(及びBP−1〜6板)は、いずれもブランク(ガラス板)に比べて、水との接触角が小さく、親水性が付与されていることが確認され、その親水性から、水滴付着防止性を示すことが確認された。なかでも、実施例1、2、4、及び6で得られた被膜(BP−1板、BP−2板、BP−4板、BP−6板)は、水との接触角が非常に小さく、良好な親水性及び水滴付着防止性を有し、さらにその良好な水滴付着防止性により、防曇性を示すことが確認された。
【0110】
一方、比較例1で得られた被膜は、耐水性及び耐溶剤性が良好であり、良好な密着性を示したが、実施例に比べて、水との接触角が大きく、また、水滴付着防止性に劣る結果となり、親水性が不足していた。これは、アルコキシシリル基による架橋間の分子量が小さいために、十分な親水性を得ることができなかったと推測される。比較例2で得られた被膜は、その被膜に、A鎖のポリマーブロックのみに対応するホモポリマーが使用されたために、そのポリマー鎖が十分な分子量であることで良好な親水性を示したものの、反応性基(アルコキシシリル基)を有していないために、ガラス板と反応できず、耐水性及び耐溶剤性が不良となり、耐久性が劣る結果になったものと考えられる。そのため、比較例2で得られた被膜は、良好な親水性を有するものの、水滴付着防止性の評価試験では、被膜が剥がれるという結果となった。
【0111】
[インク受容性]
実施例4で作製したBP−4板の被膜表面に、顔料水性黒ペン(ゼブラ社製、商品名「水性マッキー」)にて筆記したところ、文字が滲むことなく、認識するのも問題なく、筆記できた。また、綿布でこすっても文字が擦れることがなく、綿布も汚れていなかった。被膜の表面に第4級アンモニウム塩基を有することで、水を吸収して膨潤し、インクの定着性を向上させたものと考えられる。なお、ブランクのガラス板の表面に同様に筆記を試みたところ、インクがほとんどはじいてしまい、筆記することができなかった。
【0112】
[抵抗値測定]
実施例5で作製したBP−5板における被膜、及びブランクであるガラス板の表面について、高抵抗抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製、商品名「ハイレスタUX」)を使用して、表面抵抗値を測定した。その結果、BP−5板における被膜は、7×10
10Ω/□(sq.)であって、ブランクであるガラス板の表面は、1×10
14Ω/□(sq.)以上であった。よって、本発明の一実施形態のコーティング剤は、帯電防止性を有する被膜の形成に寄与できると考えられる。
【0113】
以上の通り、本発明の一実施形態コーティング剤は、良好な親水性及び耐久性を有する被膜を形成可能であることが確認された。