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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-80860(P2021-80860A)
(43)【公開日】2021年5月27日
(54)【発明の名称】エンジンの冷却構造
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/14 20060101AFI20210430BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20210430BHJP
【FI】
   F02F1/14 D
   F02F1/14 Z
   F01P3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-207722(P2019-207722)
(22)【出願日】2019年11月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 大典
(72)【発明者】
【氏名】村中 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】田畑 大介
(72)【発明者】
【氏名】高原 正輝
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA21
3G024AA27
3G024AA28
3G024AA40
3G024BA01
3G024BA02
3G024BA03
3G024CA01
3G024CA05
3G024HA13
(57)【要約】
【課題】ウォータージャケット内にウォータージャケットスペーサが配置されたエンジンの冷却装置において、ボア間経路へ向かう冷却水の水量を適正化する。
【解決手段】エンジンの冷却構造は、気筒列21Lを取り囲むように形成され冷却水を流通させるウォータージャケット22を区画する壁面を有するシリンダブロック2と、ウォータージャケット22の内部に配置され、冷却水の流れを調整するウォータージャケットスペーサ3とを備える。ウォータージャケットスペーサ3は、スペーサ本体部30の上端に設けられ、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aに向かう冷却水の水量を調整する上端フランジ301を備える。上端フランジ301は、ボア中央壁26に対向する第1隙間領域S1の隙間G1より、ボア間壁25に対向する第2隙間領域S2の隙間G2の方を狭くする形状を有する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒が所定方向に並ぶ気筒列を有するエンジンブロックであって、
前記気筒列を区画する壁面と、
前記気筒列を取り囲むように形成され冷却水を流通させるウォータージャケットを区画する壁面と、
隣り合う気筒間の壁であるボア間壁と、
少なくとも前記ボア間壁を除く気筒の周壁であるボア中央壁と、
前記ボア間壁内を気筒列方向と水平面内で直交する方向に延び、前記冷却水を流通させるボア間経路と、を有するエンジンブロックと、
前記ウォータージャケットの内部に配置され、前記冷却水の流通経路を、前記気筒に近いボア側経路と、前記気筒から遠い反ボア側経路とに区分するウォータージャケットスペーサと、を備え、
前記ウォータージャケットスペーサは、
前記気筒列の外周形状に沿った形状を有するスペーサ本体部と、
前記スペーサ本体部の上端に設けられ、前記反ボア側経路から前記ボア側経路に向かう冷却水の水量を調整する水量調整部材と、を備え、
前記ウォータージャケットの前記反ボア側経路の壁面と前記水量調整部材との間の隙間であって、当該水量調整部材の前記ボア中央壁に対向する領域を第1隙間領域とし、前記ボア間壁に対向する領域を第2隙間領域とするとき、前記水量調整部材は前記第1隙間領域よりも前記第2隙間領域の方を狭くする形状を有する、エンジンの冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの冷却構造において、
前記水量調整部材は、前記第1隙間領域から前記第2隙間領域に向けて、前記隙間を徐々に狭くする形状を有する、エンジンの冷却構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンの冷却構造において、
前記水量調整部材は、前記第2隙間領域において、前記反ボア側経路の壁面に当接する領域を含む、エンジンの冷却構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンの冷却構造において、
前記スペーサ本体部の前記気筒と対向する内側面に付設され、外的要因が加わることによって膨張する膨張部材をさらに備える、エンジンの冷却構造。
【請求項5】
請求項4に記載のエンジンの冷却構造において、
前記膨張部材は、前記内側面における前記気筒列の一端側から他端側に亘る領域に連続的に付設されている、エンジンの冷却構造。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のエンジンの冷却構造において、
前記膨張部材は、前記内側面の気筒軸方向の下方領域に配置されている、エンジンの冷却構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンジンの冷却構造において、
前記水量調整部材は、前記スペーサ本体部の上端から前記反ボア側経路の壁面に向けて延設される板状体からなる、エンジンの冷却構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のエンジンの冷却構造において、
前記気筒列の配列ラインに対して、各気筒の吸気弁が配置される側を吸気側、及び、排気弁が配置される側を排気側とするとき、
前記ウォータージャケットは、前記気筒列の前記吸気側に配置された吸気側ジャケット部と、前記排気側に配置された排気側ジャケット部と、を含み、
前記排気側ジャケット部を区画する壁面が、前記ボア間経路の入口孔を有している、エンジンの冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンブロックのウォータージャケット内に、冷却水の流れを調整するウォータージャケットスペーサが配置されてなるエンジンの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒型の内燃機関のエンジンブロックには、気筒壁、すなわち、各気筒の周壁であるボア中央壁及び隣り合う気筒間の壁であるボア間壁を通過するように、冷却水の流通経路となるウォータージャケットが設けられる。ウォータージャケットの内部には、冷却水の流れを調整するウォータージャケットスペーサが配置されることがある。冷却水流れの調整によって、ボア中央壁及びボア間壁を狙いの温度に設定することが可能となる。
【0003】
一般に、ウォータージャケットスペーサは、冷却水の流通経路を、気筒に近いボア側経路と、気筒から遠い反ボア側経路とに区分する。特許文献1には、ウォータージャケットスペーサのボア側の壁面に、水との接触により膨張する膨張部材を取り付けることで、冷却水の流れをより適切に調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−115613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のボア間壁は、2つの気筒で挟まれた位置にある壁であるため、高温化し易い。このため、ボア間壁には冷却水を流通させる貫通孔であるボア間経路が設けられる場合がある。ボア間経路を経た冷却水は、シリンダヘッドを経由する等して、循環ポンプを備えた所定の冷却水循環経路に合流する。
【0006】
上記ボア間経路がボア間壁に設置されている場合、ボア間経路に引き込まれる水流によって、企図しない冷却水の流れがウォータージャケット内に形成されることがある。例えば、前記ボア間経路へ向かう冷却水の通水抵抗が低すぎて、所要量を超える水量が前記ボア間経路を流れてしまうことがある。この場合、バランスの良いエンジンの冷却が阻害されるという問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、ウォータージャケット内にウォータージャケットスペーサが配置されたエンジンの冷却装置において、ボア間経路へ向かう冷却水の水量を適正化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係るエンジンの冷却構造は、複数の気筒が所定方向に並ぶ気筒列を有するエンジンブロックであって、前記気筒列を区画する壁面と、前記気筒列を取り囲むように形成され冷却水を流通させるウォータージャケットを区画する壁面と、隣り合う気筒間の壁であるボア間壁と、少なくとも前記ボア間壁を除く気筒の周壁であるボア中央壁と、前記ボア間壁内を気筒列方向と水平面内で直交する方向に延び、前記冷却水を流通させるボア間経路と、を有するエンジンブロックと、前記ウォータージャケットの内部に配置され、前記冷却水の流通経路を、前記気筒に近いボア側経路と、前記気筒から遠い反ボア側経路とに区分するウォータージャケットスペーサと、を備え、前記ウォータージャケットスペーサは、前記気筒列の外周形状に沿った形状を有するスペーサ本体部と、前記スペーサ本体部の上端に設けられ、前記反ボア側経路から前記ボア側経路に向かう冷却水の水量を調整する水量調整部材と、を備え、前記ウォータージャケットの前記反ボア側経路の壁面と前記水量調整部材との間の隙間であって、当該水量調整部材の前記ボア中央壁に対向する領域を第1隙間領域とし、前記ボア間壁に対向する領域を第2隙間領域とするとき、前記水量調整部材は前記第1隙間領域よりも前記第2隙間領域の方を狭くする形状を有する。
【0009】
このエンジンの冷却構造によれば、スペーサ本体部の上端に水量調整部材が設けられるので、ボア間壁に冷却水を流通させるボア間経路が形成されている場合でも、反ボア側経路からボア側経路に向かう冷却水の水量を適正に調整することが可能となる。すなわち、水量調整部材が、ボア中央壁に対向する前記第1隙間領域よりもボア間壁に対向する第2隙間領域の方を狭くする形状を有する。このため、反ボア側経路からボア側経路に向かう水流が、ボア間壁付近では相対的に形成され難くなる。このことは、ボア間壁に設けられているボア間経路へ向かう冷却水の通水抵抗を、適度に増加させることに繋がる。つまり、ボア間経路への過度の冷却水の流れ込みを防止し、ボア間経路へ向かう冷却水の水量を適正化することが可能となる。
【0010】
上記のエンジンの冷却構造において、前記水量調整部材は、前記第1隙間領域から前記第2隙間領域に向けて、前記隙間を徐々に狭くする形状を有することが望ましい。
【0011】
このエンジンの冷却構造によれば、ボア中央壁からボア間壁に向かうほど、つまりボア間経路に近づくほど、反ボア側経路からボア側経路へ冷却水が流れ難い構造となる。このため、ボア間経路へ向かう冷却水の通水抵抗を微調整し易い構造とすることができる。
【0012】
上記のエンジンの冷却構造において、前記水量調整部材は、前記第2隙間領域において、前記反ボア側経路の壁面に当接する領域を含むことが望ましい。
【0013】
このエンジンの冷却構造によれば、水量調整部材の反ボア側経路側の壁面への当接によって、ウォータージャケットスペーサの配置姿勢を安定化させることができる。また、ボア間壁と対向する第2隙間領域において、反ボア側経路側の壁面と水量調整部材との間の隙間がゼロの箇所が形成されるので、ボア間経路への過度の冷却水の流れ込みを防止し易くすることができる。
【0014】
上記のエンジンの冷却構造において、前記スペーサ本体部の前記気筒と対向する内側面に付設され、外的要因が加わることによって膨張する膨張部材をさらに備えることが望ましい。
【0015】
このエンジンの冷却構造によれば、ボア側経路の隙間を膨張部材が埋め、ボア側経路と反ボア側経路との間で生じる冷却水の自然対流を抑止でき、気筒壁の過冷却を防止できる。例えば、エンジン停止時には、ボア側経路の冷却水は気筒壁と接しているため比較的高温となり、反ボア側経路の冷却水は外気との熱交換によって比較的低温となる。このような冷却水の温度差は、ボア側経路と反ボア側経路との間で冷却水の自然対流を生じさせる。このような冷却水の自然対流を、前記膨張部材の付設によって抑止することができる。
【0016】
上記のエンジンの冷却構造において、前記膨張部材は、前記内側面における前記気筒列の一端側から他端側に亘る領域に連続的に付設されていることが望ましい。
【0017】
このエンジンの冷却構造によれば、気筒列の全長の領域において、ボア側経路の隙間を膨張後の膨張部材が埋め、冷却水の自然対流の発生を抑止することができる。
【0018】
上記のエンジンの冷却構造において、前記膨張部材は、前記内側面の気筒軸方向の下方領域に配置されていることが望ましい。
【0019】
このエンジンの冷却構造によれば、気筒内における燃焼によって熱が発生する熱源領域にて加温された冷却水を、ボア側経路における前記膨張部材が配置されていない上方領域に滞留させることができる。従って、ボア側経路と反ボア側経路との間を跨いだ冷却水の流動、つまり冷却水の自然対流が生じ難くなり、気筒の保温性を高めることができる。
【0020】
上記のエンジンの冷却構造において、前記水量調整部材は、前記スペーサ本体部の上端から前記反ボア側経路の壁面に向けて延設される板状体からなることが望ましい。
【0021】
このエンジンの冷却構造によれば、スペーサ本体部の上端からの前記板状体の延出長さを調整することで、前記第1、第2隙間領域における隙間を簡易に調整することができる。
【0022】
上記のエンジンの冷却構造において、前記気筒列の配列ラインに対して、各気筒の吸気弁が配置される側を吸気側、及び、排気弁が配置される側を排気側とするとき、前記ウォータージャケットは、前記気筒列の前記吸気側に配置された吸気側ジャケット部と、前記排気側に配置された排気側ジャケット部と、を含み、前記排気側ジャケット部を区画する壁面が、前記ボア間経路の入口孔を有していることが望ましい。
【0023】
ボア間壁は、吸気側に比べて、排気ガスが流れる排気側の方が高温となる。上記のエンジンの冷却構造によれば、高温化する排気側ボア間壁を良好に冷却させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ウォータージャケット内にウォータージャケットスペーサが配置されたエンジンの冷却装置において、ボア間経路へ向かう冷却水の水量を適正化することができる。従って、エンジンの各所をバランス良く冷却させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明に係るウォータージャケットスペーサが適用されるエンジンの正面図である。
図2図2は、シリンダブロックとウォータージャケットスペーサとを併せて示す分解斜視図である。
図3図3は、シリンダブロックのXY平面の断面図である。
図4図4は、図3のIV−IV線断面図である。
図5図5は、図3のV−V線断面図である。
図6図6は、ウォータージャケットスペーサの斜視図である。
図7図7は、ウォータージャケットスペーサの内面側の側面図である。
図8図8(A)は、ウォーターポンプ動作時の冷却水の流れを示す断面図、図8(B)は、ウォーターポンプ停止時の冷却水の自然対流を示す断面図である。
図9図9(A)は、ウォータージャケットスペーサに付設される膨張部材の膨張前の状態を示す断面図、図9(B)は膨張後の状態を示す断面図である。
図10図10は、図5の断面図に、冷却水の強制循環時におけるクロスドリルへの冷却水の流れを付記した図である。
図11図11は、本実施形態に係る上端フランジ(水量調整部材)を示すシリンダブロックの上面図である。
図12図12(A)は、ボア間壁の位置における膨張部材の膨張前の状態を示す断面図、図12(B)は膨張後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明に係るエンジンの冷却構造が適用されるエンジン1の正面図である。エンジン1は、走行用の動力源として車両に搭載されるエンジンであって、例えば4サイクルの多気筒型ディーゼルエンジンである。
【0027】
エンジン1は、複数の気筒を内部に備えるシリンダブロック2(エンジンブロック:図2)と、シリンダブロック2の上面に取り付けられたシリンダヘッドと、前記気筒内に収容されたピストンと、を含むエンジン本体10を備えている。エンジン1は、縦置き又は横置きで車両に搭載される。縦置きの場合、図1に付記する方向表示において、Y方向は車幅方向に相当する左右方向、Z方向は上下方向(+Z=上、−Z=下)となる。
【0028】
エンジン1は、エンジン本体10内に冷却水を強制循環させるためのウォーターポンプ11を備える。ウォーターポンプ11は、冷却水を圧送するインペラを備えたインペラ式ポンプである。ウォーターポンプ11は、エンジン本体10が発生する駆動力で駆動される。すなわち、エンジン本体10のクランクシャフトに取り付けられたクランクプーリー12、及び、このクランクプーリー12に架け渡されたストレッチベルト13を介して、前記クランクシャフトの駆動力がウォーターポンプ11に伝達される。
【0029】
図1には、エンジン本体10内へ冷却水を導入する冷却水入口14と、エンジン本体10内の冷却水の流通経路を通過した後の冷却水の出口となる冷却水出口15とが示されている。ウォーターポンプ11は、前記流通経路の途中に組み入れられている。なお、冷却水は、エンジン本体10内の前記流通経路の他、図略の暖房用ヒータユニットや、放熱用のラジエータ等を経由する循環経路を循環する。
【0030】
[シリンダブロックの冷却装置]
図2は、エンジン本体10における冷却水の流通経路のうち、シリンダブロック2の部分の流通経路を示す分解斜視図である。図2には、シリンダブロック2と、このシリンダブロック2に組み付けられるウォータージャケットスペーサ3とが示されている。シリンダブロック2は、6個の気筒21がX方向(所定方向)に一列に並んだ気筒列21Lと、この気筒列21Lの周囲を取り囲むように形成された溝からなるウォータージャケット22とを備えている。ウォータージャケット22は、シリンダブロック2における冷却水の流通経路を構成する。なお、X方向は、エンジン1が縦置きされる場合は車両の前後方向となる。ウォータージャケットスペーサ3は、ウォータージャケット22の内部に配置される。
【0031】
シリンダブロック2は、X方向に長い略直方体のブロックである。シリンダブロック2の−X側の側面には、当該シリンダブロック2への冷却水の入口となるブロック側入口14Hが設けられている。ブロック側入口14Hは、図1に示した冷却水入口14に連通している。冷却水は、ウォーターポンプ11の圧送力により、ブロック側入口14Hからウォータージャケット22内に入る。そして、矢印FLで示すように、冷却水は、シリンダブロック2の−X側側面から+X側側面に向けてウォータージャケット22内を流通する。すなわち、ウォータージャケット22は、冷却水を気筒列21Lの一端側(−X側)から他端側(+X側)へ向かうように流通させる流通経路である。
【0032】
シリンダブロック2の上面(+Z面)には、気筒列21Lの各気筒21の上面開口を塞ぐように、図略のシリンダヘッドが取り付けられる。当該シリンダヘッドには、各気筒21へ吸気を供給する吸気ポート及び吸気バルブと、各気筒21から燃焼ガスを排出する排気ポート及び排気バルブとが設けられる。図2には、気筒列21Lの配列ライン(X方向のライン)に対して、前記吸気弁が配置される側として「吸気側」と、前記排気弁が配置される側として「排気側」との表示が記されている。ウォータージャケット22は、気筒列21Lの吸気側に配置された吸気側ジャケット22INと、排気側に配置された排気側ジャケット22EXとを含む。
【0033】
シリンダブロック2についてさらに詳述する。図3は、シリンダブロック2のXY平面の断面図である。図4は、図3のIV−IV線断面図、図5は、図3のV−V線断面図である。シリンダブロック2は、内ブロック23と、この内ブロック23の周囲を取り囲むように配置された外ブロック24とを含む。図4及び図5に示すように、内ブロック23は、気筒21を区画する筒状の壁面である内周壁231(気筒列を区画する壁面)と、ウォータージャケット22の内側面を区画する壁面となる外壁232(ウォータージャケットを区画する壁面)とを含む。
【0034】
さらに内ブロック23は、ボア間壁25及びボア中央壁26を備えている。ボア間壁25は、概ね図3に示す領域P1内の壁であって、シリンダブロック2においてX方向に隣り合う気筒21間の壁である。ボア間壁25は、隣り合う2つの気筒21の熱源部分から熱を受けるため、高温化し易い壁である。ボア中央壁26は、概ね図3に示す領域P2内の壁であり、ボア間壁25を除く気筒21の周壁である。つまり、気筒列21Lの両端部を除く一つの気筒21を区画する壁においては、+Y及び−Y側の一対の円弧壁がボア中央壁26であり、+X及び−X側の一対の円弧壁がボア間壁25である。内ブロック23の内周壁231側には、図略のピストンが実際に摺接する内面となるライナー211が配置されている。
【0035】
図5を参照して、ボア間壁25には、冷却水を流通させるための経路であるクロスドリル27(ボア間経路)が備えられている。クロスドリル27は、高温化し易いボア間壁25を冷却するために設けられ、当該ボア間壁25内を横断するようにY方向(気筒列方向と水平面内で直交する方向)に延びる貫通孔である。クロスドリル27は、+Y側から−Y側へ下降するように傾斜して延びる上流ドリル孔271と、−Y側から+Y側へ下降するように傾斜して延びる下流ドリル孔272とが下端で合流(合流部275)する流路形状を備える。上流ドリル孔271の上端には大径の導入開口273が、下流ドリル孔272の上端には大径の出口開口274が、各々連設されている。
【0036】
排気側ジャケット22EXを区画している内ブロック23の外壁232の上端付近には、入口孔28が設けられている。入口孔28は、クロスドリル27へ冷却水を導くための孔であり、クロスドリル27の導入開口273に連通している。一方、クロスドリル27の出口開口274は、吸気側ジャケット22INとは直接的に連通していない。出口開口274は、図略のシリンダヘッドに備えられているウォータージャケットに連通する。ボア間壁25は、吸気側に比べて、排気ガスが流れる排気側の方が高温となる。従って、排気側ジャケット22EXを区画する外壁232に入口孔28を設けることで、高温化するボア間壁25の排気側を良好に冷却させることができる。
【0037】
外ブロック24は、ウォータージャケット22の内側面を区画する壁面となる内壁241(ウォータージャケットを区画する壁面)を含む。この内壁241と、内ブロック23の外壁232との間の隙間が、冷却水の流通するウォータージャケット22の空間である。気筒21の径方向において、内ブロック23の肉厚は、ボア間壁25の部分を除いて略一定である。従って、内ブロック23の外壁232は、上面視において、X方向に並ぶ6個の気筒21の輪郭に沿った凹凸曲面形状を有している。すなわち外壁232は、ボア間壁25の領域付近では内側に窪んだ凹曲面を、ボア中央壁26の領域では外側に膨らむ凸曲面の形状を有している。外ブロック24の内壁241も、外壁232の凹凸曲面形状に対応した凹凸曲面形状を有している。従って、ウォータージャケット22の延伸方向(X方向)において、概ね、内壁241と外壁232との隙間は一定である。
【0038】
ウォータージャケットスペーサ3もまた、内壁241及び外壁232の凹凸曲面形状に対応した凹凸曲面形状を有している。ウォータージャケットスペーサ3は、ウォータージャケット22の内部に配置され、冷却水の流通経路をボア側経路22Aと反ボア側経路22Bとの2つの領域に区分している。ボア側経路22Aは、気筒21の径方向において、気筒21に近い側の経路である。反ボア側経路22Bは、ボア側経路22Aの外側に位置し、気筒21から遠い側の経路である。
【0039】
ウォータージャケットスペーサ3は、ウォーターポンプ11の動作時(冷却水の強制循環時)に、ウォータージャケット22内における冷却水の流れを調整する役目を果たす。また、ウォータージャケットスペーサ3は、ウォーターポンプ11の停止時に、冷却水の自然対流を防止する膨張部材4を備えている。以下、ウォータージャケットスペーサ3について詳述する。
【0040】
[ウォータージャケットスペーサの詳細]
図6は、ウォータージャケットスペーサ3の斜視図である。ウォータージャケットスペーサ3は、スペーサ本体部30と、このスペーサ本体部30に付設される膨張部材4とを含む。
【0041】
<スペーサ本体部>
スペーサ本体部30は、気筒列21Lの周囲を取り囲むことが可能な筒型形状、つまり、気筒列21Lの外周形状に沿った凸面と凹面とを有している。スペーサ本体部30は、ウォータージャケット22内に配置された状態で気筒21(内ブロック23)と対向する内側面30Aと、内側面30Aと反対側の面であって外ブロック24と対向する外側面30Bとを有する。
【0042】
スペーサ本体部30の上端(+Z端)には上端フランジ301(水量調整部材)が、下端(−Z端)には下端フランジ304が、各々備えられている。これらフランジ301、304は、ウォータージャケット22内でのウォータージャケットスペーサ3の姿勢維持、所望の水流の形成等に寄与する。特に上端フランジ301は、ウォーターポンプ11が動作する冷却水の強制循環時に、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aに向かう冷却水の水量を調整する役目を果たす。上端フランジ301は、スペーサ本体部30の上端から外ブロック24の内壁241(反ボア側経路の壁面)に向けて延設される板状体からなる。上端フランジ301の延出端縁と内壁241との間の隙間幅を調整することで、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aに向かう冷却水の水量が調整される。言うまでも無く、前記隙間幅を狭くするほど、前記水量が少なくなる。
【0043】
上端フランジ301において、矢印FLで示す冷却水の流通方向上流端側には入口フランジ302が設けられている。一方、下流端側では、上端フランジ301が切り欠かれた切り欠き部303が設けられている。この切り欠き部303を通して、冷却水が図略のシリンダヘッド内のウォータージャケットへ導かれる。
【0044】
ウォータージャケットスペーサ3は、+Y側の吸気側スペーサ3INと、−Y側の排気側スペーサ3EXとを含む。吸気側スペーサ3INは、ウォータージャケット22の吸気側ジャケット22IN内に配置されるスペーサ部分、排気側スペーサ3EXは排気側ジャケット22EX内に配置されるスペーサ部分である。吸気側スペーサ3IN及び排気側スペーサ3EXは、各々、スペーサ本体部30及び膨張部材4を備える。
【0045】
スペーサ本体部30は、中央スペーサ部31及びボア間スペーサ部32を備えている。中央スペーサ部31は、気筒21の外形形状に応じて+Y方向又は−Y方向へ凸型に膨出している部分である。具体的には中央スペーサ部31は、吸気側スペーサ3INでは+Y方向へ凸型に膨出し、排気側スペーサ3EXでは−Y方向へ凸型に膨出する部分である。ボア間スペーサ部32は、吸気側スペーサ3INでは−Y方向へ、排気側スペーサ3EXでは+Y方向へ凹型に湾曲する部分である。吸気側スペーサ3INと排気側スペーサ3EXとは、+X側端部及び−X側端部において連結され、一体化されている。ウォータージャケットスペーサ3がウォータージャケット22内に配置された状態において、中央スペーサ部31は内ブロック23のボア中央壁26に対向し、ボア間スペーサ部32はボア間壁25に対向している。
【0046】
既述の通り、ウォータージャケット22は、内ブロック23の外壁232と外ブロック24の内壁241とで区画され、上端が開口した溝である。図4及び図5に示すY方向断面では、ウォータージャケット22は上下方向(Z方向)に細長いU字型の溝形状を有している。ウォータージャケットスペーサ3は、このようなウォータージャケット22に挿入され、ウォータージャケット22内における冷却水の流通経路を、ボア側経路22Aと反ボア側経路22Bとに区分している。ボア側経路22Aは、スペーサ本体部30の内側面30Aと内ブロック23の外壁232との間の流路である。反ボア側経路22Bは、スペーサ本体部30の外側面30Bと外ブロック24の内壁241との間の流路である。
【0047】
本実施形態では、ウォータージャケットスペーサ3は、反ボア側経路22Bに冷却水の主流が形成されるように、ウォータージャケット22内における冷却水の水流を分流する。つまり、反ボア側経路22Bにおいては冷却水の水流を積極的に形成(主流の形成)する一方で、ボア側経路22Aにおいては水流を積極的には形成しないように、ウォータージャケットスペーサ3は水流を調整する。このような水流調整を行うのは、気筒21に近い側のボア側経路22Aに積極的に水流を形成すると、気筒21が冷え過ぎて冷損を発生させてしまうからである。
【0048】
このため、ボア側経路22Aの横幅が反ボア側経路22Bの横幅よりも狭くなるように設定される。具体的には、図4を参照して、ボア側経路22AのY方向幅をd1、反ボア側経路22BのY方向幅をd2とすると、d2>d1の関係となるように、ウォータージャケットスペーサ3がウォータージャケット22内に収容される。ボア側経路22AのY方向幅d1は、内側面30Aと外壁232との間の隙間である。反ボア側経路22BのY方向幅d2は、外側面30Bと内壁241との間の隙間である。例えばd2は、d1の1.5倍〜4倍程度の範囲から選択することができる。
【0049】
d2がd1に対して十分に広幅とされる結果、冷却水の流路抵抗は、ボア側経路22Aに比べて反ボア側経路22Bの方が低くなる。このため、ブロック側入口14H(図3)から所定の供給圧で矢印FL方向に冷却水が供給された場合、専ら水流は反ボア側経路22Bに形成されるようになる。冷却水の流路抵抗が高いボア側経路22Aにおいては、冷却水の水流は比較的緩いものとなる。従って、気筒21が過度に冷却されないようにすることができる。
【0050】
<膨張部材>
膨張部材4は、上述のスペーサ本体部30の内側面30Aに貼り付けられ、外的要因が加わることによって膨張する部材である。本実施形態では、膨張部材4として、水との接触という外的要因によって膨張する部材を例示する。膨張部材4は、ウォータージャケット22内を流れる冷却水との接触により、圧縮された状態から圧縮前の状態に復元するセルロース系スポンジによって構成されている。セルロース系スポンジは、パルプ由来のセルロースと、補強繊維として加えられた天然繊維とからなる天然素材であって、多孔質の素材である。膨張部材4としては、セルロース系スポンジの他、例えば発泡ゴムを水溶性バインダーで圧縮状態に固定した部材を用いることができる。或いは、熱に反応して膨張する部材を、膨張部材4として用いることもできる。
【0051】
図7は、膨張部材4が配置されているスペーサ本体部30の内側面30Aの側面図である。膨張部材4は、スペーサ本体部30の内側面30Aにおける気筒軸方向(Z方向)の下方領域(−Z側)に配置されている。また、膨張部材4は、内側面30Aにおける気筒列21Lの一端側から他端側に亘って、連続的にスペーサ本体部30に付設されている。膨張部材4は、凹面付設部41と凸面付設部42とを含む。
【0052】
凹面付設部41は、膨張部材4においてスペーサ本体部30の凹面に付設される部分である。凸面付設部42は、スペーサ本体部30の凸面に付設される部分である。本実施形態では、内側面30Aに膨張部材4が取り付けられるので、凹面は中央スペーサ部31の内側面30A、凸面はボア間スペーサ部32の内側面30Aとなる。従って、凹面付設部41は中央スペーサ部31の下方領域に、凸面付設部42はボア間スペーサ部32の下方領域に、各々密着するように取り付けられている。
【0053】
膨張部材4は、例えばインサート成形によってスペーサ本体部30に対して一体的に形成される。すなわち、セルロース系スポンジを成形型にセットした状態で、スペーサ本体部30をインサート成形することにより、ウォータージャケットスペーサ3を製造することができる。この他、上記のセルロース系スポンジをシート片に成形した態様で、内側面30Aにネジ止め又は接着等の手段で取り付けても良い。凹面付設部41は、凸面付設部42よりもZ方向幅がやや幅広に設定されている。すなわち、凸面付設部42の+Z端は凹面付設部41の+Z端よりも低く、凸面付設部42の−Z端は凹面付設部41の−Z端よりも高い位置にある。これら凹面付設部41及び凸面付設部42がX方向に隙間無く連設された状態で、内側面30Aの下方領域に配設されている。
【0054】
なお、前記下方領域は、気筒21内における燃焼によって熱が発生する領域を内ブロック23の熱源領域とするとき、スペーサ本体部30の内側面30Aにおいて、前記熱源領域よりも下方に位置する内ブロック23の壁面と対向する領域である。具体的には、気筒21に収容される図略のピストンとの関係において、前記下方領域を示すことができる。すなわち、前記ピストンが上死点に存在するときに、内側面30Aにおける、当該ピストンのスカート部の下端よりも下方に位置する内ブロック23の壁面と対向する領域が下方領域である。
【0055】
膨張部材4は、気筒列21Lの−X端側の気筒21に対向する一端部43と、+X端側の気筒21に対向する他端部44とにおいては、上記の下方領域だけでなく、当該下方領域よりも上方に位置する上方領域にも配置されている。つまり、気筒列21Lの一端側と他端側とにおいては、内側面30AのZ方向の全面に膨張部材4が配置されている。これにより、ボア側経路22Aの隙間は膨張部材4で埋められることになる。これは、気筒列21Lの一端側及び他端側の気筒21は、他の気筒における燃焼の熱影響を受け難く相対的に温度が低くなる気筒であることから、冷却水との接触を回避させるためである。
【0056】
[冷却水の流れと膨張部材の機能]
続いて、ウォータージャケット22内における冷却水の流れについて説明する。先ず、膨張部材4がスペーサ本体部30に付設されていない場合の冷却水の流れを図8に基づいて説明する。図8(A)は、ウォーターポンプ11の動作時の冷却水の流れを示す断面図、図8(B)は、ウォーターポンプ11の停止時の冷却水の流れ(自然対流)を示す断面図である。
【0057】
ウォーターポンプ11が動作すると、図2に矢印FLで示すように、エンジン本体10を経由する冷却水の循環経路において、冷却水の強制循環が始まる。既述の通り、ウォータージャケットスペーサ3は、ボア側経路22Aよりも反ボア側経路22Bが幅広となるようにウォータージャケット22内の空間を仕切っている。このため、ボア側経路22Aの通水抵抗が大きいことから、ウォーターポンプ11の動作時には、専ら反ボア側経路22Bを冷却水は流れる。
【0058】
ボア側経路22Aには、図8(A)に矢印a1で示すように、スペーサ本体部30の上端フランジ301を乗り越えるように、反ボア側経路22Bから冷却水が流れ込む。つまり、冷却水は、内壁241と上端フランジ301との隙間を通して反ボア側経路22Bからボア側経路22Aへ流れ込み、当該ボア側経路22Aを流れる。ボア側経路22Aを流れる冷却水の水量は、反ボア側経路22Bに比べて少量である。
【0059】
クロスドリル27の入口孔28を有する排気側ジャケット22EXでは、矢印a1の冷却水の流れが促進される。すなわち、ウォーターポンプ11の動作によって、入口孔28には冷却水を吸引する吸引力が発生する。この吸引力によって、冷却水が反ボア側経路22Bからボア側経路22Aへ積極的に引き込まれるようになる。この点については、図10に基づき、後記で詳述する。
【0060】
一方、エンジン停止や暖気時の止水モードの実行等によってウォーターポンプ11が停止すると、上記の冷却水の強制循環は停止する。エンジン停止時には、ボア側経路22Aの冷却水は気筒壁である内ブロック23(ボア間壁25及びボア中央壁26)と接しているため比較的高温となる。一方、反ボア側経路22Bの冷却水は、外気との熱交換によって比較的低温となる。このような冷却水の温度差は、ボア側経路22Aと反ボア側経路22Bとの間で冷却水の自然対流を生じさせる。
【0061】
図8(B)に示すように、ボア側経路22Aの冷却水は、高温化するため比重が軽くなり、矢印a21で示すように当該ボア側経路22A内で上昇する。これに対し、反ボア側経路22Bの冷却水は、低温化するため比重が重くなり、矢印a23で示すように当該反ボア側経路22B内で下降する。このような冷却水の流動によって、ウォータージャケットスペーサ3の上端3T側では、矢印a22で示すように、ボア側経路22Aから反ボア側経路22Bに流れ込む冷却水の流動が生じる。また、ウォータージャケットスペーサ3の下端3B側では、矢印a24で示すように、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aに流れ込む冷却水の流動が生じる。すなわち、ウォータージャケット22内において、矢印a21、a22、a23、a24に沿って流れる自然対流が発生する。
【0062】
エンジン停止中に上記の自然対流が発生すると、企図せず気筒壁が冷却されてしまうことになる。つまり、ボア側経路22Aにおいて自然対流により冷却水の流動が生じると、ボア中央壁26及びボア間壁25の熱を奪い、これらの壁を過冷却してしまう。この場合、エンジンの暖気状態が維持され難くなる。上述のような自然対流による気筒壁の過冷却の防止の役目を果たすのが、スペーサ本体部30の内側面30Aに付設される膨張部材4である。
【0063】
図9(A)は、ウォータージャケットスペーサ3に付設される膨張部材4の膨張前の状態を示す断面図、図9(B)は、膨張部材4の膨張後の状態を示す断面図である。図9(A)は、ウォータージャケット22に冷却水が流通される前の状態、例えばエンジン本体10の組み立て行程において、ウォータージャケット22に膨張部材4が付設されたウォータージャケットスペーサ3が収容された状態を示している。膨張部材4は未だ膨張していないので、作業者はウォータージャケットスペーサ3のウォータージャケット22内への組み入れを容易に行うことができる。また、組み入れ後において、膨張部材4と内ブロック23の外壁232との間には隙間が存在している。
【0064】
図9(B)は、ウォータージャケット22に冷却水が流通された後の状態を示している。冷却水との接触により膨張部材4は膨張し、その横幅が増大している。膨張部材4の右面は、内ブロック23の外壁232に当接し、ボア側経路22Aの下方領域は実質的に塞がれている。この結果として、図8(B)に示したような、エンジン停止時或いはウォーターポンプ11の停止モードにおいて生じる冷却水の自然対流が防止される。つまり、膨張部材4によってボア側経路22Aの下方領域が閉塞されているので、ボア側経路22Aと反ボア側経路22Bとを循環するような冷却水の流動が形成されなくなる。従って、エンジン停止時等に気筒21が過冷却されないようにすることができる。
【0065】
冷却水の自然対流の完全な抑止には、気筒列21Lの一端側から他端側の全長に亘って、ウォータージャケットスペーサ3に膨張部材4を配置する必要がある。本実施形態では、図7に示すように、膨張部材4は、スペーサ本体部30の内側面30Aにおける気筒列21Lの一端側(+X)の気筒21から他端側の気筒21に亘る領域に連続的に付設されている。これにより、ボア側経路22Aにおける、冷却水が自然対流可能な隙間を膨張後の膨張部材4が完全に埋めることとなり、冷却水の自然対流の発生を抑止することができる。
【0066】
また、膨張部材4は、内側面30Aの気筒軸方向の下方領域に配置されている。このため、気筒21内における燃焼によって熱が発生する熱源領域にて加温された冷却水を、ボア側経路22Aにおける膨張部材4が配置されていない上方領域に滞留させることができる。つまり、熱源領域にて加温された冷却水がボア側経路と反ボア側経路との間を跨いだ循環経路で流動を行おうとしても、前記循環経路には通水抵抗の高い膨張部材4が配置されている。このため、ボア側経路22Aの上方領域内で完結する冷却水の循環流のみが専ら生じる。従って、冷却水の自然対流が生じ難くなり、気筒21の保温性を高めることができる。
【0067】
[水量調整部材の詳細]
本実施形態では、ボア間壁25内に冷却水を流通させるクロスドリル27(ボア間経路)が備えられている。水量調整部材として機能するウォータージャケットスペーサ3の上端フランジ301は、クロスドリル27へ向かう冷却水の水量を適正化するための形状的な工夫が施されている。
【0068】
図10は、図5の断面図に、冷却水の強制循環時におけるクロスドリル27への冷却水の流れを付記した図である。ウォーターポンプ11が動作すると、シリンダブロック2内のウォータージャケット22から、図略のシリンダヘッドが備えるウォータージャケットへ向かう冷却水の水流が生じる。このため、図10に示すように、クロスドリル27を経由する矢印F1〜F4で示す水流が発生する。
【0069】
先ず、矢印F1で示すように、冷却水の主流が形成されているウォータージャケット22の反ボア側経路22Bから、スペーサ本体部30の上端3T側において、ボア側経路22Aへ冷却水が流れ込む。詳しくは、冷却水は、上端フランジ301の延出端と内壁241との間の隙間を通過し、上端フランジ301を乗り越え、ボア側経路22Aへ至る。矢印F1の水流は、ウォーターポンプ11の動作による、冷却水の流通方向FLの下流側(+X側)に位置する切り欠き部303(図6参照)を通した吸引力、並びに、クロスドリル27を通した吸引力によって生じる。もちろん、クロスドリル27の入口孔28の近傍では、クロスドリル27を通した吸引力に大きな影響を受ける。
【0070】
続いて冷却水は、矢印F2で示すように、ボア間壁25の上端に開口している入口孔28からクロスドリル27の上流ドリル孔271に入る。その後、冷却水は、矢印F3で示すように、クロスドリル27の最下部である合流部275を通過し、出口開口274から図略のシリンダヘッドのウォータージャケットへ流れ込む(矢印F4)。
【0071】
本実施形態のように、クロスドリル27がボア間壁25に設置されている場合、クロスドリル27に引き込まれる水流によって、企図しない冷却水の流れがウォータージャケット22内に形成されることがある。例えば、クロスドリル27へ向かう冷却水の通水抵抗が低すぎて、所要量を超える水量がクロスドリル27に流れてしまうことがある。この場合、エンジン1の冷却系全体で見てバランスの良い冷却が阻害され得る。
【0072】
従って、クロスドリル27へ向かう冷却水の水量を適正化する必要がある。この適正化に、つまり通水抵抗の設定に大きく影響を与える上端フランジ301の形状的特徴について、図11を参照して説明する。図11は、本実施形態に係る上端フランジ301を示すシリンダブロック2の上面図である。
【0073】
上端フランジ301は、ボア中央フランジ33とボア間フランジ34とを備えている。ボア中央フランジ33は、スペーサ本体部30においてボア中央壁26と対向する中央スペーサ部31の上端に位置するフランジ部分である。ボア間フランジ34は、ボア間壁25と対向するボア間スペーサ部32の上端に位置するフランジ部分である。上端フランジ301の延出端(図11では−Y側端部)とウォータージャケット22の反ボア側経路22Bの壁面(内壁241)との間には、Y方向に隙間Gが存在している。隙間Gは、冷却水の水流FWを、反ボア側経路22Bからボア側経路22A並びにクロスドリル27の入口孔28へ導くための隙間である。すなわち、図10の矢印F1の水流を作るための隙間であり、クロスドリル27へ向かう冷却水の通水抵抗に大きく関与する隙間である。
【0074】
図11では、上記の隙間Gであって、上端フランジ301のボア中央壁26と対向する領域(ボア中央フランジ33)を第1隙間領域S1と、ボア間壁25に対向する領域(ボア間フランジ34)を第2隙間領域S2と、それぞれ表示している。本実施形態では、上端フランジ301は、第1隙間領域S1における隙間G1よりも第2隙間領域S2における隙間G2の方を狭くする形状を有している。すなわち、ボア中央フランジ33の−Y端縁33Eと内壁241との間における隙間G1より、ボア間フランジ34の−Y端縁34Eと内壁241との間における隙間G2の方が、相対的に狭く設定されている。
【0075】
隙間G1より隙間G2を狭くする具体的手段には特に限定はなく、設定しようとする前記通水抵抗に応じて種々の態様を取り得る。図11では、隙間G1については、Y方向幅が略一定で、X方向に延在している例を示している。一方、隙間G2については、Y方向幅が徐々に狭くなり、内壁241の+Y方向の突出頂点24Aの付近で、隙間がゼロになる態様を例示している。つまり、ボア間フランジ34は、第1隙間領域S1から第2隙間領域S2に向かう方向に、隙間G2が徐々に狭くなる形状を有している。さらに、ボア間フランジ34は、第2隙間領域S2において、内壁241(反ボア側経路の壁面)に当接する領域(突出頂点24Aと対向する部分)を含んでいる。
【0076】
ボア間フランジ34と内壁241とを当接させるために、膨張部材4の膨張力を利用することができる。図12(A)は、ボア間壁25の位置における膨張部材4の膨張前の状態を示す断面図、図12(B)は膨張部材4の膨張後の状態を示す断面図である。図12(A)は、ウォータージャケットスペーサ3を、冷却水が存在していないウォータージャケット22に組み付けた状態である。膨張部材4が膨張していないので、ウォータージャケットスペーサ3とボア側経路22A側の壁面(外壁232)との間、及び、反ボア側経路22B側の壁面(内壁241)との間の双方に隙間が存在している。
【0077】
図12(B)は、ウォータージャケットスペーサ3の組み付けられたウォータージャケット22に、冷却水が充填された状態である。膨張部材4は膨張し、外壁232に当接している。そして、膨張部材4の膨張力で押圧されるようにして、上端フランジ301におけるボア間フランジ34の端縁34Eが内壁241に当接している。これにより、隙間G1より隙間G2を狭くできるだけでなく、ウォータージャケットスペーサ3のウォータージャケット22内における配置姿勢を安定化させることができる。
【0078】
本実施形態によれば、クロスドリル27へ向かう冷却水の通水抵抗を上端フランジ301によって調整することで、クロスドリル27へ流れ込む冷却水の水量を適正に調整することができる。すなわち、上端フランジ301は、図11に示す第1隙間領域S1における隙間G1よりも第2隙間領域S2における隙間G2の方を狭くする形状を有する。このため、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aに向かう水流が、ボア間壁25付近では相対的に形成され難くなる。このことは、ボア間壁25に設けられているクロスドリル27へ向かう冷却水の通水抵抗を、適度に増加させることに繋がる。つまり、クロスドリル27への過度の冷却水の流れ込みを防止し、クロスドリル27へ向かう冷却水の水量を適正化することができる。
【0079】
また、上端フランジ301は、第1隙間領域S1から第2隙間領域S2に向けて、隙間Gを徐々に狭くする形状を有する。すなわち、ボア中央壁26からボア間壁25に向かうほど、つまりクロスドリル27に近づくほど、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aへ冷却水が流れ難い構造となる。このため、クロスドリル27へ向かう冷却水の通水抵抗を微調整し易い。さらに、第2隙間領域S2において、ボア間フランジ34は内壁241に当接している部分を含む。この当接によって、ウォータージャケットスペーサ3の配置姿勢を安定化させることができる。また、第2隙間領域S2において、隙間G2がゼロの箇所が形成されるので、クロスドリル27への過度の冷却水の流れ込みを防止し易くすることができる。
【0080】
[変形例]
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を取ることができる。
【0081】
(1)第1隙間領域のS1隙間G1より第2隙間領域S2の隙間G2を狭くする態様は、図11の例に限られない。たとえば、隙間G2が徐々に狭くなるのではなく、第2隙間領域S2においてX方向に一定のY方向幅を有し、且つ、隙間G1よりも幅狭である態様としても良い。この場合、G1:G2は1:0.1〜0.6程度の範囲に設定することができる。
【0082】
(2)或いは、第2隙間領域S2の全領域において、ボア間フランジ34の端縁34Eを内壁241に当接させても良い。つまり、端縁34Eと内壁241との間に、微視的な隙間しか存在しない態様としても良い。
【0083】
(3)図7に示すように、上記実施形態では、膨張部材4の凹面付設部41よりも凸面付設部42のZ方向幅が幅狭である例を示した。これに代えて、凹面付設部41及び凸面付設部42のZ方向幅を同一にしても良い。また、膨張部材4の一端部43及び他端部44は、スペーサ本体部30のZ方向幅の全幅に亘って設けられている例を示した。これに代えて、一端部43及び他端部44についても、スペーサ本体部30の下方領域だけに設けられるようにしても良い。
【0084】
(4)上記実施形態では、ウォータージャケットスペーサ3により区画されるボア側経路22A及び反ボア側経路22Bのうち、反ボア側経路22Bに冷却水の主流が形成されるよう、図4に示すようにd2>d1の関係に設定される例を示した。これは一例であり、ボア側経路22A及び反ボア側経路22Bの幅、ウォータージャケットスペーサ3の形状等は、エンジン本体10の冷却コントロール指針に応じて、適宜設定することができる。
【0085】
(5)上記実施形態では、スペーサ本体部30の上端フランジ301が本発明における水量調整部材の機能を果たす例を示した。この上端フランジ301に代えて、スペーサ本体部30自体の形状を、反ボア側経路22Bからボア側経路22Aに向かう冷却水の水量を調整することが可能な形状としても良い。すなわち、上端フランジ301に依存せず、スペーサ本体部30自体にY方向に所定の膨らみを持つ部分を具備させる等して、スペーサ本体部30の少なくとも一部に水量調整部材の機能を兼用させるようにしても良い。
【0086】
(6)或いは、ウォータージャケットスペーサ3とシリンダブロック2との協働によって、水量調整部材の機能を果たし得るように構成しても良い。例えば、ウォータージャケット22の内壁241に冷却水の水量調整の補助が出来るような形状特徴部を具備させ、この形状特徴部に対して上端フランジ301又はスペーサ本体部30の一部を対向させることによって、水量調整部材の機能を果たさせるようにしても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 エンジン
2 シリンダブロック(エンジンブロック)
21 気筒
21L 気筒列
22 ウォータージャケット
22A ボア側経路
22B 反ボア側経路
231 内周壁(気筒列を区画する壁面)
232 外壁(ウォータージャケットを区画する壁面/反ボア側経路の壁面)
241 内壁(ウォータージャケットを区画する壁面)
25 ボア間壁
26 ボア中央壁
27 クロスドリル(ボア間経路)
28 入口孔
3 ウォータージャケットスペーサ
30 スペーサ本体部
30A 内側面
301 上端フランジ(水量調整部材)
4 膨張部材
X方向 複数の気筒が並ぶ所定方向/気筒列方向
Y方向 気筒列方向と水平面で直交する方向
Z方向 気筒軸方向
S1 第1隙間領域
S2 第2隙間領域
G、G1、G2 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12