(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-81007(P2021-81007A)
(43)【公開日】2021年5月27日
(54)【発明の名称】不思議遊星歯車機構
(51)【国際特許分類】
F16H 1/46 20060101AFI20210430BHJP
B64C 13/50 20060101ALI20210430BHJP
【FI】
F16H1/46
B64C13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-209286(P2019-209286)
(22)【出願日】2019年11月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 宏基
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FB16
3J027GB03
3J027GC24
3J027GD04
3J027GD07
3J027GD12
(57)【要約】
【課題】歯数の異なる内歯車にそれぞれ噛み合う遊星歯車同士を所定の位相差で高精度に一体回転可能に組み付け、太陽歯車の周囲に配置する遊星歯車は共通のものを適用可能な不思議遊星歯車機構を提供する。
【解決手段】同軸上の第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4に組み付けられて一体回転可能な複数のカラー6を備え、各カラー6に、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の内周面にそれぞれ設けた軸方向に延伸する歯車側係合部22,42に係合可能な第1カラー側係合部62と第2カラー側係合部63とを形成し、少なくとも可動内歯車3と固定内歯車5の歯数差に基づいて算出される同軸上の第1遊星歯車2と第2遊星歯車4の位相差に応じて、第1カラー側係合部62と第2カラー側係合部63の位置をカラー6の周方向にずらした構成にした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転に伴って回転可能な太陽歯車と、
前記太陽歯車の周囲に等間隔で配置され且つ前記太陽歯車に噛み合った状態で前記太陽歯車の周囲を公転しながら自転する複数の第1遊星歯車と、
前記複数の第1遊星歯車の周囲に配置され且つ前記複数の第1遊星歯車が噛み合う第1内歯車と、
前記第1内歯車と同軸に並設された第2内歯車と、
前記複数の第1遊星歯車とそれぞれ同軸に配置され且つ前記第2内歯車に噛み合う複数の第2遊星歯車と、
同軸上に配置される前記第1遊星歯車及び前記第2遊星歯車の内周に取り付けられ且つこれら同軸上の第1遊星歯車及び第2遊星歯車と一体回転可能な複数のカラーと、
前記各カラーをそれぞれ回転可能に支持する複数のシャフトと、
前記複数のシャフトを相対回転不能に支持するキャリアとを備え、
前記第1内歯車または前記第2内歯車の何れか一方が回転可能な可動内歯車であり、他方が回転しない固定内歯車であり、
歯数が同一である前記第1遊星歯車及び前記第2遊星歯車は、それぞれ内周面に軸方向に延伸する歯車側係合部を有するものであり、
前記カラーは、前記第1遊星歯車の前記歯車側係合部に係合可能な第1カラー側係合部と、前記第2遊星歯車の前記歯車側係合部に係合可能な第2カラー側係合部とを外周面に有するものであり、
少なくとも前記可動内歯車と前記固定内歯車の歯数差に基づいて算出される同軸上の前記第1遊星歯車と前記第2遊星歯車の位相差に応じて、前記第1カラー側係合部と前記第2カラー側係合部の位置を前記カラーの周方向にずらしていることを特徴とする不思議遊星歯車機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の舵面用電動アクチュエータ等に適用可能な不思議遊星歯車機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飛行中の航空機はロールする際にエルロン(補助翼)を動かしており、補助翼を操舵するためのアクチュエータが翼内に取り付けられている。これまでは油圧アクチュエータが主に使用されてきたが、近年、航空機に使用される機器の電動化が進められており、電動アクチュエータを用いることが検討されている。
【0003】
ここで、アクチュエータは翼内に配置される必要があるため、舵面用アクチュエータには、小型・軽量化が求められている。また、高トルクを受ける必要があり、そのためには高減速比のアクチュエータでなければならないという制限がある。
【0004】
そこで、本発明者は、不思議遊星歯車機構を用いることで上記要求に応える電動アクチュエータの実用化を実現すべく鋭意研究を重ねてきた。不思議遊星歯車減速機は、入力軸である回転軸に取り付けられた太陽歯車と、太陽歯車の周囲に円周等分割に配置された複数個の遊星歯車とが相互に噛み合い、遊星歯車が同軸上に配置された歯数の異なる固定内歯車及び可動内歯車にも噛み合い、固定内歯車と可動内歯車との歯数差に応じて太陽歯車の回転速度が減速される構成である。
【0005】
このような、不思議遊星歯車機構では、太陽歯車の周囲に等間隔で配置した複数の遊星歯車を歯数の異なる内歯車(固定内歯車、可動内歯車)の両方に噛み合わせなければならない。そのため、例えば遊星歯車の転位係数を適宜調整することで上記条件をクリアする等の工夫が必要であった。
【0006】
しかしながら、高トルクを分担して受けるために、太陽歯車の周囲に配置する遊星歯車の数を多く設定すると、転位調整が煩雑になり、全ての遊星歯車を歯数の異なる固定内歯車と可動内歯車の両方に適切に噛み合わせることができない状況に陥る可能性が高い。
【0007】
そこで、例えば特許文献1には、遊星歯車を複数配備して動作の安定と耐出力トルクの増大を図ることが可能な不思議遊星歯車機構として、太陽歯車と固定内歯車とに噛み合う第1遊星歯車と、この第1遊星歯車と同数の歯が形成されて可動内歯車に噛み合う第2遊星歯車とによって遊星歯車を構成し、太陽歯車と噛み合っていない第2遊星歯車を可動内歯車に噛み合う位置で第1遊星歯車に固着した構成が開示されている。
【0008】
具体的には、太陽歯車の周囲に3つの第1遊星歯車を等間隔で配置する構成において、第2遊星歯車に回転不能に設けた回転軸を第1遊星歯車に挿入して、第1遊星歯車と第2遊星歯車の位相差がセッティング位置に応じてT/3(Tは歯のピッチ)または2T/3の位相差となる相対位置で第1遊星歯車を第2遊星歯車に固着する構成や、樹脂あるいは金属による成型法によって第1遊星歯車及び第2遊星歯車を所定の位相差で一体的に設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−16695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された不思議遊星機構においては、第2遊星歯車に設けた回転軸を第1遊星歯車に挿入した状態で、第1遊星歯車及び第2遊星歯車を所定の位相差で固着する構成であれば、別々のパーツである第1遊星歯車及び第2遊星歯車を高い精度で位置決めした状態で固着する処理が要求され、少しでも位置決めの精度が劣ると、固定内歯車及び可動内歯車の両方に噛み合わせることができない事態になる。
【0011】
また、樹脂成型品または金属成型品として第1遊星歯車及び第2遊星歯車を所定の位相差で一体的に設ける構成であれば、太陽歯車の周囲における3箇所に遊星歯車を等ピッチで配置する場合、遊星歯車を構成する第1遊星歯車と第2遊星歯車の位相差は上述の通り全て異なるため、遊星歯車の配置数と同数分の金型が必要であり、高コスト化に直結する。
【0012】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、歯数の異なる2つの内歯車にそれぞれ噛み合う遊星歯車同士を所定の位相差で高精度に一体回転可能に組み付けることができ、太陽歯車の周囲に等ピッチで配置する遊星歯車自体は共通のものを用いることが可能な不思議遊星歯車機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明に係る不思議遊星歯車機構は、入力軸と一体回転可能な太陽歯車と、太陽歯車の周囲に等間隔で配置され且つ太陽歯車に噛み合った状態で太陽歯車の周囲を公転しながら自転する複数の第1遊星歯車と、複数の第1遊星歯車の周囲に配置され且つ複数の第1遊星歯車が噛み合う第1内歯車と、第1内歯車と同軸に並設される第2内歯車と、複数の第1遊星歯車に対してそれぞれ同軸に配置され且つ第2内歯車に噛み合う複数の第2遊星歯車と、同軸上に配置される第1遊星歯車及び第2遊星歯車の内周に取り付けられ且つこれら同軸上の第1遊星歯車及び第2遊星歯車と一体回転可能な複数のカラーと、各カラーをそれぞれ回転可能に支持する複数のシャフトと、複数のシャフトを相対回転不能に支持するキャリアとを備え、第1内歯車または第2内歯車の何れか一方が回転可能な可動内歯車であり、他方が軸回りに回転しない固定内歯車である。そして、歯数が同一である第1遊星歯車及び第2遊星歯車として、それぞれ内周面に軸方向に延伸する歯車側係合部を有するものを適用し、カラーとして、第1遊星歯車の歯車側係合部に係合可能な第1カラー側係合部と、第2遊星歯車の歯車側係合部に係合可能な第2カラー側係合部とを外周面に有するものを適用し、少なくとも可動内歯車と固定内歯車の歯数差に基づいて算出される同軸上の第1遊星歯車と第2遊星歯車の位相差に応じて、第1カラー側係合部と第2カラー側係合部の位置をカラーの周方向にずらしていることを特徴としている。なお、同軸上の第1遊星歯車と第2遊星歯車が同位相(同軸上の第1遊星歯車と第2遊星歯車の位相差がゼロ)であれば、第1カラー側係合部と第2カラー側係合部の位置はカラーの周方向において同じ位置である。
【0014】
このような、本発明に係る不思議遊星歯車機構であれば、カラーの第1カラー側係合部に第1遊星歯車の歯車側係合部を係合させるとともに、カラーの第2カラー側係合部に第2遊星歯車の歯車側係合部を係合させることで、第1遊星歯車及び第2遊星歯車を同位相または所定の位相差でカラーに組み付けた状態を維持することができる。そして、これら第1遊星歯車及び第2遊星歯車は、所定の位相差を維持したままカラーと一体回転可能な状態でシャフトによって正逆方向に回転可能に支持されているため、第1内歯車が回転可能な可動内歯車であり、第2内歯車が回転しない固定内歯車であれば、太陽歯車が直接または間接的に接続された入力軸と一体に回転した場合に、周方向に等間隔で配置されている複数の第1遊星歯車が自転しながら第1内歯車に噛み合い、カラー及びシャフトで第1遊星歯車に連結された複数の第2遊星歯車が第2内歯車に噛み合い、公転する。その回転により、可動内歯車である第1内歯車が回転し、キャリアを介して所定の出力軸に伝わる。このようにして入力軸の回転が出力軸に伝わる間に、入力軸の回転は第1内歯車と第2内歯車の歯数差に応じて所定割合で減速される。なお、本発明に係る不思議遊星歯車機構は、第1内歯車が固定内歯車であり、第2内歯車が可動内歯車である構成も包含するものであり、このような構成であっても、入力軸の回転が出力軸に伝わる間に入力軸の回転は第1内歯車と第2内歯車の歯数差に応じて所定割合で減速される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、同軸上の第1遊星歯車と前記第2遊星歯車の位相差に応じてカラーに設けた第1カラー側係合及び第2カラー側係合部をそれぞれ第1遊星歯車及び第2遊星歯車の歯車側係合部に係合させることによって、歯数の異なる2つの内歯車にそれぞれ噛み合う遊星歯車(第1遊星歯車、第2遊星歯車)同士を所定の位相差で高精度に一体回転可能に組み付けることができ、太陽歯車の周囲に等ピッチで配置する遊星歯車自体は共通のものを用いることが可能であり、航空機の補助翼の操舵用等として適用した不思議遊星歯車機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る不思議遊星歯車機構の全体外観図及び断面模式図。
【
図2】同実施形態に係る不思議遊星歯車機構の分解図。
【
図4】同実施形態に係る不思議遊星歯車機構を含む減速機を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xは、例えば、航空機の翼内に取り付けられ、補助翼を操舵するためのアクチュエータに適用可能なものである。ここで、アクチュエータは、駆動源となる図示しないモータと、モータの出力回転数を減速する減速機とを備えたものであり、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xによって減速機を構成している。
【0018】
不思議遊星歯車機構Xは、
図1乃至
図3(
図1(a)は不思議遊星歯車機構Xの全体外観図であり、同図(b)は不思議遊星歯車機構Xを2分割した鉛直断面図であり、
図2は不思議遊星歯車機構Xの分解斜視図であり、
図3は
図2の要部拡大図である)に示すように、太陽歯車1と、太陽歯車1の周囲に等ピッチで配置される第1遊星歯車2と、第1遊星歯車2の周囲に配置される第1内歯車(本実施形態では可動内歯車3)と、第1遊星歯車2と同軸に配置される第2遊星歯車4と、第2遊星歯車4の周囲に配置される第2内歯車(本実施形態では固定内歯車5)と、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4を一体回転可能に保持するカラー6と、カラー6を回転可能に支持するシャフト7と、シャフト7を相対回転不能に支持するキャリア8とを備えている。
【0019】
第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4は、同一形状であり、歯数及び歯のピッチも同じである。本実施形態における第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の歯数は17である。第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の中心部には、カラー6の外周面よりも僅かに大きい内径であるカラー挿入孔21,41を形成している。カラー挿入孔21,41は、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の内周面であり、本実施形態では、全ての遊星歯車(第1遊星歯車2、第2遊星歯車4)のカラー挿入孔21,41における1箇所に、軸方向(カラー6の挿脱方向)に延伸する歯車側係合部22,42を形成している。本実施形態では、歯車側係合部22,42として、各遊星歯車(第1遊星歯車2、第2遊星歯車4)の軸方向全長に亘って延伸するキー溝を適用している。
【0020】
本実施形態の不思議遊星歯車機構Xは、太陽歯車1の周囲に6個の第1遊星歯車2を等ピッチで配置し、各第1遊星歯車2と同軸に第2遊星歯車4を一体回転可能に配置している。同軸に配置される第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4は共通のカラー6によって相対位置を位置決めした状態で保持される。なお、本実施形態の太陽歯車1の歯数は24である。
【0021】
カラー6の中心部には、シャフト7が挿通可能なシャフト挿入孔61を形成している。カラー6の内周面であるシャフト挿入孔61に挿通したシャフト7の両端は、円板状のキャリア8に回転不能に嵌め合わせた状態で固定される。シャフト7は、少なくともキャリア8に対して嵌め合わせる分だけカラー6よりも軸方向に長い形状を有する。カラー6及びシャフト7の本数は、太陽歯車1の周囲に配置する第1遊星歯車2の個数と同数である。したがって、本実施形態におけるカラー6及びシャフト7の本数は6である。
【0022】
カラー6の外周面には、第1遊星歯車2の歯車側係合部22に係合可能な第1カラー側係合部62と、第2遊星歯車4の歯車側係合部42に係合可能な第2カラー側係合部63とを設けている。本実施形態では、第1カラー側係合部62及び第2カラー側係合部63として、カラー6の内周面61に設けたキー溝22,42に嵌合可能な凸状のキーを適用している。
【0023】
同軸に配置される可動内歯車3及び固定内歯車5は、相互に歯数を異ならせている。本実施形態の不思議遊星歯車機構Xは、歯数が60である可動内歯車3と、歯数が58である固定内歯車5とを適用している。したがって、これら可動内歯車3及び固定内歯車5の歯数差は2である。そして、可動内歯車3の内周に第1遊星歯車2を等ピッチでそれぞれが可動内歯車3に噛み合うように6個配置し、固定内歯車5の内周に第2遊星歯車4を等ピッチでそれぞれが第1遊星歯車2と同軸に且つ固定内歯車5と噛み合うように6個配置しているため、同軸に配置される第1遊星歯車2と第2遊星歯車4の組(遊星歯車組)のうち、ある基準位置に配置される遊星歯車組と基準位置から太陽歯車1の軸回りに180度回転した位置に配置される遊星歯車組は、第1遊星歯車2と第2遊星歯車4の位相が一致する一方で、それ以外の位置に配置される遊星歯車組は、第1遊星歯車2と第2遊星歯車4の位相がずれる。
【0024】
そこで、本実施形態では、カラー6として、
図3に示すように、第1カラー側係合部62と第2カラー側係合部63を軸方向に直線状に並ぶように設けた基準カラー6Aと、第1カラー側係合部62に対して第2カラー側係合部63をカラー6の軸回りに7.1度ずらした第1位相差カラー6Bと、第1カラー側係合部62に対して第2カラー側係合部63をカラー6の軸回りに14.2度ずらした第2位相差カラー6Cとを適用している。そして、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の各歯車側係合部22,42を基準カラー6A、第1位相差カラー6B、第2位相差カラー6Cの第1カラー側係合部62または第2カラー側係合部63にそれぞれ係合させることで、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の位相差が所定の3パターンに区別された遊星歯車装着済みカラーを用意することができる。
【0025】
なお、第1位相差カラー6B及び第2位相差カラー6Cにおける第1カラー側係合部62及び第2カラー側係合部63の位相差(第1カラー側係合部62に対する第2カラー側係合部63のずれ量)は、可動内歯車3及び固定内歯車5の歯数差(本実施形態では「2」)と、太陽歯車1の周囲に配置する遊星歯車組の数(本実施形態では「6」)と、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の各歯数(本実施形態では「17」)とに基づいて算出することができる。
【0026】
本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xは、基準カラー6Aに第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4を一体回転可能に設けた遊星歯車装着済み基準カラー6Aと、第1位相差カラー6Bに第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4を一体回転可能に設けた遊星歯車装着済み第1位相差カラー6Bと、第2位相差カラー6Cに第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4を一体回転可能に設けた遊星歯車装着済み第2位相差カラー6Cとを、この順に太陽歯車1の周囲に60度ピッチで配置し、且つ太陽歯車1の軸中心Lを通る対角線上に遊星歯車装着済み基準カラー6A同士、遊星歯車装着済み第1位相差カラー6B同士、遊星歯車装着済み第2位相差カラー6C同士がそれぞれ対面するように配置している。このようなレイアウトを採用することにより、6個の第1遊星歯車2が全て可動内歯車3に噛み合うとともに、6個の第2遊星歯車4も全て固定内歯車5に噛み合う状態を維持することができる。
【0027】
特に、本実施形態では、各カラー6のシャフト7挿入孔61に挿通したシャフト7の両端をそれぞれキャリア8に回転不能に嵌め合わせることで、太陽歯車1の周囲に60度ピッチで配置されたカラー6が第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4と一体にシャフト7の軸回りに回転可能な状態で不思議遊星歯車機構X全体をユニット化することができる。第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4からなる6組の遊星歯車組は、カラー6を介してシャフト7及びキャリア8によって周方向に所定間隔で保持され且つ軸方向への移動が規制されている。また、遊星歯車組装着済みカラー6は、シャフト7によって正逆方向に回転可能に支持されている。
【0028】
本実施形態のアクチュエータは、
図4に示すように、モータの駆動軸と一体回転可能な入力軸Iと不思議遊星歯車機構Xの太陽歯車1との間に遊星歯車機構Yを設けている。なお、
図4(a)は遊星歯車機構Y及び不思議遊星歯車機構Xを備えた減速機の正面図であり、同図(b)は同図(a)のz−z線断面図である。
【0029】
遊星歯車機構Yは、入力軸Iと一体に回転可能なサンギヤY1と、サンギヤY1に噛み合った状態でサンギヤY1の周囲を公転しながら自転する複数のプラネタリギヤY2と、複数のプラネタリギヤY2の周囲に配置され且つ複数のプラネタリギヤY2が噛み合うインターナルギヤY3と、プラネタリギヤY2を支持し且つ遊星プラネタリギヤY2の公転運動を取り出す回転要素であるキャリアY4とを備えている。このような遊星歯車機構Yは、不思議遊星歯車機構Xとともに減速機を構成するものである。本実施形態の不思議遊星歯車機構Xは、遊星歯車機構YのキャリアY4のうち軸状をなす出力端部に太陽歯車1を一体回転可能に固定したものである。
【0030】
このような不思議遊星歯車機構Xを備えたアクチュエータによれば、図示しないモータに通電されると入力軸Iが回転し、その回転は減速機である遊星歯車機構Y及び不思議遊星歯車機構Xに伝わる。すなわち、入力軸Iの回転に伴って、遊星歯車機構YのサンギヤY1が回転すると、サンギヤY1の回転がプラネタリギヤY2に伝わり、プラネタリギヤY2が自転しながらインターナルギヤY3に噛み合って公転し、プラネタリギヤY2の回転がキャリアY4に伝わる。このようにして、入力軸Iの回転駆動力が減速されてキャリアY4に伝達される。なお、本実施形態では、インターナルギヤY3を入力側ハウジングH1にビスV1で相対回転不能に固定している。また、入力側ハウジングH1の内部空間は端部カバーCによって外部から仕切られた空間になっている(
図4参照)。
【0031】
そして、遊星歯車機構YのキャリアY4の回転に伴って遊星歯車機構Yの太陽歯車1が回転すると、太陽歯車1の回転が6個の第1遊星歯車2に伝わり、これら6個の第1遊星歯車2が自転しながら可動内歯車3に噛み合う。
【0032】
ここで、第1遊星歯車2にカラー6及びシャフト7で連結されている第2遊星歯車4も第1遊星歯車2と一体に回転し、6個の第2遊星歯車4は固定内歯車5に噛み合い、公転する。その回転によって、可動内歯車3が、ビスV2で連結している出力側ハウジングH2と一体で回転する。このようにして、入力軸Iの回転が出力軸(出力側ハウジングH2)に伝達される間に、入力軸Iの回転数は可動内歯車3と固定内歯車5の歯数差に応じて所定割合(大きな減速比)で減速される。なお、本実施形態では、中間ハウジングH3と出力軸(出力側ハウジングH2)の間にベアリングRを設けている。
【0033】
以上に説明したように、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xによれば、カラー6の第1カラー側係合部62に第1遊星歯車2の歯車側係合部22を係合させるとともに、カラー6の第2カラー側係合部63に第2遊星歯車4の歯車側係合部42を係合させることで、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4を同位相または所定の位相差でカラー6に組み付けた状態を維持することができる。特に、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xでは、複数の第1遊星歯車2及び複数の第2遊星歯車4として全て同じ形状の歯車を適用しつつ、カラー6に設けた第1カラー側係合部62と第2カラー側係合部63の位相をずらしたことによって同軸上に配置される第1遊星歯車2と第2遊星歯車4の適切な位相差(位相差ゼロを含む)を確保した状態でユニット化することができ、歯数が異なる可動内歯車3及び固定内歯車5にそれぞれ第1遊星歯車2、第2遊星歯車4が噛み合う構造を実現できる。そして、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xによれば、カラー6を用いて第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4の適切な位相関係を維持し、高精度に一体回転可能にカラー6に組み付けた遊星歯車(第1遊星歯車2、第2遊星歯車4)をユニット化していることで、太陽歯車1にも内歯車(可動内歯車3、固定内歯車5)にも依存しないで自立する構成、すなわち、組立時に遊星歯車(第1遊星歯車2、第2遊星歯車4)が太陽歯車1及び内歯車(可動内歯車3、固定内歯車5)に支持されることが最優先事項にならない構成になり、組立作業はもちろんのこと、分解作業や再組立作業も容易になり、メンテナンス性が向上する。
【0034】
特に、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xでは、第1遊星歯車2及び第2遊星歯車4のうち軸方向に貫通する内周面21,41にそれぞれ同じキー溝加工を施すことで形成した歯車側係合部22,42を採用しているため、例えば、上述の第2遊星歯車に設けた回転軸を第1遊星歯車に挿入した状態で第1遊星歯車及び第2遊星歯車を所定の位相差で固着する構成と比較して、別々のパーツである第1遊星歯車及び第2遊星歯車を高い精度で位置決めした状態で固着する処理が不要であり、固着処理の精度が低い場合には内歯車(固定内歯車、可動内歯車)に噛み合わせることができないという事態を回避することができる。また、樹脂成型品または金属成型品として第1遊星歯車及び第2遊星歯車を所定の位相差で一体的に設ける構成であれば、太陽歯車の周囲に配置する遊星歯車の数の増加に伴って金型の数も増加して高コスト化に直結するが、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xによれば、共通の金型を用いて成型した第1遊星歯車及び第2遊星歯車を用いることができ、コスト面においても有利である。
【0035】
加えて、本実施形態に係る不思議遊星歯車機構Xは、歯数の異なる2つの内歯車(可動内歯車3、固定内歯車5)を同軸で回すことで高い減速率を得ることができるとともに、太陽歯車1の周囲に第1遊星歯車2を6個配置し、第2遊星歯車4も第1遊星歯車2と同数個配置することで、高トルクを各遊星歯車(第1遊星歯車2、第2遊星歯車4)で分担して受けることができ、小型化・軽量化も実現可能であることから、航空機の補助翼を操舵するための電動アクチュエータにも好適に適用することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態の構成に限られるものではない。例えば、不思議遊星歯車機構を構成する太陽歯車、第1遊星歯車、第2遊星歯車、固定内歯車、可動内歯車の歯数やピッチ等は適宜変更可能であり、同軸に配置される第1遊星歯車と第2遊星歯車の位相差もそれらの歯数を考慮して決定された任意の値であればよい。
【0037】
太陽歯車の周囲に配置する第1遊星歯車の個数も適宜変更しても構わない。第2遊星歯車は第1遊星歯車と同数であればよい。
【0038】
上述の実施形態では、複数の第1遊星歯車が噛み合う第1内歯車が可動内歯車であり、第1内歯車と同軸に並設された第2内歯車が固定歯車である態様を例示したが、第1内歯車が回転しない固定内歯車であり、第2内歯車が軸回りに回転可能な可動内歯車である態様であってもよい。この場合、出力軸が回転しない固定軸であり、上述の実施形態における端部カバーC、入力側ハウジングH1及び中間ハウジングH3が回転可能であれば不思議遊星歯車機構として機能する。
【0039】
また、本発明では、第1遊星歯車及び第2遊星歯車の歯車側係合部を各遊星歯車の回転中心に向かって凸状のキーまたはピンに設定し、カラーの第1カラー側係合部及び第2カラー側係合部をカラーの軸中心に向かって凹状のキー溝または孔に設定することも可能である。
【0040】
上述の実施形態では、入力軸と太陽歯車の間に遊星歯車機構を配置したアクチュエータを例示したが、遊星歯車機構を備えず、入力軸を不思議遊星歯車機構の太陽歯車に一体回転可能に構成したアクチュエータ(減速機を不思議遊星歯車機構のみで構成したアクチュエータ)であってもよい。また、本発明の不思議遊星歯車機構は、航空機の補助翼を操舵するための電動アクチュエータ以外のアクチュエータにも適用することができる。
【0041】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…太陽歯車
2…第1遊星歯車
22…歯車側係合部
3…第1内歯車(可動内歯車)
4…第2遊星歯車
42…歯車側係合部
5…第2内歯車(固定内歯車)
6…カラー
62…第1カラー側係合部
63…第2カラー側係合部
7…シャフト
8…キャリア
X…不思議遊星歯車機構