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特開2021-8452抗体精製プロセスにおけるプロテインAクロマトグラフィーのための洗浄溶液の改善
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-8452(P2021-8452A)
(43)【公開日】2021年1月28日
(54)【発明の名称】抗体精製プロセスにおけるプロテインAクロマトグラフィーのための洗浄溶液の改善
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20201225BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20201225BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20201225BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20201225BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20201225BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201225BHJP
【FI】
   C07K1/22ZNA
   A61K39/395 N
   A61P25/04
   A61P29/00
   A61P19/02
   A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】37
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-111174(P2020-111174)
(22)【出願日】2020年6月29日
(31)【優先権主張番号】62/869,093
(32)【優先日】2019年7月1日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル・イアン・シュプリッツァー
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA75
4H045GA26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プロテインAクロマトグラフィー工程を含む治療用タンパク質の精製のためのプロセス(方法)の提供。
【解決手段】治療用タンパク質のための精製プロセスのプロテインAクロマトグラフィー工程における、リパーゼの除去を強化するための、プロテインAクロマトグラフィー媒体のための洗浄溶液であるCaClを含む溶液の使用であって、該治療用タンパク質を含むローディング溶液が、プロテインAクロマトグラフィー媒体上に適用される、上記使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用タンパク質のための精製プロセスのプロテインAクロマトグラフィー工程における、リパーゼの除去を強化するための、プロテインAクロマトグラフィー媒体のための洗浄溶液であるCaClを含む溶液の使用であって、該治療用タンパク質を含むローディング溶液が、プロテインAクロマトグラフィー媒体上に適用される、上記使用。
【請求項2】
ホスホリパーゼB様2(PLBL2)の除去を強化するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記洗浄溶液中のCaClの濃度が、0.25M〜3M、好ましくは0.25M〜2M、好ましくは0.25M〜1M、好ましくは0.25M〜0.8M、好ましくは0.4M〜0.6M、さらにより好ましくは約0.5Mである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
CaClを含む前記洗浄溶液が、トリスをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
CaClを含む前記洗浄溶液中のトリスの濃度が、40mM〜60mM、好ましくは約50mMである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
CaClを含む前記洗浄溶液のpHが、5〜9、好ましくは6〜8.5、好ましくは7〜8、好ましくは約7.5である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を前記CaClを含む溶液で洗浄する前、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体が、40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリス、および120mM〜180mMの濃度、好ましくは約150mMの濃度のNaClを含み、pH6〜9、好ましくは約7.5のpHを有する溶液で洗浄される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を前記CaClを含む溶液で洗浄した後、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体が、20mM〜30mMの濃度、好ましくは約25mMの濃度の酢酸塩を含み、pH4〜7、好ましくは約5.5のpHを有する溶液で洗浄される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体をローディングおよび洗浄する前、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を、40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリス、および120mM〜180mMの濃度、好ましくは約150mMの濃度のNaClを含み、pH6〜9、好ましくは約7.5のpHを有する平衡緩衝液と接触させる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄した後、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体に結合した前記治療用タンパク質を溶出させるための溶出緩衝液と接触させる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記溶出緩衝液が、20mM〜30mMの濃度、好ましくは約25mMの濃度の酢酸塩を含み、2.5〜4.5のpH、好ましくは約3.7のpHを有する、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記治療用タンパク質が、治療抗体である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記治療抗体が、CHO細胞から組換え生産される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記治療抗体が、タネズマブである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
プロテインAクロマトグラフィー工程を含む治療用タンパク質の精製の方法であって、
− 該治療用タンパク質を含むローディング溶液をプロテインAクロマトグラフィー媒体と接触させ、それによって、該治療用タンパク質を該プロテインAクロマトグラフィー媒体に結合させ ;
− 該プロテインAクロマトグラフィー媒体を、リパーゼの除去を強化するための、少なくとも1種のCaClを含む洗浄溶液で洗浄し ;
− 該治療用タンパク質を、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体から溶出させる、上記方法。
【請求項16】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を、ホスホリパーゼB様2(PLBL2)の除去を強化するための、少なくとも1種のCaClを含む洗浄溶液で洗浄する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記洗浄溶液中のCaClの濃度が、0.25M〜3M、好ましくは0.25M〜2M、好ましくは0.25M〜1M、好ましくは0.25M〜0.8M、好ましくは0.4M〜0.6M、さらにより好ましくは約0.5Mである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記CaClを含む洗浄溶液が、好ましくは40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリスをさらに含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記CaClを含む洗浄溶液のpHが、5〜9、好ましくは6〜8.5、好ましくは7〜8、好ましくは約7.5である、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を前記CaClを含む溶液で洗浄する前、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体が、40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリス、および120mM〜180mMの濃度、好ましくは約150mMの濃度のNaClを含み、pH6〜9、好ましくは約7.5のpHを有する溶液で洗浄される、請求項15〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を前記CaClを含む溶液で洗浄した後、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体が、20mM〜30mMの濃度、好ましくは約25mMの濃度の酢酸塩を含み、pH4〜7、好ましくは約5.5のpHを有する溶液で洗浄される、請求項15〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体をローディングおよび洗浄する前、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を、40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリス、および120mM〜180mMの濃度、好ましくは約150mMの濃度のNaClを含み、pH6〜9、好ましくは約7.5のpHを有する平衡緩衝液と接触させる、請求項15〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄した後、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体を、前記プロテインAクロマトグラフィー媒体に結合した前記治療用タンパク質を溶出させるための溶出緩衝液と接触させる、請求項15〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記溶出緩衝液が、20mM〜30mMの濃度、好ましくは約25mMの濃度の酢酸塩を含み、2.5〜4.5のpH、好ましくは約3.7のpHを有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記治療用タンパク質が、イオン交換クロマトグラフィー工程および/または陽イオン交換精製工程を含むさらなる精製工程に供される、請求項15〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記治療用タンパク質が、医薬として使用するために製剤化される、請求項15〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記治療用タンパク質が、治療抗体である、請求項15〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記治療抗体が、CHO細胞から組換え生産される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記治療抗体が、タネズマブである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項15〜29のいずれか一項に記載の方法によって精製された治療用タンパク質を含む医薬生成物。
【請求項31】
前記生成物中のPLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約10ng/mg未満かまたはそれに等しい、請求項30に記載の医薬生成物。
【請求項32】
請求項15〜29のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる組成物。
【請求項33】
前記組成物中のPLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約10ng/mg未満かまたはそれに等しい、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記治療用タンパク質が、タネズマブである、請求項30もしくは31に記載の医薬生成物、または請求項32もしくは33に記載の組成物。
【請求項35】
タネズマブを含む医薬組成物であって、該組成物中のPLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約10ng/mg未満かまたはそれに等しい、上記医薬組成物。
【請求項36】
前記PLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約5ng/mg未満である、請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項37】
前記PLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約2または1ng/mg未満である、請求項36に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインAクロマトグラフィー工程を含む治療用タンパク質の精製のためのプロセス(方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
治療用タンパク質、特定には治療抗体は、遺伝子操作された宿主細胞で生産され、バイオリアクターから捕獲され、次いで最終産物に高い純度を付与するように設計された制御された多工程のプロセス下で精製される。
【0003】
主な問題の1つは、不純物、特定には残留した宿主細胞由来タンパク質(HCP)、すなわち治療用タンパク質の生産のために使用される宿主細胞によって発現されるタンパク質の低減である。
【0004】
規制の観点から、全てのバイオ医薬品生成物に対して規定されたHCPの許容レベルは存在しない可能性があるが、個々の場合に応じて、あらゆる関連する安全性のリスクと効能に対する負の作用を最小化するために、HCPのレベルを最小化することが必要である。
【0005】
治療用タンパク質のための精製プロセスに含まれる従来の工程の1つは、プロテインAクロマトグラフィー工程からなり、この場合、捕獲工程から収集された治療用タンパク質を含むローディング溶液は、例えばクロマトグラフィーカラムに配置された樹脂の形態でのプロテインAクロマトグラフィー媒体に適用される。
【0006】
このようなプロテインAクロマトグラフィーカラムは、結合および溶出様式で操作することができる。それゆえに、このようなプロテインAクロマトグラフィーカラムを操作する従来のプロセスは、逐次的に、
− 治療用タンパク質をプロテインAクロマトグラフィー媒体に結合させ、一方で不純物を含む溶液はプロテインAクロマトグラフィー媒体を通過させる工程;
− 後続の操作で、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、より多くの不純物が樹脂から除去され、治療用タンパク質から分離されるように、1種またはそれより多くの洗浄溶液で洗浄する工程;
− 後続の操作で、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、結合した治療用タンパク質の回収のための溶出緩衝液と接触させる工程
を含み得る。
【0007】
従来のプロセスでは、塩化ナトリウム(NaCl)溶液などの塩溶液は、HCPを除去するための洗浄溶液として使用される。また、同じ目的のために2価カチオンの塩の洗浄液を使用することも、例えばWO2006/138553およびWO2008/03120により公知である。
【0008】
本発明は、より具体的には、プロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄するため、さらに、特定のHCPの除去を強化するために使用される溶液に関する。
特定のHCP、例えばリパーゼ、より具体的にはホスホリパーゼB様2(PLBL2)の存在は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)で発現された治療抗体のための精製プロセスの様々な段階で見られ、特に問題である。例えば、PLBL2は、従来の賦形剤、例えばポリソルベート、特定にはポリソルベート80(PS80)およびポリソルベート20(PS20)の分子結合に干渉することが見出されたが、それにより得られた薬物生成物の安定性が影響を受ける。PS20分解へのPLBL2の影響は、例えば以下の出版物:「Residual Host Cell Protein Promotes Polysorbate 20 Degradation in a Sulfatase Drug Product Leading to Free Fatty Acid Particles」-Nitin Dixitら、-Journal of Pharmaceutical Sciences、第105巻、5号、2016年5月、1657〜1666頁で報告されている。
【0009】
PLBL2は、特定のレベルで、生成物の免疫原性に影響を与える可能性がある。
PLBL2の免疫原性能およびそのモノクローナル抗体の免疫原性に対する考えられる影響は、例えば、以下の出版物:「Specific Immune Response to Phospholipase B-Like 2 Protein, a Host Cell Impurity in Lebrikizumab Clinical Material」-Saloumeh Kadkhodayan Fischerら、The AAPS Journal((C)2016)で評価され、報告された。
【0010】
この治療抗体精製の問題に取り組む必要があり、本発明の目的は、プロテインAクロマトグラフィー媒体から回収した溶出プール中の、さらに、薬物生成物中のリパーゼ、特定にはPLBL2の量を徹底的に低減させるのに効果的な洗浄溶液を提供することである。
【0011】
抗体精製プロセスにおいてPLBL2を除去することに関連する具体的な問題は、例えば以下の論文:「Investigating interactions between phospholipase B-Like 2 and antibodies during Protein A chromatography」-B. Tranら、Journal of Chromatography A 1438(2016)31〜38で文書化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006/138553
【特許文献2】WO2008/03120
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「Residual Host Cell Protein Promotes Polysorbate 20 Degradation in a Sulfatase Drug Product Leading to Free Fatty Acid Particles」-Nitin Dixitら、-Journal of Pharmaceutical Sciences、第105巻、5号、2016年5月、1657〜1666頁
【非特許文献2】「Specific Immune Response to Phospholipase B-Like 2 Protein, a Host Cell Impurity in Lebrikizumab Clinical Material」-Saloumeh Kadkhodayan Fischerら、The AAPS Journal((C)2016)
【非特許文献3】「Investigating interactions between phospholipase B-Like 2 and antibodies during Protein A chromatography」-B. Tranら、Journal of Chromatography A 1438(2016)31〜38
【発明の概要】
【0014】
本発明の第1の形態によれば、CaClを含む溶液は、リパーゼの除去を強化するための、プロテインAクロマトグラフィー媒体のための洗浄溶液として使用される。
本発明のさらなる形態によれば、CaClを含む溶液は、PLBL2の除去を強化するための、プロテインAクロマトグラフィー媒体のための洗浄溶液として使用される。
【0015】
例えば、このようなCaCl洗浄溶液の使用は、特定にはNaCl溶液などの従来の洗浄溶液と比較して、溶出プール中の、さらには薬物生成物中の、リパーゼ、より具体的にはPLBL2の、治療用タンパク質に対する重量比を、少なくとも2分の1、さらには少なくとも7分の1、またはさらには少なくとも30分の1に低減できることが見出されている。特定には、このようなCaCl洗浄溶液の使用は、リパーゼ、より具体的にはPLBL2の重量比を低減でき、同時に、HCPの全体的な低減に関して、従来の洗浄溶液、例えば特定にはNaCl溶液と少なくとも同程度に有効である。
【0016】
本発明のさらなる形態において、プロテインAクロマトグラフィー工程を含む治療用タンパク質の精製のプロセス(方法)であって、
− 治療用タンパク質を含むローディング溶液をプロテインAクロマトグラフィー媒体と接触させ、それによって、治療用タンパク質をプロテインAクロマトグラフィー媒体に結合させ;
− プロテインAクロマトグラフィー媒体を、リパーゼの除去を強化するための、特定にはPLBL2の除去を強化するための、少なくとも1種のCaClを含む洗浄溶液で洗浄し;
− 治療用タンパク質を、プロテインAクロマトグラフィー媒体から溶出させる、プロセスが提供される。
【0017】
本発明のさらなる形態において、本発明に係るプロセスによって精製された治療用タンパク質を含む医薬生成物が提供される。
本発明の好ましい実施態様によれば、全てのその形態において、以下の通りである:
− 洗浄溶液中のCaClの濃度は、0.25M〜3M、好ましくは0.25M〜2M、好ましくは0.25M〜1M、好ましくは0.25M〜0.8M、好ましくは0.4M〜0.6M、さらにより好ましくは約0.5Mである;
− CaClを含む洗浄溶液は、トリスをさらに含む;
− CaClを含む洗浄溶液中のトリスの濃度は、40mM〜60mM、好ましくは約50mMである;
− CaClを含む洗浄溶液のpHは、5〜9、好ましくは6〜8.5、好ましくは7〜8、好ましくは約7.5である;
− プロテインAクロマトグラフィー媒体をCaClを含む溶液で洗浄する前、プロテインAクロマトグラフィー媒体は、40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリス、および120mM〜180mMの濃度、好ましくは約150mMの濃度のNaClを含み、pH6〜9、好ましくは約7.5のpHを有する溶液で洗浄される;
− プロテインAクロマトグラフィー媒体をCaClを含む溶液で洗浄した後、プロテインAクロマトグラフィー媒体は、20mM〜30mMの濃度、好ましくは約25mMの濃度の酢酸塩を含み、pH4〜7、好ましくは約5.5のpHを有する溶液で洗浄される;
− プロテインAクロマトグラフィー媒体をローディングおよび洗浄する前、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、40mM〜60mMの濃度、好ましくは約50mMの濃度のトリス、および120mM〜180mMの濃度、好ましくは約150mMの濃度のNaClを含み、pH6〜9、好ましくは約7.5のpHを有する平衡緩衝液と接触させる;
− プロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄した後、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、プロテインAクロマトグラフィー媒体に結合した治療用タンパク質を溶出させるための溶出緩衝液と接触させる;
− 前記溶出緩衝液は、20mM〜30mMの濃度、好ましくは約25mMの濃度の酢酸塩を含み、2.5〜4.5のpH、好ましくは約3.7のpHを有する;
− 治療用タンパク質は、治療抗体である;
− 治療抗体は、CHO細胞から組換え生産される;
− 治療抗体は、タネズマブである。
【0018】
本発明に係るプロセスの好ましい実施態様によれば、
− 治療用タンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー工程および/または陽イオン交換精製工程を含むさらなる精製工程に供される;
− 治療用タンパク質は、医薬として使用するために製剤化される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
発明の説明および特許請求の範囲では、以下の定義が使用される。
− 用語「プロテインA」は、それらの天然源から回収されたプロテインA、合成的に生産されたプロテインA(例えばペプチド合成、組換え技術によって、など)、およびCH2/CH3領域を有するCH2/CH3領域を有するタンパク質と結合する能力を保持するそれらのバリアントを包含する。
【0020】
− 用語「捕獲された溶液」は、同様に存在する他の物質から精製しようとする少なくとも1種の標的物質を含有する溶液を指す。捕獲された溶液は、多くの生体分子(例えばタンパク質、抗体、ホルモン、およびウイルス)、小分子(例えば塩、糖、脂質など)、さらには微粒子状の物質を含有する複雑な混合物であることが多い。典型的な生物学的起源の捕獲された溶液は水溶液または懸濁液であり得るが、例えば溶媒沈殿、抽出などの初期の分離工程で使用される有機溶媒を含有していることもある。本発明の様々な実施態様による精製で処理できる有用な生物学的物質を含有し得る捕獲された溶液の例としては、これらに限定されないが、バイオリアクターからの培養上清、ホモジナイズした細胞懸濁液、血漿、血漿分画、および乳が挙げられる。
【0021】
− 用語「ローディング溶液」は、捕獲された溶液から得られた溶液であって、さらに遠心分離されていてもよいし、深層ろ過されていてもよいし、またはそれ以外の方法で予備的に精製されていてもよく、プロテインAクロマトグラフィーカラムにローディングされるものを意味する。
【0022】
− 用語「治療用タンパク質」は、捕獲された溶液から精製しようとするタンパク質を指す。
− 用語「不純物」は、捕獲された溶液またはローディング溶液中の、治療用タンパク質と異なる物質であって、最終的な治療用タンパク質製剤から排除されることが望ましいものを指す。典型的な不純物としては、核酸、タンパク質(例えば、HCP、低分子量の種、およびジスルフィド結合した種など)、ペプチド、内毒素、ウイルスおよび小分子が挙げられる。
【0023】
− 用語「リパーゼ」は、脂肪の分解を触媒するあらゆる酵素を指す。
− 用語「PLBL2」は、リパーゼであるホスホリパーゼB様2を意味し、さらに、リパーゼであるホスホリパーゼB様2から得られた捕獲された溶液中に存在し得るフラグメントまたはバリアントを意味する。本発明に係るPLBL2は、当業界で公知のように、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(Liquid Chromatography - tandem Spectrometry;LC−MS/MS)によって、またはPLBL2 ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)キットを用いて測定することができる。PLBL2 ELISAは、溶液中のPLBL2、例えばチャイニーズハムスターPLBL2に結合し、その定量を可能にするポリクローナル抗体を利用するサンドイッチベースのELISAである。
【0024】
− 用語「洗浄溶液」は、治療用タンパク質を結合させるクロマトグラフィー媒体から不純物を取り去るのに使用される液体を指す。1種より多くの洗浄溶液が、逐次的に、例えば、クロマトグラフィー媒体に非特異的に会合する様々なタイプの不純物を解離させて除去するように設計された、pH、伝導率、溶媒濃度などの特性を変更した連続する洗浄溶液と逐次的に採用することができる。
【0025】
− 用語「溶出緩衝液」は、本明細書では、クロマトグラフィー媒体を1種またはそれより多くの洗浄溶液で洗浄した後にクロマトグラフィー媒体から治療用タンパク質を解離させるのに使用される液体を指す。溶出緩衝液は、治療用タンパク質を不可逆的に変性させることなく解離させるように作用する。典型的な溶出緩衝液はクロマトグラフィー技術において周知であり、より高い濃度の塩、遊離の親和性リガンドもしくは類似体、またはクロマトグラフィー媒体からの治療用タンパク質の解離を促進する他の物質を含んでいてもよい。また典型的な溶出様式も、溶出緩衝液のpHに基づいていてもよい。
【0026】
− 用語「溶出プール」は、溶出工程によって生産された液相であって、溶出緩衝液およびクロマトグラフィー媒体から溶出させたタンパク質を含むものを指す。
− 用語「医薬物質」は、本発明のプロセス(方法)によって得ることができる医薬有効成分としての治療用タンパク質を指す。
【0027】
− 用語「薬物生成物」または「医薬生成物」は、治療用タンパク質を賦形剤と共に含有する完成した剤形を指す。
− 用語「賦形剤」は、最終的な治療用タンパク質製剤の、治療用タンパク質ではない成分を意味する。賦形剤としては、典型的には、タンパク質安定剤、界面活性剤、アミノ酸、例えばタンパク質の安定化に寄与するアミノ酸などが挙げられる。
【0028】
− 別段の指定がない限り、数値に関連する用語「約」は、前記値の±5%の範囲であることを意味する。
本発明は、CaClを含む溶液に関する。このような溶液は、治療用タンパク質、特定には治療抗体を精製するための方法で使用されるプロテインAクロマトグラフィー媒体のための洗浄溶液として使用することができる。
【0029】
本発明に係る方法で精製される治療抗体の例としては、CHO細胞から組換え生産された治療抗体が挙げられる。好ましくは、治療抗体は、タネズマブである。
好ましくは、本発明の方法におけるCaClを含む溶液の使用は、PLBL2の除去を強化する。PLBL2の存在は、当業界において公知の方法で測定することができる。例えば、PLBL2の存在は、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)によって、またはPLBL2 ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)キットを用いて測定することができる。
【0030】
したがって、本発明の一実施態様において、PLBL2は、液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)によって測定される。
本発明の別の実施態様において、PLBL2は、PLBL2 ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)を用いて測定される。
【0031】
このような除去の強化は、溶出プール中に存在するPLBL2の量が、標準的なプロセスにおける量の少なくとも2分の1、7分の1、または一部の好ましい実施態様では30分の1になるような強化であり得る。標準的プロセスは、下記の「実施例」セクションにおいて、表2および3に示した試験結果と関連して定義される。
【0032】
好ましくは、治療抗体の量は、本発明に係る使用およびプロセス(方法)によって、PLBL2の除去中に実質的に減少しない。例えば、本発明によれば、溶出プール中に存在する治療抗体の量は、標準的なプロセスと比較して、ほぼ同じであり得る。別の例において、溶出プール中に存在する治療抗体の量は、標準的なプロセスと比較して、それより多くてもよい。
【0033】
したがって、好適なCaClを含む溶液は、これに限定されないが、以下の例示的な溶液:50mMのトリス、0.5MのCaCl、pH7.5を含む。
プロテインAクロマトグラフィー工程を使用する治療用タンパク質のための精製プロセスは当業界において周知であり、本発明のCaCl2を含む溶液と共に採用することができる。
【0034】
本発明によれば、プロテインAクロマトグラフィーカラムは、結合および溶出様式で操作することができる。それゆえに、結合および溶出においてこのようなプロテインAクロマトグラフィーカラムを操作するプロセスは、逐次的に、
− 治療用タンパク質をプロテインAクロマトグラフィー媒体に結合させ、一方で不純物を含む溶液はプロテインAクロマトグラフィー媒体を通過させる工程;
− 後続の操作で、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、より多くの不純物が樹脂から除去され、治療用タンパク質から分離されるように、1種またはそれより多くの洗浄溶液で洗浄する工程;
− 後続の操作で、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、結合した治療用タンパク質の回収のための溶出緩衝液と接触させる工程
を含み得る。
【0035】
驚くべきことに、結合および溶出様式で操作されるプロテインAクロマトグラフィーカラムと共に、このようなCaCl洗浄溶液を使用することは、溶出プール中におけるPLBL2の治療用タンパク質に対する重量比を、好ましくは10ng/mg未満に低減できることが見出された。より好ましくは、そのような使用は、溶出プール中におけるPLBL2の治療用タンパク質に対する重量比を、8ng/mg未満に、さらにより好ましくは6ng/mg未満に低減させることができる。
【0036】
特定には、このようなCaCl洗浄溶液の使用は、溶出プール中におけるPLBL2の治療用タンパク質に対する重量比を10ng/mg未満に低減でき、同時に、他の従来の洗浄溶液、例えば、特定にはHCPの一般的な低減のためのNaCl溶液と少なくとも同程度に有効である。
【0037】
CaCl洗浄溶液に加えて、他の従来の洗浄溶液も任意選択で使用することができる。例えば、CaCl洗浄溶液の前に、好ましくは、pH7.5の50mMのトリスおよび150mMのNaClを含む洗浄溶液を使用することができる。さらにより好ましくは、CaCl洗浄溶液の後にpH5.5の25mMの酢酸塩を含むさらなる洗浄溶液を使用することができる。
【0038】
「HCPの一般的な低減」は、溶出プール中に存在するHCP種の治療用タンパク質に対する重量比が低減されることを意味する。HCPの一般的な低減は、HCP ELISA(通常、一次的なツールとして使用される)およびLC−MS/MSなどの当業界において公知の方法で測定することができる。
【0039】
したがって、本発明の一形態において、プロテインAクロマトグラフィー工程を含む治療用タンパク質の精製のプロセスであって、
− 治療用タンパク質を含むローディング溶液をプロテインAクロマトグラフィー媒体と接触させ、それによって、治療用タンパク質をプロテインAクロマトグラフィー媒体に結合させ;
− プロテインAクロマトグラフィー媒体を、ホスホリパーゼB様2(PLBL2)の除去を強化するための、少なくとも1種のCaClを含む洗浄溶液で洗浄し;
− 治療用タンパク質を、プロテインAクロマトグラフィー媒体から溶出させる、上記プロセスが提供される。
【0040】
好ましくは、前記少なくとも1種の洗浄溶液中のCaClの濃度は、約0.4M〜約0.5M、好ましくは約0.5Mである。
好ましくは、CaClを含む洗浄溶液は、好ましくは約50mMの濃度のトリスをさらに含む。
【0041】
好ましくは、CaClを含む洗浄溶液は、約7.5のpHを有する。
本発明のさらなる形態において、ホスホリパーゼB様2(PLBL2)の除去を強化するための、プロテインAクロマトグラフィー媒体のための洗浄溶液であるCaClを含む溶液の使用が提供される。
【0042】
本発明の好ましい実施態様において、プロテインAクロマトグラフィー媒体をCaClを含む溶液で洗浄する前、プロテインAクロマトグラフィー媒体が、約50mMの濃度のトリス、および約150mMの濃度のNaClを含み、約7.5のpHを有する溶液で洗浄される。
【0043】
本発明の好ましい実施態様において、プロテインAクロマトグラフィー媒体をCaClを含む溶液で洗浄した後、プロテインAクロマトグラフィー媒体が、約25mMの濃度の酢酸塩を含み、約5.5のpHを有する溶液で洗浄される。
【0044】
本発明の好ましい実施態様において、プロテインAクロマトグラフィー媒体をローディングおよび洗浄する前、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、約50mMの濃度のトリスおよび約150mMの濃度のNaClを含み、約7.5のpHを有する平衡緩衝液と接触させる。
【0045】
本発明の好ましい実施態様において、プロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄した後、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、プロテインAクロマトグラフィー媒体に結合した治療用タンパク質を溶出させるための溶出緩衝液と接触させ、前記溶出緩衝液は、約25mMの濃度の約3.7のpHを有する酢酸塩を含む。
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、プロテインAクロマトグラフィー媒体を洗浄した後、プロテインAクロマトグラフィー媒体を、プロテインAクロマトグラフィー媒体に結合した治療用タンパク質を溶出させるための溶出緩衝液と接触させ、治療用タンパク質を含む溶出プールを収集する。
【0047】
好ましい実施態様において、治療用タンパク質は、治療抗体であり、好ましくはCHO細胞で発現される治療抗体(またはCHO細胞から組換え生産された治療抗体)であり、より好ましくはタネズマブである。
【0048】
タネズマブは、抗神経成長因子(NGF)抗体である。以下の表1にタネズマブの配列を示す。タネズマブは、WO2004/058184では抗体E3として記載される。
【0049】
【表1】
【0050】
本発明のさらなる形態は、本明細書に記載される発明のプロセスによって精製された治療用タンパク質を含む医薬生成物を提供する。好ましい実施態様において、治療用タンパク質は、治療抗体であり、好ましくはCHO細胞で発現される治療抗体(またはCHO細胞から組換え生産された治療抗体)であり、より好ましくはタネズマブである。
【0051】
好ましい実施態様において、生成物中のPLBL2のレベルは、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約10ng/mg未満かまたはそれに等しい。一部の実施態様において、PLBL2のレベルは、約9ng/mg未満、約8ng/mg未満、約7ng/mg未満、約6ng/mg未満、約5ng/mg未満、約4ng/mg未満、約3ng/mg未満、約2ng/mg未満または約1ng/mg未満である。好ましい実施態様において、PLBL2のレベルは、約2ng/mg未満または約1ng/mg未満である。
【0052】
本発明のさらなる形態は、本明細書に記載される発明のプロセスによって得ることができる組成物を提供する。好ましい実施態様において、治療用タンパク質は、治療抗体であり、好ましくはCHO細胞で発現される治療抗体(またはCHO細胞から組換え生産された治療抗体)であり、より好ましくはタネズマブである。
【0053】
好ましい実施態様において、組成物中のPLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約10ng/mg未満かまたはそれに等しい。一部の実施態様において、PLBL2のレベルは、約9ng/mg未満、約8ng/mg未満、約7ng/mg未満、約6ng/mg未満、約5ng/mg未満、約4ng/mg未満、約3ng/mg未満、約2ng/mg未満または約1ng/mg未満である。好ましい実施態様において、PLBL2のレベルは、約2ng/mg未満または1ng/mg未満である。
【0054】
本発明のさらなる形態は、タネズマブを含む医薬組成物であって、組成物中のPLBL2のレベルが、LC−MS/MSまたはPLBL2 ELISAによって測定した場合、約10ng/mg未満かまたはそれに等しい、上記医薬組成物を提供する。
【0055】
一部の実施態様において、PLBL2のレベルは、約9ng/mg未満、約8ng/mg未満、約7ng/mg未満、約6ng/mg未満、約5ng/mg未満、約4ng/mg未満、約3ng/mg未満、約2ng/mg未満または約1ng/mg未満である。好ましい実施態様において、PLBL2のレベルは、約2ng/mg未満または約1ng/mg未満である。
【0056】
本発明の組成物はさらに、医薬的に許容される担体、賦形剤、または安定剤(Remington:The Science and practice of Pharmacy、第20版、2000、Lippincott Williams and Wilkins、K. E. Hoover編)を、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で含んでいてもよい。許容できる担体、賦形剤、または安定剤は、投薬量および濃度でレシピエントにとって非毒性であり、その例としては、緩衝剤、例えばリン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸およびメチオニン;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量の(約10残基未満の)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリシン;単糖、二糖類、およびグルコース、マンノース、またはデキストランなどの他の炭水化物;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩を形成する対イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えばZn−タンパク質複合体);および/または非イオン界面活性剤、例えばTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)もしくはポリエチレングリコール(PEG)を含み得る。医薬的に許容される賦形剤は、本明細書にさらに記載される。
【0057】
実際に、本明細書で使用される場合、「医薬的に許容される担体」または「医薬的な許容できる賦形剤」は、活性成分と組み合わせた場合、その成分の生物学的活性の保持を可能にし、対象の免疫系と非反応性であるあらゆる材料を含む。その例としては、これらに限定されないが、標準的な医薬用担体のいずれか、例えば、リン酸緩衝食塩水、水、エマルジョン、例えば油/水エマルジョン、および様々な種類の湿潤剤が挙げられる。エアロゾルまたは非経口投与のための好ましい希釈剤は、リン酸緩衝食塩水(PBS)または生理(0.9%)食塩水である。このような担体を含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化される(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第18版、A. Gennaro編、Mack Publishing Co.、ペンシルバニア州イーストン、1990;およびRemington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing、2000を参照)。
【0058】
医薬的に許容される賦形剤は当業界において公知であり、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は、形状または硬さを付与することもでき、または希釈剤として作用することもできる。好適な賦形剤としては、これらに限定されないが、安定化剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧モル濃度を変更するための塩、封入剤、緩衝液、ならびに皮膚浸透促進剤が挙げられる。非経口および非経口以外の薬物送達のための賦形剤、加えて製剤は、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing、2000に記載されている。
【0059】
一部の実施態様において、これらの物質は、注射(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内、関節内など)による投与のために製剤化される。したがって、これらの物質は、医薬的に許容されるビヒクル、例えば食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液などと組み合わせることができる。特定の投薬レジメン、すなわち用量、タイミングおよび反復は、特定の個体およびその個体の病歴に依存すると予想される。
【0060】
一部の実施態様において、タネズマブを含む組成物は、参照により本明細書に組み入れられるWO2010/032220に記載される組成物である。
一部の実施態様において、上記組成物は、液体製剤であり、約2.5mg/ml、5mg/ml、10mg/mlまたは20mg/mlの濃度のタネズマブ;およびヒスチジン緩衝液を含む。
【0061】
一部の実施態様において、製剤は、界面活性剤をさらに含み、界面活性剤は、ポリソルベート20であり得る。一部の実施態様において、製剤は、トレハロース無水物またはスクロースをさらに含む。一部の実施態様において、製剤は、キレート剤をさらに含み、キレート剤は、EDTAであってもよく、一部の実施態様において、EDTA二ナトリウムである。一部の実施態様において、製剤は、pH6.0±0.3を有する。
【0062】
一部の実施態様において、製剤は、約2.5mg/ml、5mg/ml、10mg/mlまたは20mg/mlのタネズマブ;約10mMのヒスチジン緩衝液;約84mg/mlのトレハロース無水物;約0.1mg/mlのポリソルベート20;約0.05mg/mlのEDTA二ナトリウムを含み、製剤は、pH6.0±0.3を有する。
【0063】
一部の実施態様において、製剤は、約2.5mg/mlまたは5mg/mlを含む。一部の実施態様において、製剤は、約1mlの総体積を有する。
一部の実施態様において、製剤は、ガラスまたはプラスチックのバイアルまたはシリンジに含有される。一部の実施態様において、製剤は、プレフィルドのガラスまたはプラスチックのバイアルまたはシリンジに含有される。一部の実施態様において、製剤は、自己注入式のシリンジに含有される。
【0064】
一部の実施態様において、組成物は、全身投与(例えば、静脈内または皮下投与)を介して対象に投与される。好ましくは、組成物は、皮下注射を介して投与される。
一部の実施態様において、タネズマブを含む本発明の組成物または医薬生成物は、変形性関節症の疼痛、下背部痛、およびがん性疼痛などの疼痛の処置方法での使用のためである。変形性関節症の疼痛および下背部痛の処置におけるタネズマブの使用は、それぞれその内容が参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願PCT/IB2020/050611号およびPCT/IB2020/051281号でさらに記載されている。本明細書に記載される処置方法について述べた実施態様において、このような実施態様は、その処置で使用するための、または代替として、その処置で使用するための医薬を製造するためのさらなる実施態様でもある。
【実施例】
【0065】
ここで本発明を、具体的な治療用モノクローナル抗体に適用した精製プロセスに対応する以下の実施例によってさらに例示し、様々なプロテインAクロマトグラフィー洗浄戦略を用いて評価する。実施例は、単に例示的な目的のために提供され、本発明の範囲の限定として解釈されるべきではない。
【0066】
例証的な実施例において、治療用タンパク質は、タネズマブ(配列は、上記の表1に示され、さらにWO2004/058184にお記載される)であり、これは、NGF(神経成長因子)に特異的に結合し、変形性関節症の疼痛、下背部痛、およびがん性疼痛などの疼痛のための処置として使用できる抗体である。
【0067】
この実施例において、バイオリアクターから収集されるローディング溶液中に存在する治療用タンパク質は、逐次的に以下を含む多工程の精製プロセスによって精製される。
− 最初の遠心分離工程;
− 最初の深層ろ過工程;
− プロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程であって、プロテインAクロマトグラフィー媒体、例えば、GEヘルスケア(GE Healthcare)より入手可能な、MabSelect(商標)、MabSelect SuRe(商標)もしくはMabSelect SuRe LX(商標)樹脂、またはミリポアシグマ(Millipore Sigma)より入手可能な、Eshmuno(商標)AもしくはProSep(商標)ウルトラプラス樹脂を含むクロマトグラフィーカラムで泳動させる、工程。最初に、樹脂を平衡緩衝液で平衡化する。次いで標的抗体が樹脂に結合するようにカラムにローディングする。その後、樹脂を1種またはそれより多くの洗浄溶液で洗浄し、次いで溶出緩衝液を適用することにより、標的抗体を、樹脂から溶出プール中に溶出させる。プロテインAクロマトグラフィー工程の主要な目的は、清澄化した無細胞馴化培地からの生成物の捕捉、およびプロセスによって生じた不純物からのタネズマブの分離を含む;
− 低pHのウイルス不活性化工程;
− 陰イオン交換(AEX)クロマトグラフィー工程であって、GEヘルスケアより入手可能な、Q Sepharose(商標)、Capto(商標)QもしくはCapto Q ImpRes(商標)樹脂、東ソー・バイオサイエンス(Tosoh Bioscience)より入手可能な、TOYOPEARL GigaCap(商標)Q−650M樹脂、またはミリポアシグマより入手可能な、Fractogel(商標)EMD TMAE HiCap(M)もしくはEshmuno(商標)Q樹脂などの媒体を含むクロマトグラフィーカラムで泳動させる、工程;
− 陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィー工程であって、GEヘルスケアより入手可能な、SP Sepharose(商標)FF、Capto SもしくはCapto SP ImpRes樹脂、東ソー・バイオサイエンスより入手可能な、TOYOPEARL GigaCap(商標)S−650M樹脂、またはミリポアシグマより入手可能な、Fractogel商標)EMDSO3−(M)もしくはEshmuno(商標)S樹脂などの媒体を含むクロマトグラフィーカラムで泳動させる、工程;
− 旭化成(Asahi Kasei)より入手可能な、Planova(商標)フィルター、またはミリポアシグマより入手可能な、ViresolvePro(商標)フィルターを使用するウイルスろ過工程;
− 限外ろ過/透析ろ過工程;ならびに
− 最終的な製剤およびろ過工程。
【0068】
プロテインAクロマトグラフィー洗浄緩衝液の評価
3つのバッチ(パイロットバッチ1〜3)を、プロテインAクロマトグラフィーカラムのための2回の逐次的な洗浄を含む上記の精製プロセスを使用して、500Lのパイロットプラントで泳動した。第1の洗浄溶液は、50mMのリン酸塩、pH7の1MのNaCl溶液であり、第2の洗浄溶液は、pH5.5の25mMの酢酸塩溶液である。pH3.7の25mMの酢酸塩の溶出緩衝液を用いて溶出を実行する。このプロセスは、以降、「標準プロセス」と称する。
【0069】
液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析(LC−MS/MS)の従来の試験技術によるHCPの分析を含む特徴付けの作業をこれらの3つのバッチに実行した。LC−MS/MSの結果から、タネズマブ医薬物質中に残存する単一のHCPであるホスホリパーゼB様2(PLBL2)の存在が明らかになった。
【0070】
全ての3つのバッチを同じプロセスで泳動したが、バッチ3は、低pHのウイルス不活性化およびプロテインAプールの中和後に深層フィルターを含んでいた。微粒子を除去し、後続の0.2μmフィルターの目詰まりを防止するために、深層フィルターを追加した。
【0071】
表2にこの試験の結果を示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表3に、商業的に入手可能なPLBL2 ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)キットを使用したプールの追加の試験からの結果を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
PLBL2 ELISAの結果は、LC−MS/MSとよく一致することから、低レベルのPLBL2は、このプロセスで排除されないことを示す。バッチ3における深層フィルターの包含は、医薬物質中のより低いPLBL2のレベルをもたらさなかったが、PLBL2を除去するためのよりロバストな溶液が確認されることが決定された。
【0076】
これらの結果に基づき、PLBL2をうまく除去する0.5MのCaClを含有する新しい洗浄緩衝液が実現した。以下に、この洗浄工程の開発の詳細を記載する。
0.5MのCaClを含有する洗浄緩衝液は、全般的に、1MのNaClを含有する洗浄緩衝液よりロバストな不純物除去を提供することが観察された。
【0077】
パイロットバッチ1のプロテインAのローディングを使用した最初の洗浄による選別を0.6mLのミニカラムを用いて実行して、0.5MのCaClの洗浄緩衝液の取込みがPLBL2のレベルを効果的に低減できるかどうかを評価した。
【0078】
以下の表4は、評価された異なる洗浄条件および溶出プールで測定されたHCPレベルを示す。
条件1は、3つのパイロットバッチに使用された標準的なプロセスの洗浄スキームを表す。
【0079】
条件2は、0.5MのCaClでの洗浄を追加し、洗浄1のリン酸塩をトリスで置き換えて、カルシウムとリン酸が接触することによる沈殿を防止する。
条件3は、平衡および洗浄1緩衝液中の1MのNaClが150mMのNaClに低減されていることを除き、条件2と同じである。
【0080】
【表4】
【0081】
条件2と条件3はどちらもCaCl洗浄を含み、その結果、1MのNaClでの洗浄と比較してPLBL2の有意な低減がもたらされる。加えて、ELISAによって測定した場合の全HCPの除去は、CaClの洗浄で適度に改善される。NaCl濃度の低減を1Mから150mMにさせた条件2と条件3との間で、特筆すべき差はなかった。
【0082】
最初の洗浄による選別の結果に基づき、3つ全てのパイロットスケールのバッチからのローディング材料を使用した認可を受けた実験スケールのカラムにおいて、CaClでの洗浄を、NaClでの洗浄と直接評価した。
【0083】
その後、各泳動からのプロテインAプールをAEXカラムで処理した。
表5にPLBL2 ELISAの結果を示し、パイロットバッチ1の結果をLC−MS/MSによっても確認した。
【0084】
【表5】
【0085】
結果から、CaClでの洗浄は一貫して、3つの全てのパイロットバッチからのローディング材料を使用して、PLBL2のレベルを10ng/mg未満に低減することが実証される。
【0086】
CaClでの洗浄のロバスト性をさらに確認するために、CaClの濃度を変更して複数の泳動を実行した。表6に結果を示し、より一層低いCaClのレベルでのPLBL2除去のロバスト性を確認する。
【0087】
【表6】
【0088】
表7に、タネズマブのプロテインAクロマトグラフィー工程に最適と見出された最終的なプロセス(表の第2の列)を要約し、標準的なプロセスからなされた最適化(第1の列)を強調する。
【0089】
【表7】
【0090】
CaClでの洗浄のPLBL2をきれいにする能力のさらなる確認として、表7で概説される最適化したプロセスを使用して、追加のパイロットスケールのバッチを泳動した。表8に結果を示し、PLBL2をPLBL2 ELISAアッセイの定量限界未満にすることが実証される。
【0091】
【表8】
【0092】
結論として、上述した実験は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー工程のための洗浄溶液におけるCaClの使用に関連するPLBL2レベルの一貫した低減を実証する。
【0093】
開示された教示を様々な適用、プロセスおよび組成物を参照しながら説明したが、本明細書に記載の教示および下記の特許請求された発明から逸脱することなく様々な変更および改変をなし得ることが理解されると予想される。前述の実施例は、開示された教示をよりよく例示するために提供され、本明細書で示された教示の範囲を限定することは意図していない。本発明の教示をこれらの例示的な実施態様に関して説明したが、当業者は、余計な実験を行うことなく、これらの例示的な実施態様の多数のバリエーションおよび改変が考えられることを容易に理解すると予想される。このような全てのバリエーションおよび改変は、本発明の教示の範囲内である。
【0094】
特許、特許出願、論文、教本など、およびそこで引用された文献を含む本明細書において引用された全ての参考文献は、まだ引用されていない範囲にわたり、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。これらに限定されないが、例えば、定義された用語、用語の用法、記載された技術などの事柄において、組み入れられた文献および類似の資料の1つまたはそれより多くが本出願と異なるかまたは矛盾する場合、本出願が優勢である。
【0095】
前述の説明および実施例は、本発明の特定の具体的な実施態様を詳述し、本発明者らによって予期される最良の形態を記載している。しかしながら、文書中に前述の内容がどれだけ詳細に記載されていても、本発明は多くの方法で実施でき、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらのあらゆる均等物に従って解釈されるものとする。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【外国語明細書】
2021008452000001.pdf