特開2021-85441(P2021-85441A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 武蔵精密工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2021085441-ボールジョイント 図000003
  • 特開2021085441-ボールジョイント 図000004
  • 特開2021085441-ボールジョイント 図000005
  • 特開2021085441-ボールジョイント 図000006
  • 特開2021085441-ボールジョイント 図000007
  • 特開2021085441-ボールジョイント 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-85441(P2021-85441A)
(43)【公開日】2021年6月3日
(54)【発明の名称】ボールジョイント
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20210507BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20210507BHJP
   F16J 15/52 20060101ALI20210507BHJP
   F16J 15/14 20060101ALI20210507BHJP
   F16J 3/04 20060101ALI20210507BHJP
【FI】
   F16C11/06 A
   F16C11/06 Q
   F16C33/78 Z
   F16J15/52 B
   F16J15/14 C
   F16J3/04 Z
   F16C11/06 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-213545(P2019-213545)
(22)【出願日】2019年11月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康弘
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
3J105
3J216
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043AA18
3J043CB13
3J043DA20
3J043FA20
3J043FB03
3J045AA10
3J045BA02
3J045CB30
3J045DA05
3J045EA03
3J105AA23
3J105AA33
3J105AB48
3J105AB49
3J105AB50
3J105AC04
3J105CA36
3J105CA40
3J105CB16
3J105CB25
3J105CC33
3J105CC45
3J105CC66
3J105CD03
3J105CE02
3J105CE03
3J105CF12
3J216AA05
3J216AA18
3J216AB02
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA05
3J216CB02
3J216CB13
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC33
3J216DA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ボールジョイントにおいて、型コスト節減とボールスタッドの引抜強度確保のために、ハウジングが、合成樹脂製の第1ハウジング部と、それよりも高剛性の材料で構成されて開口部の周壁部を構成する第2ハウジング部とを備えると共に、第1ハウジング部が、第2ハウジング部をインサート部品として射出成形され、第1,第2ハウジング部の境界部の一端が密封空間に連通し、またその他端がハウジング外面に連通した構造を採用しても、境界部の一端と他端との間が境界部で連通するのを阻止し、ハウジング外面から水が境界部を浸透してボール支持面側に侵入するのを防止する。
【解決手段】第1,第2ハウジング部H1,H2相互の境界部7の一端が密封空間に連通し、またその他端がハウジングH外面に連通するものにおいて、境界部7で前記一端と他端との間が連通するのを阻止し該境界部の少なくとも一部を液密にシールするシール手段を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド部(1s)及び該スタッド部(1s)の一端に連なるボール部(1b)を一体に有するボールスタッド(1)と、前記ボール部(1b)を回転摺動可能に抱持するボール支持面(8)、並びに前記スタッド部(1s)を貫通させる開口部(O)を有するハウジング(H)とを備え、前記開口部(O)の周辺で前記ハウジング(H)に一端部(5e)が固定された密封部材(5)により、外部より遮断され且つ前記開口部(O)を通して前記ボール支持面(8)と連通した密封空間(6)が画成され、前記ハウジング(H)は、合成樹脂製の第1ハウジング部(H1)と、この第1ハウジング部(H1)よりも高剛性の材料で構成されて少なくとも前記開口部(O)の周壁部を構成する第2ハウジング部(H2)とを備えると共に、前記第1ハウジング部(H1)が、前記第2ハウジング部(H2)をインサート部品として射出成形されており、前記第1,第2ハウジング部(H1,H2)相互の境界部(7)の一端(7i)が前記密封空間(6)に連通し、またその他端(7o)が前記ハウジング(H)の外面に連通するボールジョイントにおいて、
前記境界部(7)で前記一端(7i)と前記他端(7o)との間が連通するのを阻止するように該境界部(7)の少なくとも一部を液密にシールするシール手段(S)を備えることを特徴とする、ボールジョイント。
【請求項2】
前記シール手段は接着剤(S)であることを特徴とする、請求項1に記載のボールジョイント。
【請求項3】
前記接着剤(S)は、前記射出成形の際の溶融樹脂の溶融温度以下の温度で硬化可能な接着剤であることを特徴とする、請求項2に記載のボールジョイント。
【請求項4】
前記第2ハウジング部(H2)は、前記ボール部(1b)を囲繞する内面部(21)と、少なくとも前記射出成形の前には外部に露出する外面部(22)とを有し、前記第1ハウジング部(H1)は、前記外面部(22)の一部を覆う延伸部(10a)を有しており、前記外面部(22)には、前記射出成形の後に前記延伸部(10a)で覆われる部位の少なくとも一部(24e,24o,23)に前記接着剤(S)が塗布されていることを特徴とする、請求項2又は3に記載のボールジョイント。
【請求項5】
前記第1ハウジング部(H1)は、前記ボール部(1b)を囲繞する第1筒状部(10)を有し、また前記第2ハウジング部(H2)は、前記第1筒状部(10)を囲繞する第2筒状部(20)を有し、前記第1筒状部(10)は、前記第2筒状部(20)の外周に回り込むことで該外周の一部を全周に亘り囲繞する延伸部(10a)を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のボールジョイント。
【請求項6】
前記第1ハウジング部(H1)は、前記ボール部(1b)をベアリングシート(30)を介して回転摺動可能に抱持する第1筒状部(10)を有し、また前記第2ハウジング部(H2)は、前記第1筒状部(10)を囲繞する第2筒状部(20)を有し、前記ベアリングシート(30)は、前記第1筒状部(10)の一部を貫通して前記第2筒状部(20)に係止させる爪部(30t)を前記一端(7i)と前記シール手段(S)の間に有していて、前記係止により該ベアリングシート(30)が前記第2ハウジング部(H2)に位置決めされることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールジョイント、特にスタッド部及びそのスタッド部の一端に連なるボール部を一体に有するボールスタッドと、ボール部を回転摺動可能に抱持するボール支持面、並びにスタッド部を貫通させる開口部を内面に有するハウジングとを備え、前記開口部の周辺でハウジングに一端部が固定された密封部材により、外部より遮断され且つ前記開口部を通してボール支持面と連通した密封空間が画成されるボールジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のボールジョイントにおいて、上記したハウジングが、合成樹脂製の第1ハウジング部と、この第1ハウジング部よりも高剛性の金属材料で構成されて少なくとも上記開口部の周壁部を構成する第2ハウジング部とを備えると共に、第1ハウジング部が、第2ハウジング部をインサート部品として射出成形されるものは、従来より知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
このような複合的なハウジング構造は、開口部の周壁部を高剛性の第2ハウジング部で構成することで、ボールスタッドに対する十分な引抜強度を確保可能となり、また、例えばハウジングのボール部を抱持する部分を合成樹脂の射出成形で構成することで、ハウジングのボール支持面とボール部との接触面圧を容易に適正値に設定可能となる等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−65038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来のボールジョイントにおいて、第1,第2ハウジング部相互の境界部は、その境界面に微小な隙間が存する。しかるに従来構造では、境界部の一端が上記密封空間に連通し、またその他端がハウジングの外面に連通しているため、ハウジングの外面より境界部に浸透した水が、上記密封空間を経てハウジングのボール支持面に侵入する虞れがあり、ボールジョイントの耐久性低下の要因となる虞れがある。
【0006】
尚、斯かる問題を回避するために、例えば図6に例示したように第1,第2ハウジング部相互の境界部の両端を何れも密封空間(従ってボール支持面)から遮断できるように、第1ハウジング部で第2ハウジング部の軸方向両端部を被覆することが考えられる。しかし、その場合には、ハウジングの上記開口部の周壁部も合成樹脂で成形されることとなって、金属製の第2ハウジング部が上記開口部より遠ざかる配置となるため、ボールスタッドに対する引抜強度の低下を来たし、また第1ハウジング部を、第2ハウジング部の両端部の外側に各々回り込むように成形するため、金型構造が複雑化して型コストが増大する等の別の問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、従来構造の上記問題を解決可能としたボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、スタッド部及び該スタッド部の一端に連なるボール部を一体に有するボールスタッドと、前記ボール部を回転摺動可能に抱持するボール支持面、並びに前記スタッド部を貫通させる開口部を有するハウジングとを備え、前記開口部の周辺で前記ハウジングに一端部が固定された密封部材により、外部より遮断され且つ前記開口部を通して前記ボール支持面と連通した密封空間が画成され、前記ハウジングは、合成樹脂製の第1ハウジング部と、この第1ハウジング部よりも高剛性の材料で構成されて少なくとも前記開口部の周壁部を構成する第2ハウジング部とを備えると共に、前記第1ハウジング部が、前記第2ハウジング部をインサート部品として射出成形されており、前記第1,第2ハウジング部相互の境界部の一端が前記密封空間に連通し、またその他端が前記ハウジングの外面に連通するボールジョイントにおいて、前記境界部で前記一端と前記他端との間が連通するのを阻止するように該境界部の少なくとも一部を液密にシールするシール手段を備えることを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記シール手段は接着剤であることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第2の特徴に加えて、前記接着剤は、前記射出成形の際の溶融樹脂の溶融温度以下の温度で硬化可能な接着剤であることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第2又は第3の特徴に加えて、前記第2ハウジング部は、前記ボール部を囲繞する内面部と、少なくとも前記射出成形の前には外部に露出する外面部とを有し、前記第1ハウジング部は、前記外面部の一部を覆う延伸部を有しており、前記外面部には、前記射出成形の後に前記延伸部で覆われる部位の少なくとも一部に前記接着剤が塗布されていることを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1〜第4の何れかの特徴に加えて、前記第1ハウジング部は、前記ボール部を囲繞する第1筒状部を有し、また前記第2ハウジング部は、前記第1筒状部を囲繞する第2筒状部を有し、前記第1筒状部は、前記第2筒状部の外周に回り込むことで該外周の一部を全周に亘り囲繞する延伸部を有することを第5の特徴としている。
【0013】
また本発明は、第1〜第5の何れかの特徴に加えて、前記第1ハウジング部は、前記ボール部をベアリングシートを介して回転摺動可能に抱持する第1筒状部を有し、また前記第2ハウジング部は、前記第1筒状部を囲繞する第2筒状部を有し、前記ベアリングシートは、前記第1筒状部の一部を貫通して前記第2筒状部に係止させる爪部を前記一端と前記シール手段の間に有していて、前記係止により該ベアリングシートが前記第2ハウジング部に位置決めされることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、ボールジョイントにおいて、ハウジングの、スタッド部が貫通する開口部の周壁部は、これが高剛性の第2ハウジング部で構成されることで、合成樹脂(第1ハウジング部)で覆う必要はなくなる。その結果、第1ハウジング部の射出成形用金型の構造の簡素化、延いては型コストの節減が図られ、しかもボールスタッドの引抜強度を十分に確保可能となる。その上、第1,第2ハウジング部相互の境界部の少なくとも一部を液密にシールするシール手段を備え、このシール手段により、境界部の一端と他端との間が境界部で連通するのを阻止できるので、上記開口部を通してボール支持面に通じる密封空間に境界部の一端が連通し且つその他端がハウジング外に連通するも、ハウジング外面から水が境界部を浸透してボール支持面側に侵入するのを効果的に防止可能となり、ボールジョイントの耐久性向上に寄与することができる。
【0015】
また第2の特徴によれば、シール手段は接着剤であるので、簡単容易に上記境界部をシールすることができる。
【0016】
また第3の特徴によれば、接着剤は、射出成形の際の溶融樹脂の溶融温度以下の温度で硬化可能な接着剤であるので、射出成形の際に接着剤は高温の溶融樹脂に接触すると迅速に硬化してシール効果を発揮可能となり、従って、例えば揮発性接着剤を用いた場合のように揮発・硬化を促進するための特別な工程が不要となり、コスト節減及び作業効率アップに寄与することができる。
【0017】
また第4の特徴によれば、第2ハウジング部は、ボール部を囲繞する内面部と、少なくとも射出成形の前には外部に露出する外面部とを有し、第1ハウジング部は、第2ハウジング部の上記外面部の一部を覆う延伸部を有し、該外面部には、射出成形の後に延伸部で覆われる部位の少なくとも一部に接着剤が塗布されているので、第2ハウジング部の、射出成形前に外部に露出し且つ塗布作業が容易な特定の外面部に接着剤を塗布することができ、塗布作業の効率アップに寄与することができる。
【0018】
また第5の特徴によれば、第1ハウジング部は、ボール部を囲繞する第1筒状部を有し、また第2ハウジング部は、第1筒状部を囲繞する第2筒状部を有し、第1筒状部は、第2筒状部の外周に回り込むことで、その外周の一部を全周に亘り囲繞する延伸部を有するので、その延伸部を第2ハウジング部の第2筒状部外周に回り込ませたことで、それだけシール効果を高めることができる。
【0019】
また第6の特徴によれば、第1ハウジング部は、ボール部をベアリングシートを介して回転摺動可能に抱持する第1筒状部を有し、また第2ハウジング部は、第1筒状部を囲繞する第2筒状部を有し、ベアリングシートは、第1筒状部の一部を貫通して第2筒状部に係止させる爪部を一端とシール手段の間に有していて、その係止によりベアリングシートが第2ハウジング部に位置決めされるので、高剛性の第2ハウジング部(第2筒状部)を利用してベアリングシートの位置ずれを効果的に防止可能となる。またベアリングシートの爪部が第1ハウジング部(第1筒状部)を貫通することで、その貫通部が上記境界部に連通するが、境界部は前述のようにシール手段でシールされているため、上記貫通部を経てボール支持面側に水が侵入する虞れはない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係るボールジョイントの全体縦断面図
図2図1の2矢視部拡大断面図
図3】(A)は、ベアリングシートの一例を単独で示す斜視図、(B)は、縦断面図(即ち図3(A)の3B−3B断面図)
図4】第2ハウジング部等をインサート部品として第1ハウジング部を射出成形する工程を説明する概略工程図
図5】第2実施形態に係るボールジョイントの要部拡大断面図(図2対応図)
図6】比較例を示すボールジョイントの要部縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を、添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0022】
先ず、図1図3を参照して、第1実施形態を説明する。
【0023】
ボールジョイントBJは、例えば自動車の懸架装置や操向装置の構成要素相互間を首振り自在に結合するのに使用されるものであって、それは、スタッド部1s及びスタッド部1sの一端に連なるボール部1bを一体に有するボールスタッド1と、そのボールスタッド1が首振り可能に支持されるようボール部1bを回転摺動可能に抱持するボール支持面8を内面に設けたハウジングHとを備える。 ボールスタッド1において、ボール部1bの外面、即ち球面の中心Cは、スタッド部1sの軸線Xの延長線上に位置する。
【0024】
ハウジングHは、ボールスタッド1の上記軸線Xに沿う方向で一端部に開口部Oを有し且つその他端部が閉塞された有底筒状体(即ち、後述する取付ブラケット部28以外の部分)を主要部としている。そして、ボールスタッド1は、これのスタッド部1sが開口部Oを通してハウジングH外に延出していて、中心C回りに所定の首振り角範囲を首振り可能となっている。
【0025】
開口部Oの周辺でハウジングHの一端部外周には、密封部材としての防水ブーツ5の一端部5eの内周部が密着状態で嵌合、固定される。この防水ブーツ5は、弾性材(例えば防水性ゴム材等)で概ね円筒状に形成されており、これの他端部5e′の内周部がスタッド部1sの中間部外周に密着状態で嵌合、固定される。かくして、この防水ブーツ5の内方側には、外部より密閉、遮断され且つ開口部Oを通してボール支持面8と連通した密封空間6が画成される。
【0026】
ハウジングHは、合成樹脂製の第1ハウジング部H1と、この第1ハウジング部H1よりも高剛性の材料で構成されてハウジングHの少なくとも外周壁、及び開口部Oの周壁を構成する第2ハウジング部H2とを備える。そして、第1ハウジング部H1は、第2ハウジング部H2等をインサート部品として射出成形されている。第2ハウジング部H2は、例えば金属(例えば鉄系合金、アルミ系合金等)を鋳造、鍛造、押出し、プレス加工等により所定形状に形成される。
【0027】
第1ハウジング部H1は、ボール部1bをベアリングシート30を介して回転摺動可能に囲繞、抱持する第1筒状部10と、第1筒状部10の、前記開口部Oとは反対側の端部を閉塞する底壁部11とを有して概ね有底円筒状に形成される。その底壁部11は、第2ハウジング部H2で覆われることなく外部に露出していて、そのままハウジングHの底壁として機能する。
【0028】
ベアリングシート30は、ボール部1bに対する滑り性及び耐摩耗性が高い材料(例えば合成樹脂材)で構成され、開口部Oに臨む部分が欠如した中空球体状に成形されており、特に底部(即ち開口部Oとは反対側の端部)は、補強のために比較的厚肉に形成される。またベアリングシート30の概ね球面状をなす外面は、第1ハウジング部H1の第1筒状部10及び底壁部11の各内面に接合される。またベアリングシート30の内面には、潤滑油を保持し得る複数条の浅い油溝30hが凹設される。
【0029】
更にベアリングシート30は、これをボール部1b外面に被着する際に、シート胴部の拡径方向への弾性変形を許容するための1条のスリット30sを有する。このスリット30sの一端は、ベアリングシート30の、開口部O側の端面に開口する。
【0030】
而して、ベアリングシート30の概ね球面状をなす内面30iと、第1筒状部10の、開口部O近傍の内周面10ioとが面一に連続して、前述のボール支持面8を構成している。
【0031】
また、第2ハウジング部H2は、第1ハウジング部H1(より具体的には第1筒状部10)の外周面を囲繞し且つ軸方向両端が開放された概ね円筒状の第2筒状部20と、第2筒状部20の外面部22の一側に一体に突設される取付ブラケット部28とを備える。第2筒状部20の内面部21は、ボール部1bをベアリングシート30及び第1筒状部10を介して囲繞、支持する。
【0032】
上記取付ブラケット部28には、不図示のアーム部材(例えばナックルアーム、サスペンションアーム等)が結合(例えばボルト止め)される。尚、取付ブラケット部28を省略して上記アーム部材を第2筒状部20の外周壁と一体に形成してもよい。
【0033】
第2筒状部20は、これの軸方向一端部が上記開口部Oの周壁を構成しており、更に該開口部Oよりも軸方向内方寄りの第2筒状部20の内面部には、軸方向内向きの環状段部25が形成される。一方、この環状段部25に係止可能な複数の爪部30tが、ベアリングシート30の、開口部O側の開口端部に周方向に間隔をおいて突設される。この場合、爪部30tは、第1ハウジング部H1(特に第1筒状部10)の、開口部O近傍の一部を貫通して環状段部25に直接係止される。
【0034】
第2ハウジング部H2、ボールスタッド1及びベアリングシート30は、第1ハウジング部H1を射出成形する前に予め別々に製作され、且つこれらをインサート部品として、第1ハウジング部H1成形用の金型(後述する第1,第2金型C1,C2)内にセットされる。このインサート部品のセット状態で、ベアリングシート30は、これの爪部30tが第2筒状部20の環状段部25に係止することで、第2ハウジング部H2内で外力(例えば射出成形圧等)に因りずれ動くことが確実に防止可能である。
【0035】
ところで第1ハウジング部H1は、第1筒状部10及び底壁部11の接続部付近から径方向外方側に延伸する延伸部10aを一体に有する。一方、第2ハウジング部H2は、第2筒状部20の、開口部Oとは反対側の端面23に、軸方向外方に張出す環状突部24が一体に突設される。そして、上記延伸部10aは、環状突部24の先端面24eに密着し更に環状突部24の外周面24oに密着状態で回り込む。かくして、延伸部10aは、環状突部24の外周面24oを全周に亘り囲繞する。しかも延伸部10aの先端は、本実施形態では第2筒状部20の上記端面23に密着する。
【0036】
以上説明した第1,第2ハウジング部H1,H2は、相互の境界部7の一端即ち内端7iがハウジングHの開口部O(従って密封空間6)に連通しており、またその他端即ち外端7oがハウジングHの、開口部Oとは反対側の端部外周面に連通している。
【0037】
ところが第1,第2ハウジング部H1,H2相互の境界部7は、その境界面に微小な隙間が存するため、例えば特許文献1のボールジョイントのように境界部7をシールする手段が設けられない従来構造では、外部からの侵入水が境界部7を浸透して内端7iに達し、そこから密封空間6、開口部Oを経てボール支持面8に侵入する虞れがある。
【0038】
そこで本実施形態では、境界部7で内端7iと外端7oとの間が連通するのを確実に阻止するように境界部7の少なくとも一部をシールするシール手段Sが設けられる。
【0039】
特にそのシール手段として、本実施形態では第2ハウジング部H2の、第1ハウジング部H1との境界面となる部位に塗布可能な接着剤Sが採用される。この場合、接着剤Sとしては、第1ハウジング部H1の射出成形の際の溶融樹脂の溶融温度以下の低温で迅速に硬化可能な熱硬化型接着剤(例えば、ウレタンプレポリマー)、又は、常温で空気と反応して硬化する常温硬化型接着剤(例えば、シリコーン)を用いることが望ましい。ここで重要な点は、第1ハウジング部H1を射出成形してから接着剤が硬化するまでに特別な処理、工程(例えば硬化促進のための処理、工程)を必要としない接着剤を選定することである。
【0040】
また本実施形態において、接着剤Sの塗布面は、第2ハウジング部H2の外面部、即ち第1ハウジング部H1の射出成形前には外部に露出する外面部22の特定部位(具体的には、射出成形後は第1ハウジング部H1の前記延伸部10aで覆われる部位の少なくとも一部)に設定される。上記特定部位として、本実施形態では環状突部24の先端面24e及び外周面24o、並びに第2筒状部20の端面23の一部(即ち端面23の延伸部10a先端との接触部位)が選定され、それら部位の全部に対し接着剤Sが射出成形前に塗布される。
【0041】
次に第1実施形態の作用を、図4も併せて参照して説明する。ボールジョイントBJの製造に当たっては、先ず、第2ハウジング部H2、ボールスタッド1及びベアリングシート30を別々に製作しておく。
【0042】
次いで、第2ハウジング部H2の外面部22の前記特定部位(24e,24o,23)に全周に亘ってシール用の接着剤Sを塗布する。その後、図4(a)に示すように第1金型C1に第2ハウジング部H2を、開口部Oが第1金型C1の開口部対応突起部C1aで塞がれるようにしてセットする。尚、上記した接着剤Sの塗布作業と、第2ハウジング部H2の第1金型C1へのセット作業とは、実行順序を上記とは逆にしてもよい。
【0043】
次いで、図4(b)に示すように、ベアリングシート30をボール部1b外面に予め被着したボールスタッド1を、スタッド部1sを先にして第2ハウジング部H2内に挿入する。その挿入終了位置は、図4(b)鎖線及び図4(c)実線でも明らかなように、ベアリングシート30の爪部30tが第2ハウジング部H2(具体的には第2筒状部20の内周部21)の環状段部25に係合することで規定される。
【0044】
しかる後、図4(c)に示す如く、第2ハウジング部H2を第1金型C1との間で挟むようにして第2金型C2をセットする。これにより、第1,第2金型C1,C2と第2ハウジング部H2とベアリングシート30との相互間に、第1ハウジング部H1成形用のキャビティ50が画成される。
【0045】
そして、図4(d)に示すようにキャビティ50に溶融状態の加圧溶融樹脂を射出することにより、第1ハウジング部H1が射出成形(即ちインサート成形)され、それと共に接着剤Sは熱硬化して境界部7に対するシール手段となる。また、爪部30tが環状段部25に係合しているため、溶融状態の加圧溶融樹脂を射出したとき、ベアリングシート30が溶融樹脂の流動に引き擦られ、ボール部1bの中心O回りに回動してボールスタッド1に対する正規の取付姿勢からずれ動いてしまうのを効果的に防止することができる。
【0046】
かくして、第1,第2ハウジング部H1,H2の複合体よりなるハウジングHが製造される。尚、ハウジングHを第1,第2金型C1,C2から離型した後、第1ハウジング部H1の底壁部に残る湯道対応部分は、機械加工で切除される。
【0047】
而して、図4(d)の如く、ベアリングシート30付きのボールスタッド1や第2ハウジング部H2をインサート部品として金型C1,C2内にセットした状態で、第1ハウジング部H1を射出成形することで、第1ハウジング部H1(従ってベアリングシート30)のボール部1bに対する接触面圧(従って摺動トルク)を適度な大きさに容易に設定可能となる。
【0048】
以上のようにして製造されたハウジングHは、第1,第2ハウジング部H1,H2相互の境界部7の一部(即ち外端7o乃至これに連続する特定中間部)を全周に亘って液密にシールするシール手段(即ち硬化した接着剤S)を備え、このシール手段により、境界部7の内端7iと外端7oとの間が境界部7で連通するのを阻止可能である。これにより、ボール支持面8に通じる防水ブーツ5内の密封空間6に境界部7の内端7iが連通し且つその外端7oがハウジングH外に連通していても、ハウジングH外面から水が境界部7を浸透してボール支持面8側に侵入するのを効果的に防止可能となり、ボールジョイントBJの耐久性向上が図られる。
【0049】
また本実施形態では、上記シール手段が、シール対象部位に塗布可能な接着剤Sであるため、簡単容易に上記境界部7をシール可能である。
【0050】
この場合、特に接着剤Sを本実施形態のように溶融樹脂の溶融温度以下の温度で硬化可能な熱硬化型接着剤とすれば、これが射出成形の際に高温の溶融樹脂に接触すると、その樹脂の熱で直ちに(従って塗布部位から流出する間もなく)硬化して、塗布部位でシール効果を発揮可能となる。あるいは、常温で空気と反応して硬化する常温硬化型接着剤を用いれば、接着剤の塗布後に間を置かずに第1ハウジング部H1を射出成形した場合でも、境界部7の外端7o付近では接着剤が空気と触れることで硬化して、塗布部位でシール効果を発揮可能となる。これにより、例えば揮発性接着剤を用いた場合のように揮発・硬化を促進するための特別な工程は不要となる。以上の結果、コスト節減及び作業効率アップが図られる。
【0051】
その上、本実施形態では、接着剤Sの塗布工程は、第2ハウジング部H2の外面部22の特定部位(即ち、射出成形前には外部に露出するが射出成形後は第1ハウジング部H1の延伸部10aで覆われる部位)の少なくとも一部(本実施形態では全部、即ち前記環状突部24の先端面24e及び外周面24o、並びに第2筒状部20の端面23の一部)を塗布対象として塗布作業が行われるため、第2ハウジング部H2の、外部に広く露出して塗布作業容易な外面部22の特定部位に接着剤Sを頗る容易に塗布可能となる。
【0052】
更に本実施形態の第2ハウジング部H2は、第1ハウジング部H1の第1筒状部10を囲繞する第2筒状部20を有し、第1筒状部10は、第2筒状部20の外周(より具体的には環状突部24の外周面24o)側に回り込むことで、その外周の一部を全周に亘り囲繞する延伸部10aを有している。このように延伸部10aを第2筒状部20外周に特別に回り込ませたことで、それだけ境界部7の領域が長く延ばされ、接着剤Sによるシール効果を効果的に高めることができる。
【0053】
しかも延伸部10aは、これを第2筒状部20外周に回り込ませることで環状突起24の外周面24oを取り囲むような円筒形状となることから、第1ハウジングH1の溶融樹脂が冷えて収縮する際に、延伸部10aの円筒形状部分が縮径するように収縮する。そのため、延伸部10aと外周面24oがより緊密に密着し、境界部7に対するシール効果が更に高められる利点がある。
【0054】
更にまた本実施形態のベアリングシート30は、第1筒状部10の一部を貫通して第2筒状部20に係止させる爪部30tを有していて、その係止によりベアリングシート30が第2ハウジング部H2に位置決めされる。これにより、第1ハウジング部H1の射出成形過程等において、高剛性の第2ハウジング部H2(第2筒状部20)を利用してベアリングシート30を定位置に確実に位置決め、保持することができる。またベアリングシート30の爪部30tが第1ハウジング部H1(第1筒状部10)を貫通することで、その貫通部10pが上記境界部7に連通するが、境界部7は前述のように接着剤S(シール手段)でシールされているため、爪部30tを内端7iと接着剤Sの間に配置することで貫通部10pまで水が浸透することはなく、従って、貫通部10pを経てボール支持面8側に水が侵入する虞れはない。
【0055】
次に図5を参照して、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、第2ハウジング部H2(第2筒状部20)の外面部22の一部、特に環状突部24の外周面24oが円筒面であるものを示したが、第2実施形態では、環状突部24の外周面24oが縦断面波形の湾曲面としている。
【0056】
このように第2実施形態では、環状突部24の、湾曲面よりなる外周面24oと、これの外周側に回り込む第1ハウジング部H1の延伸部10aとの境界部7も同様に湾曲することで、境界部7は、それの経路が延びる効果ばかりか、境界面が湾曲することによるラビリンス効果も生じて、境界部7に対するシール効果が更に高められる利点がある。
【0057】
第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と同様であるので、第2実施形態の構成要素に、これと対応する第1実施形態の構成要素と同じ参照符号を付すにとどめ、それ以上の構造説明は省略する。
【0058】
而して、第2実施形態でも、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を達成することができる。
【0059】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はそれに限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0060】
例えば、前記実施形態では、第2ハウジング部H2の外面部22の特定部位(即ち、射出成形前には外部に露出するが射出成形後は第1ハウジング部H1の、第2筒状部20外周側に回り込むよう延びる延伸部10aで覆われる部位)の少なくとも一部(24e,24o,23)に接着剤Sを塗布して、境界部7の内端7i及び外端7o間の連通を確実に阻止するものを示したが、シール手段として接着剤Sを用いることに代えて、境界部7の少なくとも一部にコーキング剤を充填したり、或いはOリングなどのシール部品を境界部7に介装したりすることで、境界部7の内端7i及び外端7o間の連通を阻止するよう境界部7の少なくとも一部をシールしてもよい。そして、この場合は、上記コーキング剤やシール部品が本発明のシール手段となる。或いはまた、上記接着剤Sと、上記コーキング剤又はシール部品とをシール手段として併用してもよい。
【0061】
また前記実施形態では、第1,第2ハウジング部H1,H2の境界部7の一部(より具体的には外端7o及びそれに連続する特定中間部)に本発明のシール手段(接着剤S等)を設けたものを示したが、その境界部7の他の一部、或いは全部に本発明のシール手段(接着剤S等)を設けてよい。
【0062】
また前記実施形態では、ボール部1bをベアリングシート30を介して第1ハウジング部H1の内面部21に回転摺動可能に抱持したものを示したが、ベアリングシート30を省略してボール部1bを第1ハウジング部H1の内面部21に直接、回転摺動可能に抱持させるようにしてもよい。
【0063】
また前記実施形態では、第1ハウジング部H1の射出成形前において、爪部30tを環状段部25に係止させた係止構造で、ベアリングシート30を第2筒状部20内の正規の嵌合セット位置に確実に位置決め、保持できるようにしたものを示したが、不図示の位置決め治具を用いてベアリングシート30を第2筒状部20内の正規の嵌合セット位置に確実に位置決め、保持できれば、上記係止構造を省略してもよい。
【符号の説明】
【0064】
BJ・・・・・ボールジョイント
H・・・・・・ハウジング
H1,H2・・第1,第2ハウジング部
O・・・・・・開口部
S・・・・・・シール手段としての接着剤
1・・・・・・ボールスタッド
1b,1s・・ボール部,スタッド部
5・・・・・・密封部材としての防水ブーツ
5e・・・・・一端部
6・・・・・・密封空間
7・・・・・・第1,第2ハウジング部相互の境界部
7i,7o・・境界部の一端,他端
8・・・・・・ボール支持面
10,20・・第1,第2筒状部
10a・・・・第1ハウジング部の延伸部
21,22・・第2筒状部の内面部,外面部
24e,24o,23・・延伸部で覆われる部位の一部としての環状突部の先端面,外周面,第2筒状部の端面
30・・・・・ベアリングシート
30t・・・・爪部
図1
図2
図3
図4
図5
図6