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特開2021-8557樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-8557(P2021-8557A)
(43)【公開日】2021年1月28日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂成形体及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20201225BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20201225BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20201225BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20201225BHJP
【FI】
   C08L23/10
   C08L23/04
   C08K3/34
   C08J3/22CES
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-122649(P2019-122649)
(22)【出願日】2019年7月1日
(71)【出願人】
【識別番号】390000387
【氏名又は名称】福助工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】合田 昌史
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AB11
4F070AC22
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB04
4F070FB07
4F070FC03
4F070FC05
4J002BB032
4J002BB052
4J002BB121
4J002BB141
4J002DJ046
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】植物由来ポリエチレンを用いることで環境負荷の低減を図りつつ、石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物と同等の物性を備えた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に充填剤が配合され、前記ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有する。前記ポリエチレン系樹脂は、少なくとも高密度ポリエチレンを含有するのが好ましく、前記充填剤はタルクであるのが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に充填剤が配合され、前記ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂は、少なくとも高密度ポリエチレンを含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記充填剤がタルクである請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形体。
【請求項5】
ベース樹脂としてのポリプロピレン系樹脂と、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有する樹脂組成物の製造方法であって、前記植物由来ポリエチレンと充填剤とを混合してマスターバッチを作製し、前記マスターバッチと前記ポリプロピレン系樹脂とを混合する樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物であって、ポリエチレン系樹脂として、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンとを含有する樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、容器を成形する材料として、剛性を備えたポリプロピレンが多用されている。ポリプロピレン製容器は、一般的に加熱したポリプロピレンシートを金型で成形することで作製される。しかしながら、加熱されたポリプロピレンシートはシートの中央が垂れ下がる現象、いわゆるドローダウンが発生しやすくなり、ドローダウンが大きくなると成形不良の原因となっていた。そこで、ドローダウンを抑制するために、特許文献1に示すように、ポリプロピレンにポリエチレンを混合させる方法が知られている。
【0003】
一方、地球温暖化を抑制する観点から、世界規模で二酸化炭素の排出量の削減が求められており、近年、石油を炭素源とするエチレン(石油由来エチレン)を含んだポリエチレン(石油由来ポリエチレン)の代替品として、植物を炭素源とするエチレン(植物由来エチレン)を含んだポリエチレン(植物由来ポリエチレン)が上市されている。
【0004】
そして、特許文献2には、バイオマス由来のポリオレフィンと、化石燃料由来のポリオレフィンとを含んでなる樹脂組成物からなる樹脂フィルムが開示されており、植物の生育時のCO2吸収と燃焼時の排出が同一となるカーボンニュートラルなポリオレフィン樹脂フィルムを実現できる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−48419号公報
【特許文献2】特開2016−27171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のごとく、剛性容器を成形する材料として用いられる樹脂組成物(ポリプロピレンとポリエチレンとを混合した樹脂組成物)において、環境負荷の低減を目的として、石油由来低密度ポリエチレンの一部又は全部を植物由来低密度ポリエチレンに代替することも考えられる。
【0007】
しかしながら、植物由来ポリエチレンを構成するモノマーである植物由来エチレンは、植物原料を含む培養液に微生物を作用させて産生する発酵エタノールを脱水することによって製造される。このようにして得られた植物由来エチレンには極微量の不純物が含まれることから、これをモノマーとして重合してなる植物由来ポリエチレンは、同じグレードであっても石油由来ポリエチレンと同等の物性とするのが難しいことが知られている(特許文献2段落0033参照)。
【0008】
ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とはもともと相溶性が低い。従って、物性のバランスを考慮しつつ石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物において、石油由来ポリエチレンを植物由来ポリエチレンに代替した場合、樹脂組成物の物性が変化することで、石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物と同様の物性を備えた成形体を得ることが困難であった。さらに、樹脂組成物の物性が変化することで、石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物から成形体を製造する製造設備をそのまま使用することが困難になるという問題が生じていた。なお、物性を同じとするために、樹脂のグレードや使用量を変更することも考えられるが、それによって成形体の収縮率や剛性が変化するおそれが生じていた。
【0009】
そこで、本発明においては、植物由来ポリエチレンを用いることで環境負荷の低減を図りつつ、石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物と同等の物性を備えた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様としての樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、ポリエチレン系樹脂を含有する樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に充填剤が配合され、前記ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有する。
【0011】
前記ポリエチレン系樹脂は、少なくとも高密度ポリエチレンを含有してもよい。また、前記充填剤はタルクであってもよい。前記樹脂組成物は、成形して樹脂成形体としてもよい。
【0012】
ベース樹脂としてのポリプロピレン系樹脂と、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有する樹脂組成物の製造方法として、前記植物由来ポリエチレンと充填剤とを混合してマスターバッチを作製し、前記マスターバッチと前記ポリプロピレン系樹脂とを混合する樹脂組成物の製造方法を採用してもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記態様によれば、ポリプロピレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを含有する樹脂組成物において、充填剤を配合したことで、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の相溶性が向上するとともに、充填剤が石油由来ポリエチレンと植物由来ポリエチレンの物性の変化を緩和する。これにより、環境負荷の低減を図りつつ、石油由来ポリエチレンを配合した樹脂組成物と同等の物性を備えた樹脂組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂をベース樹脂とし、ポリエチレン系樹脂を含有するものであって、充填剤が配合され、前記ポリエチレン系樹脂は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来ポリエチレンを含有する。
【0015】
ここで、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマーを挙げることができる。ポリプロピレンコポリマーとしては、ポリプロピレンランダムコポリマー及びポリプロピレンブロックコポリマーを挙げることができる。ポリプロピレンコポリマーにおいて、エチレンと共重合させるモノマーとしては、エチレンおよび/または4〜12個のC原子のα−オレフィンであってもよい。
【0016】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体のほか、エチレンとα−オレフィンとを共重合させた共重合体を用いることができる。α−オレフィンは、炭素数は特に限定されないが、ブテン、ヘキセン、又はオクテンであることが好ましい。具体的に、ポリエチレン系樹脂は、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を挙げることができる。ポリエチレン系樹脂は、1種又は2種以上をブレンドして用いることができるが、剛性が良好であるという点で、少なくともHDPEを含有するのが好ましい。
【0017】
ポリエチレン系樹脂としては、石油由来ポリエチレンの少なくとも一部は植物由来ポリエチレンとされる。モノマーの一部を植物由来エチレンとすることによっても環境負荷を低減することができる。
【0018】
植物由来ポリエチレン樹脂中の全炭素量に対する植物由来の炭素の割合は、バイオマス
度と呼ばれ、ポリエチレン樹脂中に含まれる14Cの濃度を測定することによって求めることができる。すなわち、大気中には一定割合の14Cが含まれる一方、石油由来の樹脂の炭素には14Cが含まれていない。
【0019】
したがって、ポリエチレン系樹脂中に含まれる14Cの濃度を測定することでバイオマス度を求めることができる。具体的に、ポリエチレン系樹脂中の炭素が全て石油由来である場合にはバイオマス度は0%となり、ポリエチレン系樹脂中の炭素が全て植物由来である場合にはバイオマス度は100%となる。
【0020】
充填剤としては、ポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂に対して分散性が良好であればよい。容器の耐熱性が良好であるという観点からタルク等の無機充填剤を用いるのが好ましい。樹脂組成物全体に対する充填剤の配合量としては、10質量%〜60質量%が好ましく、20質量%〜40質量%とするのがより好ましい。
【0021】
上記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般的に用いられている充填剤、着色剤、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤などの安定剤、染料、顔料などの着色剤、スリップ剤およびアンチブロック剤などの添加剤を配合することができる。本発明の樹脂組成物は、そのまま単層でシート状に成形することもできるが、本発明の樹脂組成物と他の樹脂組成物とが複数層が積層した積層構造とすることも可能である。
【0022】
上記構成の樹脂組成物を調製する方法としては、前記植物由来ポリエチレンと充填剤とを混合してマスターバッチを作製し、前記マスターバッチと前記ポリプロピレン系樹脂とを混合すればよい。これにより、石油由来ポリエチレンと、代替する植物由来ポリエチレンとで樹脂の物性に差異があったとしても、それぞれの樹脂と充填剤とを混合してマスターバッチ作製した後は、ポリエチレンの物性の差異の影響はほとんどなくなる。よって、石油由来ポリエチレンを植物由来ポリエチレンに代替しても製造設備を変更する必要がない。
【実施例】
【0023】
本実施例では、石油由来ポリエチレンと充填剤とを混合したマスターバッチと、植物由来ポリエチレンと充填剤とを混合したマスターバッチとをそれぞれ作製し、両マスターバッチの物性を評価した。そして、各マスターバッチとポリプロピレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を調製し、加工性について評価した。以下、その詳細について記す。
【0024】
[マスターバッチ(MB)の調製]
表1に示すように、ポリエチレン(PE)系樹脂として、石油由来PE又は植物由来PEを用い、充填剤としてタルクフィラーを用いて3種類のMB(MB1〜MB3)を調製した。具体的には、MB1〜MB3について、表1に示す混練条件にて、PE系樹脂及びタルクを混練機に導入し混練した。得られたMBは、MFR(JIS K7210に準拠)及び見掛比重を測定した(表1参照)。なお、MBの調製に使用した材料は以下のとおりである。
・石油由来PE:プライムポリマー社製HDPE(3300F)
・植物由来PE:ブラスケム社製HDPE(SHE150)
・タルクフィラー:竹原化学社製タルクフィラー
【0025】
【表1】
【0026】
[樹脂組成物の調製]
表2に示すように、MB1〜MB3のうちいずれかのMBと、ポリプロピレン(PP)とを押出機に供給して3種類の樹脂組成物(No.1〜3)を調製した。No.1〜No.3については、樹脂組成物を押出機で混練した後、Tダイによりシート状に押出成形した際の混練条件を併記した。なお、樹脂組成物の調製に使用したPPは、サンアロマー社製PPホモポリマー(品番:PS201A)とした。
【0027】
【表2】
【0028】
[樹脂成形体の加工性評価]
(1)積層樹脂シートの成形性
表2のNo.1〜3の樹脂組成物を中間層とし、外層及び内層に上記PPホモポリマー(PS201A)単体を用い、これらを共押出機にて積層シートとして押し出した。外層及び内層の厚みは0.010mmとし、中間層の厚みは0.330mmとした。共押出機にて押し出した積層樹脂シートのシート成形性について評価した。結果を表2に記す。なお、評価基準は以下のとおりである。
〇:シート表面が平滑である。
△:シート表面にムラ(模様)が存在する。
×:シートに凹凸が生じる。
【0029】
(2)積層樹脂シートの容器成形性
積層樹脂シートを加熱し、金型を用いて容器形状に成形したときの容器の成形性について評価を実施した。結果を表2に記す。なお、評価基準は以下のとおりである。
〇:問題なく成形可能かつ割れの発生なし。
×:積層樹脂シートに割れ発生。
【0030】
[評価結果]
表1より、PE系樹脂として石油由来ポリエチレンを用いたMB1に比べて植物由来ポリエチレンを用いたMB3は粘度が高く、フィードネックを回避するためには混練機の回転数をMB1のときの1.2倍にする必要があった。すなわち、石油由来PEと植物由来PEとは同じグレードでも物性が異なり、混練機の混練条件を調整する必要があることがわかる。
【0031】
一方、表2より、樹脂組成物の調製工程においては、PPに物性の異なるMBを混合する場合であっても、押出機の混練条件は同じ条件(No.1およびNo.3の混練条件を参照)で混練及びシート成形することが可能であることがわかる。また、シート成形性及び容器成形性についても石油由来PEを用いた場合と、植物由来PEを用いた場合とで同等であることがわかる。
【0032】
上述のごとく、石油由来PEを植物由来PEに代替する場合、MB調製工程における混練条件は変動するものの、出来上がったMBをPPに混合するときは、石油由来PEを用いたMBも植物由来PEを用いたMBも同じ条件にて混練及びシート成形が可能になるため、従来の製造設備をそのまま使用することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。