【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的イノベーション創造プログラム」事業の研究領域「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」における、研究課題「先端的構造材料・プロセスに対応した逆問題MI基盤の構築」に関する研究題目「光学顕微鏡によるマクロ3次元組織観察ならびに3次元画像解析」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【解決手段】測定対象部材の表面を平坦に切削する工程と、切削された前記表面を撮像する工程と、撮像された前記表面の複数点に対して、硬さ試験用の圧子を押し込む工程と、を繰り返す三次元硬さ分布測定方法である。切削する工程において、前記表面の切削深さを予め定められた一定量に制御すると共に、押し込む工程において、前記複数点における前記圧子の押し込み深さを予め定められた一定量に制御する。
押し込む工程において、押し込むために前記圧子を降下させる際の荷重値のサンプリング周波数よりも、押し込んだ後に前記圧子を上昇させる際の荷重値のサンプリング周波数を大きくする、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の三次元硬さ分布測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、種々の検討を行った結果、同一の硬さを示す材料の硬さ測定において、圧子の押し込み深さを変化させると、得られる硬さの値も変化することを見出した。すなわち、圧子の押し込み深さがばらつくと、各場所で測定した硬さの差異を精度良く比較できないことを見出した。
【0005】
また、通常の硬さ試験では、測定対象部材の表面を鏡面研磨する際に、表面において硬い部位は浅く研磨され、軟らかい部位は深く研磨される。すなわち、測定対象部材の表面に硬さに応じた凹凸が生じるため、圧子の降下量を一定とし、圧子の押し込み深さが一定になるように制御しても、実際の圧子の押し込み深さにばらつきが生じてしまう。さらに、測定対象の上下表面の平行度が低いと、硬さ試験装置に配置した際、表面が傾き、場所によって表面高さが異なることから、圧子の押し込み深さが一定にならず、押し込み深さにばらつきが生じてしまう。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、より測定精度に優れた三次元硬さ分布測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る三次元硬さ分布測定方法は、
測定対象部材の表面を平坦に切削する工程と、
切削された前記表面を撮像する工程と、
撮像された前記表面の複数点に対して、硬さ試験用の圧子を押し込む工程と、を繰り返す三次元硬さ分布測定方法であって、
切削する工程において、前記表面の切削深さを予め定められた一定量に制御すると共に、
押し込む工程において、前記複数点における前記圧子の押し込み深さを予め定められた一定量に制御する。
【0008】
本発明の一態様に係る三次元硬さ分布測定方法では、切削する工程において、測定対象部材の表面の切削深さを予め定められた一定量に制御することで、硬さ測定部に取り付けられた圧子と測定対象部材の切削面の高さ関係が、予め定められた一定量になるように測定対象部材の表面を平坦に切削できる。そのため、複数点における圧子の押し込み深さを予め定められた一定量に制御でき、硬さを精度良く測定できる。
【0009】
前記切削深さを、前記押し込み深さよりも大きくし、前記押し込み深さを、切削する工程において前記表面に形成される加工変性層の深さよりも大きくしてもよい。硬さをより精度良く測定できる。
【0010】
押し込む工程の後、次に切削する工程よりも前に、前記圧子によって圧痕が形成された前記表面を再度撮像する工程をさらに備えていてもよい。圧痕の寸法に基づく硬さを測定することができる。
【0011】
再度撮像する工程において、切削されたままの前記表面の組織を撮像してもよい。あるいは、切削する工程の後、再度撮像する工程よりも前に、前記表面をエッチング又は染色し、再度撮像する工程において、エッチング又は染色された前記表面の組織を撮像してもよい。組織と硬さ分布との関係を知ることができる。
【0012】
撮像する工程において取得した圧痕形成前の前記表面の画像と、再度撮像する工程において取得した圧痕形成後の前記表面の画像との差分を求める画像処理を行い、画像処理された画像における圧痕の寸法に基づいて、硬さを測定してもよい。圧痕が強調され圧痕の寸法に基づく硬さを効率的に精度良く測定することができる。
あるいは、押し込む工程における前記圧子の最大荷重値に基づいて、硬さを測定してもよい。簡易に硬さを測定できる。
【0013】
押し込む工程において、前記圧子が前記表面に接触したことを検出することによって、前記押し込み深さを一定量に制御してもよい。
【0014】
押し込む工程において、押し込むために前記圧子を降下させる速度よりも、押し込んだ後に前記圧子を上昇させる速度を小さくしてもよい。あるいは、押し込むために前記圧子を降下させる際の荷重値のサンプリング周波数よりも、押し込んだ後に前記圧子を上昇させる際の荷重値のサンプリング周波数を大きくしてもよい。硬さをより精度良く測定できる。
【0015】
本発明の一態様に係る三次元硬さ分布測定システムは、
測定対象部材の表面を平坦に切削する切削部と、
前記切削部によって切削された前記表面を撮像する観察部と、
前記観察部によって撮像された前記表面の複数点に対して、硬さ試験用の圧子を押し込む硬さ測定部と、
少なくとも前記切削部及び前記硬さ測定部を制御する制御部と、を備え、
前記切削部による切削と、前記観察部による撮像と、前記硬さ測定部による硬さ測定とを繰り返す、三次元硬さ分布測定システムであって、
前記制御部は、
前記切削部による前記表面の切削深さを予め定められた一定量に制御すると共に、
前記硬さ測定部による前記複数点における前記圧子の押し込み深さを予め定められた一定量に制御する。
【0016】
本発明の一態様に係る三次元硬さ分布測定システムでは、切削部による測定対象部材の表面の切削深さを予め定められた一定量に制御することで、硬さ測定部に取り付けられた圧子と測定対象部材の切削面の高さ関係が、予め定められた一定量になるように測定対象部材の表面を平坦に切削できる。そのため、硬さ測定部による複数点における圧子の押し込み深さを予め定められた一定量に制御でき、硬さを精度良く測定できる。
【0017】
前記切削深さを、前記押し込み深さよりも大きくし、前記押し込み深さを、切削する工程において前記表面に形成される加工変性層の深さよりも大きくしてもよい。硬さをより精度良く測定できる。
【0018】
前記制御部は、前記観察部が取得した圧痕形成前の前記表面の画像と、圧痕形成後の前記表面の画像との差分を求める画像処理を行い、画像処理された画像における圧痕の寸法に基づいて、硬さを測定してもよい。圧痕が強調され圧痕の寸法に基づく硬さを効率的に精度良く測定することができる。
あるいは、押し込む工程における前記圧子の最大荷重値に基づいて、硬さを測定してもよい。簡易に硬さを測定できる。
【0019】
押し込む工程において、前記圧子が前記表面に接触したことを検出することによって、前記押し込み深さを一定量に制御してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より測定精度に優れた三次元硬さ分布測定方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1を参照して、第1の実施形態に係る三次元硬さ分布測定システム及び方法について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る三次元硬さ分布測定システム及び方法を示す模式的な側面図である。なお、以下では微小硬さ測定について説明するが、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システム及び方法は、マクロ的な硬さ測定にも、ナノインデンテーション法による硬さ測定にも適用可能である。
【0024】
図1に示すように、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システムは、精密切削部10、組織観察部20、微小硬さ測定部30、サンプルステージ40、及び制御部50を備えている。
なお、当然のことながら、
図1に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正向きが鉛直上向き、xy平面が水平面である。
【0025】
まず、このシステムを用いた三次元硬さ分布測定方法の概要について説明する。
当該三次元硬さ分布測定方法では、精密切削部10によってサンプルSMPの表面を切削する工程、その表面を組織観察部20によって撮像する工程、その表面の複数箇所における微小硬さを微小硬さ測定部30によって測定する工程を繰り返す。すなわち、新たな切削面における二次元微小硬さ分布の測定を繰り返すことによって、三次元微小硬さ分布を測定する。同時に、微小硬さ分布と組織との関係も取得できる。
以下に、各構成要素について、より詳細に説明する。
【0026】
精密切削部10は、制御部50の指示に基づいて、サンプルステージ40上に固定されたサンプルSMPの表面を平坦切削する。当該表面は、鏡面状に切削することが好ましい。
図1に示した精密切削部10は、立型NC(Numerical Control)フライス加工装置である。測定対象部材であるサンプルSMPは、何ら限定されないが、例えば金属部材や生物の骨等である。
精密切削部10は、駆動源11、切削工具12、及びエアブロワ13を備えている。
【0027】
駆動源11は、制御部50の指示に基づいて、切削工具12を駆動する。駆動源11は、例えばステッピングモータ、サーボモータ、エアタービン等である。
切削工具12は、例えばフライスであって、下側(z軸負方向側)の端面に刃具12aが固定されている。刃具12aは、例えばダイヤモンドからなる。駆動源11によって切削工具12が回転し、刃具12aがサンプルSMPの表面を切削する。この際、エアブロワ13によって、サンプルSMPの表面にエアを吹き付け、切粉を除去すると共に切削部を冷却する。そのため、ドライ条件下でサンプルSMPの表面を切削できる。
【0028】
精密切削部10のこのような構成によって、サンプルSMPの表面を、顕微鏡観察可能なまでに平坦かつ鏡面状に切削できる。例えば、サンプルSMPの表面の最大高さ粗さを100nm以下にすることができる。サンプルSMPの表面の切削深さは、予め定められた一定量である。なお、1回の切削で目標の切削深さとしてもよいし、複数回の切削で目標の切削深さとしてもよい。
【0029】
図1に矢印で示すように、精密切削部10によってサンプルSMPの表面を切削した後、サンプルSMPを搭載したサンプルステージ40は、組織観察部20の下に移動する。途中でサンプルSMPの切粉を除去する清掃を行ってもよい。
組織観察部20は、カメラ(撮像機)21及び顕微鏡22を備えている。組織観察部20では、顕微鏡22によって拡大されたサンプルSMPの表面をカメラ21によって撮像する。取得した画像は、例えば、制御部50が備える記憶部(不図示)に格納される。
【0030】
なお、例えばサンプルSMPが金属部材等である場合、精密切削部10によってサンプルSMPの表面を切削した後、結晶粒毎に弾性回復量の相違に基づく極めて微小な段差が生じる。そのため、組織観察部20に例えばレーザ顕微鏡等を用いれば、結晶粒界と微小硬さ分布との関係を知ることができる。この極めて微小な段差は、微小硬さ測定の精度にはほとんど影響しない。さらに、微小硬さ測定よりも前もしくは後に、当該表面をエッチングによって結晶粒界(すなわち組織)を強調させてもよい。但し、エッチングによって結晶粒毎の微小な段差が拡大するため、エッチングの場合、微小硬さ測定後に行う方が好ましい。また、エッチングに代えて、染色を行ってもよい。
【0031】
図1に矢印で示すように、組織観察部20によってサンプルSMPの表面を撮像した後、サンプルSMPを搭載したサンプルステージ40は、微小硬さ測定部30の下に移動する。微小硬さ測定部30によって、サンプルSMPの表面の複数箇所における微小硬さを測定する。
図1の例では、微小硬さ測定部30は、マイクロビッカース硬さ試験機であって、ロードセル31、ロッド32、及び圧子33を備えている。
【0032】
硬さ測定では、圧子33を予め定められた一定速度で降下させ、予め定められた一定量までサンプルSMPの表面に押し込む。そして、予め定められた一定時間、圧子33をサンプルSMPの表面に押し込んだ状態で保持した後に、圧子33を予め定められた一定速度で上昇させる。
【0033】
ロードセル31は、圧子33をサンプルSMPの表面に押し込んだ際の荷重を検出するためのセンサである。ロードセル31によって計測された荷重に基づいて、各測定部位の微小硬さが得られる。ロードセル31によって計測された荷重は、例えば、制御部50が備える記憶部(不図示)に格納される。
【0034】
ここで、ロードセル31によって計測された最大荷重値に基づいて、硬さを測定できる。例えば、非特許文献1、2に開示したように、硬さ試験に関する国際規格ISO14577に準拠すれば、最大荷重値を用いて圧痕のサイズを測定することなく、微小硬さ(及び弾性率)を求めることができる。
なお、本明細書における「硬さ」という用語は、弾性率を包含するものとする。
【0035】
より詳細には、非特許文献1、2に開示したように、圧子33を一定量の押し込み深さで保持した後、圧子33の上昇によってサンプルSMPから圧子33が離れるまでの間の押し込み深さと荷重値を計測して得られた曲線(負荷曲線及び除荷曲線)に基づいて微小硬さ(及び弾性率)を求める。具体的には、除荷曲線の最大押し込み深さにおける接線に基づいて微小硬さ(及び弾性率)を求める。
【0036】
そのため、圧子33の上昇時(すなわち除荷時)における荷重値計測のサンプリング周波数を、圧子33の降下時(すなわち負荷時)及び保持時におけるサンプリング周波数よりも大きくするように制御してもよい。また、圧子33の上昇速度(すなわち除荷時の速度)を、圧子33の降下速度(すなわち負荷時の速度)よりも小さくするように制御してもよい。さらに、両方の制御を組み合わせてもよい。このような制御によって、微小硬さ(及び弾性率)をより精度良く測定できる。
勿論、通常のマイクロビッカース硬さ試験と同様に、除荷後の圧痕のサイズを測定することによって、硬さを求めてもよい。
【0037】
ロッド32は、ロードセル31の下端に連結されると共に、ロードセル31の下端下方向(z軸負方向)に延設された棒状部材である。ロッド32の下端には圧子33が固定されている。
圧子33は、例えばダイヤモンドからなるマイクロビッカース硬さ試験用の圧子であり、例えば下端が尖った四角錐の形状を有している。
【0038】
制御部50の指示に基づいて、微小硬さ測定部30全体がz軸負方向に降下し、下端の圧子33がサンプルSMPの表面に押し込まれることによって、微小硬さが測定される。さらに、制御部50の指示に基づいて、微小硬さ測定部30全体が水平方向に移動し、微小硬さの測定を繰り返す。微小硬さ測定部30のこのような構成によって、サンプルSMPの各表面(切削面)について、二次元微小硬さ分布を測定することができる。その結果、三次元微小硬さ分布を測定することができる。
【0039】
上述の通り、発明者らは、種々の検討を行った結果、微小硬さ測定において、圧子の押し込み深さがばらつくと、微小硬さを精度良く測定できないことを見出した。そこで、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システム及び方法では、圧子33の押し込み深さを一定に制御する。
【0040】
ここで、通常の微小硬さ試験では、サンプルSMPの表面を鏡面研磨する際に、表面において硬い部位は浅く研磨され、軟らかい部位は深く研磨される。すなわち、サンプルSMPの表面に硬さに応じた微小な凹凸が生じるため、圧子33の降下量を一定としても、圧子33の押し込み深さにばらつきが発生してしまう。
【0041】
これに対し、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システムでは、精密切削部10によってサンプルSMPの表面が平坦かつ鏡面状に切削される。そのため、サンプルSMPの表面を鏡面研磨する必要がなく、研磨に伴う微小な凹凸や表面の傾きもサンプルSMPの表面に生じ得ない。
【0042】
従って、サンプルSMPの表面の各測定点における圧子33の降下量を一定に制御すれば、測定点の位置によらず、圧子33の押し込み深さも一定に制御することができる。その結果、圧子33の押し込み深さのばらつきを抑制でき、微小硬さを精度良く測定できる。圧子33の押し込み深さは、例えば、数nm〜数10μm程度、好ましくは数10nm〜数μm程度である。また、降下量を決定する際、ロードセル31によって圧子33がサンプルSMPの表面に接触したことを検出し、適切な押し込み深さとなるように決定してもよい。その際、サンプルSMPの表面に穴や窪みがあると、圧子の接触位置がずれるため、サンプルSMPの平坦な場所で予め接触を検出しておくことで、降下量を決定するとよい。
【0043】
また、圧子33の押し込み深さは、切削によってサンプルSMPの表面に形成される加工変性層の深さよりも大きいことが好ましい。圧子33の押し込み深さが、加工変性層の深さ以下では、加工変性層の影響によって正確な微小硬さを測定できない。通常、加工変性層の影響によって、微小硬さの値が実際の値よりも大きくなる。
【0044】
なお、各測定点における圧子33の降下量を一定に制御することに代えて、各測定点においてロードセル31によって圧子33がサンプルSMPの表面に接触したことを検出し、その検出位置からの押し込み深さを一定とするように制御してもよい。例えば、サンプルSMPの表面に穴や窪みがあると、降下量一定では、押し込み深さが一定とならず、精度良く硬さが測定できないが、各点で接触を検出し、そこからの押し込み量を一定とすれば、穴や窪みでもより精度良く硬さを測定できる。
【0045】
圧子33がサンプルSMPの表面に接触すると、ロードセル31によって荷重が検出される。この検出時刻から予め決められた時間だけ荷重を記録することで、必要なデータ量のみが記録される。この記録の開始には荷重にしきい値を定めておくことで、記録の誤動作を防止することができる。しきい値を用いる場合は、しきい値検出前の荷重も記録しておき、必要に応じてさかのぼって記録し、不要な場合は削除するようにするとよい。
【0046】
図1に矢印で示すように、微小硬さ測定部30によってサンプルSMPの表面の複数箇所における微小硬さを測定した後、サンプルSMPを搭載したサンプルステージ40は、再度、組織観察部20の下に移動する。そして、圧痕が形成されたサンプルSMPの表面を組織観察部20によって再度撮像する。取得した画像は、例えば、制御部50が備える記憶部(不図示)に格納される。なお、本実施形態では、本工程は省略可能である。
【0047】
図1に矢印で示すように、圧痕が形成されたサンプルSMPの表面を組織観察部20によって再度撮像した後、サンプルSMPを搭載したサンプルステージ40は、精密切削部10の下に移動する。そして、精密切削部10によってサンプルSMPの表面を平坦かつ鏡面状に再度切削する。圧子33の圧痕及びその影響部を除去するため、切削深さを、圧子33の押し込み深さよりも大きくしてもよい。例えば、サンプルSMPの表面の切削深さは、圧子33の押し込み深さの数倍程度とする。なお、1回の切削で目標の切削深さとしてもよいし、複数回の切削で目標の切削深さとしてもよい。
【0048】
サンプルステージ40は、サンプルSMPを搭載するための台座であって、
図1の例では、x軸方向、y軸方向に移動可能である。本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システムでは、サンプルSMPを固定したままの状態でサンプルステージ40が移動し、上記一連の工程を繰り返すため、三次元微小硬さ分布を精度良く測定できる。
なお、精密切削部10、組織観察部20、及び微小硬さ測定部30と、サンプルステージ40とが、相対的に三次元方向に移動可能であればよい。そのため、サンプルステージ40が一軸方向のみに移動可能でも、三軸方向に移動可能でもよい。
【0049】
制御部50は、
図1に示すように、精密切削部10、組織観察部20、及び微小硬さ測定部30を制御する。
図1に示していないが、制御部50は、さらにサンプルステージ40を制御してもよい。また、制御部50はコンピュータとしての機能を有し、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算部と、各種制御プログラムやデータ等が格納されたRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶部と、を備えている。
【0050】
以上に説明したように、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システムでは、サンプルSMPの表面の切削深さを予め定められた一定量に制御し、サンプルSMPの表面を平坦かつ鏡面状に切削する。そのため、サンプルSMPの表面の複数点における圧子33の押し込み深さを予め定められた一定量に制御でき、微小硬さを精度良く測定できる。
【0051】
<実施例>
以下に、
図2〜
図4を参照して、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システムを用いた測定の実施例について説明する。
図2は、押し込み弾性率の度数折れ線グラフである。
図3は、マイクロビッカース硬さの度数折れ線グラフである。
図4は、圧痕が形成された表面の顕微鏡写真である。
【0052】
精密切削部10として超音波楕円振動切削装置を用い、サンプルSMPである窒化処理されたステンレス鋼の表面を鏡面状に切削した。この鏡面状の表面にダイヤモンドからなるマイクロビッカース硬さ試験用の圧子33を70μm間隔で押し込んだ。押し込み深さは7μmとした。
【0053】
図2、
図3に示すように、押し込み弾性率及びマイクロビッカース硬さのいずれも、結晶粒内(図では「粒内」と示す)に圧子33を押し込んだ場合と、結晶粒界を含む結晶粒内以外(図では「粒内以外」と示す)に圧子を押し込んだ場合とにおいて、有意な差が確認できた。具体的には、結晶粒内以外の場合は、結晶粒内の場合に比べ、弾性率及びマイクロビッカース硬さのいずれも高い傾向を有している。
【0054】
図4は、切削したままの(エッチングしていない)状態の表面をレーザ顕微鏡によって観察した写真である。切削後の弾性回復量の相違に基づく極めて微小な段差が結晶粒毎に生じるため、
図4に示すように、結晶粒界が確認できた。この段差は例えば10〜20nm程度であって、押し込み深さは7μmに比べて極めて小さいため、微小硬さ測定の精度には影響しない。
【0055】
以上に説明した通り、本実施形態に係る三次元硬さ分布測定システムを用いることによって、サンプルSMPの表面の複数点における圧子33の押し込み深さを予め定められた一定量に制御できた。そのため、微小硬さを精度良く測定できた。また、組織と微小硬さ分布との関係を知ることができた。
【0056】
(第2の実施形態)
次に、
図5、
図6を参照して、第2の実施形態に係る三次元硬さ分布測定システム及び方法について説明する。本実施形態では、制御部50が、さらにサンプルSMPの表面の圧痕形成後の画像と圧痕形成前の画像との差分を求める画像処理を行い、得られた画像における圧痕の寸法に基づいて、微小硬さを求める。そのため、圧痕が形成されたサンプルSMPの表面を組織観察部20によって再度撮像する工程は、第1の実施形態では省略可能であったが、第2の実施形態では必須である。
【0057】
図5は、サンプルの表面の同じ箇所における圧痕形成前の画像及び圧痕形成後の画像である。
図5における圧痕のピッチは200μmである。
図5の画像に示したサンプルは、成牛大腿骨から採取した骨幹部皮質骨である。観察面は骨軸方向に垂直な断面であり、
図5に示すように、骨軸方向に延びるハバース管の横断面と、より小径かつ多数の骨小腔が確認できる。そのため、
図5の下段に示したように、圧痕の一部がハバース管や骨小腔と重なると、圧痕の寸法を正確に測定し難くなる。
【0058】
そこで、本実施形態では、
図5の下段に示した圧痕形成後の画像と上段に示した圧痕形成前の画像との差分を求める画像処理を行う。
図6は、圧痕形成後の画像と圧痕形成前の画像との差分を求める画像処理後の画像である。具体的には、
図6の上段は、圧痕形成前の画像から圧痕形成後の画像を除去した画像である。さらに、
図6の下段は、
図6の上段の画像において、白黒を反転させた画像である。
【0059】
圧痕形成後の画像と圧痕形成前の画像との差分を求める画像処理によって、原理的には圧痕のみの画像が生成される。そのため、
図6に示すように、圧痕が強調され圧痕の寸法を効率的に正確に測定できる。すなわち、最大荷重値に基づく微小硬さだけでなく、圧痕の寸法に基づく微小硬さも精度良く測定できる。
その他の構成は、第1の実施形態と同様であって、同様の効果が得られるため、詳細な説明は省略する。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。