【解決手段】加工機上ナノインデンテーション試験システム(1)は、測定対象部材(9)を切削して第1平面を形成する加工機(2)と、押込み試験用の圧子(4)を有する硬さ測定部(3)と、圧子(4)を第1押込み量まで第1平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、第2押込み量に相当する位置まで引き抜くように制御する制御部(7)とを備える。
前記制御部は、前記第1押込み量よりも小さい第3押込み量に対応する位置まで前記圧子を前記第1平面に押し込んで、所定の待機時間が経過した後、前記第1押込み量に対応する位置まで前記圧子をさらに押し込むように前記インデンテーション測定部を制御する請求項1に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
前記インデンテーション測定部は、前記第1押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込まれた圧子に作用する第1荷重と、前記第2押込み量に対応する位置まで前記第1平面から引き抜く方向に変位させた圧子に作用する第2荷重とを測定する力センサをさらに有し、
前記制御部は、前記第1押込み量及び前記第1荷重と前記第2押込み量及び前記第2荷重とのプロファイルに基づいて、前記測定対象部材の硬さ及び弾性率を求める請求項1に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
前記力センサは、前記第1押込み量への負荷時の圧子の送り速度を変化させながら、前記保持時間に含まれる第1タイミングと第2タイミングとで前記圧子に作用する荷重を検出する請求項6に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
前記インデンテーション測定部は、前記第1押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込まれた圧子に作用する第1荷重と、前記第2押込み量に対応する位置まで前記第1平面から引き抜く方向に変位させた圧子に作用する第2荷重とを測定するために前記圧子に結合された力センサと、
前記圧子を変位させるために前記力センサに結合されたステージとをさらに有し、
前記制御部は、前記圧子の第1押込み量に対応する前記ステージの第1ステージ移動量及び前記圧子の第2押込み量に対応する前記ステージの第2ステージ移動量と、前記力センサにより測定された第1荷重及び第2荷重と、前記力センサの剛性とに基づいて、前記圧子の第1押込み量及び第2押込み量を制御する請求項1に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
前記制御部は、前記第3押込み量を、前記第1押込み量と前記第2押込み量との差分よりも大きくなるように制御する請求項2に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
前記制御部は、前記第2押込み量を、前記第2押込み量と前記第1押込み量との差分が前記第1押込み量と前記第3押込み量との差分よりも小さくなるように制御する請求項2に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
前記力センサは、データサンプリング周波数に基づいて検出した複数個の荷重データの平均に基づいて、前記第1及び前記第2荷重を測定する請求項6に記載の加工機上インデンテーション試験システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び2に記載の構成は、ナノインデンテーション試験において、変位を制御して荷重を測定しているが、切削工程と押込み試験工程とを繰り返す構成を開示しておらず、硬さデータの3次元分布を実現することができない。
【0010】
非特許文献1に記載の構成は、切削工程と押込み試験工程とを繰り返して硬さデータの3次元分布を実現するために、圧子に目標最大変位を与え、最大変位に変位した圧子に作用する荷重を測定する構成を開示している。
【0011】
しかしながら、圧子に目標最大変位を与え、最大変位に変位した圧子に作用する荷重の測定データは、ノイズ量が多く、不安定であるという問題がある。
【0012】
本発明の一態様は、切削工程と押込み試験工程とを繰り返して硬さデータの3次元分布を実現するために、圧子に目標変位を与え、変位した圧子に作用する押込み試験の荷重データを低ノイズで安定して取得することにより、押込み試験の精度を向上させることができる加工機上インデンテーション試験システム及び加工機上インデンテーション試験方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムは、測定対象部材を機械加工して測定対象となる第1平面を形成する加工機と、前記加工機により機械加工された第1平面に押し込まれる押込み試験用の圧子を有して、前記加工機上に搭載されたインデンテーション測定部と、前記圧子を第1押込み量に対応する位置まで前記第1平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、前記第1押込み量よりも小さい第2押込み量に対応する位置まで前記圧子を前記第1平面から引き抜く方向に変位させるように前記インデンテーション測定部を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
【0014】
この特徴によれば、制御部が、圧子を第1押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、第1押込み量よりも小さい第2押込み量に対応する位置まで圧子を第1平面から引き抜く方向に変位させるようにインデンテーション測定部を制御する。このため、圧子に目標変位を与え、変位した圧子に作用する押込み試験の除荷時における荷重データを低ノイズで安定して取得することができる。従って、押込み試験の精度を向上させることができる。この結果、切削工程と押込み試験工程とを繰り返して硬さデータの高精度な3次元分布を実現することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記制御部は、前記第1押込み量よりも小さい第3押込み量に対応する位置まで前記圧子を前記第1平面に押し込んで、所定の待機時間が経過した後、前記第1押込み量に対応する位置まで前記圧子をさらに押し込むように前記インデンテーション測定部を制御することが好ましい。
【0016】
上記構成により、負荷時における荷重データを低ノイズで安定して取得することができる。
【0017】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記インデンテーション測定部は、前記圧子を変位させるためのステージをさらに有することが好ましい。
【0018】
上記構成により、圧子を測定対象部材に押込み及び測定対象部材から引き抜くように変位させることができる。
【0019】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記インデンテーション測定部は、前記機械加工された第1平面の複数個所の硬さ及び弾性率を測定することが好ましい。
【0020】
上記構成により、制御部が、インデンテーション測定部により測定された複数個所の硬さデータ及び弾性率データに基づいて、第1平面の硬さ及び弾性率の2次元分布データを生成することができる。
【0021】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記加工機は、前記インデンテーション測定部による押込み試験が終了した後、前記測定対象部材の第1平面を機械加工して次の測定対象となる第2平面を形成し、前記制御部は、前記圧子を第4押込み量に対応する位置まで前記第2平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、前記第4押込み量よりも小さい第5押込み量に対応する位置まで前記圧子を前記第2平面から引き抜く方向に変位させるように前記インデンテーション測定部を制御することが好ましい。
【0022】
上記構成により、制御部が、インデンテーション測定部により測定された第1平面の複数個所の硬さデータ、及び、第2平面の複数個所の硬さデータに基づいて、測定対象部材の硬さの3次元分布データを生成することができる。
【0023】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記インデンテーション測定部は、前記第1押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込まれた圧子に作用する第1荷重と、前記第2押込み量に対応する位置まで前記第1平面から引き抜く方向に変位させた圧子に作用する第2荷重とを測定する力センサをさらに有し、前記制御部は、前記第1押込み量及び前記第1荷重と前記第2押込み量及び前記第2荷重とのプロファイルに基づいて、前記測定対象部材の硬さ及び弾性率を求めることが好ましい。
【0024】
上記構成により、測定対象部材の機械特性を評価することができる。
【0025】
本発明の一態様に係る加工機上ナノインデンテーション試験システムでは、前記加工機は、前記測定対象部材を切削、研削、又は研磨して前記測定対象となる第1平面を形成することが好ましい。
【0026】
上記構成により、第1平面を平滑にすることができ、平滑な第1表面の機械特性を評価することができる。
【0027】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記力センサは、前記第1押込み量への負荷時の圧子の送り速度を変化させながら、前記保持時間に含まれる第1タイミングと第2タイミングとで前記圧子に作用する荷重を検出することが好ましい。
【0028】
上記構成により、測定対象部材の機械特性の時間依存性を評価することができる。
【0029】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記インデンテーション測定部は、前記第1押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込まれた圧子に作用する第1荷重と、前記第2押込み量に対応する位置まで前記第1平面から引き抜く方向に変位させた圧子に作用する第2荷重とを測定するために前記圧子に結合された力センサと、前記圧子を変位させるために前記力センサに結合されたステージとをさらに有し、前記制御部は、前記圧子の第1押込み量に対応する前記ステージの第1ステージ移動量及び前記圧子の第2押込み量に対応する前記ステージの第2ステージ移動量と、前記力センサにより測定された第1荷重及び第2荷重と、前記力センサの剛性とに基づいて、前記圧子の第1押込み量及び第2押込み量を制御することが好ましい。
【0030】
上記構成により、圧子の第1押込み量及び第2押込み量を精密に制御することができる。
【0031】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記インデンテーション測定部は、前記圧子を変位させるためのステージをさらに有し、前記制御部は、前記ステージの第1ステージ移動量及び前記ステージの第2ステージ移動量に基づいて、前記圧子の第1押込み量及び第2押込み量を制御することが好ましい。
【0032】
上記構成により、簡素な構成で圧子の第1押込み量及び第2押込み量を制御することができる。
【0033】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記インデンテーション測定部は、前記圧子を変位させるためのステージと、前記第3押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込まれた圧子に作用する第3荷重を測定する力センサとをさらに有し、前記待機時間が、前記ステージの応答時間よりも長く、前記力センサの応答時間よりも長いことが好ましい。
【0034】
上記構成により、各押込み量での圧子の挙動を安定させ、荷重データを低ノイズで安定的に取得することが出来る。
【0035】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記制御部は、前記第3押込み量を、前記第1押込み量と前記第2押込み量との差分よりも大きくなるように制御することが好ましい。
【0036】
上記構成により、圧子接触時の測定対象部材上での圧子のすべりを防ぎ、第3押込み量での圧子の挙動を安定させることが出来る。
【0037】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記制御部は、前記第2押込み量を、前記第2押込み量と前記第1押込み量との差分が前記第1押込み量と前記第3押込み量との差分よりも小さくなるように制御することが好ましい。
【0038】
上記構成により、圧子を引き抜く時の圧子の挙動を安定させ、除荷時の荷重データを低ノイズで安定的に取得することが出来る。
【0039】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記力センサは、データサンプリング周波数に基づいて検出した複数個の荷重データの平均に基づいて、前記第1及び前記第2荷重を測定することが好ましい。
【0040】
上記構成により、力センサにより測定される荷重データのばらつきを低減させることが可能である。
【0041】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記制御部は、前記力センサにより測定された第1荷重に基づいて、前記第2押込み量を調整することが好ましい。
【0042】
上記構成により、除荷時の第2荷重値の測定の精度を高めることができる。
【0043】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記制御部は、前記第1押込み量よりも小さい第3押込み量に対応する位置まで前記圧子を前記第1平面に押し込み、前記力センサは、前記第3押込み量に対応する位置まで第1平面に押し込まれた圧子に作用する第3荷重を測定し、前記制御部は、前記力センサにより測定された第3荷重に基づいて、前記第3押込み量に対応する待機時間を調整することが好ましい。
【0044】
上記構成により、第3荷重を測定した際、荷重値が変化しない場合は、第3押込み量での待機時間を短縮して、インデンテーション試験時間を短縮することが可能である。
【0045】
本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムでは、前記制御部は、前記第1押込み量より、小さい第2押込み量に対応する位置まで前記圧子を引き抜き、前記力センサは、前記第2押込み量に対応する第2荷重を測定し、前記制御部は、前記力センサにより測定された第2荷重に基づいて、前記第2押込み量に対応する待機時間を調整することが好ましい。
【0046】
上記構成により、除荷時において、荷重値の変化が無い場合は待機時間を短縮することによりインデンテーション試験時間を短縮し、加重値の変化が大きい場合は待機時間を延ばして除荷時の加重値の測定精度を高めることが出来る。
【0047】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験システムは、測定対象部材を機械加工して測定対象となる第1平面を形成する加工機と、前記加工機により機械加工された第1平面に押し込まれる押込み試験用の圧子を有して、前記加工機上に搭載されたインデンテーション測定部と、前記圧子を予め定められた一定の送り速度で前記第1平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、前記圧子を前記一定の送り速度で前記第1平面から引き抜くように前記インデンテーション測定部を制御する制御部と、前記押し込み時の圧子の送り速度を変化させながら、前記保持時間に含まれる第1タイミングと第2タイミングとで前記圧子に作用する荷重を検出する力センサとを備えることを特徴とする。
【0048】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る加工機上インデンテーション試験方法は、測定対象部材を機械加工して測定対象となる平面を形成する加工工程と、前記加工工程により機械加工された平面に押し込まれる押込み試験用の圧子を第1押込み量に対応する位置まで前記平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、前記第1押込み量よりも小さい第2押込み量に対応する位置まで前記圧子を前記平面から引き抜く方向に変位させる圧子制御工程とを包含することを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明の一態様によれば、切削工程と押込み試験工程とを繰り返して硬さデータの3次元分布を実現するために、圧子に目標変位を与え、変位した圧子に作用する押込み試験の荷重データを低ノイズで安定して取得することにより、押込み試験の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】実施形態1に係る加工機上ナノインデンテーション試験システムの模式図である。
【
図2】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムに設けられた加工機の画像である。
【
図3】上記加工機に搭載された硬さ測定部の画像である。
【
図4】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムのブロック図である。
【
図5】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムに設けられたピエゾステージと制御部とを含むブロック線図である。
【
図6】硬さ測定部に設けられた圧子の押し込み時のモデルを示す断面図である。
【
図7】上記圧子の押し込み時のモデルを示す断面図である。
【
図8】上記圧子の押し込み時のモデルを示す断面図である。
【
図9】上記圧子の引き抜き時のモデルを示す断面図である。
【
図10】上記圧子の引き抜き時のモデルを示す断面図である。
【
図11】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムが実施する微小押込み試験を説明するための断面図である。
【
図12】上記微小押込み試験における押込み深さと押込み荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図13】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムによる押込み試験方法を説明するための断面図である。
【
図14】上記押込み試験方法を説明するための断面図である。
【
図15】上記押込み試験方法を説明するための断面図である。
【
図16】上記押込み試験方法を説明するための断面図である。
【
図17】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムに設けられた微小力センサにより測定された荷重の時間的変化を示すグラフである。
【
図18】上記加工機上ナノインデンテーション試験システムに設けられたピエゾステージのステージ移動量と圧子の押込み量との時間的変化を示すグラフである。
【
図19】比較例に係る押込み試験における圧子の押込み深さと上記圧子に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図20】実施形態1に係る押込み試験における圧子の押込み深さと上記圧子に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図21】比較例に係る押込み試験におけるステージ移動量と上記圧子に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図22】実施形態1に係る押込み試験におけるステージ移動量と上記圧子に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図23】比較例に係る押込み試験における圧子の押込み深さと上記圧子に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図24】実施形態1に係る押込み試験における圧子の押込み深さと上記圧子に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図25】実施形態1に係る2次元硬さ測定における圧子押込み前の測定対象部材の画像である。
【
図26】上記2次元硬さ測定における圧子押込み後の測定対象部材の画像である。
【
図27】上記2次元硬さ測定の結果のビッカース硬さ分布を示す図である。
【
図28】上記2次元硬さ測定における押込み量と荷重との間の関係を示すグラフである。
【
図29】実施形態2に係る押込み試験における圧子に作用する荷重の時間的変化を示すグラフである。
【
図30】上記押込み試験における純アルミニウムの荷重変化量と保持時間との間の関係を示すグラフである。
【
図31】上記押込み試験における銅の荷重変化量と保持時間との間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本明細書において、「押込み量」とは、圧子が実際に測定対象部材に押し込まれた量を意味するものとする。この「押込み量」は、ステージの移動量と、力センサにより検出される圧子に作用する荷重と、力センサの剛性とに基づいて算出することができる。なお、本明細書において「押込み量」を「押込み深さ」と言う場合がある。
【0052】
「ステージ移動量」とは、ステージが実際に移動した量を意味するものとする。この「ステージ移動量」は、ステージに内蔵された変位センサにより測定される。なお、本明細書において「ステージ移動量」を「ステージ送り量」と言う場合がある。
【0053】
「変位制御方式」とは、「ステージ移動量」又は「押込み量」を制御して、圧子に作用する荷重を検出することにより、測定対象部材の機械的特性を測定する方式を意味するものとする。
【0054】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0055】
図1は実施形態1に係る加工機上ナノインデンテーション試験システム1の模式図である。
図2は加工機上ナノインデンテーション試験システム1に設けられた加工機2の画像である。
図3は、
図2に示されるA部に相当し、加工機2に搭載された硬さ測定部3の画像である。
図4は加工機上ナノインデンテーション試験システム1のブロック図である。
図5は加工機上ナノインデンテーション試験システム1に設けられたピエゾステージ5とパーソナルコンピュータ21とを含むブロック線図である。
【0056】
加工機上ナノインデンテーション試験システム1(加工機上インデンテーション試験システム)は加工機2を備える。加工機2は、X軸方向に移動可能なX軸部11とY軸方向に移動可能なY軸部12とを有する。
【0057】
Y軸部12にはY軸に交差するB軸周りに回転可能なB軸部15と、動力計を備えた載置部16とがこの順番に載置される。Y軸部12とB軸部15と載置部16とが載置ステージ8を構成する。載置ステージ8の載置部16の上に測定対象部材9が固定的に載置される。
【0058】
X軸部11にはZ軸方向に移動可能なZ軸部13が搭載される。Z軸部13には、Z軸に交差するC軸周りに回転可能な工具14と、測定対象部材9の硬さを測定する硬さ測定部3(インデンテーション測定部)と、測定対象部材9の第1平面10の組織を観察するために第1平面10を撮像するマイクロスコープ17とが搭載される。
【0059】
加工機2は、載置ステージ8に固定的に載置された測定対象部材9を工具14により切削して測定対象となる平滑な第1平面10を形成する。この切削加工は、エアー、冷却水を用いないブローガスノズル(blowing-gas nozzle)を備えた切削加工であり得る。
【0060】
硬さ測定部3は、加工機2により切削された第1平面10に押し込まれる押込み試験用の圧子4と、第1平面10に押し込まれた圧子4に作用する荷重を測定するために圧子4に結合された微小力センサ6(力センサ)と、圧子4をZ軸方向に変位させるために微小力センサ6に結合されたピエゾステージ5(ステージ)と、ピエゾステージ5の変位を検出する変位センサ22とを有する。
【0061】
ピエゾステージ5の仕様は、例えば、ストローク20μm、分解能1nm、繰り返し精度±1nm、剛性40nm/Nである。微小力センサ6の仕様は、例えば、測定レンジ0〜1N、分解能0.1mN、繰り返し精度±0.1mN、剛性50μm/Nである。圧子4は、例えば、ダイヤモンドからなるバーコビッチ圧子であり、下端が尖った三角錐の形状を有している。
【0062】
加工機上ナノインデンテーション試験システム1には、圧子4を第1押込み量に対応する位置まで第1平面10に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、第1押込み量よりも小さい第2押込み量に対応する位置まで圧子4を第1平面10から引き抜く方向に変位させるように硬さ測定部3を制御する制御部7が設けられている。
【0063】
この制御部7は、第1押込み量よりも小さい第3押込み量に対応する位置まで圧子4を第1平面10に押し込んで、所定の待機時間が経過した後、第1押込み量に対応する位置まで圧子4をさらに押し込むように硬さ測定部3を制御する。
【0064】
図6〜
図8は硬さ測定部3に設けられた圧子4の押し込み時のモデルを示す断面図である。
図9及び
図10は圧子4の引き抜き時のモデルを示す断面図である。
【0065】
まず、
図6に示すように、降下してきた圧子4が測定対象部材9の第1平面10に接触して押込み工程が開始される。そして、
図7に示すように、第3押込み量に対応する位置まで圧子4が第1平面10に押し込まれる。次に、所定の待機時間が経過した後、圧子4がさらに押し込まれる。そして、さらに所定の待機時間が経過した後、圧子4がさらに押し込まれる。このようにして所定の待機時間が経過した後の圧子4の押込みを繰り返した後、
図8に示すように、第3押込み量よりも大きい第1押込み量に対応する位置まで圧子4が第1平面10に押し込まれて押込み工程が終了する。
【0066】
そして、所定の保持時間が経過した後、引き抜き工程が開始される。まず、
図9に示すように、第1押込み量よりも小さい第2押込み量に対応する位置まで圧子4を第1平面10から引き抜く方向に変位させる。次に、所定の待機時間が経過した後、さらに圧子4を第1平面10から引き抜く方向に変位させる。このようにして所定の待機時間が経過した後の圧子4の引き抜く方向への変位を繰り返した後、
図10に示すように、圧子4が第1平面10から離れ、第1平面10に圧痕が形成されて引き抜き工程が終了する。
【0067】
上記押込み工程及び引き抜き工程の待機時間は、ピエゾステージ5の応答時間よりも長いことが好ましく、また、微小力センサ6の応答時間よりも長いことが好ましい。これにより、各押込み量での圧子4の挙動を安定させ、荷重データを低ノイズで安定的に取得することが出来る。
【0068】
制御部7は、第3押込み量を、第1押込み量と第2押込み量との差分よりも大きくなるように制御することが好ましい。これにより、圧子4の接触時の測定対象部材9上での圧子4のすべりを防ぎ、第3押込み量での圧子4の挙動を安定させることが出来る。
【0069】
制御部7は、第2押込み量を、第2押込み量と第1押込み量との差分が第1押込み量と第3押込み量との差分よりも小さくなるように制御することが好ましい。これにより、圧子4を引き抜く時の圧子4の挙動を安定させ、除荷時の荷重データを低ノイズで安定的に取得することが出来る。
【0070】
制御部7は、制御コントローラ18とセンサアンプ19とAD/DAボード20とパーソナルコンピュータ21とを有する。制御コントローラ18は、ピエゾステージ5の変位をPI(D)制御するために、変位センサ22により検出されたピエゾステージ5の変位データをAD/DAボード20に供給し、パーソナルコンピュータ21からの変位制御データをAD/DAボード20を介して受け取りピエゾステージ5に供給する。センサアンプ19は微小力センサ6により検出された微小力信号を増幅してAD/DAボード20に供給する。AD/DAボード20は、制御コントローラ18からの変位データをAD変換してパーソナルコンピュータ21に供給し、パーソナルコンピュータ21からの変位制御データをDA変換して制御コントローラ18に供給し、及び、センサアンプ19からの微小力信号をAD変換してパーソナルコンピュータ21に供給する。パーソナルコンピュータ21は、AD/DAボード20でDA変換された微小力信号及び変位データに基づいて、ピエゾステージ5の変位を制御するための制御データを生成してAD/DAボード20に供給する。
【0071】
硬さ測定部3は、第1平面10の複数個所の硬さを測定する。そして、パーソナルコンピュータ21は、硬さ測定部3により測定された複数個所の硬さデータに基づいて、第1平面10の硬さの2次元分布データを生成する。
【0072】
加工機2の工具14は、硬さ測定部3による押込み試験が終了した後、測定対象部材9の第1平面10を切削して次の測定対象となる第2平面を形成する。
【0073】
制御部7は、圧子4を第4押込み量に対応する位置まで第2平面に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、第4押込み量よりも小さい第5押込み量に対応する位置まで圧子4を第2平面から引き抜く方向に変位させるように硬さ測定部3を制御する。そして、制御部7は、硬さ測定部3により測定された第1平面10の複数個所の硬さデータ、及び、第1平面10を切削して形成した第2平面の複数個所の硬さデータに基づいて、測定対象部材9の硬さの3次元分布データを生成する。
【0074】
微小力センサ6は、
図8に示すように第1押込み量に対応する位置まで第1平面10に押し込まれた圧子4に作用する第1荷重を測定し、
図9に示すように第2押込み量に対応する位置まで第1平面10から引き抜く方向に変位させた圧子4に作用する第2荷重を測定する。そして、制御部7のパーソナルコンピュータ21は、第1押込み量及び第1荷重と第2押込み量及び第2荷重とのプロファイルに基づいて、測定対象部材9の弾性率を求める。
【0075】
制御部7は、ピエゾステージ5の第1ステージ移動量及びピエゾステージ5の第2ステージ移動量に基づいて、圧子4の第1押込み量及び第2押込み量を制御する。
【0076】
また、制御部7は、圧子4の第1押込み量に対応するピエゾステージ5の第1ステージ移動量及び圧子4の第2押込み量に対応するピエゾステージ5の第2ステージ移動量と、微小力センサ6により測定された第1荷重及び第2荷重と、微小力センサ6の剛性とに基づいて、圧子4の第1押込み量及び第2押込み量を制御してもよい。
【0077】
加工機2は、測定対象部材9を工具14により研削又は研磨して第1平面10を形成してもよい。
【0078】
微小力センサ6は、データサンプリング周波数に基づいて検出した複数個の荷重データの平均に基づいて、第1荷重及び第2荷重を測定することが好ましい。これにより、微小力センサ6により測定される荷重データのばらつきを低減させることが可能である。
【0079】
制御部7は、微小力センサ6により測定された第1荷重に基づいて、第2押込み量を調整することが好ましい。これにより、除荷時の第2荷重値の測定の精度を高めることができる。
【0080】
制御部7は、第1押込み量よりも小さい第3押込み量に対応する位置まで圧子4を第1平面10に押し込み、微小力センサ6は、第3押込み量に対応する位置まで第1平面10に押し込まれた圧子4に作用する第3荷重を測定し、制御部7は、微小力センサ6により測定された第3荷重に基づいて、第3押込み量に対応する待機時間を調整することが好ましい。これにより、待機時間を短くしてナノインデンテーション試験時間を短縮することが可能である。
【0081】
図11は加工機上ナノインデンテーション試験システム1が実施する微小押込み試験を説明するための断面図である。
図12は微小押込み試験における押込み深さと押込み荷重との間の関係を示すグラフである。
【0082】
微小押込み試験で圧子4を押込む時の測定対象部材9の表面変形を説明する。圧子4が測定対象部材9の初期表面23から最大押込み深さh
maxまで押し込まれると、初期表面23が負荷時表面24に変形する。そして、圧子4が負荷時表面24から引き抜かれる方向に変位して測定対象部材9から離れると、負荷時表面24が圧痕を表す除荷後表面25に変形する。この除荷後表面25の初期表面23からの深さが圧痕深さh
fとなる。そして、最大押込み深さh
maxに位置する圧子4と負荷時表面24とが接触しなくなる位置から最大押込み深さh
maxに相当する位置までの深さが接触深さh
cとなる。
【0083】
測定対象部材9の初期表面23から最大押込み深さh
maxまで負荷を増大させて圧子4を押込むと、押込み深さと押込み荷重とは
図12の負荷曲線C1に示すように変化する。そして、最大押込み深さh
maxから圧痕深さh
fまで除荷しながら圧子4を引き抜くと、押込み深さと押込み荷重とは
図12の除荷曲線C2に示すように変化する。除荷に係る除荷曲線C2に基づいて、測定対象部材9の弾性率を求めることができる。
【0084】
図12に示すように除荷曲線C2の接線と横軸との交点に係る押込み深さをh
rとすると、下記に示す数式の関係が成立する。
【0086】
ここで除荷曲線C2の接線は、硬さ試験に関する国際規格ISO14577を参考に、最大押込み深さh
maxで測定された荷重の98%と20%から80%の領域で、最小二乗近似より求める。
【0087】
ナノインデンテーション試験は、押込み深さ200nm以下の領域を取り扱い、押込み荷重と押込み深さとの間の関係に基づいて、測定対象部材9の硬さに関する機械特性値を算出する。このため、測定対象部材9の硬さに関する機械特性値を得るための圧痕観察が不要となる。
【0088】
なお、本実施形態ではナノインデンテーション試験の例を説明するが、本発明はこれに限定されない。押込み深さが200nmよりも大きい領域を取り扱うインデンテーション試験に対しても本発明を適用することができる。
【0089】
図13〜
図16は、加工機上ナノインデンテーション試験システム1が実施する微小押込み試験を説明するための断面図である。前述した構成要素と同様の構成要素には同様の参照符号を付し、その詳細な説明は繰り返さない。
【0090】
まず、
図13に示すように、硬さ測定部3の圧子4を測定対象部材9の初期表面23から20μm以内の距離に近づける。そして、送り500nm、250nm、及び50nmの順番に圧子4を下降させて、測定対象部材9の初期表面23への圧子4の突き当てを行う。次に、
図14に示すように、微小力センサ6により圧子4と測定対象部材9との接触を確認する。送り50nmで圧子4と測定対象部材9とが接触した箇所の50nm上方をゼロ点とする。その後、
図15に示すように、圧子4を送り量分上昇させて横に10μmずらす。そして、この突き当て動作を測定対象部材9上の測定箇所分繰り返す。
【0091】
微小押込み試験は、
図16に示すように、ゼロ点から300nm程度上方より、ピエゾステージ5のステージ送りを開始する。1回のステージ送り量と送り回数とを調整することでピエゾステージ5を送る。
【0092】
図17は上記加工機上ナノインデンテーション試験システム1に設けられた微小力センサ6により測定された荷重の時間的変化を示すグラフである。
図18は加工機上ナノインデンテーション試験システム1に設けられたピエゾステージ5のステージ移動量と圧子4の押込み深さとの時間的変化を示すグラフである。
【0093】
硬さ測定部3では、圧子4に微小力センサ6が結合され、この微小力センサ6にピエゾステージ5が結合される。このため、ピエゾステージ5のステージ送り量は、微小力センサ6の剛性との関係で、
図18に示すように、圧子4の測定対象部材9への押込み深さと必ずしも一致しない。ピエゾステージ5のステージ送り量を、微小力センサ6の剛性(例えば50nm/mN)に相当する量に基づいて補正することにより、圧子4の実際の押込み深さを得てもよい。
【0094】
図19は比較例に係る押込み試験における圧子4の押込み深さと圧子4に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
図20は実施形態1に係る押込み試験における圧子4の押込み深さと圧子4に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。横軸は圧子4の測定対象部材9への押込み深さであり、縦軸は測定対象部材9に押し込まれた圧子4に作用する荷重である。
【0095】
比較例に係る
図19に示されるデータは、圧子4を最大押込み深さh
maxまで30秒間下降させて10秒間保持した後に圧子4を30秒間上昇させた場合の押込み深さと荷重との間の関係を示しており、ばらつき、ノイズが大きく、適切な測定データとは言えない。このばらつきは、ピエゾステージ5の分解能及び応答性が不十分であることが原因と考えられる。
【0096】
そこで、実施形態1では、圧子4をステップ状に下降させて所定の待機時間保持した後、さらにステップ状に下降させて所定の待機時間保持する動作を繰り返して最大押込み深さh
maxまで圧子4を押込む。そして、最大押込み深さh
maxで圧子4を所定の保持時間保持した後、圧子4をステップ状に上昇させて所定の待機時間保持した後、さらにステップ状に上昇させて所定の待機時間保持する動作を繰り返して接触深さh
cまで圧子4を引き抜く。
【0097】
このように、ピエゾステージ5の一回のステージ送り量(STEP)を適当に保ち(例えば12nm)、ピエゾステージ5の制御応答性を考慮して十分な待機時間(例えば3.5Sec)をもたせた状態で「同じ方向へ向けて」押し込み試験を継続させた。その負荷除荷曲線の測定結果を
図20に示す。
【0098】
図20からもわかるように、ばらつき、ノイズのない負荷除荷特性が得られた。この負荷除荷特性に基づく測定値は、用いた測定対象部材9のビッカース硬度の評価から、10%以内の精度を有していたので、この負荷除荷特性に基づく測定値の妥当性が確かめられた。
【0099】
図21は比較例に係る押込み試験におけるステージ送り量と圧子4に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
図22は実施形態1に係る押込み試験におけるステージ送り量と圧子4に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【0100】
圧子4の押し込み又は引き抜き、即ち、測定対象部材9への負荷又は除荷を、圧子4を常に移動させながら送る連続送りと、圧子4を所定の待機時間保持しながらステップ状に送るステップ状送りとで比較を行った。
(1)連続送りとする条件:圧子4の送り速度:8.3nm/Sec
(2)ステップ状送りとする条件:圧子4の一回の送り3nm、ステップ毎の待機時間150mSec
図21には、上記(1)連続送りの条件のときのステージ移動量と荷重との間の関係が示されている。
図22には上記(2)のステップ状送りのときのステージ移動量と荷重との間の関係が示されている。圧子4の連続送りよりも圧子4のステップ状送りの方が、圧子4に作用する荷重データのばらつきが抑えられていることが分かる。
【0101】
図23は比較例に係る押込み試験における圧子4の押込み深さと圧子4に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
図24は実施形態1に係る押込み試験における圧子4の押込み深さと圧子4に作用する荷重との間の関係を示すグラフである。
【0102】
本実施形態では、圧子4の変位量を制御することで、測定対象部材9の材料に併せた試験条件を容易に設定できる。
図23及び
図24は、ビッカース硬さ1200Hv程度の同じ材料でナノインデンテーション試験を行った結果である。
図23は負荷時の一回のステージ送り量を9nm(待機時間300ms)、
図24は負荷時の一回のステージ送り量を110nm(待機時間300ms)としたものである。
図24は一回のステージ送り量の量を9nmから110nmに増やすことにより、負荷時の圧子送りの回数を
図23よりも減らすことで、試験時間の短縮が実現できた。
図23及び
図24に示すように、どちらの条件でも、除荷時の曲線の傾きはほぼ等しく、求められたビッカース硬さは1100Hv程度であった。
【0103】
図25は実施形態1に係る2次元硬さ測定において圧子4を押込む前の測定対象部材9の画像である。
図26は上記2次元硬さ測定において圧子4を押込んだ後の測定対象部材9の画像である。
図27は上記2次元硬さ測定の結果のビッカース硬さ分布を示す図である。
図28は上記2次元硬さ測定における押込み量と荷重との間の関係を示すグラフである。
【0104】
加工機2上に設けられてR=1000μmでダイヤモンド製の工具14を用いて測定対象部材9の第1平面10を切削により
図25に示すように形成した。
【0105】
切削条件は、切込み量5μm、送り量13μm、切削速度9000mm/minであり、
測定対象部材9の材料はアルミニウムであった。
【0106】
ナノインデンテーション試験条件は、押込み時ステージ送り量15nm、引き抜き時ステージ送り量3nm、第1押込み量最大700nm、待機時間300ms程度、保持時間20sであった。
【0107】
図26に示すように、圧子4を押込んだ結果4行4列の16個の圧痕が形成された。そして、
図27に示すように、この16個の圧痕に対応する押込み箇所のビッカース硬さが測定され、測定対象部材9の2次元での硬さ分布が確認できた。硬さのばらつきは30%程度であった。
【0108】
図27に示す1行3列目のビッカース硬さ63の押込み箇所の負荷除荷曲線C7と、2行4列目のビッカース硬さ39の押込み箇所の負荷除荷曲線C8とが
図28に示されている。この負荷除荷曲線C7・C8より、押込み箇所の違いによるビッカース硬さの違いが確認できる。
【0109】
このように、実施形態1では、圧子4の最終押し込み変位量を予め設定し、所定の押込み量だけ圧子4を押し込むごとにその圧子4への荷重データを取得し、これを負荷時(又は除荷時)と変位保持時に繰返す。そして、最終押し込み深さの数十分の1から数百分の1スケール毎に変位と荷重の(ノイズを抑えた)測定を行う。次に、上記の制御設定された変位量と測定荷重データとから、硬度や弾性率などの機械強度測定情報を、まず、切削面の同一の平面上で等間隔で2次元で取得する(2次元マップ測定)。その後、上記切削面に平行な複数の切削済み面にて同様な2次元マップの機械強度測定情報を取得することで、測定対象部材9の3次元強度モデルを作成する。
【0110】
以上のように実施形態1によれば、制御部7が、圧子4を第1押込み量に対応する位置まで第1平面10に押し込んで、所定の保持時間が経過した後、第1押込み量よりも小さい第2押込み量に対応する位置まで圧子4を第1平面10から引き抜く方向に変位させるように硬さ測定部3を制御する。このため、圧子4に目標変位を与え、変位した圧子4に作用する押込み試験の荷重データを低ノイズで安定して取得することができる。従って、押込み試験の精度を向上させることができる。この結果、切削工程と押込み試験工程とを繰り返して硬さデータの高精度な3次元分布を実現することができる。
【0111】
また、微小力センサ6に発生するノイズの周波数の数十分の1のカットオフ周波数となるように、測定データのサンプリング周波数fとデータ取得数Mとを調整することで更なるノイズの低減を図ることができた。また、押込み時の送り量と待機時間の調節により試験時間の短縮が可能であり、実施形態1に係る圧子4のステップ状送りは、ナノインデンテーション試験での圧子4の押し込みに適した駆動方法である。
【0112】
また、測定対象部材9の内部の機械的特性を結晶粒と同じ微視的スケール(数μm間隔)で測定することができる変位制御型の新しいナノインデンテーション測定システムを実現することができる。
【0113】
そして、切削加工と切削された新たな表面の測定とを繰り返すことによって、この測定対象部材9の内部の機械的特性を表面から等間隔で測定することができる。このため、測定対象部材9の内部の機械的特性を3次元に渡ってデータベース化することが可能となる。
【0114】
加工機上ナノインデンテーション試験システム1は、変位制御方式であることから、測定対象部材9の材料や局所的な測定箇所に依存せずに、測定対象部材9の2次元平面内および3次元深さ方向を含めて、統一した最大押し込み深さで評価ができる。
【0115】
加工機上ナノインデンテーション試験システム1によれば、測定ノイズおよびデータばらつきの低減、及び、試験測定時間の短縮を図ることができる。
【0116】
加工機上ナノインデンテーション試験システム1は、変位制御方式であることから、負荷時の変位設定ステップ量(送り量と回数)を適当に設定することで試験時間の短縮化を図ることができる。
【0117】
加工機上ナノインデンテーション試験システム1によれば、主として鉄鋼材料などの実用金属の材料強度等を管理することができ、また、熱処理などに基づく材料内部の固相析出物による材料全体強度への影響を明確にすることができる。
【0118】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0119】
図29は実施形態2に係る押込み試験における圧子4に作用する荷重の時間的変化を示すグラフである。実施形態2では、負荷終了時に圧子4に作用している荷重と、除荷開始時に圧子4に作用している荷重とを検出し、両荷重の差分を取った荷重の時間的変化に基づいて測定対象部材9の緩和弾性率を測定する。
【0120】
まず、圧子4が、ピエゾステージ5の移動が終了する負荷終了時の第1タイミングT1まで測定対象部材9に押し込まれ、圧子4に作用する荷重が増大する。圧子4の押込み量に関しては、実施形態1と同様に、圧子4をステップ状に下降させて所定の待機時間保持した後、さらにステップ状に下降させて所定の待機時間保持する動作を繰り返して最大押込み深さh
maxまで圧子4が押し込まれるステップ送りを行う。圧子4のステップ状の送り量が360nm、待機時間が300msである場合、送り速度が1.2nm/msとなる。送り量が36nm、待機時間が360msである場合、送り速度が0.1nm/msとなる。
【0121】
そして、第1タイミングT1から第2タイミングT2までの保持時間27の間、圧子4が保持される。次に、第2タイミングT2から除荷が開始され、圧子4に作用する荷重が減少する。圧子4の押込み量に関しては、実施形態1と同様に、圧子4をステップ状に上昇させて所定の待機時間保持した後、さらにステップ状に上昇させて所定の待機時間保持する動作を繰り返すステップ送りを行う。
【0122】
硬さ測定部3の微小力センサ6は、測定対象部材9の緩和弾性率を測定するために、保持時間27の第1タイミングT1と第2タイミングT2とで圧子4に作用する荷重を検出する。
【0123】
図30は押込み試験における純アルミニウムの荷重変化量と保持時間との間の関係を示すグラフである。測定対象部材9が純アルミニウムである場合、負荷時における圧子4の送り速度を0.1nm/msとすると、第1タイミングT1と第2タイミングT2との間の圧子4に作用する荷重の変化量と保持時間27とは曲線C3に示すように変化する。そして、上記送り速度を1.2nm/msとすると、上記荷重の変化量と保持時間27とは曲線C4に示すように変化する。
【0124】
図30に示すように、保持時間27が増大するに従って、上記荷重の変化量が増大する。また、負荷時における圧子4の送り速度を0.1nm/msから1.2nm/msに速めると、上記荷重の変化量が大きくなる。
【0125】
図31は押込み試験における銅の荷重変化量と保持時間との間の関係を示すグラフである。測定対象部材9が銅である場合、負荷時における圧子4の送り速度を0.1nm/msとすると、上記荷重の変化量と保持時間27とは曲線C5に示すように変化する。そして、上記送り速度を1.2nm/msとすると、上記荷重の変化量と保持時間27とは曲線C6に示すように変化する。
【0126】
図31に示すように、負荷時における圧子4の送り速度を0.1nm/msから1.2nm/msに速めると、上記荷重の変化量が若干大きくなるが、保持時間27が増大しても、上記荷重の変化量は当初やや増大するが、その後ほぼ一定になる。
【0127】
なお、実施形態2では、圧子4をステップ状に下降及び上昇させるステップ送りの例を示したが、本発明はこれに限定されない。測定対象部材9の機械特性の時間依存を評価する際には、圧子4を予め定められた速度による一定送りとしてもよい。これにより、簡易に機械特性の時間依存性を評価することが可能となる。
【0128】
以上のように実施形態2によれば、微小力センサ6が、第1押込み量への負荷時の圧子4の送り速度を変化させながら、保持時間27に含まれる第1タイミングT1と第2タイミングT2とで圧子4に作用する荷重を検出するので、測定対象部材9の緩和弾性率を測定することができ、測定対象部材9の機械特性の時間依存性を評価することができる。
【0129】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。