特開2021-8898(P2021-8898A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2021008898-伝動装置 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-8898(P2021-8898A)
(43)【公開日】2021年1月28日
(54)【発明の名称】伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/17 20060101AFI20201225BHJP
   F16H 48/08 20060101ALI20201225BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20201225BHJP
【FI】
   F16H55/17 B
   F16H48/08
   F16H48/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-122190(P2019-122190)
(22)【出願日】2019年6月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】関口 亜久人
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲也
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FA37
3J027FB02
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC04
3J030BA01
3J030BB02
3J030BC02
3J030BD07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】伝動部材外周のフランジ部にリングギヤのハブ部を溶接部で固定する伝動装置において、溶接部の熱収縮に因りフランジ部の溶接部周辺に発生する残留応力を低減する。
【解決手段】ハブ部Rbの側面sr1には、軸方向内方側に窪んだ環状溝Grが、環状溝Grと空洞部30との軸方向位置を一部一致させるように形成され、ハブ部Rbは、環状溝Grを横切る横断面で見て、空洞部30及び溶接部3wと環状溝Grとで挟まれた部分の途中が括れていると共に、その括れ部Rbkが、溶接部3wの熱収縮に伴いフランジ部3f及びハブ部Rbが相互に引張り合う力でフランジ部3fの溶接部3w周辺に発生する残留応力を低減可能な肉厚に設定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外向きのフランジ部(3f)を外周に有して回転可能な伝動部材(3)と、前記フランジ部(3f)を囲繞するハブ部(Rb)を内周に有したリングギヤ(R)とを備え、前記フランジ部(3f)の外周面は、該フランジ部(3f)の軸方向一方側の側面(sf1)より軸方向で内方側に延びていて前記ハブ部(Rb)の内周面が嵌合、溶接される第1外周部(A1)と、前記第1外周部(A1)の軸方向内端に隣接する第2外周部(A2)とを少なくとも備え、前記第2外周部(A2)と前記ハブ部(Rb)の内周面との相対向面間には、前記第1外周部(A1)と前記ハブ部(Rb)との溶接部(3w)の軸方向内端が臨み且つ該溶接部(3w)よりも径方向の少なくとも外方側に拡がる環状の空洞部(30)が画成される伝動装置において、
前記ハブ部(Rb)の前記軸方向一方側の側面(sr1)には環状溝(Gr)が、該環状溝(Gr)と前記空洞部(30)との軸方向位置を一部一致させるように凹設され、
前記ハブ部(Rb)は、前記環状溝(Gr)を横切る横断面で見て、前記空洞部(30)及び前記溶接部(3w)と前記環状溝(Gr)とで挟まれた部分の途中が括れていると共に、その括れ部(Rbk)が、前記溶接部(3w)の熱収縮に伴い前記フランジ部(3f)及び前記ハブ部(Rb)が相互に引張り合う力で該フランジ部(3f)の溶接部(3w)周辺に発生する残留応力を低減可能な肉厚に設定されていることを特徴とする伝動装置。
【請求項2】
前記括れ部(Rbk)の最小肉厚(tMIN )が、前記溶接部(3w)の軸方向長さ(tw)以下であることを特徴とする、請求項1に記載の伝動装置。
【請求項3】
前記括れ部(Rbk)の最小肉厚(tMIN )が、前記空洞部(30)の径方向の最大幅(trMAX )よりも小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動装置、特に径方向外向きのフランジ部を外周に有して回転可能な伝動部材と、フランジ部を囲繞するハブ部を内周に有したリングギヤとを備え、フランジ部の外周面は、フランジ部の軸方向一方側の側面より軸方向で内方側に延びていてハブ部の内周面が嵌合、溶接される第1外周部と、第1外周部の軸方向内端に隣接する第2外周部とを少なくとも備え、第2外周部とハブ部の内周面との相対向面間には、第1外周部とハブ部との溶接部の軸方向内端が臨み且つ溶接部よりも径方向の少なくとも外方側に拡幅した空洞部が画成される伝動装置に関する。
【0002】
尚、本発明及び本明細書において、「軸方向」とは伝動部材の回転軸線(実施形態で第1軸線)に沿う方向をいい、特に「側面より軸方向で内方側」とは、側面を基準として、該側面を有するフランジ部の、軸方向即ち肉厚方向での内方側をいう。また「径方向」とは伝動部材の回転軸線を中心軸線とした半径方向をいう。
【背景技術】
【0003】
上記伝動装置は、例えば、下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−188657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の伝動装置即ち差動装置では、伝動部材即ちデフケースにおけるフランジ部の第1外周部と、リングギヤのハブ部との溶接部が溶接時に熱膨張し、その溶接後に熱収縮することにより、フランジ部及びハブ部の、溶接部を挟む部分が、径方向で互いに接近する方向に大きな力で引張られる。この場合、リングギヤは、ハブ部を含めて全体的に高剛性に構成されていて、元々の円環状形態を維持しようとするため、特に溶接部とフランジ部の溶接部周辺部分とがハブ部側に強く引張られて、当該部分に比較的高い残留応力が発生する傾向がある。
【0006】
尚、図4には、上記差動装置と同タイプの比較例について、コンピュータによるシミュレーション解析で求めた残留応力の分布状態の一例が示される。この図で薄墨部分は、残留応力の発生部位を示し、トーンが濃くなるほど残留応力が大きいことを示す。
【0007】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、上記残留応力を簡単な構造で低減可能とした伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、径方向外向きのフランジ部を外周に有して回転可能な伝動部材と、前記フランジ部を囲繞するハブ部を内周に有したリングギヤとを備え、前記フランジ部の外周面は、該フランジ部の軸方向一方側の側面より軸方向で内方側に延びていて前記ハブ部の内周面が嵌合、溶接される第1外周部と、前記第1外周部の軸方向内端に隣接する第2外周部とを少なくとも備え、前記第2外周部と前記ハブ部の内周面との相対向面間には、前記第1外周部と前記ハブ部との溶接部の軸方向内端が臨み且つ該溶接部よりも径方向の少なくとも外方側に拡がる環状の空洞部が画成される伝動装置において、前記ハブ部の前記軸方向一方側の側面には環状溝が、該環状溝と前記空洞部との軸方向位置を一部一致させるように凹設され、前記ハブ部は、前記環状溝を横切る横断面で見て、前記空洞部及び前記溶接部と前記環状溝とで挟まれた部分の途中が括れていると共に、その括れ部が、前記溶接部の熱収縮に伴い前記フランジ部及び前記ハブ部が相互に引張り合う力で該フランジ部の溶接部周辺に発生する残留応力を低減可能な肉厚に設定されていることを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記括れ部の最小肉厚が、前記溶接部の軸方向長さ以下であることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記括れ部の最小肉厚が、前記空洞部の径方向の最大幅よりも小さいことを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の特徴によれば、リングギヤのハブ部の側面に環状溝が空洞部と環状溝との軸方向位置を一部一致させるよう凹設され、ハブ部は、環状溝を横切る横断面で見て、空洞部及び溶接部と環状溝とで挟まれた部分の途中が括れていると共に、その括れ部が、溶接部の熱収縮に伴いフランジ部及びハブ部が相互に引張り合う力でフランジ部の溶接部周辺に発生する残留応力を低減可能な肉厚に設定されているので、この括れ部の特設によりハブ部の溶接部近傍の剛性を適度に弱めることができて、溶接部の熱収縮に因りフランジ部の溶接部周辺に発生する残留応力を低減可能となる。これにより、伝動部材は、フランジ部で残留応力が高くなることに因る遅れ破壊の発生を未然に効果的に防止可能となる。
【0012】
第2の特徴によれば、括れ部は、これの最小肉厚が、溶接部の軸方向長さを超えないようにしたので、この括れ部が溶接部との関係で厚肉となり過ぎる虞れはなく、所期の効果をより確実に達成可能となる。
【0013】
第3の特徴によれば、括れ部は、これの最小肉厚が空洞部の径方向(又は軸方向)最大幅よりも小さいので、この括れ部が空洞部との関係で厚肉となり過ぎる虞れはなく、所期の効果をより確実に達成可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る差動装置を示す要部縦断面図
図2図1の2部拡大断面図
図3】コンピュータによるシミュレーション解析で求めた、溶接後の冷却完了状態でのデフケースの残留応力分布を示す図2対応断面図
図4】比較例を示す図3対応断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0016】
先ず、図1において、車両(例えば自動車)のミッションケースMC内には、図示しない動力源(例えば車載のエンジン)からの動力を一対の出力軸としての車軸S1,S2に分配して伝達する差動装置10が収容される。差動装置10は、伝動装置の一例であって、本実施形態では金属製のデフケース3と、デフケース3に内蔵される差動ギヤ機構20とを備える。
【0017】
デフケース3は、内部に差動ギヤ機構20を収納した中空のケース本体3cと、ケース本体3cの右側部及び左側部に一体に連設されて第1軸線X1上に並ぶ第1,第2軸受ボス3b1,3b2と、ケース本体3cの外周部に径方向外向きに一体に形成された環状のフランジ部3fとを備える。ケース本体3cは、概略球体状に形成されており、それの内面3ciは、デフケース3の中心O回りの球面状に形成される。
【0018】
そして、第1及び第2軸受ボス3b1,3b2は、それらボス3b1,3b2の外周側において軸受13,14を介してミッションケースMCに第1軸線X1回りに回転自在に支持される。また第1及び第2軸受ボス3b1,3b2の内周面には、左右の車軸S1,S2がそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。
【0019】
尚、軸受ボス3b1,3b2と車軸S1,S2との嵌合面の一方には、その他方との相対回転に伴いミッションケースMC内の潤滑油をデフケース3内に送り込むねじポンプ作用を発揮し得る螺旋溝15,16が設けられる。
【0020】
デフケース3の上記フランジ部3fにはリングギヤRの内周部即ちハブ部Rbが、後述するように溶接及び圧入(又は嵌合)を組み合わせた固定手段を以て固定される。また図示例のフランジ部3fは、ケース本体3cの中心Oから軸方向一方側(即ち第1軸受ボス3b1側)にオフセット配置されており、そのオフセット方向でケース本体3cの外側面とフランジ部3fとの間に、上記軸方向一方側を向く環状の窪み32が形成される。
【0021】
リングギヤRは、ヘリカルギヤ(斜歯)状の歯部Ragを外周に有した短円筒状のリム部Raと、リム部Raより軸方向幅狭に形成されてリム部Raの内周側に一体に連設されたハブRbとを有しており、歯部Ragは、動力源に連なる変速装置の出力部となる駆動ギヤ50と噛合する。
【0022】
そして、駆動ギヤ50からの回転駆動力は、リングギヤR及びフランジ部3fを介してデフケース3のケース本体3cに伝達される。尚、図1において、歯部Ragは、表示を簡略化するために、歯筋に沿う断面表示とした。
【0023】
差動ギヤ機構20は、ケース本体3cの中心Oで第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置されてケース本体3cに支持されるピニオン軸21と、このピニオン軸21に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ22,22と、各ピニオンギヤ22と噛合し且つ第1軸線X1回りに回転可能な左右のサイドギヤ23,23とを備える。両サイドギヤ23,23は、差動ギヤ機構20の出力ギヤとして機能するものであり、両サイドギヤ23,23の内周面には、左右の車軸S1,S2の内端部がスプライン嵌合される。
【0024】
ピニオンギヤ22及びサイドギヤ23の各背面は、ケース本体3cの球面状をなす内面3ciにそれぞれピニオンギヤワッシャWp及びサイドギヤワッシャWsを介して(或いはワッシャを介さずに直接)回転自在に支承される。ケース本体3cの内面3ciの少なくともピニオンギヤ支持面及びサイドギヤ支持面となる部位は、デフケース3の鋳造後、後述する作業窓Hを通して旋盤等の加工装置により機械加工される。
【0025】
ピニオン軸21は、ケース本体3cの外周端部に形成されて第2軸線X2上に延びる一対のピニオン軸支持孔3chに挿通、保持される。またケース本体3cには、ピニオン軸21の一端部を横切るよう貫通する抜け止めピン17が挿着(例えば圧入)され、この抜け止めピン17により、ピニオン軸21のピニオン軸支持孔3chからの離脱が阻止される。
【0026】
そして、駆動ギヤ50からリングギヤRを経てデフケース3のケース本体3cに伝達された回転駆動力は、差動ギヤ機構20を介して一対の車軸S1,S2に対し差動回転を許容しつつ分配伝達される。尚、差動ギヤ機構20の差動機能は従来周知であるので、説明を省略する。
【0027】
またデフケース3は、図1点線で示すように、フランジ部3fよりも軸方向他方側(即ち第2軸受ボス3b2側)のケース本体3cの側壁に一対の作業窓Hを有する。この一対の作業窓Hは、第1,第2軸線X1,X2を含む仮想平面を挟んでその両側方に対称的に配置、形成される。各作業窓Hは、ケース本体3cの内面3ciに対する機械加工やケース本体3c内への差動ギヤ機構20の組付けを許容するための窓であり、その目的に即した十分大きい形状に形成される。
【0028】
次にデフケース3のフランジ部3fにリングギヤRのハブ部Rbを固定する構造の一例を、図2を併せて参照して説明する。
【0029】
フランジ部3fの外周面は、フランジ部3fの軸方向一方側(即ち第1軸受ボス3b1側)の第1側面sf1より軸方向で内方側に延びていてハブ部Rb内周の被溶接部B1が嵌合、溶接される第1外周部A1と、第1外周部A1の軸方向内端に隣接する第2外周部A2とを備える。第2外周部A2と、ハブ部Rb内周に凹設した空洞形成部B2との相対向面間には、環状で横断面矩形状の空洞部30が形成される。尚、第1外周部A1と被溶接部B1との、溶接前における嵌合は、軽圧入としてもよいし、或いはガタのない嵌合としてもよい。
【0030】
この空洞部30には、第1外周部A1とハブ部Rb(より具体的には被溶接部B1)との溶接部3wの軸方向内端が臨んでいる。そして、空洞部30は、溶接部3wよりも径方向の少なくとも外方側に(実施形態では内方側にも)拡がるように形成される。空洞部30は、溶接部3wで発生したガスを外部にスムーズに排出するガス抜き手段として利用可能である。尚、図示例の第2外周部A2は、第1外周部A1より径方向内方側に一段下がっているが、第1外周部A1と面一に連続させてもよい。
【0031】
更にフランジ部3fの外周面は、空洞部30よりも軸方向他方側(即ち第2軸受ボス3b2側)に位置決め用外周部A3を有しており、この位置決め用外周部A3は、第2外周部A2の軸方向内端から径方向内方側に下がった段状に形成される。そして、この位置決め用外周部A3には、ハブ部Rb内周に径方向内向きに突設した位置決め凸部B3を係合させる。その係合により、ハブ部Rbがフランジ部3fに対し径方向及び軸方向に各々、位置決めされる。
【0032】
その位置決めのために、位置決め用外周部A3は、ハブ部Rbをフランジ部3fに対し径方向に位置決めするよう位置決め凸部B3の内周面B3iを軸方向に圧入させる径方向位置決め面A3rと、ハブ部Rbをフランジ部3fに対し軸方向に位置決めするよう位置決め凸部B3の、第1外周部A1側の側面B3sを当接させる軸方向位置決め面A3aとを有する。尚、径方向位置決め面A3rと位置決め凸部B3の内周面B3iとの関係は、上記圧入に代えて、ガタのない嵌合としてもよい。
【0033】
その軸方向位置決め面A3aは、第2外周部A2の軸方向内端より、第1軸線X1と直交する仮想平面上で径方向内方側に延びている。そして、この軸方向位置決め面A3aの径方向内端部は、アール面を経て径方向位置決め面A3rに滑らかに連続する。また径方向位置決め面A3rは、第1軸線X1回りの円筒面状に形成されていて、フランジ部3fの軸方向他方側(即ち第2軸受ボス3b2側)の第2側面sf2に連続している。
【0034】
尚、位置決め凸部B3の内周面B3iの軸方向両端部には面取り面がそれぞれ設けられ、その各面取り面と位置決め面用外周部A3との間に空隙が形成される。
【0035】
またハブ部Rbの軸方向一方側(即ち第1軸受ボス3b1側)の第1側面sr1には、溶接部3wを同心状に囲繞する環状溝Grが、その環状溝Grと空洞部30との軸方向位置を一部一致させるように(従って十分深く)凹設されている。
【0036】
しかもハブ部Rbは、特に図2に明示したように環状溝Grを横切る横断面(換言すれば第1軸線X1を含む横断面)で見て、空洞部30及び溶接部3wと、環状溝Grとで挟まれた部分の途中が括れている。その括れ部Rbkは、溶接部3wの熱収縮に伴いフランジ部3f及びハブ部Rbが相互に引張り合う力で溶接部3w及びフランジ部3fの溶接部3w周辺に発生する残留応力を低減可能な肉厚に設定される。
【0037】
より具体的に言えば、例えば、括れ部Rbkの最小肉厚tMIN は、溶接部3wの軸方向長さtw以下に設定され、また空洞部30の、径方向及び軸方向の各最大幅trMAX ,taMAX よりも小さく設定される。
【0038】
次に第1実施形態の作用を説明する。
【0039】
デフケース3は、金属材料(例えばアルミ、アルミ合金、鋳鉄等)で鋳造成形されるものであり、その鋳造後にデフケース3の内面及び外面の所定部位(例えばケース本体3cの内面3ci、軸受ボス3b1,3b2の内外周、フランジ部3f、ピニオン軸支持孔3ch等)が機械加工される。
【0040】
その機械加工の終了したデフケース3内に、差動ギヤ機構20の各要素が作業窓Hを通して組み入れられると共に、そのデフケース3のフランジ部3fに対して、予め歯部Ragを形成加工したリングギヤRのハブ部Rbの内周部が、圧入及び溶接を併用して結合される。
【0041】
次にそのリングギヤRの結合作業について説明する。先ず、リングギヤRのハブ部Rbの被溶接部B1をフランジ部3fの第1外周部A1に嵌合させると共に、ハブ部Rbの位置決め凸部B3の内周面B3iを第3外周部A3の径方向位置決め面A3rに圧入させ、且つ位置決め凸部B3の内側面B3sを第3外周部A3の軸方向位置決め面A3aに当接させる。これにより、フランジ部3fに対するハブ部Rbの径方向及び軸方向の各位置決めが行われる。
【0042】
しかる後に、ハブ部Rbの被溶接部B1とフランジ部3fの第1外周部A1との嵌合部を溶接する。この溶接作業は、例えば、図2に鎖線で示すように、フランジ部3fの第1外周部A1と、ハブ部Rbの被溶接部B1との嵌合部外端に向けて溶接用レーザトーチTからレーザを照射し、且つその照射部位を該嵌合部外端の全周に亘り徐々に移動させるようにして行われる。
【0043】
かくして、デフケース3のフランジ部3fにリングギヤRのハブ部Rbの内周部が、圧入及び溶接を併用して定位置で強固に結合される。
【0044】
ところで図4には、本発明の技術的特徴(深い環状溝Gr及び括れ部Rbk)を有しない比較例が示される。このものでは、伝動ケース(伝動部材)としてのデフケース3におけるフランジ部3fと、リングギヤRのハブ部Rbとの溶接部3wが溶接時に熱膨張し、その溶接後に熱収縮することにより、フランジ部3f及びハブ部Rbの、溶接部3wを挟む部分が、図4に白抜き矢印で示すように、径方向で互いに接近する方向に大きな力で引張られる。
【0045】
この場合、リングギヤRは、内周側のハブ部Rbを含めて全体的に高剛性に構成されていて、元々の円環状形態を維持しようとするため、特に溶接部3wとフランジ部3fの溶接部3wの周辺部とがハブ部Rb側に強く引張られてしまい、当該部分に比較的高い残留応力が発生する傾向がある(図4の残留応力分布を参照)。
【0046】
これに対し、本実施形態によれば、リングギヤRのハブ部Rbの軸方向一方側(即ち溶接部3wが露出する側)の側面sr1に、軸方向内方側に窪んだ環状溝Grが空洞部30と環状溝Grとの軸方向位置を一部一致させるよう十分深く形成される。しかもハブ部Rbは、環状溝Grを横切る横断面(図1図2参照)で見て、空洞部30及び溶接部3wと環状溝Grとで挟まれた部分の途中が括れていると共に、その括れ部Rbkが、溶接部3wの熱収縮に伴いフランジ部3f及びハブ部Rbが相互に引張り合う力でフランジ部3fの溶接部3w及びその周辺部に発生する残留応力を低減可能な肉厚に設定される。
【0047】
従って、この括れ部Rbkの特設によりハブ部Hbの溶接部3w周辺部分の剛性を適度に弱めることができるため、図3でも明らかなように、比較例で顕著であったフランジ部3fの溶接部3w及びその周辺部での残留応力を低減可能としている。その結果、デフケース3は、フランジ部3f、特に溶接部3wの周辺部で残留応力が高くなることに因る遅れ破壊の発生を未然に効果的に防止可能となる。
【0048】
また特に本実施形態の括れ部Rbkは、これの最小肉厚tMIN が溶接部3wの軸方向長さtw以下の肉厚に抑えられているため、この括れ部Rbkが溶接部3wとの関係で厚肉となり過ぎる虞れはなく、即ち、ハブ部Hbの溶接部3w周辺部分の剛性が適度に弱められる。その結果、溶接部3wの熱収縮に起因してフランジ部3fの溶接部3w及びその周辺部に発生する残留応力をより確実に低減可能となる。
【0049】
更に括れ部Rbkは、これの最小肉厚tMIN が空洞部30の少なくとも径方向の最大幅trMAX (図示例では更に軸方向の最大幅taMAX よりも)小さく設定されるため、この括れ部Rbkが空洞部30との関係で厚肉となり過ぎる虞れはなく、即ち、ハブ部Hbの溶接部3w周辺部分の剛性が適度に弱められる。その結果、溶接部3wの熱収縮に起因してフランジ部3fの溶接部3w及びその周辺部に発生する残留応力をより確実に低減可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態では、伝動装置としての差動装置10を車両用差動装置、特に左右の駆動車輪間の差動装置として実施したものを示したが、本発明では、差動装置10を前後の駆動車輪間の差動装置として実施してもよく、或いはまた車両以外の種々の機械装置における差動装置として実施してもよい。
【0052】
さらに差動装置以外の伝動装置(例えば減速装置、増速装置、変速装置等)に本発明を適用してもよく、その場合は、その伝動装置のトルク伝達を担う回転ケース又は回転部材が伝動ケース又は伝動部材となる。
【0053】
また前記実施形態では、リングギヤRの歯部Ragをヘリカルギヤとしたものを示したが、本発明のリングギヤは、駆動ギヤ50との噛合により第1軸線X1に沿う方向のスラスト荷重を受ける歯形状の他のギヤ(例えばベベルギヤ、ハイポイドギヤ等)であってもよい。或いはまた、駆動ギヤ50との噛合により上記スラスト荷重を受けない歯形状のギヤ(例えばスパーギヤ)でもよい。
【0054】
また前記実施形態では、デフケース3のフランジ部3fに対し、予め歯部Ragを形成加工したリングギヤRのハブ部Rbを結合するようにしたものを示したが、歯部Rag形成前のリングギヤRをハブ部Rbに結合した後で歯部Ragを形成加工するようにしてもよい。
【0055】
また前記実施形態では、フランジ部3fとハブ部Rb間の溶接にレーザ溶接を採用したものを例示したが、本発明では、その他の溶接手法(例えば、電子ビーム溶接等)を用いてもよい。
【符号の説明】
【0056】
A1,A2・・第1,第2外周部
Gr・・・・・環状溝
R・・・・・・リングギヤ
Rb・・・・・ハブ部
Rbk・・・・括れ部
sf1・・・・フランジ部の軸方向一方側の側面としての第1側面
sr1・・・・ハブ部の軸方向一方側の側面としての第1側面
MIN ・・・・括れ部の最小肉厚
tw・・・・・溶接部の軸方向長さ
trMAX ・・・空洞部の径方向の最大幅
3・・・・・・伝動部材としてのデフケース
3f・・・・・フランジ部
3w・・・・・溶接部
10・・・・・伝動装置としての差動装置
30・・・・・空洞部
図1
図2
図3
図4