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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-89153(P2021-89153A)
(43)【公開日】2021年6月10日
(54)【発明の名称】変圧器の雷サージ応答の解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20210514BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20210514BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20210514BHJP
【FI】
   G01R31/00
   H01F27/00 H
   H01F41/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-217972(P2019-217972)
(22)【出願日】2019年12月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000242644
【氏名又は名称】北陸電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】特許業務法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 進
(72)【発明者】
【氏名】金谷 賢一
(72)【発明者】
【氏名】道下 幸志
【テーマコード(参考)】
2G036
5E059
【Fターム(参考)】
2G036AA02
2G036AA28
2G036BA03
2G036CA12
5E059AA04
5E059BB15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧および変圧器の雷故障を含む雷サージ応答の解析方法を提供する。
【解決手段】複数層が積層された1次巻線を有する変圧器の雷サージ応答の解析方法であって、変圧器の等価回路は、1次巻線が、全ての各層間部分または巻き始め側の第1層と第2層の層間部分を含む任意の層間部分とその他の層間部分とをそれぞれ構成要素とし、第1層と第2層の層間部分に発生する電圧が所定の条件を満たすと層間を短絡する絶縁破壊の等価回路が接続されたものであり、実測された変圧器のアドミタンス周波数特性に基づいて、等価回路の1次巻線の各層間部分のパラメータを求めるパラメータ導出過程と、等価回路に雷サージを模擬した電圧波形を入力して各層間部分に発生する電圧を求める電圧計算過程と、電圧計算過程で求められた電圧により絶縁破壊の等価回路が層間を短絡するか否かで雷故障の有無を判定する故障判定過程を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層が積層された1次巻線を有する変圧器の雷サージ応答の解析方法であって、
この変圧器の等価回路は、1次巻線が、全ての各層間部分をそれぞれ構成要素としたものまたは巻き始め側の第1層と第2層の層間部分を含む任意の層間部分とその他の層間部分とをそれぞれ構成要素としたものであり、
実測された変圧器のアドミタンス周波数特性に基づいて、等価回路の1次巻線の各層間部分のパラメータを求めるパラメータ導出過程と、
等価回路に雷サージを模擬した電圧波形を入力して各層間部分に発生する電圧を求める電圧計算過程を備えることを特徴とする変圧器の雷サージ応答の解析方法。
【請求項2】
変圧器の等価回路は、少なくとも第1層と第2層の層間部分に、発生する電圧が所定の条件を満たすと層間を短絡する絶縁破壊の等価回路が接続されたものであり、
電圧計算過程で求められた電圧により絶縁破壊の等価回路が層間を短絡するか否かで雷故障の有無を判定する故障判定過程を備えることを特徴とする請求項1記載の変圧器の雷サージ応答の解析方法。
【請求項3】
変圧器の等価回路は、1次巻線が、全ての各層間部分をそれぞれ構成要素としたものであることを特徴とする請求項1または2記載の変圧器の雷サージ応答の解析方法。
【請求項4】
変圧器の等価回路は、1次巻線が、第1層と第2層の層間部分とその他の層間部分とをそれぞれ構成要素としたものであることを特徴とする請求項1または2記載の変圧器の雷サージ応答の解析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧およびその電圧により発生する雷故障を含む雷サージ応答の解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線を構成する電柱の上に施設される配電用の柱上変圧器は、雷サージ(落雷により瞬間的に発生する高い電圧(雷過電圧)や電流のこと)による故障被害を受けやすい機器である。そこで従来、雷過電圧に対する柱上変圧器の挙動を解析するための様々な等価回路が提案されている。たとえば、図11に示すのは、非特許文献1において提案された等価回路である。なお、回路中の各構成要素の符号は、以下のものを表している。
:1次巻線のインピーダンス
11:1次巻線間(1+端子t1+と1−端子t1−の間)のアドミタンス
1G:1次巻線と大地の間のアドミタンス
2G:2次巻線と大地の間のアドミタンス
12:1次巻線と2次巻線の間のアドミタンス
22:2次巻線間(2+端子t2+と2−端子t2−の間)のアドミタンス
20:2次巻線間(2+端子t2+または2−端子t2−と0端子tの間)のアドミタンス
2l:2次巻線の自己インピーダンス
2m:2次巻線の相互インピーダンス
【0003】
この等価回路の各構成要素(回路素子)のパラメータは、以下のようにして決定される。まず、実際の柱上変圧器において、1次側および2次側の各端子の接続方法を変えた複数種類のアドミタンスを所定の周波数帯で測定する。そして、この測定したアドミタンス周波数特性から、回路理論とモード解析法により、パラメータが導出される。なお、回路理論によれば、測定したアドミタンスが、等価回路の構成要素を組み合わせた式で表されるものである。また、モード解析法は、共振に着目して回路素子のパラメータを決定する手法である。このような等価回路のパラメータの決定手法は、既知のものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】道下幸志,外2名,“配電用柱上変圧器の雷過電圧応答−変圧器容量への依存性−”,電気学会論文誌B,一般社団法人電気学会,2008年,128巻,1号,p.270−276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、雷サージが原因となって発生する柱上変圧器の故障には、主に1次ブッシングの故障と1次巻線の故障がある。しかしながら、非特許文献1の等価回路は、柱上変圧器の1次側から2次側または2次側から1次側への移行サージを計算するためのものであって、1次巻線はインピーダンスZのみで表されており、柱上変圧器の1次巻線における雷過電圧の発生様相は計算することができなかった。そしてこれに伴い、この1次巻線における雷過電圧が原因となる故障についても解析することができなかった。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みたものであり、変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧およびこの雷過電圧が原因となる変圧器の雷故障を含む雷サージ応答の解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数層が積層された1次巻線を有する変圧器の雷サージ応答の解析方法であって、この変圧器の等価回路は、1次巻線が、全ての各層間部分をそれぞれ構成要素としたものまたは巻き始め側の第1層と第2層の層間部分を含む任意の層間部分とその他の層間部分とをそれぞれ構成要素としたものであり、実測された変圧器のアドミタンス周波数特性に基づいて、等価回路の1次巻線の各層間部分のパラメータを求めるパラメータ導出過程と、等価回路に雷サージを模擬した電圧波形を入力して各層間部分に発生する電圧を求める電圧計算過程を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明においては、変圧器の等価回路は、少なくとも第1層と第2層の層間部分に、発生する電圧が所定の条件を満たすと層間を短絡する絶縁破壊の等価回路が接続されたものであり、電圧計算過程で求められた電圧により絶縁破壊の等価回路が層間を短絡するか否かで雷故障の有無を判定する故障判定過程を備えるものであってもよい。
【0009】
また、本発明においては、変圧器の等価回路は、1次巻線が、全ての各層間部分をそれぞれ構成要素としたものであってもよい。
【0010】
また、本発明においては、変圧器の等価回路は、1次巻線が、第1層と第2層の層間部分とその他の層間部分とをそれぞれ構成要素としたものであってもよい。
【0011】
ただし、上記の本発明において、変圧器の等価回路(1次巻線以外の部分)としては、上記の非特許文献1に記載されたもの(図11に示したもの)を用いることができる。また、以下において、1次巻線の各層間について、たとえば「第1層と第2層の層間」を、簡便に「1−2層間」と表記する。そして、上記の本発明において、1次巻線の「全ての各層間部分」とは、隣接する全ての層間、すなわち、1−2層間、2−3層間、3−4層間、・・・のことである。また、「第1層と第2層の層間部分を含む任意の層間部分」とは、少なくとも1−2層間を含み、さらにそれ以外の隣接する層間部分を含んでいてもよいということであり、たとえば1つ置きで、1−2層間、3−4層間、5−6層間、・・・などのことである。さらに、「その他の層間部分」とは、「第1層と第2層の層間部分を含む任意の層間部分」に含まれなかった部分をひとまとめにした部分のことである。そして、それらについてそれぞれ構成要素とするとは、従来提案されている等価回路のように1次巻線の全体をインピーダンスという1つのパラメータのみで表すのではなく、各層間部分に分割してそれぞれを回路素子とみなして、それぞれにパラメータを設定するということである。また、絶縁破壊の等価回路について、発生する電圧の「所定の条件」とは、電圧の値(電位差)や波形に基づいて定められるものであり、たとえば、所定値以上の電位差が発生する場合などである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、変圧器の1次巻線を詳細に模擬した等価回路とすることにより、従来は計算することができなかった1次巻線に発生する雷過電圧について、計算することができるようになる。なお、変圧器の1次巻線に雷サージが侵入した際の各層間部分に発生する電圧を実測した結果、巻き始め側の1−2層間部分に最も大きな過電圧が発生することが分かっている。本発明は、その1−2層間部分について個別の構成要素として模擬することで、高い精度が得られる。
【0013】
また、故障判定過程を備えるものであれば、求められた1次巻線に発生する雷過電圧に基づき、1次巻線で発生する雷故障(絶縁破壊)の有無を計算することができる。これにより、変圧器の1次巻線の雷故障を防ぐための雷害対策の検討および評価が可能となる。
【0014】
また、等価回路の1次巻線について、全ての各層間部分をそれぞれ構成要素とすれば、1次巻線に発生する雷過電圧および1次巻線の雷故障の計算において、より高い精度が得られる。
【0015】
また、等価回路の1次巻線について、1−2層間部分とその他の部分とをそれぞれ構成要素とすれば、等価回路が簡易な構成となるので、より簡便に1次巻線に発生する雷過電圧および1次巻線の雷故障について計算することができるようになる。そして上記のとおり、実際には1−2層間部分に最も大きな過電圧が発生するので、1−2層間部分のみを個別の構成要素とするだけで十分な精度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の方法における変圧器の等価回路である。
図2】変圧器本体の構造を示す説明図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
図3】変圧器の1次巻線の構造を示す模式図である。
図4】変圧器の1次巻線の構造の詳細および雷事故の様相を示す模式図である。
図5】変圧器にインパルス電圧を入力する実験の回路図である。
図6】変圧器の1次巻線の雷サージ応答特性の実測値を示すグラフである。
図7】変圧器の1次巻線のアドミタンス周波数特性を測定する際の、1次側と2次側の各端子の接続状態を示す説明図である。
図8】(a)〜(c)は、変圧器の1次巻線のアドミタンス周波数特性を測定する際の、1次巻線の端子の接続状態を示す説明図である。
図9】変圧器に入力するインパルス電圧波形を示すグラフである。
図10】変圧器の1次巻線の1−2層間に発生する電圧の実測値と計算値を示すグラフである。
図11】非特許文献1において提案された変圧器の等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な内容について説明する。本発明の変圧器の雷サージ応答の解析方法は、種々の変圧器に適用できるものであるが、ここでは配電用の柱上変圧器を対象とする場合を例に挙げる。
【0018】
柱上変圧器は、電柱に取り付けられるものであって、変電所から送られてくる6600Vの電気を、一般の家庭などで使用する100Vまたは200Vの電気に変圧するためのものである。一般的な柱上変圧器は、円筒状の筐体を有しており、筐体の内部に変圧器本体が収容されている。図2に示すように、変圧器本体は、内鉄型のものであって、矩形環状の鉄心10と、鉄心10の対向する2辺にそれぞれ巻き付けた正相巻線20と負相巻線30を備える。正相巻線20と負相巻線30は、それぞれ外周側の1次巻線21,31と、内周側の2次巻線22,32からなるものである。より詳しくは、図4に示すように(正相側を示すが、負相側も同様である)、鉄心10に筒状に絶縁紙41が巻き付けられており、その外周側に2次巻線22が巻き付けられている。さらに2次巻線22の外周側に筒状に絶縁紙42が巻き付けられており、その外周側に1次巻線21が巻き付けられている。そして、筐体の内部は絶縁油で満たされている。筐体の外側には、変圧器本体の1次巻線21,31に接続された2本の1次ブッシング(1+端子と1−端子)と、変圧器本体の2次巻線22,32に接続された3本の2次ブッシング(2+端子と2−端子と0端子)が設けられている。そして、1次ブッシングは高圧線に接続されており、2次ブッシングは低圧線に接続されていて、高圧線に印加された6600Vの電圧が、柱上変圧器により変圧され、低圧線に100Vまたは200Vの電圧が印加される(2+端子または2−端子と0端子の間が100V、2+端子と2−端子の間が200Vである)。以下、柱上変圧器について、単に変圧器ともいう。
【0019】
このような変圧器について、上記のとおり、図11に示すような等価回路が提案されており、破線で囲まれた部分が、変圧器の1次巻線に相当する部分である。ここで、1次巻線の構成について、さらに詳述する。図3の模式図に示すように、この変圧器の1次巻線は、正相(図の左側)と負相(図の右側)のそれぞれにおいて、13層が積層されている。実際の変圧器本体においては、第1層Lが最も内周側に位置しており、第1層Lから巻き始めて、外周側に向けて第2層L、第3層L、・・・と積層された構造である。なお、図4に示すように(正相側を示すが、負相側も同様である)、各層間には絶縁紙43が挟まれている。正相の第1層Lから引き出された端子は、変圧器の1+端子t1+に接続されており、負相の第1層Lから引き出された端子は、変圧器の1−端子t1−に接続されている。また、正相の第12層L12の途中から第1タップTが、第13層L13の終端から第2タップTが、負相の第13層L13の終端から第3タップTが、第13層L13の途中から第4タップTがそれぞれ引き出されている。タップは、変圧比を変えるための口出し線である。なお、図3中のA〜Fおよびa〜fは、正相および負相において、それぞれ2−3層間、4−5層間、・・・、12−13層間から引き出した端子を表す。これらの端子は、実際の変圧器には存在せず、本発明の説明・確認のためのものである。
【0020】
そして、実際に雷サージによる雷故障が生じた変圧器を調査すると、1次巻線21,31の故障は、主に1次ブッシングに最も近い1−2層間(図3の1+端子t1+と端子Aの間および1−端子t1−と端子aの間)で発生していることが確認された。図4にも、そのような雷故障BD(Break Down)の様相を模式的に示している。
【0021】
また、このことを数値的に確認するために、変圧器に雷サージを模擬したインパルス電圧を入力する実験を行った。図5に示すのは、実験の回路図である。インパルス電圧発生装置200により、変圧器100の1+端子および1−端子と、ケースアース間に、電圧を印加した。この回路により、変圧器100に対して、0.3/50μS、0.7/50μS、1.1/50μSの3種類のインパルス電圧を印加した(波頭長/波尾長を表す)。
【0022】
図6に示すのが、実験の結果を示すグラフであり、変圧器の1次巻線の各層間に発生した電圧を示す。より詳しくは、横軸は各層間に対応しており、たとえば、1+−Aは図3の1+端子t1+と端子Aの間、すなわち1−2層間を表し、A−Bは端子Aと端子Bの間、すなわち3−4層間を表す。縦軸は、入力電圧の波高値に対する出力電圧の波高値の比である。これによれば、3種類の何れのインパルス電圧の場合においても、印加端である1+端子t1+、1−端子t1−に最も近い1−2層間の電圧が最も高く、印加端から離れると電圧が急激に小さくなることが確認された。
【0023】
これらの事項を踏まえて、本発明では、変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧および変圧器の1次巻線の雷故障を解析するために、1次巻線を従来よりも詳細に模擬した等価回路を用いることにする。1次巻線を最も詳細に模擬しようとすれば、隣接する全ての層間、すなわち、1−2層間、2−3層間、3−4層間、・・・について分割してそれぞれ構成要素としたものも考えられるが、ここでは、1次巻線について、1−2層間部分と、その他の層間部分(3−13層間部分)とに分割した等価回路を用いる。図6に示した上記の実験結果によれば、雷サージにより変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧は、1−2層間で最も高く、その他の層間では十分に小さいといえる。よって、1−2層間のみを個別の構成要素とすれば、変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧および変圧器の1次巻線の雷故障を解析するための十分な精度が得られると考えられ、かつ構成要素の数が抑えられるので計算が容易になる。
【0024】
図1に示すのが、このように詳細に模擬された1次巻線を含む変圧器の等価回路である。破線で囲まれた部分が、1次巻線に相当する部分であり、1次巻線以外の部分は、図11に示す従来の等価回路と同様である。なお、回路中の各構成要素の符号は、以下のものを表している(これら以外は図11と同じである)。
1−2:1次巻線の1−2層間のアドミタンス
3−13:1次巻線のその他の層間(3−13層間)のアドミタンス
:1次巻線の1−2層間とその他の層間(3−13層間)の相互アドミタンス
【0025】
1次巻線の部分についてより詳しくは、「1−2層間」については、1−2層間のアドミタンスY1−2と1−2層間とその他の層間の相互アドミタンスYを直列接続したものとして表される。また、「その他の層間」については、その他の層間のアドミタンスY3−13と1−2層間とその他の層間の相互アドミタンスYを直列接続したものとして表される。よって、図1に示すように、1次巻線は、正相側と負相側のそれぞれにおいて、Y1−2、Y、Y3−13、Yの4つの要素を直列接続したものとして表される。
【0026】
さらに、この等価回路の1−2層間部分には、絶縁破壊の等価回路が接続されている。絶縁破壊の等価回路は、所定値以上の電位差が発生すると、1−2層間を短絡するものであり、ここでは、所定値以上の電位差が発生すると「入」となるスイッチSで表されるものであって、このスイッチSが、正相側と負相側のそれぞれにおいて、1−2層間のアドミタンスY1−2および1−2層間とその他の層間の相互アドミタンスYと並列に接続されている。
【0027】
このような変圧器の等価回路に基づき、本発明の変圧器の雷サージ応答の解析方法が実行される。この雷サージ応答の解析方法は、まず、変圧器に発生する雷過電圧を解析するための過程として、実測された変圧器のアドミタンス周波数特性に基づいて、等価回路の1次巻線の各層間部分のパラメータを求めるパラメータ導出過程と、等価回路に雷サージを模擬した電圧波形を入力して1−2層間部分に発生する電圧を求める電圧計算過程を備える。さらに、変圧器の雷故障を解析するための過程として、電圧計算過程で求められた電圧により、絶縁破壊の等価回路が層間を短絡するか否かで雷故障の有無を判定する故障判定過程を備える。
【0028】
まず、パラメータ導出過程が実行される。パラメータ導出過程では、まず、実際の変圧器において、1次巻線の各端子の接続方法を変えた複数種類のアドミタンスを所定の周波数帯で測定する。この際、変圧器の1次側と2次側の各端子は、図7に示すような接続状態となっている。すなわち、変圧器100の1+端子t1+が、アドミタンス測定の+端子Mに接続されており、変圧器100の1−端子t1−、2+端子t2+、2−端子t2−および0端子tが、G端子に接続(すなわち変圧器の筐体に接続)されたうえでアドミタンス測定の−端子Mに接続されている。また、1次巻線については、図8(a)〜(c)に示すような3種類の接続方法で測定される。すなわち、図8(a)の場合、1+端子t1+には他の端子が接続されておらず、1−端子t1−には正相側の端子Fおよび負相側の端子a〜端子fが接続されている。図8(b)の場合、1+端子t1+には正相側の端子Aが接続されており、1−端子t1−には正相側の端子Fおよび負相側の端子a〜端子fが接続されている。図8(c)の場合、1+端子t1+には他の端子が接続されておらず、1−端子t1−には正相側の端子A〜端子Fおよび負相側の端子a〜端子fが接続されている。そして、この測定したアドミタンス周波数特性から、回路理論とモード解析法により、パラメータが導出される。
【0029】
各パラメータについて、より具体的には、以下のように導出される。1−2層間のアドミタンスY1−2については、図8(a)の場合のアドミタンス周波数特性から図8(b)の場合のアドミタンス周波数特性を引き算し、得られたアドミタンス周波数特性から、回路理論とモード解析法により、パラメータが導出される。その他の層間のアドミタンスY3−13については、図8(a)の場合のアドミタンス周波数特性から図8(c)の場合のアドミタンス周波数特性を引き算し、得られたアドミタンス周波数特性から、回路理論とモード解析法により、パラメータが導出される。1−2層間とその他の層間の相互アドミタンスYについては、図8(b)の場合のアドミタンス周波数特性と図8(c)の場合のアドミタンス周波数特性を足し算し、そこから図8(a)の場合のアドミタンス周波数特性を引き算し、得られたアドミタンス周波数特性から、回路理論とモード解析法により、パラメータが導出される。
【0030】
続いて、電圧計算過程が実行される。電圧計算過程では、等価回路に、雷サージを模擬した電圧波形を入力する。先のパラメータ導出過程において、等価回路の各構成要素のパラメータが決定されているので、入力に対する等価回路の応答を計算することが可能であり、1次巻線の1−2層間部分に発生する電圧も求められる。
【0031】
続いて、故障判定過程が実行される。上記のとおり、等価回路の1−2層間部分には、絶縁破壊の等価回路を表すスイッチSが接続されており、先に求められた1−2層間部分に発生する電位差が所定値以上であれば、スイッチSが「入」となり、1−2層間が短絡される。すなわち、絶縁破壊が模擬されることになる。故障判定過程では、この短絡の発生の有無が検知され、短絡が発生すれば、雷故障が発生したと判定され、短絡が発生しなければ、雷故障が発生していないと判定される。なお、スイッチSが「入」となる電位差の所定値は、実際の変圧器における雷故障についての実測値から定められるものであり、たとえば、変圧器の1次巻線を構成する絶縁紙などの絶縁破壊電圧から求められる。
【0032】
ここで、本発明の雷サージ応答の解析方法の妥当性を検証するために、変圧器の1次巻線の1−2層間部分に発生する電圧について、計算値と、実際の変圧器における実測値を比較する。印加電圧は、図9に示すような、1.1/50μSのインパルス電圧とし、実測については、図5に示す回路を用いた。図10に示すのが、その計算値と実測値を併せて示したグラフである。特に最初のピークについて、計算値と実測値とは、よく一致している。そして、雷故障の観点からは、最も振幅が大きい最初のピークが問題となるため、そこがよく一致する結果が得られた本発明の方法は、実用上十分な精度のものである。
【0033】
このような本発明の変圧器の雷サージ応答の解析方法によれば、変圧器の1次巻線を詳細に模擬した等価回路とすることにより、従来は計算することができなかった1次巻線に発生する雷過電圧について、計算することができるようになる。特に、変圧器の1次巻線に雷サージが侵入した際には巻き始め側の1−2層間部分に最も大きな過電圧が発生することから、1次巻線を、1−2層間部分とその他の部分とに分割してそれぞれを構成要素として模擬することで、実用上十分に高い精度が得られるものであり、かつ、等価回路が簡易な構成となるので、簡便に計算することができる。そして、上記のようにして求められた1次巻線に発生する雷過電圧に基づき、1次巻線で発生する雷故障(絶縁破壊)の有無を計算することができる。これにより、変圧器の1次巻線の雷故障を防ぐための雷害対策の検討および評価が可能となる。
【0034】
なお、コンピュータを、本発明の変圧器の雷サージ応答の解析方法を実行する、変圧器の雷サージ応答の解析装置として機能させることができる。このコンピュータからなる変圧器の雷サージ応答の解析装置は、上記のような変圧器の雷サージ応答の解析方法に基づき、変圧器に発生する雷過電圧を求め、それにより発生する雷故障の有無を判定するものである。この解析装置は、パラメータ導出手段と、電圧計算手段と、故障判定手段を備える。各手段は、コンピュータがそれぞれの手段として機能するものである。
【0035】
コンピュータは、キーボードやマウスなどからなる入力装置、ディスプレイなどからなる出力装置、プログラムの命令を順番に実行するCPU、プログラムやプログラムの実行に必要なデータおよび計算結果などを保存しておく記憶装置を構成要素とする標準的なものである。
【0036】
そして、コンピュータにおいて、変圧器の雷サージ応答の解析プログラムを実行させることにより、装置が動作して、本発明の変圧器の雷サージ応答の解析方法に基づき、変圧器に発生する雷過電圧を求め、変圧器の雷故障の有無を判定するものである。
【0037】
より詳しくは、このプログラムをコンピュータに実行させた場合、各ステップ(パラメータ導出ステップ、電圧計算ステップ、故障判定ステップ)が実行されることで、コンピュータが各種の手段(パラメータ導出手段、電圧計算手段、故障判定手段)として機能し、雷過電圧および雷故障の解析を行う。
【0038】
このプログラムを実行すると、まずパラメータ導出ステップが実行され、コンピュータが、パラメータ導出手段として機能する。パラメータ導出手段は、実際の変圧器において各端子の接続方法を変えた複数種類のアドミタンスを所定の周波数帯で測定した測定値の入力を受け付ける。入力は、コンピュータに接続された測定器(LCRメータなど)により測定されたデータが取り込まれるものであってもよいし、別途測定されたデータが入力装置により手入力されるものであってもよい。入力された測定値は、記憶装置に保存される。そして、パラメータ導出手段は、記憶装置から、測定値および予め保存された回路理論とモード解析法に基づく計算式を読み込み、測定値を計算式に代入して、等価回路のパラメータを求める。パラメータは、記憶装置に保存される。
【0039】
次に、電圧計算ステップが実行され、コンピュータが、電圧計算手段として機能する。電圧計算手段は、雷サージを模擬した電圧波形の入力を受け付ける。電圧波形は、記憶媒体に保存されたデータが読み込まれるものであってもよいし、入力装置から波形を定める数値が手入力されるものであってもよい。入力された電圧波形は、記憶装置に保存される。そして、電圧計算手段は、記憶装置から、電圧波形、予め保存された等価回路およびパラメータ導出ステップにおいて求められたパラメータを読み込み、電圧波形の入力に対する等価回路の応答を計算する。これにより、1次巻線の1−2層間部分に発生する電圧も求められる。求められた電圧は、記憶装置に保存される。
【0040】
次に、故障判定ステップが実行され、コンピュータが、故障判定手段として機能する。故障判定手段は、電圧計算手段において計算された電圧波形の入力に対する等価回路の応答に基づき、絶縁破壊の等価回路を表すスイッチが「入」となって1−2層間部分の短絡が発生したか否かを検出する。そして、短絡が発生すれば、雷故障が発生したと判定し、短絡が発生しなければ、雷故障が発生していないと判定する。判定結果は、記憶装置に保存されるとともに、コンピュータの出力装置に表示される。以上で、プログラムが終了し、変圧器の雷サージ応答の解析装置による解析が完了する。
【0041】
なお、この変圧器の雷サージ応答の解析プログラムは、専用のソフトウェアとして実行されるものであっても、汎用の表計算ソフトウェアなどの上で実行されるものであってもよいし、別のプログラムやシステムに組み込まれたものであってもよい。また、電圧計算手段として、汎用の電子回路シミュレーションソフトウェアを用いてもよい。
【0042】
また、上記で説明した本発明の変圧器の雷サージ応答の解析方法における変圧器の等価回路は、1次巻線について、1−2層間部分とその他の層間部分とに分割してそれぞれを構成要素としたものであったが、それ以外の構成にしてもよい。ただし、上記のとおり、雷サージにより変圧器の1次巻線に発生する雷過電圧は、1−2層間で最も高いので、少なくとも、1−2層間部分については個別に構成要素とすることで、実用上十分に高い精度が得られる。
【0043】
上記以外の1次巻線の構成の例として、たとえば、隣接する全ての層間、すなわち、1−2層間、2−3層間、3−4層間、・・・についてそれぞれを構成要素としてもよい。この場合、「i−i+1層間」については、i−i+1層間のアドミタンスYi−i+1とi−i+1層間とそれ以外の層間の相互アドミタンスYMi−i+1を直列接続したものとして表される。よって、全ての層間について構成要素とした場合の1次巻線の等価回路は、Y1−2、YM1−2、Y2−3、YM2−3、・・・、Yi−i+1、YMi−i+1、・・・が直列接続されたものとなる。
【0044】
さらに、他の1次巻線の構成の例として、たとえば、隣接する層間の1つ置き、すなわち、1−2層間、3−4層間、5−6層間、・・・についてそれぞれを構成要素としてもよい。その場合、2−3層間、4−5層間、・・・がひとまとめの「その他の層間」となる。また、1−2層間、2−3層間およびその他の層間(4−13層間)の3つをそれぞれ構成要素としたり、1−2層間、2−3層間、3−4層間およびその他の層間(5−13層間)の4つをそれぞれ構成要素としたりしてもよい。
【0045】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨の範囲内で適宜変更できる。たとえば、変圧器の等価回路のパラメータを求める手法としては、既知の種々の手法を用いることができる。また、変圧器の等価回路において、絶縁破壊の等価回路を表すスイッチが、1−2層間部分以外に設けられていてもよい。また、絶縁破壊の等価回路としては、上記のように電位差に基づくもののほか、積分法に基づくものや、V−t交差法に基づくものなど、既知の種々のものを用いることができる。さらに、本発明は、柱上変圧器以外の種々の変圧器に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
10 鉄心
20 正相巻線
21 1次巻線(正相側)
22 2次巻線(正相側)
30 負相巻線
31 1次巻線(負相側)
32 2次巻線(負相側)
41,42,43 絶縁紙
100 変圧器
200 インパルス電圧発生装置
S スイッチ
1+ 1+端子
1− 1−端子
2+ 2+端子
2− 2−端子
0端子
第1タップ
第2タップ
第3タップ
第4タップ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11