【解決手段】可変容量素子101は、第1の電極層11と第2の電極層13と第1の電極層と第2の電極層に挟まれたイオン伝導性誘電体層12を有する。イオン伝導性誘電体層は、MeX(Meは1価および2価の金属より選ばれる1以上、Xはリン酸(PO
前記イオン伝導性誘電体層は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)の群から選ばれる1以上の金属添加物を含む、請求項1から7の何れか1記載の可変容量素子。
第1の電極層および/または第2の電極層は、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)より選ばれる1以上を含む請求項1から10の何れか1記載の可変容量素子。
前記第1の電極層と前記第2の電極層の少なくとも一方が電気的に共通線に接続された請求項1から14の何れか1記載の可変容量素子が少なくとも2以上配置された、共振器。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信体技術の進化により、無線周波数帯のブロードバンド化が急激に進められている。このブロードバンド化を進める上で欠かせないものは、広範囲の周波数帯域で動作する無線の送受信回路(共振器)であり、そのための容量素子である。
【0003】
従来、この要請に応えるために、各周波数に対応する幾つもの容量素子をあらかじめ選択して共振器に搭載し、使用する周波数帯域に応じて対応する容量素子をその都度切り替えて使用するという方法が採用されていた。しかし、この方法では、多数の容量素子が必要となるために部品点数の増加を招き、その結果、これらを配置するためのスペースが必要となり、機器が大型化するという問題があった。
そこで、この問題を解決するために、使用する広範囲の周波数帯域に対応しうる可変容量素子の開発が求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、誘電体として空乏層を用いる、一般に「バラクタ」と称される可変容量素子が記載されている。具体的には、バラクタは、pn接合のp型半導体とn型半導体との界面、またはMIS構造の絶縁膜と半導体との界面などに形成される空乏層の厚みを電圧によって制御することで静電容量を調節できることが記載されている(段落[0002])。さらに、MIS構造においてダイヤモンド半導体を使用することによって、高温でも動作する可変容量素子が得られることが記載されている(段落[0011])。
しかしながら、バラクタダイオードは、消費電力や損失が大きく、今後の携帯電話の高性能化、高機能化への対応には限界があるという問題点が指摘されている(特許文献3参照)。また、このような空乏層の厚みを電圧によって制御する可変容量素子は、高周波での誘電損失が大きいため、一般に、大きなリーク電流と発熱も問題となり、また、容量可変率も小さく、使用できる周波数も限定的である。
【0005】
また、特許文献2には、微小電気機械システム(MEMS)技術で作製されたアクチュエータを使用した可変容量素子(MEMS可変容量素子)が記載されている。具体的には、MEMS可変容量素子は、例えば、一端が基板主面に接続され、他端が基板主面の上方に保持されたアクチュエータに設けられた可動電極と、可動電極に対向する基板主面上に設けられた固定電極と、を有し、アクチュエータにより可動電極と固定電極との間の距離を変化させることで、これらの電極間の静電容量を変化させるものであることが記載されている。さらに、MEMS可変容量素子を携帯電話等の高周波向けの用途に応用した場合、高いQ値を実現することが記載されている。
しかしながら、RF−MEMSを用いた可変容量素子は、容量値が小さい、衝撃に弱い、応答速度が遅い、微細な3次元精密加工が必要であるため高価である等の問題があることが指摘されている(特許文献3)。また、このようなMEMSを用いた可変容量素子は、アクチュエータ部の動作の信頼性やパッケージ技術の難しさ、さらには、製造コストが高いという問題がある。
【0006】
また、特許文献3には、他の可変容量素子として、チタン酸バリウムストロンチウムや、チタン酸ストロンチウム等のペロブスカイト型の高誘電率誘電体材料を用いることが記載され、具体的には、誘電体材料の誘電率のバイアス電界依存性を利用した薄膜可変容量素子が記載されている。
しかしながら、これらのペロブスカイト型の高誘電率誘電体材料を用いた可変容量素子は、高周波信号に対する損失が大きいという問題があることが指摘され、そのQ値も小さいという問題がある。また、このような高周波信号に対する損失特性を改善するために、ペロブスカイト型の高誘電率誘電体材料に添加物を加える試みも行われているが、それにより容量変化率が大きく損なわれてしまうという問題も指摘されている。
【0007】
一方、特許文献4には、固体電解質が、リチウムイオン伝導性固体電解質である、Li
αZr
βM
γ(PO
4)
3(但し、MはAl、Ga、In、及び希土類元素から選択される少なくとも1種の金属であり、α、β、γは、1.1<α≦1.8、0.03≦γ/β≦0.5、α>1+γ)を、50体積%以上含むことを特徴とするキャパシタが記載され、卑金属を含む電極材料とリチウムイオン伝導性固体電解質材料とを低酸素雰囲気で焼成して製造した場合でも、焼結体密度などの優れた特性を有するキャパシタが得られることが記載されている。
しかしながら、特許文献4には、専ら、焼結体密度、イオン伝導度、及び静電容量に着目したキャパシタ、並びに、電極材料と固体電解質材料と焼成時の雰囲気を規定したキャパシタの製造方法が記載されているにとどまり、広範囲の周波数帯域に対応しうる可変容量素子については記載も示唆もされていない。
【0008】
特許文献5には、第1の電極層、誘電体層内をイオンが移動して静電容量が変化するイオン伝導性誘電体層、および第2の電極層が順次積層された可変容量素子(可変キャパシタ素子)が記載されている。そこでは、イオン伝導性誘電体層として、酸化シリコン(SiO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化タングステン(WO
3)、酸化ハフニウム(HfO
2)、酸化チタン(TiO
2)、酸化バナジウム(V
2O
5)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)又はこれらの混晶、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルビロリドン、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレートのいずれかの高分子、さらにこれらの高分子に銀電解質塩、銅電解質塩、ニッケル電解質塩、マグネシウム電解質塩、鉄電解質塩、コバルト電解質塩、またはマンガン電解質塩のいずれかの金属塩を含ませた高分子電解質、ヨウ化銀(AgI)、ヨウ化銅(CuI)、ヨウ化リチウム(LiI)、臭化銀(AgBr)、臭化銅(CuBr)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化銀ルビジウム(RbAg4I5)のいずれかのハロゲン化が例示されている。
しかしながら、特許文献5に記載の可変容量素子は、周波数に対し容量の変化が大きく、高い周波数では十分な容量を得ることが難しいという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する本発明の詳細な説明は、代表的な態様、実施形態、及び実施例に基づいてなされることがあるが、これらは例示であり、本発明はそのような態様、実施形態、及び実施例に限定されるものではない。
なお、「A〜B」は、A以上B以下を示す。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の可変容量素子の第1の態様(容量可変のキャパシタ)を説明する。その可変容量素子101の構造の概要を
図1に示す。
本発明の第1の態様は、第1の電極層11上にイオン伝導性誘電体層12および第2の電極層13が順次積層された構造、言い換えれば、イオン伝導性誘電体層12が第1の電極層11と第2の電極層13に挟まれた構造で、イオン伝導性誘電体層12がMeXからなる単層の膜からなる容量素子101である。
ここで、Meは1価および2価の金属より選ばれる1以上であり、Xはリン酸(PO
4)、ケイ酸(SiO
4)、リン酸およびケイ酸塩ガラス材料の群より選ばれる1以上である。Meの具体例としては、リチウム(Li)、銀(Ag)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)の群より選ばれる1以上を挙げることができる。この中で、MeXは、リン酸リチウム(Li
3PO
4)が特に高いイオン伝導性をもつという点から、イオン伝導性誘電体層12の材料として特に好ましい。高い伝導性を有すると容量素子101の周波数特性が向上する。
なお、MeとXの比率は、可変容量の電気特性を確保する観点から、モル比率で1:2〜4:1が適する。
【0017】
第1の電極層11は、それに適度な剛性を持たせて基板とすることができる。また基板上(図示なし)に第1の電極層11が形成されていてもよい。また、第2の電極層13に適度な剛性を持たせて第2の電極層13を基板とすることもできるし、基板上(図示なし)に第2の電極層13が形成されていてもよい。
【0018】
ここで、基板としては、その上に積層される層構成を保持できるものであれば、いかなる材料及び形状のものを用いることができ、例えば、シリコンなどの半導体、酸化物などのガラス、プラスチックからなる任意の形状の基板を使用することができる。また、基板には、これらの材料を複合し、あるいは積層して用いてもよく、例えば、シリコン上に二酸化珪素を形成した積層体を基板として用いてもよい。また、基板がプラスチックからなる場合は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート又はポリイミドなどを用いてもよい。また、基板は柔軟な材料で構成されていてもよく、かかる材料を使用することにより、フレキシブルな容量素子の作製が可能となる。基板を柔軟な材料で構成したり、基板を平坦で且つ薄厚のものとすることにより、本発明の可変容量素子101を、ペーパーディスプレイやフラットディスプレイの駆動回路に応用しやすくなるという利点がある。
【0019】
以下、基板を用いた場合で、基板上に第1の電極層11が形成される場合を説明するが、基板上に形成される電極層が第2の電極層13である場合は、第1の電極層11を第2の電極層13に読み替えればよい。
この場合、基板と第1の電極層11の間に、絶縁層または密着層(図示なし)を配置してもよい。
絶縁層または密着層としては、基板と第1の電極層11との間の絶縁性を確保できるもの、あるいは密着性を高めるものであれば、いかなる材料のものも用いることができる。例えば、基板上に、絶縁層または密着層として、任意の酸化物層を形成してもよい。特に、基板がシリコンであって、第1の電極層11が白金の場合は、基板と第1の電極層11との間に、絶縁層又は密着層として二酸化珪素を形成することが好ましい。絶縁層又は密着層の形成にあたっては、塗布法、スパッタリング法、真空蒸着法など、任意の既知の方法を適宜使用することができる。
【0020】
第1の電極層11は、導電性の材料であれば用いることができるが、非活性化電極という観点から貴金属材料より選ばれる1以上を含む材料を好んで用いることができる。具体的には、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)より選ばれる1以上を挙げることができる。単体の金属でもよいし、これらの金属を含む合金でもよい。また導電性の化合物でもよい。
【0021】
第2の電極層13も、導電性の材料であれば用いることができるが、非活性化電極という観点から貴金属材料より選ばれる1以上を含む材料を好んで用いることができる。具体的には、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)より選ばれる1以上を挙げることができる。単体の金属でもよいし、これらの金属を含む合金でもよい。また導電性の化合物でもよい。
ここで、第2の電極層13は第1の電極層11の材料と同じでも異なっていてもよい。
【0022】
第1の電極層11および第2の電極層13の材料は、気体の透過性が少ない材料が、素子電気特性を安定化する上で好ましい。特に、イオン伝導性誘電体層12にLiが用いられる場合、大気や水分に触れると水和反応による特性劣化等の問題を引き起こしやすくなるので、気体の透過性が少ないことが好ましい。ここで、第1の電極層11および第2の電極層13の材料の気体の透過性の問題は、後述のパッシベーション膜などを併用することでも対処することができる。
第1の電極層11および第2の電極層13の厚さは、同じであっても異なっていてもよく、電気抵抗、エレクトロマイグレーション等の素子動作時の経時変化耐性、グレインや成膜時の均一性、面内分布、気体透過性などを総合的に鑑みて個別に設定すればよいが、例えば10nm以上10μm以下とすることができる。
なお、イオン伝導性誘電体層12と接する第1の電極層11または/および第2の電極層13にはチタン(Ti)や窒化チタン(TiN)などの密着性の高い金属または金属を含有する密着層を形成してもよい。この層が形成されていると、第1の電極層11または/および第2の電極層13とイオン伝導性誘電体層12との剥離が抑制され、使用時の温度環境変化や機械刺激への耐久性が高まる。特に、容量素子101を柔軟な材料で構成し、しなやかでフレキシブルな容量素子101にするときは、密着層を設けるのが好ましい。密着層はスパッタリング法などで容易に形成することができる。
【0023】
イオン伝導性誘電体層12は、前述のように、MeXからなる単層の膜である。
ここで、イオン伝導性誘電体層12の厚さは、良好な可変容量特性を得る観点から、上限としては1μm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。下限としては、絶縁耐圧の観点から、5nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。
【0024】
次に、イオン伝導性誘電体層12の役割について、イオン伝導性誘電体層12のMeがリチウム(Li)で、第1の電極層11と第2の電極層13が白金(Pt)からなる場合を例示として、
図2を参照しながら説明する。但し、これは1つの例であって、Me、第1の電極層11および第2の電極層13は、上述の材料に置き換えても同様である。
【0025】
第1の電極層11と第2の電極層13の間に電圧が印加されていない場合は、Liイオン(Li
+)はイオン伝導性誘電体層12内に均一に分布する(図示なし)。
【0026】
第2の電極層側が正になるように第1の電極層11と第2の電極層13の間に電圧を印加すると、
図2(a)に示すように、Liイオンは、第1の電極層11に向かって移動し、第1の電極層11のイオン伝導性誘電体層12との界面あるいはその近傍に蓄積する。
このとき、2つの効果によって静電容量が変化する。一つは、高ドープされた第1の電極層11界面付近のイオン伝導性誘電体層12の誘電率が変調される効果によるものであり、もう一つは、第1の電極層11界面付近に集まったLiイオンによってイオン伝導性誘電体層12の実効的な厚さが薄くなることによるものである。
この2つの効果により、容量素子101の静電容量Cは、印加電圧の関数として変化し、第1の電極層11と第2の電極層12の間に印加する電圧が高いほど、静電容量Cは小さくなる。
【0027】
一方、第2の電極層側が負になるように第1の電極層11と第2の電極層13の間に電圧を印加すると、
図2(b)に示すように、Liイオンは、第2の電極層13に向かって移動し、第2の電極層13のイオン伝導性誘電体層12との界面あるいはその近傍に蓄積する。
このとき、2つの効果によって静電容量が変化する。一つは、高ドープされた第2の電極層13界面付近のイオン伝導性誘電体層12の誘電率が変調される効果によるものであり、もう一つは、第2の電極層13界面付近に集まったLiイオンによってイオン伝導性誘電体層12の実効的な厚さが薄くなることによるものである。
この2つの効果により、容量素子101の静電容量Cは、印加電圧の関数として変化し、第1の電極層11と第2の電極層12の間に印加する電圧が高いほど、静電容量Cは小さくなる。
【0028】
電圧を印加することを止めると、第1の電極層11または第2の電極層13の界面あるいはその近傍に蓄積したLiイオンは、イオン伝導性誘電体層12を拡散し、均一化する。したがって、容量素子101は、電圧を印加しているときにのみ静電容量が変化する、いわゆる揮発性動作の素子である。
【0029】
上記のことから、容量素子101は、第1の電極層11と第2の電極層12の間に印加する電圧の向きによらず、その電圧の絶対値が高いほど、言い換えれば電極層間に大きなバイアス電圧をかけるほど、静電容量Cが小さくなる単極性の容量特性を有することを1つの特徴としている。
【0030】
また、発明者は、MeXの単層の膜からなるイオン伝導性誘電体層12において、Meが1価および2価の金属より選ばれる1以上であり、Xがリン酸(PO
4)、ケイ酸(SiO
4)、リン酸およびケイ酸塩ガラス材料の群より選ばれる1以上である場合には、第1の電極層11と第2の電極層12の間に印加する交流電圧に対して、電気容量(キャパシタ)は比較的フラットな周波数特性を有することと、環境温度に対して電気容量が変化することを発見した。
容量素子101はフラットな周波数特性を有するため、本発明の第1の態様の可変容量素子101は、利便性が高い。
また、本発明の第1の態様の可変容量素子101は、温度による容量制御が可能になる。温度による容量制御は、外部から加熱や冷却により容量を制御することが可能な容量素子になるとともに、素子が置かれた環境の温度により容量が変化する温度センサーとしての活用も可能となる。ここで、加熱、冷却する方法としては、ヒーター、ペリチェ素子を用いる方法を挙げることができる。
【0031】
また、イオン伝導性誘電体層12は、窒素(N)を含むとイオン電導度が向上して、容量素子101の周波数特性が向上する。
イオン伝導性誘電体層12の窒素の含有量は、1原子%以上15原子%以下が好ましく、2原子%以上15原子%以下がより好ましい。窒素の含有量がこの範囲にあると、特にイオン伝導性誘電体層12内のイオン電導度が向上し、高い周波数まで十分な容量が確保される良好な周波数特性が得られる。
【0032】
また、イオン伝導性誘電体層12は、+3価から+5価の価数をとる金属より選ばれる1以上の金属添加物を含むとイオン電導度が向上して電気容量素子101の周波数特性が向上する。+3価から+5価の価数をとる金属の例としては、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)の群から選ばれる1以上の金属添加物を挙げることができる。
イオン伝導性誘電体層12におけるこの金属添加物の含有量は、1原子%以上10原子%以下が、イオン伝導性誘電体層12内のイオン電導度を向上させ、高い周波数まで十分な容量が確保される良好な周波数特性を得る上で好ましい。
なお、イオン伝導性誘電体層12は、窒素と上記金属添加物を両方添加されていることが、相乗効果も加わって、より高いイオン電導度が得られる可能性がある。
【0033】
前述のように、容量素子101はパッシベーション膜(図示なし)で覆われていることが好ましい。パッシベーション膜で覆われると、気体や水の透過性が抑制され、素子電気特性を安定化する上で好ましい。特に、イオン伝導性誘電体層12にLiが用いられる場合、イオン伝導性誘電体層12に大気や水分が混入すると水和反応による特性劣化の問題を引き起こしやすくなるが、パッシベーション膜でこの問題を解決することが可能になる。
パッシベーション膜としては、例えば、窒化シリコン(SiN
x)膜、酸化シリコン(SiO
2)膜、酸化タンタル(TaO
x)膜、酸化窒化シリコン(SiO
xN
y)膜を挙げることができる。その厚さは、特に限定はないが、例えば10nm〜100nmとすればよい。
【0034】
容量素子101は、既知の方法により効率良く簡便に作製することができる。
例えば、シリコンなどの半導体、酸化物などのガラス、プラスチックなどからなる基板を準備し、必要に応じて基板上に密着層や絶縁体層を形成し、その上に第1の電極層11を形成する。あるいは必要な剛性を有する第1の電極層11を、基板を兼ねて準備する。
密着層や絶縁体層は、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、蒸着法、キャスト法、スピンコート法などの通常の成膜法を用いて形成することができる。
第1の電極層11は、スパッタリング法、真空蒸着法、PLD(Pulse Laser Deposition)法などの方法で形成できる。
次に、イオン伝導性誘電体層12を、第1の電極層11の上に、RFスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、PLD法、またはスピンコート法などで形成する。
その後、第2の電極層13を、イオン伝導性誘電体層12の上に、スパッタリング法、真空蒸着法、PLD(Pulse Laser Deposition)法などの方法で形成する。
以上の工程によって、イオン伝導性誘電体層12が第1の電極層11と第2の電極層13に挟まれた構造の容量素子101が製造される。
なお、第2の電極層13形成後、CVD法、スパッタリング法、または/およびスピンコート法などでパッシベーション膜を形成してもよい。
【0035】
(実施の形態2)
実施の形態2として、本発明の可変容量素子の第2の態様(容量可変のキャパシタ)を説明する。その可変容量素子102の構造の概要を
図3に示す。
本発明の第2の態様は、第1の電極層11上に第1の誘電体層21と第2の誘電体層22の2層からなるイオン伝導性誘電体層12および第2の電極層13が順次積層された構造、言い換えれば、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22の2層からなるイオン伝導性誘電体層12が、第1の電極層11と第2の電極層13に挟まれた構造の容量素子102である。
【0036】
ここで、第1の誘電体層21はMeXからなる。
実施の形態1で示した電気容量素子101と同様に、Meは、1価および2価の金属より選ばれる1以上であり、Xは、リン酸(PO
4)、ケイ酸(SiO
4)、リン酸およびケイ酸塩ガラス材料の群より選ばれる1以上である。
Meの具体例としては、リチウム(Li)、銀(Ag)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)の群より選ばれる1以上を挙げることができる。この中で、MeXは、リン酸リチウム(Li
3PO
4)が特に高いイオン伝導性をもつという点から、イオン伝導性誘電体層12の材料として特に好ましい。高い伝導性を有すると容量素子102の周波数特性が向上する。
なお、MeとXの比率は、可変容量の電気特性を確保する観点から、モル比率で1:2〜4:1が適する。
【0037】
第2の誘電体22は、リチウム(Li)、銀(Ag)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上の金属を含む電子伝導性の材料からなる。例えば、Liの場合はコバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4、Li
2MnO
3、Li
2Mn
2O
4)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO
4)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO
4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、リチウム複合酸化物の群より選ばれる1以上からなる。
【0038】
第1の誘電体21の厚さは5nm以上1μm以下が好ましく、15nm以上100nm以下がさらに一層好ましい。
第2の誘電体22の厚さは5nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下がさらに一層好ましい。
第1の誘電体21および第2の誘電体22の厚さが上記の範囲に収まると、誘電体22は誘電体21に対してイオンのリザーバー層として働く効果が得られる。
【0039】
実施の形態1と同様に、第1の電極層11は、それに適度な剛性を持たせて基板とすることができる。また基板上(図示なし)に第1の電極層11が形成されていてもよい。また、第2の電極層13に適度な剛性を持たせて第2の電極層13を基板とすることもできるし、基板上(図示なし)に第2の電極層13が形成されていてもよい。なお、基板としては、実施の形態1に記載したものを好んで用いることができる。
【0040】
以下、基板を用いた場合で、基板上に第1の電極層11が形成される場合を説明するが、基板上に形成される電極層が第2の電極層13である場合は、第1の電極層11を第2の電極層13に読み替えればよい。この際、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22も第2の誘電体層22と第1の誘電体層21と読み替える。
この場合、基板と第1の電極層11の間に、絶縁層または密着層(図示なし)を配置してもよい。
絶縁層または密着層としては、実施の形態1と同様に、基板と第1の電極層11との間の絶縁性を確保できるもの、あるいは密着性を高めるものであれば用いることができる。
【0041】
第1の電極層11は、導電性の材料であれば用いることができるが、非活性化電極という観点から貴金属材料より選ばれる1以上を含む材料を好んで用いることができる。具体的には、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)より選ばれる1以上を挙げることができる。単体の金属でもよいし、これらの金属を含む合金でもよい。また導電性の化合物でもよい。
【0042】
第2の電極層13も、導電性の材料であれば用いることができるが、非活性化電極という観点から貴金属材料より選ばれる1以上を含む材料を好んで用いることができる。具体的には、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)より選ばれる1以上を挙げることができる。単体の金属でもよいし、これらの金属を含む合金でもよい。また導電性の化合物でもよい。
ここで、第2の電極層13は第1の電極層11の材料と同じでも異なっていてもよい。
【0043】
第1の電極層11および第2の電極層13の材料は、実施の形態1と同様に、気体の透過性が少ない材料が、素子電気特性を安定化する上で好ましい。特に、イオン伝導性誘電体層12にLiが用いられる場合、大気や水分に触れると水和反応による特性劣化等の問題を引き起こしやすくなるので、気体の透過性が少ないことが好ましい。
第1の電極層11および第2の電極層13の厚さは、同じであっても異なっていてもよく、電気抵抗、エレクトロマイグレーション等の素子動作時の経時変化耐性、グレインや成膜時の均一性、面内分布、気体透過性などを総合的に鑑みて個別に設定すればよいが、例えば10nm以上100nm以下とすることができる。
なお、第1の誘電体層21と接する第1の電極層11、または/および第2の誘電体層22と接する第2の電極層13には、チタン(Ti)や窒化チタン(TiN)などの密着性の高い金属または金属を含有する密着層を形成してもよい。この層が形成されていると、第1の電極層11と第1の誘電体層21、または/および第2の電極層13と第2の誘電体層22との剥離が抑制され、使用時の温度環境変化や機械刺激への耐久性が高まる。特に、容量素子102を柔軟な材料で構成し、しなやかでフレキシブルな容量素子102にするときは、密着層を設けるのが好ましい。密着層はスパッタリング法などで容易に形成することができる。
【0044】
次に、容量素子102の動作メカニズムとそこから生み出される特性を、第1の誘電体層21がリン酸リチウム(Li
3PO
4)、第2の誘電体層22がコバルト酸リチウム(LiCoO
2)、第1の電極層11と第2の電極層13が白金(Pt)からなる場合を例示として、
図3を参照しながら説明する。
【0045】
第1の電極層11と第2の電極層13の間に電圧が印加されていない場合は、Liイオン(Li
+)はイオン伝導性誘電体層12内に均一に分布する(図示なし)。
【0046】
次に、第1の電極層(11)側が負になるように第1の電極層11と第2の電極層13の間に電圧を印加すると、
図4(a)に示すように、誘電体層21内のLiイオンは第1の電極層11に向かって移動する。同時に、誘電体層22のLiが誘電体層21と22の界面でLiイオンになり、誘電体層21内を第1の電極層11に向かって移動する。これらのイオンが第1の電極層11と誘電体層21との界面あるいはその近傍に蓄積する。
【0047】
このとき、下記の効果によって静電容量が変化する。誘電層22から誘電層21に注入されるLiイオンの数は印加電圧が大きくなるほど増加するため、誘電層21の誘電率の変調や実効的な膜厚の減少も大きくなる。
この効果により、容量素子102の静電容量Cは、印加電圧の関数として変化し、第1の電極層11と第2の電極層13の間に印加する電圧が高いほど、静電容量Cは大きくなる。
【0048】
一方、第1の電極層11側が正になるように第1の電極層11と第2の電極層13の間に電圧を印加すると、
図4(b)に示すように、誘電体層21内のLiイオンは第2の電極層13と誘電体層22に向かって移動する。こられのイオンの一部は誘電体層21と22の界面でLiになり誘電体層22に注入される。
このとき、下記の効果によって静電容量が変化する。誘電体層22に注入されるLiイオンの数は印加電圧が大きくなるほど増加し、その結果、誘電体層21内のLiイオンの数は減少する。このイオン数の減少により、誘電層21の誘電率の変調や実効的な膜厚の減少も小さくなる。
この効果により、容量素子102の静電容量Cは、印加電圧の関数として変化し、第1の電極層11と第2の電極層12の間に印加する電圧(負電圧)が高いほど、静電容量Cは小さくなる。
【0049】
電圧を印加することを止めると、第1の電極層11または第2の電極層13の界面あるいはその近傍に蓄積したLiイオンは、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22からなるイオン伝導性誘電体層12を拡散し、均一化する。したがって、容量素子102は、電圧を印加しているときにのみ静電容量が変化する、いわゆる揮発性動作の素子である。
【0050】
上記のことから、容量素子102は、第1の電極層11と第2の電極層12の間に印加する電圧の正負の向きによって、静電容量が変わる双極性の容量特性を有することを1つの特徴としている。
【0051】
また、第1の誘電体層21および第2の誘電体層22の2層からなるイオン伝導性誘電体層12は、窒素(N)を含むとイオン電導度が向上して、容量素子102の周波数特性が向上する。
イオン伝導性誘電体層12の窒素の含有量は、1原子%以上15原子%以下が好ましく、2原子%以上15原子%以下がより好ましい。窒素の含有量がこの範囲にあると、特にイオン伝導性誘電体層12内のイオン電導度が向上し、良好な周波数特性が得られる。
【0052】
また、イオン伝導性誘電体層12は、+3価から+5価の価数をとる金属より選ばれる1以上の金属添加物を含むとイオン電導度が向上して電気容量素子102の周波数特性が向上する。+3価から+5価の価数をとる金属の例としては、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)の群から選ばれる1以上の金属添加物を挙げることができる。
イオン伝導性誘電体層12におけるこの金属添加物の含有量は、1原子%以上10原子%以下が、イオン伝導性誘電体層12内のイオン電導度を向上させ、良好な周波数特性を得る上で好ましい。
なお、イオン伝導性誘電体層12は、窒素と上記金属添加物を両方添加されていることが、相乗効果も加わって高いイオン電導度が得られ、好ましい。
【0053】
容量素子102はパッシベーション膜(図示なし)で覆われていることが好ましい。パッシベーション膜で覆われると、気体や水の透過性が抑制され、素子電気特性を安定化する上で好ましい。特に、イオン伝導性誘電体層12にLiが用いられる場合、イオン伝導性誘電体層12に大気や水分が混入すると水和反応による特性劣化等の問題を引き起こしやすくなるが、パッシベーション膜でこの問題を解決することが可能になる。
パッシベーション膜としては、例えば、窒化シリコン(SiN
x)膜、酸化シリコン(SiO
2)膜、酸化タンタル(TaO
x)膜、酸化窒化シリコン(SiO
xN
y)膜を挙げることができる。その厚さは、特に限定はないが、例えば10nm〜100nmとすればよい。
【0054】
容量素子102は、既知の方法により効率良く簡便に作製することができる。
例えば、シリコンなどの半導体、酸化物などのガラス、プラスチックなどからなる基板を準備し、必要に応じて基板上に密着層や絶縁体層を形成し、その上に第1の電極層11を形成する。あるいは必要な剛性を有する第1の電極層11を、基板を兼ねて準備する。
密着層や絶縁体層は、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、蒸着法、キャスト法、スピンコート法などの通常の成膜法を用いることができる。
第1の電極層11は、スパッタリング法、真空蒸着法、PLD(Pulse Laser Deposition)法などの方法で形成できる。
次に、第1の誘電体層21を、第1の電極層11の上に、RFスパッタリング法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、PLD法、またはスピンコート法などで形成する。
その後、第2の誘電体層22を、第1の誘電体層21の上に、RFスパッタリング法、ALD法、PLD法、またはスピンコート法などで形成する。
しかる後、第2の電極層13を、第2の誘電体層22の上に、スパッタリング法、真空蒸着法、PLD(Pulse Laser Deposition)法などの方法で形成する。
以上の工程によって、第1の誘電体層21および第2の誘電体層22の2層からなるイオン伝導性誘電体層12が第1の電極層11と第2の電極層13に挟まれた構造の容量素子102が製造される。
なお、第2の電極層13形成後、CVD法、スパッタリング法、または/およびスピンコート法などでパッシベーション膜を形成してもよい。
【0055】
(実施の形態3)
実施の形態3として、本発明の可変容量素子を有する共振器について、その共振器103の電気回路図である
図5を参照しながら説明する。
共振器103は、電源(直流電源、バイアス電源)E、電気抵抗R
1,R
2、容量素子(コンデンサー)C、インバーターI、実施の形態1または2に示した可変容量素子C
V、および出力端子Oからなる。ここで、インバーターIとしては、例えばシュミットトリガーインバーターを用いることができるが、それに限るものではなく、COMSインバーターやOPアンプなど他のインバーターも使用することができる。
バイアス電源(直流電源)Eとしては、例えば電圧が1.5Vとか3Vのようなバッテリーを用いることができ、また可変容量素子C
vをはじめ、各パーツがコンパクトで発熱等も少ないことから、共振器103も簡素で非常にコンパクトなものにすることができる。
【0056】
可変容量素子C
Vの容量をバイアス電圧Eにより所定の値に調整することにより、共振器103を所望の周波数で共振させることができる。
ここで、可変容量素子C
Vとして実施の形態1または2に記載の可変容量素子を用いると、実施の形態1および2に記載の可変容量素子は高い周波数まで容量を可変できるので、高周波対応の共振器として使用できる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、必ずしも下記の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
Si上に二酸化珪素を形成したSiO
2/Si基板上に、第1の電極層11として白金(Pt)、イオン伝導性誘電体層12としてリン酸リチウム(Li
3PO
4)からなる単層の膜、および第2の電極層13として白金を、順次積層した容量素子101を作製した。
ここで、第1の電極層11および第2の電極層13は、電子線蒸着法により形成し、その厚さは第1の電極層11、第2の電極層13ともに50nmとした。
また、イオン伝導性誘電体層12は、Li
3PO
4をターゲットとしたRFスパッタリング法により形成した。スパッタリングの条件は、N
2ガス(0.5Pa)下、100Wとした。イオン伝導性誘電体層12の厚さは30nmであり、第2の電極層13のサイズは50μm×50μmである。
【0060】
次に、作製した容量素子101の容量−周波数特性を交流インピーダンス法により測定した。
【0061】
図6は、バイアス電圧を1V刻みで−2Vから+2Vまで印加したときの容量−周波数特性であり、同図中の挿入図は、100Hzでの電気容量(キャパシタ)のバイアス電圧依存性を示す。リン酸リチウムの単層の膜をイオン伝導性誘電体層12として有する容量素子101は、
図6から、約100Hzに変曲点を有する容量−周波数特性を示し、100Hzより低周波数側では周波数に対して電気容量の変化が小さいフラットな特性を有することがわかる。前述のように、周波数に対してフラットな容量特性は利便性が高い。
容量素子101は、バイアス電圧印加により、低周波数側で大きな静電容量変化が得られると共に、より高周波数側での静電容量変化ももたらすことが示されている。
また、バイアス電圧の符号によらず、バイアス電圧の絶対値が大きいほど電気容量が小さくなる単極性の可変容量特性を有することもわかる。
【0062】
図7は、容量素子101の容量−周波数特性の環境温度依存性を示す。
具体的には、容量素子101をペリチェ素子あるいはヒーターに接して配置し、容量素子101の温度を25℃刻みで−50℃から75℃まで変えて、各温度での容量−周波数特性を測定した。ここで、
図7(a)および(b)は、それぞれ、バイアス電圧V
DCが0V、2Vのときを示す。また、
図7(b)には印加されるバイアス電圧が2Vのときの0Vのときとの容量の比(C
2V/C
0V)の周波数依存性を環境温度をパラメータにして示した図も挿入図として載せている。
図7から、容量素子101は環境温度に依存した可変容量特性を有すること、温度が高いほど電気容量、適応周波数ともは大きくなること、および周波数の高い領域までフラットな周波数特性の領域は高周波数側まで伸びる特性を有することがわかる。また、容量の比C
2V/C
0Vは、温度−50℃では周波数によらず約1であるが、−50℃より高温になると、周波数の増加に伴い容量の比C
2V/C
0Vが小さくなり、極小点を経て、今度は大きくなる変曲点を有する周波数特性を有すること、およびその変曲点は温度の上昇に伴い高周波数側にシフトすることがわかる。
【0063】
図8は、容量素子101を複数並列に接続したときの容量−周波数特性を示す。具体的には、容量素子101を1,2,4および8並列接合させたときの容量−周波数特性を、それぞれ
図8(a),(b),(c)および(d)に示す。
図8から、容量素子101を複数並列に接続すると接続する個数分に応じて容量が増えることがわかる。この際、周波数特性に有意な差は認められない。したがって、適用に当たっては、必要な容量が得られるような個数分容量素子101を並列接続して使用すればよいことがわかる。
【0064】
(比較例1)
Si上に二酸化珪素を形成したSiO
2/Si基板上に、第1の電極層として白金、イオン伝導性誘電体層としてTa
2O
5からなる単層の膜、および第2の電極層13として白金を、順次積層した容量素子を比較例として作製した。
ここで、第1の電極層および第2の電極層は、電子線蒸着法により形成し、その厚さは第1の電極層、第2の電極層ともに50nmとした。
また、イオン伝導性誘電体層12は、Ta
2O
5をターゲットとしたRFスパッタリング法により形成した。スパッタリングの条件は、Arガス(0.5Pa)下200Wとした。イオン伝導性誘電体層12の厚さは15nmであり、第2の電極層13のサイズは50μm×50μmである。
【0065】
図9は、バイアス電圧を0.2V刻みで0Vから1.0Vまで印加したときの容量−周波数特性である。
Ta
2O
5をイオン伝導性誘電体層として有する容量素子は、
図9から、高いバイアス電圧を印加するほど大きな容量が得られるものの、周波数が上がるほど急激に容量は低下し、バイアス電圧0.8Vでは10Hzで、1.0Vでは30Hzで容量はほぼ0になることがわかる。
イオン伝導性誘電体層12をリン酸リチウムとした実施例1の容量素子は、上述のように、100Hzで大きな容量が得られており、1kHzでも容量が認められ、実施例1は良好な周波数特性を有することが認められる。
【0066】
(実施例2)
Si上に二酸化珪素を形成したSiO
2/Si基板上に、第1の電極層11として白金(Pt)、第1の誘電体層21としてリン酸リチウム(Li
3PO
4)からなる単層の膜、第2の誘電体層22としてコバルト酸リチウム(LiCoO
2)からなる単層の膜、および第2の電極層13として白金を、順次積層した容量素子102を作製した。したがって、容量素子102は、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22の2層の膜からなるイオン伝導性誘電体層12を有する。
ここで、第1の電極層11および第2の電極層13は、電子線蒸着法により形成し、その厚さは第1の電極層11、第2の電極層13ともに50nmとした。
第1の誘電体層21は、Li
3PO
4をターゲットとしたRFスパッタリング法により形成した。スパッタリングの条件は、N
2ガス(0.5Pa)下、100Wとした。
第2の誘電体層22は、LiCO
2をターゲットとしたRFスパッタリング法により形成した。スパッタリングの条件は、ArとO
2の混合ガス(0.5Pa)下、70Wとした。
なお、第1の誘電体層21と第2の誘電体層22の厚さはそれぞれ30nmおよび15nmであり、第2の電極層13のサイズは50μm×50μmである。
【0067】
次に、作製した容量素子102の容量−周波数特性を交流インピーダンス法により測定した。
図10は、バイアス電圧を1V刻みで−2Vから+2Vまで印加したときの容量−周波数特性であり、同図中の挿入図は、100Hzでの電気容量(キャパシタ)のバイアス電圧依存性を示す。
リン酸リチウムからなる第1の誘電体層21とコバルト酸リチウムからなる第2の誘電体層22の2層の膜をイオン伝導性誘電体層12として有する容量素子102は、
図10から、バイアス電圧印加により、低周波数側で大きな静電容量変化が得られると共に、より高周波数側での静電容量変化をすることがわかる。
また、バイアス電圧が値として大きくなるほど、電気容量が大きくなる双極性の可変容量特性を有することもわかる。つまり、負の大きなバイアス電圧をかけるほど電気容量は下がり、正の大きなバイアス電圧をかけるほど電気容量が大きくなることがわかる。
【0068】
(実施例3)
実施例3では、
図11に示すように、実施例1で作製した容量素子C
Vを組み込んだ共振器104を用いて、その共振特性を評価した。ここで、共振器104は実施の形態3の共振器103に準拠している。抵抗R
1は1MΩ、容量素子Cは0.047μFとし、可変容量素子C
Vは実施例1で作製した4個の可変容量素子C
1,・・・C
4を並列に接続したものとした。
【0069】
バイアス電源Eの電圧V
cを1V刻みで0Vから3Vまで変化させたときの出力電圧V
OUT、すなわち発振信号特性を
図12に示す。ここで、環境温度は75℃とした。
図12から、10KHzの発振が確認された。
【0070】
抵抗R
1を1MΩ、300kΩおよび100kΩにしたときの発振周波数のバイアス電圧V
c依存性を
図13に示す。この測定では、
図12の場合と同様に、可変容量素子C
vは実施例1で作製した4個の可変容量素子を用い、環境温度は75℃とした。
その結果、発振周波数は可変容量素子C
vに印加するバイアス電圧V
cに依存して変わり、バイアス電圧V
cを上げるほど発振周波数が上がることが確認された。なお、抵抗R
1が100kΩでバイアス電圧V
cが3Vのときに、約5kHzの発振周波数が得られた。
常温(25℃)環境での発振特性を、可変容量素子C
vの並列接続数をパラメータにして調べた。その結果を
図14に示す。ここで、抵抗R
1は1MΩとした。
可変容量素子C
vの並列接続数を6個以上に高めると発振周波数のばらつきが抑えられて、発振特性が安定することが確認された。なお、エラーバーは発振周波数揺らぎの範囲を表している。