【実施例】
【0036】
以下に示す材料を用いた。
(1)成分(A)
[重合体a]
重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。当該固体触媒は、MgCl
2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。当該固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの重量比が11、TEAL/DCPMSの重量比が10となるような量で、−5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度を、それぞれ75℃、0.23モル%とし、圧力を調整することよって、MFRが7.0g/10分のプロピレン単独重合体aを製造した。
【0037】
[重合体b]
重合体aの重合反応器において、水素濃度を0.11モル%に変更して、MFRが3.2g/10分のプロピレン単独重合体bを製造した。
[重合体c]
重合体aの重合反応器において、水素濃度を0.08モル%に変更して、MFRが2.5g/10分のプロピレン単独重合体cを製造した。
【0038】
[重合体d]
重合体aの重合反応器において、水素濃度を0.07モル%に変更して、MFRが2.2g/10分のプロピレン単独重合体dを製造した。
[重合体e]
重合体aの重合反応器において、水素とプロピレンに加えエチレンをフィードするとともに、エチレン濃度を0.10モル%、水素濃度を0.09モル%として、MFRが2.5g/10分、0.4重量%のエチレン由来単位を含むプロピレン共重合体eを製造した。
【0039】
[重合体f]
重合体aの製造過程で得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、液相状態のプロピレンをフィードして成分(A1)であるプロピレン単独重合体を製造し、二段目の気相重合反応器で成分(A2)であるエチレン−プロピレン共重合体を製造し、成分(A1)と成分(A2)からなる重合混合物であるMFRが7.0g/10分の重合体fを得た。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。重合温度と反応物の比率は、一段目の重合反応器では、重合温度、水素濃度がそれぞれ75℃、0.42モル%、二段目の重合反応器では、重合温度、水素濃度、C2/(C2+C3)が、それぞれ75℃、1.44モル%、0.53モル比であった。なお、成分(A2)の含有割合が20重量%となるように一段目と二段目の滞留時間分布を調整した。得られた重合体fにおける成分(A2)のエチレン由来単位含有割合とキシレン可溶分の極限粘度(XSIV)は、それぞれ55重量%と2.7dl/gであった。
【0040】
[重合体g]
重合体aの重合反応器において、水素濃度を0.31モル%に変更して、MFRが10g/10分のプロピレン単独重合体gを製造した。
[重合体h]
重合体eの製造過程において、エチレン濃度を1.30モル%、水素濃度を0.40モル%として、MFRが5.0g/10分、5.3重量%のエチレン由来単位を含むプロピレン共重合体hを製造した。
【0041】
(2)成分(B)
タルク(ネオライト興産株式会社製ネオタルクUNI05(レーザ回折法によって測定した体積平均粒子径:5μm)を用いた。
【0042】
[実施例1−1]
50重量部の重合体a、50重量部のタルク、酸化防止剤として0.1重量部のBASF社製B225、および中和剤として0.05重量部の淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレートをヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合物を得た。次いで、当該混合物をスクリュー温度230℃に設定した押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX−30α同方向二軸押出機)に供して溶融混練(二軸機溶融混練)した。さらに、溶融混合物を押出機から吐出し、冷却してストランドを形成し、そのストランドを裁断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0043】
プレス成形機(株式会社ショージ製)を用いて、前記樹脂組成物のペレットを210℃、10MPaで120秒間熱プレスして10cm×10cm以上の大きさの原反シートを得た。原反シートの融点Tm1は167℃であった。Bruckner社製フィルム延伸装置(KARO)を用いて、当該原反シートを165℃で120秒間加熱した後、50mm/secの速度で6倍×6倍で同時二軸延伸し、厚さ80μmの単層二軸延伸フィルムを得た。すなわち、二軸延伸温度(T)は165℃であり、T−Tm1は−2℃であった。得られた単層二軸延伸フィルムのTm2は174℃であった。ここで、原反シートの融点Tm1、および単層二軸延伸フィルムの融点Tm2は、JIS K7271に従いDSCを用いて室温(23℃)から融解温度(230℃)まで10℃/分の条件で加熱した際に観測される、最も高温側にあるピークトップ温度である。
【0044】
[実施例1−2]
原反シートの厚さを変更した以外は、実施例1−1と同じ方法で二軸延伸を行い厚さ15μmの単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。本例で得た単層二軸延伸フィルムの主面の画像の一部を
図1に示した。
【0045】
[実施例2−1]
タルクの量を変更した以外は、実施例1−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。
【0046】
[実施例2−2]
実施例2−1で調製したペレットを、Tダイを装着した25mmφ3種3層フィルム・シート成形機(サーモ・プラスティックス工業株式会社製)に供して成形温度230℃で押出成形し、厚さ1.0mmの原反シートを調製した。当該原反シートを用い、実施例1−1と同じ方法で二軸延伸を行い厚さ25μmの単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。
【0047】
[実施例2−3]
原反シートの厚さを変更した以外は、実施例2−2と同じ方法で二軸延伸を行い厚さ15μmの単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。また、本例で得た単層二軸延伸フィルムの写真を
図3に示す。
【0048】
[実施例3]
タルク配合量を変更した以外は、実施例1−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。
【0049】
[実施例4〜6、7−1、および8]
重合体種類、タルク配合量、二軸延伸温度(T)を変更した以外は、実施例1−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。
【0050】
[実施例7−2]
重合体種類、タルク配合量、二軸延伸温度(T)を変更した以外は、実施例2−2と同じ方法で単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。
【0051】
[比較例1−1および1−2]
二軸延伸温度(T)を変更した以外は、実施例2−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムの製造を試みたが、製造できなかった。後述の比較例4と同様に同時二軸延伸する途中で破断されたフィルムからdmaxを算出した。
【0052】
[比較例2]
タルクを用いずに重合体gのみを用いた以外は、実施例1−2と同じ方法で単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。また、本例で得た単層二軸延伸フィルムの写真を
図4に示す。
【0053】
[比較例3]
重合体hを用い、かつ二軸延伸温度(T)を変更した以外は、実施例7−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムを製造し、評価した。
【0054】
[比較例4]
表2に示す配合で、重合体およびタルクの合計100重量部に対し、酸化防止剤としてBASF社製B225を0.1重量部、さらに中和剤として淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレートを0.05重量部添加し、ヘンシェルミキサーで1分間撹拌して混合物を得た。次いで、当該混合物を、スクリュー温度を230℃に設定した押出機(ナカタニ機械株式会社製NVCφ50mm単軸押出機)に供して溶融混練した。さらに、溶融した混合物を押出機から吐出し、冷却してストランドを形成し、そのストランドを裁断して、樹脂組成物のペレットを得た。このように、多軸機溶融混練を含まない方法によって樹脂組成物を調製しフィラー分散性dを変更した以外は、実施例2−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムの製造を試みたが、製造できなかった。本例において原反シートは同時二軸延伸する途中で破断した。破断したフィルムの一部についてスキャナーで取り込んだ画像の一部を
図2に示す。タルク凝集体を起点に欠陥(空隙)が生じている様子が観察された。複数の欠陥が延伸で引き伸ばされ欠陥が拡大し、破断に至ったことが推定される。このように欠陥がある場合でも、欠陥を含んだ凝集体の直径を延伸倍率で割ることで元のタルク凝集体の直径dを算出することができる。本例では欠陥部分におけるdの最大値をdmaxとして算出した。
【0055】
[比較例5]
実施例2−1で調製したペレットを用い、射出成形によって厚さ3.0mmの原反シートを調製した。当該原反シートを用いて実施例2−1と同じ方法で単層二軸延伸フィルムの製造を試みたが、製造できなかった。本例の原反シートは、熱プレス成形またはTダイ等を用いた押出成形によって調製されておらず、原反シートの縦方向と横方向とでタルクの配向に異方性があるため、単層二軸延伸フィルムの作製が困難であったと考えられる。本例では、比較例4と同様に同時二軸延伸する途中で破断したフィルムの一部で得られた画像からdmaxを算出した。
【0056】
これらの結果を表2に示す。本発明の単層二軸延伸フィルムは剛性をはじめとして優れた機械的特性を有し、かつ和紙のような風合いの優れた外観を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2-1】
【0059】
【表2-2】
【0060】
評価は以下のように行った。
[二次加工性]
○. 二次加工できた(単層二軸延伸フィルムを作製できた)
×. 二次加工できなかった(二軸延伸の途中で破断した)
【0061】
[DSCによる融点(Tm1、Tm2)]
原反シートおよび単層二軸延伸フィルムより、各々約5mgを電子天秤で秤量し、DSC用試料として採取した。示差熱分析計(DSC)(TA Instruments社製 Q−200)を用いて、30℃で5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で230℃まで加熱して融解曲線を得た。融解曲線の最も高温側にあるピークトップ温度を融点とした。
【0062】
[剛性(引張弾性率)]
得られたシートから成形体としてJIS K7139に規定するタイプA2の多目的試験片を機械加工し、JIS K7161−2に従い、株式会社島津製作所製精密万能試験機(オートグラフAG−X 10kN)を用い、温度23℃、相対湿度50%、試験速度1mm/分の条件で引張弾性率を測定した。
【0063】
[耐寒衝撃性(面衝撃強度、−30℃)]
得られたシートについて、JIS K7211−2に従い、株式会社島津製作所製ハイドロショットHITS−P10を用い、−30℃に調整した槽内で、内径40mmφの穴の開いた支持台に測定用試験片を置き、内径76mmφの試料押さえを用いて固定した後、半球状の打撃面を持つ直径12.7mmφのストライカーで、1m/秒の衝撃速度で試験片を打撃しパンクチャーエネルギー(J)を求めた。4個の測定用試験片各々のパンクチャーエネルギーの平均値を面衝撃強度とした。
[表面粗度(Ra)]
JIS B0601に従い、表面粗さ計Tester T1000(HOMMELWERKE社製)を用いて測定した。
【0064】
[動摩擦係数]
JIS K 7125 に従い、AutoCom オートコム万能試験機(手動引張・圧縮試験機)と摩擦係数試験治具(株式会社ティー・エス・イー製)を用いて測定した。
[風合い(和紙らしさ)]
目視にて評価した。
A.和紙の風合いが強い
B.和紙の風合いがある
C.和紙の風合いが無い
【0065】
<無機充填材凝集体の直径d、最大径dmax>
原反シートを表2に記載した条件で同時二軸延伸し、得られた単層二軸延伸フィルムの主面をスキャナー(セイコーエプソン株式会社製 GT−X8000)を用いて観察し像を取得した。像を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製 A像くん)を用いることにより、100cm
2の面積中のフィルムに存在する複数の欠陥部分を含む無機充填材凝集体のサイズを測定し、その直径を延伸倍率(6)で割ることで元のタルク凝集体の直径dを求めるとともに、dの最大値をdmaxとした。ただし、前述のように比較例1−1、比較例1−2、比較例4のような破断したフィルムにおいては、破断したフィルムの一部で求めた欠陥部分を含む無機充填材の直径を破断時の延伸倍率(6)で割ることで元のタルク凝集体の直径dとして算出し、dの最大値をdmaxとした。
[MFR]
ポリプロピレン系重合体のパウダーに関しては、試料5gに対し本州化学工業株式会社製H−BHTを0.05g添加し、ドライブレンドにより均一化した後、JIS K7210−1に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットについては、JIS K 7210−1に準じ温度230℃、荷重2.16kgの条件下で測定した。
【0066】
<成分(A1)または成分(A2)におけるコポリマー中のエチレン由来単位の含有量、および成分(A1)と成分(A2)からなる重合混合物における成分(A2)のコポリマーの含有割合>
1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、Bruker社製AVANCEIII HD400(13C共鳴周波数100MHz)を用い、測定温度120℃、フリップ角45度、パルス間隔7秒、試料回転数20Hz、積算回数5000回の条件で
13C−NMRのスペクトルを得た。
【0067】
<成分(A1)または、成分(A1)と成分(A2)からなる重合混合物中の総エチレン量>
上記で得られたスペクトルを用いて、Kakugo,Y.Naito、K.Mizunuma and T.Miyatake、Macromolecules、15、1150-1152(1982)の文献に記載された方法により、試料の総エチレン量(重量%)を求めた。成分(A1)を試料として測定する場合、上記の総エチレン量が成分(A1)のエチレン由来単位の含有量となる。
【0068】
<成分(A2)のコポリマー中のエチレン由来単位の含有量>
上記で得られたTββの積分強度の替わりに下記式で求めた積分強度を使用した以外は、総エチレン量と同様の方法で計算を行い、コポリマー中のエチレン由来単位の含有量を求めた。
T’ββ= 0.98×Sαγ×A/(1−0.98×A)
ここで、A= Sαγ/(Sαγ+Sαδ)
【0069】
<成分(A1)と成分(A2)からなる重合混合物における成分(A2)のコポリマーの含有割合>
以下の式で求めた。
コポリマーの含有割合(重量%)=重合混合物の総エチレン量/(コポリマー中のエチレン由来単位の含有量/100)
【0070】
<重合混合物のキシレン可溶分の極限粘度(XSIV)>
以下の方法によって重合混合物のキシレン可溶分を得て、キシレン可溶分の極限粘度(XSIV)を測定した。
重合混合物100質量部と、酸化防止剤(BASF社製B225)0.1質量部と、中和剤(淡南化学工業株式会社製カルシウムステアレート)0.05質量部とを混合して溶融混練用混合物を得た後、押出機により溶融混練して均一化した試料を得た。得られた試料2.5gを、o−キシレン(溶媒)を250mL入れたフラスコに入れ、ホットプレートおよび還流装置を用いて、135℃で、窒素パージを行いながら、30分間撹拌し、樹脂組成物を完全溶解させた後、25℃で1時間、冷却した。これにより得られた溶液を、濾紙を用いて濾過した。濾過後の濾液を100mL採取し、アルミニウムカップ等に移し、窒素パージを行いながら、140℃で蒸発乾固を行い、室温で30分間静置して、キシレン可溶分を得た。極限粘度は、テトラヒドロナフタレン中、135℃において毛細管自動粘度測定装置(SS−780−H1、株式会社柴山科学器械製作所製)を用いて測定した。