【課題】複数の非球状の銀被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして用いるときに、銀被覆樹脂粒子同士の接触点が増えて導電性が高まり、かつ高密度に充填可能で熱伝導性を高められる。
【解決手段】中実の球状のコア樹脂粒子が分割平面部を有するように2分割されて形成された非球状のコア樹脂粒子と、前記非球状のコア樹脂粒子を被覆する銀被覆層とを備えた非球状の銀被覆樹脂粒子である。非球状の銀被覆樹脂粒子の分割平面部における最大の長径を最大長径D1とし、この分割平面部と直交し分割平面部から銀被覆樹脂粒子の外周面に至るまでの線分のうち最大の線分を最大短径D2とするとき、D1の平均値が0.5μm〜15μmであり、D1とD2のアスペクト比(D1/D2)の平均値が1.2〜2.2であり、銀被覆層の平均厚さtが0.05μm〜0.3μmであることが好ましい。
中実の球状のコア樹脂粒子が分割平面を有するように2分割されて形成された非球状のコア樹脂粒子と、前記非球状のコア樹脂粒子を被覆する銀被覆層とを備えた非球状の銀被覆樹脂粒子。
前記非球状の銀被覆樹脂粒子の分割平面における最大の長径を最大長径D1とし、前記分割平面と直交し前記分割平面から前記銀被覆樹脂粒子の外周面に至るまでの線分のうち最大の線分を最大短径D2とするとき、前記最大長径D1の平均値が0.5μm〜15μmであり、前記最大長径D1と前記最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値が1.2〜2.2であり、前記銀被覆層の平均厚さtが0.05μm〜0.3μmである請求項1記載の非球状の銀被覆樹脂粒子。
導電性ペーストを100質量%とするとき、請求項1又は2記載の非球状の銀被覆樹脂粒子50質量%以上と、中実の球状のコア樹脂粒子と前記球状のコア樹脂粒子を被覆する銀被覆層とを備えた球状の銀被覆樹脂粒子50質量%以下とを含み、残部がバインダ樹脂である導電性ペースト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に示される銀被覆層は、2層目の銀の層103が1層目の銀の層102を被覆する構成であるため、コア粒子である樹脂粒子の隠蔽性に優れる反面、銀めっき層である銀被覆層が平坦であるため、金属電極と接触するときに、銀被覆層の金属電極との接触が十分ではなく、金属電極に対して導電性を高めるのには、未だ改善する余地があった。
【0008】
本発明の目的は、複数の非球状の銀被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして用いるときに、銀被覆樹脂粒子同士の接触点が増えて導電性が高まり、かつ高密度に充填可能で熱伝導性を高めることができる非球状の銀被覆樹脂粒子及びその製造方法を提供することにある。本発明の別の目的は、導電性と熱伝導性が高い導電性フィルムを形成できる導電性ペースト及び導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、中実の球状のコア樹脂粒子を無電解めっきする前に一定の条件で熱処理することで、樹脂粒子を結晶化した後、急冷することにより、球を2つ割りにした非球状の樹脂粒子が得られ、これをコア粒子として粒子表面に無電解めっきして、非球状のコア粒子表面に銀被覆層を形成して、非球状の銀被覆樹脂粒子にすれば、この銀被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして用いたときに、銀被覆樹脂粒子同士の接触点が増えることを知見し、本発明に到達した。
【0010】
本発明の第1の観点は、中実の球状のコア樹脂粒子11が分割平面12aを有するように2分割されて形成された非球状のコア樹脂粒子12(
図4参照。)と、前記非球状のコア樹脂粒子12を被覆する銀被覆層13とを備えたことを特徴とする非球状の銀被覆樹脂粒子10である(
図1参照。)。
【0011】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、
図1及び
図2に示すように、非球状の銀被覆樹脂粒子10の分割平面10aにおける最大の長径を最大長径D1とし、分割平面10aと直交し分割平面10aから銀被覆樹脂粒子10の外周面10bに至るまでの線分のうち最大の線分を最大短径D2とするとき、最大長径D1の平均値が0.5μm〜15μmであり、最大長径D1と最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値が1.2〜2.2であり、銀被覆層13の平均厚さtが0.05μm〜0.3μmである非球状の銀被覆樹脂粒子10である。
【0012】
本発明の第3の観点は、導電性ペーストを100質量%とするとき、第1又は第2の観点の非球状の銀被覆樹脂粒子70質量%〜90質量%を含み、残部がバインダ樹脂である導電性ペーストである。
【0013】
本発明の第4の観点は、導電性ペーストを100質量%とするとき、第1又は第2の観点の非球状の銀被覆樹脂粒子50質量%以上と、中実の球状のコア樹脂粒子と前記球状のコア樹脂粒子を被覆する銀被覆層とを備えた球状の銀被覆樹脂粒子50質量%以下とを含み、残部がバインダ樹脂である導電性ペーストである。
【0014】
本発明の第5の観点は、第3の観点の導電性ペーストをフィルム状に形成した導電性フィルムである。
【0015】
本発明の第6の観点は、第4の観点の導電性ペーストをフィルム状に形成した導電性フィルムである。
【0016】
本発明の第7の観点は、球状のコア樹脂粒子を、
図5に示すように、大気中、5℃/分以上の速度で昇温して350℃〜450℃の温度で90分以上加熱保持する工程と、前記加熱保持した球状のコア樹脂粒子を100℃/分以上の速度で降温する工程と、前記降温した球状のコア樹脂粒子を錫化合物の水溶液に混合して前記球状のコア樹脂粒子を2つ割りにして非球状のコア樹脂粒子にした状態で、前記非球状のコア樹脂粒子の表面に錫を吸着させる工程と、前記錫を吸着した非球状のコア樹脂粒子に無電解銀めっきを行って前記非球状のコア樹脂粒子の表面に銀被覆層を形成する工程とを含む非球状の銀被覆樹脂粒子を製造する方法である。
【発明の効果】
【0017】
図1に示すように、本発明の第1の観点の非球状の銀被覆樹脂粒子10は、非球状のコア樹脂粒子12とこの粒子を被覆する銀被覆層13を有する。
図6に示すように、銀被覆樹脂粒子10を導電性フィラーとして含む導電性ペースト14を導電性基材15上に塗布して電極16を形成した場合、非球状の銀被覆樹脂粒子は導電性ペースト中のバインダ内での分散性が良好であるため、粒子同士の接触点が増える。このため複数の非球状の銀被覆樹脂粒子で構成された集合体の導電性が高まり、かつ複数の非球状の銀被覆樹脂粒子を高密度に充填することができ、結果としてこの集合体の熱伝導性を高めることができる。
【0018】
本発明の第2の観点の非球状の銀被覆樹脂粒子10は、非球状の銀被覆樹脂粒子10の分割平面10aにおける最大の長径を最大長径D1とし、分割平面10aと直交し分割平面10aから銀被覆樹脂粒子10の外周面10bに至るまでの線分のうち最大の線分を最大短径D2とするとき、分割平面10aにおける最大長径D1が0.5μm〜15μmであり、最大長径D1と最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値が1.2〜2.2であるため、非球状の銀被覆樹脂粒子が凝集しにくく、銀被覆樹脂粒子同士の接触点が多くなり、十分な導電性及び熱伝導性を得ることが容易になる。また微細な電極パターンに適用することができる。また被覆層13の平均厚さtが0.05μm〜0.3μmであるので、非球状の銀被覆樹脂粒子が導電性及び熱伝導性を得るために多量の銀を要しない。
【0019】
本発明の第3及び第4の観点の導電性ペーストは、上記非球状の銀被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして含有することにより、この導電性ペーストで第5及び第6の観点の導電性フィルムを形成すれば、従来の導電性フィラーに比べてフィラー同士の良好な導通が得られる。このため、この導電性フィルムを電極等の形成又は電子部品の実装等に使用すれば、大幅な低抵抗化を図ることができる。また、これらの導電性フィルムは熱伝導性材料としても利用できる。
【0020】
本発明の第7の観点の非球状の銀被覆樹脂粒子の製造方法では、
図5に示すように、球状のコア樹脂粒子を所定の速度で昇温して所定の温度で所定の時間加熱保持した後、この球状のコア樹脂粒子を所定の速度で降温する。これにより球状のコア樹脂粒子の内部で均一な応力が発生して、球状のコア樹脂粒子は結晶歪みを内包した脆い組織になる。この状態で、銀被覆層を形成するために、錫化合物の水溶液に混合すると、前記応力に起因して亀裂が入り、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、球状のコア樹脂粒子11が2つに割れて非球状のコア樹脂粒子12、12になる。
図1に示すように、こうした非球状のコア樹脂粒子12に銀被覆層13を形成することにより、本発明の非球状の銀被覆樹脂粒子10が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
〔銀被覆樹脂粒子〕
まず、本実施形態の非球状の銀被覆樹脂粒子について説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態の非球状の銀被覆樹脂粒子10は、非球状のコア樹脂粒子12と、この非球状のコア樹脂粒子12を被覆する銀被覆層13とから構成される。銀被覆層13は、平均結晶子径が200nm以下の微細銀粒子が多数積層されて非球状のコア樹脂粒子表面に形成されてなる。
【0024】
図4に示すように、非球状のコア樹脂粒子12は、後述する方法で、1つの球状のコア樹脂粒子11が2つに割れて形成される。球状のコア樹脂粒子11は大部分が、
図4(a)に示すように、分割が粒子のほぼ中心位置で行われ、2つのほぼ同じサイズの非球状コア樹脂粒子12、12に分割される。一方、球状のコア樹脂粒子11の一部は、
図4(b)に示すように、分割が粒子の中心から全く外れた位置で行われ、2つの全く異なるサイズの非球状コア樹脂粒子12、12に分割される。
図4(a)に示される非球状コア樹脂粒子12、12にも、
図4(b)に示される非球状コア樹脂粒子12、12にも、それぞれ分割平面12a、12aが形成される。
【0025】
図4(a)に示されるように、球状のコア樹脂粒子11がそのほぼ中心位置で分割された場合で、分割平面12aにおける最大長径をd1aとするときには、分割平面12aと直交し分割平面12aから非球状のコア樹脂粒子12の外周面12bに至るまでの線分のうち最大の線分である最大短径に関しては、2つに分割された非球状のコア樹脂粒子12、12で、それぞれd2aであり、ほぼ同一である。
【0026】
一方、
図4(b)に示されるように、球状のコア樹脂粒子11がその中心から全く外れた位置で分割された場合で、分割平面12aにおける最大長径をd1bとするときには、分割平面12aと直交し分割平面12aから非球状のコア樹脂粒子12の外周面12bに至るまでの線分のうち最大の線分である最大短径に関しては、大きい非球状のコア樹脂粒子ではd2cであり、小さい非球状のコア樹脂粒子ではd2dであり、d2c>d2dの関係式が成立する。
【0027】
また
図4(a)及び
図4(b)から明らかなように、最大長径d1aとd1bとは、d1a>d1bの関係が成立する。こうしたことから、本実施形態の非球状のコア樹脂粒子12を銀被覆層13で被覆した非球状の銀被覆樹脂粒子10においては、最大長径D1と最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値が1.2〜2.2の範囲に特定される。
【0028】
球状のコア樹脂粒子11は、その長径と短径の比(長径/短径のアスペクト比)は1.0〜1.1であり、真球に限らず、真球に近い楕円球であってもよい。また粒子表面に粗面化の凹みより生じたな若干の凹凸があってもかまわない。ただし粒子表面に鋭利な突起がある場合には、めっきした場合にめっき被膜の密着性の低下、樹脂であるバインダと混合した場合にバインダ内での分散性の低下によって、非球状の銀被覆樹脂粒子を等方性導電ペースト、異方性導電ペーストとして用いるときの導電性付与、絶縁性の再現を損ねる原因となるため好ましくない。
【0029】
図2に示すように、非球状の銀被覆樹脂粒子10の分割平面10aにおける最大長径D1の平均値は0.5μm〜15μmであることが好ましく、この最大長径D1と最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値は1.2〜2.2であることが好ましい。
図2に示すように最大短径D2は、分割平面10aと直交し分割平面10aから銀被覆樹脂粒子10の外周面10bに至るまでの線分のうち最大の線分である。最大長径D1の平均値は0.8μm〜12μmが更に好ましく、アスペクト比(D1/D2)の平均値は1.3〜2.0が更に好ましい。最大長径D1の平均値が0.5μm未満では、非球状の銀被覆樹脂粒子が凝集し易くなる。15μmを超えると非球状の銀被覆樹脂粒子同士の接触点が少なくなり、十分な導電性及び熱伝導性が得られないおそれがある。これらの数値範囲の非球状の銀被覆樹脂粒子は、微細な電極パターンに適用することができる。上記アスペクト比(D1/D2)の平均値は、10個の粒子について走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 型式名:SU−1500)により撮影したときの粒子画像中の10個の粒子について、一粒子の最大長径D1と最大短径D2の比(D1/D2)を計測し、これらを平均した値である。
【0030】
図1に示すように、銀被覆層13の平均厚さtは0.05μm〜0.3μmであることが好ましく、0.1μm〜0.25μmであることが更に好ましい。銀被覆層13の平均厚さtが0.05μm未満では、微細銀粒子に被覆されない箇所が出現することにより、非球状の銀被覆樹脂粒子10の粉体体積抵抗率が高くなり、非球状の銀被覆樹脂粒子10の導電性が低くなるとともに熱伝導性も低下し易くなる。また平均厚さtが0.3μmを超えると、導電性及び熱伝導性を得るために多量の銀を要するとともに、銀被覆層13が剥離し易くなり、結果として導通不良及び熱伝導性不良になり易い。
【0031】
銀被覆層13の平均厚さtは、以下のようにして求める。まずカーボン製試料台に振りかけた非球状の銀被覆樹脂粒子10を、FIB(集束イオンビーム装置)を用いて約100nmの厚みまで断面露出加工した試料を作製する。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面露出した試料中の銀/樹脂粒子界面における断面形状を、10個の非球状の銀被覆樹脂粒子10について、非球状のコア樹脂粒子12の表面5000nm平方の範囲で、銀被覆層13の全体を重複なく観察できるように、複数に分けて観察し、銀被覆層13の厚さを測定し、10個の平均値を銀被覆層13の平均厚さtとする。この非球状の銀被覆樹脂粒子10の粉体体積抵抗率は1×10
-2Ω・cm以下であることが好ましく、3×10
-3Ω・cm以下であることがより好ましい。粉体体積抵抗率が1×10
-2Ω・cmよりも高いと材料の電圧降下による損失が大きくなるため導電性材料としては不適となるおそれがある。粉体体積抵抗率は、試料粉末である非球状の銀被覆樹脂粒子10を圧力容器に入れて9.8MPaで圧縮した圧粉体の抵抗値を抵抗率計で測定する。
【0032】
非球状の銀被覆樹脂粒子に対する銀の被覆量(含有量)は、非球状のコア樹脂粒子の平均粒径に依存するとともに、必要とされる導電性と熱伝導性の程度により決まり、非球状の銀被覆樹脂粒子100質量部に対して、40質量部〜90質量部であることが好ましい。非球状の銀被覆樹脂粒子100質量部に対して、銀の含有量が40質量部未満では導電性粒子として非球状の銀被覆樹脂粒子が分散したときに、銀同士の接触点が取り難く十分な導電性及び熱伝導性を付与することが困難になるおそれがある。一方、銀の含有量が90質量部を超えると比重が大きくなりコストも高くなるとともに導電性及び熱伝導性が飽和し易くなる。この銀の含有量は45質量部〜85質量部がより好ましく、50質量部〜80質量部が更に好ましい。
【0033】
また非球状のコア樹脂粒子12としては、例えば、シリコーン樹脂粒子、アラミド樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、ポリスルホン樹脂粒子、ポリエーテル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、アクリル−スチレン共重合体粒子、ポリウレタン粒子、ゴム粒子、スチレン樹脂粒子、コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いることができる。シリコーン樹脂粒子の例としては、ポリシルセスキオキサン(PSQ)樹脂粒子、ポリメチルシルセスキオサキサン(PMSQ)樹脂粒子が挙げられる。アラミド樹脂粒子の例としては、ポリメタフェニレンイソフタラミド(MPIA)樹脂粒子、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)樹脂粒子が挙げられる。フッ素系粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粒子、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド(THV)樹脂粒子、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)系樹脂粒子、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)系樹脂粒子、クロロトリフルオロエチレン−エチレン(ECTFE)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン−エチレン(ETFE)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)系樹脂粒子等が挙げられる。ポリスルホン樹脂粒子の例としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテル−スルホン(PES)樹脂等が挙げられる。ポリエーテル樹脂粒子の例としては、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂粒子、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂粒子等が挙げられる。フェノール樹脂粒子の例としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、またはそれらの一部を変性したフェノール樹脂等が挙げられる。ポリウレタン粒子としては、ポリエステル系ポリウレタン粒子、ポリオール系ポリウレタン粒子等が挙げられる。ゴム粒子の例としては、シリコーンゴム粒子、フッ素ゴム粒子等が挙げられる。コアシェル構造を有する樹脂粒子の例としては、アクリル樹脂コア−シリコーン樹脂シェルの樹脂粒子が挙げられる。アクリル樹脂コア−シリコーン樹脂シェルの樹脂粒子は、アクリル樹脂粒子にシリコーン樹脂膜を被覆することにより作製される。
【0034】
〔非球状の銀被覆樹脂粒子の製造方法〕
(非球状のコア樹脂粒子の作製方法)
本実施形態の非球状の銀被覆樹脂粒子の製造方法は、
図4に示すように、先ず1つの球状のコア樹脂粒子11を2つ割りにして非球状のコア樹脂粒子12、12を作製する。具体的には、球状のコア樹脂粒子11を、
図5に示すように、大気中、5℃/分以上、好ましくは5℃/分〜20℃/分の速度で室温から昇温して350℃〜450℃の温度で90分以上、好ましくは90分〜150分間加熱保持した後、加熱保持した球状のコア樹脂粒子11を100℃以上、好ましくは100℃/分〜200℃/分の速度で室温まで降温する。続いて降温した球状のコア樹脂粒子11を錫化合物の水溶液に混合する。これにより、球状のコア樹脂粒子11を2つ割りにして非球状のコア樹脂粒子12、12を作製する。球状のコア樹脂粒子11の加熱装置としては、例えば環状炉(株式会社アサヒ理化製作所製、型式ARF−KC)が用いられ、加熱保持後の降温は加熱装置から球状のコア樹脂粒子11を取り出して、冷却することにより行われる。
【0035】
球状のコア樹脂粒子11の昇温速度を5℃/分以上にするのは、5℃/分未満では昇温に時間がかかり過ぎて生産性が悪いためである。昇温速度は20℃/分であることが好ましい。球状のコア樹脂粒子11の加熱保持温度を350℃〜450℃にし、加熱保持時間を90分以上にするのは、コア樹脂粒子11を結晶化させるためである。加熱保持温度は370℃〜450℃であることが好ましく、加熱保持時間は120分以上であることが好ましい。加熱保持した後、球状のコア樹脂粒子11を100℃/分以上の速度で降温するのは、球状を維持した状態で、樹脂内部で均一な応力を発生させて、結晶歪みが粒子内部に生じた脆い組織の球状のコア樹脂粒子11にするためである。降温速度は150℃/分以上であることが好ましい。
【0036】
結晶歪みが粒子内部に生じた脆い組織になった球状のコア樹脂粒子11を錫化合物の水溶液に添加して混合するのは、前記応力に起因した亀裂を発生させて、
図4に示すように、1つの球状のコア樹脂粒子11を2つに割って非球状のコア樹脂粒子12、12にするためと、非球状のコア樹脂粒子12の表面に錫を吸着させるためである。具体的には、結晶歪みが粒子内部に生じた脆い組織になった球状のコア樹脂粒子11を錫化合物の水溶液に添加して撹拌することにより分散させると、球状のコア樹脂粒子11の内部のある1点を起点として、均一に応力が解放されることにより2つに割れして非球状のコア樹脂粒子12、12が形成される。応力が解放されることにより、2つ割れ以上の3つ割れ、4つ割れ等は生じない。
【0037】
(非球状のコア樹脂粒子に銀被覆する前の処理方法)
非球状のコア樹脂粒子12が形成された直後から、非球状のコア樹脂粒子12の表面には錫が吸着される。球状のコア樹脂粒子11を錫化合物の水溶液に添加して撹拌する時間は、以下の錫化合物の水溶液の温度及び錫化合物の含有量によって適宜決定されるが、好ましくは、0.5時間〜24時間である。錫化合物の水溶液の温度は10℃〜45℃の範囲で、この温度は低い方が好ましく、10℃〜20℃の範囲で行うと、錫が酸化されることなく、均一に吸着され易い。錫化合物の水溶液の温度が10℃未満では、錫の吸着が均一にならない不具合があり、45℃を超えると、錫化合物が酸化するため水溶液が不安定となりコア樹脂粒子に錫化合物が十分に付着しないおそれがある。この錫の吸着処理を10℃〜45℃の水溶液で実施することによって、銀を還元剤だけで無電解めっきする方法では密着性の悪かったアクリル系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂等の樹脂の微粒子に対しても、次に説明する無電解めっき処理に初期に十分に吸着した錫と銀が置換されるため、置換した銀が密着して樹脂の表面に密着することができる。表面に錫が吸着した非球状のコア樹脂粒子12は錫化合物の水溶液から濾別して水洗される。
【0038】
(非球状のコア樹脂粒子表面への銀被覆層の形成方法)
次に、錫が吸着した非球状のコア樹脂粒子12表面に、銀塩、銀錯体化剤、pH調整剤及び還元剤を含む無電解めっき液を用いて、銀被覆層を形成する。
【0039】
この銀塩としては、硝酸銀、又は銀を硝酸に溶解したもの等を用いることができる。銀錯体化剤はめっき液中で完全に溶解していることが好ましい。銀錯体化剤としては、アンモニア、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、ニトロ三酢酸、トリエチレンテトラアンミン六酢酸、チオ硫酸ナトリウム、コハク酸塩、コハク酸イミド、クエン酸塩等の塩類を用いることができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。還元剤としては、ホルマリン、ブドウ糖、ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキノン、L−アスコルビン酸又はギ酸等を用いることができる。特に、ホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンが好ましく、少なくともホルムアルデヒドを含む2種類以上の還元剤の混合物がより好ましく、更には、ホルムアルデヒドとブドウ糖を含む還元剤の混合物が最も好ましい。
【0040】
錫を吸着させるために使用する錫化合物としては、塩化第一錫、フッ化第一錫、臭化第一錫、ヨウ化第一錫等が挙げられる。塩化第一錫を用いる場合、錫化合物の水溶液中の塩化第一錫の含有量は30g/dm
3〜100g/dm
3が好ましい。塩化第一錫の含有量が30g/dm
3以上であれば樹脂粒子の表面に均一な錫の被覆が形成できる。また塩化第一錫の含有量が100g/dm
3以下であると塩化第一錫中の不可避不純物の量を抑制しやすい。なお、塩化第一錫は飽和になるまで錫化合物の水溶液に含有することができる。
【0041】
錫化合物の水溶液は塩化第一錫1gに対して塩酸0.5cm
3〜2cm
3含有することが好ましい。塩酸は濃度35質量%の塩酸として添加する。塩酸の量が0.5cm3以上であると塩化第一錫溶解性が向上するとともに錫の加水分解を抑制することができる。塩酸の量が2cm3以下であると錫化合物の水溶液のpHが低くなりすぎないので錫をコア樹脂粒子に効率良く吸着させることができる。
【0042】
非球状のコア樹脂粒子12を錫の水溶液に混合すると、非球状のコア樹脂粒子12の表面に錫の2価のイオンが吸着する。錫の2価のイオンが4価のイオンとなって溶解し2価の電子を放出する。そして、銀のイオンが電子を受け取り金属として非球状のコア樹脂粒子12の錫が吸着していた部分に析出する。その後、すべての錫の2価のイオンが4価のイオンとなって水溶液中に溶解すると、錫と銀の置換反応は終了し、還元剤によって触媒が酸化され電子が放出し溶液中の銀イオンがその電子を受け取り銀が析出する。上記の置換反応と還元反応によって、非球状のコア樹脂粒子12表面に銀被覆層13が形成される。吸着した錫の層は無電解めっきをする初期の段階では錫と銀の置換反応が起き、置換反応終了後には、還元剤による無電解めっき反応により銀が被覆されるため、ほとんど全ての錫は銀と置換され非球状の銀被覆樹脂粒子10には残らない。
【0043】
錫の吸着処理に続いて、銀の無電解めっき処理をする。この無電解めっき処理は、めっき液の温度を15℃以上30℃以下、好ましくは15℃以上25℃以下で行う。15℃未満では、ベース層の結晶子が粗大になり、30℃を超えると、急激なめっき皮膜の成長により、銀被覆層13が非球状のコア樹脂粒子12から剥離する。この無電解めっき法として以下の4つの方法のいずれかの方法を適用できる。
(1)銀錯体化剤、還元剤及びpH調整剤を含む水溶液中に錫の吸着処理後のコア樹脂粒子を浸漬し銀塩水溶液を滴下する方法。
(2)銀塩、銀錯体化剤を含む水溶液中に錫の吸着処理後のコア樹脂粒子を浸漬し還元剤及びpH調整剤を含む水溶液を滴下する方法。
(3)銀塩、銀錯体化剤、還元剤及びpH調整剤を含む水溶液中に錫の吸着処理後のコア樹脂粒子が分散された樹脂スラリーを滴下する方法。
(4)錫の吸着処理後のコア樹脂粒子が分散された樹脂スラリーに対して、銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液と、還元剤及びpH調整剤を含む水溶液とを同時に滴下する方法。
【0044】
[用途]
本実施形態の非球状の銀被覆樹脂粒子10は、導電性フィラーとして優れており、特に、導電性接着剤、導電性フィルム(シート)、導電性ゴム(エラストマー)、導電性粘着剤、放熱シートや放熱グリス等のTIM(Thermal Interface Material)材料、又は導電性スペーサなどの導電性材料の導電性フィラーとして最適に適用できる。
【0045】
(導電性接着剤)
導電性接着剤は、等方性の導電性接着剤(ICA:Isotropic Conductive Adhesive)と異方性の導電性接着剤(ACA:Anisotropic Conductive Adhesive)に区分される。また、バインダの形態によってペースト状、フィルム状、インク状の形態を有する。等方性の導電性接着剤は、バインダ硬化時にバインダが収縮することで、縦方向、横方向、斜方向ともにフィラーが互いに接触し、これにより接続したい導電物とフィラーが接触して導電性が得られる。等方性の導電性接着剤にてシートを形成することも可能である。異方性の導電性接着剤は、バインダ中にフィラーが分散していて接続したい導電物同士の間に異方性の導電性接着剤を挟み込む。これを縦方向に加圧することで、接続したい導電物の間のフィラーと接続したい導電物が縦方向に接触し導電性が得られる。一方、加圧されていない部分は絶縁物であるバインダを介してフィラー同士が横方向に配置され、互いに接触しないので導電性は得られない。
【0046】
導電性接着剤としては、例えば、異方性又は等方性の導電性ペースト、異方性又は等方性の導電性インキなどが挙げられる。導電性接着剤は、非球状の銀被覆樹脂粒子と絶縁性のバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。導電性接着剤では、絶縁性のバインダ樹脂中に非球状の銀被覆樹脂粒子が均一に分散する。非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定される。
【0047】
導電性ペーストは、導電性ペーストを100質量%とするとき、
図6に示すように、上述した非球状の銀被覆樹脂粒子10のみを導電性フィラ−としてもよいし、特許文献1に示されるような球状の銀被覆樹脂粒子と混合して、導電性フィラーとしてもよい。具体的には、導電性フィラーとして非球状の銀被覆樹脂粒子のみを使用する場合、導電性ペーストを100質量%とするとき、上述した非球状の銀被覆樹脂粒子を70質量%〜90質量%含み、残部がバインダ樹脂であることが好ましい。また導電性フィラーとして非球状の銀被覆樹脂粒子と球状の銀被覆樹脂粒子とを併用する場合には、導電性ペーストは、導電性ペーストを100質量%とするとき、上述した非球状の銀被覆樹脂粒子50質量%以上と、中実の球状のコア樹脂粒子とこの球状のコア樹脂粒子を被覆する銀被覆層とを備えた球状の銀被覆樹脂粒子50質量%以下とを含み、残部がバインダ樹脂であることが好ましい。
【0048】
非球状の銀被覆樹脂粒子のみを使用する場合、導電性ペースト中、非球状の銀被覆樹脂粒子が下限値の70質量%未満では、粒子同士の接触点が少なくなり、導電性及び熱伝導性に劣り易くなって、本発明による効果に乏しく、上限値の90質量%を超えると、粘度不良を生じ易い。非球状の銀被覆樹脂粒子の割合は70質量%〜80質量%であることが更に好ましい。一方、非球状の銀被覆樹脂粒子と球状の銀被覆樹脂粒子とを併用する場合、非球状の銀被覆樹脂粒子が下限値の50質量%未満又は球状の銀被覆樹脂粒子が上限値の50質量%を超えると、粒子同士の接触点が少なくなり、導電性及び熱伝導性に劣り易くなって、本発明による効果に乏しい。非球状の銀被覆樹脂粒子の割合は70質量%以上、球状の銀被覆樹脂粒子の割合は20質量%以下であることが更に好ましい。
【0049】
導電性接着剤における絶縁性のバインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂や、硬化性樹脂組成物などの熱や光によって硬化する組成物などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、フェノキシ樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂組成物としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂又はそれらの混合物を主成分として含む樹脂組成物が挙げられる。
【0050】
(導電性フィルム(シート))
導電性フィルムとしては、フィルム状に成形された異方性又は等方性の導電性フィルムがある。導電性フィルムは、先ず非球状の銀被覆樹脂粒子が絶縁性のバインダ樹脂中に分散された樹脂組成物、即ち導電性ペーストを作製し、次いでこの樹脂組成物(導電性ペースト)をPET等の支持フィルムの表面に塗布することにより作製される。この樹脂組成物は非球状の銀被覆樹脂粒子と絶縁性のバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。導電性フィルムでは、支持体フィルム上で絶縁性のバインダ樹脂中に非球状の銀被覆樹脂粒子が均一に分散する。導電性フィルムにおける絶縁性のバインダ樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの樹脂又はそれらの混合物を主成分として含む樹脂組成物が挙げられる。導電性フィルムにおける樹脂組成物中の非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜90質量部の範囲内が好ましい。
【0051】
(導電性ゴム(エラストマー))
導電性ゴムとしては、シート状や直方体状に成形された導電性ゴムがあり、放熱シートや導電コネクタとして使用できる。導電性ゴムは、まずバインダゴムと、加硫剤と、非球状の銀被覆樹脂粒子とを二軸ロール等を用いて混練し、次いで加熱プレス機や乾燥機を用いて加熱や加圧を実施することにより加硫および成型することで作製される。導電性ゴムにおけるバインダゴムとしては、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。導電性ゴムにおける組成物中の非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダゴム100質量部に対して0.5質量部〜90質量部の範囲内が好ましい。
【0052】
(導電性粘着剤)
導電性粘着剤としては、シート状や直方体状に成形された導電性粘着剤又は導電性ゲルがあり、電気接触点材料、放熱シート及び電極として使用できる。導電性粘着剤は、先ず非球状の銀被覆樹脂粒子が絶縁性のバインダとなる粘着剤中に分散された粘着性組成物を作製し、次いでこの粘着性組成物をPET等の支持フィルムの表面に塗布することにより作製される。導電性粘着剤におけるバインダ粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。導電性粘着剤における組成物中の非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、粘着剤100質量部に対して0.5質量部〜90質量部の範囲内が好ましい。
【0053】
(放熱グリス)
放熱グリスとしては、不揮発性の基油、非球状の銀被覆樹脂粒子を混合したものがあり、放熱材料として用いることができる。放熱グリスは基油と非球状の銀被覆樹脂粒子を遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。放熱グリスに用いられる基油としては、シリコーンオイル系基油、鉱油系基油、合成炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油及びグリコール系基油又はそれらの組合せなどを挙げることができる。放熱グリスにおける組成物中の非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、基油100質量部に対して0.5質量部〜90質量部の範囲内が好ましい。
【0054】
(導電性スペーサ)
導電性スペーサは、液晶表示装置において、液晶物質を挟む上下2枚の基板の配線部分を電気的に上下に接続し、かつ基板の間隙を所定の寸法に保持して使用される。導電性スペーサは、先ず非球状の銀被覆樹脂粒子を熱硬化性樹脂や紫外光硬化型接着剤などの絶縁性のバインダ樹脂に添加した後、非球状の銀被覆樹脂粒子とバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して樹脂組成物を調製し、次いで上下2枚の基板の配線部分のいずれか一方又は双方に上記樹脂組成物を塗布して2枚の基板を貼り合わせることにより作製される。非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量部に対して2質量部〜10質量部の範囲内が好ましい。
【実施例】
【0055】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0056】
<実施例1>
先ず、平均粒径が5.0μmである球状のシリコーン樹脂からなるコア樹脂粒子50gを準備した。このコア樹脂粒子を大気中、10℃/分の速度で室温から400℃まで昇温し、400℃で2時間加熱保持した。加熱保持した後、送風機による自然冷却にて、150℃/分の速度で室温まで降温した。
錫吸着処理用として、塩化第一錫15g、塩酸15cm
3を容量1dm
3のメスフラスコを用いて水で1dm
3に稀釈(メスアップ)した水溶液を10℃に保存した。塩酸は濃度35質量%の塩酸を用いた。この錫化合物の水溶液に、上記降温した球状のコア樹脂粒子41gを添加し、15℃の温度で1時間撹拌した。この撹拌により、球状のコア樹脂粒子が2つに割れてほぼ同一形状の2つの非球状のコア樹脂粒子になるとともに、非球状のコア樹脂粒子の表面に錫が吸着した。その後、これらの非球状のコア樹脂粒子を濾別して水洗した。2つに割れて得られた非球状のコア樹脂粒子12は、分割平面12aにおける最大長径d1aが5.0μmであって、分割平面12aと直交し分割平面12aから非球状のコア樹脂粒子12の外周面12bに至るまでの線分のうち最大の線分である最大短径d2aが2.8μmであって、アスペクト比(d1a/d2a)が約1.8であった(
図4(a)参照。)。
【0057】
無電解めっき処理用として、2dm
3の水に、228gのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(銀錯体化剤)、53gの水酸化ナトリウム(pH調整剤)、105cm
3のホルマリン(還元剤、35質量%ホルムアルデヒド水溶液)を溶解し、銀錯体化剤及び還元剤を含む無電解めっき液を作製した。また、35gの硝酸銀(銀塩)、53cm
3の25質量%アンモニア水、175cm
3の水を混合し硝酸銀を含む水溶液を作製した。
【0058】
次いで、銀錯体化剤及び還元剤を含む液温が20℃の無電解めっき液中に、表面に錫が吸着した非球状のコア樹脂粒子を浸漬させ、このめっき液を撹拌しながら硝酸銀を含む水溶液を滴下した。これにより非球状のコア樹脂粒子に銀を被覆した非球状の銀被覆樹脂粒子を得た。この非球状の銀被覆樹脂粒子を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、 型式名:SU−1500)により1万倍で撮影した写真図を
図3に示す。
【0059】
実施例1の非球状のコア樹脂粒子の種類と形状、非球状の銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の平均厚さt、分割平面における最大長径D1、最大長径D1と最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値とともに、球状のコア樹脂粒子を2つ割りにする条件を以下の表1に示す。なお、非球状の銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の平均厚さt、最大長径D1、アスペクト比(D1/D2)は上述した方法で測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
<実施例2〜12及び比較例3〜5>
実施例1と同じ錫吸着処理用水溶液、無電解めっき液及び硝酸銀水溶液を用いて、実施例1と同様にして実施例2〜12及び比較例3〜5の非球状の銀被覆樹脂粒子を作製した。このときの非球状のコア樹脂粒子の種類と形状、非球状の銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の厚さt、分割平面における最大長径D1、最大長径D1と最大短径D2とのアスペクト比(D1/D2)の平均値及び球状のコア樹脂粒子を2つ割りにする条件を、上記表1に示すように、実施例1と同じにするか、又は変更して、実施例2〜12及び比較例3〜5とした。
【0062】
<比較例1及び比較例2>
実施例1の球状のコア樹脂粒子を2つ割りにしないものを比較例1とし、実施例2の球状のコア樹脂粒子を2つ割りにしないものを比較例2とした。即ち、非球状になる前の実施例1及び実施例2の球状のコア樹脂粒子を比較例1及び比較例2とした。
【0063】
<試験例1>
試験例1では、導電性フィラーとしての実施例1の非球状の銀被覆樹脂粒子80質量%と、バインダ樹脂としての多官能型エポキシ樹脂(ADEKA社製、アデカレジンEP-3950S)20質量%とを混合して、導電性ペーストを調製した。この導電性ペーストの組成を以下の表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
<試験例2〜試験例12>
実施例2〜実施例12の各非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量を、上記表2に示すように、試験例1の含有量と同じにするか、又は変更して、試験例2〜試験例12の導電性ペーストを調製した。
【0066】
<比較試験例1〜比較試験例7>
上記表2に示すように、比較例1又は比較例2の球状の銀被覆樹脂粒子を単独で用いるか、実施例1の非球状の銀被覆樹脂粒子を単独で用いるか、或いは実施例1又は実施例2の非球状の銀被覆樹脂粒子と比較例1又は比較例2の球状の銀被覆樹脂粒子とを併用し、各粒子の含有量を変更して、比較試験例1〜比較試験例7の導電性ペーストを調製した。
【0067】
<試験例13〜試験例15>
実施例1又は実施例2の非球状の銀被覆樹脂粒子及び比較例1又は比較例2の球状の銀被覆樹脂粒子のそれぞれの含有量を、上記表2に示すように、設定して、試験例13〜試験例15の導電性ペーストを調製した。
【0068】
<比較試験及び評価>
試験例1〜15及び比較試験例1〜7で得られた22種類の導電性ペーストについて、体積抵抗値と熱伝導率を以下の方法で測定した。これらの結果を上記表2に示す。
【0069】
(i) 体積抵抗率
上記調製した導電性ペーストをスクリーン印刷法により100×100mm角のガラス基板上に塗布し、厚さ100μmの塗布膜を形成した。この塗布膜を、大気雰囲気中、120℃で乾燥して試験用サンプルを作製した。これらの試験用サンプルについて、四端子四探針方式の表面固有抵抗表面抵抗計(三菱化学社製、ローレスタ)を用いて体積抵抗値(×10
-4Ω・cm)を求めた。
【0070】
(ii) 熱伝導率
上記調製した導電性ペーストを用いて、直径10mm、厚さ1mmの成形体を作り、これを200℃で20分間硬化させて試験用サンプルを作製した。得られたサンプルをレーザーフラッシュ法(株式会社ULVAC製、TC−7000)により熱拡散率を測定し、比熱と密度から熱伝導率(W/m・K)を求めた。
【0071】
表2から明らかなように、比較試験例1及び2の導電性ペーストでは、銀被覆樹脂粒子として球状の粒子のみを用いたため、体積抵抗率が8.9×10
-4Ω・cm〜9.2×10
-4Ω・cmであって導電性が高くなく、熱伝導率が4W/m・K〜6W/m・Kであって熱伝導性も高くなかった。
【0072】
また比較試験例3の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量が55質量%と少な過ぎ、かつエポキシ樹脂が45質量%と多過ぎたため、体積抵抗率が8.7×10
-4Ω・cmであって導電性が高くなく、熱伝導率が4W/m・Kであって熱伝導性も高くなかった。
【0073】
また比較試験例4の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量が95質量%と多過ぎ、かつエポキシ樹脂が5質量%と少な過ぎたため、体積抵抗率が7.9×10
-4Ω・cmであって導電性が高くなく、熱伝導率が5W/m・Kであって熱伝導性も高くなかった。
【0074】
また比較試験例5〜7の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の含有量が35質量%と少な過ぎ、かつ球状の銀被覆樹脂粒子が55質量%と多過ぎたため、体積抵抗率が8.1×10
-4Ω・cm〜8.5×10
-4Ω・cmであって導電性が高くなく、熱伝導率が4W/m・K〜6W/m・Kであって熱伝導性も高くなかった。
【0075】
これに対して、試験例5の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子のアスペクト比(D1/D2)の平均値が1.1であったが、体積抵抗率が3.2×10
-4Ω・cmであって導電性が低くなく、熱伝導率が11W/m・Kであって熱伝導性は高かった。
【0076】
また試験例6の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の最大長径D1が0.4であったが、体積抵抗率が5.1×10
-4Ω・cmであって導電性が低くなく、熱伝導率が8W/m・Kであって熱伝導性も低くなかった。
【0077】
また試験例7の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の最大長径D1が12.0であったが、体積抵抗率が5.7×10
-4Ω・cmであって導電性が低くなく、熱伝導率が8W/m・Kであって熱伝導性も低くなかった。
【0078】
また試験例8の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の平均厚さが0.04μmであったが、体積抵抗率が6.9×10
-4Ω・cmであって導電性が低くなく、熱伝導率が7W/m・Kであって熱伝導性も低くなかった。
【0079】
また試験例9の導電性ペーストでは、非球状の銀被覆樹脂粒子の銀被覆層の平均厚さが0.32μmであったが、体積抵抗率が5.4×10
-4Ω・cmであって導電性が低くなく、熱伝導率が9W/m・Kであって熱伝導性も低くなかった。
【0080】
また試験例1〜4及び試験例10〜12の導電性ペーストでは、本発明の第2の観点の要件を充足した非球状の銀被覆樹脂粒子を用いているため、体積抵抗率が0.5×10
-4Ω・cm〜2.2×10
-4Ω・cmであって導電性が高く、熱伝導率が11W/m・K〜13W/m・Kであって熱伝導性も高かった。
【0081】
更に試験例13〜15の導電性ペーストでは、本発明の第4の観点の要件を充足した非球状の銀被覆樹脂粒子と球状の銀被覆樹脂粒子との配合割合であるため、体積抵抗率が1.1×10
-4Ω・cm〜1.4×10
-4Ω・cmであって導電性が高く、熱伝導率が11W/m・K〜13W/m・Kであって熱伝導性も高かった。