【課題】施工効率に優れると共に、コンクリート躯体にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができるコンクリート用アンカーの施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート躯体100の既設穴101から既存の元アンカー50を抜き取る第1工程と、既設穴101と同心状に、既設穴101より径が大きい削孔径で、好適には既設穴101より深さが深い削孔深さで、新設穴102を削孔する第2工程と、新設穴102に新たな更新アンカー10を打設する第3工程を備えるコンクリート用アンカーの施工方法。
前記元アンカーが、内周に取付ボルトが螺合される雌ねじが形成され且つ先端側に拡開片が形成された本体と、先端側から本体側に圧入されて前記拡開片を拡開するコーンから構成される本体打込式アンカーであり、
前記更新アンカーが、基部の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部が設けられ且つ前記基部の内周に取付ボルトが螺合される雌ねじが形成されたインナー部材と、先端側に前記テーパ部の圧入で拡張する拡張片が設けられたスリーブから構成されるスリーブ打込式アンカーであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコンクリート用アンカーの施工方法。
前記第2工程において、前記既設穴より径が大きい削孔径で前記新設穴を削孔する、若しくは前記既設穴より深さが深い削孔深さで前記新設穴を削孔する、若しくは前記既設穴より径が大きい削孔径で且つ前記既設穴より深さが深い削孔深さで前記新設穴を削孔することを特徴とする請求項5記載のコンクリート用アンカーの施工方法。
前記元アンカーが、内周に取付ボルトが螺合される雌ねじが形成され且つ先端側に拡張片が形成された本体と、前記本体の打込みにより本体側に圧入されたコーンから構成される本体打込式アンカーであり、
前記更新アンカーが、基部の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部が設けられ且つ前記基部の後端側に雄ねじ部が設けられている軸体と、基筒の先端側に薄肉部を介して前記テーパ部の圧入で拡張する拡張片が設けられたアウター部材から構成される拡底式アンカーであることを特徴とする請求項5又は6記載のコンクリート用アンカーの施工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の如く、既存のアンカーの打設で残った既設穴301にモルタル302を充填して埋め戻し、別の場所の新設穴303を形成する工法では、既設穴301を埋め戻すためのモルタル注入作業に労力を要し、施工効率に劣る。更に、埋め戻した既設穴301の近くに新たなアンカーを打設する新設穴303を削孔することから、コンクリート躯体300が穴だらけになってしまい、コンクリート躯体に大きな負荷がかかり、強度や耐久性の低下が懸念される。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、施工効率に優れると共に、コンクリート躯体にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができるコンクリート用アンカーの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、コンクリート躯体の既設穴から既存の元アンカーを抜き取る第1工程と、前記既設穴と同心状に、前記既設穴より径が大きい削孔径で新設穴を削孔する第2工程と、前記新設穴に新たな更新アンカーを打設する第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、既設穴を埋め戻すためのモルタル注入作業が不要になり、コンクリート用アンカーの施工効率を高めることができる。また、既設穴とは異なるコンクリート躯体の新たな場所に新設穴を形成せずに済むことから、コンクリート躯体にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができる。また、既設穴より径が大きい削孔径の新設穴に更新アンカーを打設することにより、元アンカーが引張応力を与えていた応力負荷済領域より外側の健全なコンクリートの領域を利用して、更新アンカーを確実に効かせることができる。また、既設穴と同心状に、既設穴より径が大きい削孔径で新設穴を形成することにより、既設穴をガイドの下穴として利用し、真っ直ぐに同心状の新設穴を形成することができ、かかる観点からもコンクリート用アンカーの施工効率に優れる。
【0009】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、前記第2工程において、前記既設穴より深さが深い削孔深さで前記新設穴を削孔することを特徴とする。
これによれば、既設穴より深さが深い削孔深さの新設穴に更新アンカーを打設することにより、元アンカーが引張応力を与えていた応力負荷済領域より外側の健全なコンクリートの領域をより広範囲に利用して、更新アンカーをより確実に効かせることができる。
【0010】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、コンクリート躯体の既設穴から既存の元アンカーを抜き取る第1工程と、前記既設穴と同心状に、前記既設穴より深さが深い削孔深さで新設穴を削孔する第2工程と、前記新設穴に新たな更新アンカーを打設する第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、既設穴を埋め戻すためのモルタル注入作業が不要になり、コンクリート用アンカーの施工効率を高めることができる。また、既設穴とは異なるコンクリート躯体の新たな場所に新設穴を形成せずに済むことから、コンクリート躯体にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができる。また、既設穴より深さが深い削孔深さの新設穴に更新アンカーを打設することにより、元アンカーが引張応力を与えていた応力負荷済領域より外側の健全なコンクリートの領域を利用して、更新アンカーを確実に効かせることができる。
【0011】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、前記元アンカーが、内周に取付ボルトが螺合される雌ねじが形成され且つ先端側に拡開片が形成された本体と、先端側から本体側に圧入されて前記拡開片を拡開するコーンから構成される本体打込式アンカーであり、前記更新アンカーが、基部の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部が設けられ且つ前記基部の内周に取付ボルトが螺合される雌ねじが形成されたインナー部材と、先端側に前記テーパ部の圧入で拡張する拡張片が設けられたスリーブから構成されるスリーブ打込式アンカーであることを特徴とする。
これによれば、例えば既存のアンカー抜取具を用いて容易に本体打込式アンカーを抜き取り、撤去することができる。また、更新アンカーとされるスリーブ打込式アンカーは、インナー部材の雌ねじに取付ボルトが螺合され、取付ボルトに荷重が負荷されればテーパ部が拡張片により引き込まれて拡張力が生じ、定着力を増すことから、更新アンカーの定着力、支持力をより高めることができる。
【0012】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、コンクリート躯体の既設穴から既存の元アンカーを抜き取る第1工程と、前記既設穴と同心状に、穴深さ方向の一部に部分拡径部を形成して新設穴を削孔する第2工程と、前記部分拡径部に拡張した拡張片を入り込ませるようにして前記新設穴に新たな更新アンカーを打設する第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、既設穴を埋め戻すためのモルタル注入作業が不要になり、コンクリート用アンカーの施工効率を高めることができる。また、既設穴とは異なるコンクリート躯体の新たな場所に新設穴を形成せずに済むことから、コンクリート躯体にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができる。また、既設穴と同心状で、穴深さ方向の一部に部分拡径部を形成した新設穴に更新アンカーを打設することにより、元アンカーが引張応力を与えていた応力負荷済領域より外側の健全なコンクリートの領域を利用して、更新アンカーを確実に効かせることができる。
【0013】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、前記第2工程において、前記既設穴より径が大きい削孔径で前記新設穴を削孔する、若しくは前記既設穴より深さが深い削孔深さで前記新設穴を削孔する、若しくは前記既設穴より径が大きい削孔径で且つ前記既設穴より深さが深い削孔深さで前記新設穴を削孔することを特徴とする。
これによれば、既設穴より径が大きい削孔径の新設穴、若しくは既設穴より深さが深い削孔深さの新設穴、若しくは既設穴より径が大きい削孔径で且つ既設穴より深さが深い削孔深さでの新設穴に更新アンカーを打設することにより、元アンカーが引張応力を与えていた応力負荷済領域より外側の健全なコンクリートの領域をより広範囲に利用して、更新アンカーをより確実に効かせることができる。
【0014】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法は、前記元アンカーが、内周に取付ボルトが螺合される雌ねじが形成され且つ先端側に拡張片が形成された本体と、前記本体の打込みにより本体側に圧入されたコーンから構成される本体打込式アンカーであり、前記更新アンカーが、基部の先端側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部が設けられ且つ前記基部の後端側に雄ねじ部が設けられている軸体と、基筒の先端側に薄肉部を介して前記テーパ部の圧入で拡張する拡張片が設けられたアウター部材から構成される拡底式アンカーであることを特徴とする。
これによれば、例えば既存のアンカー抜取具を用いて容易に本体打込式アンカーを抜き取り、撤去することができる。また、更新アンカーとされる拡底式アンカーは、部分拡径部を有する新設穴において部分拡径部で拡張片を開き、軸体に引抜方向の力が作用した時に、開いた拡張片から外側に向けてコンクリートを押す方向に力が作用するため、非常に大きな定着力を発現し、更新アンカーの定着力、支持力をより高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート用アンカーの施工方法によれば、優れた施工効率で施工することができると共に、コンクリート躯体にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法〕
本発明による第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法は、コンクリート躯体100の既設穴101から
図1に示す既存の元アンカー50を抜き取った後、コンクリート躯体100に既設穴101と同心状に形成した新設穴102に
図2に示す新たな更新アンカー10を打設する施工方法である。
【0018】
図1の元アンカー50は、本体打込式アンカーであり、略円筒状の本体51と、本体51の先端側に挿入して配置されるコーン52を有する。本体51には、後部の内周に雌ねじ511が形成されており、雌ねじ511に図示例では全ねじボルトである取付ボルト53が螺合可能になっている。本体51の前部には先端から切り込まれて軸方向に延びるスリット512が形成され、スリット512は周方向に所定間隔を開けて複数設けられている。本体51の周方向におけるスリット512・512間の部分は拡開片513になっており、本体51の先端側に複数の拡開片513が周方向に並んで設けられている。拡開片513の外面には摩擦抵抗で定着力を高める凹凸514が形成されている。
【0019】
コーン52は、略円柱状で短尺の基部521と、基部521の先端側に設けられ、先端に向かって漸次拡径するテーパ部522を有する。基部521の外径は、本体51の非拡開状態の拡開片513で構成される内径と略同一径か、僅かに小さい径で形成されており、本体51の非拡開状態では、本体51の先端部に基部521が嵌挿される。
【0020】
元アンカー50は、
図1(d)に示すように、コンクリート躯体100の既設穴101にコーン52を先端側に配置して打設される。打設された本体打込式アンカーの元アンカー50では、本体51の穴奥側への打込みでコーン52が本体51側、換言すれば拡開片513側に相対的に圧入され、コーン52の圧入で拡開された拡開片513が既設穴101の周壁に食い込むようにして定着されている。そして、打設された本体51の雌ねじ511に取付ボルト53が螺着される。螺着された取付ボルト53には取付物151が外挿され、取付物151の外側から取付ボルト53にワッシャー161を外挿してナット162を螺合し、取付物151がコンクリート躯体100に取り付けられる。
【0021】
図2の更新アンカー10は、元アンカー50と同じねじ径の取付ボルトが取り付けられるスリーブ打込式アンカーであり、略円筒状のスリーブ11と、スリーブ11の先端側に挿入して配置されるインナー部材12を有する。スリーブ11の前部には、先端から切り込まれて軸方向に延びるスリット111が形成され、スリット111は周方向に所定間隔を開けて複数設けられている。スリーブ11の周方向におけるスリット111・111間の部分は拡張片112になっており、スリーブ11の先端側に複数の拡張片112が周方向に並んで設けられている。拡張片112の外面には摩擦抵抗で定着力を高める凹凸113が形成されている。
【0022】
インナー部材12は、後部を構成する略円柱状の基部121と、基部121の先端側に先端に向かって漸次拡径するように形成されたテーパ部122を有する。基部121の外径は、スリーブ11の非拡張状態の拡張片112で構成される内径と略同一径か、僅かに小さい径で形成されており、スリーブ11の非拡張状態では、スリーブ11の拡張片112から後部114の一部に亘って基部121が嵌挿され、テーパ部122はスリーブ11の先端側に全体を突出するようにして配置される。インナー部材12の基部121の内周には雌ねじ123が形成されており、雌ねじ123に図示例では全ねじボルトである取付ボルト13が螺合可能になっている。
【0023】
更新アンカー10は、
図2(c)に示すように、コンクリート躯体100の新設穴102にインナー部材12を先端側に配置して打設される。打設されたスリーブ打込式アンカーの更新アンカー10では、スリーブ11の穴奥側への打込みでインナー部材12のテーパ部122がスリーブ11側、換言すれば拡張片112側に相対的に圧入され、テーパ部122の圧入で拡張された拡張片112が新設穴102の周壁に食い込むようにして定着されている。そして、打設されたインナー部材12の雌ねじ123に取付ボルト13が螺着される。螺着された取付ボルト13には取付物152が外挿され、取付物152の外側から取付ボルト13にワッシャー163を外挿してナット164を螺合し、取付物152がコンクリート躯体100に取り付けられる。
【0024】
第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法で既存の元アンカー50を更新アンカー10に置き換える際には、例えばコンクリート躯体100の既設穴101に元アンカー50が打設され、取付物151が取り付けられている状態から、ナット162、ワッシャー161を取付ボルト53から取り外し、取付物151を取付ボルト53から外し、更に元アンカー50の本体51に螺合された取付ボルト53を本体51から取り外す。そして、例えば特許文献1、2のような既存のアンカー抜取具を用い、既設穴101から本体51、コーン52を抜き取ることにより、既設穴101から既存の元アンカー50を抜き取って撤去する(
図3(a)、(b)参照)。
図3(b)において、D1は既設穴101の径、L1は既設穴101の深さであり、既設穴101の深さL1は既設穴101の外径部分の深さになっている。
【0025】
その後、
図3(c)、(d)に示すように、ドリル171で既設穴101と同心状に削孔し、既設穴101より径が大きい削孔径で、且つ既設穴101より深さが深い削孔深さで、既設穴101と同心状の新設穴102をコンクリート躯体100に削孔する。
図3(d)において、D2は新設穴102の径であり、新設穴102の径D2>既設穴101の径D1の関係になっている。また、
図3(d)において、L2は新設穴102の深さであり、新設穴102の深さL2は新設穴102の外径部分の深さになっていると共に、新設穴102の深さL2>既設穴101の深さL1の関係になっている。
【0026】
次いで、スリーブ打込式アンカーである新たな更新アンカー10のスリーブ11とインナー部材12をインナー部材12を先端側に配置するようにして新設穴102に挿入する。そして、打込具172及びハンマー173を用いてスリーブ11を穴奥側に打ち込み、インナー部材12のテーパ部122をスリーブ11の拡張片112側に相対的に圧入し、テーパ部122の圧入で拡開された拡張片112を新設穴102の周壁に食い込ませ、更新アンカー10を新設穴102に打設する(
図3(e)、(f)参照)。尚、本例のスリーブ打込式アンカーの更新アンカー10は、インナー部材12の内周に雌ねじ123が形成されていることから、通常は本例の本体打込式アンカーの元アンカー50よりも外径が大きくなる。
【0027】
その後、
図3(f)に示すように、更新アンカー10のインナー部材12の雌ねじ123に取付ボルト13を螺合し、螺合した取付ボルト13に取付物152を外挿し、取付物152の外側から取付ボルト13にワッシャー163を外挿してナット164を螺合し、取付物152をコンクリート躯体100に取り付ける。これにより、第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法による元アンカー50の更新アンカー10への置き換え、取付物152の更新アンカー10による取り付けが完了する。尚、取付物151と取付物152は同一物でも異なる物でも良い。
【0028】
ここで、元アンカー50と更新アンカー10の打設状態、コンクリート躯体100の破壊想定面について説明する。
図4に示すように、コンクリートはその性質上、打設されたアンカーの先端部分からコンクリート躯体100の表面103に向かってα1=45度の角度で剪断破壊しようとし、元アンカー50の最大引抜応力がコンクリート破壊で決まる場合、コンクリート躯体100は図示のコーン状の破壊想定面S1で破断することが想定される。従って、それまで取付物151を支えていた元アンカー50がコンクリート躯体100に引張応力を与えて持続的に影響を与えていた応力負荷済領域は
図4の応力負荷済領域R1となる。
【0029】
他方で、元アンカー50と同心状に打設された更新アンカー10は、既設穴101より径が大きく、且つ既設穴101より深さが深い新設穴102に打設されており、
図5に示すように、アンカー先端部分からコンクリート躯体100の表面103に向かってα2=45度の角度で剪断破壊しようとし、更新アンカー10の最大引抜応力がコンクリート破壊で決まる場合、コンクリート躯体100は図示のコーン状の破壊想定面S2で破断することが想定される。そして、更新アンカー10が取付物152を支えてコンクリート躯体100に引張応力が与えられていく応力負荷想定領域は、応力負荷済領域R1に加え、応力負荷済領域R1の外側で破壊想定面S2より内側の領域で引張応力がそれまで持続的に負荷されていない健全領域R2となる。即ち、元アンカー50が引張応力を与えていた応力負荷済領域R1より外側のコンクリートの健全領域R2を利用して、更新アンカー50を確実に効かせることができる。
【0030】
図6に第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法で置き換える更新アンカー10と同更新アンカー10で置き換えられた元アンカー50の引抜載荷試験の結果を示す。この引抜載荷試験では、コンクリート躯体の異なる場所に打設した元アンカー50と同一構成である元アンカーP1、P2、P3に引抜試験を行い、負荷した荷重とアンカーの変位を測定した。元アンカーP1、P2、P3が打設されていたコンクリート躯体の既設穴の径D1は18mm、既設穴101の深さL1は56mmであり、又、元アンカーP1、P2、P3は取付ボルト53のねじ径M12に対応するものである。
【0031】
更に、元アンカーP1、P2、P3に引抜試験で抜き取った後に、同コンクリート躯体に元アンカーP1、P2、P3に対応する各既設穴と同心状に、径D2:22.5mm、深さL2:67mmで新設穴をそれぞれ形成し、各新設穴に更新アンカー10と同一構成である更新アンカーP1’、P2’、P3’を打設した。更新アンカーP1’、P2’、P3’の打設位置はそれぞれ元アンカーP1、P2、P3に対応し、又、更新アンカーP1’、P2’、P3’は取付ボルト13のねじ径M12に対応するものである。そして、打設した更新アンカーP1’、P2’、P3’に引抜試験を行い、負荷した荷重とアンカーの変位を測定した。
図6から明らかなように、既設穴101を同心状に再利用して新設穴102を形成し、新設穴102に更新アンカー10を打設することにより、元アンカー50よりも引抜強度、支持力がより高い更新アンカー50を設置することができる。
【0032】
第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法によれば、既設穴101を埋め戻すためのモルタル注入作業が不要になり、コンクリート用アンカーの施工効率を高めることができる。また、既設穴101とは異なるコンクリート躯体の新たな場所に新設穴を形成せずに済むことから、コンクリート躯体100にかかる負荷を最小限に留め、コンクリート躯体100に必要とされる強度や耐久性を確実に維持することができる。
【0033】
また、既設穴101より径が大きい削孔径の新設穴102に更新アンカー10を打設することに加え、既設穴101より深さが深い削孔深さの新設穴102に更新アンカーを打設することにより、元アンカー50が引張応力を与えていた応力負荷済領域R1より外側のコンクリートの健全領域R2を広範囲に利用して、更新アンカー10をより確実に効かせることができる。
【0034】
また、既設穴101と同心状に、既設穴101より径が大きい削孔径で新設穴102を形成することにより、既設穴101をガイドの下穴として利用し、真っ直ぐに同心状の新設穴102を形成することができ、かかる観点からもコンクリート用アンカーの施工効率を高めることができる。
【0035】
また、元アンカー50を本体打込式アンカー、更新アンカー10をスリーブ打込式アンカーとすることにより、例えば既存のアンカー抜取具を用いて容易に本体打込式アンカーを抜き取り、撤去することができる。また、更新アンカー10とされるスリーブ打込式アンカーは、インナー部材12の雌ねじ123に取付ボルト13が螺合され、取付ボルト13に荷重が負荷されればテーパ部122が拡張片112により引き込まれて拡張力が生じ、定着力を増すことから、更新アンカー10の定着力、支持力をより高めることができる。
【0036】
〔第2実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法〕
本発明による第1実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法は、コンクリート躯体100の既設穴101から
図1に示す既存の元アンカー50を抜き取った後、コンクリート躯体100に既設穴101と同心状に形成した新設穴104に
図7に示す新たな更新アンカー20を打設する施工方法である。尚、元アンカー50の構成は第1実施形態と同一である。
【0037】
図7の更新アンカー20は、拡底式アンカーであり、略円筒状のアウター部材21と、アウター部材21に挿入して配置される軸体22を有する。アウター部材21の前部には、先端から切り込まれて軸方向に延びるスリット211が形成され、スリット211は周方向に所定間隔を開けて複数設けられている。アウター部材21の周方向におけるスリット211・211間の部分は拡張片212になっており、アウター部材21の先端側に複数の拡張片212が周方向に並んで設けられている。アウター部材21の基筒213と前部との間には局所的に屈曲してヒンジとして機能する薄肉部214が形成されており、基筒213の先端側にヒンジ機能を有する薄肉部214を介して拡張片212が設けられている。
【0038】
軸体22は、略円柱状の基部221を有し、基部221の先端側には先端に向かって漸次拡径するテーパ部222が設けられ、基部221の後端側には外周に雄ねじが形成された雄ねじ部223が設けられている。基部221及び雄ねじ部223の外径は、アウター部材21の基筒213の内径及びこれと略同一の非拡張状態の拡張片212で構成される内径と略同一径か、僅かに小さい径で形成されており、アウター部材21の非拡張状態では、アウター部材21の拡張片212から基筒213に亘って軸体22の基部221及び雄ねじ部223が嵌挿され、テーパ部222はアウター部材21の先端側に全体を突出するようにして配置される。224は軸体22に対してアウター部材21を打ち込む位置を示す打込マークであり、打込マーク224がアウター部材21から露出するまでアウター部材21を打ち込むと、アウター部材21の拡張片212が適切な位置と状態で拡張するようになっている。
【0039】
更新アンカー20は、
図7(e)、(f)に示すように、コンクリート躯体100の部分拡径部105を有する新設穴104に軸体22のテーパ部222を先端側に配置して打設される。打設された拡底式アンカーの更新アンカー20では、アウター部材21の穴奥側への打込みで軸体22のテーパ部222がアウター部材21側、換言すれば拡張片212側に相対的に圧入され、テーパ部222の圧入で拡張された拡張片212が部分拡径部105に入り込むようにして拡張される。そして、コンクリート躯体100の表面103から突出する軸体22の雄ねじ部223に取付物153が外挿され、取付物153の外側から雄ねじ部223にワッシャー165を外挿してナット166を螺合し、取付物153がコンクリート躯体100に取り付けられる。
【0040】
第2実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法で既存の元アンカー50を更新アンカー20に置き換える際には、例えばコンクリート躯体100の既設穴101に元アンカー50が打設され、取付物151が取り付けられている状態から、ナット162、ワッシャー161を取付ボルト53から取り外し、取付物151を取付ボルト53から外し、更に元アンカー50の本体51に螺合された取付ボルト53を本体51から取り外す。そして、第1実施形態と同様に、既存のアンカー抜取具を用い、既設穴101から本体51、コーン52を抜き取ることにより、既設穴101から既存の元アンカー50を抜き取って撤去する(
図8(a)、(b)参照)。
図8(b)において、第1実施形態と同様、D1は既設穴101の径、L1は既設穴101の深さであり、既設穴101の深さL1は既設穴101の外径部分の深さになっている。
【0041】
その後、
図8(c)に示すように、ドリル174で既設穴101と同心状に削孔し、既設穴101より径が大きい削孔径で、既設穴101と同心状の新設穴104をコンクリート躯体100に削孔する。
図8(c)において、D2’は新設穴104の径であり、新設穴104の径D2’>既設穴101の径D1の関係になっている。
【0042】
その後、
図8(d)に示すように、例えば特許文献3の部分拡径部削成ツールのような既存の部分拡径部削成ツール175を用い、既設穴101と同心状に、新設穴104の穴深さ方向の一部に部分拡径部105を形成し、既設穴101と同心状の部分拡径部105を有する新設穴104を形成する。図示例の部分拡径部105は、穴奥側に向かって漸次拡径する略テーパ形状で形成されている。
図8(d)において、D3は部分拡径部105の最大径であり、部分拡径部105の最大径D3>新設穴104の径D2’の関係になっている。
【0043】
次いで、拡底式アンカーである新たな更新アンカー20のアウター部材21と軸体22を軸体22のテーパ部222を先端側に配置するようにして新設穴104に挿入する。そして、打込具176及びハンマー177を用いてアウター部材21を穴奥側に打ち込み、軸体22のテーパ部222をアウター部材21の拡張片212側に相対的に圧入し、テーパ部222の圧入で拡張片212を拡張させて部分拡径部105に入り込ませ、更新アンカー20を部分拡径部105を有する新設穴104に打設する(
図8(e)、(f)参照)。
【0044】
その後、
図8(f)に示すように、コンクリート躯体100の表面103から突出する更新アンカー20の雄ねじ部223に取付物153を外挿し、取付物153の外側から雄ねじ部223にワッシャー165を外挿してナット166を螺合し、取付物153をコンクリート躯体100に取り付ける。これにより、第2実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法による元アンカー50の更新アンカー20への置き換え、取付物153の更新アンカー10による取り付けが完了する。尚、取付物151と取付物153は同一物でも異なる物でも良い。
【0045】
ところで先に述べた第1実施形態におけるスリーブ打込式アンカーの更新アンカー10等のストレート穴に定着させるタイプのアンカーは、アンカー引抜方向に力が作用したときに、アンカー拡張部がコンクリートに対する摩擦力をもって抗しようとする。これに対して、拡底式アンカーの更新アンカー20は、部分拡径部105で拡張片212が開いて入り込み、軸体22に引抜方向の力が作用した時に、拡張した拡開片212から外側に向かってコンクリート躯体100を押す方向に力が作用するため(
図8(f)、
図9の太線矢印参照)、非常に大きな定着力を発現する。第2実施形態では、この押す方向の力が、元アンカー50による応力負荷済領域R1と、応力負荷済領域R1の外側の引張応力がそれまで持続的に負荷されていない健全領域R3に対して作用して応力負荷済領域R1と健全領域R3が押圧される。そして、通常は、コンクリートが剪断破壊することなく、軸体22の雄ねじ部223が切断するまで引抜力に耐えることが可能である。
【0046】
第2実施形態のコンクリート用アンカーの施工方法によれば、また、既設穴101と同心状で、穴深さ方向の一部に部分拡径部105を形成した新設穴104に更新アンカー20を打設することにより、元アンカー50が引張応力を与えていた応力負荷済領域R1より外側のコンクリートの健全領域R3を利用して、更新アンカー20を確実に効かせることができる。更に、既設穴101より径が大きい削孔径の新設穴104に更新アンカー20を打設することにより、応力負荷済領域R1より外側のコンクリートの健全領域R3をより広範囲に利用して、更新アンカー20をより確実に効かせることができる。
【0047】
また、拡底式アンカーの更新アンカー20は、新設穴104の部分拡径部105で拡張片212を開き、軸体22に引抜方向の力が作用した時に、開いた拡張片212から外側に向けてコンクリートを押す方向に力が作用するため、非常に大きな定着力を発現し、更新アンカー20の定着力、支持力をより高めることができる。その他、第2実施形態は第1実施形態と対応する構成から対応する効果を得ることができる。
【0048】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0049】
例えば第1実施形態では、既設穴101より径が大きい削孔径で、且つ既設穴101より深さが深い削孔深さで、既設穴101と同心状の新設穴102をコンクリート躯体100に削孔し、この新設穴102に更新アンカー10を打設する構成としたが、既設穴101より径が大きい削孔径で既設穴101と同心状の新設穴102をコンクリート躯体100に削孔し、この新設穴102に更新アンカー10を打設する構成、或いは既設穴101より深さが深い削孔深さで既設穴101と同心状の新設穴102をコンクリート躯体100に削孔し、この新設穴102に更新アンカー10を打設する構成としても良好であり、これにより、元アンカー50による応力負荷済領域R1より外側のコンクリートの健全領域を利用して更新アンカー10を確実に効かせることができる。
【0050】
また、第2実施形態では、穴深さ方向の一部に部分拡径部105を有する新設穴104を既設穴101より径が大きい削孔径で形成したが、既設穴101と同径の新設穴104の(即ち元の既設穴101をそのまま利用して)穴深さ方向の一部に部分拡径部105を形成し、この穴深さ方向の一部に部分拡径部105を有する既設穴101と同径の新設穴104に更新アンカー20を打設する構成としても、第2実施形態と同様に更新アンカー20を確実に効かせることができて良好である。また、穴深さ方向の一部に部分拡径部105を有する既設穴101と同径の新設穴104、或いは穴深さ方向の一部に部分拡径部105を有する既設穴101より大径の新設穴104を、既設穴101より深さが深い削孔深さで形成し、このように形成した新設穴104に更新アンカー20を打設する構成としても、第2実施形態と同様に更新アンカー20を確実に効かせることができて良好である。
【0051】
また、本発明における元アンカー、更新アンカーは、それぞれ本発明を適用可能な範囲で適宜であり、本体打込式アンカー以外の元アンカーに対しても本発明は適用可能であり、又、スリーブ打込式アンカー、拡底式アンカー以外の更新アンカーに対しても本発明は適用可能である。例えば本体打込式アンカーの元アンカーを本体打込式アンカーの更新アンカーに置き換える場合にも本発明を適用することが可能である。