特開2021-92166(P2021-92166A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-92166(P2021-92166A)
(43)【公開日】2021年6月17日
(54)【発明の名称】内燃機関のチェーンケース
(51)【国際特許分類】
   F02F 7/00 20060101AFI20210521BHJP
【FI】
   F02F7/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-221791(P2019-221791)
(22)【出願日】2019年12月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104490
【氏名又は名称】キーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】小室 秀文
(72)【発明者】
【氏名】関根 謙克
(72)【発明者】
【氏名】肥後谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】奥野 亜朝
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA73
3G024BA21
3G024FA08
3G024GA25
3G024GA32
3G024GA33
3G024HA13
(57)【要約】
【課題】チェーンケースとチェーンケースを貫通するクランクシャフトとの間をシールする。
【解決手段】チェーンケース1は、クランクシャフト貫通孔3を有する樹脂製の本体部4と、クランクシャフト貫通孔3の周囲に取り付けられたリング部材5、クランクシャフト2の外周面をシールするオイルシール6と、を有している。
オイルシール6が接合されたリング部材は、クランクシャフト貫通孔3の外周縁で本体部4に対して接合される。これによって、リング部材5は、本体部4に形成されたクランクシャフト貫通孔3の真円度や位置精度によらず、リング部材5に予め接合されたオイルシール6をクランクシャフト2に対して所期のシール性能を発揮するように本体部4に接合することが可能となる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関本体の前面又は側面を覆い、内燃機関のクランクシャフトが貫通するクランクシャフト貫通孔を有する樹脂製の本体部と、上記クランクシャフト貫通孔の周囲に取り付けられたリング部材と、上記クランクシャフトの外周面をシールするオイルシールを有し、
上記オイルシールは、上記リング部材の内周側に接合され、
上記リング部材の外周側は、上記クランクシャフト貫通孔の外周縁で上記本体部に対して接合されることを特徴とする内燃機関のチェーンケース。
【請求項2】
上記リング部材は、上記本体部よりも透過率が高い樹脂材料からなり、上記リング部材側からのレーザー溶接により上記本体部に接合可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のチェーンケース。
【請求項3】
上記リング部材は、上記本体部と同一の樹脂材料からなっていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関のチェーンケース。
【請求項4】
上記本体部は、上記クランクシャフト貫通孔の周囲にクランクシャフト軸方向に沿って突出する突起を有し、当該突起の先端が上記リング部材の円筒部に形成されている外周側突出部に接合されていることを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関のチェーンケース。
【請求項5】
上記リング部材は、上記本体部と異なる樹脂材料からなり、接着剤による接着により上記本体部に接合可能されていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のチェーンケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のチェーンケースに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エンジン本体の外側面に配置されたタイミングベルトを覆うとともに、クランクシャフトが貫通する貫通孔を有する樹脂材料製のタイミングベルトカバーが開示されている。
【0003】
この特許文献1のタイミングベルトカバーは、貫通孔に取り付けられた円板状のシール部材によってクランクシャフトとの間に生じる隙間を塞ぎ、当該隙間を通じて外部へ放散されるベルト騒音を遮断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平3−54251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1のタイミングベルトカバーは、樹脂材料からなる成形品であるため、貫通孔の寸法誤差や、カバー自体の変形等を考慮して貫通孔の大きさを設定する必要がある。つまり、特許文献1のタイミングベルトカバーにおいて、貫通孔は大きめに作らざるを得ない。
【0006】
また、特許文献1のタイミングベルトカバーにおいて、貫通孔に取り付けられたシール部材は、遮音を目的として設けられたものでありオイルシール用ではない。
【0007】
そのため、特許文献1のタイミングベルトカバーは、シール部材とクランクシャフトとの間の隙間を精度よく塞ぐことができず、クランクシャフトの外周面に沿ってオイルが外部に漏れ出てしまう虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関のチェーンケースは、クランクシャフトの外周面をシールする環状のオイルシールが接合されたリング部材が、クランクシャフト貫通孔の外周縁で当該チェーンケースの本体部に対して接合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リング部材は、樹脂製の本体部に形成されたクランクシャフト貫通孔の真円度や位置精度によらず、当該リング部材に予め接合されたオイルシールをクランクシャフトに対して所期のシール性能を発揮するように本体部に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る内燃機関のチェーンケースの正面図。
図2】本発明に係る内燃機関のチェーンケースの要部断面図。
図3】本発明に係る内燃機関のチェーンケースの要部をクランクシャフトとともに示した断面図。
図4】オイルシールが接合されたリング部材の平面図。
図5】リング部材の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図中におけるX軸は内燃機関の前後方向(クランクシャフト軸線方向)、Y軸は内燃機関の左右方向(幅方向)、Z軸は内燃機関の上下方向(シリンダ軸線方向)、をそれぞれ示している。
【0012】
図1は、本発明に係る内燃機関のチェーンケース1の正面図である。図2は、本発明に係る内燃機関のチェーンケース1の要部断面図である。図3は、本発明に係る内燃機関のチェーンケース1の要部をクランクシャフト2とともに示した断面図である。図4は、オイルシール6が接合されたリング部材5の平面図である。図5は、リング部材5の正面図である。
【0013】
チェーンケース1は、内燃機関本体(図示せず)の前面を覆うように内燃機関本体に取り付けられている。チェーンケース1は、例えば、ダウエルピン(図示せず)等により内燃機関本体に対する位置決めがなされた状態で内燃機関本体に対してボルト(図示せず)等により固定される。
【0014】
チェーンケース1は、図1図3に示すように、内燃機関のクランクシャフト2が貫通するクランクシャフト貫通孔3を有する本体部4と、クランクシャフト貫通孔3の周囲に取り付けられた環状(円筒状)のリング部材5、クランクシャフト2の外周面をシールする環状(円筒状)のオイルシール6と、オイルシール6の外周面に取り付けられた環状のスプリング7と、を有している。
【0015】
クランクシャフト2の前端部には、図3に示すように、クランクプーリ8が取り付けられている。クランクプーリ8には、補機駆動用ベルト(図示せず)が巻き掛けられている。クランクプーリ8は、チェーンケース1の外側に位置し、補機駆動用ベルト(図示せず)を介してウォータポンプ等の補機類(図示せず)を駆動する。
【0016】
チェーンケース1の本体部4は、例えばポリアミド等の合成樹脂材料からなり、型成形されたものである。
【0017】
本体部4は、浅皿形状を呈し、内燃機関本体の前面との間に空間を形成する。当該空間には、クランクシャフト2に固定されたクランクスプロケット(図示せず)、カムシャフト(図示せず)の前端に固定されたカムスプロケット(図示せず)、これらクランクスプロケット及びカムスプロケットに巻き掛けられた回転動力伝達用のタイミングチェーン(図示せず)等が収容される。
【0018】
図2図3に示すように、本体部4は、クランクシャフト貫通孔3の周囲が階段状に形成されている。また、本体部4は、クランクシャフト貫通孔3周囲の階段状となった部分に、クランクシャフト軸方向に沿って突出する環状の突起9を有している。
【0019】
突起9は、クランクシャフト貫通孔3の外周縁に位置し、クランクシャフト軸方向に沿って突出している。本実施例において、突起9は、内燃機関本体と対向しない側に向かって突出している。なお、突起9は、内燃機関本体と対向する側に向かって突出するようにしてもよい。
【0020】
本体部4には、オイルシール6が加硫接着されたリング部材5が接合されている。
【0021】
図2図5に示すように、チェーンケース1のオイルシール6は、円筒形状を呈している。オイルシール6は、例えばフッ素ゴム等のゴム材料からなり、本体部4に接合される前のリング部材5に対して加硫接着される。
【0022】
リング部材5の円筒部10(後述)内に収容された状態で、外周面がリング部材5の内周側突出部11(後述)の先端に加硫接着されている。詳述すると、オイルシール6は、軸方向(X軸方向)に沿ってリング部材5の円筒部10の外側に突出しない状態で、リング部材5に加硫接着されている。
【0023】
オイルシール6の一端部6aには、外周にスプリング7が取り付けられている。オイルシール6は、スプリング7が取り付けられた一端部6aの内周面が全周に亙って連続してクランクシャフト2の外周面に密着することで、チェーンケース1と内燃機関本体の前面とのに形成される空間内から外部にオイルが漏れ出ることを抑制している。
【0024】
本実施例において、オイルシール6は、他端部6bの内径がクランクシャフト2の外径よりも小さくなるよう設定されているが、他端部6bの内径がクランクシャフト2の外径以上となるように設定してもよい。
【0025】
図2図5に示すように、チェーンケース1のリング部材5は、円筒形状の円筒部10と、円筒部10の内周面から当該円筒部10の内側に向かって突出する内周側突出部11と、円筒部10の外周面から当該円筒部10の外側に向かって突出する外周側突出部12と、を有している。
【0026】
円筒部10は、オイルシール6を収容可能な大きさのものであって、軸方向に沿った長さ(X軸方向に沿った長さ)が、オイルシール6の軸方向に沿った長さ(X軸方向に沿った長さ)よりも長くなるよう設定されている。
【0027】
内周側突出部11は、環状に連続する断面矩形の突起であり、円筒部10の内周面から当該円筒部10の内側に向かって突出している。内周側突出部11は、先端にオイルシール6の外周面が加硫接着されている。
【0028】
外周側突出部12は、環状に連続する階段状の突起であり、円筒部10の外周面から当該円筒部10の外側に向かって突出する断面矩形の第1突出壁13と、第1突出壁13の先端から円筒部10軸方向(X軸方向)に沿って延びる断面矩形の第2突出壁14と、第2突出壁14の先端から当該円筒部10の外側に向かって突出する断面矩形の第3突出壁15と、を有している。第2突出壁14は、一端が第1突出壁13に接続され、他端が第3突出壁15に接続されている。
【0029】
リング部材5は、外周側突出部12の内周側の部分となる第1突出壁13が本体部4の突起9の先端に対してレーザー溶接により接合されている。リング部材5は、本体部4と同じ樹脂材料からなっているが、本体部4に比べてレーザー溶接に用いるレーザー光の透過率が高くなっている。
【0030】
本体部4とリング部材5とのレーザー溶接は、透過率の高い透過部材としてのリング部材5と透過率の低い吸収部材としての本体部4とを重ね合わせ、リング部材5の側から本体部4側に向かってレーザー光を照射して行う。詳述すると、本体部4とリング部材5とのレーザー溶接は、本体部4の突起9とリング部材5の第1突出壁13とを重ね合わせ、第1突出壁13側から突起9側に向かってレーザー光を照射して行う。
【0031】
リング部材5の第1突出壁13を透過したレーザー光は、第1突出壁13と突起9との界面(境界面)において、突起9側で熱に変換され突起9の先端を溶融する。第1突出壁13は、突起9先端の溶融した部分からの熱伝導で溶融する。つまり、第1突出壁13と突起9とは、レーザー光を照射することで、両者の界面において互いの溶融した部分同士が混ざり合う。第1突出壁13と突起9とは、レーザー光の照射を終了すると、両者の界面において溶融した部分が冷却され凝固し、両者が接合される。
【0032】
チェーンケース1は、本体部4が樹脂材料からなっているので、本体部4を金属製とした場合に比べて、クランクシャフト貫通孔3の真円度や位置精度が低下する虞がある。しかしながら、リング部材5は、クランクシャフト貫通孔3の内周面やクランクシャフト貫通孔3の位置を基準に本体部4に対して接合されているわけではない。すなわち、チェーンケース1は、本体部4とは別部品であるリング部材5を本体部4のクランクシャフト貫通孔3の外周縁に接合することで構成される。
【0033】
そのため、リング部材5は、本体部4に形成されたクランクシャフト貫通孔3の真円度や位置精度によらず、オイルシール6がクランクシャフト2に対して所期のシール性能を発揮するように本体部4に接合することができる。つまり、リング部材5は、クランクシャフト2の位置を基準に本体部4に接合することが可能となる。
【0034】
具体的には、本体部4とオイルシール6が接合されたリング部材5との接合は、例えば両者を所定の固定治具(図示せず)に固定した(取り付けた)状態で実施される。上記固定治具は、本体部4を内燃機関本体への取り付け位置を基準とした所定位置に固定し、リング部材5をクランクシャフト2の位置を基準とした所定位置に固定するものである。
【0035】
オイルシール6が接合されたリング部材5は、チェーンケース1が取り付けられる内燃機関本体から突出するクランクシャフト2に対する位置決めがなされた状態で、本体部4に対して接合される。また、本体部4は、チェーンケース1が取り付けられる内燃機関本体に対する位置決めがなされた状態で、オイルシール6が接合されたリング部材5に対して接合される。
【0036】
従って、チェーンケース1は、本体部4に形成されるクランクシャフト貫通孔3の寸法精度や位置精度によらず、本体部4とクランクシャフト2との間の(オイル)シール性を確保することが可能となる。つまり、チェーンケース1は、本体部4を樹脂製としても、本体部4とクランクシャフト2との間のシール性を確保することができる。
【0037】
換言すれば、リング部材5は、本体部4のクランクシャフト貫通孔3の真円度や位置精度によらず、当該リング部材5に予め接合されたオイルシール6をクランクシャフト2に対して所期のシール性能を発揮するように本体部4に接合することが可能となる。
【0038】
また、リング部材5は、オイルシール6を備えた必要最低限の大きさとすることができる。そのため、リング部材5は、樹脂製としても、変形や収縮を極力抑制することができ、寸法精度の高い部品とすることができる。
【0039】
リング部材5にオイルシール6を接合した部品は、必要最低限の大きさにできるので、オイルシール6の生産設備(既存の設備)で製造可能となる。
【0040】
チェーンケース1は、リング部材5と本体部4とを振動溶着により接合した場合、内燃機関本体の前面に取り付けた際にリング部材5に接合されたオイルシール6の中心軸とクランクシャフト2の中心軸とを精度良く一致させることが困難になる。そのため、チェーンケース1は、リング部材5と本体部4とを振動溶着により接合した場合、オイルシール6とクランクシャフト2の外周面との間に所期のオイルシール性能を発揮できない虞がある。
【0041】
しかしながら、チェーンケース1は、リング部材5が本体部4に対して固定された状態で本体部4に対してレーザー溶接によって接合されているので、リング部材5に接合されたオイルシール6の中心軸とクランクシャフト2の中心軸とを精度良く一致させることが可能となる。そのため、オイルシール6は、クランクシャフト2の外周面との間に所期のオイルシール性能を発揮することが可能となる。
【0042】
リング部材5は、外周側突出部12の第1突出壁13の肉厚(X軸方向に沿った厚み)が薄くなるほど第1突出壁13の透過率が高くなり、レーザー溶接を行う上で有利となる。
【0043】
また、本体部4は、突起9を設けることでリング部材5に接合される部分の厚さ(X軸方向に沿った厚み)が厚くなり、突起9を設けない場合に比べて透過率が低下し、第1突出壁13と突起9との界面(境界面)で突起9がレーザー光を吸収して溶融しやすくなる。
【0044】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0045】
例えば、リング部材5は、本体部4と異なる樹脂材料で形成するようにしてもよい。この場合、リング部材5と本体部4は、接着剤を用いて接合される。また、リング部材5は、金属製としてもよく、この場合には、本体部4に対して接着剤を用いて接合される。
【0046】
本体部4は、リング部材5と接着剤で接合される場合、突起9を省略することも可能である。突起9を省略した場合、本体部4とリング部材5との接合面積が相対的に増大することになり、接着による接合強度を相対的に向上する。
【符号の説明】
【0047】
1…チェーンケース
2…クランクシャフト
3…クランクシャフト貫通孔
4…本体部
5…リング部材
6…オイルシール
6a…一端部
6b…他端部
7…スプリング
8…クランクプーリ
9…突起
10…円筒部
11…内周側突出部
12…外周側突出部
13…第1突出壁
14…第2突出壁
15…第3突出壁
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2019年12月18日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
【特許文献1】実開平3−54251号公報