【解決手段】歯周病治療装置1は、被検者Pの口腔内の患部に注入される光感受性物質を励起させる光を光感受性物質に照射する励起光照射手段30と、正負の出力端子11,12をそれぞれ有する直流電源装置10と、直流電源装置10の正負の出力端子のうちの一方11に導線13で接続され、患部に注入された光感受性物質に一方の極性の電荷を付与させるプローブ電極と、直流電源装置10の正負の出力端子のうちの他方12に導線14で接続され、被検者Pの身体の一部に他方の極性の電荷を付与する被検者電極17と、を備える。
前記プローブ電極の先端には前記患部と直接接触可能な患部接触子が設けられ、前記患部接触子は前記光感受性物質を吸収可能なスポンジで構成される請求項3記載の歯周病治療装置。
前記ハンドピースにおいて、前記励起光照射手段の光出射口は、当該光出射口から送出される光が前記患部接触子の前記患部側の先端に照射されるように配置されている請求項4に記載の歯周病治療装置。
前記患部に配置される先端チップと、前記先端チップを超音波または音波によって振動させる振動子とを有するスケーラを備えることを特徴する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の歯周病治療装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る歯周病治療装置の構成について、
図1および
図2Aを参照して説明する。歯周病治療装置1は、被検者Pの歯牙Tの患部に注入される光感受性物質と、その光感受性物質に照射される光との併用による光化学反応を利用した抗菌的光線力学療法によって歯周病を治療するための装置である。なお、
図1では、被検者Pを、腕、歯牙Tおよび歯肉のみで模式的に図示している。また、以下では、被検者Pの患部である歯牙Tと歯肉との間の歯周ポケットにはバイオフィルムBが形成されていることとして説明する。
【0011】
図1および
図2Aに示すように、歯周病治療装置1は、励起光照射手段30と、直流電源装置10と、プローブ電極15(
図2A参照)と、被検者電極17と、を備えている。励起光照射手段30は、被検者Pの口腔内の患部に注入された光感受性物質に光を照射するものである。直流電源装置10は、正(プラス(+))の出力端子11と、負(マイナス(−))の出力端子12とをそれぞれ有している。プローブ電極15は、直流電源装置10の例えばプラスの出力端子11に導線13で接続され、患部に注入された光感受性物質にプラスの極性の電荷を付与させる。被検者電極17は、直流電源装置10の例えばマイナスの出力端子12に導線14で接続され、被検者Pの身体の一部にマイナスの極性の電荷を付与する。
【0012】
なお、電極の極性を逆にしてもよい。すなわち、プローブ電極15をマイナスの出力端子12に電気的に接続し、被検者電極17をプラスの出力端子11に電気的に接続するようにしても構わない。
【0013】
歯周病治療装置1は、患部に注入された光感受性物質に対して、直流電源装置10に接続されたプローブ電極15から、プラス電荷またはマイナス電荷を付加させて、この付加させた電荷とは逆符号の電荷を被検者Pに帯電させることができる。これにより、異なる符号同士の電荷が引き付け合う力によって、帯電した光感受性物質がバイオフィルムBの中に浸透し、光感受性物質の病原細菌への付着性が向上する。
【0014】
以下、各部の構成について詳細に説明する。
本実施形態では、歯周病治療装置1は、被検者Pの口腔内に先端が挿入されるハンドピース4と、制御装置2と、を備えている。ハンドピース4の先端にはプローブ電極15が配置され、ハンドピース4の先端側の所定位置には光が出射する光出射口35が配置されている。また、歯周病治療装置1は、光感受性物質注入手段20をさらに備えている。
【0015】
ハンドピース4は、光、電流、光感受性物質を出力するものであり、励起光照射手段30の光出射口35に至る導光路32と、光感受性物質注入手段20の液体流路管22と、プローブ電極15に接続された導線13と、を内蔵する。
【0016】
直流電源装置10は、例えば制御装置2に内蔵されている。直流電源装置10のプラスの出力端子11に接続された導線13は、ハンドピース4の内部を通るように配置され、プラスの電荷をハンドピース4の先端に配置されたプローブ電極15へ導く。導線13,14は、伸長方向において周囲を絶縁部材で被覆されている。直流電源装置10からプローブ電極15、被検者電極17へ供給される電流の電流値および供給時間は、人体に安全な範囲内で適宜選択される。
【0017】
光感受性物質注入手段20は、液体流路管22を有するシリンジ構造であって液体流路管22を介して光感受性物質を患部に注入する。シリンジは、液体や気体が流れる円筒形の管路である。また、シリンジ構造には動力源があってもよいし、なくてもよい。シリンジ構造は、例えば、手動操作により注射器のように光感受性物質を送り出す構造、電動ポンプにより光感受性物質を送り出す構造、あるいは、圧縮空気で加圧したボンベを開放することで光感受性物質を送り出す構造としてもよい。加圧する場合、手動で加圧してもよいし、電動で加圧してもよい。
【0018】
ここでは、一例として光感受性物質注入手段20は、タンク21と、タンク21に接続された液体流路管22と、を備えている。タンク21は、光感受性物質を貯蔵するものであり、例えば制御装置2に内蔵されている。タンク21に貯蔵された光感受性物質は、図示しない電動ポンプによって、液体流路管22に送られる。液体流路管22は、例えば合成樹脂製チューブからなり、ハンドピース4の内部を通るように配置され、タンク21から液体状の光感受性物質を、ハンドピース4の先端に配置される送出口25へ導く。
【0019】
光感受性物質は、励起光照射手段30が照射する光によって励起すると活性酸素を発生させる物質またはその物質を希釈した溶液である。光感受性物質としては、例えば、インドシアニングリーン、過酸化水素水、次亜塩素酸、メチレンブルー等を用いることができる。
【0020】
図2Aに示すようにハンドピース4の先端側では、導線13の先端にプローブ電極15が設けられている。ここでは、プローブ電極15の先端16の位置は、ハンドピースカバー40の先端の位置に一致させている。また、プローブ電極15の形状はリング状であり、リングの内側に液体流路管22が挿通している。液体流路管22の先端は、プローブ電極15の先端16から突出している。なお、ハンドピースカバー40は、所定強度の合成樹脂や金属部材で構成されており、少なくともプローブ電極15に接触する部位は、絶縁部材で形成されている。
【0021】
ハンドピース4において、液体流路管22の送出口25は、当該送出口25から送出される光感受性物質が、プローブ電極15の先端16に接触するように配置されている。
図2Aに示す例では、プローブ電極15の先端16に、患部と直接接触可能な患部接触子5が設けられている。患部接触子5はハンドピース4に対して着脱可能に構成されている。ここで、液体流路管22の先端は膨らんだ形状をしており、患部接触子5の基端側には、液体流路管22の先端形状に対応した形状の空隙部が形成されている。患部接触子5の空隙部が液体流路管22の先端に嵌合することで、患部接触子5の基端は、プローブ電極15の先端16およびハンドピースカバー40の先端に接触した状態で固定されている。
【0022】
患部接触子5は、スポンジで構成されており、液体流路管22の送出口25から供給される適量の光感受性物質を吸収して保持することができる。このようにスポンジ状の患部接触子5を設けることで、光感受性物質の流出を防止し、光感受性物質を患部に直接接触させる時間を長く保持することができる。そして、光感受性物質を吸収して保持した患部接触子5の基端が、プローブ電極15の先端16に接触していることで、患部接触子5内の光感受性物質に対して、プローブ電極15から電荷を付与することができる。つまり、患部接触子5が患部と直接接触した状態で、患部に接触し続けている光感受性物質を継続的に帯電させることができる。このように、ハンドピース4は局部的な治療に効果的である。また、患部接触子5を構成するスポンジの材質は、例えば、保水性、柔軟性、弾性に富む多孔質の合成樹脂やゴム材などを用いることができる。また、スポンジに吸収された光感受性物質に対して光を効率よく照射するために、スポンジは光透過性の高い材質である方がよい。
【0023】
患部接触子5は、ディスポーザブル(使い捨て)とすることができる。これにより、衛生的に使用することができる。また、患部接触子5の断面形状は
図2Aに示したものに限定されるものではなく、例えば患部の形状に対応させて
図2Bや
図2Cに示す形状としてもよい。
図2Bに示す患部接触子5Bは、棒状の患部接触子5よりも長尺の棒状としたものである。これによれば、患部接触子5Bの先端を歯周ポケットの深部にまで届かせることができる。
図2Cに示す患部接触子5Cは、球状としたものである。これによれば、棒状の患部接触子5よりも多くの光感受性物質を吸収して保持することができる。
【0024】
励起光照射手段30は、励起光発生手段31と、励起光発生手段31に接続された導光路32と、を備えている。励起光発生手段31は、使用する光感受性物質を励起させる光を発生するものであり、例えば制御装置2に内蔵されている。励起光発生手段31は、使用する光感受性物質の種類に応じた波長の光を発生する。励起光発生手段31は、例えば低出力レーザ装置やLED光源装置で構成される。導光路32は、例えば光ファイバからなり、ハンドピース4の内部を通るように配置され、励起光発生手段31で発生した光をハンドピース4の先端側の光出射口35へ導く。
【0025】
本実施形態では、例えば光感受性物質として、メチレンブルーを用い、励起光発生手段31は、エルビウムYAGレーザ(波長2940nm)のレーザ出力装置とする。
なお、例えば光感受性物質として、過酸化水素水や次亜塩素酸を用いる場合、励起光発生手段31は、波長400nm〜420nmの光を発生する。過酸化水素水や次亜塩素酸は、この波長範囲の光に反応して最も酸化力の強いヒドロキシラジカルを発生させる。
【0026】
図1に示すように、ハンドピース4において、励起光照射手段30の光出射口35は、当該光出射口35から送出される光が患部接触子5の患部側の先端に照射されるように配置されている。これにより、操作者は、ハンドピース4を片手で把持して、片手で光感受性物質注入と励起光照射を患部に向けて同時に行う操作をすることができる。したがって、患部と直接接触した状態で患部接触子5内の光感受性物質を励起して、効率的に患部に活性酵素を発生させ、細菌を傷害し殺菌を行なうことができる。
【0027】
制御装置2からハンドピース4までの間は、導線13、液体流路管22、導光路32が個別に接続されている。ただし、制御装置2からハンドピース4までの間において、導線13、液体流路管22、導光路32のいずれか少なくとも2つをまとめてケーブルに内包するようにしてもよい。
【0028】
本実施形態では、ハンドピース4の所定位置に、電極投入スイッチ41、光感受性物質注入スイッチ42、励起光照射スイッチ43が設けられており、各スイッチを手元で操作することで、直流電源装置10、光感受性物質注入手段20、励起光照射手段30をそれぞれ作動させることができる。
【0029】
図1において、電極投入スイッチ41から伸びた信号線(破線)と導線13との交点は、導線13に流れる電流の入/切が可能であることを模式的に示している。導線13に流れる電流の入/切は、例えば直流電源装置10において行ってもよい。
【0030】
光感受性物質注入スイッチ42から伸びた信号線(破線)と液体流路管22との交点は、液体流路管22の流路の開/閉が可能であることを模式的に示している。液体流路管22の流路の開/閉は、例えば、液体流路管22の途中のバルブのほか、タンク21に設ける電磁弁等で行ってもよい。
【0031】
励起光照射スイッチ43から伸びた信号線(破線)と導光路32との交点は、導光路32を通過する光の開放/遮断が可能であることを模式的に示している。導光路32を通過する光の開放/遮断は、励起光発生手段31の動作/停止で行ってもよいし、光出射口35を開放/遮断可能な遮蔽板を設けてもよい。
【0032】
図1に示したハンドピース4は、入力軸と出力軸との間に角度をもつアングル型であるが、入力軸と出力軸を同軸上にもつストレート型やペンシル型でも構わない。
【0033】
制御装置2は、直流電源装置10、光感受性物質注入手段20のタンク21や図示しない電動ポンプ、および励起光発生手段31を備えている場合、これらに電気的に接続された主電源スイッチを備えることができる。また、これらの動作状態を表示する表示装置を歯周病治療装置1に備えるようにしてもよいし、その表示装置を制御装置2自体が備えるようにしてもよい。あるいは、動作状態を表示する表示部を有した直流電源装置10等を用いてもよい。
【0034】
図1に示す例では、被検者電極17はグリップ18を備えており、被検者Pは被検者電極17のグリップ18を把持する。被検者電極17は、プローブ電極15から付与する電荷とは極性が反対の電荷を被検者Pの身体の一部に付与することができれば、グリップ18を握るタイプに限定されるものではない。
【0035】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の変形例に係る歯周病治療装置について
図3を参照して説明する。歯周病治療装置1Aは、ハンドピース4と、制御装置2と、を備えており、被検者電極17Aの構成が、
図1に示す歯周病治療装置1と相違している。なお、
図1に示す歯周病治療装置1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。被検者電極17Aの形状は、被検者Pの歯列の頬側面と頬との間に挟むことができるパッドの形状である。被検者電極17Aによれば、被検者Pにグリップを握ってもらう負担がなくなる。したがって、歯周病治療装置1Aは、握力が弱い人や、グリップを握ることに集中できない小児等に適用することができる。
【0036】
(歯周病治療装置の使用方法)
第1実施形態に係る歯周病治療装置の使用方法について
図4を参照(適宜
図1および
図2A参照)して説明する。
まず、例えば、制御装置2の図示しない主電源スイッチをオンする。歯科医師である操作者Dは、患者である被検者Pに、被検者電極17をしっかり握らせる。これにより、被検者Pにマイナス電荷を帯電させることができる。
図4に示すように操作者Dは、ハンドピース4を片手で握りしめて取り扱う。操作者Dは、例えば光感受性物質注入スイッチ42をオンにする。これにより、ハンドピース4の先端の患部接触子5は、液体状の光感受性物質を吸引し保持する。適量の光感受性物質を保持すると、操作者Dは、光感受性物質注入スイッチ42をオフにする。なお、設定時間を経過すると光感受性物質の流入が停止するように構成してもよい。
【0037】
操作者Dは、光感受性物質を保持した患部接触子5を患部に当接させる。これにより、患部に光感受性物質が注入される。操作者Dは、患部接触子5を患部に当接させた状態で電極投入スイッチ41をオンにする。すなわち、患部に注入された光感受性物質に対して、直流電源装置10に接続されたプローブ電極15からプラス電荷を付加させる。これにより、被検者電極17を把持した被検者Pの歯牙Tに付加されているマイナス電荷と、患部に注入された光感受性物質に付加されたプラス電荷とが引き付け合うことで、光感受性物質が患部のバイオフィルムBの中に浸透する。なお、設定時間を経過すると直流電源装置10からの出力電流が停止するように構成してもよい。
【0038】
操作者Dは、励起光照射スイッチ43をオンにする。これにより、患部においてバイオフィルムBの中に浸透した光感受性物質は、光によって励起して活性酸素を発生させる。患部では、発生した活性酸素により、細菌を傷害し殺菌を行なう光化学反応が進む。
なお、上記説明では、操作者Dは、光感受性物質注入スイッチ42をオン、オフ、電極投入スイッチ41をオン、オフ、励起光照射スイッチ43をオンの順に操作するものとしたが、これに限るものではない。各スイッチを扱う順序や、オンオフのタイミングは、治療効果が及ぶ範囲で任意に決定することができる。例えば励起光照射スイッチ43をオンしてから電極投入スイッチ41をオンしてもよいし、光感受性物質注入スイッチ42をオフする前に電極投入スイッチ41や励起光照射スイッチ43をオンしてもよい。
【0039】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る歯周病治療装置の構成について、
図5を参照して説明する。歯周病治療装置1Bは、バイオフィルムBを砕くための手段としてスケーラ6をさらに備える点が、
図1に示す歯周病治療装置1と相違している。なお、
図1に示す歯周病治療装置1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
【0040】
歯周病治療装置1Bは、ハンドピース4Bと、制御装置2Bと、を備えている。
スケーラ6は、患部に配置される先端チップ61と、先端チップ61を超音波または音波によって振動させる振動子63と、を有する。振動子63は、ハンドピース4Bに内蔵されている。先端チップ61は、その基端が振動子63の側に配置され、その先端がハンドピース4Bから突出して、ハンドピース4Bの先端に配置された患部接触子5の近傍に配置されている。先端チップ61は、光ファイバ等の導光路32とは独立に別体として設けられている。そのため、
図5に示すように、先端チップ61の先端がハンドピース4Bから突出する位置は、励起光照射手段30の光出射口35から離間している。
【0041】
スケーラ6の駆動手段67は、振動子63の駆動力を発生させる手段であり、例えば制御装置2Bに内蔵されている。駆動手段67に接続されたケーブル65は、ハンドピース4Bの内部を通るように配置され、駆動力を振動子63へ導く。
図5において、スケーラスイッチ44から伸びた信号線(破線)とケーブル65との交点は、ケーブル65で伝達される駆動力の入/切が可能であることを模式的に示している。ケーブル65で伝達される駆動力の入/切は、例えば制御装置2B内の駆動手段67において行ってもよい。
【0042】
スケーラ6が音波スケーラである場合、振動子63は、ハンドピース4Bの軸線を回転軸とする回転体と、回転を振動に変換する機構で構成され、振動により発生する音波により、先端チップ61は2.5〜4kHzの振動数で振動することが好ましい。また、音波スケーラの場合、駆動手段67は、回転体を回転させる圧縮空気を送り出すコンプレッサーであり、ケーブル65は圧縮空気の流路となる配管である。
【0043】
スケーラ6が超音波スケーラである場合、振動子63は、圧電素子で構成され、圧電素子の振動により発生する超音波により、先端チップ61は25〜40kHzの振動数で振動することが好ましい。また、超音波スケーラの場合、駆動手段67は、圧電素子を振動させる電気を送り出す電源であり、ケーブル65は電線である。なお、先端チップ61をポリアミド等の材質を使用することで、3次元的な高振幅での振動により光感受性物質の溶液に対しキャビテーションによる渦の作用で、バイオフィルムBの破壊だけでなく、細菌細胞への光感受性物質への付着を向上させる効果が期待できる。本実施形態では、スケーラ6は例えば超音波スケーラであるものとする。
【0044】
歯周病治療装置1Bは、異なる符号同士の電荷が引き付け合う力によって、帯電した光感受性物質がバイオフィルムBの中に浸透させると共に、スケーリング作用も患部に向けて同時に行うことができる。また、操作者は、ハンドピース4Bを片手で把持して、片手で、光感受性物質注入、励起光照射、およびスケーリング作用を患部に向けて同時に行う操作をすることができる。また、スケーリング作用を行うタイミングは、任意である。
【0045】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る歯周病治療装置の構成について、
図6および
図7を参照して説明する。歯周病治療装置1Cは、制御装置2Cと、被検者Pの口腔内に配置されるマウスピース8と、制御装置2Cとマウスピース8を接続する励起光ケーブル7と、を備えている。なお、
図1に示す歯周病治療装置1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
図6および
図7では、制御装置2Cおよび被検者電極17の配置が、
図1における制御装置2および被検者電極17の配置と比べて概ね左右を入れ替えた状態で表示している。
図6は、励起光ケーブル7をマウスピース8から取り外した状態を示し、
図7は、励起光ケーブル7をマウスピース8に接続した使用状態を示している。
【0046】
本実施形態では、制御装置2Cの所定位置に、電極投入スイッチ41C、光感受性物質注入スイッチ42C、励起光照射スイッチ43Cが設けられており、各スイッチを操作することで、直流電源装置10、光感受性物質注入手段20、励起光照射手段30をそれぞれ作動させることができる。
【0047】
励起光ケーブル7は、光感受性物質注入手段20の液体流路管22と、プローブ電極15に接続された導線13と、励起光照射手段30の光出射口35に至る導光路32と、を内蔵する。
【0048】
励起光照射手段30の導光路32は、励起光ケーブル7において、光ファイバの束33になっている。
図6において、光ファイバの束33の基端側を切り欠いて示すように、光ファイバの束33は、液体流路管22の伸長方向における周囲を取り囲む束と、導線13およびプローブ電極15の伸長方向における周囲を取り囲む束とで構成されている。また、本実施形態では、光ファイバの束33の光出射端が、導光路32の光出射口35を構成している。
【0049】
励起光ケーブル7は、光ファイバの束33の伸長方向における周囲を取り囲むように被覆して保護する被覆部材を備えているが、図示を省略した。励起光ケーブル7の送出部71において、プローブ電極15の先端側の少なくとも一部は、光ファイバの束33の光出射端から突出している。また、送出部71において、液体流路管22の先端側も、光ファイバの束33の光出射端から突出している。
【0050】
マウスピース8は、
図7に示すように励起光ケーブル7に内蔵された液体流路管22を流れる光感受性物質3が注入される。マウスピース8内に注入された光感受性物質にはプローブ電極が電荷を付与する。本実施形態では、マウスピース8は、
図7に示すように励起光ケーブル7に接続されたときに、液体流路管22の送出口25から送出される光感受性物質3が、トレイ部81の内部84において、配管部85に挿通されたプローブ電極15の先端16(
図6参照)に接触するように配置されている。
【0051】
マウスピース8は、
図6に示すように、例えばトレイ部81と、トレイ部81の内部84に接続された配管部85と、を備えている。トレイ部81は、患部を含む歯列を覆う形状を有して内部84に光感受性物質3を溜めることができる。トレイ部81は、平面視で例えば歯列を覆うような馬蹄形をした平坦な底面部82と、底面部82の外周縁から略垂直に立設して底面部82の全体を囲む側面部83とを備えている。トレイ部81の内部84は、底面部82上で側面部83に囲まれた空間を意味する。
【0052】
トレイ部81は以下の方法で作製することができる。まず、例えば3Dスキャナを用いて、患者である被検者Pの歯型を撮影する。そして、この撮影により得られたスキャンデータを、例えば光造形方式の3Dプリンタに取り込む。そして、3Dプリンタでスキャンデータを基に歯列模型(雄型)を作製する。次に、作製した歯列模型に、厚さが一定の透明な樹脂板を熱圧着させ、余分な樹脂材料をトリミングして全体の形を整えればトレイ部81の完成である。また、トレイ部81に、光透過可能なように樹脂材で、
図6に示す励起光受光部86や配管部85を設けることでマウスピース8としてもよい。このように3Dスキャナや3Dプリンタを用いて作製すれば、患者の歯列に沿った個人専用のトレイ部81が作製できるため、トレイ部81に溜まった光感受性物質を歯型に沿って歯茎や歯周ポケットに導き易くすることができる。
【0053】
また、光感受性部物質の流動性が高いと、光感受性物質が歯茎や歯周ポケットに定着しにくくなる虞がある。そのような場合、光感受性部物質に、とろみ調整材を混合して光感受性部物質の粘性を高めてもよい。ここで、とろみ調整材としては、とろみ調整食品を用いることができる。このように、トレイ部81に溜まった光感受性部物質の粘性を高めることで、光感受性物質を歯茎や歯周ポケットに定着しやすくすることができる。
また、トレイ部81の内部84における底面部や側面部に、光透過性のあるスポンジ材を付してもよい。これによれば、トレイ部81に付したスポンジ材に光感受性物質を吸収させることで、光感受性部物質をトレイ部81の内部84に保持し易くすることができる。これらのとろみ調整材やスポンジ材を用いることで、上顎や下顎を問わず対応可能なトレイ部81を提供することが可能である。
【0054】
マウスピース8は、配管部85に挿通された励起光ケーブル7の液体流路管22の送出口25から送出される光感受性物質3が、トレイ部81の内部84において、配管部85に挿通されたプローブ電極15の先端16に接触するように配置されている。配管部85は、一端部が、トレイ部81において上下それぞれの前歯の中心線(正中線)に対応する位置に接続されて、トレイ部81の内部84に連通している。プローブ電極15の先端16は、トレイ部81の内部84に溜まった光感受性物質3(
図7参照)と接触することができる。
マウスピース8のトレイ部81の内部84に光感受性物質3を溜めることで、光感受性物質3を歯周全体に浸透させることができる。そのため上顎または下顎の細菌細胞に対して、同時に光感受性物質3を付着させることが可能となる。そのため、う蝕予防、歯周病予防に効果的である。
【0055】
本実施形態では、配管部85は、前記一端部に対向する他端部が励起光ケーブル7に対して着脱自在に構成されている。配管部85は、
図6に示すように、励起光受光部86と、第1貫通孔87と、第2貫通孔88と、を備える。励起光受光部86は、光ファイバの束33の光出射端である光出射口35に対面している。第1貫通孔87は、プローブ電極15が着脱自在に挿入される。第2貫通孔88は、液体流路管22が着脱自在に挿入される。マウスピース8は、励起光ケーブル7に対して着脱自在であることで、被検者Pごとにディスポーザブルタイプのマウスピースの使用が可能であり、衛生的である。
【0056】
マウスピース8は透光性材料で構成されていることが好ましい。透光性材料は、例えば強度、加工容易性、透明性、製造コストなどの観点で適宜選択することができる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリウレタン等の各種プラスチックを用いることができる。
マウスピース8の全体を透光性材料で構成することで、上顎または下顎に付着させた光感受性物質3の全体に対して一度に励起光照射が可能となる。そのため、初期のう蝕治療方法として有効である。
【0057】
(歯周病治療装置の使用方法)
第3実施形態に係る歯周病治療装置の使用方法について
図7を参照(適宜
図6参照)して説明する。まず、例えば、制御装置2Cの図示しない主電源スイッチをオンする。歯科医師である操作者は、患者である被検者Pに、被検者電極17をしっかり握らせる。これにより、被検者Pにマイナス電荷を帯電させることができる。操作者は、被検者Pの口腔内にマウスピース8を配置する。このとき、トレイ部81を例えば上顎歯列に圧接し、被検者Pに軽く噛み合わせさせる。操作者は、マウスピース8の配管部85に励起光ケーブル7を接続する。すなわち、
図6に示す励起光ケーブル7の送出部71において、プローブ電極15が第1貫通孔87に挿入され、液体流路管22が第2貫通孔88に挿入され、光ファイバの束33の光出射口が励起光受光部86に対面する。その後、操作者は、例えば光感受性物質注入スイッチ42Cをオンにする。これにより、マウスピース8のトレイ部81の内部84に、液体状の光感受性物質3が溜まり、上顎歯列全体に光感受性物質3が注入される。トレイ部81の内部84に適量の光感受性物質3が溜まると、操作者は、光感受性物質注入スイッチ42Cをオフにする。
【0058】
続いて、操作者Dは、電極投入スイッチ41Cをオンにする。このとき、プローブ電極15の先端16には、トレイ部81の内部84の光感受性物質3が触れており、上顎歯列に注入された光感受性物質3に対して、プローブ電極15からプラス電荷が付加される。これにより、被検者電極17を把持した被検者Pの上顎歯列に付加されているマイナス電荷と、上顎歯列に注入された光感受性物質3に付加されたプラス電荷とが引き付け合うことで、光感受性物質3が上顎歯列全体のバイオフィルムの中に浸透する。
【0059】
操作者は、励起光照射スイッチ43Cをオンにする。これにより、上顎歯列全体のバイオフィルムの中に浸透した光感受性物質3は、光によって励起して活性酸素を発生させる。その結果、殺菌を行なう光化学反応が進む。治療が終了したら、操作者は口腔内からマウスピース8を取り出し、廃棄する。同様に下顎を処置することもできる。
【0060】
(第3実施形態の変形例)
透光性材料で構成したマウスピース8は、トレイ部81の底面部82の外面または内面に光反射部材を付してもよい。このようにすることで、マウスピース8は、励起光ケーブル7から導かれる光がトレイ部81の内部84に入射した後に底面部82で反射し、その反射光が、内部84に溜められた光感受性物質3に入射する。したがって、励起光ケーブル7から導かれる光の漏れを低減し、光感受性物質3を効率的に励起させることができる。また、トレイ部81の側面部83の外面または内面に光反射部材を付してもよい。さらに、配管部85の外周面に光反射部材を付してもよい。光反射部材としては、例えば銀等の金属をコーティングしてもよいし、白色の樹脂等を塗布してもよい。
【0061】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る歯周病治療装置の構成について、
図8を参照して説明する。歯周病治療装置1Dは、ハンドピース4Dとは別体の光感受性物質注入手段20Dを備える点が、
図1に示す歯周病治療装置1と相違している。なお、
図1に示す歯周病治療装置1と同じ構成には同じ符号を付して説明を省略する。
歯周病治療装置1Dは、制御装置2Dと、ハンドピース4Dと、光感受性物質注入手段20Dと、を備えている。
【0062】
制御装置2Dは、
図1の制御装置2と同様に、励起光発生手段31や直流電源装置10を備えている。
ハンドピース4Dは、
図1のハンドピース4と同様に、励起光照射手段30の光出射口35に至る導光路32と、プローブ電極15に接続された導線13と、を内蔵する。
本実施形態では、ハンドピース4Dにおいて、プローブ電極15の先端がハンドピースカバーの先端から突出している。これは、ハンドピース4Dの内部に、光感受性物質を注入するための液体流路管が内蔵されていないことから、
図2A〜
図2Cに示すような構造の患部接触子5の使用を想定していないことによる。
【0063】
本実施形態では、ハンドピース4Dの所定位置に、電極投入スイッチ41および励起光照射スイッチ43が設けられており、各スイッチを手元で操作することで、直流電源装置10および励起光照射手段30をそれぞれ作動させることができる。
【0064】
光感受性物質注入手段20Dは、
図1に示す光感受性物質注入手段20と同様なシリンジ構造である。
図8には、一例として外観が注射器のような光感受性物質注入手段20Dを図示したが、電動ポンプにより光感受性物質を送り出す構造、あるいは、圧縮空気で加圧したボンベを開放することで光感受性物質を送り出す構造としても構わない。ここでは、一例として、光感受性物質注入手段20Dは、手動操作により注射器のように光感受性物質を送り出す構造であるものとした。この場合、光感受性物質注入スイッチ42Dは、ピストンである。
【0065】
(歯周病治療装置の使用方法)
第4実施形態に係る歯周病治療装置の第1〜第3の用方法について、第1実施形態に係る歯周病治療装置1の使用方法と相違する点をそれぞれ説明する。
第1の方法では、例えば
図2Aに示すような患部接触子5を使用しない。操作者Dは、光感受性物質注入手段20Dの先端から、直接的に、歯牙Tと歯肉の間にあるバイオフィルムBに光感受性物質を注入する。また、プローブ電極15を患部に差し込んで、注入された光感受性物質にプローブ電極15の先端を接触させて電極投入スイッチ41をオンにする。なお、操作者Dは、例えば一方の手でハンドピース4Dを把持し、他方の手で光感受性物質注入手段20Dを操作することで、上記工程を同時に行ってもよい。以降の操作は、第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0066】
第2の方法では、
図8に円形の仮想線で示す綿状の患部接触子5Eを使用する。まず、操作者は、綿状の患部接触子5EをバイオフィルムBの周囲に押し込む。そして、操作者は、光感受性物質注入手段20Dの先端から、患部接触子5Eに対して光感受性物質を注入する。また、プローブ電極15を患部接触子5Eに差し込んで、注入された光感受性物質にプローブ電極15の先端を接触させて電極投入スイッチ41をオンにする。
【0067】
第3の方法では、光感受性物質注入手段20Dである注射器の先端のキャップとなる形状で綿またはスポンジで構成された患部接触子5Fを使用する。まず、操作者は、患部接触子5Fを光感受性物質注入手段20Dの先端に装着し、その患部接触子5FをバイオフィルムBの周囲に押し込む。そして、操作者は、光感受性物質注入スイッチ42D(ピストン)を押して、患部接触子5Eに光感受性物質を注入する。また、プローブ電極15を患部接触子5Fに差し込んで、注入された光感受性物質にプローブ電極15の先端を接触させて電極投入スイッチ41をオンにする。なお、操作者は、光感受性物質注入手段20Dの先端に装着した患部接触子5Fに光感受性物質を浸み込ませてからバイオフィルムBの周囲に押し込んでもよい。
【0068】
本発明の各実施形態を詳述してきたが、本発明は前記した各実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更なども含まれる。
例えば第3実施形態の歯周病治療装置1Cは、
図6に示したマウスピース8に代えて、
図9に示すマウスピース8Bを用いてもよい。マウスピース8Bは、トレイ部81と、トレイ部81の内部84に接続された配管部85Bと、配管部85Bに設けられた配管電極部89と、を備えている。マウスピース8Bの配管部85Bは、マウスピース8の配管部85よりも長く形成されている。配管部85Bが備える第1貫通孔87および第2貫通孔88は、配管部85が備える第1貫通孔87および第2貫通孔88よりも長く形成されている。ただし、配管部85Bが備える第1貫通孔87の全長の大部分は、第1貫通孔87に挿通された配管電極部89で占有されている。配管電極部89は、プローブ電極15の電気的な延長コードとして機能する直線状の導線である。配管電極部89の端部は、励起光ケーブル7の液体流路管22の送出口25からトレイ部81に送出される光感受性物質に接触するように配置されている。具体的には、配管電極部89の端部(
図9において右端)は、トレイ部81の内部84に配置されている。また、励起光ケーブル7がマウスピース8Bに装着されたとき、すなわちプローブ電極15が第1貫通孔87に挿入されて嵌合すると共に、液体流路管22の先端が第1貫通孔87に挿入されて嵌合したとき、プローブ電極15の先端16は、配管電極部89のもう1つの端部(
図9において左端)に電気的に接続される。これによれば、操作者は、マウスピース8Bの配管部85Bを把持し易いので、マウスピース8Bを容易に取り扱うことができるようになる。
【0069】
また、第3実施形態の歯周病治療装置1Cは、励起光ケーブル7とマウスピース8とが着脱自在であるものとしたが、励起光ケーブル7とマウスピース8とを固着して励起光ケーブル7を制御装置2に対して着脱自在に構成してもよい。
さらに、
図3に示した被検者電極17Aは、第2実施形態および第4実施形態に適用してもよい。また、
図5に示したスケーラ6は、第4実施形態に適用してもよい。
に係る歯周病治療装置は、被検者の口腔内の患部に注入される光感受性物質を励起させる光を前記光感受性物質に照射する励起光照射手段と、正負の出力端子をそれぞれ有する直流電源装置と、前記直流電源装置の前記正負の出力端子のうちの一方に導線で接続され、前記患部に注入された前記光感受性物質に一方の極性の電荷を付与させるプローブ電極と、前記直流電源装置の前記正負の出力端子のうちの他方に導線で接続され、前記被検者の身体の一部に他方の極性の電荷を付与する被検者電極と、