【課題】常温・冷蔵環境下での保管を経たとしても接着性の低下を抑制することができ、かつ、従前と変わらない接着条件において優れた接着性を実現する接着剤組成物を提供する。
【解決手段】カチオン重合性成分と成膜用成分を含有するバインダ組成物と、カチオン重合開始剤とを含む接着剤組成物であって、カチオン重合開始剤が、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤であり、カチオン重合性成分が、2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物を含む、接着剤組成物。
2官能脂環式エポキシ化合物に対する4官能脂環式エポキシ化合物の質量比[4官能脂環式エポキシ化合物/2官能脂環式エポキシ化合物](以下「4官能/2官能質量比」という。)が、1.0未満である、請求項1に記載の接着剤組成物。
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤に対するチオール化合物の質量比[チオール化合物/第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤]が、0.1以上である、請求項8〜11の何れか1項に記載の接着剤組成物。
第1の電子部品と第2の電子部品とを、請求項1〜14の何れか1項に記載の接着剤組成物又は請求項15に記載の接着フィルムを介在させて、圧着する工程を含む、接続構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<用語の説明>
本明細書において、「C
n〜C
m」(n及びmは正の整数であり、n<mを満たす。)という用語は、この用語の直後に記載された有機基の炭素原子数がn〜mであることを表す。例えば、「C
1〜C
12アルキル基」は、炭素原子数1〜12のアルキル基を示す。
【0012】
本明細書において、「脂環式エポキシ化合物」とは、分子中に脂環を有するエポキシ化合物を意味する。脂環式エポキシ化合物において、オキシラン環は、脂環を構成する2個の炭素原子と1個の酸素原子で形成されていてもよく、脂環とは離れてグリシジル基として形成されていてもよい。
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0014】
[接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合性成分と成膜用成分を含有するバインダ組成物と、カチオン重合開始剤とを含み、
カチオン重合開始剤が、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤であり、
カチオン重合性成分が、2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物を含むことを特徴とする。
【0015】
<カチオン重合開始剤>
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合開始剤として、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤を含むことを特徴とする。
【0016】
先述のとおり、スルホニウム塩系熱酸発生剤は、脂環式エポキシ化合物との組み合わせにおいて低温速硬化性に寄与し、接着剤組成物の製造直後にあっては優れた接着性をもたらすものの、接着剤組成物を常温・冷蔵環境下で一定期間保管すると、その接着性は著しく低下する場合があった。これに対し、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤を用いる本発明の接着剤組成物は、常温・冷蔵環境下で一定期間保管した場合であっても、接着性の低下を抑制することができる。そればかりか、後述する特定のカチオン重合性成分との組み合わせにおいて第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤を用いることにより、スルホニウム塩系熱酸発生剤の使用時と変わらない接着条件において優れた接着性を実現するに至ったものである。
【0017】
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤としては、第4級アンモニウムカチオンと、酸アニオン又はボレートアニオンとの塩を好適に用いることができる。
【0018】
第4級アンモニウムカチオンとしては、式:NR
aR
bR
cR
d+で表されるカチオンを挙げることができる。式中、R
a、R
b、R
c及びR
dは、直鎖、分岐鎖若しくは環状のC
1〜C
12アルキル基又はアリール基であり、それぞれ水酸基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アミノ基、エステル基等を有していてもよい。
【0019】
酸アニオンとしては、無機酸アニオン及び有機酸アニオンの何れであってもよく、例えば、6フッ化アンチモン酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、パーフルオロブタンスルホン酸アニオン、ジノニルナフタレンスルホン酸アニオン、ジノニルナフタレンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオンが挙げられる。
【0020】
ボレートアニオンとしては、アルキルボレートアニオン及びアリールボレートアニオンが挙げられ、さらにハロゲン原子を有していてもよい。中でも、フッ素原子(F−;フルオロ基)を有するアリールボレートアニオンが好ましく、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンが特に好ましい。
【0021】
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0022】
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤の具体例としては、King Industries,Inc.製造のCXC−1612、CXC−1733、CXC−1738、TAG−2678、CXC−1614、TAG−2689、TAG−2690、TAG−2700、CXC−1802−60、CXC−1821等が挙げられる。これらは、楠本化成(株)から入手可能である。
【0023】
接着剤組成物中の第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤の含有量は、カチオン重合性成分の不揮発成分の合計を100質量%としたとき、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらにより好ましくは7質量%以上である。該含有量の上限は、特に限定されないが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0024】
<バインダ組成物>
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合性成分と成膜用成分を含有するバインダ組成物を含む。
【0025】
(カチオン重合性成分)
本発明の接着剤組成物は、カチオン重合性成分として、2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物を併用することを特徴とする。第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤との組み合わせにおいて、斯かる特定のカチオン重合性成分を用いることにより、本発明の接着剤組成物は、常温・冷蔵環境下で一定期間保管した場合であっても、接着性の低下を抑制し得るばかりでなく、スルホニウム塩系熱酸発生剤の使用時と変わらない接着条件において優れた接着性を実現することができる。
【0026】
−2官能脂環式エポキシ化合物−
2官能脂環式エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を2個有する脂環式エポキシ化合物である限り特に限定されず、例えば、2官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物、及び、脂環式2価アルコールのジグリシジルエーテル化合物から適宜選択してよい。
【0027】
2官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物は、1分子中に2個のエポキシシクロアルキル基を有する化合物である。エポキシシクロアルキル基の炭素原子数は、好ましくは3〜10である。したがって好適な一実施形態において、2官能脂環式エポキシ化合物は、エポキシC
3〜C
10シクロアルキル基を有する。エポキシシクロアルキル基の炭素原子数は、より好ましくは4〜10、さらに好ましくは6〜10、さらにより好ましくは6〜8であり、特に好ましくは6である。2官能脂環式エポキシ化合物が有する2個のエポキシシクロアルキル基は互いに同じでも異なっていてもよい。中でも、2官能脂環式エポキシ化合物は、2個のエポキシシクロヘキシル基を有することが好適である。
【0028】
2官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物は、例えば、2個のシクロアルケン骨格を有する化合物を直接エポキシ化したり、重合性官能基(例えば、(メタ)アクリル基、アリル基、シラノール基等)を有する1官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物を重合して2官能化したりすることにより製造することができる。
【0029】
2官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物において、エポキシシクロアルキル基以外の構造は特に限定されず、反応性を阻害しない限りにおいて任意の構造としてよい。優れた接着性を呈する接着剤組成物を実現する観点から、エポキシ当量が、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、さらに好ましくは350以下、さらにより好ましくは300以下、特に好ましくは250以下、特により好ましくは200以下となるような構造を有することが好適である。2官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物のエポキシ当量の下限は、特に限定されないが、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、さらに好ましくは90以上、さらにより好ましくは95以上である。
【0030】
2官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物の具体例としては、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ジエポキシビシクロヘキシル等が挙げられる。
【0031】
脂環式2価アルコールのジグリシジルエーテル化合物は、1分子中に脂環と2個のグリシジル基を有する化合物である。脂環は、反応性を阻害しない限りにおいて任意の構造としてよく、単環であっても縮合環であってもよく、1分子中に1個含まれてもよく、2個以上含まれていてもよい。優れた接着性を呈する接着剤組成物を実現する観点から、エポキシ当量が、上記シクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物について説明したものと同じ範囲となるような構造を有することが好適である。
【0032】
脂環式2価アルコールのジグリシジルエーテル化合物は、例えば、芳香族2価アルコールジグリシジルエーテル(例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のビスフェノール型ジグリシジルエーテル)の芳香環を水添処理して脂環化したり、脂肪族2価アルコール(例えば、水添ビスフェノールA等の水添ビスフェノール)をグリシジルエーテル化したりすることにより製造することができる。脂環式2価アルコールのジグリシジルエーテル化合物の具体例としては、ヘキサヒドロビスフェノールAジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0033】
2官能脂環式エポキシ化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0034】
−4官能脂環式エポキシ化合物−
4官能脂環式エポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を4個有する脂環式エポキシ化合物である限り特に限定されず、例えば、4官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物、及び、脂環式4価アルコールのテトラグリシジルエーテル化合物から適宜選択してよい。
【0035】
2官能脂環式エポキシ化合物との組み合わせにおいて、とりわけ接着性に優れる接着剤組成物を実現できる観点から、4官能脂環式エポキシ化合物は、4官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物を含むことが好適である。
【0036】
4官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物は、1分子中に4個のエポキシシクロアルキル基を有する化合物である。エポキシシクロアルキル基の炭素原子数は、好ましくは3〜10である。したがって好適な一実施形態において、4官能脂環式エポキシ化合物は、エポキシC
3〜C
10シクロアルキル基を有する。エポキシシクロアルキル基の炭素原子数は、より好ましくは4〜10、さらに好ましくは6〜10、さらにより好ましくは6〜8であり、特に好ましくは6である。4官能脂環式エポキシ化合物が有する4個のエポキシシクロアルキル基は互いに同じでも異なっていてもよい。中でも、4官能脂環式エポキシ化合物は、4個のエポキシシクロヘキシル基を有することが好適である。
【0037】
4官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物は、例えば、4個のシクロアルケン骨格を有する化合物を直接エポキシ化したり、重合性官能基(例えば、(メタ)アクリル基、アリル基、シラノール基等)を有する1官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物を重合して4官能化したりすることにより製造することができる。
【0038】
4官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物において、エポキシシクロアルキル基以外の構造は特に限定されず、反応性を阻害しない限りにおいて任意の構造としてよい。優れた接着性を呈する接着剤組成物を実現する観点から、エポキシ当量が、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、さらに好ましくは350以下、さらにより好ましくは300以下、特に好ましくは250以下となるような構造を有することが好適である。4官能のシクロアルケンオキサイド型エポキシ化合物のエポキシ当量の下限は、特に限定されないが、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、さらに好ましくは90以上、さらにより好ましくは95以上である。
【0039】
好適な一実施形態において、4官能脂環式エポキシ化合物は、式(1)で表される構造単位を含む。
【0040】
【化3】
(式中、R
1はエポキシC
3〜C
10シクロアルキル基を有する1価の有機基を表し、R
2は水素原子、炭化水素基、又はアルコキシ基を表す。)
【0041】
R
1で表されるエポキシC
3〜C
10シクロアルキル基を有する有機基としては、エポキシC
3〜C
10シクロアルキル基を有する限り特に限定されない。該有機基に含まれるエポキシC
3〜C
10シクロアルキル基の個数は特に限定されないが、好ましくは1〜4個、より好ましくは1又は2個、さらに好ましくは1個である。
【0042】
一実施形態において、R
1は、式:E−(L)
m−で表される1価の基である。式中、EはエポキシC
3〜C
10シクロアルキル基を表し、Lはアルキレン基、シクロアルキレン基、オキシアルキレン基、又はオキシシクロアルキレン基を表し、mは0又は1を表す。
【0043】
Eで表されるエポキシC
3〜C
10シクロアルキル基は、より好ましくはエポキシC
4〜C
10シクロアルキル基、エポキシC
6〜C
10シクロアルキル基、エポキシC
6〜C
8シクロアルキル基であり、さらに好ましくはエポキシC
6シクロアルキル基、すなわちエポキシシクロヘキシル基である。
【0044】
Lで表されるアルキレン基、オキシアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜4である。
【0045】
Lで表されるシクロアルキレン基、オキシシクロアルキレン基の炭素原子数は、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜6である。
【0046】
2官能脂環式エポキシ化合物との組み合わせにおいて、とりわけ接着性に優れる接着剤組成物を実現できる観点から、Lは、好ましくはアルキレン基、より好ましくはC
1〜C
6アルキレン基である。
【0047】
2官能脂環式エポキシ化合物との組み合わせにおいて、とりわけ接着性に優れる接着剤組成物を実現できる観点から、mは1であることが好ましい。
【0048】
式(1)中、R
2で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、及びこれらの2つ以上が結合してなる1価の基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3である。シクロアルキル基の炭素原子数は、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜6、さらに好ましくは4〜6である。
【0049】
式(1)中、R
2で表されるアルコキシ基の炭素原子数は、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3である。
【0050】
2官能脂環式エポキシ化合物との組み合わせにおいて、とりわけ接着性に優れる接着剤組成物を実現できる観点から、R
2は、好ましくはアルキル基、より好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基、さらに好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基である。
【0051】
4官能脂環式エポキシ化合物は、上記式(1)で表される構造単位を、1分子中に、好ましくは2〜4個、より好ましくは3又は4個、特に好ましくは4個有する。
【0052】
4官能脂環式エポキシ化合物は、上記式(1)で表される構造単位を有する場合、鎖状のシロキサン構造を有していてもよく、環状のシロキサン構造を有していてもよい。2官能脂環式エポキシ化合物との組み合わせにおいて、とりわけ接着性に優れる接着剤組成物を実現できる観点から、環状のシロキサン構造を有することが好ましい。
【0053】
特に好適な一実施形態において、4官能脂環式エポキシ化合物は、式(1−1)で表される化合物を含む。
【0055】
4官能脂環式エポキシ化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0056】
本発明の接着剤組成物において、2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物との合計の含有量は、接着剤組成物中の不揮発成分を100質量%としたとき、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは18質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上である。該含有量の上限は、特に限定されないが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下又は50質量%以下である。
【0057】
2官能脂環式エポキシ化合物に対する4官能脂環式エポキシ化合物の質量比(すなわち、4官能/2官能質量比)は、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤との組み合わせにおいて、従前と変わらない接着条件において良好な接着性を実現する観点から、好ましくは1.0未満、より好ましくは0.9以下である。特に4官能/2官能質量比が0.85以下であると高温高湿環境下における信頼性試験後においても接続構造体の接続箇所に浮きが発生することを顕著に抑制することができるため好適である。4官能/2官能質量比は、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下、さらにより好ましくは0.5以下、特に好ましくは0.4以下である。4官能/2官能質量比が0.4以下であると、接着性に格別優れる接着剤組成物を実現できることを本発明者らは見出した。4官能/2官能質量比の下限は、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤との組み合わせにおいて、従前と変わらない接着条件において良好な接着性を実現する観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。特に4官能/2官能質量比が0.1以上であると、高温高湿環境下における信頼性試験後においても接続構造体の接続箇所に浮きが発生することを顕著に抑制することができるため好適であると共に、接着性に格別優れる接着剤組成物を実現できることを本発明者らは見出した。4官能/2官能質量比は、より好ましくは0.11以上、さらに好ましくは0.12以上である。
【0058】
−その他のカチオン重合性成分−
本発明の接着剤組成物は、2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物を含む限りにおいて、他のカチオン重合性成分を含んでもよい。他のカチオン重合性成分としては、例えば、3官能脂環式エポキシ化合物、5官能以上の脂環式エポキシ化合物、オキセタン化合物が挙げられる。他のカチオン重合性成分を含む場合、その含有量は特に限定されないが、オキセタン化合物を含む場合には、該オキセタン化合物の含有量は、2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物の合計を100質量%としたとき、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であり、含有しなくてよい。
【0059】
(成膜用成分)
成膜用成分は、膜形成能を有する限り特に限定されない。成膜用成分は、目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂を除く)、ポリビニルアセタール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂が挙げられる。成膜用成分は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0060】
中でも、成膜性、加工性、接続信頼性の観点から、フェノキシ樹脂を好適に用いることができ、また、良好な接着性を実現する観点からポリビニルアセタール樹脂も好適に用いることができる。したがって一実施形態において、成膜用成分は、フェノキシ樹脂を含む。他の一実施形態において、成膜用成分は、ポリビニルアセタール樹脂を含む。好適な他の実施形態において、成膜用成分は、フェノキシ樹脂及びポリビニルアセタール樹脂を含む。
【0061】
成膜性の観点から、成膜用成分のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10000以上、より好ましくは15000以上、さらに好ましくは20000以上である。該Mwの上限は、特に限定されないが、好ましくは80000以下、より好ましくは70000以下、60000以下であってもよい。他の配合物や使用目的に応じて適宜選択すればよい。成膜用成分が、Mw50000以下のフェノキシ樹脂を含むと、高温高湿環境下における信頼性試験後においても接続構造体の接続箇所に浮きが発生することを顕著に抑制することができるため好適である。成膜用成分のポリスチレン換算のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて算出することができる。
【0062】
接着剤組成物中の成膜用成分の含有量は、特に限定されず目的に応じて適宜決定してよいが、接着剤組成物中の不揮発成分を100質量%としたとき、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは40質量%以上である。該含有量の上限は、特に限定されないが、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0063】
<チオール化合物>
本発明の接着剤組成物は、チオール化合物をさらに含んでよい。
【0064】
本発明者らは、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤と特定のカチオン重合性成分とを組み合わせて用いる本発明の接着剤組成物では、チオール化合物をさらに含むことにより、接着性を特異的かつ飛躍的に向上させ得ることを見出した。この点、従来のスルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する接着剤組成物にあっては、チオール化合物を添加しても接着性の向上はみられないばかりか、接着性は低下する場合のあることを本発明者らは確認している(比較例3)。
【0065】
チオール化合物としては、1分子中にメルカプト基(−SH)を有する限り特に限定されないが、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤と特定のカチオン重合性成分とを組み合わせて用いる本発明の接着剤組成物において一際優れた接着性を実現し得る観点から、分子中にメルカプト基と同数のカルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)を有する化合物が好適である。
【0066】
中でも、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤及び特定のカチオン重合性成分との組み合わせにおいて、一際優れた接着性を実現し得る観点から、チオール化合物は、式(2)で表される構造単位を含むことが好適である。式(2)の構造単位は、チオール化合物の主鎖中に含まれてもよく、末端に存在してもよい。中でも、式(2)の構造が、3−メルカプト−ブチリルオキシ基として末端に存在すると、接着性に格別優れる接着剤組成物に帰着する傾向にある。
【0068】
チオール化合物の官能数は、優れた接着性を実現し得る観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上である。特に、上記式(2)で表される構造単位を好ましくは2個、より好ましくは3個、さらに好ましくは4個、分子中に有する化合物が、格別優れた接着性を実現し得る観点から好適である。
【0069】
チオール化合物の分子量は、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤及び特定のカチオン重合性成分との組み合わせにおいて、一際優れた接着性を実現し得る観点から、好ましくは200以上、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上であり、該分子量の上限は、好ましくは1000以下、より好ましくは800以下、さらに好ましくは700以下、さらにより好ましくは600以下である。
【0070】
チオール化合物の好適な具体例としては、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン[2官能、分子量294]、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン[3官能、分子量568]、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトブチレート)[3官能、分子量440]、ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトブチレート)[4官能、分子量545]等が挙げられる。
【0071】
チオール化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0072】
チオール化合物を用いる場合、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤に対するチオール化合物の質量比[チオール化合物/第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤]は、一際優れた接着性を実現し得る観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.14以上、さらにより好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.16以上、特により好ましくは0.18以上である。該質量比の上限は、特に限定されないが、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1以下である。
【0073】
<導電性粒子>
本発明の接着剤組成物は、導電性粒子をさらに含んでよい。導電性粒子を含むことにより、接着剤組成物及びそのフィルム状物は、導電性ペースト及び導電性フィルム、異方性導電ペースト及び異方性導電フィルムとして用いることができる。
【0074】
導電性粒子としては、異方性導電フィルムにおいて用いられる公知の導電性粒子を用いてよい。導電性粒子としては、例えば、ニッケル、鉄、銅、アルミニウム、錫、鉛、クロム、コバルト、銀、金等の金属の粒子;これら金属の合金の粒子;金属酸化物、カーボン、グラファイト、ガラス、セラミック、樹脂等の粒子の表面に金属を被覆した被覆粒子等が挙げられる。樹脂粒子の表面に金属を被覆した金属被覆樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ジビニルベンゼン系樹脂、スチレン系樹脂等が挙げられる。なお、導電性粒子は、接続後の導通性能に支障を来さなければ、端子間でのショートリスクの回避のために、上記粒子の表面に更に絶縁薄膜を被覆したものや、絶縁粒子を表面に付着させたものなど絶縁処理を施したものであってもよい。これら導電性粒子は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0075】
導電性粒子の平均粒子径は、特に限定されず目的に応じて適宜決定してよいが、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは25μm以下、さらにより好ましくは20μm以下である。該平均粒子径の下限は、特に限定されないが、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。導電性粒子の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡観察(SEM)により観察し、複数個(n≧10)の導電性粒子について粒子径を測定し、その平均値を算出すればよい。もしくは、画像型粒度分布測定装置(例として、FPIA−3000(マルバーン社))を用いて測定した測定値(N=1000以上)であってもよい。
【0076】
導電性粒子を用いる場合、接着剤組成物中の導電性粒子の含有量は、特に限定されず目的に応じて適宜決定してよいが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。該含有量の上限は、所期の異方導電性を得る観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、さらにより好ましくは20質量%以下である。
【0077】
本発明の接着剤組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含んでもよい。斯かる成分としては、例えば、有機充填材(例えば、ブタジエン系ゴム粒子、アクリル系ゴム粒子、シリコーン系ゴム粒子)、絶縁性無機フィラー(例えば、シリカフィラー)などの導通を阻害しない充填剤、表面改質剤、難燃剤、カップリング剤、着色剤等の、接着剤組成物の製造において使用される公知の添加剤が挙げられる。
【0078】
本発明の接着剤組成物は、常温・冷蔵環境下で一定期間保管した場合であっても、接着性の低下を抑制し得ると共に、スルホニウム塩系熱酸発生剤を利用する場合と変わらない接着条件において優れた接着性を実現することができる。したがって、本発明の接着剤組成物は、電子部品等を接着する手段として好適に使用することができる。また、導電性粒子を含む場合、導電性ペーストや異方性導電ペーストとして用いることが可能である。
【0079】
[接着フィルム]
本発明の接着剤組成物は、成膜性が良好であり、好適にフィルム状物(接着フィルム)とし得る。本発明は、斯かる接着フィルムも提供し、該接着フィルムは、本発明の接着剤組成物からなることを特徴とする。
【0080】
本発明の接着フィルムは、単層からなっても複数層からなってもよい。複数層からなる場合、本発明の接着フィルムは、本発明の接着剤組成物からなる第1接着剤層と、該第1接着剤層上に設けられた、本発明の接着剤組成物からなる第2接着剤層とを少なくとも含む。第1接着剤層と第2接着剤層の一方は、導電性粒子を含むことが好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の接着フィルムは、本発明の接着剤組成物からなる第1接着剤層と、該第1接着剤層上に設けられた、本発明の接着剤組成物からなる第2接着剤層とを少なくとも含み、第1接着剤層と第2接着剤層の一方が導電性粒子を含む。また本発明の接着剤層に、本発明とは異なる層を設けてもよい。その層の前後を本発明の接着剤層で挟持してもよい。このとき、導電性粒子は本発明の接着剤層の少なくともいずれか一方に含まれてもよく、異なる層に含まれてもよい。この異なる層は、本発明とは異なる接着剤組成物からなる層であってもよく、接着剤層ではない(接着に寄与しない)樹脂層であってもよい。絶縁性であることが好ましい。異なる層を含んでも、接着ができれば特に制限はない。
【0081】
接着フィルムは、例えば、本発明の接着剤組成物を、必要に応じて有機溶剤と混合した後に、剥離基材上に塗布し、更に乾燥させて接着剤層を形成させることにより製造することができる。接着剤組成物の塗布は、バーコーター等の塗布装置を用いて実施すればよい。ドクターブレード法など、公知の接着フィルムの塗布方式を用いることができる。複数層からなる接着フィルムを製造する場合、上記塗布、乾燥の工程を繰り返し複数回実施すればよい。もしくは個別に製造し、ラミネートなどで積層すればよい。
【0082】
剥離基材は、接着フィルムを支持することができ、所期のタイミングにて接着フィルムから剥離することができるフィルム状物である限り特に限定されない。剥離基材の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリ−4−メチルペン−1(PMP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のプラスチック材料を用いてよい。剥離基材はまた、接着フィルムと接合する側の表面に剥離層を有する基材であってよく、剥離層は、例えば、シリコーン樹脂やポリオレフィン樹脂等の剥離剤を含んでよい。
【0083】
剥離基材の厚さは、特に限定されないが、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。剥離基材の厚さの下限は、特に限定されないが、接着フィルムの製造時、スリット加工時の取り扱い性の観点から、好ましくは8μm以上である。
【0084】
本発明の接着フィルムの厚さは、特に限定されず目的に応じて適宜決定してよいが、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。接着剤層の厚さの上限は、特に限定されないが、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは50μm以下、特に好ましくは40μm以下である。複数層で積層している場合は、合計の厚みとする。
【0085】
接着フィルムは、所期の幅を有するようにスリット加工してよい。スリット加工の際、切削屑等により接着剤層が汚染されるのを防止すべく、その露出表面にカバーフィルムを設けてよい。この場合の厚みは、目的に応じて適宜選択すればよい。カバーフィルムは、接着フィルムのスリット加工時に使用される公知のフィルムを用いてよい。カバーフィルムはスリットなどの製造工程の他、接続使用に用いる製品として、使用時の汚染防止のために剥離基材とは別に設けられていてもよい。この場合、カバーフィルムは剥離性があることが好ましく、厚みは剥離基材と同じか、より薄いことが好ましい。
【0086】
本発明の接着フィルムは、常温・冷蔵環境下で一定期間保管した場合であっても、接着性の低下を抑制し得ると共に、スルホニウム塩系熱酸発生剤を利用する場合と変わらない接着条件において優れた接着性を実現することができる。したがって、本発明の接着フィルムは、電子部品等を接着する手段として好適に使用することができる。また、導電性粒子を含む場合、異方性導電フィルムとして用いることが可能である。
【0087】
[接続構造体]
本発明の接着剤組成物又は接着フィルムを用いて、電子部品同士を接着した接続構造体を製造することができる。本発明は、斯かる接続構造体も提供し、該接続構造体は、第1の電子部品と第2の電子部品とが本発明の接着剤組成物又は本発明の接着フィルムにより接続されていることを特徴とする。
【0088】
第1の電子部品としては、例えば、一般的なPWBでよく、リジッド基板、ガラス基板、セラミック基板、プラスチック基板、FPC等が挙げられ、また、第2の電子部品としては、FPC、ICチップ、ICチップ以外の半導体素子等が挙げられる。電子部品の制約は特になく、接続構造体の用途も特に制限はない。例えば、携帯情報端末に使用してもよく、車載用の電気的実装に用いてもよい。本発明においては、一例として、FOB、FOG、FOP、FOF、COG、COP等の多用な接続構造体を製造し得る。特に、FOG、FOPに好ましく適用できる。
【0089】
[接続構造体の製造方法]
本発明の接続構造体の製造方法は、本発明の接着剤組成物又は接着フィルムにより第1の電子部品と第2の電子部品とが接続されている接続構造体を製造し得る限り特に限定されない。以下、本発明の接続構造体を製造する方法について一例を示す。
【0090】
一実施形態において、本発明の接続構造体の製造方法は、第1の電子部品と第2の電子部品とを、本発明の接着剤組成物又は接着フィルムを介在させて、圧着する工程を含む。
【0091】
はじめに第1の電子部品をステージに載置し、その上に本発明の接着剤組成物又は接着フィルムを設け、次いで第2の電子部品を載置する。ここで、ステージに載置した第1の電子部品上に本発明の接着剤組成物又は接着フィルムを設けた後、第1の電子部品の電極と第2の電子部品の電極が対向するように位置合わせし、第2の電子部品側から圧着ツールにて仮圧着を実施する。仮圧着時の温度、圧力及び時間は、具体的な設計に応じて適宜決定してよく、例えば60〜80℃、0.5〜2MPa、0.5〜2秒間とし得る。後述する本圧着を実施するに先立ち、斯かる仮圧着を実施することにより、電子部品同士(それぞれの部品の導通部同士)をより精確に位置合わせして接続することができ好適である。仮圧着を行うことで、より高圧力で押圧する本圧着時の位置ずれの抑制が期待できる。
【0092】
仮圧着の後、第2の電子部品側から圧着ツールにて本圧着を実施する。本圧着時の温度、圧力及び時間は、接着フィルムを用いて電子部品を接着する際に用いられる公知の任意の条件としてよく、具体的な設計に応じて適宜決定してよい。先述のとおり、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤と特定のカチオン重合性成分とを組み合わせて使用する本発明の接着フィルムを用いることにより、スルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する従前の接着条件にて良好な接着性を実現することができる。例えば、低温(例えば、200℃以下、180℃以下、160℃以下)かつ短時間(例えば、10秒間以下、8秒間以下、6秒間以下)の圧着であっても、第1の電子部品と第2の電子部品を良好に接着することが可能である。
【0093】
なお、仮圧着、本圧着の別を問わず、第2の電子部品と圧着ツールの間に緩衝材(例えば緩衝シート)を設けてよい。緩衝材は、その使用の有無も含めて、電子部品の組み合わせに応じて適宜調整、決定すればよい。
【0094】
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤と特定のカチオン重合性成分とを組み合わせて使用する本発明の接着剤組成物又は接着フィルムは、常温・冷蔵環境下で一定期間保管した場合であっても、接着性の低下を抑制することができる。例えば、160℃、3MPa、5秒間という接着条件にて接着した場合に、本発明の接着剤組成物又は接着フィルムを用いて製造されたFPCとガラス基板との接続構造体は、製造直後の接着剤組成物(接着フィルム)を用いたか常温・冷蔵環境下で一定期間保管した接着剤組成物(接着フィルム)を用いたかによらず、90度剥離試験において7N/cm以上の接着強度を呈することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。以下の説明において、量を表す「部」及び「%」は、別途明示のない限り、「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0096】
[実施例1]
−接着剤組成物の調製−
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:jER4007P、三菱ケミカル(株)製)17.4部、フェノキシ樹脂(商品名:YP−50、新日鉄住金化学(株)製、Mw=60,000)26.1部、ポリビニルアセタール樹脂(商品名:KS−10、積水化学工業(株)製)8.7部、2官能脂環式エポキシ化合物(商品名:セロキサイド2021P、(株)ダイセル製、下記式(i)で表される化合物)13.0部、4官能脂環式エポキシ化合物(商品名:KR−470、信越化学工業(株)製、下記式(ii)で表される化合物)10.9部、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤(商品名:CXC−1612、楠本化成(株)製)2.6部、導電性粒子(商品名:ミクロパール、積水化学工業(株)製、平均粒径4μmのNi樹脂粒子)5.7部、ブタジエン系ゴム(商品名:RKB−5515、レジナス化成(株)製)13.0部、シランカップリング剤(商品名:A187、東レ・ダウコーニング(株)製)2.6部を、溶媒としてPMAを全体の固形分が43.38%になるよう加え、均一に混合して、接着剤組成物を得た。
【0097】
【化6】
【0098】
【化7】
【0099】
−接着フィルムの作製−
剥離基材として、PETフィルム(厚さ50μm)を用意した。この剥離基材上に、乾燥後の接着フィルム(接着剤層)の厚さが18μmとなるように、接着剤組成物を均一に塗布した。その後、70℃のオーブン中で5分間乾燥させて、剥離基材上に接着剤層を形成した。次いで、接着剤層の露出面に、カバーフィルムを45℃でラミネート処理した。
【0100】
[参考例1](2官能脂環式エポキシ化合物+スルホニウム塩系熱酸発生剤の従来系)
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤(商品名:CXC−1612、楠本化成(株)製)2.6部に代えてスルホニウム塩系熱酸発生剤(商品名:SI−60L、三新化学工業(株)製)2.6部を使用すると共に、カチオン重合性成分として2官能脂環式エポキシ化合物(商品名:セロキサイド2021P、(株)ダイセル製)のみを表1に示す量にて使用した以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0101】
[比較例1](2官能脂環式エポキシ化合物+第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤の系)
カチオン重合性成分として2官能脂環式エポキシ化合物(商品名:セロキサイド2021P、(株)ダイセル製)23.9部のみ使用した以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0102】
[比較例2](2官能脂環式エポキシ化合物+スルホニウム塩系熱酸発生剤の従来系)
第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤(商品名:CXC−1612、楠本化成(株)製)2.6部に代えてスルホニウム塩系熱酸発生剤(商品名:SI−60L、三新化学工業(株)製)2.5部を使用すると共に、カチオン重合性成分として2官能脂環式エポキシ化合物(商品名:セロキサイド2021P、(株)ダイセル製)のみを使用し、各成分の配合量を表1に示すとおりとした以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0103】
[実施例2〜6](4官能/2官能質量比の影響)
2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物の量比を表2に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0104】
[実施例7〜11](チオール化合物の影響)
4官能チオール化合物(商品名:カレンズMT PE1、昭和電工(株)製、下記式(iii)で表される化合物)、3官能チオール化合物(商品名:カレンズMT NR1、昭和電工(株)製、下記式(iv)で表される化合物)、又は2官能チオール化合物(商品名:カレンズMT BD1、昭和電工(株)製、下記式(v)で表される化合物)を、表3に示す量にてさらに添加した以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0105】
【化8】
【0106】
【化9】
【0107】
【化10】
【0108】
[比較例3](従来系に対するチオール化合物の影響)
4官能チオール化合物(商品名:カレンズMT PE1、昭和電工(株)製)0.4部をさらに添加した以外は、参考例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0109】
[実施例12〜15](成膜用成分の組成の影響−フェノキシ樹脂Mw−)
フェノキシ樹脂(商品名:YP−50、新日鉄住金化学(株)製、Mw=60,000)に加えて/代えて、フェノキシ樹脂(商品名:jER4210、三菱ケミカル(株)製、Mw=30,000)を表3に示す量にて使用した以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0110】
[実施例16](成膜用成分の組成の影響−ポリビニルアセタール樹脂不含−)
ポリビニルアセタール樹脂(商品名:KS-10、積水化学工業(株)製)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0111】
[実施例17](導電性粒子不含の系)
導電性粒子(商品名:ミクロパール、積水化学工業(株)製、平均粒径4μmのNi樹脂粒子)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物を調製し、接着フィルムを作製した。
【0112】
以下、試験・評価方法について説明する。
【0113】
<接着強度の評価>
−接続構造体の作製−
実施例及び比較例で作製した接着フィルムを幅1.0mmにスリット加工した後、カバーフィルムを剥離した。次いで、接着剤層の露出面がガラス基板(厚さ0.7mm)と接合するように、接着フィルムをガラス基板のエッジに貼り、45℃のホットプレート上で均一に力を加えた。その後、剥離基材を剥離し、接着剤層の露出面が完全に覆われるようにフレキシブルプリント基板(FPC;厚さ50μm)の金配線部分を接続し貼り合わせた。接着剤層を介在させてFPCとガラス基板とを熱圧着し、FPCとガラス基板の対向した導通部を全て接着剤層の硬化物により接着することで接続された接続構造体を得た。熱圧着の条件は、160℃、3MPa、5秒間であった。
【0114】
接続構造体は、(1)作製直後(初期)の接着フィルム、(2)作製後に25℃、65%RHの常温環境下で14日間保管した接着フィルム、(3)作製後に5℃の冷蔵環境下で1ヶ月間保管した接着フィルムの各々を用いて作製した。
【0115】
−接着強度の測定・評価−
得られた接続構造体について、90度剥離試験により接着強度を測定した。詳細には、FPCおよび硬化物を長さ10mmになるよう切り込み、その長さ10mmのFPCをつかみ具で掴み、室温(25℃)下、50mm/分の速度で垂直方向にFPCがガラス基板から剥離するまで引き剥がした時の荷重(N/cm)を測定した。なお、測定には、テンシロン試験機(株式会社オリエンテック製:STA−1150)を使用した。
【0116】
<導通抵抗の評価>
−接続構造体の作製−
実施例及び比較例で作製した直後の接着フィルムを幅1.0mmにスリット加工した後、カバーフィルムを剥離した。次いで、接着剤層の露出面がITOガラス基板(厚さ0.7mm)と接合するように、接着フィルムをITOガラス基板のエッジに貼り、45℃のホットプレート上で均一に力を加えた。その後、剥離基材を剥離し、接着剤層の露出面が完全に覆われるようにFPC(厚さ50μm)の金配線部分を接続し貼り合わせた。接着剤層を介在させてFPCとITOガラス基板とを熱圧着し、接続構造体を得た。熱圧着の条件は、160℃、3MPa、5秒間であった。
【0117】
−導通抵抗の測定・評価−
得られた接続構造体について、接着直後と、110℃、85%RHの高温高湿条件にて32時間保持した後に、導通抵抗を測定し、以下の基準で評価した。なお、導電性粒子を含まない実施例17に関しては、本評価は実施しなかった。
【0118】
初期導通に関しては、実用上の評価基準ではなく、性能比較として指標を設けた。尚、信頼性試験でB評価以上であれば実用上は問題なく、A評価であることが好ましい。
初期(評価基準)
A:0.5Ω未満
B:0.5Ω以上1.0Ω未満
C:1.0Ω以上
信頼性試験後(評価基準)
A:1.0Ω未満
B:1.0Ω以上5.0Ω未満
C:5.0Ω以上
【0119】
実施例及び比較例の評価結果を表1〜3に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表1の結果(比較例1と参考例1との対比)から、スルホニウム塩系熱酸発生剤に代えて第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤を使用すると、スルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する場合と同じ接着条件では、そもそもの接着強度が低下してしまうことがわかる。
【0124】
また表1の結果(実施例1と比較例1との対比)から、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤との組み合わせにおいて、ラジカル重合性成分として2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物を併用すると、常温・冷蔵環境下での保管による接着性の低下が抑制されるばかりでなく、スルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する場合と同じ接着条件でも、接着強度が著しく向上することがわかる。なお、比較例1において、カチオン重合性成分である2官能脂環式エポキシ化合物の全量を4官能脂環式エポキシ化合物に代えると(すなわち、カチオン重合性成分として4官能脂環式エポキシ化合物を単独で用いると)、そもそも接着剤層がガラス基板に貼り付かないことを確認した。
【0125】
表2の結果から、4官能/2官能質量比が0.1〜0.85の範囲にあると、優れた接着強度を呈することがわかる。また、4官能/2官能質量比が0.1〜0.85の範囲にあると、高温高湿環境下における信頼性試験後においても接続構造体の接続箇所に浮きが発生することを顕著に抑制し得ることを確認した。さらに、4官能/2官能質量比が0.1〜0.4の範囲にあると、顕著に優れた接着強度が実現されることがわかる。
【0126】
表3の結果(実施例7〜11と比較例3との対比)から、スルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する接着剤組成物にあっては、チオール化合物を添加しても接着強度の向上はみられないばかりか、接着強度はむしろ低下することがわかる。これに対し、第4級アンモニウム塩系熱酸発生剤と特定のカチオン重合性成分(2官能脂環式エポキシ化合物と4官能脂環式エポキシ化合物の併用系)とを組み合わせて用いる本発明の接着剤組成物では、チオール化合物をさらに含むことにより、接着強度が飛躍的に向上することがわかる。
【0127】
また表3の結果(実施例12〜16(と実施例1との対比))から、成膜用成分の組成を変更する場合であっても、スルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する場合と同じ接着条件にて、良好な接着強度を呈することがわかる。また、成膜用成分としてMw30,000のフェノキシ樹脂を含むと、高温高湿環境下における信頼性試験後においても接続構造体の接続箇所に浮きが発生することを顕著に抑制し得ることを確認した。
【0128】
さらに表3の結果(実施例17)から、導電性粒子を添加しない場合であっても、スルホニウム塩系熱酸発生剤を使用する場合と同じ接着条件にて、良好な接着強度を呈することがわかる。
【0129】
なお、初期導通および信頼性試験後の導通に関しては、何れの実施例も実用上問題がない値を示した。