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  • 特開2021096365-表示体、巻回体およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-96365(P2021-96365A)
(43)【公開日】2021年6月24日
(54)【発明の名称】表示体、巻回体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 11/29 20060101AFI20210528BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20210528BHJP
【FI】
   G09F11/29 A
   B32B7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-227568(P2019-227568)
(22)【出願日】2019年12月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友嗣
(72)【発明者】
【氏名】西尾 潤
【テーマコード(参考)】
4F100
5C095
【Fターム(参考)】
4F100AK07B
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100AT00B
4F100BA03
4F100CB05A
4F100EC182
4F100EH512
4F100EJ372
4F100EJ37B
4F100EJ38A
4F100EK06
4F100GB90
4F100HB31C
4F100JL04
5C095AA21
5C095AA90
5C095BA12
5C095BB13
5C095DA12
5C095EE37
(57)【要約】      (修正有)
【課題】巻回体自体がほどけにくく、巻回体からシートを引き出す力のばらつきや表示面のねじれを抑制された表示体を提供する。
【解決手段】表示体1は、2以上のフィルム4,6の積層体3が巻回された巻回体2と、この巻回体2から積層体3を引き出すための引出具7を備える。巻回体2は、積層体3の片面又は両面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有する。積層体3は、第1のフィルム4と第2のフィルム6とが接着剤を介して積層され、第2のフィルム6が内側となる向きに巻回している。第2のフィルム6は、少なくとも一方向に延伸されており、第2のフィルム6の厚みは、20〜120μmであって、かつ、第1のフィルム4の厚みに対して1.2倍以上である。引出具7は、巻回体2が運動可能なように巻回体2を保持する保持部8を有し、巻回体2から積層体3を手動で引き出し可能であるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上のフィルムの積層体が巻回された巻回体と、前記巻回体から前記積層体を引き出すための引出具を備える表示体であって、
前記巻回体は、前記積層体の片面又は両面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有し、
前記積層体は、第1のフィルムと第2のフィルムとが接着剤を介して積層され、前記第2のフィルムが内側となる向きに巻回しており、
前記第2のフィルムは、少なくとも一方向に延伸されており、
前記第2のフィルムの厚みは、20〜120μmであって、かつ、前記第1のフィルムの厚みに対して1.2倍以上であり、
前記引出具は、前記巻回体が運動可能なように巻回体を保持する保持部を有し、前記巻回体から前記積層体を手動で引き出し可能であるように構成されている
表示体。
【請求項2】
前記巻回体は、下記の方法で測定したカール値が70mm以下である
請求項1に記載の表示体。
[カール値の測定方法]
カールの大きい方向が長手方向になるように積層体をA4サイズ(210×297mm)に断裁し、カール面が上になるように裁断物を水平面上に置き、裁断物の長辺の水平面における投影長さを測定してカール値とする。
【請求項3】
2以上のフィルムの積層体が巻回された巻回体であって、
前記巻回体は、前記積層体の片面又は両面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有し、
前記積層体は、第1のフィルムと第2のフィルムとが接着剤を介して積層され、前記第2のフィルムが内側となる向きに巻回しており、
前記第2のフィルムは、少なくとも一方向に延伸されており、
前記第2のフィルムの厚みは、20〜120μmであって、かつ、前記第1のフィルムの厚みに対して1.2倍以上である
巻回体。
【請求項4】
2以上のフィルムの積層体が巻回された巻回体の製造方法であって、
第1のフィルムと第2のフィルムとが接着剤を介して積層された積層体を用意する第1工程と、
前記積層体の片面又は両面に電子写真方式によってトナーを熱定着させることにより、前記積層体に印刷層を形成するとともに、前記第2のフィルムが内側となる向きに前記積層体を巻回させる第2工程と、を含み、
前記第2のフィルムは、少なくとも一方向に延伸されたものであり、
前記第2のフィルムの厚みは、20〜120μmであって、かつ、前記第1のフィルムの厚みに対して1.2倍以上である
巻回体の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程は、前記第1のフィルム側に電子写真方式によってトナーを熱定着させ、その後、前記第2のフィルム側に電子写真方式によってトナーを熱定着させる工程を含む
請求項4に記載の巻回体の製造方法。
【請求項6】
前記第1のフィルムが少なくとも一方向に延伸されたものであり、
前記第2のフィルムの延伸温度は、前記第1の延伸温度よりも低い、
請求項4又は5に記載の巻回体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽い力で引き出すことができ、力を抜くと基材が持つ残留応力によって自動的に巻き取ることができる表示体に関する。また、本発明は、表示体を構成する巻回体や、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シート状物を巻回し、この巻回体にスプリングやゴム等の付勢手段が連結されたものが知られており、代表的なものにロールスクリーンがある。このロールスクリーンに文字、図形、記号、絵画、写真等を表示した表示体も知られている。しかしながら、付勢手段の構造が複雑で重量増加、かさばり、コスト増になる問題があった。
【0003】
この問題を解消するため、複数の樹脂フィルムを積層した積層フィルムからなり、該積層フィルムは、前記樹脂フィルムに対して積層時にプレストレスを付与することによって、残留応力を与えられている表示体が知られている(たとえば特許文献1)。
【0004】
特許文献1においては、積層時にプレストレスを付与する手段がラミネート工程において複数の樹脂フィルムそれぞれに作用する張力を制御し、積層フィルム内に残留応力が作用するように成形したものとされている。
【0005】
ところが、複数の樹脂フィルムを貼合するとき、それぞれのフィルムの張力を適宜調整することは至極当然である一方、張力調整のみでは残留応力の強さを制御することができず、巻回体からシートを引き出す力が特定範囲内になりにくく、製造ロットごとにバラツキが出る問題があった。たとえば、特許文献2においては、付勢手段を使用することを前提とした設計であるため、残留応力の強さが弱く、仮に引出具を取り付けて引き出そうとしても、巻回体が完全にほどけてしまう。実際、特許文献2の実施例において、スクリーンを最も小さく巻回できたものでも、そのカール値は120mmが限度とされていた。また、張力の調整程度によってはねじれカールが生じやすく、その結果表示体が歪み、表示が見にくくなる問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3108963号明細書
【特許文献2】特開2004−271774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、巻回体自体がほどけにくく、巻回体からシートを引き出す力のばらつきや表示面のねじれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面は、表示体に関する。表示体は、フィルムの積層体が巻回された巻回体と、当該巻回体から積層体を引き出すための引出具とを備える。巻回体は、積層体の片面又は両面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有する。積層体は、第1のフィルムと第2のフィルムとが接着剤を介して積層され、第2のフィルムが内側となる向きになるように巻回している。なお、第1のフィルムと第2のフィルムは、材質が異なるものであってもよいし同じ材質もののであってもよい。第2のフィルムは、少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムである。第2のフィルムの厚みは、20〜120μmであって、かつ、第1のフィルムの厚みに対して1.2倍以上となる。引出具は、巻回体が運動可能なように巻回体を保持する保持部を有し、巻回体から積層体を手動で引き出し可能であるように構成されている。
【0009】
上記構成のように、本発明では、第2のフィルムとして第1フィルムよりも厚い延伸フィルムを採用し、さらにこれらの積層体に対して電子写真方式によってトナーを熱定着させる。これにより、熱定着処理後に第2のフィルムが内側となる向きで積層体が巻回するとともに、この巻回体に対してほどけにくく積層体を引き出しやすい適度な残留応力を付与することができる。また、各フィルムの張力調整によらず、積層体に残留応力を付与することができるため、カールにねじれが生じて表示面の見栄えが悪くなることを抑制できる。
【0010】
本発明に係る表示体において、巻回体は、以下の方法で測定したカール値が70mm以下であることが好ましい。特に、巻回体のカール値は、30〜50mmの範囲とすることが好適である。これにより、巻回体に対して、積層体の引き出しやすさを維持しつつ、巻回体が自然にはほどけにくい程度の適度な残留応力を付与することがきる。
[カール値の測定方法]
カールの大きい方向が長手方向になるように積層体をA4サイズ(210×297mm)に断裁し、カール面が上になるように裁断物を水平面上に置き、裁断物の長辺の水平面における投影長さを測定してカール値とする。
【0011】
本発明の第2の側面は、2以上のフィルムの積層体が巻回された巻回体に関する。本発明に係る巻回体は、積層体の片面又は両面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有する。積層体は、第1のフィルムと第2のフィルムとが接着剤を介して積層され、第2のフィルムが内側となる向きに巻回している。第2のフィルムは、少なくとも一方向に延伸されており、第2のフィルムの厚みは、20〜120μmであって、かつ、前記第1のフィルムの厚みに対して1.2倍以上である。
【0012】
本発明の第3の側面は、2以上のフィルムの積層体が巻回された巻回体の製造方法に関する。本発明に係る巻回体の製造方法では、まず、第1のフィルムと第2のフィルムとが接着剤を介して積層された積層体を用意する(第1工程)。次に、積層体の片面又は両面に電子写真方式によってトナーを熱定着させることにより、積層体に印刷層を形成するとともに、第2のフィルムが内側となる向きに積層体を巻回させる(第2工程)。ここで、第2のフィルムとしては、少なくとも一方向に延伸されたものであり、その厚みが、20〜120μmであって、かつ、第1のフィルムの厚みに対して1.2倍以上であるものが用いられる。
【0013】
本発明に係る巻回体の製造方法において、上記第2工程は、第1のフィルム側に電子写真方式によってトナーを熱定着させ、その後、第2のフィルム側に電子写真方式によってトナーを熱定着させる工程を含むことが好ましい。このように、積層体の両面に印刷層を形成する場合、まず先に第1のフィルム側に印刷して積層体のカールを抑えておき、次に第2のフィルム側に印刷を行うことで、カールがより強くなり適切なカール値を持つ巻回体を得ることができる。
【0014】
本発明に係る巻回体の製造方法において、第1のフィルムが少なくとも一方向に延伸されたものであり、第2のフィルムの延伸温度は、第1のフィルムの延伸温度よりも低いことが好ましい。また、第1のフィルムと第2のフィルムは、共に熱可塑性樹脂からなるものであるとよい。これにより、電子写真方式によるトナーの熱定着処理時には、第1のフィルムよりも先に第2のフィルムが収縮を開始することとなる。このため、第2のフィルムが第1のフィルムよりも厚く形成されていることも相俟って、積層体が第2のフィルムを内向きとして巻回し、積層体に対して適度な残留応力を付与することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、表示体をなす積層体の構成が簡素であり、積層体に残留応力を付与する機構が明瞭で、手動で引き出すのに適した引き出し力を付与可能であり、表示面のねじれを抑制することができる。加えて、電子写真方式を採用したことにより多種多様の表示体を効率よく作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、表示体の一実施形態を模式的に示している。図1(a)は、積層体が手動で引き出された状態の表示体を示し、図1(b)は、積層体が自動で巻き戻された状態の表示体を示している。
図2図2は、積層体の断面構造を模式的に示している。
図3図3は、引出具の別の態様を示している。図3(a)は、引出具が主に筒状部材と軸部材とで構成された例を示しており、図3(b)は、引出具が主に2つのキャップ部材により構成された例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[表示体]
図1は、本発明に係る表示体1の概要を示している。図1に示されるように、表示体1は、主に積層体3が巻回した一又は複数の巻回体2と、各巻回体2から積層体3を引き出すための引出具7を備えている。積層体3は、厚みが異なる2以上のフィルムの積層体の少なくとも片面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層(不図示)を有してなる。この積層体3は、電子写真方式での印刷において加熱されることにより、積層体を構成する第2のフィルム6が第1のフィルム4に対して大きく収縮し、第2のフィルム側にカールして巻回体2を構成している。すなわち、巻回体2とは、積層体3に電子写真方式でトナーを熱定着させることによってカールした後の状態の構造物を意味している。なお、図1に示した例では、長尺の1枚のシート状の積層体3によって2つの巻回体2が形成されており、各巻回体2に引出具7が備え付けてある。つまり、シート状の積層体3は、長手方向中央付近から左右異なる向きにカールしており、巻回方向の異なる巻回体2が形成されている。ただし、本発明は、1枚の積層体3によって1つの巻回体2を形成し、そこに1つの引出具7を備え付けた構成であってもよい。
【0018】
図1(a)に示されるように、引出具7を人手で把持して積層体3の長手方向に沿って引張力を加えることにより、巻回体2から積層体3が引き出される。これにより、積層体3の内面側又は外面側に印刷された文字、図形、記号、模様、色彩などの各種の印刷情報を視認することができる。なお、図1(a)は、積層体3の内面側を図示したものである。他方で、図1(b)に示されるように、引出具7に加えている引張力を弱める或いは引張力なくすことにより、積層体3に付加されている残留応力によって、積層体3は自動的に各巻回体2に巻き取られる。このように、積層体3は、何ら力を加えない自然状態では自動的にカールして巻回体2を形成しており、その長手方向に引張力を加えることで巻回体2から引き出されることとなる。
【0019】
図1に示されるように、引出具7は、巻回体2が運動可能なように巻回体2を保持する保持部8を有する。また、引出具7は、保持部8に連結された把持部9を有していてもよい。図1に示された例において、引出具7は、断面円形状の棒状部材で構成されている。この棒状部材のうち、巻回体2の中心の中空部に挿入されている部位が保持部8として機能し、巻回体2の中空部から上方又は下方に突出している部位が把持部9として機能している。このように保持部8と把持部9は一体として形成されたものであってもよい。なお、棒状部材の保持部8は、巻回体2を構成する積層体3には貼合等されておらず、この棒状部材を積層体3の長手方向に手動で引っ張ることにより、巻回体2はこの棒状部材を軸として自由に回転する。これにより、この巻回体2から積層体3が引き出されることとなる。
【0020】
本願明細書において、フィルムの流れ方向とは、フィルムの製造時におけるロール送り方向(MD方向)を指す。また、フィルムの幅方向は、流れ方向に対して直交する向きとなる方向(CD方向)を指す。
【0021】
[積層体]
図2に示されるように、積層体3は、厚みが異なる2以上のフィルムで構成され、より具体的には第1のフィルム4と第2のフィルム6とが接着層5を介して積層されてなる。第1のフィルム4と第2のフィルム6は、素材が同じ同種のフィルムであってもよいが、異種の素材のフィルムであることが好ましい。具体的には、第1のフィルム4と第2のフィルム6は熱可塑性の樹脂フィルムで形成されている。
【0022】
ここで、第2のフィルム6の厚みは60〜120μmである。第2のフィルム6の厚みの下限値は70μm以上が好ましく、75μm以上がより好ましい。一方、第2のフィルム6の厚みの上限値は115μm以下が好ましく、110μm以下がより好ましい。
【0023】
第2のフィルム6の厚みは、第1のフィルム4の厚みに対して1.2倍以上である。特に第2のフィルム6の厚みは、4倍以上が好ましく6倍以上がより好ましい。これにより巻回体2から積層体3を引き出した後に力を抜くと自動的に巻き取られる適度な残留応力を積層体3に付与することができる。この場合、巻回体2の巻き径が小さくなる傾向があるため巻回体2が引出具7から外れにくくなる。一方、第2のフィルム6の厚みは、第1のフィルム4の厚みに対して16倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましく、8.5倍以下がさらに好ましい。これにより積層体3の引き出しやすさを維持しつつ、かつ力を抜いたときに勢いよく積層体3が巻き取られて使用者にけがを生じさせない程度の強すぎず適度な残留応力を積層体3に付与することができる。
【0024】
第2のフィルム6は樹脂製の延伸フィルムであることが好ましい。延伸は、巻回体2の中心軸に対して直交する方向、すなわち積層体3の引き出し方向に対して行われたものであることが好ましい。これにより残留応力を高めることができ、適度な引き出し力を付与することができる。加えて、第2のフィルム6は、巻回体2の中心軸に平行な方向、すなわち引き出し方向に対して直交する方向に対しても延伸が行われてもよい。これにより引き出し方向に直交する方向へのカールを抑制し、表示面が捻れることを抑制する効果を有する。
【0025】
このように、第2のフィルム6は1軸延伸フィルムであってよく、2軸延伸フィルムであってもよい。さらに、第2のフィルム6の内部に縦1軸延伸層と横1軸延伸層を積層した構成や1軸延伸層と2軸延伸層とを積層した構成を有していてもよい。これにより積層体3の引き出し力を十分確保し、ねじれを抑制する効果がより高まるため好ましい。なお、このような延伸フィルムは公知の方法によって製作すればよい。
【0026】
第1のフィルム4は延伸の有無については問わない。ただし、後述の印刷時にかかる熱(例えば200℃)による第1のフィルム4の収縮率が第2のフィルム6の収縮率より低いことが好ましい。これにより積層体3が第2のフィルムが内側になる向きに巻回しやすくなるとともに、引き出し力のもととなる残留応力を発現しやすい。一般的に、無延伸フィルムのほうが延伸フィルムよりも同条件で熱を加えた際の収縮率が低くなる。このため、第1のフィルム4は無延伸フィルムとし、第2のフィルム6は延伸フィルムとすることとしてもよい。
【0027】
また、第2のフィルム6の延伸温度は、第1のフィルム4の延伸温度より低いことが好ましい。これにより、電子写真方式によってトナーを熱定着させる際に、積層体3が第2のフィルム6が内側になる向きに巻回しやすくなるとともに、引き出し力のもととなる残留応力を発現しやすい。
【0028】
第2のフィルムを製造するときの延伸温度は160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。これにより電子写真方式によってトナーを熱定着させる際に定着装置から受ける熱で第2のフィルムが熱収縮を開始しやすくなる。また、第1のフィルムが延伸フィルムである場合、第2のフィルムを製造するときの延伸温度を第1のフィルムを製造するときの延伸温度より低く設定することで、定着装置から熱を受けたときに第2のフィルムが第1のフィルムより熱収縮しやすくなって、第2のフィルムが内側となる向きに巻回しやすくなるため上記特性が得られやすい。フィルムを製造するときの延伸温度は、フィルムを巻回軸に直交する向き10cm、巻回軸に平行の向き5cmに切り出し、油性ペンで長辺に印を付けたサンプルを用意し、特定温度に設定したシリコーンオイルにサンプルを浸漬して、目視で収縮が完了した瞬間(おおむね3秒以内)にサンプルを引き上げて、印を付けた辺の長さLを測定する操作を、シリコーンオイルの温度を5℃刻みで行い、特定温度での長さL1と特定温度+5℃での長さL2との差(L2−L1)が3mm以内になった時の特定温度を延伸温度として測定することができる。
【0029】
第1のフィルム4と第2のフィルム6とは独立してフィルム成形可能な材料であることができる。これらのフィルム4,6を成形する材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン; ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリ(ヒドロキシ酪酸−ヒドロキシヘキサン酸)等のポリエステル; ポリカーボネート; ナイロン6,6、ポリカプロラクタム等のポリアミド;ポリ塩化ビニル;ポリスチレン等が挙げられるが、これらに限定されず、フィルム成形可能な材料であればその種類を問わない。第1のフィルム4は、印刷性の観点から、ポリエステル又はポリオレフィンを含むことが好ましく、巻回体により高い剛性を付与できる観点からは、ポリエステルを含むことがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートを含むことがさらに好ましい。これに対し、第2のフィルム6は、延伸加工が容易である観点から、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン又はポリアミドを含むことが好ましく、印刷性の観点から、ポリエステル、ポリオレフィン又はポリ塩化ビニルを含むことがより好ましく、引き出し力を高める観点からは、ポリオレフィンを含むことがさらに好ましく、ポリプロピレンを含むことが特に好ましい。
【0030】
すなわち、第1のフィルム4と第2のフィルム6に含まれる材料の組み合わせとしては、第1のフィルム4をポリエチレンテレフタレート(PET)とし、第2のフィルムを1軸又は2軸の延伸ポリプロピレン(PP)とすることが特に好ましい。その他、第1のフィルム4をポリスチレン(PS)とした場合に、第2のフィルム6としては、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート、又はポリプロピレンとすることができる。また、第1のフィルム4をポリエチレン(PE)とした場合に、第2のフィルム6としては、ポリエチレンテレフタレート、又はポリプロピレンとすることもできる。また、第1のフィルム4を塩化ビニル(PVC)とした場合に、第2のフィルム6としては、ポリエチレンテレフタレート、又はポリプロピレンとすることができる。
【0031】
第2のフィルム6に使用するのに適したフィルム製造時の延伸温度は、ポリスチレンの場合80〜110℃、塩化ビニルの場合70〜130℃、ポリアミド(たとえばナイロン)の場合150〜180℃、ポリエチレンテレフタレートの場合150〜155℃、ポリプロピレンの場合130〜150℃である。なお、第1のフィルム4が少なくとも一方向に延伸されている(延伸フィルムである)場合、第1のフィルム4としては、上記第2のフィルム6よりも、上記適切な延伸温度の高い素材を選択すると良い。したがって、この場合、例えば、第1のフィルム4をポリエチレンテレフタレートとした場合、第2のフィルム6としては、ポリスチレン、塩化ビニル、又はポリプロピレンとすることができる。また、第1のフィルム4をポリアミドとした場合、第2のフィルム6としては、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート又はポリプロピレンとすることができる。また、印刷時における積層体の加熱温度は、上記第2のフィルム6の延伸温度以上とし、第1のフィルム4の延伸温度未満とすることが好ましい。このとき、積層体の加熱温度は積層体の最高温度を意味しており、定着装置から熱を受ける時間が短いことおよび、第2のフィルムが厚い場合に温度勾配が生じることから、定着装置の設定温度は積層体の加熱温度より20〜80℃高く設定される。
【0032】
第1のフィルム4および第2のフィルム6には、通常フィルムに配合する各種添加剤をその効果が発現する範囲の添加量で配合することができる。ここで、添加剤としては酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、着色剤、崩壊剤、フィラー等が挙げられる。
【0033】
第1のフィルム4と第2のフィルム6とを積層する接着剤5としては公知のものを適宜使用することができる。たとえば、ゴム系、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系、ウレタン系の粘着剤を用いることができるほか、加熱により粘着性を発現するディレードタック接着剤、加熱すると融解し冷却すると固化するヒートシール接着剤等が好適に用いられる。ここで、接着剤5は、後述の巻回体2の製造プロセスで軟化せず第1のフィルム4と第2のフィルム6とが剥離しない程度の耐熱性があることが好ましい。
【0034】
第1のフィルム4と第2のフィルム6との積層方法としては、例えば、常温にて接着剤を塗布または流延し、必要に応じ乾燥させて溶剤を除去した後に貼りあわせる方法や、接着剤を加熱融解してフィルムの一方の接着面に押し出した後にもう一方のフィルムを貼りあわせる方法、又は一方のフィルムの表面にあらかじめ塗布・共押出・押出ラミネート等の方法でヒートシール剤を積層しておき、もう一方のフィルムを加熱圧着して積層する方法等、公知の貼合方法を好適に用いることができる。
【0035】
積層体3は、上記構成に加えて、第1のフィルム4の接着剤と接しない面に、第1のフィルム4および第2のフィルム6と異なる材料で構成される層を有することができる。同様に、積層体3は、第2のフィルム6の接着剤と接しない面に、第1のフィルム4および第2のフィルム6と異なる材料で構成される機能層を有することができる。
【0036】
上記機能層の例としては、帯電防止層、インキ定着層、ハードコート層、光沢層、着色層、アンチブロッキング層、蛍光発光層、インクジェット受容層、昇華熱転写受容層、弾性層、隠蔽層等が挙げられる。これら機能層は1層でも複数の層でもよく、1つの層の中に異なる複数の機能を有していてもよい。これらの機能層は公知の方法を適宜選択して形成する。
【0037】
積層体3に設けられる上記機能層は、積層体3の一方の表面に設けられてもよく、両方の面に設けられてもよい。また、積層体3の表面に上記機能層が設けられた場合は、当該機能層の上に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を設けることができ、積層体の表面に上記機能層が設けられていない場合は、積層体3の表面に直接、電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を設けることができる。
【0038】
かくして、印刷層形成前の積層体3または積層体3の表面に上記機能層が設けられた状態(すなわち印刷前の状態)において、印刷前のカール値を測定する。具体的には、カール値は、カールの大きい方向が長手方向になるように積層体をA4サイズ(210×297mm)に断裁し、カール面が上になるように裁断物を水平面上に置き、裁断物の長辺の水平面における投影長さを測定してカール値とする。このとき、積層体3は印刷前のカール値が260mm以上となることが好ましい。これは印刷前の状態において積層体3がシート体であり、巻回体になっていないことを表している。印刷前のカール値が上記値にあれば、電子写真方式で印刷層を設ける際にロール詰まりや巻き込み等のトラブルを抑制することができる。特にトラブル抑制の観点から、印刷前カールは290mm以上が好ましい。
【0039】
[印刷層]
2以上のフィルムが貼合された印刷後の積層体は、少なくとも片面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有している。電子写真方式とは、感光体の表面を一様に帯電させ(帯電工程)、露光によって感光体の表面に静電潜像を形成し(露光工程)、形成された静電潜像をトナー(着色粒子)を含む現像剤で現像し(現像工程)、紙やプラスチックフィルムなどの記録媒体に現像剤の像を転写し(転写工程)、転写された現像剤の像を記録媒体の印刷面を加熱加圧することによって熱定着させること(定着工程)により、記録媒体に印刷層を形成する方法である。電子写真方式で設けられるトナーの種類は限定されず、公知のトナーを用いることができる。トナーには通常色材とポリエステル、ポリオレフィン等の熱融着可能なバインダとが含まれ、さらに電荷制御剤、離型剤等の添加剤が含まれる。カラートナー像が積層体の表面(その上に機能層を設けられる場合は機能層の表面)に転写され、定着装置によって加熱加圧されることによって印刷層が形成される。定着装置は、熱ロールによってトナーが付着した積層体を挟み込みながら、積層体の表面に対して熱エネルギーを付与する。なお、熱ロールは2個一対のロール装置からなるものであってもよいし、ロール装置とベルト装置との組み合わせからなるものであってもよい。なお、積層体の印刷層が電子写真方式によって形成されたものであるかどうかは、印刷層に含まれるトナーを赤外吸収法、NMR等による化学分析、走査型電子顕微鏡、または透過型電子顕微鏡等による形状観察を行うことによって同定できる。
【0040】
[巻回体]
上記のとおり、積層体3に印刷層を形成する際に、定着装置によって積層体3が加熱加圧されるときに、この積層体3を構成する第2のフィルム6が熱収縮して第1のフィルム4との収縮差が生じることによって積層体3の形状がシート体から巻回体に変化する。すなわち、巻回体2では少なくとも第2のフィルム6において熱収縮が生じている。ただし、第2のフィルム6は、完全に熱収縮している必要はない。また、第1のフィルム4は、熱収縮していても熱収縮していなくてもよいが、熱収縮している場合には少なくともその収縮率が第2のフィルム6の収縮率よりも小さいことが必要である。つまり、本発明において、巻回体2は、比較的厚みのある第2のフィルム6が、比較的薄い第1のフィルム4よりも大きく熱収縮していることにより、第2のフィルム6を内側となる向きになるように巻回し、しかもその巻径が小さく抑えられたものである。
【0041】
第2のフィルム6が流れ方向と幅方向とに2軸延伸(配向)している場合、積層体3の長手方向を、第2のフィルム6の流れ方向にしても、幅方向にしても、目的とする巻回体2が得られる。その理由は、電子写真方式の定着装置が、積層体3を熱ロールによって挟持する方式であるためと考えられる。すなわち、熱ロールに挟持される瞬間に積層体3に熱が加えられ、少なくとも第2のフィルム6が熱収縮する。ただし、積層体3は熱ロールに挟持される際に熱ロールの周面に線接触しているため、熱ロールの送り方向(積層体の長手方向)には熱収縮しやすいが、熱ロールの軸方向(積層体の短手方向)には熱収縮しにくい。また、積層体3は、加熱後にトナーを固着させるため急速に冷却されるため、第1のフィルム4や第2のフィルム6の熱収縮が進みすぎないうちに固定される。このため、第2のフィルム6が2軸延伸フィルムの場合であっても、熱ロールの送り方向に沿って巻回する巻回体2が得られる。
【0042】
したがって、電子写真印刷機の印刷モードによって熱収縮の大きさが変化することを利用して、印刷後カール値や引き出し力を制御することが可能である。カラー複合機(富士ゼロックス(株)製、DocuCentre−VII C4473)には、定着装置から積層体3が受ける熱量として、例えば熱量が少ない「普通紙モード」や、熱量がやや多い「はがきモード」、熱量が多い「厚紙モード」、熱量がさらに多い「厚紙2モード」がある。定着装置は小型機では加熱ロールとベルトの組み合わせが多く用いられ、大型連続印刷機ではヒーティングゾーンが多く用いられる。積層体3の加熱条件としては、加熱ロール温度を150〜200℃、紙送りの線速度を6〜12m/min、定着装置通過時間を20〜250m/minとすることが好ましい。
【0043】
上記工程を経てカールが付与された積層体3において、前述したカール値の測定方法で求めた印刷後のカール値が70mm以下であることが好ましい。このとき、当該態様において積層体3の形状が巻回体2であり、表示体1として利用するのに適切な引き出し力を有している。積層体3が巻回体2の形状でありながら印刷後のカール値が70mmを超えている場合、巻回体2の引き出し力が弱く、引き出した際に積層体3がほどけてしまったり、引き出した後に力を抜いても巻回しなかったりして表示体1としての機能が発揮しにくい。印刷後のカールは、50mm以下であることがより好ましく、40mm以下であることがさらに好ましい。一方、巻回体2の引き出し力が強すぎず、両手で引き出したときに表示面全体を展開するためには、印刷後のカールは、20mm以上が好ましく、30mm以上がより好ましい。
【0044】
また、巻回体2の中心にある中空部には、中空状の筒状部材が挿し込まれていてもよい。筒状部材を設ける場合、カールの大きい方向が長手方向になるときの積層体3の短辺、すなわち積層体3の一方の端部が筒状部材に接着されていることが好ましい。また、図1に示されるように一枚の積層体3によって2つの巻回体2を形成する場合、積層体3の他方の端部は別の筒状部材に接着されていることがより好ましい。これにより巻回体2から積層体3を完全に引き出した際に積層体3がほどけて引出具から外れてしまうことを抑制できる。
【0045】
筒状部材の長さは巻回体2の軸に平行な長さ(短辺の長さ)に対して10〜110%の長さであることが好ましく、80〜105%であることがより好ましい。
筒状部材の材料としては金属パイプ、紙製パイプ、プラスチックパイプ等が挙げられるがこれに限定されず、公知の材料を用いることができる。
【0046】
表示体を構成する巻回体の2つの軸に引出具を取り付け、引き出したときの応力は0.1〜1.5Nが好ましい。これは人間が手で引き出すのに適した応力である。上記応力(N)に設定するために、巻回体を引き出したときの巻回体の軸方向の単位長さ当たりの応力(引き出し力(N/長さ))は巻回体の軸方向の長さと反比例するように設定する。
【0047】
[引出具]
表示体1は、積層体3によって形成された巻回体2に加えて、さらに引出具7を備える。引出具7は、巻回体2が運動可能なように巻回体2を保持する保持部8と、この保持部8に連結した把持部9とを備えることが好ましい。この把持部9を人手によって把持しながら、保持部8を積層体3の長手方向に引っ張ることで、この引出具7を利用して手動で巻回体2から積層体3を引き出すことが可能になる。
【0048】
図1は、引出具7の一実施形態を示している。図1に示した例において、引出具7は、巻回体2の中心にある中空部に挿し込むことが可能な棒状部材で構成されている。この引出具7として機能する棒状部材は、巻回体2の中空部に挿入された保持部8と、これに連結した把持部9とを少なくとも含んで構成される。棒状部材の保持部8は巻回体2に接着されておらず、少なくとも摺動でき、好ましくは自由に運動できる。これにより引出具7によって手動で引き出し可能になる。
【0049】
棒状部材の保持部8の長さは2mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。一方、保持部8の長さは巻回体2短辺の長さに対して110%以下であることが好ましく、105%以下であることがより好ましい。また、図1に示すように、保持部8を延長する形で把持部9を構成してもよい。
【0050】
図3は、引出具7の別の実施形態を示している。図3(a)に示した実施形態において、引出具7は、保持部8として、巻回体2の中空部に挿し込まれる筒状部材8aと、この筒状部材8aの中心孔に挿し込まれる軸部材8bを有する。筒状部材8aは、長尺の積層体3の一方の端部に接着されている。このため、積層体3は、筒状部材8aの周面に沿って巻回することとなる。また、軸部材8bは、筒状部材8aの中心孔を貫通するように配設されており、筒状部材8aには接着されていない。このため、筒状部材8a及びそれに巻きつけられた巻回体2は、軸部材8bを中心に自由に回転あるいは摺動する。また、軸部材8bには、把持部9として紐状部材が取り付けられている。この紐状部材の両端は、それぞれ軸部材8bの長手方向の両端に連結されている。このため、紐状部材を把持しながら、筒状部材8aに巻きつけられた巻回体2を長手方向に引っ張ることで、そこから積層体3を引き出すことができる。なお、図3(a)では、積層体3の一方の端部側のみ図示しているが、他方の端部側にも同じ構成の引出具7を設けておくことができる。
【0051】
図3(b)に示した実施形態において、引出具7は、保持部8として、2つのキャップ部材8cを有する。各キャップ部材8cは、巻回体2の上下方向(中空部の延在方向と平行な方向)の両端部に被せるように取り付けられている。これらのキャップ部材8cは、巻回体2に接着されておらず、少なくとも摺動でき、好ましくは自由に運動できる。キャップ部材8cの深さ(開口から突き当りまでの長さ)は5〜30mmであることが好ましく、10〜20mmであることがより好ましい。これによりキャップ部材8cが外れたり、巻回体2の軸が傾いて引き出ししにくくなったりすることを抑制できる。また、各キャップ部材8cには、巻回体2から積層体3を引き出す際に、積層体3の通り道となる位置に切り込み8dが形成されている。この切り込み8dを通じて、2つのキャップ部材8cによって挟み込まれた巻回体2から積層体3を引き出すことが可能となっている。また、図3(b)の実施形態においても、把持部9として機能する紐状部材が、2つのキャップ部材8cに跨って取り付けられている。すなわち、紐状部材の一端は、一方のキャップ部材8cに連結され、紐状部材の他端は、他方のキャップ部材8cに連結されている。このため、紐状部材を把持しながら、2つのキャップ部材8cが被せられた巻回体2を長手方向に引っ張ることで、そこから切り込み8dを通じて積層体3を引き出すことができる。なお、図3(b)では、積層体3の一方の端部側のみ図示しているが、他方の端部側にも同じ構成の引出具7を設けておくことができる。
【0052】
その他、引出具7の保持部8の形状は突起でもよく、針金状または棒状の中実軸、パイプ状の中空軸でもよい。また、把持部9の形状は上記例示したものに限定されない。たとえば針金状、棒状、パイプ状、帯状、紐等の形状が挙げられる。
【0053】
また、引出具7の材質は特に限定されない。引出具7の材質として、例えば硬質プラスチック、軟質ププラスチック、金属、木材、紙等が挙げられる。これらの中で非導電材料を用いると金属探知機で感知されず、イベント会場での使用に適する。
【0054】
[表示体]
上記巻回体2及び引出具7を備えた表示体1は、厚みが異なる2以上のフィルムの積層体の少なくとも片面に電子写真方式によってトナーが熱定着した印刷層を有してなる。表示体1は、印刷の内容により応援グッズ、標識、掲示物、目隠し、広告等の用途に使用できる。
【実施例】
【0055】
以下に製造例(実施例及び比較例)を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順、実施形態等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0056】
(1)カール値の測定方法
積層体(その表面に機能層を設けられた態様を含む)を、カールの大きい方向が長手方向になるように積層体をA4サイズ(210×297mm)に断裁し、カール面が上になるように裁断物を水平面上に置き、裁断物の長辺の水平面における投影長さを測定してカール値とした。印刷前の積層体のカール値を印刷前カール値、印刷後の積層体(巻回体に変化している)のカール値を印刷後カール値と称する。第2のフィルムの向きにカールしている場合のカール値を正の値で、第1のフィルムの向きにカールしている場合のカール値を負の値で表示した。なお、表1において、熱ロール方式又は熱ムロ方式を利用した比較例4〜6では、印刷前カール値及び印刷後カール値をそれぞれ加熱前カール値及び加熱後カール値と読み替えるものとする。
【0057】
(2)引き出し力の測定方法
幅210mm×長さ594mmの巻回体を準備し、2つの巻回軸それぞれに太さ2mmの針金を通して針金の両端を紐で連結して輪を作り、それぞれの輪を万能試験機の上下のチャックに取り付け、2つの針金が平行に70mm間隔になるように取り付けた。次に200mm/minの速度で針金を300mmの間隔まで引き出し、応力(N)が安定した時の値を測定した。測定を3回行い、3回の測定値を平均し端数を切り捨てて引き出し力(N/210mm)とした。
【0058】
(3)積層体の製造
以下のようにして非巻回状態の積層体を製造した。
【0059】
積層体Aの製造:
第1のフィルムとして、厚み12μmのBOPET(2軸延伸ポリエチレンテレフタレート)フィルムの片面にアクリル系粘着剤層を備える2層フィルム(日栄化工(株)製、NE−tak 透明X12−SN)を準備し、第2のフィルムとして、横方向1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルム、及び横方向1軸延伸フィルムをこの順に積層した厚み80μmの延伸ポリプロピレンフィルム((株)ユポ・コーポレーション製、ユポFPG80)を準備した。
【0060】
次に、事務用ラミネータ(ヒサゴ(株)製、フジプラLPD3226N)をロール加熱しないように設定し、第1のフィルムと第2のフィルムとを流れ方向が同じ方向になるように重ね、第1のフィルムが下ロールに当たるように事務用ラミネータの第2のフィルムの流れ方向にロールを通して、第1のフィルムと第2のフィルムとを接着することで積層体Aを得た。
【0061】
積層体Bの製造:
積層体Aの製造に倣い、第2のフィルムとして、横方向1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルム、及び横方向1軸延伸フィルムをこの順に積層した厚み110μmの延伸ポリプロピレンフィルム((株)ユポ・コーポレーション製、ユポFPG110)を代わりに使用し、それ以外は積層体Aと同様にして積層体Bを製造した。
【0062】
積層体Cの製造:
積層体Aの製造に倣い、第2のフィルムとして、横方向1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルム、及び横方向1軸延伸フィルムをこの順に積層した厚み60μmの延伸ポリプロピレンフィルム((株)ユポ・コーポレーション製、ユポFPG60)を代わりに使用し、それ以外は積層体Aと同様にして積層体Cを製造した。
【0063】
積層体Dの製造:
積層体Cの製造に倣い、第1のフィルムとして、厚み38μmのBOPETフィルムの片面にアクリル系粘着剤層を備える2層フィルム(マルウ接着(株)製、PET♯38 溶剤強粘 PGS)を代わりに使用し、それ以外は積層体Cと同様にして積層体Dを製造した。
【0064】
積層体Eの製造:
積層体Cの製造に倣い、第1のフィルムとして、厚み50μmのBOPETフィルムの片面にアクリル系粘着剤層を備える2層フィルム(日栄化工(株)製、NE−tak 透明X50−SN)を代わりに使用し、それ以外は積層体Cと同様にして積層体Eを製造した。
【0065】
積層体Fの製造:
積層体Aの製造に倣い、第1のフィルムとして、厚み16μmのBOPET(日栄化工(株)製、NE−tak 透明16−SN)を代わりに使用するとともに、第2のフィルムとして厚み25μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製、太閤FOA #25)を代わりに使用し、それ以外は積層体Aと同様にして積層体Fを製造した。
【0066】
積層体Gの製造:
積層体Bの製造に倣い、第1のフィルムの流れ方向と第2のフィルムの流れ方向とが直交するように積層したこと以外は積層体Bと同様にして、積層体Gを製造した。
【0067】
積層体Hの製造:
積層体Eの製造に倣い、第2のフィルムとして、横方向1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルム、及び横方向1軸延伸フィルムをこの順に積層した厚み130μmの延伸ポリプロピレンフィルム((株)ユポ・コーポレーション製、ユポFPG130)を代わりに使用し、それ以外は積層体Eと同様にして積層体Hを製造した。
【0068】
積層体Iの製造:
積層体Aの製造に倣い、第1のフィルムとして、厚み100μmのBOPETフィルム(日栄化工(株)製、NE−tak 透明100−SN)を代わり使用し、それ以外は積層体Aと同様にして積層体Iを製造した。
【0069】
積層体Jの製造:
積層体Dの製造に倣い、第2のフィルムとして、厚み50μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製、太閤FOS #50)を代わりに使用し、それ以外は積層体Dと同様にして積層体Jを製造した。
【0070】
非巻回状態の積層体の構成および印刷前カール値を表1に示す。
【表1】
【0071】
(3)巻回体の製造:電子写真方式による印刷
電子写真方式のカラー複合機(富士ゼロックス(株)製、DocuCentre−VII C4473)を用い、原稿サイズを長尺紙(210×900mm)、用紙トレイ選択を手差しにした。ここで、印字モードを変更することで定着装置から積層体が受ける熱量を制御した。
【0072】
実施例1〜13、比較例1〜3
積層体A〜Jのそれぞれを第1のフィルムの流れ方向が長辺になるように幅210mm×長さ594mmに断裁し、この用紙の短辺にA4サイズの普通紙の短辺をセロハンテープで接合して印刷用紙とした。次に、上記電子写真方式のカラー複合機の手差しトレイに印刷用紙を普通紙側から給紙されるように第2のフィルムをおもて(上)に向けてセットし、印刷用紙の第2のフィルム面片面にカラー画像を印刷した。これにより、積層体(印刷用紙)の片面に電子写真方式によってトナーを熱定着させた印刷層を形成した。
【0073】
印刷用紙の給紙側に普通紙を接着したことによって、機械の内部に巻き込まれることなく印刷用紙が排出された。排出後ただちに印刷用紙から普通紙を切り取り、10分放置してカールが安定したものを巻回体とした。
【0074】
比較例4
積層体Aを第1のフィルムの流れ方向が長辺になるように幅210mm×長さ594mmに断裁し、この用紙の短辺にA4サイズの普通紙の短辺をテープで接合して印刷用紙とした。次に、第2のフィルムをおもて(上)に向けてセットし、表面温度を210℃に設定した直径30mmの加熱ロールの間を6m/minの速度(加熱ロールとの接触時間:約10m秒)で通過させ、通過後ただちに印刷用紙から普通紙を切り取り、10分放置してカールが安定したものを巻回体とした。
【0075】
比較例5、6
積層体Aを第1のフィルムの流れ方向が長辺になるように幅210mm×長さ594mmに断裁して印刷用紙とした。次に、この印刷用紙を温度80℃に設定した熱ムロ中で1日間温調後、23℃の条件で2時間放置してカールが安定したものを比較例5の巻回体とした。同時に別の印刷用紙を内径15mmであって第2のフィルムが内側になるように丸棒に巻回し、テープで固定してほどけないようにしたものを温度80℃に設定した熱ムロ中で1日間温調後、23℃の条件で2時間放置後にテープを外し、カールが安定したものを比較例6の巻回体とした。
【0076】
電子写真方式(実施例1〜13、比較例1〜3)、ロール加熱方式(比較例4)および熱ムロ方式(比較例5、6)による印字条件および印刷後カール値を上記表1に示す。なお、「判定カール」は、左右のカールが印刷用紙の中央で接するようにしたとき、左右とも4回以上巻回しているものを「◎」とし、それ以外で左右とも3回以上巻回しているものを「○」とし、それ以外で少なくとも片方が2回以上巻回しているものを「△」とし、それ以外を「×」と評価した。
【0077】
第1のフィルムとして同じもの(厚み12μmのBOPETフィルム)を使用した実施例1〜3の対比から、第2のフィルム(延伸PP)の厚さには最適値があることがわかる。具体的には、第2のフィルムは、厚み80μmの時に印刷後カール値および引き出し力が最大になり、これより厚みが増加した場合、印刷後カール値および引き出し力が低下した。これは電子写真方式の定着装置から受ける熱量が少なく、厚い延伸PPを熱収縮させるにはやや不足するためだと推測される。そのことから、電子写真方式を使用する場合、第2のフィルム(延伸PP)の厚さには上限があるといえる。一方、第2のフィルムの厚みが80μmより減少した場合、印刷後カール値および引き出し力が低下した。これは延伸PPを熱収縮させるには十分な熱量を受け取っているものの、第1のフィルムの剛度に打ち勝ってカールさせるほどの力が得られなかったためだと推測される。そのことから、電子写真方式を使用する場合、第2のフィルム(延伸PP)の厚さには下限があるといえる。
【0078】
実施例6から、第2のフィルムは25μmまで薄くしても、第1のフィルムの厚みとの差が1.5倍以上であれば適切なカール値及び引き出し力を持つ巻回体が得られることがわかる。
【0079】
実施例3〜5の対比から、第2のフィルムに対して第1のフィルム(PET)の厚さが厚いと印刷後カール値が大きくなり、引き出し力が低下した。第1のフィルムが厚い場合、第2のフィルムの熱収縮に対して第1のフィルムの曲げ剛性が勝りカールしにくくなるためだと推測される。そのことから、電子写真方式を使用する場合、第2のフィルム(延伸PP)の厚みは、第1のフィルム(PET)の厚みに対する比率には下限があるといえる。
【0080】
実施例1、7および8と、実施例2、9および10はそれぞれ積層体が同じもので印字モードが異なるものである。印字モード(積層体の加熱条件)を変更することによって印刷後カール値および引き出し力を制御できることがわかる。
【0081】
実施例1、11および12は、積層体Aに印刷する面の順番を変えてみたものである。実施例1は第2のフィルム(延伸PP)側に印刷するとカールし巻回体となるので片面印刷に適していることを示す。実施例11および12は、両面印刷する場合、実施例11のようにまず第1のフィルム(PET)側に印刷してカールを抑えておき、次に実施例12のように第2のフィルム(延伸PP)側に印刷するとカールが強くなり目的の巻回体が得られることを示している。
【0082】
実施例13は、電子写真方式印刷機の送り方向に対して第1のフィルム(PET)の流れ方向を平行とし、第2のフィルム(延伸PP)の流れ方向を直交させるという構成の積層体としたものである。第2のフィルムの120℃における熱収縮率は、流れ方向に小さく幅方向に大きい。それにもかかわらず実施例1と実施例12のカールの向きは第2のフィルムの流れ方向とは関係なく起きる。すなわち、巻回体のカールは電子写真方式印刷機の送り方向に起きることが示された。
【0083】
比較例1は、第1のフィルム(PET)に対して第2のフィルム(延伸PP)が厚すぎるため、電子写真方式印刷機の定着装置から受ける熱量では熱収縮が不十分で、カール値が大きく引き出し力が小さくなり、目的とする巻回体が得られなかったことを示している。
【0084】
比較例2は、第2のフィルム(延伸PP)の厚みが、第1のフィルム(PET)の厚みに対して1.2倍未満であると、第2のフィルム(延伸PP)の厚みが熱収縮に十分であっても、カール値が大きく引き出し力が小さくなり、目的とする巻回体が得られなかったことを示している。
【0085】
比較例3は、第2のフィルムとして無延伸PPを使用したところ、第2のフィルムが熱収縮しないため、巻回体が得られなかったことを示している。
【0086】
比較例4は、電子写真方式の定着装置に代えて熱ロールを用いて加熱したものであるが、巻回体が得られなかったことを示している。熱ロール方式では第2のフィルムが受ける熱量が少なく、熱収縮が十分に進まなかったことを示している。
【0087】
比較例5は、電子写真方式の定着装置に代えて熱ムロを用いて加熱したものであるが、加熱に長時間を要した上、カールの向きが第1のフィルムの方向であり、しかも巻回体が得られなかったことを示している。
【0088】
比較例6は、第1のフィルムの収縮率が第2のフィルムの収縮率より大きい領域において、あらかじめ強制的に巻回した積層体を熱ムロ方式で熱セットしても巻き戻りしてカール値が小さい巻回体を得ようとするのは困難であることを示している。
【0089】
外径10mm、肉厚2mmの硬質ABS製丸パイプ((株)光モール製、商品名:ホワイト丸パイプ10)を長さ330mmに切断したものを2本準備し、実施例1で得られた巻回体のそれぞれの軸に1本のパイプを挿入することによって表示体を得た。この表示体は片方のパイプを右手に持ち、残りのパイプを左手に持つことによって引き出し可能であった。
【0090】
外径10mm、肉厚2mmの硬質ABS製丸パイプ((株)光モール製、商品名:ホワイト丸パイプ10)を長さ220mmに切断したものを2本準備し、実施例1で得られた巻回体のそれぞれの軸に1本のパイプを挿入貫通し、それぞれのパイプの両端どうしを350mmのPP紐で結んで輪を作ることによって表示体を得た。この表示体は片方の紐を右手に持ち、残りの紐を左手に持つことによって引き出し可能であった。
【符号の説明】
【0091】
1…表示体 2…巻回体
3…積層体 4…第1のフィルム
5…接着剤層 6…第2のフィルム
7…引出具 8…保持部
8a…筒状部材 8b…軸部材
8c…キャップ部材 8d…切り込み
9…把持部
図1
図2
図3