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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-98157(P2021-98157A)
(43)【公開日】2021年7月1日
(54)【発明の名称】エアフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20210604BHJP
   B01D 39/18 20060101ALI20210604BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20210604BHJP
   B01D 39/14 20060101ALI20210604BHJP
   D04H 13/00 20060101ALI20210604BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20210604BHJP
【FI】
   B01D39/16 A
   B01D39/18
   B01D39/20 A
   B01D39/20 B
   B01D39/20 C
   B01D39/14 A
   B01D39/20 Z
   D04H13/00
   D06M13/513
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-230133(P2019-230133)
(22)【出願日】2019年12月20日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4D019
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA02
4D019BA03
4D019BA04
4D019BA06
4D019BA12
4D019BA13
4D019BA16
4D019BB03
4D019BB05
4D019BB10
4D019BC20
4D019BD01
4D019CB06
4L033AA02
4L033AA05
4L033AA07
4L033AA08
4L033AA09
4L033AA10
4L033AB07
4L033AC04
4L033BA96
4L047AA02
4L047AA03
4L047AA04
4L047AA08
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA23
4L047AB06
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA10
4L047CA19
4L047CB08
4L047CC12
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制しかつ捕集したオイルミストと粉塵を容易に落とすことができるエアフィルタを提供する。
【解決手段】オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタである。不織布の目付が200g/m2〜400g/m2の範囲にあり、不織布の繊維表面に撥油性膜が形成される。この撥油性膜は、式(1)で示されるフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有する。フッ素含有官能基成分は、シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒である。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、
前記不織布の目付が200g/m2〜400g/m2の範囲にあり、
前記不織布の繊維表面に撥油性膜が形成され、
前記撥油性膜は、フッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有し、
前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、
前記エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒であって、
前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とするエアフィルタ。
【化1】
(1)
【化2】
(2)
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Yは、シリカゾル加水分解物の主成分である。
【請求項2】
前記シリカゾル加水分解物は、更に炭素数2〜7のアルキレン基成分を0.5質量%〜20質量%含む請求項1記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される請求項1又は2記載のエアフィルタ。
【請求項4】
前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である請求項1ないし3いずれか1項に記載のエアフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にするエアフィルタに関する。更に詳しくは、撥油性を有する撥油性膜が不織布の繊維表面に形成されたエアフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製品を切削油を用いて加工する切削機や旋削機等の工作機械からは機械の高速稼働により切削油が飛散して、オイルミストが発生し、同時に粉塵も発生する。これらのオイルミスト及び粉塵は作業環境を悪化させ、その作業効率を低下させる。このため、従来より、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にするエアフィルタとして、空気中に浮遊する粉塵だけでなく、オイルミストによる目詰まりを抑制できるエアフィルタ濾材が提案されている(例えば、特許文献1(請求項1、段落[0006]、段落[0021]、段落[0045]、段落[0053]〜段落[0060])。
【0003】
このエアフィルタ濾材は、第1のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔質膜と、第2のPTFE多孔質膜を含み、気流が、エアフィルタ濾材の第1主面から第1のPTFE多孔質膜、第2のPTFE多孔質膜の順にエアフィルタ濾材の第2主面へと、通過するようになっている。第1のPTFE多孔質膜の厚さは4〜40μmの範囲にあり、第1のPTFE多孔質膜の比表面積は0.5m2/g以下にあり、第2のPTFE多孔質膜の比表面積は、第1のPTFE多孔質膜のそれより大きい1.5〜10m2/g以下の範囲にある。
【0004】
第1及び第2のPTFE多孔質膜は、それぞれPTFE微粉末と液状潤滑剤を加えた混合物をシート状成形体に成形する。第1のPTFE多孔質膜は、シート状成形体をPTFEの融点(327℃)以上の温度と50倍以上の倍率で、長手(MD)方向に加熱しつつ延伸し、次いで横(TD)方向に130〜400℃の温度で、延伸前の長さに対して5〜8倍になるように、加熱しつつ延伸することにより、製造される。第2のPTFE多孔質膜は、PTFEのシート状成形体をPTFEの融点未満の温度(270〜290℃)で、かつ15〜40倍の倍率でMD方向に加熱しつつ延伸し、次いでTD方向に更に120〜130℃の温度で、延伸前の長さに対して15〜40倍になるように、とMD方向延伸時と同じ倍率で加熱しつつ延伸することにより、製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018−51546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたエアフィルタ濾材では、第1のPTFE多孔質膜を、第2のPTFE多孔質膜と比較して、延伸温度を高くし、延伸倍率を大きくして、製造することにより、第1のPTFE多孔質膜の比表面積を0.5m2/g以下と小さくし、これにより、大きい粒径の粉塵及びオイルミストを捕集する。一方、第2のPTFE多孔質膜の比表面積を1.5〜10m2/gと大きくし、これにより、小さい粒径の粉塵及びオイルミストを捕集している。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるエアフィルタ濾材では、第1及び第2のPTFE多孔質膜により、粒径の異なる粉塵とオイルミストを捕集するとしても、PTFE多孔質膜は、静電気が発生し易く、かつ発生した静電気の除去が困難であるため、フィルタ形状に加工することが容易でなかった。また撥油性よりも撥水性が高いため、大気中に含まれる水分がPTFE多孔質膜を塞ぐことがあり、そこに粉塵が付着し易かった。そのため、エアフィルタ濾材を使用し続けると、オイルミストがエアフィルタ濾材の内部に残留し続け、エアフィルタ濾材が目詰まりし易い課題があった。
【0008】
本発明の目的は、オイルミストと粉塵を含む空気を清浄にし、目詰まりを抑制し、かつ捕集したオイルミストと粉塵を容易に落とすことができるエアフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、前記不織布の目付が200g/m2〜400g/m2の範囲にあり、前記不織布の繊維表面に撥油性膜が形成され、前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、前記エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒であって、 前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とするエアフィルタである。
【0010】
【化1】
(1)
【0011】
【化2】
(2)
【0012】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Yは、シリカゾル加水分解物の主成分である。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記シリカゾル加水分解物は、更に炭素数2〜7のアルキレン基成分を0.5質量%〜20質量%含むエアフィルタである。
【0014】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成されるエアフィルタである。
【0015】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点のうちいずれかの観点に基づく発明であって、前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維であるエアフィルタである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点のエアフィルタでは、不織布の目付が200g/m2〜400g/m2の範囲にあり、この不織布の繊維表面に撥油性膜が形成され、撥油性膜が、前述した一般式(1)又は式(2)で示される撥油性の機能を有するフッ素含有官能基成分を含み、また同時にエアフィルタの通気度を1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒に規定して不織布の気孔を限定している。このため、エアフィルタ内にオイルミストと粉塵を含む空気がエアフィルタの一面から流入すると、オイルミストと粉塵が不織布で捕集され、空気だけが不織布の気孔を通過しエアフィルタの他面から流出して、空気が清浄になる。
【0017】
このとき、撥油性膜の撥油性機能のため、オイルミストが不織布の繊維表面の撥油性膜に吸着せずに弾かれて付着するに止まる。エアフィルタを使用し続けてオイルミストの不織布内部における捕集量が増えると、エアフィルタが水平に配置される場合には、オイルミストは液状化して通過する空気に随伴されてエアフィルタの他面に集まり、エアフィルタが鉛直に配置される場合には、捕集されたオイルミストが自重によりエアフィルタの下端に集まり、不織布の気孔を閉塞しない。これにより、オイルミストによる気孔の目詰まりは抑制される。
【0018】
一方、粉塵は不織布の繊維表面の撥油性膜に直接付着するか、或いは撥油性膜に付着したオイルミストに付着する。このため、エアフィルタを長期間使用して粉塵等で目詰まりしたときに、エアノッカー等でエアフィルタに衝撃を与えると、オイルミストと一緒に付着した粉塵を容易に落とすことができ、エアフィルタを再生することができる。
【0019】
本発明の第2の観点のエアフィルタでは、撥油性膜に含まれるフッ素含有官能基成分が、更に炭素数2〜7のアルキレン基成分を0.5質量%〜20質量%含むため、撥油性膜が不織布の繊維に良好に密着し、かつ撥油性膜の厚さが均一になり、撥油性膜により一層優れた撥油性能を付与することができる。
【0020】
本発明の第3の観点のエアフィルタでは、不織布が単一層により構成される場合には、簡単な構成のエアフィルタになり、不織布が複数層の積層体により構成される場合には、流入する粉塵の粒径、オイルミストの油粒子のサイズ等の性状に応じて各層を構成することができる。
【0021】
本発明の第4の観点のエアフィルタでは、不織布を構成する繊維の材質を、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属から、流入する粉塵の粒径、オイルミストの油粒子のサイズ等の性状に応じて、或いは後述する撥油性膜を形成するための液組成物中のエポキシ基含有シランが加水分解してなる炭素数2〜7のアルキレン基成分の含有量に応じて、選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態の単一層の不織布の側面図である。
図2】本実施形態の二層の不織布の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0024】
〔エアフィルタ〕
図1に示すように、本実施形態のエアフィルタ10は、不織布20とこの不織布の繊維表面に形成された撥油性膜21とを備える。このエアフィルタ10の主たる構成要素である不織布20は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面20aと、この一面20aに対向し前記空気が流出する他面20bを有し、単一層からなる。図2に示すように、上層の不織布30と下層の不織布40の二層の積層体により構成されるエアフィルタ50でもよい。この場合、上層の不織布30の上面がオイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面30aとなり、下層の不織布40の下面がこの一面30aに対向する他面40bとなる。なお、積層体は二層に限らず、三層、四層等の複数層から構成することもできる。
【0025】
図1の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には撥油性膜21が形成される。不織布の目付は、200g/m2〜400g/m2の範囲にある。撥油性膜21は、前述した一般式(1)又は式(2)で示される撥油性を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物により形成される。フッ素含有官能基成分は、シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれる。繊維表面に撥油性膜21が形成されたエアフィルタ10の状態で、不織布20は1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度はJIS−L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【0026】
不織布の目付が200g/m2未満であると、繊維間の気孔が大き過ぎることから、粉塵を捕集する能力が不足する。400g/m2を超えると、通気度が1ml/cm2/秒未満となり、粉塵が直ぐに繊維間の気孔に詰まってしまうか、或いは通気度が低過ぎるため、エアフィルタに送り込む空気の抵抗によりエアフィルターで圧力損失が生じ、送風エネルギーの効率が悪い。
撥油性膜を形成するシリカゾルゲル中のフッ素含有官能基成分が0.01質量%未満では、撥油性の効果に乏しく、オイルミストを弾く性能が不十分になる。即ち、オイルミストがエアフィルタに到達したときに、オイルミストが繊維表面上に濡れ広がり、気孔20dを塞ぎ易くなる。
フッ素含有官能基成分が10質量%を超えると、撥油性膜の不織布への密着性が悪くなる。不織布の目付は、220g/m2〜350g/m2の範囲にあることが好ましい。またフッ素含有官能基成分はシリカゾル加水分解物中、0.1質量%〜5質量%の範囲で含まれることが好ましい。
通気度が1ml/cm2/秒未満では、通気性に劣り、オイルミストと粉塵を含む空気が通過しにくくなる。30ml/cm2/秒を超えると、不織布の気孔20dの大きさが流入する空気中のオイルミストの油粒子22及び粉塵の粒子23の各粒径よりも遙かに大きくなり、油粒子22及び粉塵の粒子23が空気とともに不織布の気孔を通してエアフィルタ10から通過し、オイルミストと粉塵を捕集することができない。通気度は1.5ml/cm2/秒〜25ml/cm2/秒であることが好ましい。
【0027】
このようなエアフィルタ10の作用について説明する。図1に示すように、オイルミストと粉塵を含む空気が、エアフィルタ10を構成する不織布20の一面20aに到来する。ここでエアフィルタ10は所定の通気度を有するため、また撥油性膜21が撥油性を示すため、オイルミストの油粒子22は気孔20dの孔径より粒径が大きい場合は勿論のこと、気孔20dの孔径より粒径が僅かに小さくても、エアフィルタ13を通過できず、不織布20の繊維20cと繊維20cの間に、撥油性膜21によって弾かれながら、撥油性膜21に付着して止まる。同時に粉塵の粒子23も撥油性膜21に付着して止まる。これによりオイルミストと粉塵が不織布20に捕集され、空気だけが、図1の拡大図に示す繊維20cと繊維20cの間に形成された気孔20dを通過して他面20bに至り、不織布20を通過する。
【0028】
エアフィルタを使用し続けてオイルミストの不織布内部における捕集量が増えると、エアフィルタが水平に配置される場合には、オイルミストは液状化して通過する空気に随伴されてエアフィルタの他面に集まり、エアフィルタが鉛直に配置される場合には、捕集されたオイルミストが自重によりエアフィルタの下端に集まり、不織布の気孔を閉塞しない。これにより、オイルミストによる気孔の目詰まりは抑制される。粉塵は不織布の繊維表面の撥油性膜に直接付着するか、或いは撥油性膜に付着したオイルミストに付着する。不織布20に溜まったオイルミストと粉塵は、定期的にエアノッカー等でエアフィルタ10に衝撃を与えることにより、エアフィルタ10から除去することができる。
【0029】
〔エアフィルタの製造方法〕
〔不織布の準備〕
先ず、1.1ml/cm2/秒〜40ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。具体的には、後述する撥油性膜が不織布の繊維表面に形成されたエアフィルタになった状態で、1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。撥油性膜が多目に厚膜で形成される場合には、通気度の大きい不織布が選定され、撥油性膜が少な目に薄膜で形成される場合には、通気度の小さい不織布が選定される。
【0030】
この不織布としては、例えば、セルロース混合エステル性のメンブレンフィルター、ガラス繊維ろ紙、ポリエチレンテレフタレート繊維とガラス繊維を混用した不織布(安積濾紙社製、商品名:340)がある。このように不織布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維から作られる。繊維は、2以上の繊維を混合した繊維でもよい。繊維の太さ(繊維径)は、上記通気度が得られるように、0.01μm〜10μmの太さが好適である。不織布の厚さは、エアフィルタが単一層である場合には、0.2mm〜0.8mm、複数層の積層体である場合には、積層体の厚さが0.2mm〜1.6mmになる厚さが好ましい。本発明の撥油性膜形成材料の主成分がシリカゾル加水分解物であるため、繊維との密着性を得るために、水酸基をもつ材料が好ましい。その中でも、ガラス、アルミナ、セルロースナノ繊維等は、繊維径も細いものがあり、通気度を上記範囲内の低い値にすることができる。
【0031】
前述したように不織布が図2に示すように複数の不織布30、40を積層した積層体である場合、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する側の不織布30を構成する繊維をガラス繊維にすることにより、シリカゾル加水分解物を主成分として含む撥油性膜が、より一層強固にガラス繊維に密着し、不織布の繊維から剥離しにくくなる。
【0032】
〔不織布の繊維表面への撥油性膜の形成方法〕
本実施の形態の不織布の繊維表面に撥油性膜を形成するには、後述する撥油性膜形成用液組成物を、後述する沸点が120℃未満の炭素数1〜4の範囲にあるアルコールで、液組成物に対する質量比(液組成物:アルコール)が1:1〜50の割合になるように希釈した液を調製し、この希釈液に不織布をディッピングして希釈液から引上げ、大気中、室温で不織布を水平な金網等の上に拡げて一定の液分量になるまで脱液する。別法として、引き上げた不織布をマングルロール(絞り機)に通して脱液する。脱液した不織布は、大気中、25℃〜140℃の温度で0.5時間〜24時間乾燥する。これにより、図1の拡大図に示すように、不織布20を構成している繊維20cの表面に撥油性膜21が形成される。脱液量が少ない場合には、厚膜に不織布の繊維表面に形成され、脱液量が多い場合には、薄膜に不織布の繊維表面に形成される。
【0033】
〔撥油性膜形成用液組成物の製造方法〕
撥油性膜を形成するための液組成物は次の方法により製造される。
〔混合液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランと、フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シラン、沸点が120℃未満の炭素数1〜4の範囲にあるアルコールと、水とを混合して混合液を調製する。このケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、耐久性の高い撥油性膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0034】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%〜40質量%、好ましくは2.5質量%〜20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない不織布の繊維に膜を形成した場合に、繊維への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1〜40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、不織布の繊維がガラス繊維等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、不織布の繊維が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾル加水分解物(D)中、0.5質量%〜20質量%含むことが好ましい。
【0035】
炭素数1〜4の範囲にあるアルコールは、この範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられる。このアルコールとしては、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n−プロパノール(沸点97−98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシド及びエポキシ基含有シランに炭素数1〜4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10〜30℃の温度で5〜20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0036】
〔加水分解物(シリカゾル加水分解物)の調製〕
上記調製された混合液と有機酸、無機酸又はチタン化合物からなる触媒とを混合する。このとき液温を好ましくは30℃〜80℃の温度に保持して好ましくは1時間〜24時間撹拌する。これにより、ケイ素アルコキシドとアルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの加水分解物(以下、シリカゾル加水分解物ということもある。)が調製される。加水分解物は、ケイ素アルコキシドを2質量%〜50質量%、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで、フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを0.005質量%〜3質量%、炭素数1〜4の範囲にあるアルコールを20質量%〜98質量%、水を0.1質量%〜40質量%、有機酸、無機酸又はチタン化合物を触媒として0.01質量%〜5質量%の割合で混合してケイ素アルコキシド、エポキシ基含有シラン及びフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの加水分解反応を進行させることで得られる。フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランが下限値の0.005質量%未満では、形成した膜に撥油性が生じにくく、上限値の3質量%を超えると、不織布の繊維表面に密着しにくい。
【0037】
炭素数1〜4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、撥油性膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0038】
加水分解物中のSiO2濃度(SiO2分)は1〜40質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こり易く、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0039】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸による不織布の繊維の腐食等の不具合を生じる。
【0040】
フッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランは、下記一般式(3)及び式(4)で示される。上記式(3)及び式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)〜(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0041】
【化3】
(3)
【0042】
【化4】
(4)
【0043】
【化5】
(5)
【0044】
【化6】
(6)
【0045】
【化7】
(7)
【0046】
【化8】
(8)
【0047】
【化9】
(9)
【0048】
【化10】
(10)
【0049】
【化11】
(11)
【0050】
【化12】
(12)
【0051】
【化13】
(13)
【0052】
また、上記式(2)及び式(3)中のXとしては、下記式(14)〜(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0053】
【化14】
(14)
【0054】
【化15】
(15)
【0055】
【化16】
(16)
【0056】
【化17】
(17)
【0057】
【化18】
(18)
【0058】
ここで、上記式(14)〜(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0059】
また、上記式(3)及び式(4)中、Rは、加水分解基のメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0060】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi−O−Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0061】
ここで、上記式(3)及び式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの具体例としては、例えば、下記式(19)〜(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)〜(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0062】
【化19】
(19)
【0063】
【化20】
(20)
【0064】
【化21】
(21)
【0065】
【化22】
(22)
【0066】
【化23】
(23)
【0067】
【化24】
(24)
【0068】
【化25】
(25)
【0069】
【化26】
(26)
【0070】
【化27】
(27)
【0071】
上述したように、本実施の形態の撥油性膜形成用液組成物に含まれるフッ素含有官能基成分は、分子内にペルフルオロエーテル基とアルコキシシリル基とをそれぞれ1以上有する構造となっていて、酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0072】
〔撥油性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の撥油性膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と、溶媒とを含む。このフッ素含有官能基成分は、上記の一般式(1)及び式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、シリカゾル加水分解物中、0.01質量%〜10質量%含まれる。
【0073】
上記溶媒は、水と炭素数1〜4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは水と炭素数1〜4のアルコールと上記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒である。ペルフルオロエーテル構造の具体例としては、上述した式(5)〜(27)で示される構造を挙げることができる。
【0074】
本実施の形態の撥油性膜形成用液組成物がシリカゾル加水分解物を主成分として含むため、撥油性膜の不織布の繊維への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の撥油性膜が得られる。またシリカゾル加水分解物が上記一般式(1)又は(2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を含むため、撥油性の効果がある。フッ素含有官能基成分の含有割合が0.01質量%未満では形成した膜に撥油性を付与できず、10質量%を超えると膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素含有官能基成分の含有割合は0.1質量%〜5質量%である。
【実施例】
【0075】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0076】
<実施例1>
ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3量体〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)8.52gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM−403)0.48gと、フッ素含有官能基成分として式(19)で表わされるフッ素含有シラン(R:エチル基)0.24gと、有機溶媒としてエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)17.34gとを混合し、更にイオン交換水3.37gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.05gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、シリカゾル加水分解物からなる撥油性膜形成用液組成物を調製した。この調製内容を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
得られた撥油性膜形成用液組成物のシリカゾル加水分解物には、フッ素含有官能基成分が4.5質量%と、炭素数7のアルキレン基成分が7.8質量%含まれていた。次に撥油性膜形成用液組成物1.0gに、工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP−7)7.0gを添加混合して、液組成物の希釈液を調製した。この希釈液に、エアフィルタの基材として、5ml/cm2/秒の通気度を有する単一層の目付が265g/m2である不織布を30秒間ディッピングした。エアフィルタの基材は、PET繊維からなる不織布であった。希釈液から不織布を引上げ、水平の金網の上に拡げ、室温で30分間放置して、脱液した。その後120℃に維持された乾燥機に単一層の不織布を30分間入れて乾燥し、エアフィルタを得た。このエアフィルタの通気度は3.0ml/cm2/秒であった。以上の結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
<実施例2〜5、比較例2〜4>
実施例2〜5及び比較例2〜4について、表2に示すように、エアフィルタの基材の種類及びフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランの種類を選定し、実施例1に示されるTMOSの添加量、GPTMSの添加量及びフッ素含有シランの添加量をそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2〜5、比較例2〜4の撥油性膜形成用液組成物を得た。これらの液組成物に実施例1と同一の工業アルコールを添加し、実施例1と同様にして、エアフィルタ基材のディッピング用の希釈液を調製した。これらの希釈液に表2に示すエアフィルタ基材を実施例1と同様にディッピングし、乾燥して、表2に示す特性を有するエアフィルタを得た。なお、表2において、フッ素含有官能基成分として式(19)〜式(23)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0081】
なお、実施例3に用いた不織布は、実施例1の不織布と異なり、ガラス繊維の不織布とPET繊維の不織布の二層からなり、この不織布から得られたエアフィルタの通気度は、1.2ml/cm2/秒であった。また実施例5及び比較例4で用いた不織布は、実施例1の不織布と異なり、PET繊維とガラス繊維の混合繊維(質量比でPET:ガラス=80:20)からなり、これらの不織布から得られたエアフィルタのそれぞれの通気度は、28.0ml/cm2/秒及び0.5ml/cm2/秒であった。更に実施例6及び比較例5に用いたエアフィルタ基材は、実施例1の不織布と異なり、それぞれPTFE繊維からなる単一層の不織布であり、これらの不織布から得られたエアフィルタのそれぞれの通気度は、3.0ml/cm2/秒及び5.0ml/cm2/秒であった。
【0082】
<比較例1>
比較例1では、実施例1と同一の不織布を用いたが、シリカゾル加水分解物中にフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを含まなかった。
【0083】
<比較例5>
比較例5では、エアフィルタの基材として、市販されている目開き1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルターを未処理のまま用いて、これをエアフィルタとした。実施例1のような撥油性膜形成用液組成物の希釈液にはディッピングしなかった。
【0084】
<比較試験及び評価>
金属製品を切削油を用いて加工する工作機械から飛散するオイルミストと粉塵に模して、ヘキサデカンと酸化鉄(III)(富士フイルム和光純薬社製)を質量比で80:20の割合で自転公転撹拌機に投入して撹拌混合し、模擬液を得た。得られた模擬液1mlを、実施例1〜6及び比較例1〜5で得られた11種類の水平に置いたエアフィルタに上方から滴下した後、エアフィルタを鉛直に立てて、模擬液の転落性を確認した。模擬液がエアフィルタに染みこんだものは、エアフィルタの撥油性が『不良』であるとし、模擬液がエアフィルタから転落するものをエアフィルタの撥油性が『良好』であるとした。
【0085】
表3から明らかなように、比較例1では、シリカゾル加水分解物中にフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを含まなかったため、模擬液はエアフィルタに染みこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。
【0086】
比較例2では、シリカゾル加水分解物中のフッ素含有官能基成分の含有量が11.6質量%と多過ぎたこと、不織布の目付が150g/m2と低過ぎたため、エアフィルタの通気度が60.0ml/cm2/秒と高過ぎ、模擬液はエアフィルタに染みこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。
【0087】
比較例3では、エアフィルタの通気度が35ml/cm2/秒と高過ぎ、模擬液はエアフィルタに染みこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。
【0088】
比較例4では、模擬液のエアフィルタからの転落はあったが、不織布の目付が450g/m2と高過ぎたため、エアフィルタの通気度が0.5ml/cm2/秒と低過ぎ、エアフィルタとしての性能は不十分であった。
【0089】
比較例5では、エアフィルタとして、PTFE製のメンブレンフィルタを用いたが、模擬液はエアフィルタに染みこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。
【0090】
それに対して、実施例1〜6のエアフィルタでは、不織布の目付が210g/m2〜380g/m2の範囲にあり、撥油性の機能を有する撥油性膜にフッ素含有官能基成分がシリカゾル加水分解物中、0.02質量%〜9.8質量%の割合で含まれ、エアフィルタの通気度が1.2ml/cm2/秒〜28.0ml/cm2/秒であって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、模擬液がエアフィルタから転落し、その撥油性はすべて『良好』であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のエアフィルタは、金属製品を切削油を用いて加工する切削機や旋削機等の工作機械のある作業環境で用いられる。
【符号の説明】
【0092】
10 エアフィルタ
20 不織布
20a 不織布の一面
20b 不織布の他面
20c 不織布の繊維
20d 不織布の気孔
21 撥油性膜
22 オイルミストの油粒子
23 粉塵の粒子
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2020年12月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、
前記不織布の目付が200g/m2〜400g/m2の範囲にあり、
前記不織布の繊維表面に撥油性膜が形成され、
前記撥油性膜は、フッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物を有し、
前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、
前記エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒であって、
前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とするエアフィルタ。
【化1】
【化2】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Yは、シリカゾル加水分解物の主成分である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明の第1の観点は、オイルミストと粉塵を含む空気が流入する一面と、この一面に対向し前記空気が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含むエアフィルタであって、前記不織布の目付が200g/m2〜400g/m2の範囲にあり、前記不織布の繊維表面に撥油性膜が形成され、前記フッ素含有官能基成分は、前記シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれ、前記エアフィルタの通気度が1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒であって、 前記フッ素含有官能基成分は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含むことを特徴とするエアフィルタである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
図1の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には撥油性膜21が形成される。不織布の目付は、200g/m2〜400g/m2の範囲にある。撥油性膜21は、前述した一般式(1)又は式(2)で示される撥油性を有するフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物により形成される。フッ素含有官能基成分は、シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%の割合で含まれる。繊維表面に撥油性膜21が形成されたエアフィルタ10の状態で、不織布20は1ml/cm2/秒〜30ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度はJIS−L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
不織布の目付が200g/m2未満であると、繊維間の気孔が大き過ぎることから、粉塵を捕集する能力が不足する。400g/m2を超えると、通気度が1ml/cm2/秒未満となり、粉塵が直ぐに繊維間の気孔に詰まってしまうか、或いは通気度が低過ぎるため、エアフィルタに送り込む空気の抵抗によりエアフィルタで圧力損失が生じ、送風エネルギーの効率が悪い。
撥油性膜を形成するシリカゾルゲルを100質量%とするときのフッ素含有官能基成分が0.01質量%未満では、撥油性の効果に乏しく、オイルミストを弾く性能が不十分になる。即ち、オイルミストがエアフィルタに到達したときに、オイルミストが繊維表面上に濡れ広がり、気孔20dを塞ぎ易くなる。
フッ素含有官能基成分が10質量%を超えると、撥油性膜の不織布への密着性が悪くなる。不織布の目付は、220g/m2〜350g/m2の範囲にあることが好ましい。またフッ素含有官能基成分はシリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.1質量%〜5質量%の範囲で含まれることが好ましい。
通気度が1ml/cm2/秒未満では、通気性に劣り、オイルミストと粉塵を含む空気が通過しにくくなる。30ml/cm2/秒を超えると、不織布の気孔20dの大きさが流入する空気中のオイルミストの油粒子22及び粉塵の粒子23の各粒径よりも遙かに大きくなり、油粒子22及び粉塵の粒子23が空気とともに不織布の気孔を通してエアフィルタ10から通過し、オイルミストと粉塵を捕集することができない。通気度は1.5ml/cm2/秒〜25ml/cm2/秒であることが好ましい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
この不織布としては、例えば、セルロース混合エステル性のメンブレンフィルタ、ガラス繊維ろ紙、ポリエチレンテレフタレート繊維とガラス繊維を混用した不織布(安積濾紙社製、商品名:340)がある。このように不織布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維から作られる。繊維は、2以上の繊維を混合した繊維でもよい。繊維の太さ(繊維径)は、上記通気度が得られるように、0.01μm〜10μmの太さが好適である。不織布の厚さは、エアフィルタが単一層である場合には、0.2mm〜0.8mm、複数層の積層体である場合には、積層体の厚さが0.2mm〜1.6mmになる厚さが好ましい。本発明の撥油性膜形成材料の主成分がシリカゾル加水分解物であるため、繊維との密着性を得るために、水酸基をもつ材料が好ましい。その中でも、ガラス、アルミナ、セルロースナノ繊維等は、繊維径も細いものがあり、通気度を上記範囲内の低い値にすることができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%〜40質量%、好ましくは2.5質量%〜20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない不織布の繊維に膜を形成した場合に、繊維への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1〜40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、不織布の繊維がガラス繊維等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、不織布の繊維が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.5質量%〜20質量%含むことが好ましい。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
加水分解物を100質量%とするときのSiO2濃度(SiO2分)は1〜40質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こり易く、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0072
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0072】
〔撥油性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の撥油性膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述したフッ素含有官能基成分を含むシリカゾル加水分解物と、溶媒とを含む。このフッ素含有官能基成分は、上記の一般式(1)及び式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、シリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.01質量%〜10質量%含まれる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0076
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0076】
<実施例1>
ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3量体〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)8.52gと、アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとして3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM−403)0.48gと、フッ素含有官能基成分として式(19)で表わされるフッ素含有シラン(R:エチル基)0.24gと、有機溶媒としてエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)17.34gとを混合し、更にイオン交換水3.37gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.05gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、シリカゾル加水分解物を含む撥油性膜形成用液組成物を調製した。この調製内容を表1に示す。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0077
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0077】
【表1】
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0083】
<比較例5>
比較例5では、エアフィルタの基材として、市販されている目開き1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のメンブランフィルタを未処理のまま用いて、これをエアフィルタとした。実施例1のような撥油性膜形成用液組成物の希釈液にはディッピングしなかった。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0085
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0085】
表2から明らかなように、比較例1では、シリカゾル加水分解物中にフッ素含有官能基成分となるフッ素含有シランを含まなかったため、模擬液はエアフィルタに染みこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
比較例2では、シリカゾル加水分解物を100質量%とするときのフッ素含有官能基成分の含有量が11.6質量%と多過ぎたこと、不織布の目付が150g/m2と低過ぎたため、エアフィルタの通気度が60.0ml/cm2/秒と高過ぎ、模擬液はエアフィルタに染みこんで転落せず、その撥油性は『不良』であった。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0090
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0090】
それに対して、実施例1〜6のエアフィルタでは、不織布の目付が210g/m2〜380g/m2の範囲にあり、撥油性の機能を有する撥油性膜にフッ素含有官能基成分がシリカゾル加水分解物を100質量%とするとき、0.02質量%〜9.8質量%の割合で含まれ、エアフィルタの通気度が1.2ml/cm2/秒〜28.0ml/cm2/秒であって、第1の観点の発明の範囲を満たしていることから、模擬液がエアフィルタから転落し、その撥油性はすべて『良好』であることを確認できた。