【課題】可撓性軸受において、球体の摩擦を抑えることができ、かつ、内輪、外輪、および複数の球体で構成されるアセンブリから、球体を保持するリテーナが抜けることを防止できる構造を提供する。
【解決手段】内輪、外輪、複数の球体33、およびリテーナ34を有する。リテーナは、円環状のベース部61と、周方向に等間隔に配列される複数の仕切部62と、を有する。仕切部は、ベース部から軸方向に延びる壁部621と、壁部の先端に位置する頭部622と、を有する。球体は、隣り合う壁部の間の空間であるポケット63に配置される。ポケットは、径方向に直線状に延びる。また、頭部は、径方向内側の端部から周方向の両側へ突出する内側突起624と、径方向外側の端部から周方向の両側へ突出する外側突起625と、を有する。周方向に向かい合う内側突起の周方向の間隔、および、周方向に向かい合う外側突起の周方向の間隔は、球体の直径よりも小さい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本願では、減速機の中心軸と平行な方向を「軸方向」、減速機の中心軸に直交する方向を「径方向」、減速機の中心軸を中心とする円弧に沿う方向を「周方向」、とそれぞれ称する。ただし、上記の「平行な方向」は、略平行な方向も含む。また、上記の「直交する方向」は、略直交する方向も含む。
【0010】
<1.減速機の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る可撓性軸受30を備えた減速機1の縦断面図である。
図2は、
図1のA−A位置から見た減速機1の横断面図である。なお、
図2では、図の煩雑化を避けるため、断面を示すハッチングが省略されている。
【0011】
この減速機1は、モータから得られる第1回転数の回転運動を、第1回転数よりも低い第2回転数に変換しつつ後段へ伝達する装置である。減速機1は、例えば、ロボットの関節に、モータとともに組み込まれて使用される。ただし、減速機1は、アシストスーツ、無人搬送台車などの他の装置に用いられるものであってもよい。
【0012】
図1および
図2に示すように、本実施形態の減速機1は、入力部10、波動発生器20、可撓性軸受30、可撓性外歯歯車40、および剛性内歯歯車50を備えている。
【0013】
入力部10は、中心軸9を中心とする円柱状または円筒状の部材である。入力部10を入力用の駆動部とする場合、入力部10は、中心軸9を中心として、減速前の第1回転数で回転する。これにより、波動発生器20に、第1回転数の回転運動が伝達される。
【0014】
波動発生器20は、可撓性外歯歯車40の後述する筒状部41に、周期的な撓み変形を発生させる部材である。本実施形態では、波動発生器20に楕円カムが用いられている。楕円カムは、軸方向に視たときに楕円形の外周面を有する。波動発生器20は、入力部10に固定され、入力部10とともに、中心軸9を中心として、第1回転数で回転する。ただし、波動発生器20は、楕円カム以外の構成であってもよい。例えば、楕円カムの長軸の両端に相当する位置に配置された一対のローラにより、波動発生器20が構成されていてもよい。
【0015】
可撓性軸受30は、楕円状に弾性変形可能な軸受である。可撓性軸受30は、波動発生器20の外周面と、可撓性外歯歯車40の後述する筒状部41の内周面との間に介在する。波動発生器20と、可撓性外歯歯車40とは、可撓性軸受30を介して、互いに回転可能に支持される。すなわち、波動発生器20と、可撓性外歯歯車40とは、互いに異なる回転数で回転できる。
【0016】
可撓性外歯歯車40は、可撓性を有する円環状の歯車である。可撓性外歯歯車40は、中心軸9を中心として回転可能に支持される。
図1および
図2に示すように、可撓性外歯歯車40は、筒状部41と平板部42とを有する。
【0017】
筒状部41は、軸方向に筒状に延びる。筒状部41の軸方向の先端は、波動発生器20および可撓性軸受30の径方向外側、かつ、剛性内歯歯車50の径方向内側に位置する。筒状部41は、薄肉状であるため、径方向に弾性変形可能である。また、可撓性外歯歯車40は、複数の外歯43を有する。複数の外歯43は、筒状部41の軸方向の先端部付近の外周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各外歯43は、径方向外側へ向けて突出する。
【0018】
平板部42は、ダイヤフラム部421と肉厚部422とを有する。ダイヤフラム部421は、筒状部41の軸方向の基端部から、径方向外側へ向けて平板状に広がり、かつ、中心軸9を中心として円環状に広がる。ダイヤフラム部421は、薄肉状であるため、軸方向に僅かに弾性変形可能である。肉厚部422は、ダイヤフラム部421の径方向外側に位置する、円環状の部分である。肉厚部422の軸方向の厚みは、ダイヤフラム部421の軸方向の厚みよりも厚い。肉厚部422は、減速機1が搭載される装置の、駆動対象となる部品に、例えばねじ止めで固定される。
【0019】
剛性内歯歯車50は、内周面に複数の内歯51を有する円環状の歯車である。剛性内歯歯車50は、減速機1が搭載される装置の枠体に、例えばねじ止めで固定される。剛性内歯歯車50は、中心軸9と同軸に配置される。また、剛性内歯歯車50は、可撓性外歯歯車40の筒状部41の径方向外側に位置する。剛性内歯歯車50の剛性は、可撓性外歯歯車40の筒状部41の剛性よりも、はるかに高い。このため、剛性内歯歯車50は、実質的に剛体とみなすことができる。剛性内歯歯車50は、中心軸9を中心とする円環状の内周面を有する。複数の内歯51は、当該内周面において、周方向に一定のピッチで配列されている。各内歯51は、径方向内側へ向けて突出する。
【0020】
上述した可撓性軸受30の内輪31は、波動発生器20の外周面に接触する。可撓性軸受30の外輪32は、可撓性外歯歯車40の筒状部41の内周面に接触する。そして、可撓性軸受30は、波動発生器20の外周面に沿った楕円形状に変形する。したがって、可撓性外歯歯車40の筒状部41も、波動発生器20の外周面に沿った楕円形状に変形する。その結果、当該楕円の長軸の両端に相当する2箇所において、可撓性外歯歯車40の一部の外歯43が、可撓性軸受30を介して波動発生器20に押されることによって、剛性内歯歯車50の内歯51と噛み合う。周方向の他の位置においては、外歯43と内歯51とが噛み合わない。
【0021】
モータの駆動により、波動発生器20が第1回転数で回転すると、可撓性外歯歯車40の上述した楕円の長軸も、第1回転数で回転する。そうすると、外歯43と内歯51との噛み合い位置も、周方向に第1回転数で変化する。また、剛性内歯歯車50の内歯51の数と、可撓性外歯歯車40の外歯43の数とは、僅かに相違する。この歯数の差によって、波動発生器20の1回転ごとに、外歯43と内歯51との噛み合い位置が、周方向に僅かに変化する。その結果、剛性内歯歯車50に対して可撓性外歯歯車40が、中心軸9を中心として、第1回転数よりも低い第2回転数で回転する。したがって、可撓性外歯歯車40から、減速された第2回転数の回転運動を取り出すことができる。
【0022】
なお、上記の説明では、剛性内歯歯車50が固定され、可撓性外歯歯車40が減速後の第2回転数で回転する場合について説明した。しかしながら、可撓性外歯歯車40を固定し、剛性内歯歯車50が、減速後の第2回転数で回転するようにしてもよい。
【0023】
また、上記の説明では、入力部10を入力用の駆動部とする場合について説明した。しかしながら、本構造の減速機1を、他の部分を入力用の駆動部として、使用してもよい。例えば、可撓性外歯歯車40または剛性内歯歯車50を、入力用の駆動部としてもよい。
【0024】
<2.可撓性軸受について>
続いて、上述した可撓性軸受30の詳細な構造について、説明する。
図3は、可撓性軸受30の斜視図である。
図4は、可撓性軸受30を軸方向に視た平面図である。
図3および
図4に示すように、本実施形態の可撓性軸受30は、内輪31、外輪32、複数の球体33、およびリテーナ34を備える。
【0025】
内輪31および外輪32は、楕円状に弾性変形可能なリング状の部材である。外輪32は、内輪31よりも径が大きく、内輪31よりも径方向外側に位置する。複数の球体33は、内輪31と外輪32との間に位置する。内輪31、外輪32、および複数の球体33は、いわゆる軸受鋼などの金属により形成される。
【0026】
図5は、可撓性軸受30の一部を、周方向に対して垂直な平面で切断した断面図である。
図5に示すように、内輪31の外周面および外輪32の内周面は、いずれも、凹状の溝301を有する。複数の球体33は、これらの凹状の溝301の間に位置し、溝301に沿って周方向に転動可能となっている。また、内輪31と外輪32の軸方向の端部同士の径方向の間隔d1は、球体33の直径Rよりも小さい。これにより、内輪31と外輪32との間からの球体33が軸方向に脱落することが防止される。
【0027】
リテーナ34は、内輪31と外輪32との間において、複数の球体33を、周方向に間隔をあけた状態に保持するための部材である。リテーナ34は、例えば樹脂により形成される。
図6は、リテーナ34および複数の球体33の斜視図である。
図7は、リテーナ34を軸方向に視た平面図である。
図6および
図7に示すように、リテーナ34は、ベース部61と、複数の仕切部62とを有する。
【0028】
ベース部61は、中心軸9を中心とする円環状の部分である。仕切部62は、ベース部61の軸方向一方側において、隣り合う球体33の間に介在する部分である。複数の仕切部62は、周方向に等間隔に設けられる。各仕切部62は、壁部621と頭部622とを有する。壁部621は、ベース部61から軸方向一方側へ向けて延びる。頭部622は、壁部621の軸方向一方側の先端に位置する。
【0029】
以下では、周方向に隣り合う壁部621の間の空間を、ポケット63と称する。リテーナ34は、複数のポケット63を有する。球体33は、各ポケット63に1つずつ配置される。
【0030】
図7中の拡大図において破線で示したように、壁部621の周方向の幅は、径方向内側へ向かうにつれて、漸次に縮小する。そして、隣り合う壁部621の間に位置するポケット63は、周方向の幅d2が一定であり、径方向に沿って直線状に延びる。ポケット63の周方向の幅d2は、球体33の直径Rよりも僅かに大きい。
【0031】
図7のように、軸方向に視たときに、ポケット63の周方向の中央において径方向に延びる仮想直線L1は、リテーナ34の中心軸9を通る。また、ポケット63の周方向の両側に位置する壁部621の側面623は、仮想直線L1に対して平行に延びる。したがって、
図7のように、壁部621の側面623を径方向内側へ延長した仮想直線L2は、リテーナ34の中心軸9を通らない。
【0032】
図8は、楕円形状に変形した可撓性軸受30を、軸方向に視た平面図である。
図8では、変形前の可撓性軸受30の内周面および外周面が、二点鎖線で示されている。可撓性軸受30が減速機1に組み込まれた状態では、
図8中の実線のように、可撓性軸受30の内輪31および外輪32が、楕円形状に変形する。これに伴い、複数の球体33も、内輪31または外輪32に沿って、楕円軌道上に配置される。
【0033】
これに対し、リテーナ34は、楕円形状に変形せず、中心軸9を中心とする略真円形状を維持する。このため、各球体33は、リテーナ34に対して径方向外側または径方向内側へ僅かに変位した状態となる。特に、楕円の長軸および短軸に相当する位置において、リテーナ34に対する球体33の径方向の変位量が最大となる。
【0034】
本実施形態では、上述のように、ポケット63が、一定の幅で径方向に直線状に延びている。このため、内輪31および外輪32が楕円形状に変形したときに、リテーナ34に対する球体33の径方向の変位が許容される。したがって、真円形状のリテーナ34と、楕円軌道上に配列された複数の球体33との干渉を、抑えることができる。これにより、球体33の摩擦を抑えて、可撓性軸受30の回転抵抗を低減できる。
【0035】
特に、本実施形態では、径方向外側から視たときに、ポケット63の形状が円弧状である。これにより、球体33の周方向および軸方向の位置が、安定する。その結果、可撓性軸受30の騒音および振動を、抑制できる。
【0036】
また、リテーナ34の複数の頭部622は、それぞれ、一対の内側突起624と、一対の外側突起625と、を有する。一対の内側突起624は、頭部622の径方向内側の端部から、周方向の両側へ向けて突出する。一対の外側突起625は、頭部622の径方向外側の端部から、周方向の両側へ向けて突出する。周方向に隣り合う2つの頭部622は、内側突起624同士、および外側突起625同士が、それぞれ周方向に向かい合う。
【0037】
図4中の拡大図に示すように、周方向に向かい合う内側突起624同士の周方向の間隔d3は、球体33の直径Rよりも小さい。また、周方向に向かい合う外側突起625同士の周方向の間隔d4も、球体33の直径Rよりも小さい。ただし、隣り合う頭部622の、径方向中央部分同士の周方向の間隔d5は、球体33の直径Rと略同一か、球体33の直径Rよりも僅かに大きい。そして、軸方向に視たときに、頭部622の周方向の側面は、内側突起624と外側突起625との間において、球体33と略同一径の円弧状となっている。
【0038】
可撓性軸受30の製造時には、内輪31、外輪32、および複数の球体33で構成されるアセンブリに、リテーナ34を取り付ける。その際、無負荷状態の可撓性軸受30は、
図4のように真円状であるため、隣り合う頭部622の間を通って、各ポケット63に球体33を嵌め込むことができる。これにより、内輪31、外輪32、および複数の球体33で構成されるアセンブリに、リテーナ34を容易に取り付けることができる。
【0039】
ただし、製造後の可撓性軸受30が減速機1組み込まれると、内輪31および外輪32は、楕円形状に変形する。これにより、
図8中の拡大図のように、各球体33は、ポケット63の径方向の中央から、径方向内側または径方向外側へ変位した状態となる。この状態では、内側突起624または外側突起625と、球体33の一部分とが、軸方向に重なる。これにより、リテーナ34に対する球体33の軸方向の移動が制限される。したがって、ポケット63からの球体33の脱落が防止される。その結果、内輪31、外輪32、および複数の球体33で構成されるアセンブリから、リテーナ34が軸方向に抜けることを防止できる。
【0040】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態には限定されない。
【0041】
例えば、上記の実施形態の可撓性外歯歯車40では、平板部42が、筒状部41の基端部から半径方向外側へ向けて広がっていた。しかしながら、平板部42は、筒状部41の基端部から半径方向内側へ向けて広がるものであってもよい。
【0042】
また、上記の実施形態の可撓性軸受30は、可撓性外歯歯車40を有する減速機1に組み込まれるものであった。しかしながら、本発明の可撓性軸受は、他の構造の減速機に組み込まれるものであってもよい。また、本発明の可撓性軸受は、減速機以外の装置に組み込まれるものであってもよい。
【0043】
その他、可撓性軸受および減速機の細部の構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変更してもよい。また、上記の各実施形態および各変形例に登場した要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。