特開2021-99292(P2021-99292A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2021-99292車載装置、制御プログラムおよび制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-99292(P2021-99292A)
(43)【公開日】2021年7月1日
(54)【発明の名称】車載装置、制御プログラムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20210604BHJP
【FI】
   G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-232070(P2019-232070)
(22)【出願日】2019年12月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】特許業務法人湘洋内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 将史
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB19
2F129BB33
2F129BB35
2F129BB66
2F129EE88
(57)【要約】      (修正有)
【課題】比較的高価なハードウェアを必要とせずに、簡便な構成による高精度な距離係数の推定ができる車載装置、制御プログラム及び制御方法を提供する。
【解決手段】車両1において、車載装置100は、分解能に応じた速度帯別に求められた第一の距離係数を記憶する記憶部110と、搭載される車両の移動に伴って出力される車両信号を取得する車両信号取得部122と、制御部120と、を備える。制御部は、車両信号取得部が取得した車両信号の出力頻度に応じた第二の距離係数を算出する距離係数算出処理を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解能に応じた速度帯別に求められた第一の距離係数を記憶する記憶部と、
搭載される車両の移動に伴って出力される車両信号を取得する車両信号取得部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車両信号取得部が取得した前記車両信号の出力頻度に応じた第二の距離係数を算出する距離係数算出処理、
を行う車載装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
前記距離係数算出処理において、前記車両信号の出力頻度に近似する速度帯の前記第一の距離係数を前記記憶部から2つ以上読み出して特定し、前記近似する速度帯の前記距離係数間を線形に補間して前記車両信号の出力頻度における前記第二の距離係数を算出する、
ことを特徴とする車載装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車載装置であって、
前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部をさらに備え、
前記制御部は、
前記位置情報取得部が取得した前記車両の位置情報の変化量を用いて前記速度帯を特定する速度帯特定処理と、
特定した前記速度帯における前記記憶部に記憶されている前記第一の距離係数を前記車両信号の実績値に基づいて推定した値により更新する較正処理と、
を行う車載装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
算出した前記第二の距離係数と、前記車両信号の出力頻度と、を乗ずることで前記車両の速度を算出する速度算出処理、
を行う車載装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
算出した前記第二の距離係数と、前記車両信号の個数と、を乗ずることで移動距離を算出する移動距離算出処理、
を行う車載装置。
【請求項6】
請求項3に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
前記較正処理において、前記位置情報の変化量を用いて移動距離を特定して、該移動距離における前記車両信号の実測値で除すことで前記記憶部に記憶する第一の距離係数を更新する、
ことを特徴とする車載装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車載装置であって、
前記制御部は、
前記第一の距離係数を更新する処理において、更新される距離係数の前記速度帯を中心とする一つまたは複数の前記速度帯の伝播範囲を定めて該伝播範囲の前記速度帯ごとに当該速度帯の距離係数を補間により推定して更新する、
ことを特徴とする車載装置。
【請求項8】
車載装置の制御プログラムであって、
前記車載装置は、
分解能に応じた速度帯別に求められた第一の距離係数を記憶する記憶部と、
搭載される車両の移動に伴って出力される車両信号を取得する車両信号取得部と、
制御部と、を備え、
前記制御部に対して、
前記車両信号取得部が取得した前記車両信号の出力頻度に応じた第二の距離係数を算出する距離係数算出処理、
を行わせる制御プログラム。
【請求項9】
車載装置の制御方法であって、
前記車載装置は、
分解能に応じた速度帯別に求められた第一の距離係数を記憶する記憶部と、
搭載される車両の移動に伴って出力される車両信号を取得する車両信号取得部と、
制御部と、を備え、
前記制御部に、
前記車両信号取得部が取得した前記車両信号の出力頻度に応じた第二の距離係数を算出する距離係数算出ステップ、
を行わせる制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載装置、制御プログラムおよび制御方法の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「所定距離の移動ごとに出力されるセンサ信号に対して補正係数を用いた演算を演算部で行い、車両の速度を算出して現在位置を特定するナビゲーション装置であって、複数の車両速度に応じた補正係数を記憶した記憶部と、車両速度に応じて演算に使用する補正係数を選択して前記演算部に指示し、車両速度の変化による前記センサ信号の出力を補正する制御部と、を有することを特徴とするナビゲーション装置。」に係る技術が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−257665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような技術では、走行速度が高くなるとタイヤが膨張することを考慮して、走行速度帯に応じて補正係数を選択的に使用できるようにしている。一方で、車両信号のデジタル化により、量子化誤差、演算誤差、車両毎の特性の差異が含まれるようになってきており、速度に対して大きな特性差を持つ車両がある。このような特性を持つ車両においてもより正確な移動距離、速度を取得するためには高精度の補正を行う必要がある。
【0005】
本発明の目的は、比較的高価なハードウェアを必要とせずに、簡便な構成による高精度な距離係数の推定技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決する手段を複数含んでいるが、その例を挙げるならば、以下のとおりである。上記課題を解決すべく、本発明に係る車載装置は、分解能に応じた速度帯別に求められた第一の距離係数を記憶する記憶部と、搭載される車両の移動に伴って出力される車両信号を取得する車両信号取得部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両信号取得部が取得した前記車両信号の出力頻度に応じた第二の距離係数を算出する距離係数算出処理を行う。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によれば、比較的高価なハードウェアを必要とせずに、簡便な構成による高精度な距離係数の推定をすることが可能となる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態を適用した車載装置の構造を示す図である。
図2】速度帯別距離係数記憶部のデータ構造例を示す図である。
図3】車載装置のハードウェア構造例を示す図である。
図4】距離係数算出の仕組みを示す図である。
図5】較正処理の流れを示す図である。
図6】伝播処理の流れを示す図である。
図7】伝播処理の例を示す図である。
図8】距離係数算出処理の流れを示す図である。
図9】距離係数の補間例を示す図である。
図10】速度帯別距離係数記憶部の別のデータ構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る車載装置を含む車載システムについて、図面を参照して説明する。なお、図1図10は、車載システムの全ての構成を示すものではなく、理解容易のため、適宜、構成の一部を省略して描いている。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、「Aからなる」、「Aよりなる」、「Aを有する」、「Aを含む」と言うときは、特にその要素のみである旨明示した場合等を除き、それ以外の要素を排除するものでないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。
【0010】
一般に、車両から出力される車両信号は、移動距離にほぼ比例して出力される。具体的には、例えば、車輪のホイル(wheel)の回転位置に応じて出力されるものがある。したがって、車両信号を漏れなく受信することで、車輪の回転数を推定できることとなり、これと距離係数と呼ばれる所定の係数との積を算出することで、移動距離、移動速度を推定することができる。そのため、車両信号はスピードメーターやオドメーターに利用されてきた経緯がある。そのような面から、この車両信号は、速度によらず、一定の移動距離に対して一定の個数を保つことが期待される。
【0011】
しかし、車両信号の特性は、もともとタイヤの径の変化や路面との摩擦の変化により変動するものである中、近年はさらに、デジタル化の影響を受けて、量子化誤差や演算誤差が含まれるようになり、移動速度の影響によって変化することも多くなってきた。なお、距離係数(車両信号1つあたりの移動距離(m/個))は、単位時間当たりの移動距離を、車両信号が出力された回数で割った値で求められる。
【0012】
このような車両信号の変化により、同じ移動距離を移動した場合であっても、移動速度が高い場合と低い場合とでは信号数が異なってしまうことがある。また、タイヤの物理的な径の変動によっても、速度に対して距離係数が変動してしまうことがある。
【0013】
例えば、移動速度が高い場合(比較的に高速に走行している場合)には、速度に比べて信号数が少なくなり、これに基づいて算出する距離係数は本来の値よりも大きくなってしまうことがある。また、移動速度が低い場合(比較的に低速で走行している場合)には、速度に比べて信号数が多くなり、これに基づいて算出する距離係数が本来の値よりも小さくなってしまうことがある。
【0014】
このような速度に関連する変動があるにも関わらず一律の距離係数を用いると、車速や位置が正しく求められなくなってしまう。例えば、本来よりも大きく算出された距離係数を用いて移動距離を算出すると、実際よりも計算上の移動距離が長くなってしまい、ナビゲーション装置の現在位置を示すカーマークの表示位置が前方へずれたり、右左折を伴うと道路上から外れてしまうこととなる。そのため、速度に応じた距離係数を予め正確に算出しておき、移動距離、車速、現在位置の算出等に速度に応じて用いることができれば、このような事象を回避できる。
【0015】
そのために、本発明に係る車載システムにおいては、速度帯別に細かく分けた距離係数を較正して記憶する仕組みを設け、利用時には速度に応じた細やかな距離係数を読み出して用いることでこのような事象を回避することとする。速度帯別の距離係数の較正においては、実測値を用いて較正を行うことで正確性を担保する。利用時に用いる距離係数は、較正された距離係数を用いて、より現状の車両信号の出力頻度に近い距離係数を補間により求めることとする。
【0016】
図1は、本発明に係る第一の実施形態を適用した車載装置の構造を示す図である。車載システムには、車両1と、車両1に搭載された車載装置100と、車両1内の車載ネットワーク50と、車載ネットワーク50を介して車載装置100と通信可能な位置情報出力装置10と、車両信号出力装置20と、が含まれる。
【0017】
位置情報出力装置10は、GPS(Global Positioning System)等の衛星からの信号を受信し移動体と衛星間の距離と距離の変化率とを3個以上の衛星に対して測定することで移動体の現在地、進行速度および進行方位を測定し出力するものである。なお、位置情報出力装置10は、GPSに限られず、GLONASS(Global Navigation Satellite System)等の他の衛星による位置情報受信装置であってもよい。なお、位置情報出力装置10は、車載装置100に実装される(車載装置100の一部として動作する)ものであってもよい。
【0018】
車両信号出力装置20は、車両1上の各種の電子機器から出力される信号のうち、車両信号を出力する装置である。具体的には、車両信号出力装置20は、理想的には一定の距離を移動する都度、所定のデジタル信号(あるいは、アナログ信号)を出力するが、移動速度によりその出力頻度に多寡がある。なお、車両信号出力装置20は、車載装置100に実装される(車載装置100の一部として動作する)ものであってもよい。
【0019】
車載ネットワーク50は、CAN(Controller Area Network)等の規格による通信ネットワークである。ただし、これに限られるものではなく、例えばMOST(Media Oriented Systems Transport)、LIN(Local Interconnect Network)等のネットワークであってもよい。なお、車載装置100は、車載ネットワーク50を介して位置情報出力装置10および車両信号出力装置20と通信するものに限られず、専用線等により位置情報出力装置10および車両信号出力装置20から情報を受け付けるものであってもよい。
【0020】
車載装置100は、記憶部110と、制御部120と、車両通信部140と、を含む。記憶部110には、速度帯別距離係数記憶部111が含まれる。なお、車載装置100が車載ネットワーク50を介するのではなく専用線等によりあるいは直接位置情報出力装置10および車両信号出力装置20から情報を受け付けるものである場合、車両通信部140は必ずしも必要ではない。
【0021】
図2は、速度帯別距離係数記憶部111のデータ構造例を示す図である。速度帯別距離係数記憶部111は、分解能111aに応じて所定の速度帯111bが割り当てられている。それぞれの速度帯111bには、代表速度111c、速度帯別距離係数111d、実績値フラグ111eが関連付けられている。
【0022】
分解能111aは、速度の分解能を示す情報である。例えば、速度を時速10キロメートル単位で分解する場合には、分解能111aは時速10キロメートルとなる。本実施形態では、分解能の例として、時速10キロメートルと、時速20キロメートルと、を例示しているが、これに限られるものではなく、時速5キロメートルや時速30キロメートルあるいはそれ以下とすることも可能である。この分解能111aは、距離係数の変動を許容する誤差量に基づき決定するのが望ましい。例えば、ターゲットの車両の距離係数が時速10キロメートルあたり0.5%変動するとき、その誤差を許容するならば、分解能を時速10キロメートルとする。もちろん、汎用的に設定しておき車両に応じて分解能を変更する場合には、分解能を択一的に設定可能にしておいてもよい。
【0023】
速度帯111bは、分解能111aにより無限の速度を有限の所定の速度帯に区分する情報である。本実施形態では、速度帯は、「時速20キロメートル未満」、「時速20キロメートル以上時速30キロメートル未満」、「時速30キロメートル以上時速40キロメートル未満」、・・・、「時速170キロメートル以上時速180キロメートル未満」、「時速180キロメートル以上」のように区分している。なお、分解能が時速10キロメートルであっても、最低速度帯が時速20キロメートル未満とされているのは、停止から低速時は各種の誤差や車両信号の不正確性が含まれることがあり、一括して区分するのが望ましい場合があるためである。このような場合でも、特段精度が低下するものではない。
【0024】
なお、速度帯111bの最高速度は、最低でも車両の有効な速度(スピードメーターの上限)までとするのが望ましいが、汎用的に設けてもよい。
【0025】
代表速度111cは、速度帯111bで特定される速度帯の中央値等の代表速度であり、隣接する速度帯との距離が均等となるのが望ましい。速度帯別距離係数111dは、代表速度における距離係数である。距離係数の初期値は、尤もらしい距離係数であればよく、例えばターゲットの車両の仕様が判明していればその値、あるいは「JISD5601スピードメーター」等の所定の規格で使用される「0.392[m/個]」等の値であればよい。
【0026】
実績値フラグ111eは、速度帯別距離係数111dの値が実績に基づくもの、すなわち実際のターゲット車両に搭載されて実測された値であるか否かを判別するフラグである。例えば、上記のように汎用的に設定された距離係数については、実測値ではなく、較正すべき対象といえるが、実測値に基づく距離係数であれば較正対象から除外することも可能とするためである。
【0027】
図1の説明に戻る。制御部120には、位置情報取得部121と、車両信号取得部122と、速度帯特定部123と、速度帯別距離係数更新部124と、距離係数算出部125と、が含まれる。
【0028】
位置情報取得部121は、車両通信部140を介して、位置情報出力装置10から出力される位置情報を取得する。なお、車載装置100が専用線等により、あるいは直接位置情報出力装置10から情報を受け付けるものである場合、位置情報取得部121は、位置情報出力装置10から出力される位置情報を取得する。
【0029】
車両信号取得部122は、車両通信部140を介して、車両信号出力装置20から出力される車両信号を取得する。なお、車載装置100が専用線等により、あるいは直接車両信号出力装置20から情報を受け付けるものである場合、位置情報取得部121は、車両信号出力装置20から出力される車両信号を取得する。
【0030】
速度帯特定部123は、位置情報取得部121が取得した位置情報を用いて、位置変化量と時間の差分から速度帯を特定する。あるいは、速度帯特定部123は、受信したGPS等の電波のドップラー効果を利用して速度を得ても良い。速度帯特定部123の特定する速度は、速度帯別距離係数記憶部111の分解能111aと同レベルの分解能で特定されていればよい。
【0031】
速度帯別距離係数更新部124は、速度帯別に距離係数を更新する。更新対象は、速度帯別距離係数記憶部111の速度帯別距離係数111dであり、更新に用いる距離係数は、所定の方法で推定した距離係数である。
【0032】
距離係数算出部125は、利用時の車両信号の出力頻度に応じた距離係数を算出する。距離係数算出部125は、車両信号の出力頻度(個/秒)を用いて、速度帯別距離係数記憶部111の速度帯別距離係数111dから求められる車両信号の出力頻度の近似する前後の速度帯を2つ特定し、特定した速度帯の代表速度における距離係数との比に基づいて距離係数を補間して算出する。
【0033】
車両通信部140は、車載ネットワーク50を介して、位置情報出力装置10、車両信号出力装置20等の他の車載の電子機器と通信を行う。
【0034】
図3は、車載装置のハードウェア構造例を示す図である。車載装置100は、少なくとも、車載通信装置101と、演算装置102と、メモリ103と、これらを相互に接続するバス109と、を含んで構成される。
【0035】
車載通信装置101は、CAN、MOST、LIN等の車載ネットワーク等を介して、他の装置と通信経路を確立し情報を送受信するネットワークモジュール等の装置である。
【0036】
演算装置102は、例えばCPU(Central Processing Unit)などの演算装置である。
【0037】
メモリ103は、例えばRAM(Random Access Memory)などの主記憶装置である。
【0038】
上記した制御部120の各機能部、すなわち位置情報取得部121、車両信号取得部122、速度帯特定部123、速度帯別距離係数更新部124、距離係数算出部125、演算装置102が所定のプログラムを読み込み実行することにより構築される。そのため、メモリ103には、各機能部の処理を実現するためのプログラムが記憶されている。
【0039】
また、上記した記憶部110は、メモリ103あるいは図示しない外部記憶装置により、車両通信部140は、車載通信装置101により、それぞれ実現される。
【0040】
なお、上記した各構成要素は、車載装置100の構成を、理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分類したものである。そのため、構成要素の分類の仕方やその名称によって、本願発明が制限されることはない。車載装置100の構成は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0041】
また、制御部120の各機能部は、CPUに限らずハードウェア(ASIC、GPU(Graphics Processing Unit)など)により構築されてもよい。また、各機能部の処理が一つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
【0042】
図4は、距離係数算出の仕組みを示す図である。本発明に係る車載装置100では、距離係数を算出しているが、距離係数にも複数の種類が含まれるため、図4の距離係数算出の仕組み図200を用いて整理して説明する。
【0043】
まず、距離係数算出に用いられる入力値となる入力情報210には、車両信号取得部122が取得する車両信号211と、位置情報取得部121が取得する位置情報212と、が含まれる。
【0044】
そして、本願に係る距離係数の算出は、大きく2つの処理に分けられる。一つは、較正処理220であり、もう一つは距離係数算出処理230である。較正処理220は、繰り返し実施してその結果を蓄積することで学習効果を狙う較正処理であり、距離係数算出処理230は、利用時に距離係数を補間により算出し続ける点で較正処理と似ているが、算出した距離係数の蓄積は行わない処理である。しかし、これに限られるものではなく、算出した距離係数をキャッシュしておいて、同一の速度の入力が行われた際に算出結果を再利用することで演算量を低減するように用いることを妨げるものではない。
【0045】
較正処理220および距離係数算出処理230の詳細については後述するが、ここで概要を説明する。較正処理220では、入力情報210の車両信号211と、位置情報212とを取得して、移動速度に応じた距離係数を速度帯別距離係数情報224から読み出す(221)。この移動速度は、位置情報212の変化量から観測される移動速度となる。
【0046】
そして、車両信号あたりの移動距離を算出して距離係数推定処理を行う(222)。この距離係数の推定処理は、一般的な従来から行われている処理と同様に、単位時間あたりの移動距離を、単位時間あたりの車両信号数で除して、第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)223と推定する。
【0047】
そして、推定した第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)223を用いて、当該速度帯における速度帯別距離係数情報224を更新、およびその近傍の速度帯の距離係数を伝播により更新する。以上が、較正処理220の概要となる。
【0048】
距離係数算出処理230では、入力情報210の車両信号211を取得して、車両信号数の前後の代表値の距離係数から第二の距離係数232を補間により算出する(231)。以上が、距離係数算出処理230の概要となる。ここで特定された第二の距離係数(車両情報算出用距離係数)232は、車両信号との積により実際に車両や車両に搭載される車載装置が備える表示部に表示する移動距離、速度、現在位置等の車両情報の算出等に用いられる。
【0049】
図5は、較正処理の流れを示す図である。較正処理220は、上述のとおり、繰り返し実施してその結果を蓄積することで学習効果を狙う較正処理であり、車載装置100の起動後に、繰り返して(例えば、毎秒)処理される。
【0050】
まず、位置情報取得部121は、位置情報を取得する(ステップS001)。具体的には、位置情報取得部121は、車両通信部140を介して、位置情報出力装置10から出力される位置情報を取得する。
【0051】
そして、速度帯特定部123は、位置情報を用いて移動速度を取得する(ステップS002)。具体的には、速度帯特定部123は、位置情報の変化量と時間の差分とから、移動速度を算出し、取得する。
【0052】
そして、速度帯特定部123は、取得した移動速度が属する速度帯を分解能に応じて特定する(ステップS003)。具体的には、速度帯特定部123は、速度帯別距離係数記憶部111の分解能111aと同じ分解能で、ステップS002にて特定した移動速度が属する速度帯を特定する速度帯特定処理を行う。
【0053】
そして、速度帯別距離係数更新部124は、位置情報の変化量から得た移動距離を車両信号数の実績値で除し第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)とする(ステップS004)。
【0054】
そして、速度帯別距離係数更新部124は、特定した速度帯における距離係数を第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)により更新し実績値フラグを立てる(ステップS005)。具体的には、速度帯別距離係数更新部124は、ステップS003において特定した速度帯の速度帯別距離係数111dを更新対象のデータとして、ステップS004において算出した第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)を用いて更新する処理を行う。そして、更新対象のデータの実績値フラグ111eに、実績値による更新を行った旨を示す「1」を設定する。
【0055】
そして、速度帯別距離係数更新部124は、後述の伝播処理を行う(ステップS006)。この伝播処理は、更新した速度帯の前後の実績値との間の推定値を、線形補間により更新する処理である。そして、速度帯別距離係数更新部124は、較正処理を終了させる。
【0056】
以上が、較正処理の流れである。較正処理によれば、位置情報出力装置10から出力された位置情報の変化量を用いて速度帯を特定し、特定した速度帯における距離係数を実績値に基づく推定値により更新することができる。
【0057】
図6は、伝播処理の流れを示す図である。伝播処理は、較正処理220のステップS006において開始される。
【0058】
速度帯別距離係数更新部124は、新たな実績値により更新された速度帯の高低方向にそれぞれ伝播範囲を定める(ステップS101)。具体的には、速度帯別距離係数更新部124は、較正処理のステップS003において特定した速度帯を基準として、速度帯別距離係数記憶部111におけるより高い速度帯とより低い速度帯をそれぞれ順に調査して、実績値フラグ111eが「1」となっている最初の速度帯を特定する。そして、速度帯別距離係数更新部124は、特定した速度帯と、基準とした速度帯と、の間にある速度帯(上記より、実績値フラグ111eが「0」である)を伝播範囲の速度帯と定める。
【0059】
そして、速度帯別距離係数更新部124は、伝播範囲内の速度帯の第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)をそれぞれ推定する(ステップS102)。具体的には、速度帯別距離係数更新部124は、ステップS101にて定めた伝播範囲に含まれる速度帯のそれぞれについて、ステップS101にて調査した結果特定した実績値フラグ111eが「1」となっている最初の速度帯の速度帯別距離係数111dと、基準とした速度帯の速度帯別距離係数111dと、を両端とする線形補間により算出する。
【0060】
つまり、速度帯別距離係数更新部124は、出力頻度に近似する速度帯の距離係数を記憶部から2つ以上読み出して特定し、近似する速度帯の距離係数間を線形に補間して出力頻度における距離係数を特定する距離係数特定処理を行うものといえる。
【0061】
そして、速度帯別距離係数更新部124は、推定した第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)を用いて速度帯ごとに更新する(ステップS103)。具体的には、速度帯別距離係数更新部124は、ステップS102において推定した伝播範囲内の速度帯の第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)を用いて、それぞれの速度帯の速度帯別距離係数111dを上書き等により更新する。そして、速度帯別距離係数更新部124は、伝播処理を終了させる。
【0062】
以上が、伝播処理の流れである。伝播処理によれば、実績値に基づき更新した速度帯における距離係数の近傍の速度帯についても、実績値に基づく推定値により更新することができる。なお、この伝播処理では、速度帯別距離係数111dが更新された近傍の速度帯については、実績値フラグを立てない。これにより、実績値に直接基づく更新、すなわち信頼できる距離係数か、伝播によりなされた更新すなわち推定による距離係数か、を特定することが可能となる。
【0063】
図7は、伝播処理の例を示す図である。伝播処理の例300では、縦軸を第一の距離係数(移動速度帯別距離係数)、横軸を速度帯として、新たな実績値(較正処理による実績値)で更新された速度帯と、その近傍の最寄の実績値フラグのある速度帯と、が示されている。実績値フラグの速度帯と新たな実績値で更新された速度帯とにおける速度帯別距離係数を直線で結んでできる線分と、伝播範囲の各速度帯との交点を、伝播による新たな速度帯別距離係数としてそれぞれ更新する。
【0064】
図8は、距離係数算出処理の流れを示す図である。距離係数算出処理230は、較正処理220とは異なる独立した処理であり、利用時すなわち走行時の処理である。距離係数算出処理230は、車載装置100の起動後に、繰り返して(例えば、毎秒)処理される。
【0065】
まず、車両信号取得部122は、車両信号を取得する(ステップS201)。具体的には、車両信号取得部122は、車両通信部140を介して、車両信号出力装置20から出力される車両信号を取得する。
【0066】
そして、距離係数算出部125は、車両信号の出力頻度(個数/秒)を算出する(ステップS202)。具体的には、距離係数算出部125は、車両信号が出力された単位時間当たり(1秒間)の数を出力頻度として算出する。
【0067】
そして、距離係数算出部125は、各速度帯において代表速度を速度帯別距離係数で除し、出力頻度を算出する(ステップS203)。具体的には、距離係数算出部125は、速度帯別距離係数記憶部111を参照して、各速度帯における代表速度を移動距離/秒に変換して速度帯別距離係数で除し、出力頻度を算出する。
【0068】
例えば、速度帯「時速30キロメートル以上時速40キロメートル未満」の代表速度は「時速35キロメートル」であり、これを移動距離/秒に変換すると、「9.722メートル」となる。そして、当該速度帯の距離係数「0.390」で除すと、「24.93個/秒」が出力頻度として求まる。同様に、速度帯「時速40キロメートル以上時速50キロメートル未満」の代表速度は「時速45キロメートル」であり、これを移動距離/秒に変換すると、「12.5メートル」となる。そして、当該速度帯の距離係数「0.400」で除すと、「31.25個/秒」が出力頻度として求まる。
【0069】
そして、距離係数算出部125は、取得した車両信号の出力頻度に近似する速度帯2つを分解能に応じて特定する(ステップS204)。具体的には、距離係数算出部125は、ステップS202にて算出した現在の状態における車両信号の出力頻度と、ステップS203にて算出した分解能に応じた速度帯別の車両信号の出力頻度と、を比較して、現在の状態における車両信号の出力頻度よりも高い頻度であって近似する速度帯と、低い頻度であって近似する速度帯と、を特定する。
【0070】
そして、距離係数算出部125は、特定した速度帯の代表値における出力頻度の比に応じて距離係数yを補間により算出する(ステップS205)。具体的には、距離係数算出部125は、ステップS204にて特定した近似する二つの速度帯の車両信号の出力頻度間における比を用いて、ステップS202にて算出した現在の状態における車両信号の出力頻度が示す距離係数yを補間により算出する。この補間は、基本的には線形補間でよい。そして、距離係数算出部125は、距離係数算出処理を終了させる。
【0071】
以上が、距離係数算出処理の流れである。距離係数算出処理によれば、現在の実績として取得した車両信号の出力頻度に近似する速度帯別の距離係数を用いて補間により算出した距離係数を得ることができるため、より実際の速度に応じた細やかな距離係数を得ることができる。また、速度帯別の距離係数についても、上述の較正処理、伝播処理により随時信頼性の高い実績値に応じて精度を高めるものであるため、さらに細やかに信頼できる距離係数を得ることが可能となる。
【0072】
図9は、距離係数の補間例を示す図である。例えば、実績として取得した車両信号の出力頻度が「28個/秒」である場合には、出力頻度が近似する速度帯が「時速30キロメートル以上時速40キロメートル未満」と「時速40キロメートル以上時速50キロメートル未満」の二つ(それぞれ、出力頻度は「代表速度時速35キロメートル、速度帯別距離係数0.39m/個」に基づく「24.93個/秒」と、「代表速度時速45キロメートル、速度帯別距離係数0.40m/個」に基づく「31.25個/秒」)と特定される。
【0073】
そして、二つの速度帯の車両信号の出力頻度間における比を用いて、現在の状態における車両信号の出力頻度が示す距離係数yを線形補間により算出する。具体的な計算式としては、距離係数y=0.39+(0.40−0.39)*(28−24.93)/(31.25−24.93)=0.395m/個となる。
【0074】
なお、上述の方法で距離係数を算出することにより、分解能を擬似的に向上させることができるほか、各種の誤差の入り込む余地の有る車速を基準として距離係数を算出するのに比べて、観測量である車両信号の個数を基準として距離係数を算出することができるために客観性を高めることができる。
【0075】
また、このように取得した距離係数を用いて、実際に車両や車両に搭載される車載装置が備える表示部に表示する移動距離、車速等の車両情報を算出することが可能となる。具体的には、移動距離は、車両信号の個数と距離係数の積で求めることが可能である。車速は、車両信号の出力頻度と距離係数の積で求めることが可能である。また、車両信号、位置情報、加速センサ等の各種センサ、地図データを併用すれば、移動距離と車速に留まらず精度の高い位置推定が可能となる。
【0076】
そのため、車載装置100の制御部120が上述の演算のように、特定した距離係数と、出力頻度と、を用いて速度を算出する速度算出処理と、特定した距離係数と、車両信号の出力された回数と、を用いて移動距離を算出する移動距離算出処理と、特定した距離係数と、車両信号の出力された回数と、を用いて現在位置を算出する現在位置算出処理と、を行うようにしてもよい。またさらには、そのような現在位置を地図上に表示させる表示処理を行うようにしてもよい。
【0077】
以上が、本発明に係る第一の実施形態を適用した車載装置100である。車載装置100によれば、比較的高価なハードウェアを必要とせずに、簡便な構成による高精度な距離係数の推定が可能となる。ただし、車載装置100は、車載の状態で使用される専用の装置に限られず、パーソナルコンピューターやスマートフォン、タブレット端末等の各種の独立動作可能な装置であってもよい。
【0078】
ただし、本発明は、上記の実施形態に制限されない。上記の実施形態は、本発明の技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。例えば、上記の実施形態では、実績値フラグの有無によって伝播範囲を決定しているが、これに限られない。例えば、何度も同一の実績値を得た距離係数は信頼性が高いために、イレギュラーな値を得た場合にも極力その乱れを反映しないようにした方が結果として信頼性が高くなる。そのため、実績値による更新がなされた回数を速度帯別に保持することで、信頼できる距離係数か否かを判定することも可能となる。
【0079】
以下に、そのような第二の実施形態について説明する。第二の実施形態は、基本的に第一の実施形態と同様であるが、一部に相違がある。以下は、その相違点を中心に説明する。
【0080】
図10は、速度帯別距離係数記憶部の別のデータ構造例を示す図である。速度帯別距離係数記憶部111´は、進度(更新回数)111fが各速度帯111bに関連付けられている。この進度は、実績値による更新がなされる都度インクリメントされるものであり、したがって更新回数と比例する。速度帯別距離係数を更新する処理において、この更新回数に比例した重み付けを行うことで、突飛な距離係数が設定されてしまうことを避けることができる。
【0081】
その他、所定の進度に達した距離係数は充分に信頼性が高まったものとみなして固定化し、以降は当該速度帯の距離係数の更新を行わないものとしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1・・・車両、10・・・位置情報出力装置、20・・・車両信号出力装置、50・・・車載ネットワーク、100・・・車載装置、110・・・記憶部、111・・・速度帯別距離係数記憶部、120・・・制御部、121・・・位置情報取得部、122・・・車両信号取得部、123・・・速度帯特定部、124・・・速度帯別距離係数更新部、125・・・距離係数算出部、140・・・車両通信部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10