【解決手段】結膜円蓋に留置するためのナノ構造生体適合性ウェファーであって、前記ウェファーが組織反応性の粘膜付着性ポリマーと複数の疎水性ポリマー繊維で形成されたメッシュとを含み、前記組織反応性の粘膜付着性ポリマーが前記ウェファー上に被覆されるか、又は前記疎水性繊維の間に挿入され、前記ウェファーが0.05mm〜0.5mmの厚さ、25MPa未満の水和曲げ弾性率、及び15Dk〜30Dkの酸素透過性を有し、前記メッシュが50nm〜1000nmの孔径を有し、前記疎水性ポリマー繊維が100nm〜1500nmの直径を有する、ナノ構造生体適合性ウェファーを提供する。
結膜円蓋に留置するためのナノ構造生体適合性ウェファーであって、前記ウェファーが組織反応性の粘膜付着性ポリマーと複数の疎水性ポリマー繊維で形成されたメッシュとを含み、前記組織反応性の粘膜付着性ポリマーが前記ウェファー上に被覆されるか、又は前記疎水性繊維の間に挿入され、前記ウェファーが0.05mm〜0.5mmの厚さ、25MPa未満の水和曲げ弾性率、及び15Dk〜30Dkの酸素透過性を有し、前記メッシュが50nm〜1000nmの孔径を有し、前記疎水性ポリマー繊維が100nm〜1500nmの直径を有する、ナノ構造生体適合性ウェファー。
前記疎水性ポリマー繊維が、ポリラクチド−co−グリコリド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(アミノ酸)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド三元共重合体、ステアリン酸PEG、PEG−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、レシチン、キサンタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
前記組織反応性の粘膜付着性ポリマーがPEG−グルタル酸スクシンイミジル、PEG−アミン、ポリリジン、キサンタンガム、又はヒアルロン酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
前記第1の薬物がトラボプロスト、ブリンゾラミド、ラタノプロスト、ウノプロストン、ビマトプロスト、チモロール、又はそれらの組合せである、請求項10に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
前記第1の薬物が、エタボン酸ロテプレドノール、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、プロピオン酸フルチカゾン、フロ酸フルチカゾン、プレドニゾロン、又はそれらの組合せである、請求項10に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
前記第1の薬物が、ベシフロキサシン、ネチルマイシン、アジスロマイシン、シクロスポリン、ムピロシン、バンコマイシン、ボリコナゾール、又はそれらの組合せである、請求項10に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
前記第1の薬物とは異なる第2の薬物を更に含み、前記疎水性ポリマー繊維が第1の疎水性ポリマーで形成される内層と第2の疎水性ポリマーで形成される外層とを有する共軸繊維であり、前記第1の薬物が前記内層に含まれ、前記第2の薬物が前記外層に含まれる、請求項8に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
前記疎水性ポリマー繊維が前記第1の薬物及び前記第2の薬物を異なる速度で放出するように製剤化されている、請求項15又は16に記載のナノ構造生体適合性ウェファー。
緑内障を治療する方法であって、治療を必要とする被験体を同定することと、請求項11に記載のナノ構造生体適合性ウェファーを得ることと、前記ナノ構造生体適合性ウェファーを前記被験体の結膜円蓋に留置することと、2週間〜6ヶ月の期間に亘り前記結膜円蓋において前記ナノ構造生体適合性ウェファーを維持することとを含む、方法。
眼表面障害を治療する方法であって、治療を必要とする被験体を同定することと、請求項13に記載のナノ構造生体適合性ウェファーを得ることと、前記ナノ構造生体適合性ウェファーを前記被験体の結膜円蓋に留置することとを含む、方法。
眼表面感染症を治療する方法であって、治療を必要とする被験体を同定することと、請求項14に記載のナノ構造生体適合性ウェファーを得ることと、前記ナノ構造生体適合性ウェファーを前記被験体の結膜円蓋に留置することと、前記ナノ構造生体適合性ウェファーを1ヶ月〜2ヶ月の期間に亘り前記結膜円蓋に維持することとを含む、方法。
眼障害の治療に対する注射用徐放製剤であって、前記製剤が、各々が生分解性ポリマーで形成される複数の微小粒子内に含有される薬物と、前記微小粒子上に被覆された組織反応性化合物とを含み、前記微小粒子が1μm〜40μmのサイズを有し、前記微小粒子が20重量%〜30重量%の前記生分解性ポリマーと、5重量%〜20重量%の前記組織反応性化合物とを含有する、注射用徐放製剤。
前記生分解性ポリマーが、ポリラクチド−co−グリコリド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(アミノ酸)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド三元共重合体、ステアリン酸PEG、PEG−ジステアロイル−s
n−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、アルブミン、コラーゲン、レシチン、キサンタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項24に記載の注射用徐放製剤。
前記薬物がデキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、プロピオン酸フルチカゾン、エタボン酸ロテプレドノール、及びそれらの組合せから選択される、請求項26に記載の注射用徐放製剤。
前記組織反応性化合物が4−アームPEG−グルタル酸スクシンイミジル、4−アームPEG−アミン、又はそれらの組合せである、請求項24〜28のいずれか一項に記載の注射用徐放製剤。
【背景技術】
【0002】
眼に対する現在の治療法の限界
現在、ほとんどの眼科用薬物は点眼薬の形態で投与される。単回の点眼で投与された薬物のわずか約5%が眼組織によって吸収され、残りは鼻涙管ドレナージを通して失われる。さらに、眼空間からの点眼製剤の急速なドレナージは、頻回投薬レジメンを必要とさせる。これは、不便であるため患者のインコンプライアンス(incompliance:ノンコンプライアンス)をもたらし、その治療の治療上の価値は低くなる。
【0003】
ほとんどの眼科用薬物は疎水性小分子である。この理由のため、眼科用薬物の水中での制限された溶解性により、液体の点眼薬は典型的には懸濁物である。薬物懸濁物を生体適合性とするため、薬物は、吸収に先立ってまず眼において可溶化されなければならない。眼からの液の速いクリアランス速度は、結果的に低い薬物吸収速度及び非効率的な送達をもたらす。
【0004】
一方、完全に可溶化された薬物の点眼薬溶液は、薬物濃度レベルの急増に続く急速なクリアランスをもたらす。これは、おそらく刺激性の高レベルの薬物に続いて治療レベル未満の薬物をもたらす。
【0005】
緑内障治療に対するプロスタグランジンの最も商業的な製剤は、in−vivo及びin−vitroの両方の研究で角膜神経毒性を含む眼毒性と関連付けられる、一般的に使用される防腐剤の塩化ベンザルコニウムを含有する。防腐剤の慢性的な使用は、結膜細胞のアポトーシス及び炎症の誘導と相関する。したがって、緑内障治療に対する防腐剤を含まない戦略は、将来的な治療レジメンに対する設計スペースの一部となるはずである。
【0006】
歴史的に、徐放送達システムは、局所投薬によって眼房水中で起こる治療剤レベルのピーク値及びトラフ値を回避するため、治療剤の持続的な放出を提供するように設計された。前眼部の眼送達に対する徐放送達システムは、例えば、滞留時間を増すための粘性溶液、涙点プラグ、及び薬物被覆コンタクトレンズを含む。これらのシステムはいずれも点眼薬に対する利点及び別の不利益を有する。例えば、製造の課題に加えて、薬物溶出コンタクトレンズは、薬物が枯渇するにつれてレンズの視力の本来備わる変更によって視野に影響を与え、涙点プラグは臨床医による取り付けを必要とする。
【0007】
次に、眼の後眼房における疾患の治療法を検討すると、薬物は典型的には硝子体、テノン嚢下、又は上脈絡膜組織腔に注入される。眼の後部への複数回の注射は、感染及び網膜剥離のリスクを増す可能性がある。したがって、徐放システムは、頻回の注射の必要のない、慢性眼障害の治療に対する答えとなった。
【0008】
生分解性インプラント及びポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)マイクロスフェアは、徐放薬物送達に最も一般的に使用されている。マイクロスフェアの場合、製造プロセスによって、サイズ分布を有するマイクロスフェアが生じる。上記プロセスに応じて、送達システムのサイズ分布は幅広く変化する可能性があり、結果として多様な薬物放出をもたらす。幅広いサイズ分布は、マトリクスを通る薬物の拡散速度がその経路長さに依存することから、結果として正確でも予測可能でもない放出速度をもたらす可能性があ
る。放出速度に影響を与える他の因子は、ポリマー組成、マイクロスフェアマトリクスの水和速度、及び生分解によるマトリクスの浸食である。したがって、より小さいサイズのマトリクスは、より短い拡散経路長さ、及びより速い分解速度を有し、より速い薬物放出をもたらす。
【0009】
標準的な技術によって作製されたPLGAマイクロスフェアに対して単位時間当たり一定速度の薬物放出を達成することは困難である。典型的に観察されるのは、マトリクスが完全に崩壊するまで、薬物の「バースト(burst)」に続くマトリクスからの薬物の「ト
リックリング(trickling)」であり、カプセル封入された薬物の突然の予測不可能で完
全な放出、すなわち、用量ダンピング(dose dumping:過量放出)をもたらす。用量ダンピングは、薬物毒性に起因する望ましくない、予期しない副作用をもたらす可能性がある。マイクロスフェアサイズのより厳格な制御はふるい分け法によって達成されてきたが、これは、狭い粒径範囲に対するふるい分けの困難性のため、封入された薬物の著しい喪失をもたらすことが多い。
【0010】
さらに、マイクロスフェアは、組織に注入された場合に凝集して塊になりやすく、これもまた予測不可能な薬物放出速度をもたらす。これは、凝集したマクロスフェアが、凝集の寸法及び性質に応じた薬物放出速度を有するより大きな送達システムのようにふるまうことから、主な問題である。凝集物の形状及び内部特性は予測不可能であり、注入するごとに変化する可能性があることから、薬物放出の速度は投与ごとに変化することになる。これは、薬物動態の可変性及び予測不可能性をもたらす。
【0011】
上に言及されるように、薬物レベルが低すぎるとその薬物は効果がなく、薬物レベルが高すぎると毒性が生じる可能性がある。したがって、正確で予測可能な薬物放出に加えて、薬物のバイオアベイラビリティーにおける一貫性を保証するため、in−vivo投与後に分散状態でマイクロスフェアの剤形を保持するという重大な必要性がある。
【0012】
関連技術
特許文献1は、眼に薬物を送達しながら、ヒトの眼の涙管を流れる涙を遮断又は減少するための医療用補綴材を記載する。該補綴材は、治療剤を含有する脱水された架橋合成親水性ポリマーを含む。該補綴材は、患者の涙管に容易に挿入されるサイズに作られ、それが挿入される涙小管に一致して合うように、挿入時に断面幅で少なくとも1mmまで急速に膨張する。該補綴材は、医師がそれを患者の眼に挿入するのに特殊な機器を必要とする。
【0013】
特許文献2は、視野の外で眼の表面に静止するが、眼の上下瞼の結膜嚢の少なくとも一部に沿って角膜を取り囲むように設計されるデバイスを記載する。該デバイスは眼科用医薬を含む貯蔵器を有する。上記出願に記載される幾つかのデバイスは完全に非生体浸食性であり、その他は部分的に生体浸食性である。
【0014】
特許文献3は、眼の病態の治療に対する少なくとも1つの治療剤を含む前房内インプラントを記載する。該インプラントは眼組織に固定されないが、眼の前眼房に存在する電流及び重力によって正しい位置に保持される。記載される高分子生分解性インプラントは、小柱網及び関連する眼組織と眼の前眼房内の流体との両方に対して少なくとも1つの治療剤の徐放を提供する。前房内インプラントは臨床医によって注入されなければならず、予期しない有害作用が発生した場合には更なる外科的処置を伴わずに除去することができない。
【0015】
特許文献4は、眼内圧の上昇を減少する徐放性の生分解性ポリエチレングリコール(PEG)眼内ラタノプロストインプラントを記載する。該インプラントを広げた場合に約1
00μm〜約500μmの厚さ及び約2mm〜6mmの直径のフィルムとして形成してもよく、又は約500μm〜1.5mmの直径及び約5μm〜約10mmの長さの押出しフィラメントとして形成してもよい。いずれのインプラントも針によって個体の眼に挿入され、少なくとも30日間に亘ってラタノプロストの延長放出を提供する。上記インプラントは、医師がインプラントを正しい位置に留置する必要があり、アレルギー反応が起きた場合に容易に取り除くことができない。
【0016】
特許文献5は、約200nm未満の粒径を有する包埋薬物ナノ粒子を備えたコンタクトレンズを記載する。包埋薬物は、該コンタクトレンズを眼に留置した場合に、水晶体後部の涙液層(post-lens tear film)へ拡散すること、及びコンタクトレンズを通して涙液
層へと移行することができる。上記技術は、レンズの製造と、包埋薬物粒子の結果生じる光偏向によるレンズの屈折力の維持との両方において意義のある挑戦である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
用語の定義
「生分解性ポリマー」は、in vivoで分解するポリマー(単数又は複数)を意味し、経時的なポリマー(単数又は複数)の浸食は、治療剤の放出と同時に、又はその後に起こる。「生分解性」及び「生体浸食性」の用語は、本明細書では同じ意味で使用される。生分解性ポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、又は3以上の異なるポリマー単位を含むポリマーであってもよい。上記ポリマーは、ゲル型又はハイドロゲル型ポリマーであってもよい。
【0026】
「眼の病態」は、眼の領域に影響を与える又はそれを侵す(involve)疾患、病気(ailment)、又は病態を意味する。大まかにいえば、眼は眼球及び眼球を構成する組織及び流体と、眼周囲の筋肉と、眼球内又は眼球に隣接する視神経の部分とを含む。
【0027】
前眼部の病態は、前眼部、すなわち眼の前部、眼周囲の筋肉、眼瞼、又は水晶体嚢若しくは毛様体筋の後壁の前に位置する眼球組織若しく流体等の眼の領域又は部位に影響を与える又はそれを侵す疾患、病気、又は病態である。したがって、前眼部の病態は、主に、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房(網膜の後ろであるが、水晶体嚢の後壁の前)、水晶体、又は水晶体嚢、並びに前眼領域又は部位に血管形成する又はそれを神経支配する血管及び神経に影響を与える又はそれを侵す。したがって、前眼部の病態として、無水晶体症、偽水晶体、乱視、眼瞼痙攣、白内障、結膜疾患、結膜炎、角膜疾患、角膜潰瘍、ドライアイ症候群、眼瞼疾患、涙器疾患、涙道閉塞、近視、老眼、瞳孔障害、屈折異常、及び斜視等の疾患が挙げられ得る。
【0028】
後眼部の病態は、主に、脈絡膜又は強膜(水晶体嚢の後壁を通る平面に対して後ろの位置にある)、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経、視神経乳頭、並びに後眼房部領域又は部位に血管新生する又はそれを神経支配する血管及び神経等の後眼の領域又は部位に影響を与える又はそれを侵す疾患、病気、又は病態である。したがって、後眼部の病態として、急性黄斑神経網膜症、ベーチェット病、脈絡膜血管新生、糖尿病性ブドウ膜炎、ヒストプラズマ症、真菌感染症又はウイルス感染症等の感染症、黄斑変性症(例えば、急性黄斑変性症、非滲出型加齢黄斑変性症、及び滲出型加齢黄斑変性症)、浮腫(例えば、黄斑浮腫、嚢胞様黄斑浮腫、及び糖尿病黄斑浮腫)、多病巣性脈絡膜炎、後眼部の部位又は位置に影響を与える眼の外傷、眼の腫瘍、網膜中心静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、増殖糖尿病網膜症、増殖硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞疾患、網膜剥離、ブドウ膜炎網膜疾患等の網膜障害、交換性眼炎、フォークト−小柳−原田病(VKH)症候群、ブドウ膜滲出、眼のレーザー治療によって引き起こされる又はそれに影響される後眼部の病態、光線力学的治療によって引き起こされる又はそれに影響される後眼部の病態、光凝固、放射線網膜症、網膜上膜障害、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、並びに非網膜症糖尿病性網膜機能不全(non-retinopathy diabetic retinal dysfunction)、網膜色素変性症等の疾患が挙げられる。
【0029】
「眼領域」又は「眼部位」は、眼の前区及び後区を含む、眼球の任意の領域を意味する。
【0030】
「結膜円蓋」は、下瞼を下側に引っ張ると露出される下眼窩における結膜領域である。
【0031】
「設計された組織」は、接触する組織へとポリマー自体を統合し、それによって徐放活性のため中に治療剤を包埋して組織へと放出させるポリマーを指す。
【0032】
「徐放」又は「制御放出」は、所定の速度でのインプラントからの少なくとも1つの治療的生理活性剤の放出を指す。徐放は、治療的生理活性剤が予測不可能な様式で単発的にインプラントから放出されるのではなく、具体的にそうするように意図されない限り、生物環境に接した際にインプラントから「バースト」しないことを意図する。しかしながら、本明細書で使用される「徐放」の用語は、展開(deployment)と関連する「バースト現象」を排除しない。
【0033】
「治療的有効量」は、眼又は眼の領域に対して著しいマイナス効果又は有害な副作用を引き起こすことなく、眼の病態を治療するため、又は眼の傷害若しくは損傷を減少若しくは予防するために必要な薬剤のレベル又は量を意味する。
【0034】
「緑内障」は、前眼房の疾患である。眼内圧(IOP)の変動は、緑内障性損傷に関する独立したリスク因子であるとされる。
【0035】
「電界紡糸」は、編物、又はメッシュ様材料を生成するためのポリマー繊維を生成する処理を指す。電界紡糸は、液体から非常に細い(典型的にはミクロ又はナノスケールの)繊維を引き出すために電荷を使用する。
【0036】
「マイクロカプセル封入」は、薬物を含有する高分子カプセル封入物を生成する処理を指す。
【0037】
実施形態
短期間又は長期間、医薬を送達するために患者の結膜円蓋に介護者又は患者によって留置され得る(
図1Aを参照されたい)、薬物含有ナノ構造の生分解性、生体適合性、柔軟性メッシュウェファーが開示される。薬物放出速度は、少なくとも1週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、又は6ヶ月に亘って持続させ、標的組織において治療的薬物濃度を達成するように調節され得る。上で考察される関連技術と異なり、上記ナノメッシュウェファーは眼に医薬を投与するための生物工学アプローチに由来する。ナノメッシュウェファーの厚さ、その曲げ弾性率、及びその酸素透過性は、その徐放プロファイル及び適時の生分解に加えて、長期の生体適合性に対する重要な側面である。さらに、この薬物送達システムの相互接続されたナノサイズ孔及びメッシュ構造は、細胞外マトリクスに酷似する、ウェファーにおける、ウェファーの周囲の、及びウェファーを通る流体流に対する導管である。これは、ウェファーを高度に水和させて異物反応及び結膜表面の損傷を減少する。
【0038】
ナノメッシュウェファーは、生分解及び薬物放出を制御する多彩な組成を有する一つの薬物又は複数の薬物を含むモノリス、共軸、又は三軸の繊維で形成され得る。
図5A、
図5B、
図5Cを参照されたい。ナノメッシュウェファーの一つの重要な側面は、長期間正しい場所にデバイスを保持するように、メッシュ中の他の成分また同様に組織と架橋するメッシュ中の成分の存在である。メッシュの別の重要な側面は、ナノメッシュウェファーを眼組織と高度に生体適合性にする膜適合性成分の包含である。
【0039】
ナノメッシュウェファーは、上に記載される眼科用医薬の点眼送達の欠点を解決する。ナノメッシュウェファーは、プラットフォームの徐放薬物送達システムであり、前眼房及び眼表面の障害を治療するための薬物を送達するために使用され得る。これらの障害としては、角膜炎、アレルギー性結膜炎、術後炎症(白内障、緑内障、角膜移植)、眼瞼炎、角膜裂傷/損傷、ドライアイ、真菌感染症及びメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)による角膜の感染症、並びに緑内障が挙げられるが、それ
らに限定されない。
【0040】
寸法に関して、ナノメッシュウェファーは、結膜円蓋に合うように適切なサイズにされる。ナノメッシュウェファーは柔軟であり、該ウェファーに組織表面との生体適合性を与えるために柔軟性を付与する原料を含有する。そのため挿入物の弾性率(the modulus)
は、組織表面のもの以下である。ナノメッシュウェファーは、結膜の上の眼の表面に留置され得る。該ウェファーは、注射可能なものでもインプラントでもない。該ウェファーは、急速に水和され、眼表面に付着する挿入物である。ナノメッシュウェファーは、角膜には留置されず、視野を妨げない。
【0041】
ナノメッシュウェファーのサイズは、ヒトの眼の結膜腔に合うように適切なサイズにされ得る。ナノメッシュウェファーのサイズは、厚さ0.1±0.05mm、幅5±0.5mm、及び長さ10±0.5mmであることが好ましい。
【0042】
構造上、ウェファーは、相互接続する連続気泡孔を有する薬物含有ナノ構造メッシュである。
図1C、
図1D、及び
図1Eを参照されたい。相互接続孔のメッシュサイズは、100nm〜200nm、200nm〜300nm、又は300nm〜600nmであって
もよい。代替的には、メッシュサイズは100nm〜600nmの組合せである。ナノメッシュウェファーの厚さは0.05mm〜0.5mm、好ましくは0.05mm〜0.1mmである。
【0043】
ナノ構造ウェファーは生分解性とすることができ、限定されないが、疎水性ポリマーであるポリラクチド−co−グリコリド(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(アミノ酸)、ヒアルロン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド−ポリエチレンオキサイド三元共重合体、ステアリン酸PEG、PEG−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、レシチン、キサンタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルブミン、コラーゲン、又はこれらの生分解性ポリマーの任意の組合せで形成され得る。
【0044】
生分解性ポリマーは、商業的に入手可能であり、ヒトの使用に対して承認されていることが好ましい。
【0045】
別の実施形態では、ナノ構造ウェファーは生分解性ではない。このウェファーは、高い酸素透過性を有するポリマーで形成され得る。例えば、ポリシロキサン及びポリメチルメタクリレート(PMMA)のポリマーを使用してナノ構造ウェファーを形成することができる。非生分解性ウェファーを、治療中又は治療後のいずれかの時に結膜円蓋からそのまま取り除くことができる。
【0046】
別の実施形態では、ナノ構造ウェファーは生分解性ポリマーと非生分解性ポリマーとのミックスで形成される。ポリマーは、先の段落で列挙されるもののいずれかであってもよい。
【0047】
ナノ構造ウェファーは、結膜組織に類似する水和曲げ弾性率を有するように生産される。ウェファーの水和曲げ弾性率は10mPa〜25mPaであることが好ましい。
【0048】
別の態様では、ナノ構造ウェファーは高い酸素透過性を有し得る。酸素透過性は、15Dk〜30Dk(例えば、15Dk、20Dk、25Dk、及び30Dk)であってもよい。特定の実施形態では、ウェファーの酸素透過性は25Dkである。
【0049】
ナノメッシュに組み込まれる薬物は、生分解性部分に含有される。組み込むため、薬物及び生分解性疎水性ポリマーは、酢酸エチル、エタノール又はアセトン等の好適な有機溶媒に溶解され、最適化された条件を使用してコレクタ板上へと電界紡糸される。生分解性ポリマー及びポリマーブレンドはマトリクスが分解するにつれて、また薬物がマトリクスを通る拡散通路を見出すにつれて薬物を放出する。分解の速度はナノメッシュウェファーの組成によって調節される。
図2A、
図2B、及び
図2Cを参照されたい。
【0050】
ナノメッシュウェファーの別の態様は、イオン結合又はナノメッシュ上の部分と共に組織表面に対するタンパク質の光複合体形成(light complexation)のいずれかによって眼結膜に結合するように、設計される。そのため、これらの部分はチオール化又はアミノ化されてもよい。
【0051】
ナノメッシュウェファーは、眼組織表面と反応する反応性基を有する粘膜付着性組織反応性成分を含有し得る。粘膜付着特性は、表面に荷電ポリマーを含むことによって、又は薬物負荷繊維の間に挿入されることによって組み込まれ得る。荷電ポリマーは、限定されないが、キサンタンガム、グアーガム、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、キシログルカン、キサンタンガム、ポリカルボフィル、ポリアクリル酸、タマリンド種子の多糖
、又はポリリジン等のポリアミノ酸とすることができる。
【0052】
ナノメッシュウェファーは、急速に水和して結膜組織に付着する、乾燥薬物含有システムとして適用され得る。別の実施形態では、ウェファーは、完全に水和された湿った状態で適用される。水和液は、限定されないが、アルブミン溶液、ヒアルロン酸を含有する溶液、又は生理食塩水であってもよい。
【0053】
別の実施形態では、ナノメッシュは薬物不含であり、創傷治癒促進材(wound healing aid)として利用されてもよい。
【0054】
さらに、ナノメッシュウェファーは、一つの層が他の層に重なり、各層がウェファーに対して特定の機能特性を与える2以上の別個の層を含んでもよい。層は、「編物」のように互いの間に挿入されてもよく、機械的強度、柔軟性、又は生体適合性の特性を与える。例えば、一つの層はポリマーマトリクス中に薬物を含み、他の層は組織反応性原料を含んでもよい。一つの層は一つの薬物を含み、別の層は別の薬物を含んでもよい。例えば、抗生物質及び抗炎症ステロイドを、各薬物について設計された異なる放出速度を有する別々の層に組み込んでもよい。
【0055】
上に記載されるナノ構造メッシュウェファーは、共軸繊維紡糸によって生産され得る。この実施形態では、この処理によって生産される繊維は、
図5Aに示されるように共軸フィラメントであり、薬物含有生分解性ポリマーであるコア2、及び粘膜付着性ポリマーである外層1を有する。
図5Bに説明される別の実施形態では、繊維は、内部薬物含有ポリマー5、内部薬物含有ポリマー5を取り囲む第2の薬物含有ポリマー4、及び粘膜付着性ポリマーで形成される外部ポリマー層3を有する三軸フィラメントとして生産され得る。代替的には、三軸フィラメントは、これもまた薬物を含有してもよい粘膜付着性ポリマーの層10に包埋された3つの薬物含有コア7、8、9を含んで作製されてもよい。
【0056】
ナノメッシュウェファーの別の実施形態では、生分解性薬物含有マイクロスフェアは、必要な薬物放出特性を達成するため、メッシュ上に噴霧されて、マイクロスフェア/メッシュ複合物を作り出すことができる。
【0057】
ナノメッシュウェファーは、繊維紡糸の様々方法によって作製され得る。例えば、繊維は、電界紡糸、エレクトロスプレー、溶融押し出し、溶媒押し出し(solvent extrusion
)、マイクロウィーブ、溶融紡糸、湿式紡糸、線引き、又はこれらの技法の組合せによって形成され得る。ナノメッシュウェファーは、溶液キャストと繊維紡糸との組合せによって形成され得る。層は、先に形成されたナノメッシュマットに上に記載される粘膜付着性ポリマーを含有する溶液の微細化(fine micronized)超音波噴霧を使用して形成されて
もよい。超音波噴霧は、ナノメッシュウェファーに粘膜付着性ポリマーの単層を形成する。また、メッシュは、3D印刷技術によって生産され得る。ナノメッシュウェファーは、ロール又はシートで生産され、真空下で乾燥され、サイズに合わせて切断することができる。
【0058】
緑内障の治療法の場合、ナノメッシュウェファーは、結膜円蓋の結膜組織によって素早く融合される高分子材料から製造され得る。挿入により、薬物含有ウェファーは水和してそれ自体が結膜に付き(mold)、角膜を通って眼の前眼房へと抗緑内障治療薬を徐放し始めるように設計される。
【0059】
上に記載されるナノメッシュウェファーは、長期使用の後に防腐剤によって誘導される毒性を回避するため防腐剤を含まなくてもよい。代替的な実施形態では、ナノメッシュウェファーは防腐剤を含有する。
【0060】
上記ウェファーは滅菌され、水分及び気体に対して不透過性の金属箔の滅菌パックで包装され得る。例えば、ナノメッシュウェファーは、エチレンオキサイド、γ線照射、又はUV光によって滅菌され得る。別の例では、繊維を形成する前のウェファーの各成分が滅菌濾過され、ナノメッシュウェファーが無菌的に形成される。
【0061】
ナノメッシュウェファーに組み込まれる薬物は、小分子、又はタンパク質、ペプチド、及び核酸等の巨大分子であってもよい。
【0062】
特定の実施形態では、ナノメッシュウェファーに組み込まれる薬物は、緑内障薬であってもよい。例えば、薬物は、限定されないが、プロスタグランジン、プロスタグランジン類縁体、及びプロスタミドであってもよい。
【0063】
一態様では、ナノメッシュに組み込まれるプロスタグランジンは、ラタノプロスト、タフルプロスト、ウノプロストン、又はビマプロストであってもよい。
【0064】
上に列挙される薬物に加えて、IOPを低下する任意の薬物を上記ナノメッシュウェファーに組み込むことができる。例えば、ブリンゾラミド及びチモロールを上記ナノメッシュウェファーに組み込むことができる。
【0065】
ナノメッシュウェファーは、ウェファー当たり0.5μg〜1000μg、例えば0.5μg〜50μg、1μg〜200μg、50μg〜100μg、100μg〜200μg、及び200μg〜1000μgの総量のプロスタグランジンを含有することができる。ウェファー中のプロスタグランジンの量は、100μg〜350μgの範囲にあることが好ましい。
【0066】
特定の実施形態では、ナノメッシュウェファーは、30日間のトラボプロストの徐放によって緑内障を治療する方法において使用され得る。
図2A及び
図2Bを参照されたい。別の実施形態では、ナノメッシュウェファーは、30日間のブリンゾラミドの徐放によって緑内障を治療するために使用され得る。
図4Dを参照されたい。別の実施形態では、緑内障医薬は、長期間、例えば60日間に亘って放出され得る。別の実施形態では、緑内障医薬は90日間、120日間、又は180日間に亘って放出され得る。ナノメッシュウェファーは、「バースト」の後に徐放されるようにトラボプロスト放出を調節するように製造され得る。一実施形態では、トラボプロスト特定の放出速度は、ウェファーの組成を変更することによって達成され得る。
図2A及び下記実施例1を参照されたい。
【0067】
別の実施形態では、上記ウェファーは必要な治療効果を達成するため、2つの抗緑内障薬を組合せて含有してもよい。例えば、2つの緑内障薬は、ブリンゾラミド及びトラボプロストである。別の実施形態では、2つの薬物はブリンゾラミド及び酒石酸ブリモニジンである。
【0068】
別の例では、ナノメッシュウェファーは、抗炎症薬及び抗菌薬の両方を含んでもよい。ナノメッシュウェファーは、エタボン酸ロテプレドノール及びトブラマイシンを含むことが好ましい。
【0069】
薬物放出の期間は、例えば1日〜7日、1日〜15日、1日〜30日、1日〜45日、1日〜60日、1日〜75日、1日〜90日、及び1日〜180日の範囲で薬物を放出するように最適化され得る。
【0070】
ナノメッシュウェファー当たりの薬物の絶対量は、0.001μg〜0.1μg、0.
01μg〜0.1μg、0.1μg〜0.5μg、0.5μg〜1μg、1μg〜10μg、10μg〜100μg、100μg〜500μg、500μg〜1000μg、1000μg〜2000μg、2000μg〜5000μg、及び5000μg〜10000μgであってもよい。
【0071】
上に言及されるように、薬物含有ナノメッシュウェファーは、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、及び酒さ等の眼の感染症、及び細菌感染に関連する障害を治療するために使用され得る。眼科用抗生物質は、アミノグリコシド、マクロライド、ポリペプチド、キノロン、及びスルホンアミドを含む多様な薬物クラスから利用可能である。さらに、多くは他の抗生物質又は副腎皮質ステロイドとの合剤製品として入手可能である。これら既存の承認された眼科用抗生物質はいずれも本明細書に記載されるナノメッシュウェファーに充填され得る。
【0072】
上に記載されるナノメッシュウェファーに組み込まれる抗生物質は、限定されないが、モキシフロキサシン、アジスロマイシン、ムピロシン、エリスロマイシン、シプロフロキサシン、ネチルマイシン、ベシフロキサシン、ガチフロキサシン、硫酸ゲンタマイシン、レボフロキサシン、オフロキサシン、スルファセタミドナトリウム、トブラマイシン、亜鉛バシトラシン、硫酸ポリミキシンB、ネオマイシン、及び硫酸ネオマイシンであってもよい。
【0073】
ナノメッシュウェファーは、現在の眼の抗生物質製剤に対して利点を提供する。より具体的には、上に記載されるナノメッシュウェファーは、細菌を効果的に排除する最低殺菌濃度より高い濃度で眼組織へと小用量の抗生物質を効率的に送達することができる。抗生物質点眼薬によって達成される用量等の最低殺菌濃度未満のより低い薬物濃度は、細菌が薬物耐性となることをもたらす場合がある。この送達様式は、MRSAの発生率を低下させることができる。一実施形態では、ナノメッシュウェファーは、鼻の内側のMRSAを治療するために利用される薬物のムピロシンを含む。
【0074】
別の態様では、ナノメッシュウェファーは抗ウイルス薬を含有し得る。ナノメッシュに組み込まれる抗ウイルス薬は、特定の実施形態では、単純ヘルペスウイルス(HSV)を治療するために使用され得る。HSVを治療するため使用される抗ウイルス薬は、例えば、アシクロビル、バラシクロビル、及びファムシクロビルであってもよい。ナノメッシュに組み込まれる抗ウイルス薬は、ウイルス性結膜炎を治療するために使用され得る。
【0075】
ナノメッシュウェファーに組み込まれる薬物を眼性酒さ(ocular rosacea)を治療するために使用することができる。眼性酒さの臨床症状を呈する患者は、典型的には皮膚の酒さ(dermal rosacea)も有する。眼性酒さは、赤み、瞼の痂皮、痒み、及び刺激を特徴する。現在、治療法はない。薬物は、皮膚の酒さに対して試験されている、又はFDA承認の下にある治療薬であってもよい。薬物は、組織で炎症を低下するために使用されるものであってもよい。薬物は、塩酸オキシメタゾリン、塩酸セチリジン、プロピオン酸フルチカゾン、フロ酸フルチカゾンであってもよい。眼性酒さを治療するために使用される薬物は、抗アレルギー医薬であってもよい。
【0076】
ナノメッシュに組み込まれる薬物は、眼の痛みを予防又は治療するために使用され得る。この例では、ナノメッシュに組み込まれる薬物は鎮痛薬である。薬物は、ブロムフェナクセスキ水和物、アンフェナク、ネパフェナク、アスピリン、イブプロフェン、ケトロラクトロメタミン、又は鎮痛活性及び抗炎症活性を有する任意の他の薬物から選択される。
【0077】
代替的には、ナノメッシュに組み込まれる薬物は、麻酔薬であってもよい。薬物は、限定されないが、リドカイン及びノボカインであってもよい。
【0078】
ナノメッシュは、創傷治癒成分を含有するように製剤化され得る。具体的には、ナノメッシュは、精製された1→3ベータグルカン、又は1→6ベータグルカンを含有してもよい。一例では、ナノメッシュは精製されたタマリンドシード多糖を含有する。別の例では、ナノメッシュはアルブミン、レシチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ベータグルカン、及びタマリンドシード多糖の組合せを含有する。
【0079】
更なる例では、ナノメッシュは、眼表面を潤滑する成分を含有し得る。かかる成分の例は、キサンタンガム、ヒアルロン酸、及びタマリンドシード多糖、又はそれらの組合せである。別の例では、ナノメッシュは脂質及び粘膜付着物質を含有し得る。
【0080】
一例では、ナノメッシュは、持続的にドライアイを治療するために使用され得る。さらに、ナノメッシュは、シクロスポリン等のドライアイ医薬を含有し得る。
【0081】
別の実施形態では、ナノメッシュウェファーは抗炎症薬を含有し得る。ナノメッシュに組み込まれる抗炎症薬としては、エタボン酸ロテプレドノール、プロピオン酸フルチカゾン、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾン、プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロン、ブデソニド、トリアムシノロンアセトニド、インドメタシン、ジクロフェナク、ネパフェナク、ブロムフェナク、プラノプロフェン、及び抗炎症活性を有し得る任意の他の薬物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
特定の実施形態では、ナノメッシュウェファーは、
図4Aに示されるように、20日間〜60日間に亘るエタボン酸ロテプレドノールの徐放によってアレルギー性結膜炎を治療するため使用され得る。
【0083】
別の態様では、ナノメッシュは抗真菌医薬を含有する。イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、及び抗真菌活性を有することが知られている他の抗真菌化合物をナノメッシュウェファーに組み込むことができる。
【0084】
ナノメッシュウェファーは、眼の表面に対して非刺激性となるように設計される。眼刺激に対するウェファー厚さの新規な相関が開示される。以下の実施例1を参照されたい。ウェファーを非刺激性とするため、ウェファーは0.5mm未満の厚さでなくてはならない。また、ウェファーの非刺激性の特徴は、その組成及び柔軟性に応じたものである。
【0085】
ナノメッシュウェファーに加えて、眼障害の治療に対するミクロサイズ又はナノサイズの薬物カプセル封入物を含有する注射用徐放製剤が開示される。注射用徐放製剤は、眼の前部の医薬及び眼の後部の医薬の両方を送達するために使用され得る。眼の前部の障害に対しては、徐放製剤は、複数回の点眼投与の必要をなくすため、シリンジによって結膜円蓋の組織に注入される。眼の後区の障害に対しては、医薬含有カプセル封入物は、硝子体、網膜下腔、脈絡膜上腔、テノン嚢下腔、又は後眼部空間にアクセスするため臨床医に知られている任意の他の空間に注入される。上記製剤は、眼の障害を治療することに限定されない。上記製剤は、種々の組織、例えば、眼、皮膚、創傷、尿生殖路、脳、肺、及び鼻における多数の病態及び障害の治療に使用され得る。
【0086】
注射用徐放製剤は、規定のサイズ、形状、及び特定の内部微小構造となるように正確に設計されるカプセル封入物を含有する。サイズ、形状、及び微小構造は、毒性症状を引き起こすことが知られているレベル未満に薬物濃度を維持しながら、例えば急速に及び持続して、明示される時間に亘って治療効果を達成するのに必要な速度で多層マトリクスから薬物又は複数の薬物を放出するように調節される。薬物の放出は、カプセル封入物の組成、サイズ、及びサイズ分布、並びに内部微小構造によって制御される。
【0087】
注射用カプセル封入物は、(a)27G〜31Gの針を通して注射可能であり、(b)硝子体等の組織又は組織液中で分散されたままであり、すなわち最小限度の凝集塊のままであり、かつ(c)持続した予測可能な薬物放出を呈する、ミクロサイズ又はナノサイズのカプセル封入物である。
【0088】
カプセル封入物の内部微小構造は、拡散及び分解の組合せによって制御される放出速度を有する固体となるように設計される。カプセル封入物の表面は、良好な流動特性を支持する表面コーティングによって、平滑となるように設計されている。
【0089】
カプセル封入物の内部微小構造は、同心円(
図5A及び
図5Bに示される断面図)からなってもよく、各円は特定の速度で薬物を放出するように設計されるポリマー組成物からなる。送達システムの内部微小構造は二軸であってもよく、2つの同心円は各軸を特徴付け(
図5Aの断面図を参照されたい)、各々薬物を含有するコアマトリクスとコロナマトリクスとを作る。代替的には、マトリクスは一体であり、薬物が組み込まれた単一の均質な組成を有する。各同心円は、異なるマトリクスで形成されてもよい。また、微小構造は、各々異なる薬物及び/又はマトリクス成分を含有する3以上の同心円を持つ、多軸であってもよい。
図5Bの断面図を参照されたい。カプセル封入物の内部微小構造は、より大きな軸の中に複数の軸を有する、共軸であってもよい(
図5C)。カプセル封入物の形状は、カプセル封入物を製作するために利用される処理に応じて、円筒状、円盤状、球状、正方形、及び長方形であってもよい。カプセル封入物の内部断面微小構造は多層であり、各層の構造及び厚さは特有であり規定される。各層の組成は、各層を製作するために使用されるポリマーブレンドの組成を変化することによって変化する。各層のポリマーブレンドの組成は、薬物の放出を調節するために変えることができる。
【0090】
カプセル封入物の微小構造は、マトリクスの連続相を含む別のポリマー組成物に含まれる一つのポリマー組成物の局在化領域(不連続相)からなってもよい(
図5Cを参照されたい)。
【0091】
一実施形態では、第1層は高分子マトリクス中に組み込まれた第1の薬物からなり、その組成物は或る特定の速度(速度1)で第1の薬物を放出するように設計される。第2層は高分子マトリクス中に組み込まれた第2の薬物からなり、その組成物は別の速度(速度2)で第2の薬物を放出するように設計される。一例では、第1の薬物を含有する層1中のマトリクスは数時間、数週間、数ヶ月以内に薬物を放出し得るのに対し、第2の薬物を含有する層2中のマトリクスもまた数時間、数週間、又は数ヶ月以内に薬物を放出し得る。
【0092】
薬物は各マトリクスで同じであってもよい。代替的には、薬物は各マトリクスで異なってもよい。
【0093】
カプセル封入物のサイズは、100nm未満、10nm〜100nm、101nm〜200nm、201nm〜400nm、401nm〜600nm、601nm〜800nm、801nm〜1000nm、1ミクロン〜10ミクロン、10ミクロン〜20ミクロン、20ミクロン〜30ミクロン、30ミクロン〜40ミクロン、40ミクロン〜50ミクロン、50ミクロン〜60ミクロン、60ミクロン〜70ミクロン、70ミクロン〜80ミクロン、80ミクロン〜100ミクロン、100ミクロン〜150ミクロン、150ミクロン〜300ミクロン、300ミクロン〜1000ミクロンであってもよい。一実施形態では、棒状の場合、カプセル封入物の縦横比は1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、及び1:10であってもよい。カプセル封入物の形状は、棒状、ウェファー様、円盤状、立方体様、円筒状、及び長方形であってもよい。
【0094】
カプセル封入物を形成するマトリクスは、様々な生分解性ポリマーを合わせることによって調節された生分解速度を有する、生分解性であってもよい。生分解性ポリマーは、限定されないが、ポリジオキサノン、PLG、PCL、ポリ(カプロラクトン−co−グリコリド)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(エチレンオキサイド−co−ラクチド)、ポリエチレングリコール及びそれらの組合せとすることができる。別の実施形態では、マトリクスを、PVA、様々な分子量のヒアルロン酸、様々な分子量のキトサン、PEG−コレステロール、アルブミン、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ソルビタン、PEG−ヒマシ油、カプリン酸、ビタミンE−PEG、PEG−脂肪酸、及びこれらの成分の組合せ等の生分解性を与えるポリマー及び賦形剤と混ぜ合わせることができる。
【0095】
in−vivoでの凝集を減らす、又は防止するため、カプセル封入物の表面特性を最適化して互いに対して、及び組織空間に対して非付着性とすることができる。
【0096】
組織への分散を高める一つの方法は、組織の割れ目への「滑り性」を提供するコーティング剤でカプセル封入物の表面を最適化することである。そのために、中でもPEG系又はポリシロキサン系のコーティング剤を使用することができる。また、シリコーン、レシチン、ホスファチジルコリン、アルブミン、及びコラーゲン等の分子をこの目的に使用することができる。注射用製剤中のカプセル封入物の分散は、結果として組織内での薬物の効率的な分散をもたらす。
【0097】
カプセル封入物は、溶融押し出し、又は一軸、二軸、若しくは三軸のチューブ針を通る溶融紡糸の技法によって作製され、その後正確なサイズに切断され得る。
【0098】
別の実施形態では、放出される薬物分子は同じであり、例えば、1つの層からの薬物のバースト初期放出の後、別の層からの薬物のより遅い徐放を達成するため、薬物を異なる速度で放出する各マトリクス層を有する。
【0099】
カプセル封入物を製作する他の方法は、3D印刷、共軸針を通る電界紡糸の後のフィラメントのサイズ切断、及び水−油−水、油−水、又は油/油の技法によるコア−シェルマイクロスフェアの形成である。
【0100】
薬物及びポリマーの有機溶媒への溶解の後、ポリマーカプセル封入薬物をスフェアへと沈澱する溶媒系への超音波噴霧によって均一な「液滴」を生成することによって薬物を生分解性マイクロスフェアにカプセル封入することができる。サイズは、液滴のサイズを制御することによって制御され得る。沈殿浴はシリコーンポリマーを含んでもよく、マイクロスフェアの表面に滑り性誘導賦形剤を組み込む原料を含んでもよい。沈殿浴は、乳化特性を有する水溶性ポリウレタンを含んでもよい。
【0101】
効率的で有益な分散物の別の例では、薬物含有カプセル封入物は、眼の脈絡膜下腔へと注入される。カプセル封入物は、網膜を取り囲むこの空間に分散し、拡散するように設計される。カプセル封入物中のマトリクスからの薬物は均一な流れで網膜へと放出され得る。継続的な分散が有益な別の例では、カプセル封入物を慎重に点状に(remain discreet and punctate)留まるように製造することができ、単位時間当たりに予測量の薬物を放出する。
【0102】
注射用製剤中のカプセル封入物は、投与後の凝集塊を最小化するために粒子の既知の分散剤である賦形剤で表面コーティングされ得る。これらの賦形剤として、限定されないが、ステアリン酸PEG40、PEG−レシチン、PEO−PPO−PEO構造のポリマー
、グリココール酸、及びコール酸が挙げられる。カプセル封入物上のコーティング剤は、正に帯電してもよく、負に帯電してもよく、又は中性であってもよい。
【0103】
別の例では、カプセル封入物は、超音波噴霧によってシリコーンで表面コーティングされ得る。「非粘着性」注射用カプセル封入物を作製するための別の方法では、表面コーティング剤は注射用シリコーン及びエタノールを含む洗浄工程によって添加されて、シリコーンの非常に細かい層の堆積を可能としてもよい。注射用シリコーンのみがこの目的に利用される。シリコーンで被覆されたマイクロスフェアは、注射された場合に「転がり(roll)」、すぐに分散する。
【0104】
別の例では、カプセル封入物はシリカ、二酸化チタン、アルブミン、又はポリビニルアルコールによってスプレーコートされ得る。
【0105】
一例では、カプセル封入物は、ヒアルロン酸、アルブミン、コラーゲン、又はそれらの組合せ等の生体適合性ゲル中に分散される。別の例では、カプセル封入物は合成疑似液中に分散される。
【0106】
別の例では、カプセル封入物は、血液ストックから抽出された血清血漿、疑似眼球液等の生体液、又は生体系において見られるアミノ酸及びポリアミノ酸に分散される。
【0107】
注射用徐放製剤は、標的化されて又は標的化されずに静脈内に送達され得る。これに関して、上記製剤中のカプセル封入物は、標的化抗体によって表面コーティングされ得る。
【0108】
別の実施形態では、カプセル封入物の表面特性は、食作用を促進するように、又は適切な免疫応答を誘発するように修飾され得る。例えば、注射用徐放製剤は、治療用又は予防用のいずれかのワクチンであってもよい。その場合、上記製剤中のカプセル封入物は、抗原提示細胞に対して標的化されて、問題の抗原に対する所望の免疫応答を誘発する。この目標を達成するため、単球及びマクロファージによる食作用による取込みを誘発する分子を有するようにカプセル封入物を表面改質することができる。例えば、アジュバント活性を有する分子を使用することができる。ベータ1→4/1→6グルカン、ザイモサン、水酸化アルミニウム、及び当業者に既知の他のアジュバントを利用してもよい。加齢性黄斑変性症(ARMD)の治療のため、上記製剤中のカプセル封入物の表面は、表面だけでなくカプセル封入物の内部にも、活性又は別薬物と同時活性的なベータグルカンを含有する。別の例では、β−アミロイドはベータグルカンに結合することによりカプセル封入物に対するホーミングシグナルとして作用し、β−アミロイドに結合する。別の実施形態では、各個別のマトリクスから放出される分子は、治療薬とアジュバントとの組合せであってもよい。
【0109】
別の実施形態では、カプセル封入物の表面特性は、組織表面に容易に付着するか、又は細胞への浸透を増強するように正に帯電されてもよい。カプセル封入物の表面は、組織空間でタンパク質と相互作用するように最適化され得る。
【0110】
カプセル封入物は、細胞に対して適合性及び非毒性となるように当業者に既知のポリマーで被覆される。これに関連して、カプセル封入物は、持続した期間に亘って薬物を放出することから、カプセル封入物のマクロカプセル化(macro-encapsulation)を防止する
ため、アルブミン、レシチン、ホスファチジルコリン、PEG−ジステアロイルホスファチジルコリン(PEG2K/5K−DSPE)、PEG−コレステロール、PEG、PEG−脂肪酸(ステアリン酸PEG、ラウリン酸PEG等)等のポリマーで被覆され得る。
【0111】
カプセル封入物のマトリクス内に含有される薬物は、親水性であってもよく、又は疎水
性であってもよい。薬物は、小分子、タンパク質、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)、オリゴヌクレオチド(ODN)、DNA、アプタマー、又はRNAであってもよい。一実施形態では、マトリクスは、各々個別の治療意図を持つ複数の小分子を含有することができる。
【0112】
一実施形態では、注射用徐放製剤は、眼の病態を治療するため各眼の結膜円蓋に注入される。注射用徐放製剤中のカプセル封入物は、2週間超の期間に亘り1日当たり10ngの生物活性剤を放出する。別の例では、カプセル封入物は、in vivoで14日間超、好ましくはin vivoで60日間超、より好ましくはin vivoで最大72日間、より好ましくはin vivoで90日間超、より一層好ましくはin vivoで100日間超、最も好ましくはin vivoで120日間超の期間に亘って有効量の1又は複数の活性剤を放出する。
【0113】
一実施形態では、カプセル封入物は、緑内障を治療するため眼組織に注入される。一例では、薬物は、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、又はそれらの塩、エステル、及びプロドラッグである。
【0114】
別の実施形態では、各々別個のマトリクスから放出される分子は、治療薬とp−糖タンパク質(PGP)阻害剤との組合せであってもよい。
【0115】
別の実施形態では、放出される分子は、小分子及び生物学的物質(例えばARMDを治療するための抗VEGF分子)、及び炎症を治療するためのステロイドである。例示的実施形態では、ステロイドはトリアムシノロンアセトニドであり、抗VEGF分子はアバスチンである。別の例では、ステロイドはフルオシノロンであり、抗VEGF分子はペガタニブである。更なる例では、抗VEGF分子はラニビズマブ、ベバシズマブ、又はアフリベルセプトである。
【0116】
別の実施形態では、マトリクスから放出される分子は、抗生物質及びステロイドである。別の例では、抗癌分子はEGFR阻害剤である。一つのかかる例では、EGFR阻害剤はエルロチニブである。一つの例では、ステロイドはトリアムシノロンアセトニドであり、抗菌剤はトブラマイシンである。使用可能な他の抗菌剤は、コルチスポリン、エリスロマイシン、シクロスポリン、及び当業者に既知のこのクラスの他の抗菌剤である。
【0117】
上記マトリクスの一つに組み込まれ得る副腎皮質ステロイド及びNSAIDの例として、限定されないが、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、プロピオン酸フルチカゾン、フロ酸フルチカゾン、及びジフルプレドナートが挙げられる。一例では、薬物の一つは抗ヒスタミンである。別の例では、薬物の一つは抗アレルギー医薬である。
【0118】
一実施形態では、薬物カプセル封入物は、鼻腔内洗浄剤、又は鼻腔内スプレーとして送達される。一例では、薬物カプセル封入物は、抗アレルギー医薬及び鼻通路に対する鬱血除去剤を送達する。別の例では、鼻腔内送達マトリクスは、抗アレルギー薬と抗炎症薬とを同時送達する(co-delivers)。別の例では、薬物カプセル封入物は、肺投与に適する
ようにされた賦形剤と共に製剤化された噴霧乾燥粉末として肺に投与される。別の例では、薬物カプセル封入物は肺投与用に噴霧される。
【0119】
別の実施形態では、カプセル封入物層の一つは、抗体等の標的化部分、又は特異的レポーターに対してカプセル封入物を標的化する分子を含有する。この場合、第2層は、疾患を治療する治療薬を含有し得る。
【0120】
別の実施形態では、上記層の一つは、組織に対する送達システムを保持することができ
る生体適合性生体付着物質を含んでもよく、一方で該層は小分子又は生物学的物質のいずれかの治療薬を含有する。一例では、生体接着性分子はポリアクリル酸であり、治療薬はステロイドである。
【0121】
別の実施形態では、上記層の一つは細胞透過性成分を含んでもよく、一方で他の層は治療薬を含む。一例では、細胞透過性成分はポリソルベート20、ポリソルベート60、又はポリソルベート80である。別の例では、細胞透過性成分はマガイニン、メリチン、又は当業者に既知の任意の細胞透過性ペプチドである。
【0122】
また、白内障手術後の炎症を治療する方法が提供される。該方法は、白内障手術後にロテプレドノール含有マイクロカプセル封入物を有する徐放製剤を結膜腔に注入することを必要とする。マイクロカプセル封入物は、持続速度(sustained rate)1μg/日〜5μg/日で3週間の期間に亘ってエタボン酸ロテプレドノールを放出する。
【0123】
成功した薬物療法の一つの態様は、複数の薬物、しばしば様々な薬物放出レジメンで患者を治療できることである。その結果、患者は複数の薬物、しばしば複数回の注射、又は複数の丸薬を受けなければならない。
【0124】
腫瘍学治療は、患者に対して有効な治療法を開発するため複数薬物のカクテルを利用する合剤レジメンを含むことが多い。合剤レジメンの一つの例は、薬物レジメンが2つの異なる抗癌薬の徐放であってもよい網膜芽細胞種の治療におけるものである。合剤レジメンの別の例は、神経膠芽腫の治療に対する2つの異なる薬物の放出におけるものであってもよい。この例では、合剤レジメンはステロイドと抗癌薬との正確な制御された放出であってもよい。別の例では、合剤レジメンは抗菌薬と抗癌薬との正確な制御された放出であってもよい。
【0125】
一例では、薬物含有カプセル封入物は、滅菌濾過されるのに十分に小さい寸法である。薬物含有カプセル封入物は、0.22ミクロン未満のサイズ、0.2ミクロン〜0.5ミクロンのサイズ、0.5ミクロン〜1ミクロンのサイズ、1ミクロン〜2ミクロンのサイズ、2ミクロン〜10ミクロンのサイズ、10ミクロン〜20ミクロンのサイズ、20ミクロン〜40ミクロンのサイズ、40ミクロン〜60ミクロンのサイズ、60ミクロン〜100ミクロンのサイズ、100ミクロン〜200ミクロンのサイズ、又は200ミクロン〜500ミクロンのサイズであってもよい。
【0126】
任意の所与のマトリクス中のカプセル封入された薬物は、1日未満に100%放出され得るか、又は最長14日間まで持続的に放出され得るか、又は最長14日間〜30日間まで持続速度で放出され得るか、又は最長30日間〜150日間まで持続的に放出され得るか、又は最長150日間〜180日間まで若しくは最長1年まで持続的に放出され得る。
【0127】
薬物含有カプセル封入物に利用される治療剤は、以下に述べられる1又は複数の薬物を、単独で又は組合せのいずれかで含むことができる。また、利用される薬物は、以下に列挙される1又は複数の薬物の等価物、誘導体、又は類縁体であってもよい。薬物として抗緑内障薬、眼用薬剤、抗菌剤(例えば抗生剤、抗ウイルス剤、抗寄生虫剤、抗真菌剤)、抗炎症剤(ステロイド性又は非ステロイド性抗炎症薬を含む)、ホルモン、酵素又は酵素関連成分、抗体又は抗体関連成分、オリゴヌクレオチド(DNA、RNA、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド等を含む)、DNA/RNAベクター、ウイルス(野生型又は遺伝子組換え型のいずれか)又はウイルスベクター、ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外基質成分、及び1又は複数の生体成分を生成するよう構成されている生細胞を含む生物学的薬剤を含む医薬品を挙げることができるが、それらに限定されない。
【0128】
併合レジメンの別の例は、他の眼の後部の疾患のうち、糖尿病性網膜症(DR)、又はARMDによって引き起こされる黄斑浮腫の治療におけるものであってもよい。黄斑浮腫は炎症性因子によって引き起こされることから、しばしば、いずれも注射によって送達されるステロイド又は抗炎症医薬を処方する必要がある。持続して一定の速度で複数の薬物を同時に放出し得る注射用持続薬物送達システムは、これらの眼疾患に利用可能な治療法の状況を著しく変えることができた。同様に、眼の前部の疾患は、持続して一定の速度で複数の薬物を放出し得る単一の注射用徐放薬物送達製剤によって治療され得る。
【0129】
上に記載される注射用徐放製剤を使用して成され得る合剤レジメンの別の例は、手術後の抗生物質及び抗炎症薬の徐放である。白内障手術後に使用される抗炎症薬及び鎮痛薬の例は、ブロムフェナク、ネバナック、デュレゾール、プロピオン酸フルチカゾン、フロ酸フルチカゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロンアセトニド、ケトロラクトロメタミン、フルビプロフェン、モルヒネ、及びコデインである。
【0130】
2剤合剤レジメンの1つの実施形態は、真皮関連疾患の治療に対する抗菌剤及び抗炎症剤の徐放である。一例では、抗菌薬は抗真菌分子である。合剤治療の一つの実施形態は、抗菌薬と抗炎症薬との同時投与による泌尿器疾患の治療におけるものであってもよい。別の実施形態は、上記合剤レジメンは、造影剤及び治療薬の投与である。
【0131】
別の実施形態では、上記注射用徐放製剤は、真皮障害、CNS障害、GI障害、アルツハイマー病、又は脳の他の疾患、心血管疾患、直腸疾患、及び膣疾患の治療に使用され得る。
【0132】
別の実施形態では、上記注射用徐放製剤を診断に使用することができる。別の実施形態では、注射用徐放製剤を皮膚の外観を改善するための化粧品又は物質を送達するために使用することができる。別の例では、上記注射用徐放製剤を治療薬及び化粧品の送達に利用することができる。
【0133】
上記注射用徐放製剤を創傷被覆材に組み込むことができる。
【0134】
更なる推敲をせずとも、当業者であれば、上記詳細な説明に基づき、本発明をその最大限の範囲まで利用できると考えられる。以下の具体的な実施例は、単に説明を目的とするものと解釈されるべきであって、本開示の残りを決して限定するものではない。
【実施例】
【0135】
実施例1:トラボプロストを含有するナノメッシュウェファーの製作及び特性決定
製作
本実施例では、薬物負荷ナノメッシュウェファーを電界紡糸によって作製した。このプロセスは、細い紡糸口金のチップから繊維を紡糸するため静電気力及び機械的力を利用する(
図1Bを参照されたい)。紡糸口金は、DC電源装置によって正電荷又は負電荷に維持される。静電反発力がポリマー溶液の表面張力に打ち勝つと、紡糸口金から液体が流出して非常に細い連続フィラメントを形成する。そのようにして生産された乾燥メッシュは多孔質で柔軟であり、所望のサイズに切断することを可能とする。原材料はトラボプロスト(Cayman Chemicals)、PLGA RG503H(Evonik)、ステアリン酸PEG40(Sigma-Aldrich)、PEG3.35K(Carbowax)、F127(Spectrum)、及びPV
P(Plastone, ISP)であった。
【0136】
メッシュ特性を制御する因子は、処理条件、分子量、溶液の導電性、溶液のpH、チップからコレクタまでの距離、及び溶液の粘度である。メッシュの膨張パーセントは、メッシュの組成によって制御され、水溶性の高い内容物が多いメッシュはより高い水和作用を
有した。眼への挿入の目的のため、メッシュの急速な水和が組織適合性マトリクスの形成をもたらす。
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
推定されるトラボプロスト含有量は、10mm×1.5mm×0.22mm(長さ×幅×厚さ)のプロトタイプに対して0.1575mgである。30日放出プロファイルでは、これは、吸収に対して眼表面で放出されるおよそ5.25μg/日を提供し得る。有効な緑内障治療法には1.5μg/日が必要と推定される。
【0141】
ナノメッシュの厚さは、マイクロメートルスクリューゲージによって測定される(n=3)。結果を下記表4に示す。
【0142】
【表4】
【0143】
カプセル封入
薬物封入パーセントを特定するため、ナノメッシュに封入されたトラボプロストを最初にアセトニトリルに溶解した。ポリマーを水相に沈澱させ、HPLCによって上清を分析する。カプセル封入は、下記式によって計算される。
【数1】
【0144】
試料中のトラボプロストの量をHPLCによって特定した。この分析に対して、9.5mgのトラボプロストを量り分けて、それを1.5mL遠心管中の0.9416gメタノールに溶解することにより、重量測定的にストック溶液を作製した。これは、9.9884mg/gのトラボプロストストック溶液を生じた。元の9.9884mg/gのトラボプロストストック溶液から0.007μg/g〜142μg/gの濃度で連続希釈により標準を作製した。作製した標準は、0.00692μg/mL〜14.79μg/mLの範囲を有した。勾配プログラム及びZorbax RP C−18 4.6mm×150mmカラムを使用し、1mL/分の流速、37℃、220nm、20分間、40μLで分析を行った。トラボプロストは19分の保持時間を有する。
【0145】
下記表5に示されるように、プロトタイプのカプセル封入パーセントは79%〜85%で変化した。
【0146】
【表5】
【0147】
水和作用
ナノメッシュウェファーによる水分吸収速度を時間に応じて測定した。37℃のバッファー中でインキュベートされた乾燥ウェファーを使用して水和を行った。下記表6に示される結果は、水和パーセントが、ウェファーの親水性成分が高い場合に高かったことを示した。疎水性内容物の高いウェファー(例えば、ML−ES−06−7)については、水和は比較的低かった。急速な水和動力学が結果として眼組織からのウェファーの層剥離を生じるかどうかを実証するため、in−vivo調査を使用することができる。
【0148】
【表6】
【0149】
走査型電子顕微鏡検査
プロトタイプの走査型電子顕微鏡(SEM)は、直径200nm〜5ミクロンの個別の繊維による連続気泡構造を有する、細かく分かれたメッシュのナノ構造を示した。
図1Cを参照されたい。連続気泡構造は、ナノメッシュウェファーを通る流体の自由流出を可能とし、これは生体適合性挿入体にとって重大な特徴である。
【0150】
in−vitro放出
ナノメッシュウェファーを用いるin−vitro放出実験を、Float-y-lyzerにおか
れた100mgのウェファーにより行い、pH7.4及び37℃のバッファー溶液中でインキュベートした。該バッファーは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1%ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン(HPCD)を含んだ。
図2A〜
図2Dに示されるように、トラボプロストのin−vitro放出は、ナノメッシュ組成の変化によって調節可能であった。
【0151】
生分解及び局所刺激の可能性:
眼科用製品における可能性のある刺激リスクは常に関心事である。これに対処するため、薬物送達システムが生分解され、バッファー媒質中へと薬物放出されるにつれて、該薬物送達システムの表面pHを確認するためin−vitro調査を行った。感受性pHマイクロプローブを利用して、ナノメッシュウェファープロトタイプ(ML−ES−06−31)上で上記システムの表面pHを測定した。上記薬物送達システムの表面pHは劇的に落ちることはなく、pHは調査期間に亘って6.9〜7.2の範囲で変動した。
図3Bを参照されたい。in−vivoシナリオにおける流体反転(fluid turnover)は、ナノメッシュウェファーが生分解されることでそこから放出される低モルレベルの乳酸及び/又はグリコールを洗い流す。
【0152】
光酸化ストレス:
高強度のUV光(254nm、24時間)による光酸化分解についてナノメッシュウェファー(ML−ES−06−31)を試験した。データは、カプセル封入されたトラボプ
ロストの98%超が変化しなかったことを実証し、使用中のUV光暴露からの薬物の保護を示した。対照的に、バッファー単独中のトラボプロストの50%はこれらの条件下で分解された。
【0153】
角膜透過性調査:
ラボプロスト含有ナノメッシュウェファー(ML−ES−06−31)に対してフランセル角膜透過性調査を行った。新鮮な仔ウシ角膜をフランツ拡散セルにのせた。ナノメッシュ試料を5.28mmの直径を有するように打ち抜き、角膜の上に置いた。試料を20μLのバッファーで濡らした。レセプターチャンバーを新しい1%HPCDバッファーで満たした。時間点は、8時間に亘って毎時間1回、及び18時間後に1回であった。逆相HPLC法を使用して試料を分析した。角膜をチャンバーから回収し、薬物内容物に対して抽出した。
図3Aは、カプセル封入されたトラボプロストがウシ角膜を通る拡散に成功し、該薬物の酸形態であるトラボプロスト酸に変換されることを実証する。
【0154】
実施例2:プロトタイプの生体適合性スクリーニング
3つのナノメッシュウェファープロトタイプのin−vitro眼刺激検査を、マサチューセッツ州のMattek Corporationから購入した三次元角膜組織コンストラクトを使用して眼刺激について試験した。3つのナノメッシュウェファープロトタイプを公開されるプロトコルを使用して角膜組織コンストラクトに接触暴露した。Kandarova et al., Toxicology Letters 211, Supplement, 17 June 2012, pages S111-S112を参照されたい。この
内容はその全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0155】
60%超の細胞生存率を「NI(非刺激:non-irritating)」と分類した。ウェファーの最大厚さは非刺激とするため0.5mm以下にすべきであることが観察された。
【0156】
実施例3:ウサギ眼における眼刺激
上記ナノメッシュウェファーによるin vivo調査を、マサチューセッツ州ベッドフォードのToxikon Corpにおいて、正常圧のニューイングランドホワイトラビットで行う。滅菌メッシュをウサギの各眼の結膜円蓋に挿入する(一方の眼に空のナノメッシュ、反対の眼にトラボプロスト−ナノメッシュ、n=6のウサギ)。一方の眼にトラボプロスト含有ナノメッシュウェファー、反対の眼に空のナノメッシュウェファーを留置する前、及び留置後特定の時間点で、眼病変を等級付けするマクドナルド−シャタック分類(McDonald-Shattuck Classification Grading Ocular Lesions)に従って各眼を検査する。以下
のパラメーター:眼表面刺激の兆候(結膜充血、結膜浮腫、眼脂(discharge)、角膜混
濁、及び蛍光染)を含む細隙灯検査、炎症(前眼房の細胞及びフレア、虹彩炎)、瞳孔径(キャリパー)、及びIOP(TonoVet反跳式眼圧計)を評価する。トラボプロスト及びトラボプロスト酸の生体分析のため、シルマー試験紙を使用して涙液試料を収集する。1日目、ベースライン、ナノメッシュを留置した後0.25時間、0.5時間、1時間、2時間、4時間、及び8時間に評価を行い、その後、2日目及び3日目に1日2回、その後、合計4週間に亘って毎週評価を行う。任意の時点で重度の刺激又は炎症、例えば、持続的な赤み、眼脂、結膜浮腫、角膜着色、又はグレード2以上の細胞及びフレアが観察される場合、そのナノメッシュを除去し、動物を回復させる。全てのナノメッシュ群について、調査期間中、最も少ない刺激が観察されたか、又は刺激がなかった。
【0157】
実施例4:生体適合性と弾性率との相関
ナノメッシュプロトタイプを眼結膜の水和曲げ弾性率に一致するように最適化する。ナノメッシュウェファーに最適な弾性率の範囲は、生体適合性とするため、理想的には25MPa未満である。
【0158】
実施例5:酸素透過性と生体適合性との相関
酸素透過性は、眼組織における刺激と相関する。ナノメッシュウェファーに最適な酸素透過性の範囲は、20Dk〜30Dkの範囲である。
【0159】
実施例6:エタボン酸ロテプレドノールによるナノメッシュの製作及び特性決定
【0160】
【表7】
【0161】
【表8】
【0162】
【表9】
【0163】
これら2つのナノメッシュウェファーの厚さを3つの無作為領域に対して3回測定した。0.01未満の標準偏差は、エタボン酸ロテプレドノールナノメッシュウェファーの均一性を明らかにした。
【0164】
各ナノメッシュウェファーの中のカプセル封入されたトラボプロストの総量をHPLCによって測定した。ML−ES−03−48に対するカプセル封入はメッシュ中6%の標的に近い61.77mg/gであり、ML−ES−03−50に対する封入もメッシュ中10%の標的に近い96.27mg/gであった。
【0165】
これらのナノメッシュプロトタイプはいずれも1時間で薬物を放出しなかった。in vitro放出について、ML−ES−03−48は40日間で99.08%を放出し、これは30日間で100%を放出する所望の標的に近かったのに対し、40日間のML−ES−03−50の累積放出は比較的遅く、ML−ES−03−48よりも低いPEG.Sに起因する可能性があった。これら2つのナノメッシュウェファープロトタイプの曲げ強度は優れていた。これらのナノメッシュウェファープロトタイプはいずれも、親指と人
差し指とで折り曲げる(bent and flexed)ことができる。ML−ES−03−48及び
ML−ES−03−50は均一に作製されたことが観察された。
【0166】
実施例7:表面反応性部分を有するナノメッシュの製作
ナノメッシュウェファーは、5%4−アームPEG3K−グルタル酸スクシンイミジル(SG)及び4−アーム5%PEG−NH
2を、26%PLGA(RG503H)、上の表7に示されるものと同じ溶媒において電界紡糸溶液中0.7%ステアリン酸PEG、49%酢酸エチル及び11%エタノール、並びに薬学的有効成分(API)、この場合エタボン酸ロテプレドノールと共に組み込むことによって作製され得る。電界紡糸の条件を上の表8に示す。
【0167】
実施例8:PLGマイクロカプセル封入物中のエタボン酸ロテプレドノールの製作及び特性決定
エタボン酸ロテプレドノールは、眼組織において非特異的エステラーゼによって不活性な代謝産物へと急速に変換される「ソフト」ステロイドである。マイクロカプセル封入されたエタボン酸ロテプレドノール注射用徐放製剤は、手術直後に結膜嚢に注入され得ることが開示される。白内障手術後の炎症制御のため、注射用徐放製剤は、単回注入で2週間〜3週間の期間に亘って薬物を放出するように設計される。
【0168】
PLGを生分解性ポリマーマイクロカプセル封入物として使用した。エタボン酸ロテプレドノールの放出プロファイルに対するマイクロカプセル封入物の分子量、構造、及びサイズの役割、またサイズに応じた注射性能を調べた。
【0169】
マイクロカプセル封入物の作製:
狭いサイズ分布、最適サイズ、及び注射性能を達成するためエマルジョン処理によってPLGマイクロカプセル封入物を作製した。エタボン酸ロテプレドノールをSigma, Inc.
から購入した。異なる分子量のPLG(50:50 L:G)を利用してin−vitro放出に対する効果を評価した。酸末端基及びエステル末端基で末端処理した(terminated)PLGのブレンドをin−vitro薬物放出に対する効果を評価するため作製した。マイクロカプセル封入物を以下の通り作製した:
a.撹拌しながら蒸留水に固体PVAを添加することによって8%ポリビニルアルコール(PVA)のストック溶液を作製し、その後80℃まで加熱した。完全に溶解したら、溶液を25℃まで冷却し、その後、溶液53gをフェーズIIの作製のため等分した。8%PVAとは別に9.46%の塩化ナトリウム溶液を作製した。PVA溶液を撹拌しながら、塩化ナトリウムをPVA溶液にゆっくり注いだ。3.6グラムの酢酸エチルをフェーズIIに添加した。その後、フェーズIIを覆い、4℃で冷蔵した。均質化に先立って、ジャケット付容器が0℃に達した時にフェーズIIを該容器に注いだ。
b.エタノール及び酢酸エチルの50/50体積/体積混合物を作製した。重量を得て、記録した。エタボン酸ロテプレドノールをこの混合物に溶解してエタボン酸ロテプレドノールの30mg/mL溶液を作製した。例示的製剤KB−ES−02−55では、ロテプレドノール溶液は5%重量/重量のPE/F−127も含んだ。
c.PLGを酢酸エチルに溶解して5.2%溶液を作製した。1mLのエタボン酸ロテプレドノールストック溶液を、PLG溶液を撹拌しながらそこに等分した。完了したフェーズIを14ga管(14 ga tubing)に適合されたHamilton #1010気密シリンジに取った。フェーズIを作製した直後に使用した。フェーズIを室温に放置しても、冷蔵してもならない。均質化の実行を開始し、フェーズIをフェーズIIに注入してエマルジョン、すなわちフェーズIIIを生成した。直後にフェーズIIIを追加のH
2Oに注ぎ、最終マイクロスフェア懸濁物を作製した。
d.均質化の6分後、ジャケット付容器をパドルミキサーに移動し、450RPMで3時間撹拌した。この工程の間、最初の1時間の撹拌を0℃で行った。その後、20分間17
℃、その後20分間27℃、その後残りの時間は35℃に温度を上げた。3時間経過後、懸濁物を10℃まで冷却し、50mLの遠心管にピペッティングした。試料を10℃にて10000RPMで3回遠心分離した。
e.最初の遠心分離サイクルは、マイクロスフェアのペレット、及び大部分がPVA、NaCl、及び残留する酢酸エチルで構成される上清を生じる。
f.マイクロカプセル封入物を4℃の蒸留水で4回洗浄し、ペレットを1つに合わせた。マイクロカプセル封入物をイソプロパノール中のジメチコンと共に噴霧して非凝集性表面を提供した。
g.合わせたペレットを再懸濁し、100mLのビーカーにおいて5mL〜10mLの冷蔵した蒸留水で洗浄した。ビーカーをリントフリー紙で覆った後、乾燥するため凍結乾燥器に入れた。
【0170】
マイクロカプセル封入物の特性評価:
粒径分布(PSD):
当容量の水で希釈した希釈物中に20mg/mLで試料を懸濁した。500μLの懸濁物を分散媒質に分散させた(蒸留水中の希釈物の30倍希釈)。粒径をHoriba LA−950 Laser Diffraction Particle Analyzerで測定した。
【0171】
画像化:
乾燥カプセル封入物を走査型電子顕微鏡検査により特性評価した。
【0172】
カプセル封入(mg/G):
20mgのマイクロカプセル封入物を1mLのアセトニトリルに溶解し、混合しながら10mLのイソプロパノールを滴加した。1mLのスラリーを遠心分離(5分間、600RPM)し、HPLC分析用に上清を除去した。HPLC分析をRP C18カラム上で行った。
【0173】
適合性:
PLG及びエタボン酸ロテプレドノールの適合性をそれらのHPLCプロファイルの比較によって評価した。
【0174】
in−vitroバースト(%):
30mgのマイクロカプセル封入物を、2mLのポリプロピレン遠心管において1mLのPBS、pH7.4に再構成し、37℃で回転させた。1時間の時間点において、遠心管を15000RPMで遠心沈殿させた。HPLCによる分析のため1mLの上清を除去した。
【0175】
in−vitro放出:
200mg〜300mgのマイクロカプセル封入物を1mLのSpectraPorカセット(セルロース膜、分子量カットオフ(MWCO)1000kDal)に量り入れた。マイクロカプセル封入物を含有するカセットを45mLのPBSに入れ、50℃でインキュベートした。1時間後、及び20日間に亘って毎日、時間点試料を得た。試料をHPLCによって分析した。
【0176】
注射性能:
再構成液に懸濁されたマイクロ封入物の注射性能を23G及び27Gの両方の針を通して試験した。
【0177】
上記分析の結果を下記表10に示す。上記データは、エタボン酸ロテプレドノールがP
LG系マイクロカプセル封入物におけるカプセル封入に成功し得たことを実証した。マイクロカプセル封入物のサイズ分布は、9.3ミクロン〜40.4ミクロン(d
50)のサイズの範囲による処理条件の制御により調節され得る。サイズ、ポリマー構造、及び分子量に応じて生産された薬物のin−vitro放出の差を評価するためプロトタイプの迅速スクリーニングを可能とする、加速in−vitro放出試験を開発した。この試験を通して、エステル末端及び酸末端のPLG(50:50 L:G)(KB−05−34)のブレンドプロトタイプとは対照的に、より高分子でより大きなサイズのPLG(KB−05−01)は非常にゆっくりと薬物を放出したことが確認された。驚いたことに、エステル末端基PLGマイクロカプセル封入物(KB−05−25B)からの薬物放出速度は、同じ分子量(MW)(0.21dl/g)の酸末端基PLGマイクロ封入物(KB−05−28)からの速度よりも速かった。
【0178】
全てのバッチは上記プロトタイプの全サイズ範囲に対して27Gの針を通して注射可能であり、眼組織における注射に対して実行可能とした。PLGポリマー及びエタボン酸ロテプレドノールは適合性であるとされた。固体微小構造を有するように全てのPLGマイクロカプセル封入物を設計した。
【0179】
【表10】
【0180】
他の実施形態
本明細書に開示される特徴の全てを任意の組合せで組み合わせてよい。本明細書に開示されるそれぞれの特徴は、同じ目的、同等の又は類似の目的にかなう代替的な特徴によって置き換えることができる。このように、表現上特に記載が無い限り、開示されるそれぞれの特徴は、一連の包括的な同等の特徴又は類似の特徴の一例に過ぎない。
【0181】
上記詳細な説明から、当業者は、本発明の必須の特性を容易に突きとめることができ、そしてその趣旨及び範囲から逸脱しなければ、それを様々な使用及び状況に適合させるために、本発明の様々な変化及び変更を行うことが可能である。このように、他の実施形態も特許請求の範囲内である。