【課題】走行用モータを利用する車両用駆動システムにおいて、車両重量やコストの増大を抑制しつつ、モータを高出力化し、かつ、当該システムが持つポテンシャルを十分に発揮させる。
【解決手段】直列に接続されたバッテリBatt1,Batt2は、接続ノードが、インバータ15aが有するコンデンサA,Bの接続ノードと接続されている。インバータ15aは、モータ駆動電圧が各バッテリBatt1,Batt2の出力電圧よりも高くなるように、動作が制御される。バランス回路30は、バッテリBatt1,Batt2間の充放電制御を行うことによって、コンデンサA,Bの電圧をバランスさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
キャパシタは一般に、通常のバッテリよりも瞬間的に大電流を供給することができる。特許文献1の構成では、この応答性の良いキャパシタを、例えば車両発進時の加速に利用している。ところが、キャパシタはエネルギー密度が小さいため、モータへの長時間の電力供給は困難である。したがって、航続距離を確保するという面では、キャパシタを利用しないで、バッテリを利用する方が好ましい。
【0007】
ここに開示された技術は、走行用モータを利用する車両用駆動システムにおいて、車両重量やコストの増大を抑制しつつ、モータを高出力化し、モータへの長時間の電力供給を可能にし、かつ、当該車両用駆動システムが持つポテンシャルを十分に発揮させることを可能にする、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、発明者らは、上述した構成の車両用駆動システムについて、実験および検討等により、次のような知見を得ることができた。
【0009】
すなわち、上述した構成の車両用駆動システムでは、直列に接続した第1および第2バッテリについて、その接続ノードをグランドに接続し、バッテリ部から出力される電圧を低電圧化している。そして、インバータとして3レベルインバータを採用し、インバータから、バッテリ電圧よりも高いモータ駆動電圧が生成されるようにしている。これにより、重量が小さく、コストが低く、かつ、モータ出力が高い車両用駆動システムを実現することができる。
【0010】
しかしながら、発明者らによる実験の結果、上述した構成の車両用駆動システムでは、期待されるほどの出力性能が確保できないことが判明した。すなわち、インバータが有する、正側電圧を供給するコンデンサと負側電圧を供給するコンデンサとにおいて、消費エネルギーに偏りが生じてしまう。消費エネルギーの大きいコンデンサの電圧は低下し、消費エネルギーの小さいコンデンサの電圧は上昇する。この結果、電圧が上昇するコンデンサに接続されるMOSFET等の電気部品に対して過電圧が印加され、当該電気部品にダメージを与える可能性がある。この問題を回避するためには、インバータ出力を制限せざるを得ない。したがって、車両用駆動システムが持つポテンシャルを十分に発揮させることができない。
【0011】
すなわち、上述した構成の車両用駆動システムにおいて、モータ出力性能を十分に確保するためには、インバータが有する、正側電圧を供給するコンデンサと負側電圧を供給するコンデンサとにおいて、充電量/電圧のバランスをとることが重要である、との知見を得ることができた。この知見に基づいて、本願発明者らは、以下に説明するような構成を考案した。
【0012】
すなわち、ここに開示された技術では、車両用駆動システムは、駆動輪に駆動力を発生させるモータと、前記モータと電気的に接続されており、かつ、正側電圧を供給する第1コンデンサと、負側電圧を供給する第2コンデンサとを有するインバータと、前記インバータに電力を供給するバッテリ部と、前記インバータの動作を制御する制御装置とを備え、前記バッテリ部は、直列に接続された第1および第2バッテリを有し、かつ、互いに接続された前記第1バッテリの負極および前記第2バッテリの正極が、前記インバータが有する前記第1および第2コンデンサの接続ノードと接続されており、前記制御装置は、前記インバータから前記モータに出力される電圧が、前記第1バッテリの出力電圧および前記第2バッテリの出力電圧よりも高くなるように、前記インバータの動作を制御するものであり、前記車両用駆動システムは、前記第1および第2バッテリ間の充放電制御を行うことによって、前記第1および第2コンデンサの電圧をバランスさせるバランス回路を備える。
【0013】
この構成によると、バッテリ部において、直列に接続された第1および第2バッテリの接続ノードが、インバータが有する、正側電圧を供給する第1コンデンサおよび負側電圧を供給する第2コンデンサの接続ノードと接続されているので、グランドを基準にして、第1バッテリの出力電圧と同じ値の正の電圧と、第2バッテリの出力電圧と絶対値が同じである負の電圧とが、バッテリ部から出力される。そして、インバータから出力されるモータ駆動電圧が、第1バッテリの出力電圧や第2バッテリの出力電圧よりも高くなるように、インバータの動作が制御される。これにより、バッテリ部の出力を低電圧化して車両重量やコストを抑制しつつ、モータを高出力化することができる。さらに、バランス回路によって、第1および第2バッテリ間の充放電制御を行うことによって、第1および第2コンデンサの電圧をバランスさせることができる。これにより、モータのトルク変動を抑えつつ、車両用駆動システムが持つポテンシャルを十分に発揮させることができ、モータ出力性能を十分に確保することができる。
【0014】
また、前記バランス回路は、前記第1バッテリの正極と負極との間に直列に接続された第1および第2スイッチと、前記第2バッテリの正極と負極との間に直列に接続された第3および第4スイッチと、一端が、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの間のノードに接続されており、他端が、前記第3スイッチと前記第4スイッチとの間のノードに接続された、キャパシタとを備える、としてもよい。
【0015】
これにより、第1および第2コンデンサの電圧をバランスさせるバランス回路を、簡易な構成によって実現することができる。
【0016】
さらに、上述した車両用駆動システムは、前記バランス回路が有する前記第1〜第4スイッチのオン/オフを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記第2コンデンサの電圧が前記第1コンデンサの電圧より高いとき、前記第1および第3スイッチをオフにし、前記第2および第4スイッチをオンする第1動作を行い、その後、前記第1および第3スイッチをオンにし、前記第2および第4スイッチをオフにする第2動作を行い、前記第1コンデンサの電圧が前記第2コンデンサの電圧より高いとき、前記第2動作を行い、その後、前記第1動作を行う、としてもよい。
【0017】
これにより、第2コンデンサの電圧が第1コンデンサの電圧より高いときは、第1動作によって、第2バッテリのエネルギーの一部をキャパシタに蓄積し、第2動作によって、キャパシタに蓄積したエネルギーを第1バッテリに移動させることができる。また、第1コンデンサの電圧が第2コンデンサの電圧より高いときは、第2動作によって、第1バッテリのエネルギーの一部をキャパシタに蓄積し、第1動作によって、キャパシタに蓄積したエネルギーを第2バッテリに移動させることができる。
【0018】
また、前記バランス回路は、前記第2および第3スイッチ間のノードと、前記第1および第2コンデンサ間のノードとの間に設けられた、インダクタを備える、としてもよい。
【0019】
これにより、第1および第2バッテリ間の電圧差が小さいときでも、LC共振を利用して、キャパシタへエネルギーを移動させることができる。
【0020】
また、前記バッテリ部は、カートリッジ化された第3および第4バッテリが着脱可能に構成されており、装着された前記第3バッテリは前記第1バッテリと並列に接続され、装着された前記第4バッテリは前記第2バッテリと並列に接続される、としてもよい。
【0021】
これにより、着脱可能な第3および第4バッテリを、第1および第2バッテリの補助として利用することができる。
【0022】
また、前記インバータは、マルチレベルインバータである、としてもよい。
【0023】
これにより、インバータからモータに出力される電圧が、第1バッテリの出力電圧および第2バッテリの出力電圧よりも高くなるように、インバータの動作を容易に制御することができる。
【0024】
また、例えば、前記第1および第2バッテリの出力電圧は、60V以下である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、走行用モータを利用する車両用駆動システムにおいて、車両重量やコストの増大を抑制しつつ、モータを高出力化し、モータへの長時間の電力供給を可能にし、かつ、当該車両用駆動システムが持つポテンシャルを十分に発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
図1は実施形態に係る車両用駆動システムを車両に搭載したレイアウトの例であり、車両を側面から見た透視図である。
図2は実施形態に係る車両用駆動システムの構成例である。
【0029】
図1および
図2に示すように、車両1に、車両用駆動システム10が搭載されている。車両用駆動システム10は、後輪2aを駆動するエンジン12と、後輪2aに駆動力を伝達する動力伝達機構14と、後輪2aを駆動する主駆動モータ16と、前輪2bを駆動する副駆動モータ20と、主駆動モータ16に電気的に接続されたインバータ15aと、副駆動モータ20に電気的に接続されたインバータ15bと、インバータ15a,15bに電力を供給するバッテリ部18と、制御装置24と、エンジン12に供給する燃料を格納する燃料タンク30とを備える。すなわち、車両用駆動システム10は、ハイブリッド駆動システムである。
【0030】
エンジン12は、車両1の主駆動輪である後輪2aに対する駆動力を発生するための内燃機関であり、本実施形態では、ロータリーエンジンである。なお、エンジン12は。ロータリーエンジン以外のエンジン、例えばレシプロエンジンであってもよい。エンジン12は、車両1の前部に配置されており、動力伝達機構14を介して後輪2aを駆動する。
【0031】
動力伝達機構14は、エンジン12が発生した駆動力を主駆動輪である後輪2aに伝達するように構成されている。動力伝達機構14は、エンジン12に接続されたプロペラシャフト14a、クラッチ14b、および、有段変速機であるトランスミッション14cを備えている。プロペラシャフト14aは、車両1の前部に配置されたエンジン12から、プロペラシャフトトンネル(図示せず)の中を車両1の後方へ向けて延びている。プロペラシャフト14aの後端は、クラッチ14bを介してトランスミッション14cに接続されている。トランスミッション14cの出力軸は後輪2aの車軸(図示せず)に接続され、後輪2aを駆動する。
【0032】
主駆動モータ16は、車両1の主駆動輪である後輪2aに対する駆動力を発生するための電動機であり、エンジン12の後ろ側に、エンジン12に隣接して配置されている。主駆動モータ16はエンジン12と直列に接続されており、主駆動モータ16が発生した駆動力も動力伝達機構14を介して後輪2aに伝達される。本実施形態では、主駆動モータ16として、48Vで駆動される25kWの永久磁石同期電動機が採用されている。
【0033】
インバータ15aは、主駆動モータ16に隣接して配置されており、バッテリ部18から供給される直流電力を交流電力に変換して、主駆動モータ16に供給する。
【0034】
副駆動モータ20は、副駆動輪である前輪2bに対する駆動力を発生するための電動機であり、本実施形態では、各前輪2bのホイール内にそれぞれ収容されたインホイールモータである。本実施形態では、副駆動モータ20として、17kWの誘導電動機がそれぞれ採用されている。
【0035】
インバータ15bは、バッテリ部18から供給される直流電力を交流電力に変換して、副駆動モータ20にそれぞれ供給する。
【0036】
バッテリ部18は、本実施形態では、シート3の後方であって、燃料タンク30の前方に配置されている。本実施形態では、バッテリ部18は、4個のバッテリ18a,18b,18c、18dを備えている。なお、各バッテリ18a〜18dは例えば、出力電圧が48Vであり、その内部に直列接続された4個の12Vのバッテリセルをそれぞれ備えている。
【0037】
バッテリ18a,18bは、電気的に直列に接続されており、バッテリ部18に据え付けられている。また、後述するように、バッテリ18a,18bの接続ノード、すなわちバッテリ18aの負極およびバッテリ18bの正極は、インバータ15aと共通に、グランドに接続されている。また、バッテリ18cは、バッテリ18aと並列に接続され、バッテリ18dは、バッテリ18bと並列に接続されている。ここでは、バッテリ18c,18dは、カートリッジ化されたバッテリカートリッジになっており、バッテリ部18に着脱可能になっている。バッテリ部18は、カートリッジ化されたバッテリ18c,18dが装着されると、バッテリ18cがバッテリ18aと並列に接続され、バッテリ18dがバッテリ18bと並列に接続されるように構成されている。
【0038】
制御装置24は、エンジン12、主駆動モータ16と電気的に接続されたインバータ15a、および、副駆動モータ20と電気的に接続されたインバータ15bを制御して、車両1が、エンジン走行モードおよびモータ走行モードを適宜実行するように構成されている。具体的には、制御装置24は、マイクロプロセッサ、メモリ、インタフェイス回路、および、これらを作動させるプログラム(以上、図示せず)等によって構成することができる。
【0039】
エンジン走行モードとモータ走行モードの切り替え制御は、例えば次のように行われる。ここでは、車両1には、エンジン走行モードまたはモータ走行モードを選択するスイッチが設けられているものとする。
【0040】
市街地の中などで比較的低速で発進、停止が繰り返される間は、モータ走行モードに設定される。モータ走行モードでは、制御装置24は、バッテリ部18の電力をインバータ15aに供給し、主駆動モータ16を駆動する。一方で、制御装置24は、エンジン12に燃料が供給されないように制御し、エンジン12がトルクを発生しないようにする。この場合、車両1は、純粋に電気自動車(EV)として機能する。
【0041】
車両1が所定車速以上で走行している状態であっても、所定量以上の加速が行われていない状態では、モータ走行モードのままになり、主駆動モータ16によって車両1が駆動される。
【0042】
ここで、運転者によって上述のスイッチが操作され、エンジン走行モードに切り替えられ、アクセルペダルが踏み込まれたとする。エンジン走行モードでは、制御装置24は、エンジン12への燃料の供給を開始し、これにより、エンジン12がトルクを発生する。一方で、制御装置24は、インバータ15aの制御を停止し、主駆動モータ16による駆動を停止する。このため、運転者は、エンジン12により駆動される車両1の運転フィーリングを楽しむことができる。
【0043】
図3は実施形態に係る車両用駆動システムにおけるモータ駆動に係る主要回路の構成である。また、
図4は比較例に係るモータ駆動の主要回路の構成である。
【0044】
図3に示すように、本実施形態では、バッテリ部18のコネクタ4aとインバータ15aの4bとが、3本のワイヤ5(5a,5b,5c)によって電気的に接続されている。バッテリ部18において、バッテリ18a,18bが直列に接続されており、その接続ノードすなわちバッテリ18aの負極およびバッテリ18bの正極がグランドに接続されている。ワイヤ5aはバッテリ18aの正極に接続され、ワイヤ5bはバッテリ18aの負極およびバッテリ18bの正極に接続され、ワイヤ5cはバッテリ18bの負極に接続される。すなわち、バッテリ部18から、±48Vの電圧が出力される。
【0045】
インバータ15aにおいて、キャパシタ15c,15dが直列に接続されており、その接続ノードはワイヤ5bに接続されている。キャパシタ15cの他端がワイヤ5aに接続され、キャパシタ15dの他端がワイヤ5cに接続されている。すなわち、キャパシタ15c,15dには、96Vの電圧が印加されている。
【0046】
ここで、60V以下の低電圧では、高電圧安全対策が基本的に不要となり、低コストの素子や部品を用いることができる。具体的には、
図3の構成において、コネクタ4a,4bおよびワイヤ5について、低電圧用の安価な部品を利用することができる。また、ハーネス等の重量も大幅に低減することができる。
【0047】
一方、
図4の構成では、バッテリ部118において、バッテリ118a,118bが直列に接続されており、その両端の電圧である96Vがバッテリ部118から出力される。このため、バッテリ部118のコネクタ104a、インバータ115aのコネクタ104bには、高電圧対応の部品を用いなければならない。また、コネクタ104a,104bを接続するワイヤ105に関して、高電圧用の高価で重い配線を用いなければならない。
【0048】
すなわち、本実施形態の構成では、バッテリ部18において、直列に接続されたバッテリ18a,18bの接続ノードが接地されているので、グランドを基準にして、バッテリ18aの出力電圧と同じ値の正の電圧と、バッテリ18bの出力電圧と絶対値が同じである負の電圧とが、バッテリ部18から出力される。したがって、バッテリ部18の出力が低電圧化されるので、これにより、車両重量やコストを抑制することができる。
【0049】
そして、本実施形態では、バッテリ電圧48Vよりも高いモータ駆動電圧を得るために、インバータ15aとして、3レベルインバータを採用している。
【0050】
図5は3レベルインバータの概要を示す図であり、(a)は回路構成、(b)は出力電圧の波形を示す。
図5(a)に示すように、3レベルインバータでは、正側と負側にそれぞれ、直列接続した2個のスイッチング素子が配置されている。三相モータの制御のためには、計12(2×2×3)個のスイッチング素子が必要となる。バッテリ電圧として±48Vが与えられたとき、
図5(b)に示すように、スイッチング素子の制御によって、96Vのモータ駆動電圧を生成することができる。また、スイッチング素子として、IGBTと比べて耐圧が低いMOS−FETを用いることができる。
【0051】
図6は1相分のインバータ回路の構成例である。
図6において、スイッチング素子Q5,Q6の間の接続ノードがグランドと接続されている。スイッチング素子Q5にはスイッチング素子Q3と共通の駆動信号が与えられ、スイッチング素子Q6にはスイッチング素子Q2と共通の駆動信号が与えられる。
【0052】
図7は各相におけるスイッチング素子の駆動波形と、相間電圧の例である。
図7に示すように、駆動波形によって駆動された各相の電圧の差分が、その相間電圧になる。例えば、駆動波形Q1u〜Q4uによって駆動されたu相の電圧と、駆動波形Q1v〜Q4vによって駆動されたv相の電圧との差分が、相間電圧Vu−vになる。
図7に示すようなインバータ制御によって、例えば、±48Vのバッテリ電圧から、96Vのモータ駆動電圧を生成することができる。
【0053】
図8は実施形態に係る車両用駆動システムにおける、バッテリおよびインバータに係る回路構成の一例である。
図8の構成において、Batt1,Batt2は48Vのバッテリであり、
図2の構成におけるバッテリ18a,18bにそれぞれ対応している。バッテリBatt1の負極とバッテリBatt2の正極とが接続されており、その接続ノードが、インバータ15aのグランドと接続されている(中性点)。インバータ15aは、正側電圧を供給するコンデンサAと、負側電圧を供給するコンデンサBとを備える。バッテリBatt1とコンデンサAとは並列に接続されており、バッテリBatt2とコンデンサBとは並列に接続されている。すなわち、バッテリBatt1,Batt2の接続ノードが、コンデンサA,Bの接続ノードと接続されている。
【0054】
図8の構成では、バランス回路30が設けられている。バランス回路30は、バッテリBatt1,Batt2間の充放電制御を行うことによって、インバータ15aが有するコンデンサA,Bの電圧をバランスさせる機能を有する。制御部41は、バランス回路30の動作を制御する。
【0055】
図9はバランス回路30の回路構成例である。
図9のバランス回路30は、バッテリBatt1の正極と負極との間に直列配置されたスイッチS1,S2と、バッテリBatt2の正極と負極との間に直列配置されたスイッチS3,S4と、スイッチS1,S2間のノードとスイッチS3,S4間のノードとの間に設けられたキャパシタC30と、スイッチS2,S3間のノードと、バッテリBatt1の負極およびバッテリBatt2の正極との間に設けられたインダクタL30とを備える。制御部41がスイッチS1〜S4のオンオフを制御することによって、バッテリBatt1,Batt2の一方から、キャパシタC30を介して、バッテリBatt1,Batt2の他方へ、エネルギーを移動させることができる。バランス回路30の動作の詳細については後述する。
【0056】
図10はバランス回路30を設けることによる効果を示す図である。
図10(a)に示すように、インバータ15aにおいて、コンデンサAから消費されるエネルギーと、コンデンサBから消費されるとは、必ずしも等しくならない。この消費エネルギーの差は、コンデンサA,Bの電圧に偏りを引き起こしてしまう。バランス回路30は、このコンデンサA,Bによる消費エネルギーの差を解消する。これにより、
図10(b)に示すように、コンデンサA,Bの電圧に偏りが生じない。
【0057】
図11(a)は第1比較例に係る回路構成である。この第1比較例では、バッテリBatt1,Batt2の接続ノードとインバータのグランドとは接続されておらず、かつ、バランス回路30が設けられていない。
図11(a)の回路構成では、例えば、コンデンサAから消費されるエネルギーと比べてコンデンサBから消費されるエネルギーが大きいとき、
図11(b)に示すように、短時間のうちに、コンデンサBの電圧が低下し、コンデンサAの電圧が上昇する。この結果、インバータのMOSFETやコンデンサ等の電気部品に、最大定格電圧を超える過電圧が印加されることになり、電気部品にダメージを与える可能性が生じる。
【0058】
図12(a)は第2比較例に係る回路構成である。この第2比較例では、バッテリBatt1,Batt2の接続ノードとインバータのグランドとは接続されているが、バランス回路30が設けられていない。
図12(a)の回路構成では、コンデンサA,Bからの消費エネルギーに差があるとき、短時間でのコンデンサ電圧の偏りは回避できるものの、
図12(b)に示すように、時間の経過とともにコンデンサ電圧の偏りは大きくなっていく。この結果、いずれは、インバータのMOSFETやコンデンサ等の電気部品に、最大定格電圧を超える過電圧が印加されることになり、電気部品にダメージを与える可能性が生じる。
【0059】
これに対して本実施形態では、バランス回路30を設けたことによって、コンデンサ電圧の偏りを抑制することができる。したがって、インバータの電気部品がダメージを受ける可能性を回避することができる。また、インバータの制御自体に変更を加える必要がないため、モータトルクを安定して出力することができる。
【0060】
以下、バランス回路30の動作について説明する。
図13はバランス回路30の動作を示すフローチャートである。また、
図14はバッテリBatt2のエネルギーをバッテリBatt1に移す際の動作(Stage1−4)を示し、
図15はStage1−4におけるスイッチS1−S4のオンオフ動作を示す。
【0061】
バランス回路30の動作を開始するとき、制御部41は、コンデンサA,Bの電圧値を取得する(S11)。そして、コンデンサAの電圧よりもコンデンサBの電圧の方が高いときは(ステップS12でYES)、バランス回路30は、バッテリBatt2のエネルギーをバッテリBatt1に移動させる動作を行う。具体的には、
図14に示すようなStage1−4を実行する。
【0062】
まず、制御部41は、スイッチS1,S3をオフにし、スイッチS2,S4をオンにする。これにより、バッテリBatt2のエネルギーがキャパシタC30に移動しはじめる(
図14(a)Stage1)。次に、制御部41は、スイッチS1をオンにする。これにより、インダクタL30のエネルギーが放出(還流)される(
図14(b)Stage2)。次に、制御部41は、スイッチS1,S3をオンにし、スイッチS2,S4をオフにする。これにより、キャパシタC30のエネルギーがバッテリBatt1に移動しはじめる(
図14(c)Stage3)。次に、制御部41は、スイッチS2をオンにする。これにより、インダクタL30のエネルギーが放出(還流)される(
図14(d)Stage4)。以上のような動作によって、バランス回路30は、バッテリBatt2のエネルギーをバッテリBatt1に移動させる。
【0063】
また、コンデンサBの電圧よりもコンデンサAの電圧の方が高いときは(ステップS21でYES)、バランス回路30は、バッテリBatt1のエネルギーをバッテリBatt2に移動させる。このときの動作は、バッテリBatt2のエネルギーをバッテリBatt1に移動させる動作と同様であり、
図14から容易に類推できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0064】
なお、
図9のバランス回路30の構成において、インダクタL30は省いてもかまわない。ただし、インダクタL30を設けることによって、バッテリBatt1,Batt2間の電圧差が小さいときでも、LC共振を利用して、キャパシタC30へエネルギーを移動させることができる。
【0065】
以上のように本実施形態によると、車両用駆動システム10は、駆動輪2aに駆動力を発生させるモータ16と、モータ16と電気的に接続されたインバータ15aと、インバータ15aに電力を供給するバッテリ部18と、インバータ15aの動作を制御する制御装置24とを備える。バッテリ部18において、直列に接続されたバッテリBatt1,Batt2の接続ノードが、インバータ15aが有する、正側電圧を供給する第1コンデンサAおよび負側電圧を供給する第2コンデンサBの接続ノードと接続されているので、グランドを基準にして、バッテリBatt1の出力電圧と同じ値の正の電圧と、バッテリBatt2の出力電圧と絶対値が同じである負の電圧とが、バッテリ部18から出力される。そして、インバータ15aは3レベルインバータであり、インバータ15aから出力されるモータ駆動電圧が、バッテリBatt1の出力電圧やバッテリBatt2の出力電圧よりも高くなるように、インバータ15aの動作が制御される。これにより、バッテリ部18の出力を低電圧化して車両重量やコストを抑制しつつ、モータ16を高出力化することができる。
【0066】
さらに、車両用駆動システム10は、コンデンサA,Bの電圧のバランスをとるために、バランス回路30を備える。バランス回路30によって、バッテリBatt1,Batt2間の充放電制御を行うことによって、コンデンサA,Bの電圧をバランスさせることができる。これにより、モータ16のトルク変動を抑えつつ、車両用駆動システム10が持つポテンシャルを十分に発揮させることができ、モータ出力性能を十分に確保することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、インバータ15aは3レベルインバータであるものとしたが、本開示はこれに限られるものではなく、例えば、インバータ15aを、4レベルインバータ、5レベルインバータなどの他のレベルのマルチレベルインバータとしてもかまわない。また、インバータ15aをマルチインバータとはしないで、インバータ15aから出力されるモータ駆動電圧が、バッテリBatt1の出力電圧やバッテリBatt2の出力電圧よりも高くなるように、インバータの動作を制御するようにしてもかまわない。
【0068】
また、本実施形態では、バッテリ部18は、車両1に据え付けられたバッテリ18a,18bを備えており、かつ、カートリッジ化されたバッテリ18c,18dが着脱可能に構成されているものとしたが、バッテリの個数や形態はこれに限られるものではない。例えば、バッテリ部は、車両に据え付けられた2個のバッテリを備え、カートリッジ化されたバッテリは用いない構成としてもよい。あるいは、バッテリ18a,18bの一方または両方を、カートリッジ化されたバッテリとしてもかまわない。
【0069】
また、バッテリの電圧やバッテリを構成するバッテリセルの個数や電圧は、本実施形態で示したものに限られない。ただし、バッテリ部の出力を低電圧化して車両重量やコストを抑制する、という本開示の目的からすると、バッテリの出力電圧は、例えば60V以下であることが好ましい。
【0070】
また、本実施形態では、車両用駆動システムは、ハイブリッド駆動システムであるものとして説明を行ったが、本開示は、モータ駆動システムに適用してもよい。
【0071】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。