【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例において、例えば「イネ褐条病」とあるのは、「イネを宿主植物とする褐条病」を意味する。他の病害についても同様である。また、実施例において、「イネ褐条病菌」とあるのは、「イネ褐条病の原因となる病原菌」を意味する。他の病原菌についても同様である。
【0050】
試験例1 イネの病害に対する防除試験及びイネの生育試験
本試験例の供試作物として、イネ(
Oryza sativa、品種:コシヒカリ又はあきたこまち)を用いた。
【0051】
試験例1−1 イネ褐条病に対する防除試験
(1)病原菌の接種
イネ褐条病菌の菌株(細菌、MAFF106618菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、Potato Peptone Glucose Agar (PPGA)培地(組成:ジャガイモ 200gの煎汁 1000mL、ペプトン 5g、グルコース 5g、Na
2HPO
4・12H
2O 3g、KH
2PO
4 0.5g、NaCl 3g、寒天 18g)に植菌し、30℃で3日間培養した。培養後の培養液を、病原菌の濃度が10
8個cfu/mLとなるように超純水に懸濁し、イネ褐条病菌の懸濁液を得た。該懸濁液にイネ(品種:コシヒカリ)の種モミを浸漬し、アスピレーター(型番:MDA−015A、アルバック機工株式会社製)を用いて、0.03MPa条件下で60分間減圧接種して、イネ褐条病菌に汚染されたイネの種モミを得た。
【0052】
(2)防除剤処理
カリミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム十二水和物、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに5g溶解させて防除剤1を調製した。また、焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに5g溶解させて防除剤2を調製した。また、対照試験に用いる防除剤として、化学農薬であるイプコナゾール銅水和剤(商品名:テクリードCフロアブル(登録商標)、クミアイ化学工業株式会社製、200倍希釈液)、及び特定農薬である食酢(商品名:穀物酢、株式会社Mizkan製、40倍希釈液)を用いた。
前記のイネ褐条病菌に汚染された種モミを水道水に入れ、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種モミを、前記防除剤1、防除剤2、又は食酢の溶液に浸漬し、30℃で24時間催芽処理を行った。また、イネ褐条病菌で処理した種モミを、前記イプコナゾール銅水和剤の溶液に、15℃で24時間浸漬処理をした後、種モミを水道水に移し、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種モミを30℃で24時間催芽処理を行った。
なお、上記防除剤処理の対照試験として、前記のイネ褐条病菌に汚染された種モミを、前記防除剤処理を施さずに、水道水にて浸種、催芽処理を行った種モミを用意した。
【0053】
(3)防除効果の測定
培養土(パールソイル、株式会社関東農産製)を、合成樹脂製育苗箱(縦9cm×横14cm×高さ4cm)に、高さ3.5cmまで充填し、上記催芽処理後の種子を1育苗箱当たり300粒となるように播種、覆土し、温室内で育苗管理した。
葉齢2.5に発病苗数を計数し、発病苗率を算出し、下記式(1)にて防除価を算出した。なお、発病は目視にて判断した。試験は3連制で実施した。下記式(1)中、「処理区」とは各防除剤で処理した区画を、「無処理区」とは各防除剤で処理していない区画を意味する。
防除価=100−{(処理区の発病苗率/無処理区の発病苗率)×100} 式(1)
【0054】
試験結果を表1〜3に示す。なお、表中の防除価は、試験の平均値である。また、薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「−」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(防除剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表1〜3に示される通り、防除剤1(カリミョウバン)及び防除剤2(焼ミョウバン)を用いた場合は、細菌病であるイネ褐条病に対して高い防除効果を示すことがわかった。さらに、イネ褐条病に対して既に防除効果が知られているイプコナゾール銅水和剤や食酢に比べて、防除剤1(カリミョウバン)及び防除剤2(焼ミョウバン)はより高い防除効果を示すことがわかった。
【0059】
試験例1−2 イネもみ枯細菌病に対する防除試験
試験例1に準じた方法で、イネもみ枯細菌病に対する防除試験を行った。
イネもみ枯細菌病菌の菌株(細菌、MAFF302395菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、PPGA培地(試験例1−1と同様の組成)に植菌し、25℃で3日間静置培養して接種用細菌を得た。培養後のペトリ皿上のコロニーから集菌し、病原菌の濃度が10
8個cfu/mLとなるように超純水に懸濁し、イネもみ枯病細菌の懸濁液を得た。該懸濁液にイネ(品種:コシヒカリ)の種モミを浸漬し、アスピレーター(型番:MDA−015A、アルバック機工株式会社製)を用いて、0.03MPa条件下で60分間減圧接種して、イネもみ枯細菌病に汚染されたイネの種モミを得た。
前記のイネもみ枯細菌病菌に汚染された種モミを水道水に入れ、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種モミを、前記防除剤1、防除剤2、又は食酢の溶液に浸漬し、30℃で24時間催芽処理を行った。また、イネもみ枯細菌病菌で処理した種モミを、前記イプコナゾール銅水和剤の溶液に、15℃で24時間浸漬処理をした後、種モミを水道水に移し、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種モミを30℃で24時間催芽処理を行った。なお、上記防除剤処理の対照試験として、前記のイネもみ枯細菌病菌に汚染された種モミを、前記防除剤処理を施さずに、水道水にて浸種、催芽処理を行った種モミを用意した。
葉齢2.5に発病苗数を計数し、発病苗率を算出し、上記式(1)にて防除価を算出した。なお、3連制で実施し、発病は目視にて判断した。
試験結果を表4及び5に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
表4及び5に示される通り、防除剤1(カリミョウバン)及び防除剤2(焼ミョウバン)は、細菌病であるイネもみ枯細菌病に対して高い防除効果を示すことがわかった。さらに、防除剤1(カリミョウバン)は、食酢に比べて、より高い防除効果を示すことがわかった。防除剤2(焼ミョウバン)は、イプコナゾール銅水和剤に比べて、同等の高い防除効果を示すことがわかった。
【0063】
試験例1−3 イネ苗立枯細菌病に対する防除試験
試験例1に準じた方法で、イネ苗立枯細菌病に対する防除試験を行った。なお、本試験で用いる汚染種モミの混合率は2%とし、具体的には下記接種により得られた汚染種モミを、汚染種モミの割合が2%となるように非汚染種モミと混ぜて用いた。
イネ苗立枯細菌病菌の菌株(細菌、MAFF302466菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、PPGA培地(試験例1−1と同様の組成)に植菌し、30℃で2日間静置培養して接種用細菌を得た。培養後のペトリ皿上のコロニーから集菌し、病原菌の濃度が10
8個cfu/mLとなるように超純水に懸濁し、イネ苗立枯細菌病の懸濁液を得た。該懸濁液にイネ(品種:コシヒカリ)の種モミを浸漬し、アスピレーター(型番:MDA−015A、アルバック機工株式会社製)を用いて、0.03MPa条件下で60分間減圧接種して、イネ苗立枯細菌病に汚染されたイネの種モミを得た。得られた汚染種モミを、非汚染種モミと混合して、混合率が2%の混合種モミを得た。
前記混合種モミを水道水に入れ、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の混合種モミを、前記防除剤1、防除剤2、又は食酢の溶液に浸漬し、30℃で24時間催芽処理を行った。また、前記混合種モミを、前記イプコナゾール銅水和剤の溶液に、15℃で24時間浸漬処理をした後、混合種モミを水道水に移し、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種モミを30℃で24時間催芽処理を行った。なお、上記防除剤処理の対照試験として、前記混合種モミを、前記防除剤処理を施さずに、水道水にて浸種、催芽処理を行った種モミを用意した。
葉齢2.5に発病苗数を計数し、発病苗率を算出し、上記式(1)にて防除価を算出した。なお、3連制で実施し、発病は目視にて判断した。
試験結果を表6及び7に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
表6及び7に示される通り、防除剤1(カリミョウバン)及び防除剤2(焼ミョウバン)は、細菌病であるイネ苗立枯細菌病に対して高い防除効果を示すことがわかった。さらに、防除剤1(カリミョウバン)は、食酢に比べて、著しく高い防除効果を示すことがわかった。防除剤2(焼ミョウバン)は、イプコナゾール銅水和剤に比べて、同等の高い防除効果を示すことがわかった。
【0067】
試験例1−4 イネばか苗病に対する防除試験
(1)病原菌の接種
糸状菌病であるイネばか苗病に罹患したイネ株(品種:あきたこまち)から種子(自然感染種)を採取し、罹患していない種モミ(品種:あきたこまち)と混ぜて、自然感染種モミ率を20%とする混合種モミを得た。
【0068】
(2)防除剤処理
焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに、それぞれ10g、5g、2g、1g溶解し、防除剤3(100、200、500、1000倍液)を調製した。また、対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬であるイプコナゾール銅水和剤(商品名:テクリードCフロアブル(登録商標)、クミアイ化学工業株式会社製、200倍希釈液)を用いた。
前記の混合種モミを水道水に入れ、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種子を、上記防除剤3の各溶液に浸漬し、30℃で24時間催芽処理を行った。
また、前記の混合種モミを、上記イプコナゾール銅水和剤(200倍希釈液)、又は前記防除剤3(500倍液)の溶液に、15℃で24時間浸漬処理をした後、種モミを水道水に移し、15℃で7日間浸種処理した。浸種処理後の種モミを30℃で24時間催芽処理を行った。
なお、上記防除剤処理の対照試験として、前記の混合種モミを、上記防除剤処理を施さずに、水道水で浸種、催芽処理を行った種モミを用意した。
【0069】
(3)防除効果の調査
培養土(パールソイル、株式会社関東農産製)を、合成樹脂製育苗箱(縦9cm×横14cm×高さ4cm)に高さ3.5cmまで充填し、上記催芽処理後の種子を1育苗箱当たり300粒となるように播種、覆土し、20〜30℃の温室内で育苗管理した。
葉齢2.5に発病苗数を計数し、発病苗率を算出し、上記式(1)にて防除価を算出した。なお、発病は目視にて判断した。試験は3連制で実施した。
試験結果を表8に示す。なお、表中の防除価は、3連制試験の平均値である。また、薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「−」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(薬剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを意味する。
【0070】
【表8】
【0071】
表8に示される通り、防除剤3で処理したイネは、処理が浸種前か催芽時であるかに関わらず、防除価が高いことがわかった。このことから、本発明の防除剤は糸状菌病であるイネばか苗病に対し高い防除効果を示すことがわかった。
【0072】
試験例1−5 イネいもち病に対する防除試験
(1)供試作物の育成
培養土(パールソイル、株式会社関東農産製)を、合成樹脂製ポット(直径15cm、高さ17cm)に高さ16cmまで充填し、浸種・催芽処理をした種子(品種:コシヒカリ)を1ポットあたり4株となるように播種、覆土し、20〜30℃の温室内で育苗管理した。
【0073】
(2)防除剤処理
焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに5g溶解させて焼ミョウバン溶液(200倍液)を調製し、さらに展着剤として、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル(商品名:アプローチBI(登録商標)、花王株式会社製)を、前記焼ミョウバン溶液に対して1000倍希釈となるように加えて、防除剤4(200倍液)を調製した。また対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬であるアゾキシストビン水和剤(商品名:アミスターエイト(登録商標)、シンジェンタジャパン株式会社製)を蒸留水に1500倍で希釈して用いた。なお、薬剤処理をしない区画には、上記展着剤を蒸留水に1000倍で希釈したもの(展着剤加用蒸留水)を用いた。
5葉展開期のイネに対し、上記防除剤4、アゾキシストビン水和剤(1500倍希釈)、又は展着剤加用蒸留水を、処理量が1ポットあたり30mLとなるように手動噴霧器で散布処理した。各処理に対して、10ポットずつ供した。
【0074】
(3)病原菌の接種
イネいもち病菌の菌株(糸状菌、MAFF101512菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、オートミール寒天培地(BD Difco(TM)ベクトン・ディッキンソン社製)に植菌し、25℃で10日間培養して分生子を得た。病原菌の濃度が10
4分生子/mLとなるように調製し、前記防除剤の処理1日後に、調製した本病菌分生子の懸濁液60mLを全供試株に手動噴霧器で噴霧接種し、接種後2日間多湿条件下(温度:25℃)に置いた。病原菌接種2日後のイネ生育ポットは、無作為に配置して温室内で管理した。
【0075】
(4)防除効果の測定
接種2週間後に1株当たり病斑数を計測して下記式(2)を用いて防除価を算出した。発病は目視にて判断し、具体的には斑点病斑の発生を発病と判断した。なお、計測は全供試株ついて行った。下記式中、「処理区」とは各防除剤で処理した区画を、「無処理区」とは各防除剤で処理していない区画(展着剤加用蒸留水で処理した区画)を意味する。
防除価=100−{(処理区の病斑数/無処理区の病斑数)×100} 式(2)
試験結果を表9に示す。薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「−」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(薬剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを意味する。
【0076】
【表9】
【0077】
表9に示される通り、防除剤4で処理したイネは、展着剤で処理したものと比べて、1株あたりのイネいもち病由来の病斑の発生が抑えられることがわかった。このことから、本発明の防除剤は糸状菌病であるイネいもち病に対して高い防除効果を示すことがわかった。
【0078】
試験例1−6 イネごま葉枯病に対する防除試験
試験例1−5に準じた方法で、イネごま葉枯病に対する前記防除剤4(200倍液)を用いた防除試験を行った。
なお、イネごま葉枯病菌の菌株(糸状菌、応用植物科学科保存株147菌株、本学より入手)を、ポテトデキストロース(PDA)培地(BD Difco(TM) ポテトデキストロース寒天培地、ベクトン・ディッキンソン社製)で培養した以外は、試験例1−5と同様に方法により培養・接種した。
病原菌接種2日後のイネ生育ポットを無作為に配置して温室内で管理し、接種2週間後に1株当たり病斑数を計測して上記式(2)を用いて防除価を算出した。発病は目視にて判断し、具体的には斑点病斑の発生を発病と判断した。なお、計測は全供試株について行った。
試験結果を表10に示す。
【0079】
【表10】
【0080】
表10に示される通り、防除剤4で処理したイネは、展着剤で処理したものと比べて、1株あたりのイネごま葉枯病由来の病斑の発生が抑えられることがわかった。このことから、本発明の防除剤は糸状菌病であるイネごま葉枯病に対して高い防除効果を示すことがわかった。
【0081】
以上のように、本発明の防除剤は、糸状菌病と細菌病のいずれの病害に対して高い防除効果を示すことがわかった。また、本発明の防除剤で処理したイネはいずれも薬害が見られず、正常に生育することがわかった。
【0082】
試験例2 キュウリの病害に対する防除試験及び生育試験
供試作物として、キュウリ(
Cucumis sativus、品種:ゆうみ637)を用いた。
【0083】
試験例2−1 キュウリうどんこ病に対する防除試験
(1)供試作物の育成及び発病
培養土(育苗培土 野菜・草花育苗用、タキイ種苗株式会社製)を、合成樹脂製ポット(直径12cm、高さ10cm)に高さ9cmまで充填し、そこにキュウリ種子を1ポットにつき1株となるように播種し、20〜30℃の温室内で育成管理した。なお、絶対寄生菌であるキュウリうどんこ病の発生は自然発生とした。
【0084】
(2)防除剤処理
カリミョウバン(硫酸カリウムアルミニウム十二水和物、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに5g溶解させてカリミョウバン溶液(200倍液)を調製し、さらに展着剤として、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル(商品名:アプローチBI(登録商標)、花王株式会社製)を、前記カリミョウバン溶液に対して1000倍希釈となるように加えて、防除剤5(200倍液)を調製した。また対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬であるメパニピリム水和剤(商品名:フルピカフロアブル(登録商標)、クミアイ化学工業株式会社製)を蒸留水に3000倍で希釈して用いた。また、生物農薬であるタラロマイセス フラバス水和剤(商品名:タフパール(登録商標)、出光興産株式会社製)を蒸留水に2000倍で希釈して用いた。なお、薬剤処理をしない区画には、上記展着剤を蒸留水に1000倍で希釈したもの(展着剤加用蒸留水)を用いた。各処理ポットは、無作為に配置して温室内で管理した。
調査葉である上位展開葉に病斑が認められない時期(播種後10日目)に、上記防除剤5、メパニピリム水和剤、タラロマイセス フラバス水和剤、又は展着剤加用蒸留水を、処理量が1ポットあたり30mLとなるように手動噴霧器で散布処理した。
【0085】
(3)防除効果の測定
上記防除剤散布処理9日後に、第2本葉について、キュウリうどんこ病による葉1枚あたり病斑数を目視にて計数し、上記式(2)にて防除価を算出した。なお、計測は各防除剤処理につき12ポット行った。
試験結果を表11に示す。なお、表中の病斑数及び防除価は、供試株(12株)の平均値である。また、薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「−」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(防除剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを意味する。
【0086】
【表11】
【0087】
表11に示される通り、防除剤5で処理したキュウリの第2本葉は、展着剤で処理したものと比べて、葉1枚あたりのキュウリうどんこ病由来の病斑の発生が抑えられることがわかった。このことから、本発明の防除剤は糸状菌病であるキュウリうどんこ病に対して高い防除効果を示すことがわかった。
【0088】
試験例2−2 キュウリ斑点細菌病に対する防除試験
(1)供試作物の育成
培養土(育苗培土 野菜・草花育苗用、タキイ種苗株式会社製)を、合成樹脂製ポット(直径12cm、高さ10cm)に高さ9cmまで充填し、キュウリ種子を1ポットにつき1株となるように播種し、20〜30℃の温室内で育成管理した。
【0089】
(2)防除剤処理
防除剤として、試験例1−5で調製した防除剤4を使用した。また対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬である銅水和剤(商品名:クプロシールド、エス・ディー・エス バイオテック株式会社製)を蒸留水に1000倍で希釈して用いた。なお、薬剤処理をしない区画には、上記展着剤を蒸留水に1000倍で希釈したもの(展着剤加用蒸留水)を用いた。
第2本葉展開中のキュウリ(播種後14日目)に対し、上記防除剤4、銅水和剤、又は展着剤加用蒸留水を、処理量が1ポットあたり30mLとなるように手動噴霧器で散布処理した。なお、試験は各防除剤処理につき7ポット(7株)供し、3連制で行った。
【0090】
(3)病原菌の接種
キュウリ斑点細菌病菌の菌株(細菌、MAFF730050菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、PPGA培地(試験例1−1と同様の組成)に植菌し、25℃で2日間静置培養して接種用細菌を得た。病原菌の濃度が10
8個cfu/mLとなるように調製し、前記防除剤処理の1日後に、調製した本病菌懸濁液50mLを全供試株に手動噴霧器で噴霧接種し、接種後24時間多湿条件下(温度:25℃)に置いた。接種24時間後、植物体のポットを温室に移して生育させた。
【0091】
(4)防除効果の測定
発病調査は、接種から5日後に第1本葉及び第2本葉それぞれの葉1枚当たり斑点数を目視にて計測し、上記式(2)を用いて防除価を算出した。なお、計測は各処理につき全株について行った。
試験結果を表12及び13に示す。薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「−」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(防除剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを、「+」とあるのは、同期間に薬害作用(防除剤処理による生育抑制、葉身の黄化)が認められたことを意味する。
【0092】
【表12】
【0093】
【表13】
【0094】
表12及び13に示される通り、防除剤4で処理した、第1本葉及び第2本葉のいずれにおいても、展着剤で処理したものに比べてキュウリ斑点細菌病由来の病斑の発生が抑えられることがわかった。このことから、本発明の防除剤は細菌病であるキュウリ斑点細菌病に対して高い防除効果を示すことがわかった。
さらに、キュウリ斑点細菌病に対して既に防除効果が知られている銅水和剤に比べて、防除剤4はより高い防除効果を示すことがわかった。また、銅水和剤で処理したキュウリの本葉は葉が黄化して生育抑制が認められるのに対し、防除剤4で処理したキュウリの本葉はそのような生育抑制が見られなかった。以上の結果から、本発明の防除剤は幼苗期での防除のためにも効果的に使用することができることがわかった。
【0095】
試験例2−3 防除剤散布処理がキュウリ葉色に及ぼす影響
試験例2−2の防除試験に供したキュウリ第2本葉の葉色を「FHK葉色カラースケール」(FHK富士平工業株式会社製)を用いて調査した。なお、FHK葉色カラースケールは葉色指数の数値が小さいほど黄緑色に近く、数値が大きいほど深緑色に近い。
試験結果を表14に示す。なお、表中の葉色指数は、第2本葉20〜21枚の葉色指数の平均値である。
【0096】
【表14】
【0097】
表14からわかるように、防除剤4で処理したキュウリの第2本葉は、銅水和剤や展着剤のみを処理したものに比べて、葉色指数が大きく、深緑色に近いことがわかった。
【0098】
以上のように、本発明の防除剤は、糸状菌病と細菌病のいずれの病害に対して高い防除効果を示すことがわかった。また、本発明の防除剤で処理したキュウリはいずれも薬害が見られず、正常に生育することがわかった。
【0099】
試験例3 コマツナ炭疽病に対する防除効果
(1)供試作物の育成
供試作物として、コマツナ(
Brassica rapa var.
perviridis、品種:いなむら)を用いた。
培養土(育苗培土 野菜・草花育苗用、タキイ種苗会社製)を、合成樹脂製ポット(直径9cm、高さ8cm)に高さ7cmまで充填し、コマツナ種子を1ポットにつき1株となるように播種し、20〜30℃の温室内で育成管理した。
【0100】
(2)防除剤処理
防除剤として、試験例1−5で調製した防除剤4を使用した。また対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬であるマンデストロビン水和剤(商品名:スクレアフロアブル(登録商標)、住友化学株式会社製)を蒸留水に2000倍で希釈して用いた。なお、薬剤処理をしない区画には、上記展着剤を蒸留水に1000倍で希釈したもの(展着剤加用蒸留水)を用いた。
播種後3週目のコマツナに対し、上記防除剤4、マンデストロビン水和剤及び展着剤加用蒸留水を、処理量が1ポットあたり30mLとなるように手動噴霧器で散布処理した。なお、各防除剤処理につき10ポットを供し、3連制で行った。
【0101】
(3)病原菌の接種
コマツナ炭疽病菌の菌株(糸状菌、MAFF305635菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、PDA培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)に植菌し、25℃で10日間培養した。病原菌の濃度が10
4分生子/mLとなるように調製し、前記防除剤の処理1日後に、調製した本病菌分生子の懸濁液50mLを全供試株に手動噴霧器で噴霧接種し、接種後2日間多湿条件下(温度:25℃)に置いた。接種2日後、植物体のポットを温室に移して生育させた。
【0102】
(4)防除効果の測定
接種後5日目のコマツナの1株当たりの斑点数を目視にて計測し、上記式(2)を用いて防除価を算出した。なお、計測は各防除剤処理につき全ポットで行った。
試験結果を表15に示す。なお、表中の病斑数及び防除価は、供試株(30株)の平均値である。また、薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「−」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(防除剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを意味する。
【0103】
【表15】
【0104】
表15に示される通り、防除剤4で処理したコマツナでは、展着剤のみを処理したものと比べて、病斑の発生数が抑えられることがわかった。このことから、本発明の防除剤は糸状菌病であるコマツナ炭疽病に対して防除効果を示すことがわかった。
【0105】
以上のように、本発明の防除剤は、コマツナの病害に対して防除効果を示すことがわかった。また、本発明の防除剤で処理したコマツナはいずれも薬害が見られず、正常に生育することがわかった。
【0106】
これらの結果から、ミョウバン化合物を有効成分として有する本発明の防除剤を処理することで、糸状菌病と細菌病のいずれの植物病害に対して高い防除効果を示すことがわかった。また、本発明の防除剤を処理しても植物体に薬害が認められず、さらに葉の色をより深い緑色に改質する効果を示すことがわかった。
【0107】
試験例4 本発明の抗菌活性試験
試験例4−1 イネばか苗病菌及びイネいもち病菌の菌糸伸長に対する効果
供試培地としては、焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、PDA培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)に対して重量基準で1/200倍量となるように添加して作製したPDA培地(焼ミョウバン加用培地)、及び対照試験として焼ミョウバンを添加していないPDA培地(無処理培地)を用いた。
供試菌株は、イネばか苗病菌(糸状菌、MAFF306883菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手;MAFF306892菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手;MAFF306883菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手;MAFF238531菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手;MAFF235953菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手;及び栃木農試菌株、栃木県農業試験場より入手)、イネいもち病菌(糸状菌、MAFF101229菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手;及び法政大菌株(応用植物科学科保存株140菌株;下記表において、「応植保存140菌株」と表す)、本学より入手)を用いた。これらの各供試菌株を用いてPDA平板培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)で培養コロニー周辺部の各供試菌株の含菌ディスク(直径5mm)を作製した。作製した各ディスクを前記焼ミョウバン加用培地及び無処理培地に置床し、25℃にて3日間培養後に各コロニーの直径を計測した。
試験結果を表16に示す。なお、下記表中のコロニーの直径は、5個のコロニーの平均値である。
【0108】
【表16】
【0109】
表16からわかるように、焼ミョウバンを添加したPDA培地では、無処理培地と比較して、各病原菌のコロニーの直径が小さいことがわかった。さらに、イネいもち病菌ではいずれの菌株においても、焼ミョウバンを添加した培地では生育できず、コロニーを形成しないことがわかった。
【0110】
試験例4−2 病原菌の生育に対する効果
供試培地としては、焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、WA寒天培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)に対して重量基準で1/200倍量となるように添加して作製したWA培地(焼ミョウバン加用培地)、及び対照試験として焼ミョウバンを添加していないWA培地(無処理培地)を用いた。
イネいもち病菌の菌株(糸状菌、MAFF101229菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)、イチゴ萎黄病菌の菌株(糸状菌、栃木農試菌株)、栃木県農業試験場より入手)、イネばか苗病菌の菌株(糸状菌、MAFF306883菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)、及びムギ類の赤かび病菌の菌株(糸状菌、法政大菌株(応用植物科学科保存株)、本学より入手)について、上記試験例4−1と同様の方法で直径5mmの供試菌株含菌ディスクを作製し、各ディスクを焼ミョウバン加用培地及び無処理培地に置床し、25℃で4日間培養して菌糸の生育状況等を光学顕微鏡(商品名:BX51、オリンパス株式会社製、倍率:100倍)を用いて観察した。なお、菌糸先端の状態は、下記評価基準によって判断した。
−評価基準
レベル0:無処理培地での菌糸先端の状態
レベル1:レベル0とレベル3の間で、レベル0に近い状態
レベル2:レベル0とレベル3の間で、レベル3に近い状態
レベル3:焼ミョウバン加用培地での麦類赤かび病菌の菌糸先端の状態
試験結果を
図1〜4に示す。
【0111】
(イネいもち病菌、MAFF101229菌株)
図1(b)で示すように、無処理培地で培養したイネいもち病菌は、菌糸先端は分岐せず、正常に伸長した。さらに
図2(b)で示すように、付着器の形成も確認された。このように、焼きミョウバンを添加しない場合、病菌の生育に異常は見られなかった。
これに対し焼ミョウバン加用培地で培養した場合、
図1(a)で示すように菌糸の生育が抑制され、菌糸先端にレベル2の樹枝状異常分岐が認められた。さらに
図2(a)で示すように、付着器の形成が認められなかった。このように、焼きミョウバンをイネいもち病菌に適用することで、病菌の生育が抑制された。
【0112】
(イチゴ萎黄病菌、栃木農試菌株)
図3(b)で示すように、無処理培地で培養したイチゴ萎黄病菌は、菌糸先端は分岐せず、正常に伸長した。これに対し、焼ミョウバン加用培地で培養した場合、
図3(a)で示すように菌糸生育が抑制され、菌糸先端にレベル2の樹枝状異常分岐が認められた。
【0113】
(イネばか苗病菌、MAFF306883菌株)
図4(b)で示すように、無処理培地で培養したイネばか苗病菌は、菌糸先端は分岐せず、正常に伸長した。これに対し、焼ミョウバン加用培地で培養した場合、
図4(a)で示すように菌糸生育が抑制され、菌糸先端にレベル1の樹枝状異常分岐が認められた。また、コイリング現象も認められた。
【0114】
(ムギ類の赤かび病菌、法政大菌株)
図5(b)で示すように、無処理培地で培養したムギ類の赤かび病菌は、菌糸先端は分岐せず、正常に伸長した。これに対し、焼ミョウバン加用培地で培養した場合、
図5(a)で示すように菌糸生育が抑制され、菌糸先端にレベル3の樹枝状異常分岐が認められた。
【0115】
以上のように、ミョウバン化合物を添加した培地で各病原菌を培養することで、各病原菌の生育が抑制され、さらに器官形成に異常を示すことがわかった。
【0116】
試験例4−3 ディスク拡散法試験によるキュウリ斑点細菌病菌に対する抗菌活性測定
キュウリ斑点細菌病菌の菌株(細菌、MAFF730050菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)をPPGA培地(試験例1−1と同様の組成)に植菌し、25℃で2日間静置培養し、滅菌水に懸濁してマクファーランド濁度が0.5の菌懸濁液を調製した。供試菌の接種は、滅菌綿棒に供試菌懸濁液を染み込ませ、PPGA培地に塗布培養した。
焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、超純水1000mLに5g溶解させて焼ミョウバン溶液(200倍液)を作製し、さらに焼ミョウバン溶液(200倍液)を、超純水を用いて段階希釈した焼ミョウバン溶液(400〜3200倍液)を調製した。対照試験としては、超純水を用いた。その後、直径10mmのペーパーディスク(No.6濾紙(東洋濾紙株式会社製)をコルクボーラーにて直径10mmに打ち抜いたもの)を各溶液に浸漬し、アルミホイル上で風乾した。供試溶液を染み込ませたペーパーディスクを本病菌培養PPGA培地に等間隔に置床(3ディスク/ペトリ皿)した。25℃で3日間静置培養した後に、阻止円の形成を目視にて観察した。
試験結果を表17に示す。なお、下記表中「+」とあるのは、供試ディスクのうち少なくとも1つについて阻止円形成がみとめられたことを、「−」とあるのは、いずれの供試ディスクにおいても阻止円形成が認められなかったことを意味する。また、表中の数値(n/供試ディスク数)は、供試ディスク数あたりの阻止円形成が認められたディスク数を示す。
【0117】
【表17】
【0118】
表17からわかるように、焼ミョウバン溶液(200倍液、400倍液、800倍液)に浸漬したペーパーディスクでは、阻止円の形成が認められた。
【0119】
試験例4−4 キュウリ斑点細菌病菌のコロニー形成
試験例4−3に準じて、キュウリ斑点細菌病菌の菌株(細菌、MAFF730050菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を培養し、菌懸濁液を調製した。供試培地は、焼ミョウバン(無水硫酸アルミニウムカリウム、富士フイルム和光純薬株式会社製)を、PPGA培地(試験例1−1と同様の組成)に対して重量基準で1/200倍量から1/3200倍量となるように添加し、各焼ミョウバン加用PPGA培地を作製した。その後、本病菌懸濁液を各培地上に均一に塗布し、25℃で3日間静置培養し、コロニー形成状況を観察した。
試験結果を表18に示す。なお、下記表中「+」とあるのは、コロニー形成がみとめられたことを、「−」とあるのは、コロニー形成が認められなかったことを意味する。
【0120】
【表18】
【0121】
表18からわかるように、焼ミョウバンを1/200倍、及び1/400倍となるように加えた焼ミョウバン加用PPGA培地では、キュウリ斑点細菌病菌のコロニー形成が見られないことがわかった。
【0122】
これらのことから、ミョウバン化合物を有効成分として有する本発明の抗菌剤は、糸状菌及び細菌の両者に対して、高い抗菌活性を有することがわかった。
【0123】
よって本発明の防除剤は、処理された植物体に薬害を生じさせずに、むしろ植物体の健康な成長を維持しつつ、植物病害を効果的に防除することができる。また、本発明の抗菌剤は、植物病害の原因となる病原菌に対して高い抗菌活性を有する。さらに本発明の防除剤及び抗菌剤の有効成分であるミョウバン化合物を使用することにより、得られる防除剤又は抗菌剤は人体にとって安全であり、さらに環境汚染のリスクも抑えることができる。